データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米構造問題協議最終報告

[場所] 
[年月日] 1990年6月28日
[出典] 日米関係資料集 1945−97,1186−1198頁.「日米構造問題協議最終報告」(財)通商産業調査会,1990年.
[備考] 
[全文]

日米構造問題協議最終報告

平成2年6月28日

アメリカ合衆国大統領        日本国総理大臣

 ジョージ・ブッシュ閣下       海部俊樹閣下

 1989年7月の経済サミットでの日米両政府首脳による決定を受け,日米の構造問題協議作業グループは,別添の構造問題協議共同報告書を提出致します.

 私達は,別添の報告書が,対外不均衡の一層の削減に貢献する日米双方の重要かつ広範な努力及び措置を含むものと信じております.これらの措置はまた,日・米双方において,より効率的,開放的,かつ競争力のある市場をもたらし,持続的経済成長を促し,生活の質的向上を導くものと思われます.

 報告書はまた,進捗振りをレビューし,問題分野に関連する事項及びこれらの事項に対処するための行動の必要性につき議論するために,フォローアップ・メカニズムを設けることとしました.このメカニズムの下で,作業グループは定期的に会合を行い,それぞれの国において構造問題の解決へ向けてなされた国際収支不均衡の削減に貢献する前進についてそれぞれ年次報告書を作成することとしています.

リチャード・T・マコーマック国務次官   渡辺幸治外務審議官

チャールズ・H・ダラーラ財務次官補    内海孚財務官

S・リン・ウイリアムズ通商次席代表    鈴木直道通商審議官

J・マイケル・ファーレン商務次官     海野恒男経企庁審議官

ジョン・B・テーラー経済諮問委員会委員

シェームズ・F・リル司法省反トラスト局長

構造問題協議

 日米構造問題協議の作業グループは,構造問題協議に関する別添の最終報告を発表することとした.同作業グループは,本報告が日米双方の重要かつ広範な努力及び措置を含む歴史的文書であると信ずる.これらの措置は,多数国間協議の場を通して採られた政策協調努力を補完し,国際収支不均衡の削減に寄与すべきものである.この観点から,両国の大幅な国際収支不均衡には近年顕著な削減が見られた中で,両国政府はそれぞれの国の国際収支不均衡の重なる削減に努めることに強くコミットしている.上述の措置はまた,日・米双方において,より効率的,開放的,かつ競争力のある市場をもたらし,持続的経済成長を促し,生活の質的向上を導くものと思われる.両国政府は,これらの目標を達成するとの固い決意を有している.

 日米構造問題協議は,貿易収支の不均衡の削減に資することを自的として,両国で貿易と国際収支の調整の上で障壁となっている構造問題を識別し,解決するため,1989年7月にブッシュ大統領と宇野前総理により打ち出されたものである.1989年9月より1990年6月の間に5回の作業グループの全体会合を開催した.進捗状況に関する中間報告は,1990年4月5日に発表された.

 日・米両政府は既に初期の措置を講じており,国際収支不均衡の調整を阻害する構造問題の解決のためのモメンタムの維持を確保する更なる措置に関する計画を作成した.両国政府は,最終報告が構造問題に対処するための大幅な前進であると信じる.

 同作業グループは,貿易と国際収支の調整の障壁となっている両国の構造問題を解決するとのコミットメントを引き続き有することを強く再確認する.

 一年間にわたる構造問題協議の作業を共同でフォローアップするために,構造問題協議の作業グループは,その会合を本件協議の特色である柔軟で,開放的で,時とともに変化するやり方で,両国の多省庁間協議方式の下で継続し,1年目に3回,その後は年2回,恐らくは,春,秋及び双方が合意する他の時期に,日本側は次官級レベル,米側は次官乃至次官補レベルで会合し,次のことを行うことに合意した.

−最終報告に特定された課題に関する進捗振りをレビューする.

−構造問題協議において既に識別された問題分野に関連する事項及びこれらの事項に対処するための行動の必要性につき議論する.

−毎年春に,それぞれの国において構造問題の解決へ向けてなされた国際収支不均衡の削減に貢献する前進についてそれぞれが書面による報告書を作成し,両報告書を共にレビューし,また,両報告書とともに共同プレス発表を発出する.

