データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] MOSS討議に関する日米共同報告,分野別討議に関する日米共同報告

[場所] ワシントン
[年月日] 1986年1月10日
[出典] 日米関係資料集 1945−97,1082−1089頁.
[備考] 
[全文]

分野別討議に関する日米共同報告

1986年1月10日,ワシントンD.C.にて

安倍外務大臣とシュルツ国務長官により発表

 安倍外務大臣とシュルツ国務長官は,本日,ワシントンD.C.で会談し,この一年間日米間で持たれてきた市場指向・分野選択型(モス)討議における進展をレヴューした。昨年1月の中曽根総理とレーガン大統領との会談を受けて開始されたこれらの討議においては,電気通信,医薬品・医療機器,エレクトロニクス,林産物の4つの分野における市場アクセスに対する障害を明らかにし,これを取り除くための集中的かつ包括的な努力がなされた。

 外務大臣と国務長官は,モス討議の結果として重要な進展が達成されたことについて合意した。モスにより,日本の市場アクセスの状況に関し,多くの積極的な変化がもたらされた。これらは,米国その他の外国企業にとって新しい市場機会を創りだすものである。モスの枠組みにおける引き続いての討議を通じ一層の進展が図られるであろう。

 外務大臣と国務長官は,過去一年間のモスの成果への注目を呼びかけつつ,両国民間セクターが,市場アクセス改善を最大限に活用することの期待を表明した。外務大臣と国務長官は,これらの分野において,米国その他の外国にとって障害を受けない市場アクセスを達成することにより,日本の製品輸入の増加を促進することがこれらの討議を通じて望まれることを再確認した。モス分野において日本の輸入が増大することが我々双方の努力の成果の重要な試金石となろう。

 モスは,様々な二国間の貿易条件−特定の分野の問題,特定の分野に限定されない問題及び構造的な問題−に取り組んでいく日米双方の広範な共同の努力の一部である。この一年間にわたるモス討議は,日米両国の緊密な関係を反映するものである。

 我々が共同して貿易を自由かつ拡大的に促進する力こそが保護主義に対抗する共通の努力の重要な要素である。

 外務大臣と国務長官は,モスが協力的な形で特定の分野の案件を処理していく上で価値のある枠組みであり,従ってそのプロセスを継続することで合意した。

 外務大臣と国務長官は,モス全体会合が外務審議官と経済担当国務次官の議長の下に,引き続き,適宜会合し,全般的なフォローアップの総合的な調整と双方が合意する新しいモス分野の作業の総覧を行うことで合意した。また,各分野グループは,合意された事項の実施のレヴュー,合意された新しい規則と手続きについて外国企業がいかなる経験をしているのかのレヴュー,販売努力と実績の評価,これらの分野に関連する全ての案件処理への対応を行うため,適宜会合することが合意された。また,商慣行のもつ役割がフォローアップ・プロセスにおける継続した作業の中で重要な問題である。

 別紙は4分野の成果の要点である。

I.電気通信

 MOSS電気通信分野における努力は,日本の電気通信端末機器及び電気通信サービス市場並びに無線通信機器及びサービス市場の自由化を目的として,協議の過程で提起された全ての問題を実質的に解決し,著しい成功をおさめた。

 A.実施済事項

  電気通信端末機器市場

   1.製造業者作成データの受け入れ及び認定マークの自己貼付

   2.端末機器技術基準を「ネットワークヘの損傷」防止に必要なものに削減

   3.管理面で利害関係者を除外した端末機器の中立的指定認定機関の設立

   4.第一種電気通信事業者により電気通信役務の一部として提供されるものを含む,あらゆる端末機器を対象とする中立的指定認定機関の設立

   5.申請審査の標準的事務処理機関を含む端末機器認定手続きの簡素化

  電気通信サービス市場

   6.第二種電気通信事業者に対する外資規制の撤廃

   7.登録及び届出手続きの標準的事務処理期間の設定

   8.外資系企業の代表も参加するRPOA資格に関する研究会の設置

  無線通信機器及びサービス市場

   9.第一種電気通信事業者がKuバンドで運用する米国製通信衛星を調達できるようにするための用意

   10.日本の自動車電話市場の自由化を念頭において自動車電話の技術基準を検討するために電気通信技術審議会に専門委員会を設置

   11.米国製ポータブル・データ・ターミナルの市場アクセスを容易にするための利用可能な周波数の提示

   12.無線通信機器の技術基準適合証明の標準的事務処理機関の設定

  その他の事項

   13.電気通信プロトコルの作成を含む電気通信の主要な案件に取り組むための米国のT1委員会と同様の独立かつ中立の基準策定機関の民間による設立

  14.電気通信審議会及び電気通信技術審議会の委員等に在日外資系企業代表の任命

  15.電気通信技術審議会に技術基準の制定又は改正に関する諮問を行う場合のパブリック・ノーティスの実施

  16.不認可となった申請及び電気通信事業法の実施に関する苦情をレヴューするため外務省が議長となり,郵政省及び在日米国大使館員により構成されるアド・ホック委員会の設立

