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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 牛肉・オレンジ自由化問題に関するヤイター通商代表宛松永駐米大使書簡

[場所] 
[年月日] 1988年7月5日
[出典] 日米関係資料集 1945−97,1138−1143頁.
[備考] 
[全文]

ヤイター通商代表宛松永大使書簡

(訳文)

拝啓

 書簡をもって啓上いたします。本使は,近時日本国政府と合衆国政府との間で行われた牛肉,生鮮オレンジ及びオレンジ果汁の輸入制度に関する協議に言及する光栄を有します。

 また,本使は,日本国政府に代わって生鮮オレンジ,オレンジ果汁,オレンジ混合果汁,グレープフルーツ,牛肉及びその他の品目の輸入に関し,国会の承認を含む所要の国内手続に従うことを条件として,附属書及び同別添に定める市場開放措置を実施する意図を有することを貴官に通報する光栄を有します。

 さらに,本使は,上記の品目の貿易の進展について検討し,情報を交換するため,日本国政府は合衆国政府と毎年協議する用意がある旨を貴官に通報する光栄を有します。

 本使は以上を申し進めるに際し,ここに改めて貴官に向かって敬意を表します。

              日本国大使

                 松永信雄

附属書

 日本国政府は,牛肉,かんきつ類及びその他の品目に関し,国会の承認を含む所要の国内手続に従うことを条件として,以下の市場開放措置を実施する。これらの措置は,ガットの最恵国待遇の原則に従い実施される。

1.かんきつ類

 1.1 生鮮オレンジ

  1.1.1 1991年4月1日に生鮮オレンジの輸入割当制度は廃止され,ガットに整合しない措置は導入されない。

  1.1.2 1991年4月1日までの間,日本国政府は,生鮮オレンジの輸入市場への参入機会を次の水準まで拡大する。

             (メートル・トン)

1988会計年度      148,000

1989会計年度      170,000

1990会計年度      192,000

  1.1.2.1 日本国政府は,商業的に意味のある量の生鮮オレンジの輸入参入機会を,いかなる既存の輸入者又はオレンジを輸入したことのない者を含む新規輸入者にも与える。各年の市場参入機会の増加のうち,10%を下回らない一定割合は新規参入者に配分される。個々の新規参入者への配分量は,各年の増加量から新規参入者に配分される量の10%以下とする。

  1.1.3 126,000メートル・トンを超える生鮮オレンジの輸入は,季節的制限の適用を受けない。

 1.2 オレンジ果汁

  1.2.1 濃縮オレンジ果汁

   1.2.1.1 1992年4月1日に濃縮オレンジ果汁の輸入割当制度は廃止され,ガットに整合しない措置は導入されない。

   1.2.1.2 1992年4月1日までの間,日本国政府は,濃縮オレンジ果汁の輸入市場への参入機会を次の水準まで拡大する。

           (メートル・トン,5分の1濃縮ベース)

1988会計年度       15,000

1989会計年度       19,000

1990会計年度       23,000

1991会計年度       40,000

    1.2.1.2.1 濃縮オレンジ果汁の新規需要者は,輸入割当確認書の交付を受けている既存のオレンジ果汁需要者団体のいずれかに加盟することにより,商業的に意味のある量が公正かつ衡平な基礎に立って割当てられる。

   1.2.1.3 日本国政府は,濃縮オレンジ果汁の混合規制を次のとおり2年間で段階的に廃止する。

1988会計年度 40%は混合規制免除

1989会計年度 60%は混合規制免除

具体的措置は,本附属書の別添に定める。

  1.2.2. ストレート・オレンジ果汁及びオレンジ混合果汁

   1.2.2.1 ストレート・オレンジ果汁及びオレンジ混合果汁について,暫定的輸入割当制度を設け,その制度の下における市場参入機会を次の水準まで拡大する

          (キロリットル,ストレートベース)

1988会計年度        15,000

1989会計年度        21,000

1990会計年度        27,000

1991会計年度        国内需要に応じ無制限に輸入割当証明書を発給

   1.2.2.2 1992年4月1日に輸入割当制度は廃止され,ガットに整合しない措置は導入されない。

   1.2.2.3 日本国政府は,日本のホテル内での使用のための需要に応じた量のストレート・オレンジ果汁の輸入割当証明書を発給するための制度を1988会計年度下期に導入する。

   1.2.2.4 日本国政府は,1988会計年度に商業的に意味のある量のストレート・オレンジ果汁及びオレンジ混合果汁の輸入参入機会を与える。1989会計年度から1990会計年度までの参入機会増加分については先着順による制度が導入される。

2.牛肉

 2.1 1991年4月1日に牛肉の輸入割当制度は廃止される。その結果,家畜振興事業団(LIPC)の輸入牛肉の価格決定及び売買への関与はなくなり,また,かかる目的のための類似の組織を設立することは,日本国政府の意図するところではない。

 2.2 [輸入割当制度の廃止に先立つ参入機会改善措置]輸入割当制度の廃止に先立つ経過期間(1988会計年度−1990会計年度)において,市場参入機会は次の措置により改善される。

