[文書名] アクション・プログラムの骨格決定に際しての中曽根総理大臣談話
1.本日,政府・与党対外経済対策推進本部は,「市場アクセス改善のためのアクション・プログラムの骨格」を決定しました。
本決定は,現下の世界経済の最重要課題である自由貿易体制の維持・強化のため,日本が,その経済力にふさわしい役割と責任を担うべきであると考え,自主的に打ち出したものであります。
2.現在,世界経済は保護主義への坂道を転げ落ちかねない危険性をはらんでいます。言葉を換えて言うならば,自由主義諸国が今後も自由貿易体制を基礎に経済的反映の道を歩み続けることができるか,保護主義の下で経済的停滞への道をたどることになるか,今,重大な岐路に立たされている訳であります。
このような認識の下に5月のボン・サミットにおいて,先進諸国は,保護主義を巻き返す措置を採ることを確認し,また,新ラウンド(新たな多角的貿易交渉)を推進することも申し合わせたところであります。
戦後自由貿易体制の恩恵を最大限に享受し,自由経済社会第2位の経済力を有するに至った我が国は,現状を緊急事態と認識し,各国と協力し率先して保護主義に対する戦いの先頭に立つため,自ら積極的な市場の開放と自由化の策定を決定したものであります。
3.私は,我が国が新ラウンドの主唱する立場にあることにかんがみ,まず,日本市場を世界経済で最も開かれた市場の一つにする決意をしました。
このため,「原則自由・例外制限」という基本的視点に立ったアクション・プログラムに従って,諸規制を緩和し,市場アクセスの改善を図ることとしました。
今回の決定の目標は,関税面においてはもとより,基準・認証等非関税面においても,日本の市場が国際水準を上回る開放度を達成することであります。
例えば,関税の分野では,既に先進諸国中最低の関税水準となっておりますが,さらに,各国の要望をも配慮しつつ,1,853品目の関税引き下げ・撤廃等を行うこととしております。
基準・認証の分野では,外国検査データの受入れ,自己認証制度の導入・拡充等を図るため,40にわたる法律を総点検し,その結果,88事項の改革に思い切った措置を採ることとしました。また,規格・基準の作成等に関し,すべての審議会等に外国関係者の参加を認め,透明性の確保を図ることとしました。
さらに,今回はサービスの分野においても,改善措置を講じ,諸外国との交流の拡大を図ったところであります。
政府調達の分野でも,契約手続きの改善,対象機関の拡大など,国際的に求められている水準を上回る開放措置を採ることとしました。
4.これに必要な法令改正や一連のフォロー・アップも,各省庁にフォロー・アップの責任体制を確立し,その上で,私が本部長として責任をもって各省庁を督励し,所期の目標を完全に実行に移す決意であることをここに改めて表明します。その過程で関係国間協議やO・T・Oを通じて表明される意見や助言を真剣に検討し,一層の改善に役立てていく所存であります。
5.私は,アクション・プログラムを遂行する一方,消費者が自己の選択と責任に基づいて行動し,外国製品を積極的に受け入れるための国民意識の変革が必要であると考えています。これは,消費者にとっての選択の幅を広げ,国民生活を豊かにすることに通ずるものであります。
私は,本日,改めて直接国民の皆様に外国製品を進んで受け入れられるよう呼び掛けたいと思います。また,産業界の方々に対しても引き続き節度ある輸出に努めるよう呼び掛けてまいりましたが,更に製品輸入等の拡大に向けて一段の取組みが行われるよう呼び掛けたいと思います。
私は,これらに加え,各省庁に対し,輸入促進の体制整備を図り,その調達に際して外国製品に対し積極的に同等の参入機会を与えること,関係団体等に対し積極的に輸入の奨励を行うことを指示しました。各政府関係機関のみならず,都道府県等地方公共団体,各企業においても,政府と同様の措置を講ずることを期待します。
他方,外国製品を供給する側の競争力の強化,売り込み努力等にも期待をかけております。
6.また,経済の拡大均衡を通じて経済摩擦の解消を目指すためには,市場開放とともに内需拡大の努力が必要であると考えます。
この具体化,企画推進のために特別のワーキング・グループを組織します。また,対外経済問題諮問委員会報告が指摘しているディレギュレーション(規制緩和),週休2日制の普及,公共的事業分野への民間活力の導入,税制の見直し等についても検討を進めてまいります。
7.投資交流による先進国経済の活性化は,世界経済全体にとっても好ましいことであります。
我が国企業の海外直接投資による現地生産は,進出先の経済を活性化させ,雇用を増大させるとともに,貿易の均衡ある発展にも好ましい結果をもたらします。最近,我が国企業の海外直接投資意欲が急速に高まっていますが,関係企業には一層の努力をお願いする次第です。
8.開発途上国の経済発展は,世界の経済・貿易の発展に不可欠であります。我が国としては,開発途上国の輸出努力を支援する観点から,工業品を中心として特恵関税制度の改善に努めてまいります。また,開発途上国のニーズに合った経済援助を行い,開発途上国の経済発展に寄与していますが,援助の拡大についても新たな中期目標を設定し,政府開発援助(ODA)の着実な拡充及びその質的改善に努める所存であります。
9.最後に,我が国の貿易収支の是正と輸入の拡大に関して,我が国の貿易パートナーの適切な経済運営と積極的な輸出努力の重要性を指摘したいと思います。
また,我が国としては,米国を始めとする諸外国の金利水準の一層の低下が図られる等により,円が我が国の経済力を反映して一層の円高となることを期待いたします。
ボン・サミットにおいて,世界経済の持続的成長及び国際貿易のより均衡のとれた拡大に貢献するため各国が各々の政策を追求することを約束しました。日本は,市場アクセスの一層の改善,輸入増加の奨励等の政策を追求することとしましたが,今,我々は正にこれを実現しつつあるところであります。
貿易は一国ではできないのであり,黒字国,赤字国が力を合わせることによって,現在の困難な時期を乗り切っていくようにしたいと念願します。