[文書名] 米国の規制緩和及び競争政策等に関する日本国政府の要望事項
米国の規制緩和及び競争政策等に関する日本国政府の要望事項
橋本総理(当時)とクリントン大統領は、1997年6月のデンヴァーサミットの際の日米首脳会談時に発出した共同声明において、規制緩和に関する「強化されたイニシアティブ」の開始を発表した。それ以降、「強化されたイニシアティブ」は日米両国政府が各々取ってきた規制緩和に関する措置及び政策の促進に役立ってきた。本年7月、森総理とクリントン大統領は、両国政府が成し遂げた進展に基づき、沖縄における日米首脳会談において、「強化されたイニシアティブ」を更に1年継続することを確認した。
21世紀の幕開けを迎え、日米両国の経済活動の性格は、一層越境的かつ相互依存的となっている。よって、このような経済活動を如何に国際的な規範と調和・調整していくかが、両国が現在直面している主要な課題の一つである。
この関係では、米国が今日享受しているかつてない経済成長から、米国の経済システムに改善の必要はないとの結論が自ずと導き出されるものではない。米国の規制・制度の中には、例えば、(1)米国特有であり、国際基準に調和していないもの、(2)自由貿易の理念に反するもの、(3)公正な競争を阻害するものがみられる。これらの中には、米国で業務を営む日本企業に不合理な負担を課し、これらの日本企業の業務活動の障害になっているものも多い。米国の経済システム及び基準に起因するこのような損失は、日本のみならず他の国にとっても無視できないものとなっている。米国政府が用いる様々な一方的措置もこうしたものの典型例である。これらのいくつかは、保護主義の隠れ蓑であり、貿易自由化の理念に反している。また、これらの措置のWTOルールとの整合性も疑わしい。
このような背景のもと、日本国政府は、「強化されたイニシアティブ」の下での4年目の対話を開始するに当たって、米国政府に対して、規制緩和及び競争政策等に関する要望書を提出する。日本国政府としては、今後行われる議論において、適切と思われる様々な場において、米国政府の政策の改善や更なる規制緩和を本要望書を十分反映させる形で幅広く取り上げ、また、要望していく方針である。
米国は世界全体の生産の約30%を占めており、世界経済の成長及び経済調和の促進や開かれた多国間貿易システムの強化において、指導的な役割を有している。したがって、日本国政府としては、米国政府が以下の要望事項につき真剣に検討し、デンヴァーにおける首脳会談の際の共同声明において日本国総理と米国大統領によって確認された双方通行の対話の原則に基づき具体的な成果を上げることが、規制緩和対話を成功に導くために不可欠であると確信している。
I. 規制緩和・競争政策等
日本国政府は、米国政府が、第3回共同現状報告における米側措置を誠実に履行し、就中、日米間で個別の対話の場の設置を決定した事項については、早急に日本側と対話を開始することを求める。日本国政府はまた、これらの会合の結果もふまえ、米国政府が改善に向けてどのような対応を取るかにつき明らかにするよう求める。
1. 貿易・投資関連措置
(1)アンチダンピング措置
(a)米国政府が、AD措置の運用改善を図るため、WTOにおいて、AD協定の規律の明確化と強化について、積極的に議論に取り組むことを求める。その結果については、本規制緩和対話で確認していただきたい。
(b)現在米国議会にて、アンチダンピング税及び相殺関税による収入を、訴えた米国内の生産者に配分することを内容とする法案が、2001年農業歳出法案に付加される形で審議されている。本法案が成立すれば、配分を目的とした米国内生産者によるAD提訴の増加を招くおそれがあり、又、WTOルールとの整合性についてもわが国として懸念を有している。日本国政府は米国政府に対し、議会に対し本法案が成立しないよう働きかけ、仮に成立した場合には拒否権を発動するよう求める。
(2)ヒルマードクトリン
(a)日本を含む工業所有権に関するパリ条約の締約国では、パリ条約第4条の規定に基づいて、特許の出願人が同条約のいずれかの同盟国における出願の日(以下「第一国出願日」という)から12ヶ月の期間内に他の同盟国において出願するときには、第一国出願日を特許阻害事由発生日としているが、米国では、判例により、第一国出願日は、特許阻害事由発生日とはならないという運用(ヒルマー・ドクトリンと呼ばれる)が確立している。したがって、他者が優先期間内に米国で出願した競合する内容の後願に特許権が付与される可能性があり、後願特許権者による権利行使の懸念が事業化投資の阻害要因となっている。こうしたことから、米国政府に対し、ヒルマー・ドクトリンに基づく米国特許法の解釈・運用の廃止を求める。
