データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 対外経済対策,最近の決定と今後の政策方向

[場所] 
[年月日] 1985年4月9日
[出典] 外交青書29号,448ー452頁.
[備考] 経済対策閣僚会議
[全文]

 最近における内外の経済動向と世界経済に占める我が国の地位にかんがみ,内需中心の経済成長の達成を図るとともに,自由貿易体制の維持・強化,調和ある対外経済関係の形成及び世界経済の活性化を図るため積極的な努力を行っていくことは,我が国に課せられた重要な責務である。

 このような観点から,我が国としてはこれまで数次にわたる対外経済対策を実施してきたところであるが,今般民間の有識者からなる対外経済問題諮問委員会から,これまでの対外経済対策の総合的評価及び今後における我が国の対外経済対策の中期的課題に関する報告を受けたところである。

 政府としては,現在の我が国経済を取り巻く厳しい国際環境を踏まえ,我が国に課された責務を果たすため,上記報告を最大限尊重しつつ,対外経済問題への中期的対応を図る一方,当面の対応として,市場アクセスの改善,輸入の促進,金融・資本市場の自由化,経済協力の拡充,投資交流の促進等に関する施策を一層強力に推進することが重要であると考え,下記のとおり決定し,実施する。

I.対外経済問題諮問委員会報告への対応

 1.対外経済問題諮問委員会の報告では,市場アクセスの一層の改善,内需中心の持続的成長,投資・産業協力の拡大,開発途上国への対応等について中期的政策提言が行われており,政府としては,これらの提言を十分尊重して今後の政策運営に当たる。

 2.上記の提言のうち,市場アクセス改善のためのアクション・プログラムについては,以下の基本方針により策定し,実施する。

  (1)政府は,対外経済問題諮問委員会の報告を踏まえ,アクション・プログラムを策定するとともに,その実施状況につきフォロー・アップを行う。

  (2)アクション・プログラムの対象機関は,原則として3年以内とする。また,アクション・プログラムの策定は,できるだけ早急に行うこととし,本年7月中にその骨格を作成する。

  (3)アクション・プログラムの策定及びその実施状況のフォロー・アップに当たっては,内外有識者から意見を聴取する等透明性の確保に努める。

II.当面の措置と政策プログラム

 1.市場アクセスの改善及び輸入の促進

  (1)関税の引き下げ等

   <1>我が国の関税水準は,累次の対外経済対策等による関税の引き下げ等により既に諸外国に比べ低い状況にあるが,昨年発表した個別品目の関税引き下げ,東京ラウンド合意に則った関税引き下げの繰上げ,特恵関税制度の改善等の措置については,本年4月1日から実施している。また,本年3月1日からは,日米間の合意に基づき,半導体関税の相互撤廃を実施している。

   <2>森林・林業及び木材産業の活力を回復させるため,(i)木材需要の拡大,(ii)木材産業の体質強化,(iii)間伐・保育等森林・林業の活性化等を中心に,財政,金融その他所要の措置を当面5か年にわたり特に講ずることとし,その進捗状況を見つつ,おおむね3年目から針葉樹及び広葉樹を通ずる合板等の関税の引下げを行うべく前向きに取り組む。

   <3>また,その他の個別品目の関税引下げに係る決定は,本年前半中に行う。

  (2)基準・認証,輸入検査手続きの改善等

   <1>基準・認証制度等に関し,政府は,昭和58年3月26日の基準・認証制度等連絡調整本部の決定の実施状況について今後ともレビューを行い,改善を図る。

   <2>薬事法に基づく医薬品・医療機器の承認審査に当たっては,医療機器及び対外診断薬のうち人種差に関係のないものについては外国臨床試験データを受け入れるとともに,承認審査過程の透明性確保のため,中央薬事審議会において外国企業を含む承認申請企業が直接指示内容を聴き説明できる機会を設ける。

   <3>基準・認証,輸入検査手続き等に係る個別問題について一層の改善を図るとともに,背高コンテナについて一定の条件の下で通行を認める。

 (3)製品輸入等の促進

 諸外国からの製品輸入等の拡大なくして今後の我が国経済の発展はないばかりでなく,製品輸入等の促進は,貿易の拡大均衡と調和ある対外経済関係の形成を図る上で不可欠であるとともに,我が国経済の国際化を進めるに当たっても重要である。

 このため,従来より,国民の輸入品に対する理解の促進・情報の提供,外国企業の対日製品輸出機会の増大,日本輸出入銀行等の輸入金融による輸入環境の整備に努めてきたところであるが,現下の情勢にかんがみ,これまでの諸施策の一層の強化・拡充を行うとともに,関係企業及び国民に対し,広く製品輸入等の促進についての努力要請を行う。

   <1>関係企業に対する製品輸入等に係る努力要請

 産業界においても,輸出のみによっては貿易の拡大も調和ある対外経済関係の形成も図れないことを十分認識し,製品輸入等の拡大に努力するよう,協力を要請する。

   <2>インポート・フェア等の開催・支援

 日本貿易振興会(JETRO)の活用等により,大規模なインポート・フェア等を開催するとともに,外国政府主催の見本市事業に対し所要の支援を行う。

   <3>特定外国製品の販売拡大計画の推進

 昭和59年度において,特定外国製品輸入促進計画に基づき,既にワイン及び家具について我が国における販売拡大戦略等を調査した。昭和60年度においても,引き続き特定外国製品の販売拡大計画の推進を図る。

