[文書名] 海部内閣総理大臣による訪米に際しての記者会見
ただ今の暖かいお言葉とご夫妻での心温まるおもてなしに感謝します。この風光明媚なパーム・スプリングスの地において,長時間にわたり両国の直面する問題及び世界の平和と繁栄にかかわる問題について膝を交えて話す機会を得たことを大変うれしく思います。
自由と民主主義に基礎をおく新しい秩序を模索して国際情勢が激動する中,今回の大統領との会談は,新たな時代に向けた日米協調について討議する意義深い機会となりました。大統領との掘り下げた意見交換を通じて,基本的な考え方を共有し得たことに,私は大変満足しています。
私は,ブッシュ大統領が,東西関係の好ましい変化を促し,また,軍備管理・軍縮交渉を進展させるため,細心且つ大胆なイニシアティヴをとられていることを高く評価します。私も,我が国が国際秩序の維持と強化に責任ある国の一つであるとの立場から,その責任をになっていかなければならないと決意しております。先般の訪欧において,私は,その具体的な政策として,自由と民主主義を確立し,市場経済を導入しようとしている東欧諸国に対する支援を約束してきたところです。ドイツ統一問題について,私は,大統領から,コール西独首相との先般の会談において統一ドイツのNATO帰属と米軍の駐留継続に関する米国の立場を西独側に伝達した旨の説明を受けました。私は,大統領の説明に感謝し,大統領の努力に敬意を表しました。
大統領と私は,アジア・太平洋地域の情勢についても意見を交換し,ソ連の新思考外交がこの地域でも積極的に適用される必要があること,及び,日米両国がこの地域の政治的安定と,経済的繁栄を確保するためともに努力していくことが重要であることにつき認識の一致を見ました。
日米安保条約締結三十周年にあたるこの機会に,私は,大統領と共に,同条約に基づく日米協力関係が我が国及びアジア・太平洋地域の平和と安定のために果たしてきた役割を想起し,同条約の将来にわたる一層の重要性を確認しました。また,国際情勢の新たな展開の中にあって,日米安保条約が,抑止と対話による平和の追求を可能とする日米協力の引続き重要な基礎となることにつき大統領と私は認識の一致を見ました。
私は,米国が太平洋国家として,この地域で他国により代替することのできない役割を果たし続けていることを評価します。私は,在日米軍支援を含め日米安保体制の円滑な運用を引続き確保するために必要な協力を行っていくとの決意を大統領に伝えました。
日米間の経済関係について大統領と私は,その健全な発展が両国経済のみならず,世界経済全体の発展にとって必要不可欠であるとの認識に立って今後とも両国の関係強化に取組むことで合意しました。両国間の経済関係はとかく問題点にのみ目を奪われがちでありますが,大統領が深い洞察をもって述べられました通り両国市場は各々にとって極めて大きな市場であり,また,過去数年の調整努力により両国関係は正しい方向に進んでいます。米国の財政赤字と日本の経常黒字はともに減少の傾向にあり,GNP比で半減しております。
しかしながら,不均衡は未だ極めて大きく,更に一層の努力を継続すべきであります。構造問題協議はこうした明るい傾向をより確固としたものにするため極めて重要であります。私は,国民生活の質向上,消費者重視の視野に立ち,新内閣の最重要課題の一つとして我が国の構造改革に力強く取り組む決意であります。米国においても大統領が今述べられました通り大きな構造改革が進められることを期待しております。また,私は大統領に対し,内需拡大,市場アクセスの改善,規制緩和の政策を維持するとの決意を伝えました。大統領と私は,日米二国間の諸懸案も「協力と共同作業」の精神で早期に解決すべく日米双方が最大限の努力を払うことで合意しました。
大統領は,日米両国が債務問題,経済政策協調の面で緊密な協力を行ってきたこと,また,今般,為替市場における協力を含め,このような協力を再確認する意向を表明されました。私は,これを伺って,一層意を強くするものであり,為替市場での協力を含め,今後とも,これらの分野におけるできる限りの日米間の協力に努力を傾けたいと思います。
大統領と私は,強固な両国関係の発展が今後の世界の安定と繁栄のために不可欠であることを自覚して,両国関係を更に建設的な協力関係へと強化していくことの重要性につき認識の一致を見ました。その中で,一九九〇年代においては,教育・文化面での交流や,科学技術協力,日米間の両方向の技術交流を含む建設的関係の強化が重要であり,これを一層拡大していく必要性があることについて認識の一致をみました。
日米関係は,今や二国間の枠組みを超え,世界的な課題につき責任を有する地球的規模のパートナーシップとしての重要性を有しています。大統領と私は,地球問題への対応,世界経済の運営,開発途上国への経済協力や累積債務問題への取組み,環境問題,麻薬対策,国際テロへの闘い等の幅広い分野において,このような協力関係が具体的な実績を示しつつあることを歓迎しました。
特に麻薬問題について,私は,大統領の累次のイニシアティヴとカルタヘナ麻薬サミットで示された勇気ある決断を高く評価すると共に,我が国も,麻薬撲滅のための国際的な努力に積極的に参加していくとの決意を表明しました。
私はまた,ニカラグァの民主的政府支援のため早急に具体的協力を実施したいとの意向,及び,パナマ情勢安定化にとり同国経済の早期回復が重要との考えを大統領に伝え,今後中米和平の進展に伴い同地域に対する復興援助を検討していくとの我が国の立場を表明しました。
南ア情勢の展開はアパルトヘイト撤廃への可能性をひめています。大統領と私は,南アにおけるアパルトヘイト撤廃に向けて日米両国がなしうる貢献につき引続き協議していくことで意見の一致を見ました。
更に,ウルグァイ・ラウンドの最後の年を迎え,大統領と私は,保護主義を防圧し,二十一世紀に向けて世界経済が引き続き力強く発展する基礎を築くためにこの交渉を成功させることが極めて重要であり,このため緊密に協力していくことで合意しました。
歴史の力強い流れの中で,日米両国は今,大きな挑戦と機会に直面しています。私は,大統領と共に,日米の友好協力関係が世界の安定の基礎であることを念頭において,勇気を持って二十一世紀への道を共に切り開いていく決意です。