 B.今後実施される事項

  1.将来のディジタルサービスにおいて第一種電気通信事業者によって提供される宅内機器と伝送サービスとの約款上の関係

  2.小山事務次官からオルマー次官宛の1985年3月28日付書簡で述べられているとおり,近い将来一般第二種電気通信事業及び特別第二種電気通信事業の区分並びに登録及び届け出の要件の区分を含む規制手続きにおいて,何らかの重大かつ実際の市場アクセスに関する障壁がもし存在すれば,それを除去するという郵政省の意向

  3.外国人及び全額外国出資の団体が各種陸上移動無線業務の無線局を開設する機会の拡大

  4.技術基準適合証明及び任意型式検定における製造業者提出データの受け入れ及び技術基準適合証明のラベルの自己貼付

  5.無線通信機器の技術基準を原則として他の利用者への混信の回避及び周波数の効率的利用に必要なものに削減,また削除される受信機技術基準の米国のT1委員会に準じた民間の基準作成委員会で作成する任意基準への移行

  6.無線通信機器の認証機関の中立化

  7.技術基準と周波数について必要な情報を入手し,相談を受けるため及び必要な手続き開始のための窓口設定

  8.十分なる資格を有する外国人無線従事者の受け入れ

  9.新規参入者に機会を拡大することとなるような自動車電話の技術基準の設定及び周波数の分配

 C.継続案件

  1.貿易に影響を与える可能性のある調達に関する商慣行についての検討

  2.放送衛星を含む通信衛星調達に関する日本政府の政策の明確化

II.医薬品・医療機器*1*

 A.実施済事項

  1.医薬品,体外診断薬及び医療用具の承認審査に当たって,人種的または免疫学的に差のない外国臨床検査データの受け入れ

  2.体外診断薬の承認審査の迅速化

  3.製造国変更の場合の手続きの簡素化

  4.承認の変更を必要としない製品の軽微な変更の範囲の明確化

  5.輸入業者の住所変更の場合の手続きの簡素化

  6.製造承認の「合意」に基づく移転のための手続きの設定

  7.医薬品及び医療用具の承認審査過程の透明性の一層の確保

  8.既に承認を受けた製品について,税関だけで通関できることとする輸入手続きの簡素化

  9.医薬品及び医療器具の新規承認審査に当たって,厚生省の承認審査に時間的期限を付す「タイム・クロック」の設定

 B.今後実施される事項

  1.キット製品の便益と特性を踏まえた承認手続き及び保険診療における償還価格に関する手続きの設定

  2.既に同一製品につき,他の企業に承認が与えられており,かつ,当事者間で「合意がなく」承認の移転が出来ない場合において,承認を付与するための簡素化された手続きの設定

  3.健康保険の診療報酬設定に関し透明性を一層確保し,また,新製品をより高い頻度でまた定期的に収載するための手続きの設定

  4.輸入される血液製剤及びその他の生物学的製剤に関する検定要件の変更及び規制手続きの明確化

  5.室温で安定でない医薬品に関する加速安定試験データ及び指定検査機関に委託し作成された無菌試験データの受け入れ手続きの設定

 C.継続案件

  1.ビタミンに関する承認手続き及び関税の検討(ビタミンに関しては,専門家会合に引き続く次回の本分野全体会議において協議される。)

*1*近々公表されるこの分野の共同レポートにおいては,日本の規制システムを概観した上で,主要な問題点及びそれに対する合意された解決策が記述される。

III.エレクトロニクス

 A.実施済事項

  1.半導体チップ保護法の可決・成立及びその実施

  2.コンピューター・ソフトウェア保護を明定した著作権法の改正及びその実施

  3.機械のグレード・アップ及び海外での修理後の製品再輸入を含む外国為替について要求されている手続き(下取り相殺にかかる手続き)の撤廃

  4.コンピューター部品,同本体,同周辺機器の日本側関税撤廃とコンピューター部品の米側関税撤廃に係る合意

  5.エレクトロニクス製品の関税20%引き下げ

  6.米側が関心を有している通信機器の関税撤廃

  7.日本政府のR&Dの成果たる国有特許へのアクセスの拡大(米国大企業と通産省との合意を含む)

  8.日本政府によるソフトウェア生産のための長期R&D計画であるシグマ・プロジェクトヘの米国企業の資金面及びR&Dにおける参加

 B.今後実施される事項

  1.コンピューター部品,同本体,同周辺機器の日本側関税撤廃とコンピューター部品の米側関税撤廃に係る合意の実施

  2.特許手続きを迅速・改善するための諸措置の実施

  3.日本半導体製造装置協会(SEAJ)の将来の活動の継続的検討

  4.貿易を制限したり歪めたりする状況が生じないことを確保するための新たな高度技術開発促進法の継続的な実施状況の把握ないし検討

 C.継続案件

  1.半導体: 半導体問題については,当初,モス・エレクトロニクスで協議した後に,現在は,日米政府間で,1974年通商法301条提訴に係る話し合いが継続している.