 最終報告にある措置で3年以上にわたるものを考慮し,構造問題協議作業グループはフォローアップのプロセスを3年後にレビューする.

 これらの協議は,米国通商法第301条の枠外で行われてきたところであり,今後も行われる.

 同作業グループは,構造問題協議のプロセスは,米国及び日本の経済への好影響に加え,他の諸国及び世界経済全般にも利益を与えると確信している.

日本側措置

貯蓄・投資パターン

I.基本認識

 1.経常収支黒字の縮小

   内需主導型の力強い成長に向けての適切な政策努力の結果,我が国の経常収支黒字は着実に縮小しており,86年度の対GNP比4.5%から89年度には1.9%と半分以下となり,90年度においてもこの傾向が続くものと見込まれる.この好ましい傾向には,我が国の輸入の著しい伸びのほか,我が国民の余暇の充実による海外旅行支出増も寄与している.特に米国の対日輸出は,米国の我が国以外の全世界向けの輸出を上回るペースで伸びている.

   この好ましい傾向を確かなものとするため,今後とも,インフレなき内需主導型の持続的成長を目指す政策運営を行う.

   経常収支黒字を引き続き縮小させることの必要性を認識し,その目的に向けて積極的に努力することを再認識する.政府は,東欧を含む諸外国のために貯蓄を活用しうるようにすることの意義を認めるとともに,同時に長期資本の輸出を継続することと経常黒字の一層の削減を図ることとは矛盾しないと考える.政府は,他の先進国の努力と相まって,世界の成長と金融市場の安定の観点から,引き続き経常黒字の着実な縮小を重視していく.また,国内の貯蓄と投資の不均衡の縮小がそのプロセスにとって重要であることを認識する.このことは,経常収支黒字の縮小に一層資するものとなろう.

 2.社会資本整備の必要性,重要性の確認

   社会資本整備については,それが歴史的に遅れて始まったこともあり,我が国は,毎年,対GNP比で米国の約4倍に上る公共投資(Ig)を行い,社会資本の整備水準を高いペースで上昇させてきたが,依然欧米主要国より遅れている分野があることは否めない.

   このような状況にかんがみ,我が国は,社会資本整備の必要性,重要性を強く認識し,今後とも,社会資本整備の着実な推進を図ることとする.

   また,これは,インフレなき内需の持続的拡大を通じて,経常収支黒字の一層の縮小に資することにもなろう.

II.対応策

 1. 平成2年度予算における積極的取り組み

  (1)平成2年度予算は6月7日に成立を見た.同予算においては,同年度の景気が極めて好調であり財政刺激の必要性が乏しいと見込まれること,他方,NTT株式の売却収入を見込めない厳しい原資事情であることという二つの背景にもかかわらず,国の一般会計予算において引き続き高水準の公共事業関係費総額(7兆4,447億円)を確保している.また,地方公共団体の単独事業費(地方財政計画ベース)及び財政投融資における公共事業実施機関の事業規模は,それぞれ7%ずつ増加した結果,Igベースでは,総計約26.3兆円に上る.

  (2)平成2年度末に期限の来る8分野の長期計画については,同年度予算の結果,7分野までが目標を超過達成することが見込まれている.

 2.今後の積極的な取り組み

  (1)今後の中長期的な公共投資の在り方については,本格的な高齢化社会が到来する21世紀を見据え,着実に社会資本整備の充実を図っていく.このため,

   [1]21世紀に向けて,着実に社会資本整備の充実を図っていくための指針として,新たに「公共投資基本計画を策定したところである.この計画は,1991〜2000年度の10年間を対象期間とし,今後の公共投資について,その基本的方向を総合的に示すものである.この計画に基づき,経済全体のバランスに配慮しつつ,今後,中期的に公共投資を着実に推進することは,我が国の内需を中心としたインフレなき持続的成長に資することとなると期待され,これは,他の手段と相まって,経常収支黒字の一層の縮小に資することとなろう.

………

  (2)公共投資の配分に当たっては,国民生活の質の向上に重点を置いた分野に,できる限り配意していく.

  (3)上記の計画を含む公共投資の執行に当たっては,憲法の規定する単年度予算制度の下で,公共投資の執行の円滑化を最大限確保するため,国庫債務負担行為を有効に活用していく.