(b)更に、昨年11月に米国特許法102条eが改正され、特許協力条約(PCT)に基づき出願される国際出願のうち、「英語」で国際公開されるものについては、その国際出願が国内段階に移行した後は、国際出願日が特許阻害事由発生日となることとされた。一方、日本語等の非英語で国際公開されるPCT国際出願は、米国のヒルマー・ドクトリンに起因するPCT第64条(4)の留保規定により、国内段階移行日が特許阻害事由発生日となるため、日本企業にとって大きな不利益となっている。したがって、米国政府に対し、PCT第64条(4)に基づく留保の撤回及び言語による格差の撤廃を求める。
(3)エクソン・フロリオ条項
エクソン・フロリオ条項(1950年国防生産法第721条)は、国家安全保障を損なうおそれのある直接投資につきレビューし、大統領が必要と認める場合には、そのような投資を制限する
メカニズムを提供するものである。日米両国政府は、「強化されたイニシアティブ」の下での日米規制緩和対話において、政府による規制の透明性と予見可能性についての議論を継続してきている。透明性と予見可能性は、日米規制緩和のプロセスを貫くテーマである。競争力のある企業が公正な条件で活動を行うために、企業が規制者の対応が予見できるようにすることは不可欠である。このような観点から、日本国政府は本件に関しても米国政府との対話を行ってきている。
米国政府は、今後のエクソン・フロリオ条項の運用に当たり、「国家安全保障」の概念を過度に拡張することなく、対米外国投資委員会(CFIUS)への通知から大統領の決定に至るまでの過程における透明性及び公平性を最大限確保するための措置を講じて頂きたい。
2. 制裁法
(1)対イラン・リビア制裁法及びヘルムズ・バートン法(対キューバ制裁法)
(a)対イラン・リビア制裁法及びヘルムズ・バートン法に基づく制裁措置は、一般国際法上許容されないような国内法の域外適用になりうるのみならず、WTO協定との関係で問題となるおそれがある。米国政府は、国際法との整合性を確保しつつこれらの制裁法を慎重に運用して頂きたい。特に、第三国の企業に対するこれらの制裁法の適用は差し控えて頂きたい。
(b)また、イラン・リビア制裁法に関しては、米国企業の中にも否定的な態度をとる企業が存在する。1998年5月に3社によるガス田開発投資契約につき本法の適用の免除が決定されたのと同様、日本を含む他のいかなる国の企業が同法の対象となる投資を行った場合にも適用が免除される旨を明らかにして頂きたい。
(2)地方政府による制裁法
(a)2000年6月19日のマサチューセッツ州ミャンマー制裁法に対する連邦最高裁における全員一致での違憲判決は、個々の州の通商関連立法に伴い民間企業が直面する参入障壁の除去につながる意味で評価される。対外関係に関し連邦法が専占する領域に係わる州法は違憲であるとした判断は、将来の州立法に対する抑止力になったと評価できる。
他方で、マサチューセッツ州ミャンマー制裁法以外にも、日本企業を含む外国企業及び米国企業にとって政府調達に係る入札への参入障壁となっている米国各州・市・郡のレベルの制裁法が存在している。
米国連邦政府は、全ての州・地方政府に対し、マサチューセッツ州のミャンマー制裁法に対する連邦最高裁判所の違憲判決を指針として、地方レベルでの制裁法は連邦の外交政策と整合的でなくてはならない旨、日本国政府が地方レベルでの政府調達に関する制裁法について民間企業が被る事業機会の喪失の観点から引き続き懸念を持っている旨、及び、WTO政府調達協定の適用対象となる地方レベルでの政府調達に関する法令については、同協定との整合性が確保される必要がある旨の文書を発出する等の具体的な行動を取って頂きたい。
(b)先般カリフォルニア州議会を通過し、9月30日付で州知事が署名した法案(SB1888)は、強制労働等によりまたは強制労働の利益を基に製造された外国製品を州政府調達から排除することを目的として、納入事業者に対して強制労働等により製品が生産されていないことについての挙証責任を課している。別途連邦法(1930年スムートホーリー法)で強制労働等に基づく製品の輸入禁止が規定されているにも関わらず、通関後に改めて証明義務を課されるのは事業者にとって二重負担であり、日本企業にとっても過大な負担となることとなる。
