データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米首脳会談後のプレス・リマークス(宮澤内閣総理大臣)

[場所] ワシントン
[年月日] 1992年7月1日
[出典] 宮沢内閣総理大臣演説集,101ー103頁.
[備考] 
[全文]

 ブッシュ大統領

 ただ今の暖かいお言葉に感謝いたします。また,低い演台を用意してくださってありがとうございます。

 今回は,私にとり総理としての初めての米国公式訪問であります。私は,私の尊敬するアメリカの皆さんと直接お話する機会を持てたことを大変嬉しく思っています。さらに本日は,同盟国の指導者として,そして友人として,ブッシュ大統領と率直かつ有意義な会談を行うことができたことに大変満足しています。

 これからさらにキャンプ・デービットで会談の続きを行うこととなりますが,その前に,次の四つの特筆すべき点について,私の考えを申し上げたいと思います。

 第一に,大統領と私は,米国及び日本の,ロシアをはじめとする旧ソ運のNIS諸国との夫々の関係について検討しました。私たちは,国際社会が協力してこれら諸国の民主化と市場経済化を支援していくことが,極めて重要であることについて意見の一致をみました。

 また私は,北方領土問題について,大統領が一貫して我が国の立場を確固として支持してくださっていることに深く感謝しております。ブッシュ大統領は,エリツィン大統領との会談においてもそのような支持を明確にしてくださいました。このことは,エリツィン大統領に,この領土問題の持つグローバルな意味合いを理解して頂く上で,有益かつ思慮深い措置でありました。

 第ニに,大統領と私は,朝鮮半島及びカンボディア情勢を含め,ダイナミックな活力を見せるアジア・太平洋地域におけるいくつかの重要な問題について協議しました。私たちは,この地域の平和と繁栄を増進するために協力する決意を再確認しました。私たちは,この変革の時期に,米国の軍事的プレゼンスと日本の接受国支援とが,ともにこの地域の安定に大きく貢献していると認識しております。

 第三に,大統領と私は,政治及び経済の両面において,グローバル・パートナーシップが進展していることを嬉しく思っております。政治的面では,それは,アジアからロシア,及び中欧/東欧にまで及び,正にグローバルな拡がりを持つに至っています。経済分野においては,このようなグローバル・パートナーシップは,ウルグァイ・ラウンドの早期かつ成功裡の終結と保護主義の防止,国際的な構造調整の推進,森林保護を含む環境協力,及び開発援助の協力を含んでいます。

 この関連で,マクロ経済政策面においては,本年一月の世界成長ストラテジーに関する共同声明を踏まえ,大統領と私は,我々の経済の持続的な回復をより確実なものとすることが当面重要であるとの点に合意し,私から,日本経済の持続的な成長を確保するためのこれまでの努力を説明するとともに,この施策の効果が十分でない場合には,新五か年経済計画において示された諸目的を念頭に置きつつ,状況を見極めた上で必要な相当の追加的財政措置を含めあらゆる方策をとるとの私の決意を明らかにしました。また,大統領よりは,米国の財政赤字削減及び競争力強化に向けての決意の表明がありました。

 最後に,ニ国間関係の運営が正に重要であります。そのような観点から,大統領と私は,東京宣言とその行動計画が着実に実施に移されつつあることを確認し,一層そのフォローアップを進める決意です。

 私は,この歴史的な変革の時にあって,ブッシュ大統領が果敢かつ優れたりーダーシップを発揮しておられることに,深い尊敬の念を抱いております。また私は,大統領が,財政赤字削減や競争力強化を図り,保護主義の圧力に屈することなく,開放された自由経済を維持していくために誠心誠意努力されていることに強く勇気づけられています。

 米国は,冷戦後の時代においても必ず世界のりーダーであり続けるでしょう。私は,日本もまた,両国のグローバル・パートナーシップの精神の下に,これまで以上の大きな責任と役割を果たすことにより,そのような米国と共に歩んでいくことを約します。