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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ブッシュ大統領来日,日米グローバル・パートナーシップ東京宣言

[場所] 東京
[年月日] 1992年1月9日
[出典] 日米関係資料集 1945−97,1220−1222頁.Public Papers of the Presidents: George H. W. Bush, 1992-93, pp.59-65 の外務省日本語訳.
[備考] 
[全文]

日米グローバル・パートナーシップに関する東京宣言

日本国総理大臣及びアメリカ合衆国大統領は,次のとおり宣言する.

前文

 50年前の悲惨な戦争を経て,日本及び米国は,政治,安全保障,経済,科学及び文化の側面で,高度に生産的で相互に利益をもたらす緊密な協力関係を発展させてきた.両国は,今や両社会におけるあらゆるレベルにおいて高い相互依存関係にある.両国は,その協力を政治的・経済的自由,民主主義,法の支配及び人権の尊重という共有された諸原則の基礎の上に位置づけるものである.

 両国は,この協力が冷戦期の困難を乗り切り40年間の世界的な安定及び繁栄を促進する上で重要な貢献を行ってきたことを認識する.

 日米両国政府は,冷戦後の時代を迎えた今日,日米関係が新たな政治的・経済的課題に直面していることを認識する.経済問題は,新たに顕著なものとなってきている.日米両国は,協力のための機会を十分に活用することを確保するために,貿易・投資関係の問題に焦点を当てつつ,経済摩擦の根底にある諸要因に対処するため,両国が効果的な措置を講じることに最も高い優先度を置くものである.

 日本及び米国は,戦後両国が保ってきた緊密な協力が両国社会にもたらした利益を認識し,この基盤の上に一層緊密なパートナーシップを構築することを誓っている.両国は,より緊密な関係が相互理解の増進及び共通の利益の上に築かれなくてはならないことを認める.世界における第一位及び第二位の市場指向型経済を擁する民主主義国として,日本及び米国は,新たな時代を形成する特別の責任を受け入れるものである.

 よって,日米両国政府は,これらの恒久の価値に基づくグローバル・パートナーシップの下で手を携え,公正で,平和で,かつ,繁栄する世界の構築を助け21世紀の課題に取り組むために協力することを決意する.

世界平和と繁栄の促進のための協力

 日米同盟関係は,グローバル・パートナーシップの基盤となっている.両国は,世界の平和及び安全の維持のために共同して努力し,世界経済の発展を促進し,民主化及び市場指向型経済への世界的な潮流を支持し,国境を超える新たな課題に取り組むことを共に誓う.これらの目標を達成するため,両国は,ガットの多国間貿易体制を強化し,国際連合の機構を再活性化し,軍備管理と大量破壊兵器の不拡散を進め,途上国の成長及び安定の促進を支援し,地球環境を保全・改善するために,協力する.日本及び米国は,国際連合憲章の目的のため,各々の資源及び国民の能力を改めて提供する.

 日本及び米国は,アジア・太平洋地域の国家として,同地域の多様性を尊重しつつ,同地域の繁栄を促進し,緊張を緩和し,同地域の政治協力を促進すると共に,アジア・太平洋の諸国の絆を強化するための措置を講ずることを誓っている.この目的のため,日本及び米国は,アジア・太平洋経済協力(APEC)の枠組みが市場開放を促進し,ダイナミックな経済成長を持続し及び政治協力を構築するための地域的な努力を助長するための場として認識する.

 さらに,日本及び米国は,民主主義及び市場経済への移行期にある諸国への支援に特に注目しつつ,中東,中南米,アフリカ及び欧州を含む,世界の他の地域における協力の幅も拡大する.両国は,途上国の成長と安定を促進し,先進国と途上国との発展の格差是正に寄与し,民主主義的諸価値及び人権への尊重を高め,環境の悪化,難民,麻薬,疾病及び高齢化を含む地球規模の諸問題の解決に資するため,途上国における各々の経済援助計画についての協力を強化する.

政治・安全保障関係

 日本及び米国は,日米同盟関係の中核をなす1960年の相互協力及び安全保障条約を堅持していくことを再確認する.この同盟関係は,両国がグローバル・パートナーシップの下で,世界の平和及び安定を確保するため,各々の役割と責任を担うべく協力していく上での政治的基盤となっている.日米両国政府は,日米安保条約及び関連取極の円滑な運用及び信頼性を維持・向上させることを誓う.

 アジア・太平洋地域に死活的な利害を有する国として,日本及び米国は,両国の防衛関係がこの広大かつ多様性に富む地域の平和と安定のために引き続き重要であることを認識する.日米両国政府は,東アジアの緊張及び不安定を緩和し,冷戦後の状況において,地域的な政治協力を構築するために,他の諸国と共に緊密に作業していく.

 不安定性及び不確実性に特徴づけられた新たな時代に入るに当たって,引き続き用心を怠らないことが必要であることを認識しつつ,米国は,この地域の平和と安定を維持していく上で必要な米軍の前方展開を維持していく.一方,日本は,安保条約に従い,日本国内における施設及び区域を引き続き米国の使用に供するとともに,新たに締結された在日米軍駐留経費特別措置協定の下で,在日米軍の駐留経費についてより高い負担率をもって負担を行う.両国は,自衛隊と米軍との間の協力を拡大し,双方向の防衛技術交流を推進するための措置をとる.両国は,安全保障関係を総覧するために,改組された日米安全保障協議委員会の枠組みを十分に活用することにつき意見の一致をみた.

経済・貿易関係

 日米両国政府は,両国経済の高度の相互依存性を認識し,また,物価安定を伴った持続可能な実質成長及び雇用のための条件を整備するため,より緊密な協力を促す必要性に留意して,両国の商業,金融及び投資市場において,開放性を強化し,保護主義に対抗することを決意している.この目的のため,日本及び米国は構造的障壁を削減するための政策イニシアティブを強化する.

 日本及び米国は,更に,両国の経済を世界で最も開放的,生産的かつ競争的なものとし,もって持続可能な貿易・投資関係を構築することを誓う.また,日米両国政府は,両国の産業間の交流及び協力を一層強化するための民間部門のイニシアティブを勧奨する.

科学技術

 科学研究及び技術開発において世界の中で指導的役割を果たしている両国の地位に留意して,日米両国政府は,両国社会及び人類社会の利益のため,互恵的アクセスの下に,基礎研究を含む科学技術協力を拡充することを誓う.日米両国政府は,地球環境問題に関する研究を増大させることを誓い,この課題に取り組むための手段に関する国際的な合意の形成に指導的役割を果たす.

相互理解及び交流の強化

 日本及び米国は,永続的なパートナーシップのためには両国民間の意思疎通及び相互理解が不可欠であることを認め,両国民間の豊かで多様な知的,文化的及び公的な相互交流を前進させるための事業を実施し支援することを誓う.日米両国政府は,相互理解の増進を図るため,語学教育,知的交流,教育交流及び地域社会レベルでの事業に特に力をいれる.

 総理大臣及び大統領は,各々の政府がグローバル・パートナーシップを構築するというこの宣言の目的を全面的に支持することを誓う.日米両国政府は,責任及び利益の衡平な配分が行われるような方法で,地政学的,経済的及び人道的な共通の目的のために行う新たな協力の分野を開拓する.