[文書名] 沖縄米軍基地問題に関する沖縄県の立場,基地問題に関する大田沖縄県知事の県議会での答弁
○知事(大田昌秀君) 具志孝助議員の御質問にお答えいたします。
まず、改めて3事案に対する基本姿勢を聞きたいという御質問でございます。
県としましては、日本政府からの指示のあった2つの事案については国が関係市町村に説明しているところであり、その話し合いの推移を見守りながら地元市町村等の意向、地域の開発計画、県全体の振興開発等にも配慮しながら総合的な観点から対応していきたいと考えております。
県道104号線越え実弾砲撃演習については、全面廃止の実現に向けて日米両国政府に対し強く働きかけてきたところであり、また今後とも働き続けてまいりたいと考えております。
同じく3事案との関連で、現実的な対応をしなければ問題の解決にはならないと言っているが、現実的対応とは何かという趣旨の御質問でございます。
基地問題は国際間の条約もあり、その解決は極めて困難な要素が多いことから、基地のない平和な沖縄県を目指すという理念を大事にしながら、事柄の性質上問題を一挙に解決するのは極めて困難なので、できることから一歩一歩着実に問題の解決を進めていくことが現実的対応だと考えております。
次に、県道104号線越え実弾砲撃演習の廃止は、他の2つの事案に優先して解決すべき問題であると考えるがどうかという趣旨の御質問でございます。
地域の産業振興及び県民生活の安定を図る上で重要でかつ所在市町村や地主から返還要望も強く、また跡地利用計画の策定状況等を総合的に勘案して当面の重点課題として3事案を位置づけたところであり、それぞれが重要な事案であると考えております。
しかし、県道104号線越え実弾砲撃演習の廃止については県民の生命及び財産にかかわることもあり、また県民のコンセンサスも一致しており、でき得れば他の事案に比べて優先して進めてもよいのではないかと考えております。
………
県道104号線越え実弾砲撃演習につきましては、ニューヨークの現地時間9月27日に開催された日米安全保障協議委員会において、在日米軍の駐留経費に関する特別協定が日米両国間で正式に合意されました。
新特別協定には、米軍の訓練移転費を日本側が新たに負担することが盛り込まれており、これによって長年県民が待ち望んできた県道104号線越え実弾砲撃演習の解決に向け動き出してきたものと受けとめております。したがいまして今後とも全面的な廃止の実現に向けて日米両国政府に強く働きかけていきたいと考えております。
それから、日米地位協定との関連で、地位協定の見直し問題に関する政府の見解について聞きたいという趣旨の御質問にお答えいたします。
9月19日に地位協定の見直しについて外務大臣に要請した際、今回の事件に関して米側は捜査に十分協力すると言っているので17条5項(c)が実際上非常に障害になっているわけではないとの返事がありました。
そこで私は、単にこの問題は運用上の問題ではなく主権国家としての問題であると申し上げ、見直しを要請いたしました。
次に、知事は児童暴行事件に関し要請活動を行っているが、代理署名問題とのかかわりはどうなっているかという趣旨の御質問にお答えいたします。
児童拉致暴行事件は、県民に大きな衝撃を与え新たな不安を招くものであり、許されるものではありません。今回の事件と土地調書・物件調書への立ち会い、署名押印については基本的には別個の問題であると思いますが、結果的には何らかの影響を受けざるを得ない側面もあるものと考えております。
それから、駐留米兵の犯罪は本県に限った問題ではないと、これを契機に基地所在の関係都道府県に対し地位協定見直しの共闘組織の結成を呼びかけるべきだと考えるがどうかという趣旨の御質問にお答えいたします。
県としましても、今回の事件の重大性にかんがみ、米軍基地を抱える渉外関係主要都道県知事連絡協議会の会長県である神奈川県に対し、同協議会においても米軍の綱紀粛正の徹底や地位協定の見直しについて政府に申し入れてほしいと要請したところであります。現在、神奈川県が渉外知事会を構成する各都道県の意見の取りまとめを行っているところであります。
それから、代理署名問題との関連で、代理署名問題について知事の所見と決断のタイミングを聞きたいという趣旨の御質問でございます。
沖縄の米軍基地の多くは、戦後米軍が地主の同意も得ないまま強権的に接収し構築してきた歴史的経緯があります。
また、国土面積のわずか0。6%にすぎない本県に全国の米軍専用施設の約75%が集中し、県や地域の振興開発を図る上で著しい障害となっております。とりわけ実弾砲撃演習は地域の環境破壊をもたらしているほか、飛行場周辺の住民は絶えず航空機騒音にさらされ、一歩間違えば大惨事につながりかねない航空機事故の頻発に不安を抱いています。その上、基地周辺の市町村では米兵によるいろいろな犯罪や事件の発生におびえています。
私は、いわゆる冷戦構造が崩壊し、ようやく基地の整理縮小が進むものと期待していましたが、去る2月に米国防総省が発表した東アジア戦略報告によれば、極東における米軍駐留は当面10万人体制が維持されるとなっております。
あわせて、この11月に行われる村山総理大臣とクリントン大統領の会談では、日米安保条約の再評価が行われ、日本の米軍基地をよりグローバルな視点から運用を見直すのではないかと言われています。
これらのことから、21世紀にわたって沖縄の基地機能が強化され、基地が固定化されるのではないかと強く危惧しております。
私は、このような沖縄の基地を取り巻く背景及び諸般の状況を踏まえたとき、今回の土地調書及び物件調書への署名押印は極めて困難であるとの考えから、国に対して署名押印はできない旨通知をすることにしています。
なお、前回と今回はどう違うかという趣旨の御質問もありましたのでお答えしますけれども、前回私は強制使用に関する公告縦覧には反対するという趣旨の公約をいたしましたけれども、行政に入ってまだ間もない十分に行政になれていないということもありまして、実際に中に入ってみますと私が考えていたよりも非常に厳しい状況がございました。さらに第3次振計の設定の問題とかいろいろな課題を抱えておりましたので、自分の公約を破る形で公告縦覧に応じたわけでございます。
それを踏まえて知事が誠意を持って国の政策に協力してくれたので、国としても基地問題の解決については誠意を持って対応したいという趣旨のコメントがございました。
そうした経緯を踏まえて今回の状況を見ますときに、県民感情の問題とか、それから現在基地問題の解決がそれほど進んでいないという状況、さらに一番懸念されるのは21世紀にわたってこの基地が固定化され強化されるということに対する不安を強く抱いております。
私は、2期目の知事選挙の際に、若い人たちが21世紀に向けて希望の持てるような平和な沖縄をつくりたいという趣旨の公約を掲げたわけでございますが、そういった背景も踏まえまして今回はこれまで4年間基地問題の解決に取り組んできまして、スタッフの方も国との対応の問題、それから現実的な基地解決の問題について重々承知しておりますので、慎重にも慎重を期してあらゆる角度からスタッフとも相談をし検討した結果、応じることはできないというふうに最終的に判断したわけでございまして、そういった意味で前回の場合とは違いますので御理解いただきたいと思います。