データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日米の新たなパートナーシップのための枠組みに関する共同声明

[場所] 東京
[年月日] 1993年7月10日
[出典] 外交青書37号,210ー214頁.
[備考] 仮訳
[全文]

日本国総理大臣と米合衆国大統領は,1993年4月の首脳会談における了解を再確認し,日米間の新たな経済パートナーシップのための枠組みを以下の通り設置することに合意する。

基本目的{前4文字下線}

この枠組みは,日米経済関係のための新たな協議のメカニズムとしての役割を果たす。この新たな経済関係は,バランスの取れた相互の利益となるものでなければならず,また,世界的な成長,開放的市場,そして極めて重要な世界貿易体制を推進するとの日米共通の利益と責任にしっかりと根差したものでなければならない。協議は,双方通行の対話という基本原則の下で行われる。

この枠組みは,年に2回開催される首脳会議を基軸とする継続的な一連の協議を構築する。この枠組みは,市場開放およびマクロ経済分野での措置を通じて競争力のある外国の製品及びサービスへのアクセス及び販売を相当程度増大させ,投資を増加させ,国際的競争力を増進するとともに,日米二国間の経済面での協力を強化するため,構造・セクター別問題を取り扱うことを目標とする。

日本は,経常収支の黒字の十分意味のある縮小を中期的に達成すること。及び米国からの輸入を含めグローバルな製品及びサービス輸入の相当程度の増加を促進することを意図して,力強く持続的な内需主導型の経済成長を促進し,また,競争力のある外国の製品及びサービスの市場アクセスを増大するという中期的な目的を積極的に追求する。この関連で,日本は,これらの目的を実現するために必要に応じ財政・金融面での措置を含む諸措置を取る。

米国もまた,財政赤字を相当程度削減し,国内貯蓄を奨励し,国際競争力を強化するという中期的な目的を積極的に追求する。

日米双方がこうした努力を着実に実行することにより,両国の対外不均衡の相当程度の縮小に資することが期待される。

米国及び日本は,全ての諸国に恩恵を与える開放的かつ多角的な貿易体制にコミットしている。この枠組みの下での恩恵は,MFNベースとなる。

協議の対象は,政府による対応が可能で責任が及ぶ範囲の事項に限定される。

両国政府は,この枠組みに関連して取られる全ての合意された措置を誠実に、かつ,早期に実行することとする。両国政府は,この枠組みの下で,具体的な進展が達成されなければならないことに合意する。

両国政府は,この枠組みの対象となるセクター別・構造分野を扱う主要な手段としてこの枠組みを活用する。これらの分野において問題が生じた場合には,双方は,相違点を早急に解決するための最大限の努力を,この枠組みの下における協議を通じて,または,適当な場合には,適用可能な多国間合意の下で行う。

セクター別・構造面での協議及び交渉{前17文字下線}

日本及び米国は,国際貿易及び投資の流れを拡大し,それに影響を与えるセクター別・構造面での障壁を除去するために交渉または協議を行う。当初の対象分野には,両国が関心を有する以下の事項が含まれる。

・政府調達

この分野で取られる措置は,特にコンピューター,スーパーコンピューター,衛星,医療技術及び電気通信において,競争力のある外国の製品及びサービスの日本政府による調達を相当程度拡大することを目指すべきである。

米国政府は米国企業に対し,日本政府によって作られた機会を活用することを勧奨する。米国政府は,ガットの政府調達協定の下での義務に沿った形で,無差別,透明,公正かつ開放的な機会を提供することが米国政府の政策であることを再確認する。米国政府は,日本政府が特別な関心を有するそのような政策及び分野について,要請に応じて日本政府と協議する。

・規制緩和及び競争力

この分野で取られる措置は,競争力のある外国の製品及びサービスの市場アクセスを相当程度妨げる効果を持つ政府の関連法令及び行政始動の改革を,金融サービス,保険,競争政策,透明な手続き及び流通分野を含む分野において扱う。米国政府は,米国の国際競争力を一層強化するため,ビジネスの促進及びその他の措置を含む対日輸出促進努力を行う。

・その他の主要セクター

この分野で取られる措置は,自動車産業を含むその他の主要セクターを扱う。この分野におけるMOSS等の既存のアレンジメントを含む努力は,とりわけ,日本企業の日本国内及び在外トランスプラントでの外国製部品の調達の相当程度の拡大に寄与するような販売機会の相当程度の拡大をもたらすこと,及び市場アクセスに影響する問題を除去し,日本における外国自動車及び自動車部品の輸入を奨励することを目的とする。

米国政府は,自動車及び自動車部品の対日輸出を促進し,米国企業に対して日本における市場機会をより積極的に追求するよう奨励する。

・経済的調和

この分野では,日本及び米国への外国からの対内直接投資に影響に与えている事項を扱う。更にこの分野では,知的所有権,技術へのアクセス及び両国企業間の長期的な購買者と供給者の関係等の事項も含む。