連邦政府として、カリフォルニア州政府に対して日本国政府の懸念について伝達するとともに、本法の廃止に向けた方策について検討して頂きたい。
3. 流通
(1)輸入通関手続
米国政府が、入港から許可まで及び申告から許可までの各段階における所要時間を明らかにするべく、APEC税関手続き小委員会(SCCP)において検討中の通関所要時間調査に参加することを決定したことについては、日本国政府として評価している。他方、SCCPにおける調査の開発には長時間を要する可能性があるため、その場合には1990年6月の日米輸入手続専門家会合の結果に基づき日本が行っているのと同様の調査を米国も実施することを検討して頂きたい。
(2)1920年商船法(ジョーンズ法)
(a)ジョーンズ法に基づく一方的制裁措置
1920年商船法(ジョーンズ法)第19条(1)(b)により、外航海運に影響を与える規則を策定する権限が、米国連邦海事委員会(FMC)に対し与えられている。FMCは、1997年9月に我が国船社に対し一方的制裁措置を発動し、昨年5月に撤回したものの、引き続き日米船社に対して我が国港湾の状況をFMCに報告するよう要求している。当該制裁措置の根拠となったFMC規則(同規則は、昨年5月に撤廃された。)は、相手国船舶に対する最恵国待遇、内国民待遇の付与等を規定した日米友好通商航海条約に違反するものであった。連邦政府として、FMCに対する働きかけを強化する等により、このような一方的制裁措置が行われることがないよう確保していただきたい。
(b)内航商船に関する規定同法は、米国の内航海運に従事する海運事業者は、米国で建造された船舶によって営業を行わなければならないと規定している。造船市場の公正な競争条件確保の観点から、本規制の早期撤廃を要望する。
(3)新運航補助制度(MSP)の廃止
毎年1億ドルの運航補助を10年間にわたって実施するという巨額の補助金の投入が、国際海運市場における自由かつ公正な競争条件を歪曲することは明らかであることから同プログラムの廃止を要望する。
(4)アラスカ原油輸出禁止解除法を含む各種貨物留保措置の撤廃
商業貨物であるアラスカ原油輸出についての米国籍船使用の義務付けに代表される各種の貨物留保措置は、内国民待遇の原則に反する保護主義的性格が強いものであり、交渉期間中は新たな保護主義的措置を導入しないとするWTO海運継続交渉に関する閣僚決定にも反するので撤廃を要望する。
(5)1998年外航海運改革法
同法には、我が国を含む外国海運企業を米国海運企業と差別し、その運賃設定のあり方(PricingPractice)等について一方的な規制を可能とする規定が含まれている。そもそも運賃設定のあり方は、商業ベースの自由な海運活動の基本であり、FMCが一方的にその規制を行うことは、自由な海運活動への介入及び外国海運企業のみに対する差別的な介入にほかならない。1998年同法の改正により、ことさら運賃設定のあり方に対する介入が明文化されたところ、今後FMCがマーケットの実情を無視して我が国を含む外国海運企業による商業ベースでの海運活動を一方的に規制することのないことを確約されるよう要望する。
(6)酒類販売免許
第3回共同現状報告には、「米国政府は、日本の焼酎を含む輸入アルコール飲料の販売に関し、カリフォルニア当局が関連のWTO及び他の諸規則を認識することを確保するために、カリフォルニア州との対話を継続する」と記述されている。連邦政府がカリフォルニア州との対話を継続し、関連州法の規定の改正のための具体的行動をとるよう求める。
4. 競争政策
既存の反トラスト法の適用除外制度について競争政策の積極的推進の観点から、その削減に努められたい。特に、競争当局(司法省反トラスト局及び連邦取引委員会)は、適用除外制度の削減のために積極的に提言を行うほか、関係省庁及び議会に対し積極的に働きかけを行うこととされたい。また、州レベルでの反トラスト法適用除外制度についても、その見直しを積極的に進めていくべきであり、連邦政府は必要に応じて見直し作業に協力することとされたい。
5. 法律サービス及びその他法律関連事項
(1)外国弁護士の受入
(a)外国弁護士の受入の全州への拡大