  (4)都市再開発等の日本開発銀行を通ずる社会資本整備を含め,財政投融資資金を社会資本整備に更に活用していく.この観点から,財政投融資資金の配分に当たっては,住宅等,国民生活の質の向上に重点をおいた分野に,できる限り配意していくとともに,住宅,道路,空港等の社会資本整備長期計画の着実な達成のために,財政投融資資金をできる限り効率的,重点的に配分していく.

  (5)関西国際空港,東京臨海部開発等の大規模複合開発プロジェクトについて,関係省庁間で緊密な連絡調整を行うための体制を整備するなど,プロジェクト全体としての効率に十分配慮していく.

  (6)土地利用・規制緩和等

   [1]公共事業の円滑な実施のために,大都市地域における国公有地の都市施設,都市再開発及び公共的住宅プロジェクト用地としての活用等に十分配慮する.

………

  (7)今後とも,建設市場に係る制度について内外無差別の原則を維持するとともに,引き続き米国政府と日米合意の誠実な実施及びそのレビューを行っていく.

………

流通

I.基本認識

 日本政府としては,日本の流通につき,一層の効率化,アクセスの確保,物理的基盤の整備等を推進していくことを通じ,国民の消費生活の充実を図っていくことが重要と考えており,かかる基本認識に基づき各般の施策を推進することとしている.

 1.空港,港湾等の輸入インフラの整備を通じ,輸入貨物の流通の迅速化,低廉価を図る.

 2.適正・公平な税負担の実現,国民の健康,安全の確保等の機能を維持しつつ,貿易量の増大に対応した通関手続,輸入手続の一層の迅速化等を図る.

 3.流通に係る規制緩和等を大店法をはじめとする各種の法令において促進し,もって,国民の消費生活の充実を図る.

 4.流通に係る商慣行について,競争の促進,市場の開放性確保等の観点から環境整備を図る.

 5.我が国の輸入拡大に関して,永続的,構造的な効果を持ち得る各般の措置を実施し,流通等我が国市場構造の効率化を図る.

II.対応策

 1.輸入関係インフラの整備

  (1)空港整備

………

  (2)港湾整備

………

 2.輸入関係手続きの迅速化・適正化

 通常の輸入貨物の日本の流通システムヘの迅速な引き取りを確保するため,日本政府は1991年までに輸入手続きを24時間(輸入申告書の提出から輸入許可まで)で終了することを目標とする.日本政府はこの目標を達成するために十分な予算措置と所要の規則改正を行うものとする.

  (1)通関手続

 1991年から92年に海上貨物を対象とした通関手続電算処理システムの導入を図る.また,日米双方の専門家による会合における検討の結果提出された報告書に基づき,航空貨物通関情報処理システム(NACCS)のグレードアップ,搬入前予備審査制の拡充及び手続の簡素化,データベースを利用したリスク判定システムの導入等を,ここ2〜3年のうちに実施に移せるよう努力するとともに,通関手続の一層の改善,合理化を行う.

  (2)その他の輸入手続

 輸入手続の一層の迅速化,適正化を図るため設置された関係省庁よりなる日米専門家会合における検討の結果提出された報告書に基づき,以下の諸措置を検討し,可能なものから順次着手し,3年のうちに実施に移せるよう努力する.

   (イ)輸入手続関連省庁よりなる連絡会議の設置,税関手続とその他の輸入関連法令手続との同時並行的処理,輸入手続関連省庁間での情報伝達の効率化等を通じた税関とその他の輸入手続関連省庁との協力の下での統合的処理システムの構築.

   (ロ)事前届出・申請制の導入,海外検査データの受入れ促進を含む出荷前検査制の整備,包括的取扱い制度の拡充等による貨物到着前処理の促進.

   (ハ)執務時間の延長を含む処理体制の物理的整備拡充.

 3.規制緩和

  (1)大店法

 大店法については,流通業が今後ダイナミックな変革を求められている現在,新たな消費者ニーズにこたえ,流通業の活性化を進めるとともに,新店舗の開店のための円滑な手続を確保する観点から,規制緩和を推進する.また,国による規制緩和と併せて地方公共団体による規制緩和も図る.

