データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 対外経済開放の推進,市場開放行動計画(アクションプログラム)骨格の要旨

[場所] 
[年月日] 1985年7月30日
[出典] 日米関係資料集 1945−97,1073−1077頁.『朝日新聞』1985年7月30日,夕刊.
[備考] 
[全文]

三十日、決定した市場開放行動計画(アクションプログラム)骨格の要旨は次の通り。

【意義】

 世界経済は自由貿易体制に支えられ大きな発展を遂げてきた。敗戦から立ち上がったわが国が経済発展を遂げ、現在の地位を得たのも、国民の英知と努力に加え、自由貿易体制の恩恵を最大限に享受できたためである。しかしながら今日、世界には、かつてない保護主義の高まりがみられ、こうした中で、自由貿易体制を維持・強化し、貿易の拡大均衡を通じ積極的な努力を行っていくことは、世界の一割国家としての責務であり、相当の犠牲を払ってでも、わが国の力を世界全体の中長期的発展に活用することが要請されている。

 こうした観点から、わが国は、ここに世界に率先して経済・社会の国際化、開放化を図ることとし、以下の基本原則にのっとって三年間にわたる「市場アクセス改善のためのアクションプログラム」を策定し、確実に実施し、わが国市場の国際水準を上回る開放度を達成する。<1>「原則自由、例外制限」の視点に立ち、政府介入を少なくし、消費者の選択と責任にゆだねる<2>新ラウンド主唱国にふさわしい積極性を持つ<3>開発途上国に役立つよう特に配慮する。

 本プログラム策定に続き、内需中心の持続的成長、投資・産業協力の拡大等、今後の政策運営に当たる。わが国は、自由貿易体制の維持・強化のため役割と責任を果たすことを内外に宣言する。貿易不均衡の改善は、独り輸入国側の措置により達成されるものでなく、貿易相手国が輸出努力を通じて、この開かれた機会を実らせることを期待する。

【関税】

 針葉樹、広葉樹の合板などの関税引き下げは、四月の対外経済対策の決定に従い、六十二年四月から実施する(六月二十五日決定の措置に追加)。

【輸入制限】

◇農水産品 関税貿易一般協定(ガット)及び関係国間の協議・交渉で下記の方針により対処する。

(1)新ラウンド(多角的貿易交渉)に向けてガット農業貿易委員会で、<1>農産物貿易をガット体制により一層組み入れる<2>市場参入(アクセス)の条件を改善する<3>輸出競争をより強い規律の下に置くことを目指して、輸入数量制限など農産物貿易に影響を与えるすべての措置を対象に、農業の特殊性を考慮した新しいルール策定作業が開始されているが、このルールの合意形成に積極的に参加し、この作業と新ラウンド交渉の進展を図る。

(2)関係国間で約束がなされている牛肉、かんきつその他の農産物については、その内容を誠実に履行するとともに、期限後の取り扱いについて、約束に従い逐次協議を始め、適切に対応する。

◇鉱工業品 皮革及び革靴の輸入数量制限については、ガットの場で適切に対処する。

【基準認証】

I、基準認証制度の改善措置

◇政府介入の縮小

(1)適用対象品目の縮小 日本農林規格(JAS)の対象品目の削減→日本工業規格(JIS)の対象品目一割削減。

(2)自己認証への移行 炭酸飲料びん詰め、医療用具や消毒用医薬品の一部、電子レンジ、防じんマスクなどで自己認証制度を導入→電気用品の自己認証品目を当面、倍増。

(3)規格基準の項目削減、緩和 先般のタンクローリー横転事故の検討結果も踏まえて、車両による高圧ガス移動の際の規制基準を見直す→電気通信端末機器の規格基準項目を九項目削減。

(4)その他 輸入車特別取り扱い制度を創設、一車種の台数が少ないものは一定条件で自動車メーカーのデータ受け入れ→ポケットベル、自動車電話などの技術基準緩和。

◇基準認証制度等連絡調整本部決定(58・3・26)に掲げる諸原則の徹底化

(1)外国検査データの受け入れ、外国検査機関の積極的活用 JAS法、飼料法の対象品目の格付け、検定などを外国検査機関の検査データによって行うため、外国検査機関をあらかじめ大臣が指定する方式を導入→電気用品の型式承認について、検査データを受け入れる外国検査機関を大臣が直接に指定できるようにする→無線設備の技術基準適合証明で、一定の要件を備えるものなら外国政府の証明したデータを審査データとして受け入れ。

(2)透明性の確保 規格・基準の原案作成過程で外国人などの意見聴取→すべての審議会、専門委員会で外国関係者の参加を認める。

(3)国際基準への整合化 食品等の器具および食器等に用いる容器包装について、国際標準化機構(ISO)規格との整合化を図る→自動車の保安基準のうち、駐車灯、速度警報装置の装備義務を廃止→自動車の安全公害基準の国際化を検討→肥料についての外国の公定規格のうち、わが国の自然条件に合うものを公定規格に加える。