米国においては、外国弁護士を受け入れている州は24の州・区に過ぎず、その他の州においては、外国弁護士が開業することが許されていない。かかる現状は、米国内における多様な法律サービスの提供を制限するものである。日本国政府は、米国連邦政府が全ての州が外国弁護士についての規則を採用することを支持していることを、国際ビジネスの促進等の観点から歓迎しており、外国弁護士の受入れを全州に拡大するため、連邦政府の更に積極的な行動を求める。
(b)外国弁護士の受入れの要件としての職務経験期間の短縮外国弁護士の受入制度を設けている州・区においても、確認されている限りでは、すべての州・特別区が職務経験要件の制度を設けている。多くの州ではその要件を5年以上としており、米国で外国弁護士が開業する際の障壁となっている。日本の外国弁護士受入れ制度においては職務経験期間は3年で足りるとされている。外国弁護士受入れの要件とされる職務経験年数を短縮し、全ての州において3年とするため、連邦政府は、各州政府に申し入れをするなど所要の措置を取られたい。
(c)外国弁護士の受入れ要件としての職務経験期間の申請直前要件の廃止
外国弁護士の受入れ制度を設けている州・区において要件とされている職務経験期間に関して、確認されている限りでは、申請直前の職務経験のみが算入できることとされている。かかる直近要件は、日本の外国弁護士受入れ制度では課されていない。外国弁護士の受入れ要件としての職務経験期間を申請直前の職務経験に限定しないものとするため、連邦政府は、各州政府に申し入れをするなど所要の措置を取られたい。
(d)外国弁護士の受入れの要件としての第三国における職務経験期間の算入外国弁護士の受入制度を設けている州・区のうち、第三国における職務経験の算入を認めていることが確認されているのは2州に過ぎない(ニューヨークとインディアナ)。日本の外国弁護士受入れ制度においては平成10年の法改正後、第三国において法律事務を行う業務に従事した期間も算入できるようになっている。外国弁護士としての職務経験地について、全ての州において第三国における職務経験を算入できるようにするため、連邦政府は、各州政府に申し入れを行うなど所要の措置を取られたい。
(2)製造物責任法
米国における製造物責任(ProductLiability)法は、米国で活動する企業に対し多大な訴訟費用負担を生じさせ、在米日本企業の活動にとって過大な負担となっているのみならず、米国産業の国際競争力にも影響を与えている。米国連邦政府が、不法行為法改革の一環として、各州で進められている製造物責任の緩和を支持し、また、連邦レベルにおいても賠償額の一定の制限や時効の短縮などの製造物責任の緩和に向けた動きを推進することを求める。
6. 領事事項
(1)H-1Bビザ
H-1Bビザは、一般的に最低でも学士号相当以上の学歴を持つ特殊技能者を対象としたビザであり、公認会計士、コンピューター・アナリスト、技師、財務アナリスト、科学者、建築士、弁護士等の様々な職種を対象としている。H-1Bビザの発給は総枠で制限され、発給手続も長期間を要するため、日本企業からの適切な人員派遣が困難となっている。また、専門知識、専門技術を有する外国人の人材の雇用を希望するハイテク産業を中心とする米国企業にも発給の拡大の希望がある。日本国政府は、昨年より、米国政府に対し、H-1Bビザの発給総枠の拡大を要請してきた。日本国政府は、本年10月、米国上院及び下院にて、2001年度から2003年度までH-1Bビザの発給総枠を19万5000人に拡大する21世紀米国人競争力法案(S2045)が可決されたことを歓迎している。日本国政府は、本法案の速やかな成立及び同法の円滑な実施を強く期待する。米国連邦政府は、(i)同法案成立による発給総枠の拡大後、発給手続に遅延が生じることがないようにするため、また、H-1Bビザ発給手続の短期化・簡素化及び予測可能性・透明性を向上させるため、発給手続の標準処理期間を設定し公表することを検討して頂きたい。(ii)また、「強化されたイニシアティブ」の第三回共同現状報告に記述されているプロセスの改善及び手続全体の簡素化のための可能な措置についての検討の現況を明らかにして頂きたい。
(2)F-1ビザ