 かかる観点から,政府として以下の規制緩和のための措置を展開する.

   (イ)規制緩和に向け直ちに実施する措置(運用適正化措置等)

   [1]大規模小売店舗の出店調整手続を円滑化するとともに,新店舗の開店及び既存店舗の拡張を容易にするため,本年4月27日に産業構造審議会・中小企業政策審議会合同会議に諮った上で,現行大店法の枠組みの中で法律上実施可能な最大限の措置である下記の運用適正化措置を本年5月30日から実施した.

    (i)出店調整処理期間の短縮

 出店調整処理期間を1年半以内とする.所轄通商産業局に出店計画についての通達に定める所要事項の説明がなされた日をもって出店表明日とする.届出は全て受理される.

    (ii)輸入品売場に係る特例措置

 輸入品売場については,店舗面積の一定増(100[[undef12]]以下)について調整手続を不要とする.

    (iii)調整不要店舗面積の設定

 店舗面積の一定増(現店舗面積の10%又は50[[undef12]]のいずれか小さい面積の範囲)等について,調整手続を不要とする.

    (iv)閉店時刻,休業日数に関する規制対象範囲の緩和

規制対象となる閉店時刻を午後6時以降から7時以降へ,規制対象となる休業日数を月4日未満から年間44日未満へそれぞれ緩和する.

    (v)出店調整処理手続の透明性向上

 商業活動調整協議会の審議内容の一層の開示,出店処理状況に関する4半期毎の公表,出店者等関係者からの問い合わせの受付・処理窓口の設置等の措置を講じ,出店調整処理手続の透明性を向上する.

 なお,従前のとおり,出店調整処理手続中であっても,他の法令(建築基準法,都市計画法等)上必要な手続を並行して進めたり,出店者により入居するテナント募集等が行われることは何等妨げられるものではないこと,及び企業買収による既存店舗の取得(外国企業による場合も含む.)の場合に出店調整処理手続が全く不要であることを確認する.

   [2]地方公共団体の独自規制については,大店法の趣旨に照らし,上記の運用適正化措置に併せて各地方公共団体が必要な是正を行うよう各都道府県知事宛に通達する等最大限の努力を行っている.

………

   (ロ)次期通常国会における提出を目指した法律改正

次期通常国会における大店法改正法案提出を目指し,法案改正作業に直ちに着手するものとし,このため必要な手続として,関係審議会に諮問する.

   [1]法律改正に当たっての視点

    (i)消費者利益への十分な配慮

    (ii)手続の迅速性の確保

    (iii)手続の明確性・透明性の確保

    (iv)輸入拡大の国際的要請への配慮

   [2]改正内容として検討する事項

    (i)一層の輸入拡大を目指した出店調整手続における輸入品売場に関する特例措置の導入

    (ii)出店調整処理期間の短縮(1年程度を努力目標とする.)

    (iii)出店調整手続・機関の明確化・透明化

    (iv)地方公共団体の独自規制の抑制

    (v)その他

  (ハ)上記大店法改正後の見直し

 上記大店法改正後2年後に更に大店法を見直すこととする.この検討には,消費者及び小売分野における競争に対する大店法の影響に関する分析並びにこれを踏まえ,大店法を基本的に見直して更なる行動をとることの必要性に関する分析が含まれる.冒頭の点を明らかにするため,上記大店法改正法に,改正法の施行状況の有効性を吟味し,その結果に基づいて特定地域に関する規制の撤廃を含め必要な検討を行う旨の規定を明記する.

………

4.商慣行の改善

  (1)6月21日,学者及び実務家からなる「流通・取引慣行等と競争政策に関する検討委員会」の提言を得た.主な提言事項は次のとおりである.

   [1]公正取引委員会は,消費財の流通分野におけるメーカー等による流通業者に対する及び流通業者によるメーカー等に対するマーケティング政策に関し,対象となる事業者の行為の競争政策上のメリット・デメリットを十分踏まえた上で,独占禁止法の運用に関するガイドラインを作成する必要がある.

 ガイドラインの作成に当たっては,次のような点から検討すべきである.

    a 取引先事業者の事業活動に対する過度の関与を改善し,事業者の一層活発で自主的な活動を促進すること.

    b 特に,事業者間の価格競争を促進すること.

    c 新規参入を行う内外の事業者が自由な参入や活発な事業活動を行えるよう市場の開放性を高めていくこと.