   <4>製品輸入金融の拡充

 製品輸入の一層の促進を図るため,日本輸出入銀行の製品輸入金融の金利引き下げを行う。

   <5>輸入促進キャンペーンの実施

 新聞,雑誌,ポスター等による広告・宣伝を始め,街頭キャンペーン,テレビ番組等を通じ,外国製品の輸入拡大努力を強く国民及び企業に訴える製品輸入促進キャンペーンを集中的に実施する。

2.先端技術分野における市場アクセスの改善

 (1)電気通信

 電気通信事業法,日本電信電話株式会社法等の成立により,これまで百年以上にわたって独占的体制の下におかれていた電気通信分野に全面的に競争原理が導入されることになり,本年4月1日から新しい制度に移行した。民間企業の自由な創意と工夫による電気通信事業の活性化を目指すという制度改革の趣旨にかんがみ,制度の運用に当たっては,内外無差別,簡素,透明,市場開放を原則として行う。

   <1>日本電信電話株式会社の資材調達

 日本電信電話公社の経営形態変更後の日本電信電話会社のガット政府調達コード及び電電調達日米取り決め上の取扱いについては,同取決めの有効期限たる昭和61年12月31日までは現状どおりとする。また,今後とも調達に当たっては,外国企業の参入機会が増大するよう努める。

   <2>第二種電気通信事業

 第二種電気通信事業については,外資規制を行わず,内外無差別とする。また,登録及び届出の手続きについては,簡素,透明なものとする。

 なお,電気通信回線を用いて行うデータ処理については,従来から届け出等の必要がなく自由に行えるものであり,電気通信事業法施行後においても,引き続き登録叉は届出を要しないものとする。  

   <3>電気通信事業における公正な競争の確保

 日本電信電話株式会社を始めとする第一種電気通信事業者の内部相互補助を防止するため,会計規則上所要の規定を設ける。

   <4>電気通信端末機器の基準・認証

 端末機器の技術基準については,大幅な簡素化を行ったところであるが,今後ネットワークの損傷防止を主眼として一層の簡素化を図るため早急に検討を行う。

 また,端末機器の認定については,公正中立な独立した認定機関において,外国データを受け入れるとともに書類審査により行う。

   <5>透明性の確保

 基準等の作成に当たっては,可能な限り早期に作成予定を内外関係者に周知するとともに,原案に対する内外関係者からの意見の聴取及び電気通信審議会への外資系企業の日本人役職員の参加等により透明性の確保を図る。

   <6>通信衛星の購入

 電気通信事業法の施行により,民間企業が通信衛星を購入して電気通信事業を営むことが可能となった。政府としては,民間企業による外国の通信衛星の購入に関し,日本輸出入銀行の輸入金融を認めることとしたほか,周波数の割当てについては,可能な限り早期に対処する。

 (2)エレクトロニクス

   <1>エレクトロニクス分野における知的所有権の適切な保護を確保するため,半導体チップの権利保護に関する法律案及びコンピューター・プログラムの権利保護に関する著作権法改正案を閣議決定し,今国会での成立に全力を挙げる。

   <2>本年3月1日から半導体関税を日米間の合意に基づき相互撤廃したところであるが,今後ともエレクトロニクス製品の自由かつ開放的な貿易の促進のため,このような相互撤廃の考え方をエレクトロニクス分野において拡大していく方向で米国を始めとする先進各国と協議を行う。

3.金融・資本市場の自由化及び円の国際化の促進

 (1)我国の金融・資本市場の自由化及び円の国際化を図る見地から,既に,外国銀行の公共債ディーリング認可,ユーロ円CDの規制緩和及び外国銀行の信託業務への参入基準の公表等の措置を講じた。

 (2)本年に入り,4月初頭までに,MMCの導入,CD発行条件の一層の緩和,ユーロ円債発行・ユーロ円貸付けの一層の弾力化及び円建外債発行の一層の弾力化の措置を講じた。 

 (3)当面,円建BA市場の創設及び債券先物市場の開設について,その具体化を進める。

 (4)今後とも,「金融の自由化及び円の国際化についての現状と展望」,「日米円・ドル委員会作業部会報告書」等を踏まえ,環境整備を図りつつ,着実に推進する。

4.節度ある輸出の確保

 貿易の拡大均衡を基本とし,市場アクセスの改善を急ぐと同時に,特定品目の輸出が特定地域に集中することのないよう,引き続き節度ある輸出の確保を図る。

5.経済協力の拡充

 我が国は,世界経済の調和ある発展を確保するとともに国際社会への積極的貢献を図るため,昭和61年以降も新たな中期目標を設定し引き続き政府開発援助(0DA)の着実な拡充に努める。また,無償資金協力及び技術協力を拡充するとともに国際開発金融機関に対する出資等の要請に対し積極的に対応する等により,併せて質の面でも可能な限りの改善に努める。

6.投資交流の促進等

 我が国経済の一層の国際化推進,諸外国との相互依存関係の強化,諸外国経済の活性化等のために,投資交流の促進等に努める。

 (1)産業協力については,日本貿易振興会(JETRO)に産業協力推進本部を設置し,情報提供機能等の強化を図ってきているところであるが,昭和60年度から同振興会において新たに産業協力特別あっせん事業等を開始する。

 (2)外国企業の対日直接投資を促進するため,地方公共団体等による誘致活動を引き続き積極的に支援する。

7.外国弁護士の国内活動

 外国弁護士の国内における活動の問題については,日本弁護士連合会において,昭和60年3月15日,実質的な相互主義の原則及び外国弁護士は日本弁護士連合会の自主的規制の下に入るとの原則を前提として外国弁護士の受け入れを認めるとの基本方針を決定したが,政府としては,日本弁護士連合会と十分意見を交換するなどして可及的速やかに適切な解決が図られるよう努力する。

{<1>は原文ではマル1}