米国移民法改正(1996年9月)により、公立の中・高等学校の生徒については、残りの就学期間が1年以内でかつ学費を全額支払った場合を除きF-1ビザが発給されないこととなった。外国人駐在員の人事異動の時期とその子弟の学校のスケジュールは必ずしも一致せず、日本においては義務教育が中学校までであるためにこの改正は外国人駐在員の子弟に不当な負担を課している。この問題で、個別のケースにつき各種の救済措置がとられていることは評価できる。日本国政府は従来より本件につき米国政府に対し改善を求めてきている。過去1年間の間に高等学校の生徒のF-1ビザについて寄せられている要望も踏まえ、日本国政府としては、改めて次のことを要望したい。米国政府が「強化されたイニシアティブ」の第二回共同現状報告においてコミットしている検討において、(i)学費の支払いの義務化を廃止し、また、(ii)公立高校をあと3年以内に卒業見込みの生徒が卒業できるようにするため、1年間の在学期間制限を3年間とすることの2点を検討して頂きたく、(iii)右検討結果を2001年3月末までに明示して頂きたい。更に、(iv)公立中学校の生徒に関しても、学費支払い義務化の廃止及び1年間の在学期間制限を2年間とすることを検討して頂きたい。
(3)滞在許可証(I-94)
連邦移民帰化局(INS)におけるI-94の延長申請は期限4ヶ月前からしか受け付けないこととなっているが、申請受理から発給までの所要期間がそれを上回っている例が多い。その所要期間はケースにより様々であるが、例えば、ロス・アンジェルスでは8・10ヶ月程度かかるのが通例となっている。また、その所要期間は延長申請時点では予測できない。このため、期限切れ前に一度帰国し、新たなI-94を取得して再入国することを強いられている日本人駐在員が多く存在している。
また、連邦移民許可局(INS)が行うI-94発給の遅延は、I-94の提示を必要とする他の手続においても深刻な影響を生じさせている。例えば、カリフォルニア州では、州の自動車局(DMV)が運転免許証更新申請者の滞在の合法性を主としてI-94によって確認しているため、I-94の延長申請を行っている間は合法的滞在者であっても運転免許証の更新ができない。この制度下でI-94の延長手続に遅延が生じると、それは合法的滞在者が運転免許を更新する際の大きな障害となる。
このようにI-94の延長申請制度は正常に機能していないために、合法的滞在者に不当な負担を課しており、抜本的改善が必要である。(i)連邦移民帰化局は、延長手続の短期化・簡素化及び予測可能性・透明性の向上のため、全米一律の延長手続の標準処理期間を設定し公表して頂きたい。(ii)また、本件につき抜本的な改善が図られるまでの間の暫定的措置として、I-94の延長申請を期限1年前から受け付けるよう関連規制を改正して頂きたい。
(4)社会保障番号
1996年2月の米国社会保障局の規則改正により、労働許可ビザを持たない外国人の居住者には社会保障番号が発行されないこととなったが、運転免許証やクレジット・カードの発行、銀行口座の開設、住居の賃貸契約等の際には社会保障番号の提示が求められるため、日本人駐在員の扶養家族が不利益を被っている。本件に関しては、過去1年の間に抜本的改善に向けた措置はとられていない。社会保障局は、(i)合法的滞在者が社会保障番号を取得できるよう規則を改正して頂きたい。それが不可能な場合には、(ii)民間企業に対し、社会保障番号の発行の制限に関する規則改正につき周知徹底し、社会保障番号を取得していない合法的滞在者が差別的な扱いを受けないよう指導するための措置を取って頂きたい。
(5)運転免許証
I-94や社会保障番号等の要件によって運転免許証の新規取得や更新に困難を持つ合法的滞在者の要請に対応するため、社会保障局が引き続き日本国政府と議論を継続し、必要な情報提供を行うことを求める。
II. 住宅
以下の4点について、連邦政府としてどのような対応を行うか回答いただきたい。
(1)建築基準における要求水準の明確化
2000年8月にICC(International Code Council)が、建築規制に関する全国共通に適用されうる基準としてICC Performance Code for Building and Facilitiesの最終案及びIBC(International Building Code)を発表した。しかしながら、これらの基準は、具体的な性能水準及びそのための評価方法を明らかにしておらず、性能規定化が十分に達成されていない。より合理的かつ円滑な運用を図るため、要求性能水準を具体的に明示すべきである。
(2)試験方法の国際標準との調和
不燃性試験の方法(IBC Chapter 7 section 703 Fire Resistance Rating and Fire Tests 中 ASTM E136)を国際標準(ISO5660)と整合するよう変更されたい。