 ガイドラインに盛り込むべき行為類型等としては,次の事項が考えられる.

    a 再販売価格の拘束

    b 再販売価格の拘束となるメーカー希望小売価格,希望卸売価格

    c 不公正な取引方法となる非価格制限行為(競争品・輸入品の取り扱い制限,販売地域の制限,取引先の制限,販売方法の制限),流通業者の経営に対する関与,リベートの供与,返品,派遣店員,大規模小売業者の仕入体制のシステム化,押付販売,協賛金の負担要請

    d 一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合には,私的独占または不当な取引制限となり,これに至らない場合には不公正な取引方法となる競争事業者や取引先事業者との共同ボイコット

    e 親子会社間の取引に関する不公正な取引方法の適用

   [2]輸入総代理店は,輸入品の参入手段として重要性を有するが,国内流通に対し競争制限的に機能する場合があるので,それを有効に規制するため,公正取引委員会は,現行認定基準を見直し,メーカー輸入,国内での高価格販売,並行輸入の不当阻害行為の問題点について考え方を明らかにする必要がある.

 また,外国事業者や輸入総代理店が競争制限的行為を行っている場合には,独占禁止法の厳正な運用を行う必要がある.

   [3]個々の事業者,とくに大企業は,法務部門を充実し,独占禁止法違反行為を予防するため遵守規則等を作成することが望ましい.

………

 5.輸入促進策

  (1)我が国として「輸入大国」となるべく,[1]製品輸入促進税制の創設[2]輸入情報ネットワークの整備や米欧諸国への商品発掘専門家の派遣等の人材交流等を内容とする輸入拡大予算の抜本的強化・拡充[3]輸入拡大のための低金利ローンの拡充強化[4]1000品目余に及ぶ関税の撤廃 を内容とする輸入拡大策のパッケージを打ち出したところ.これらは,国会での議決を経て実行に移されているが,更に,通産省と米国商務省との間で貿易拡大のためのアグリーメントに合意するなど,輸出国側の努力と協力して実施することにより,施策の実効性を高めるべく努力している.

  (2)日本政府は,貿易会議(内閣総理大臣が議長を務め関係省庁から構成)の中に外国事業者も含めた官民合同の「輸入協議会」(仮称)を設置する.本協議会は,輸入の拡大,円滑化に関連する一般的な要望,意見をとりまとめ,貿易会議に報告するものとする.

  (3)輸入手続き等を含む市場開放問題及び輸入の円滑化に関する外国企業等からの具体的苦情については,O.T.O.(市場開放問題苦情処理推進本部)において常時苦情を受け付け,今後とも迅速な処理を行う.O.T.O.諮問会議委員及び苦情処理特別会議委員とACCJを含む在日商工会議所会員との会合を本年5月29日に開催したところであるが,要請に応じ今後とも継続して開催し,基準・認証制度も含めた我が国の市場アクセスの改善に関する意見を表明する機会とする.この意見については,我が国の市場の開放性を高めることを念頭に,関係省庁において検討させ,その結果を然るべく報告することとする.また,O.T.O.諮問会議に外国人が特別委員として参加できるようにする等運営の改善を図る.

 日本政府は,基準,認証,検査の分野において,新たなレビューを行う.その際,手続の透明性が確保され,また,適当な場合には基準,検査が性能に基づいたものであることを確保する観点から,業界団体の定める基準に関する事項を含む,基準,認証,検査に関する現行の規制及び慣行のレビューを行う.この新たなレビューは,まず,ACCJ及びその他の外国商工会議所並びにその他の関係団体により,O.T.O.及びその他の然るべきチャンネルを通じて提起された基準,認証,検査上の問題を取り上げる.

排他的取引慣行

I.基本認識

 公正かつ自由な競争を維持・促進することは,消費者の利益となるばかりか,外国企業を含め,新規参入機会を増大させるものであり,極めて重要な政策課題であるとの認識に立ち,政府としては各般の施策を推進することとしている.

 1.独占禁止法及びその運用の強化.