(4)認証手続きの簡素化・迅速化 標準事務処理期間を定め、期間中に処理できない時は、理由を示す→化粧品の安全審査を簡略化するため、新たに化粧品配合禁止成分リストを作成し、公表する→自動車の型式申請で必要とされるデータのうち、安全耐久データの提出を不要とする→型式指定のための現車提示に代わる検査などを諸外国で行う体制を強化。

II、輸入プロセスの改善措置

(1)手続きの適用範囲の縮小 過去一定期間に食品衛生法違反がなく、相当の輸入実績のある紅茶、チョコレートが継続的に輸入される場合、輸入のつどの届け出を不要とし、一年ごとの届け出でよいことにする。

(2)手続きの簡素化・迅速化のための措置 薬事法の承認・許可を受けている医薬品は税関限りで通関できることにする→違反食品であるかどうかの判断や違反食品の処分方法の指導を検疫所長にゆだねる。

【政府調達】

◇契約手続きの抜本的改善

(1)随意契約の抜本的見直し 競争契約を原則とし、例外的に随意契約をするとの基本方針を徹底するため、入札の繰り返し、入札条件の見直しを行うほか、随意契約の情報を公表する。

(2)競争契約上の運用の改善 外国供給者の参加機会を増やすため競争入札の応札期間を四十日以上にし、納期も可能な限り延長。

(3)資格審査手続きの改善 各省庁などごとに審査基準、格付けを統一化、資格審査手続きも簡素にする。

◇外国製品の調達拡大 政府は外国製品の発掘に積極的に取り組み、可能な限り率先して外国製品調達拡大に努力する。

◇適用範囲 ガットの政府調達協定の対象となる調達及び機関(現在四十五機関)のほか、小規模な調達や対象外の十六の政府関係機関も協定に準ずる措置をとる。

◇指導・協力要請など 各省庁は、広く関係機関に外国製品の調達拡大を指導、地方公共団体にも協力を要請する。実施は十月からで、毎年実施状況を点検し、三年目には全体的な見直しをする。

【金融・資本市場】

◇預金金利の自由化など

(1)六十二年春までに大口預金金利規制の緩和、撤廃を実現。そのため、この秋から預入期間二年以内、預入単位十億円以上の大口定期預金金利規制を撤廃、段階的に預入単位を引き下げる。市場金利連動型預金(MMC)と譲渡性預金(CD)の発行弾力化。

(2)小口預金金利は早急に検討を進め、大口に引き続き自由化を推進。

(3)インタバンク(銀行間)預金金利は、小口定期預金金利規制の撤廃の一環として推進。インタバンク市場の慣行を見直し、短期の国債市場の整備に努めるなど、短期金融市場の整備を推進。

◇債券先物市場 十月の創設に向け準備を進める。

◇証券会社の円建てBA(銀行引き受け手形)の流通取り扱い 六十一年四月から認める。

◇ユーロ円債発行弾力化 六十一年春から、居住者発行ユーロ円債の変動利付債の自由化など商品の多様化を図り、ユーロ円CDの最長発行期間を一年まで延長。

【サービス・輸入促進等】

◇サービス諸分野の改善措置

(1)外国人弁護士 日本弁護士連合会の自主性を尊重しつつ、次期通常国会での法律改正をめどに、国内にも国際的にも妥当とされる解決を図る。

(2)運輸業 <1>陸海空一体の国際複合一貫輸送についての国内トラック輸送への外国企業の参入について、参入を事実上困難にしている要因を除去 <2>不定期航空運送事業として行うコミューター(通勤)サービスに使う小型航空機の範囲を拡大、ヘリコプターの利用を促進する措置をとる <3>航空機関士を乗り組ませなければならない航空機の範囲を緩和する。

(3)保険業 <1>外国保険会社の進出、活動については、引き続き内国民待遇を堅持<2>新しい保険商品やサービス開発については、保険会社の創意工夫を尊重し、引き続き認可の一層の弾力化を図る。

(4)データ通信 国境を越えるデータの流通自由化については、データ、情報、関連サービスヘの参入を推進し、データ及び情報の国際的交換に対する不当な障壁の創設を避ける。

(5)医療保険 日本国内に居住する外国人に国民健康保険を適用する。

(6)商慣行 輸入品の流通を阻害すると指摘されている商慣行について、検討委員会を設置。実務者からの意見聴取などをして今年度内をめどに検討結果の報告を求める。

(7)不正商品 不正商品取締官を設置し、その取り締まりを強化。

◇輸入の促進

(1)民間企業に対する輸入拡大努力要請。

(2)製品輸入金融の拡充、政府による輸入品調達 日本輸出入銀行の製品輸入金融の貸付金利の引き下げや外貨貸しを導入するなどの拡充措置をとる。

(3)流通 流通産業に対し、輸入品の出張販売の期間を延長するなど輸入品販売促進のための措置をとる。

(4)海外旅行の促進 海外旅行促進調査団の派遣など、諸外国の日本人観光客誘致や受け入れに対する協力。

◇ 投資交流 調和ある対外経済関係の形成のため、日本開発銀行の対日投資促進融資制度を拡充し、日本貿易振興会の産業協力推進機能を充実する。

{<1>は原文ではマル1}

{→は原文では右向き△}