(3)建築部材の相互認証
米国において、日本国内の指定性能評価機関が行う建築部材の試験及び評価については、米国の評価機関(例えばICBOEvaluationService,Inc)と同様の扱いを受けるよう措置されたい。あるいは、日本の試験機関が行った試験の結果について、米国の評価機関が受け入れて評価することができるよう措置されたい。
なお、日本においては、2000年6月の改正建築基準法の施行により、建設大臣が承認した海外の試験・評価機関が、試験・性能評価等を行う認証制度を法律上措置したところである。
(4)メートル法(SI単位)の採用
1992年の日米構造協議第2次年次報告におけるコミットメントのとおり、米国内の建築に係る規格、基準においてもメートル法(SI単位)に統一されたい。
III. 電気通信
(1)無線局免許に対する外資規制の撤廃
米国は、連邦通信法第310条において、無線局免許における直接投資20%の規制を維持している。このため、例えば、我が国事業者が衛星を利用した米国との国際通信サービスを提供するにあたり、米国に設置された地球局の無線局免許を取得しようとしても不可能であり、柔軟なネットワーク構築が困難となっている。
米国政府は、連邦通信法第310条に掲げられた、電気通信業務を行うことを目的として開設する無線局免許について日本と同様に外資規制を撤廃されたい。
(2)外国事業者等の米国市場参入に関する審査基準米
国政府は、外国事業者等の米国市場参入にあたっての審査基準として、「公共の利益」の要素としての「通商上の懸念」や「外交政策」、及び「競争に対する非常に高い危険」といった裁量の幅の広い基準を採用している。これらの基準の存在は、我が国を含む外国の事業者にとって、将来にわたる懸念となっている。
とりわけ、「通商上の懸念」及び「外交政策」との基準は、電気通信政策と関係ない事項を理由とした認証拒否も可能とするものであり、撤廃されたい。
また、「競争に対する非常に高い危険」という基準については、発動にあたっての運用基準を明確にし、公表されたい。
(3)WTOサービス貿易協定(GATS)の誠実な履行
本年の米国議会に提出され、上院歳出委員会を通過したホリングス法案は、外国政府が25%以上出資する企業に対するFCC免許の付与等を禁止することを規定している。このような法案は、当該企業の米国電気通信市場での事業運営を不可能にし、或いは著しく阻害するものであり、また、GATSに違反するおそれが大きい。米国電気通信市場の更なる自由化と競争の進展に向け、このような法案に対しては、米国政府として成立阻止のための行動をとることとされたい。
(4)州レベルの規制
米国政府は、州ごとに異なる免許申請手続等による申請者の過度の負担を解消するために、全米公益事業委員協会(NARUC)に対し、2001年中に事業申請書の様式並びに事業免許取得後の報告事項及び報告様式の統一等の措置が取られるよう積極的に働きかけられたい。
(5)州際アクセス・チャージ
FCCは、新しいアクセス・チャージが最新のLRICモデルにより算定される範囲内にあることを確保するために、2002年末までにLRICモデル自体を見直すとともに、入力データを最新のものにアップデートされたい。その上で、モデルから求められる数値が0.55セントを下回った場合には、直ちにアクセス・チャージをLRICベースの水準に引き下げられたい。また、FCCは、FCCが開発したものと否とを問わず、接続料等の費用算定に適用するいかなるLRICモデルについても、透明性及び意見招請の機会を確保されたい。
さらに、我が国と同様に、米国におけるLRICモデルについて、法的な裏付けを確立されたい。
(6)インターネットサービスに係る国際回線費用負担の在り方
米国政府は本年9月から10月にかけて開催されたITU世界電気通信標準化総会(WTSA-2000)において採択された勧告(勧告
D. iii)を留保しているが、直ちに本勧告を適用されたい。
米国政府は、インターネットに係る国際回線費用負担の是正を図るために、APECで行われる調査や議論に対し積極的に参画することとし、米国内に支配的事業者あるいは事実上の独占状態が存在するかどうか判断するために必要な、競争の状況に関するデータを、APECの場に提供されたい。
(7)ベンチマークに関するFCC規則