 2.行政指導法の政府慣行に関する一層の透明性・公正性の確保.

 3.民間企業に対する透明かつ内外無差別な調達活動の奨励.

 4.特許審査処理期間の短縮を含む,特許審査処理の促進.

II.対 応 策

 1.独占禁止法及びその運用の強化

 日本国政府または公正取引委員会は,独占禁止法及びその運用の強化に関し,本件最終報告において規定されている目標を達成するために必要または適当な立法措置を含む以下の措置を取ることとする.

  (1)公式決定の一層の活用

 公正取引委員会の審査体制を拡充・強化し,違反行為に対する証拠収集能力を高めることによって,法的措置に基づき,違反行為の排除を積極的に行う.なお,特に価格カルテル,供給量制限カルテル,市場分割協定,入札談合,グループボイコット等に対しては厳正に対処し,違反行為が認められれば,法的措置を取る.

 また,本年6月8日,外国事業者が,独占禁止法等に関する相談,苦情及び独占禁止法違反事案についての申告を行いやすくし,公正取引委員会としての対応を迅速かつ適切に行うため,公正取引委員会に外国事業者からの相談・苦情窓口を設置し,専任の担当官(外国事業者相談苦情処理担当官)を設置した.

  (2)一層の透明性の確保

 行政の透明性を確保し,抑制効果を一層高めて,同様な違反行為の未然防止を図るために,勧告や課徴金納付命令等の法的措置については,すべて,違反したものの氏名・名称・違反の態様及び違反に係る状況を含むその措置内容を公表するとともに,警告についても,例外的な場合を除き公表する.

  (3)予算の拡充

 本年6月,公正取引委員会の審査部門の大幅な増員及び機構の拡充が行われたところである.

   [1]25名,20%増員(129名→154名)

   [2]違反探知機能増強のため1組織増設(1組織→2組織)

   [3]違反審査機能増強のため2組織増設(6組織→8組織)

   [4]地方事務所の審査機能増強のため大阪地方事務所に1組織増設(1組織→2組織)

 今後,引き続き,その着実な整備・充実に努める.

  (4)課徴金

 違反行為に対する執行を強化するためにカルテルに係る課徴金が独占禁止法違反を効果的に抑制するようにその引上げについての独占禁止法改正法案を次期通常国会に提出することを予定している.

 課徴金の引上げの具体的内容について,検討するため,内閣官房長官の下で学者その他有識者からなる懇談会を開催することとした.

 また,グループボイコットについては,競争を実質的に制限する場合には,カルテルとして規制を行うこととし,対価に影響がある場合には,課徴金の対象となる.

  (5)刑事罰の活用

 公正取引委員会は,独占禁止法違反について刑事処罰を求めて告発を行うことにより,今後は刑事罰の活用を図ることとする.

 そこで,関係機関である法務省,検察当局及び公正取引委員会は,独占禁止法違反事件に適切に対処するための連絡協調関係を整備することとしたところであるが,その具体的措置として,本年4月,法務省と公正取引委員会との間に,告発に関する手続等を検討するための連絡協議会を設置し,年内に結論を得ることを目途に検討を進めている.また,今後,告発に当たり,検察当局と公正取引委員会との間に,個々の事件の具体的問題点等についての意見・情報を交換する場を設けることとしている.

………

   (6)損害賠償制度

 独占禁止法違反行為の被害者が損害賠償請求を有効に行うことができるようにするため,現行独占禁止法25条の活用方法について,公正取引委員会に設置された研究会が,本年6月25日,検討結果を公表した.現行の損害賠償制度が効果的に利用されるようにするために,公正取引委員会は,直ちに研究会の提言を実施し,次の事項を含む必要な措置を採る.

………

   (7)談合に対する効果的抑止

   (イ)日本政府は,今後とも政府出資のプロジェクトに関して談合を排除するよう努めるものとする.この点に関して,発注機関は談合事案に対して厳正に対処し,談合行為の抑止に効果的な行政上の措置(指名停止を含む.)を当該談合に参画したことが発覚した企業に対して積極的に適用する.さらに,発注機関は,今後,談合行為に対し,一層の注意を払い,自らの判断において談合行為に関する関連情報を公正取引委員会に伝える.