  2.2.1 牛肉の市場参入機会の総量は次の水準まで拡大される。

                 (メートル・トン)

1988会計年度          274,000

1989会計年度          334,000

1990会計年度          394,000

  2.2.2 [関税及び輸入差益]輸入割当制度の廃止に先立つ経過期間においては,牛肉の関税は従価25%に維持される。LIPCの輸入差益の平均水準を1986会計年度の水準を下回る圧縮するための努力が払われる。

  2.2.3 牛肉のすべての輸入は,原産国のいかんによらず,また,それがグラスフェッド(牧草肥育)であるかグレインフェッド(穀物肥育)であるかを問わず,平等,無差別の取扱いを受ける。

  2.2.4 [SBS]LIPCによる輸入牛肉の年間買入量に占めるSBS制度の下で取引される輸入牛肉の割合を,次の割合まで引き上げる。その結果,LIPCの一般入札により取り扱われる牛肉の絶対量は,1987会計年度の水準から逓減する。

1988会計年度           30%

1989会計年度           45%

1990会計年度           60%

(より技術的な事項については,別添参照)

  2.2.5 [ホテル輸入割当]輸入割当制度の廃止に先立つ経過期間において,日本国政府は総市場参入機会の一部を構成するホテル輸入割当制度を維持し,割当量を次の水準まで拡大する。

                 (メートル・トン)

1988会計年度           10,000

1989会計年度           13,000

1990会計年度           16,000

  2.2.6 [需要開発枠]1988会計年度下期の割当から需要開発枠は廃止される。

  2.2.7 [食用のくず肉]1988年10月1日以降,食用のくず肉は,輸入割当制度の適用を受けない。タン・トリミングは,輸入割当制度の適用を受けない舌として再分類される。食用のくず肉の関税は,二国間あるいはウルグァイ・ラウンドでしかるべく交渉される場合を除き,引き上げられない。

 2.3 [自由化後の国境措置]

  2.3.1 [通常関税水準]日本国政府は,次の表に従って関税を課す。

1991会計年度           70%

1992会計年度           60%

1993会計年度           50%

  2.3.2 緊急調整措置:

   2.3.2.1 牛肉の輸入量が次の水準を超えるおそれがある程度に増加する場合,日本国政府は,その水準以内に輸入水準を制限する目的をもって,米国政府を含む関係国政府に対し協議を要請し,協議の結果に従って必要な措置をとる。

     日本国政府は,協議を要請するに際し,その旨を公表する。

     水準は次のとおり。

   (i)1991会計年度 次のいずれか大きい方の120%に相当する量

     a)1990会計年度の市場参入機会,又は

     b)1990会計年度の輸入実績量

   (ii)1992会計年度 次のいずれか大きい方の120%に相当する量

     a)(i)に定める1991会計年度の水準,又は

     b)1991会計年度の輸入実績量

   (iii)1993会計年度 次のいずれか大きい方の120%に相当する量

     a)(ii)に定める1992会計年度の水準,又は

     b)1992会計年度の輸入実績量

   2.3.2.2 前記の協議要請の後30日以内に米国を含むすべての関係国政府との合意が達成されず,かつ,当該会計年度の輸入量が2.3.2.1に定める水準を超える場合,協議の要請を行った日の後45日を経過した日以降で日本国政府の定める日から当該会計年度末まで,次の調整関税率が適用される。

1991会計年度             95%

1992会計年度             85%

1993会計年度             75%

   2.3.2.3 前記に加え,緊急措置の具体的実施に関しては別添に従う。

      1994会計年度以後の通常関税率は,1993会計年度の関税水準を超えて引き上げられることはなく,また,その水準でウルグァイ・ラウンドにおける関税交渉の対象となる。

  2.3.3 1994会計年度以後,国境措置は,ウルグァイ・ラウンドにおける交渉の結果及び農産物の貿易に関する規則を含むガットの規則と整合性のとれたものとなる。

3.関税

  日本国政府は,所要の国内手続に従うことを条件として,次の品目の関税率を引き下げる。

HS番号       品目       現行税率   新規税率  適用予定日

0802.50  ピスタチオナット    9%     0%   1989年4月1日

0802.90ex  ペカン        9%     5%     同上

0802.90ex  マカダミアナット   9%     5%     同上

0811.90ex  冷凍もも      20%    10%     同上

0811.90ex  冷凍なし      20%    10%     同上

0805.30ex  レモン        5%     0%     同上

0805.40   グレープフルーツ

       12月1日−5月31日  25%    15%     同上

                           10%  1990年4月1日

       6月1日−11月30日  12%    10%  1989年4月1日

0802.31   クルミ       16%    10%     同上

  前記の引下げ後の関税率は,二国間又はウルグァイ・ラウンドでしかるべく交渉される場合を除き,引き上げられない。

4.その他

 4.1 日本国政府は,これら品目にかかる現行の数量制限及びその他の制限の範囲を拡大しない。

 4.2 前記にかかわらず,日本国政府は,ガット第19条に整合する措置をとる権利を留保する。

 4.3 特定牛肉調製品及びその他の調製品について,日本国政府は別添に定める措置をとる。