  2.流通機構において貿易に影響を及ぼし得る商慣行の更なる検討

  3.通信衛星以外の衛星の調達問題

IV.林産物

 ○木材製品

  1.関税

    (1)日本政府は,1986年1月1日から,欄間,その他の建築用木工品及び建築用繊維板の関税を20%引き下げた。

    (2)日本政府は,1987年4月から,別表の通り木材製品に関する関税を引き下げる旨表明した。1987年の引き下げの結果が得られるようになったところでレヴュー及び討議が行われる。

  2.非関税案件

   A.実施済事項

    (1)双方の林業・林産業のかかえている問題と特異性についての理解を深めるための情報交換

    (2)日本の林産業の構造改善計画はOECD及びガットのガイドラインについて考慮するということの確認

    (3)日本における木材利用の増大を促進するために展示用木造建築物の開発

    (4)4×8パネルの使用の増大を可能にするために2×4工法建設に関する日本の建築基準の改正

    (5)規格の原案作成段階における外国人の十分な参画を可能とするような基準及び手続きの設定

 B.今後実施される事項

   (1)ロジポールパインとポンテローサパインを構造用集成材の材料に使用可能な樹種として認めるために必要な試験の早期実施。もし試験結果が良い場合,集成材規格の改正

   (2)展示用木造建築物に加えて,日本の木材需要拡大のための可能な共同促進活動についての情報交換

   (3)新しく開発されたOSB,ウェハーボード等の構造用パネル製品についての製品規格を制定するため,早急に試験開始

   (4)アクション・プログラムに述べられているように,農林物資規格調査会の専門委員として外国関係者の任命及び規格の原案作成段階における外国関係者の参加

   (5)「外国検査機関(FTO)」の指定についての合意をされた方法の制度化

   (6)木材及び木製パネル製品の一層の使用を刺激することとなるような可能な措置を見出すために防火・建築基準の見直しの検討を行うこと

 C.継続案件

    1.米国製木材製品の認証手続き

    別 表

木材製品の関税引き下げ

CCCN番号   1986年1月 1987年4月 1988年4月

単 板

44.14−230   15.0     5.0

44.14−290   15.0     5.0

合 板

44.15−111   16.3    12.5    10.0

44.15−191*1*15.0    12.5    10.0

44.15−192   20.0    17.5    15.0

44.15−193   20.0    17.5    15.0

44.15−194   17.0    13.5    10.0

44.15−195   17.0    13.5    10.0

*1*厚さ6mm以上の針葉樹合板

再生木材

44.18−100    12.0     8.0

松属製材

44.05−310     7.0     4.8

建築用繊維板

44.11−900     5.2     3.5

加工木材

44.13−300     10.0    8.0

集成木材

44.15−200     20.0   15.0

玉縁・繰形

44.19−000      7.2    4.8

   注:1987年の引き下げの結果が得られるようになったところで,レヴュー及び討議が行われる。

 ○紙 製 品

  1.関 税

   (1)1986年の1月1日から,全ての紙製品(クラフトライナー等を含む)の関税を米国政府の要請により1985年4月に引き下げた水準より20%引き下げること

   (2)以下の紙製品についての以下のスケジュールによる関税の引き下げ又は撤廃

         1986年4月  1987年4月   1988年4月

クラフトライナー

48.01−231    5.7      4.6      3.5

48.01−241    3.5      3.0      2.5

白板紙・クラフト紙

48.01−234    5.7      4.6      3.5

48.01−242    3.5      3.0      2.5

48.01−243    3.5      3.0      2.5

48.07−292    2.5      1.3        0

48.07−299    2.5      1.3        0

クラフト紙

48.01−232    5.7      4.6      3.5

48.01−233    5.7      4.6      3.5

   (3)発表される関税引き下げの結果が得られるようになった時にレヴュー及び討議が行われる。

  2.非関税案件

 A.実施済事項

  (1)双方の紙製品製造業の抱えている問題と特徴についての理解を向上させるための情報交換

 B.今後実施される事項

  (1)産業構造改善法の下での段ボール原紙に関する共同行為の一部としての過剰設備処理は,1987年6月30日までに完了する

  (2)長期の営業関係の確立を促進するために1986年に開催される米紙製品製造業者と日本の消費者との間での会合

  (3)効率的な市場を確保するための,貿易に影響を及ぼし得る商業取引及び資金調達慣行に係る継続的検討

  (4)産業構造改善法の下での段ボール原紙についての共同行為の競争に対する影響に関する継続的検討

 C.継続案件

  (1)産業構造改善法の下での段ボール原紙についての共同行為

  (2)貿易に影響を及ぼし得る商業取引及び資金調達慣行