   (ロ)公正取引委員会は,全ての産業における談合に対し,独占禁止法を厳正に適用することとする.

   (ハ)指名停止に関する中央公共工事契約制度運用連絡協議会のモデルを改正し,独占禁止法違反事案等について指名停止期間の延長及び対象地域の拡大を行った.これにより一定の場合には,指名停止期間の下限が従来基準の2倍とされ,また,全国レベルで対応することになった.

中央省庁,公団等においては,上記モデルの改正を受けて,本年6月以降,指名停止措置要領を改正しているところである.

   (ニ)法務省は,刑法の罰金刑を見直す作業を進めているところ,談合罪の罰金刑についても,その上限を引き上げる方向で検討し,その旨の可及的速やかな法改正に努めることとする.

 2.政府慣行

  (1)政府規制の緩和については,第二次行革審の答申を受け,規制緩和推進要綱を閣議決定するとともに,その推進に鋭意努力してきている.今後更に,関係審議会での検討を早期に進めるなど,規制緩和推進要綱に基づき制度・運用の改善を出来るかぎり早期に進める.

  (2)行政指導

 日本国政府は,行政指導の政府全体の包括的な原則として透明性及び公正性を確保するため,行政指導の内容が市場閉鎖的でなくかつ公正な競争を阻害しないとの政府の意図と一致するようにすることを保証する.また,行政指導は,可能な限り文書で行うこととし,それが行われた場合には,例えば,安全保障に係る場合,公表すれぱ営業秘密の漏洩等から生ずるような損害をもたらし又はそのおそれがある場合等公表しない有力な理由がある場合を除き,一般に知り得るようにする.

………

 3.民間企業の調達慣行

   (1)日本政府は,民間企業の調達活動は,市場における自由な競争の下での調達者の判断と納入者の努力に委ねられるべきであり,独占禁止法に反するような企業行動によって市場競争が阻害されている場合には,こうした行動は,断固として排されるべきものであることを確認する.

   (2)さらに,日本企業の調達活動が内外無差別に行われるべきこともいうまでもない.

   (3)以上の観点から,日本政府は,4月24日に経団連が発表した「購買取引行動指針」を,産業界における自主的な取組みとして高く評価し,右指針を支持する.また,日本政府は,企業の調達活動に関し,国際的視点に立って,その手続が可及的に透明かつ内外無差別となるよう勧奨し,この報告の公表後3年間,毎年1回これら手続きの統計的調査を行う.

 4.効果的な特許審査

 特許制度については,WIPO,GATT等のマルチの場においてハーモナイゼーションの検討が行われているところであり,日本国政府としては,米国政府と共に,これらの場における議論に積極的に参加,貢献していく考えである.

 日本国政府は,継続的な特許庁定員の増加(審査官定員増:89年度30人,90年度30人),世界初の電子出願の開始(電子出願のための特許法等の特例法:90年6月7日成立,90年12月受付開始予定),特許審査に必要な先行技術調査の外注化(89年度予算1万件分・90年度予算2万件分を確保)等審査処理促進のための総合的施策を強力に推進しており,審査遅延改善の実績が既に示されてきている.

 日本国政府は,5年以内に我が国の平均特許審査処理期間を24か月に減ずるよう最善の努力を払う.

 これを実現するため,日本国政府は,従来の総合的な施策に加え,新たに継続的かつ大幅な毎年の特許庁の特許審査官及びその他の職員の定員の増加を特別な配慮の下で行う.

 また,通常の審査手続とは別に,短期間で審査を完了する早期審査制度が導入されており,この制度の活用が期待されているところである.

………

 公正取引委員会は,この提言を踏まえ,系列グループに属する事業者間の取引慣行が,公正な競争を阻害することなく,また,内外を問わず公正で一層開放的に行われることに資するよう,事業者間取引慣行の継続性と排他性について独占禁止法の運用をできるだけ具体的かつ明確に示したガイドラインを1990年度末までに作成・公表する.なお,ガイドラインの作成に当たっては,事前に国内外の関係機関等に対し,ガイドラインの完成前に公正取引委員会に対してコメントできるように,原案を開示する.公正取引委員会は,このガイドラインによって独占禁止法の運用を厳正に行う.

………

{[1]は原文ではマル1}