・既存のアレンジメント及び措置の実施

全ての既存の二国間のアレンジメント及び措置は,着実にモニターされ,十分に実施される。日米構造問題協議((SII)の下でなされた具体的なコミットメントは,適当な場合には,このバスケットに吸収される。

上記の分野における協議は出来る限り早急に開始される。各バスケットは,次官級を議長とし,適当な場合には作業部会が設けられる。両国政府は,1994年の第1回目の日米首脳会談において,またはこの合意から6カ月以内に,政府調達,保険市場,自動車産業及びその他の今後決定される優先的分野に関する重要な市場アクセス問題に関する措置に合意するために最大限の努力を行う。各事項はそれぞれ別個に扱われる。残る分野における措置に関する合意は1994年7月の第2回目の首脳会談の際に発表されることが期待される。

地球的展望に立った協力のための共通の課題{前20文字下線}

両国政府は,幅広い地球的規模の分野及び地球的規模での適用の可能性を有する二国間のプロジェクトにおける積極的協力についても共に追求する。そうすることにより,日本と米国は,新たな協力関係を構築し,技術の発展及び世界経済の発展に貢献する。両国政府は,環境及びその他の地球的意味合いを有する共通の経済問題における挑戦に対して新たに共同で対処することを追求する。この協力を通じ,両国は,建設的なグローバル・パートナーシップを創設する。

このような協議の結果としての進展は,年に2度の首脳会談における声明に含まれる。進展についての報告は,首脳会談事前会合において次官級グループにより準備される。

以下の分野において出来る限り早期に協議が開始される。

1.環境

日本と米国は,環境問題に関する定期的協議のための次官級フォーラムを創設する。日本と米国は,海洋,森林,地球観測情報ネットワーク,環境・エネルギー効率的なテクノロジー,重要な天然・文化的資源の保全及び環境関連開発援助といった環境分野にの特定の優先事項について協力を行う。

2.テクノロジー

日本と米国は,運輸技術,電気通信,民需産業技術及び道路技術・防災といった技術開発の分野で,相互に合意したプロジェクトについて協力することに合意する。

3.人的資源の開発

日本と米国は労働交流及び製造技術者交流の分野における人的資源の開発についての二国間協力を強化することに合意する。

4.人口

日本と米国は,多国間人口計画の強化を含め,地球的規模での急速な人口増加を食い止めるための実効的な努力を促進するために共同で作業する。日本と米国は,途上国の人口計画の実効性を促進するために,途上国における日米二国間の計画を使用するため共同で作業する。

5.エイズ

日本と米国は,エイズに関する多国間の努力を促進するために協力する。日米両国は両国間の計画を途上国におけるエイズ危機に共に取り組むために共同で作業する。

ハイレベルの協議{前8文字下線}

両国政府は,この枠組みの下での協議をできるだけ早期に開始するように努め、年に2回開催される首脳会談において成果を発表する。

両国政府は,この枠組みの下の各バスケットの中のセクター別・構造分野の各分野で取られる措置及び政策の実施状況を評価する。この評価は,両国政府により評価される関連情報ないし関連データからなる一連の客観的基準(適切さに応じて,定性的,定量的なものの何れか,あるいは,これらの双方を含む)に基づいて行われる。この評価は,首脳会談に先立って年2回開催される次官級会合の際に行われ,各バスケットの下での交渉チームの決定に従って更に追加的に行われる。これらの基準は,両国政府の共同の努力を含むセクター別・構造分野の各分野で達成された進展を評価する目的で使用される。

年に2回開催される会合において,両国首脳は,セクター別,構造問題,マクロ経済問題,並びに,地球的展望に立った協力のための共通の課題について,この枠組みの下で達成された結果の報告を含む対外発表を行う。

次官級会合は,両国首脳に提出される報告を準備するために年に2回開催される。会合は,適当な場合には,年に2回開催される首脳会談の数週間前に開催することができる。第1回目の次官級会合は,この枠組みに関する合意成立後6カ月以内に開催される。

協議は,適当な場合には既存の場を活用して行われ,この枠組みにおける対話を促進するために必要に応じて作業部会を設けることができる。全ての関係省庁が参加する。

2年後に,両国政府は,この枠組みにおける協議を1995年の秋以降延長するかどうかを決定する。

経常収支不均衡の縮小に向けた進展およびその他のマクロ経済問題に関する最新の状況が,年2回行われる首脳会談の際の発表に含まれる。進展振りは,首脳会談に先立つ会合においてもレビューされる。現在も進められている話合いは,G7のプロセスおよび中央銀行間の対話を基軸とするが,経済諮問委員会と経済企画庁との間の討議のような両国政府間の他の接触がこれらの関心事項を討議する機会を提供する。