WTSA-2000において、国際計算料金引下げに向けた勧告(勧告D.140付録E)及び最新の市場データを用いて計算料金の目標値を更新し、同勧告の補遺(Supplement)とすることを求める決議(決議[X9])が採択された。米国政府は、このようなマルチの会議で形成された合意を尊重するとともに、単独で一方的に決めている(A)国際精算料金に関するFCC規則、及び、(B)外国事業者の米国市場参入に関するFCC規則パラ179・214を削除されたい。
IV. 医療機器・医薬品
(1)医薬品及び医療用具のGMP相互承認
製造品質管理の確認に関する事務が効率化し、米国にとっても日本の米国向け輸出業者に対する査察の負担を軽減する「医薬品・医療用具GMP相互承認」に向けて両国政府間の更なる実質的な協議を開始したい。
(2)GCP相互承認
承認申請資料のGCP適合性の確認に関する事務が効率化され、新薬承認のための審査期間短縮にもつながる「GCP相互承認」に向けた両国政府間の更なる実質的な協議を開始したい。
(3)生物学的同等性試験の実施の合理化
米国FDAのガイドラインにおいて規定されている生物学的同等性試験を人について実施することに関し、軽微なものは実施を求めないように、運用を合理化して頂きたい。
(4)治験薬輸出の際の手続きの改善
日本に対して治験薬を輸出する際に、日本国政府発行の確認書の提出を在米治験薬輸出業者を通じて在日輸入企業に要求することがあるが、当該手続きを廃止するなど手続きを改善して頂きたい。
(5)医療用具に関する在米輸入業者による在日製造業者評価の合理化
医療用具については、FDAが日本国内の製造業者に対してQSR監査(audit)を行う手続きがあり、日本製造業者に二重の負担を課していることが問題となっているので、在米の輸入業者が日本の製造業者を評価するという規制について緩和して頂きたい。
(6)タール色素におけるバッチ毎の認証制度の改善
米国に輸入される化粧品に含有されるタール色素成分をバッチ毎にFDAが直接認証する制度を緩和して頂きたい。
V. 金融サービス
1. 銀行関連
(1)1999年11月に成立した金融制度改革法(グラム・リーチ・ブライリー法)に基づき、FRBは、外国銀行が金融持株会社(FHC)としてのステータスを得るための手続きについてのレギュレーションを実施している。(このルールは、FRBの暫定ルールとして2000年3月から既に実施されており、コメント受付後、それを修正したファイナル・ルールが出される予定である。コメント受付期間は、2000年4月17日まで。)その中で、以下の点が外国銀行にとって不公平であると考えられる。
(i)米国独特の規制であるレバレッジ・レシオを外国銀行にも課していること
(ii)米国銀行に対しては傘下の預金取扱い機関のみに所要自己資本規制が適用されるのに対し、外国銀行に対しては所要自己資本規制が連結ベースで適用されること(iii)米国銀行は、一定の要件を満たしていれば「自動的に」FHCとなることが可能であるのに対し、外国銀行に対しては、「外国銀行はFHC傘下の米国銀行と同等の所要自己資本を充足すること」との要件が課されており、「well capitalized」の要件に関しFRBの裁量権限が大きいこと
実際に、FRBからFHCとして認可を得た金融機関は、米国銀行持株会社が283社にのぼるのに対し、外国銀行は15社に止まっている。(2000年6月8日現在)ついては、以下の措置を取って頂きたい。
(a)外国銀行に対してはレバレッジ・レシオを適用しないこと
(b)外国銀行(預金取扱機関以外の機関を含む連結ベース)に要求される所要自己資本比率を米国銀行によるFHC(預金取扱機関のみの連結ベース)の所要自己資本と整合的な内容とすること
(c)well capitalizedの基準を明確化し、FRBによる裁量が入る余地をなくすこと
(d)資本の充実性の判断に際し公的資金に依存しているか否かを考慮すると聞いているが、
株主の性格によって資本性に差を設けていないバーゼル合意の考え方にしたがって、公的資金に依存していることを理由に不利な取扱いはしないこと
(2)銀行系証券会社に認められていない株式・社債の引受・自己売買業務の認可を含む銀行業務と証券業務の分離規定(旧 Section20)を見直して頂きたい。
(3)FHC以外の銀行持株会社が、非適格証券業務に従事する証券子会社を保有しようとする場合、所謂セクション20申請が必要となる。FRBはこの認可条件として、厳格な自己資本比率基準等を課している。
外国銀行についての基準として、銀行持株会社法の1970年修正法に基づくレギュレーションYは、“A foreign bank that operates a branch or agency in the United States shall maintain strong capital on a fully consolidated basis at levels above the minimum levels required by the Basle Capital Accord”と定めている。しかし、実際の運用では、外国銀行に対して米国銀行に適用するのと同じ自己資本比率算定に関する規定を準用するといったバーゼル合意からかけ離れた運用を行う例がみられる。ついては、外国銀行に対し、バーゼル合意に基づく国際基準に合致した運用を要望したい。
(4)支店別利子税が課されているが、撤廃されたい。
(5)外国銀行の支店の本支店間貸借がネット支払超となった場合にみなし源泉課税が課されているが、撤廃されたい。
(6)例えばニューヨーク州銀行法により、米国内で外国銀行が資金調達を行う場合、一定金額の担保を保証金として当局に差入れる必要がある。当局は適格担保の条件として、CD・CP等の高い流動性の債券を要請しているが、これらの債券については本来他の資産で高い利回りの運用ができるにも関らず、この要請を満たすために本担保差入れに用いなくてはならないため、相当額の機会費用が発生している。また、手続に係る負担が大きく、差入債券の価格変動リスクが生じるといった問題もある。また、在米外国銀行協会の調査によれば、営業保証金として「外国銀行による資産担保差入れ」は、調査対象となった四十数カ国の中で米国及びカナダだけが義務づけているものである。ついては、「外国銀行による資産担保差入れ」を廃止していただきたい。廃止できないのであれば、適格担保の条件を緩和し、例えば通常の貸出債権を含める等、外国銀行の対応に柔軟性を与えて頂きたい。
2. 証券関連
(1)日本から米国への転勤に際し、米国において証券業に携わろうとすれば、基本的にシリーズ7試験に基づく登録外務員としての資格を取得している事が必要である。
但し、テキストのカバーしている範囲の広範さと時間的な制約等により、合格までに一定の集中的な準備期間が必要である。したがって、日本では外務員有資格者でありかつ適切な査証を持って米国に駐在した者であっても、直ちに営業活動を開始することができない。それに加え、登録外務員資格保有者でない限り即戦力として使えないので、人事異動を考える際にも支障がでてくる。ついては、1996年3月に証券取引委員会(SEC)により承認された、日本の外務員有資格者を対象とした簡素化された試験であるシリーズ47試験が早期に実施されるよう要望する。
(2)現在、米国外務員資格を取得し登録外務員として米国内において証券業務を行っている者が、一定期間米国外に居住していた場合、外務員資格が消滅し、再度米国内において証券業務を行う際には、改めて資格試験を受講する必要がある。このことは、人事政策上の大きな負担となっている。
日本国内においては、一度外務員資格を取得し、登録外務員として証券業務に従事していた者は、再度資格試験を受験する必要はない。退職等により一定期間証券業務に従事しないこととなった場合であっても、日本において証券業務を再開する際に求められるのは、証券会社における一定の登録手続を行うことのみである。
米国においても、日本と同様の制度の導入を要望したい。なお、一定期間を経過したことにより、法令諸規制の緩和があり、当該改正に対応する研修等を受講する必要があることとなることについては、やむを得ないと考える。
(3)日本証券業協会の内部管理責任者が米国内部管理責任者資格(シリーズ24)を取得する際の軽減措置(試験免除または試験の簡略化)を許可願いたい。
(4)外国証券会社は、株式、債券等の米国外での募集であるにも関わらず、1933年証券法との抵触を避けるべく、レギュレーションSに定めるセーフハーバーを満たすために、常に届出書等に「米国内で募集を行っていない」旨を明記するヘッジ文言を付けることが求められている。米国内で募集行為を行う場合のみ登録・届出をすれば十分であるということを明確にしてもらいたい。
(5)SECルール144A付きで海外オファリングを行う場合、引受会社は米国法弁護士に、今回のオファリングが各州のブルースカイ法にかざして問題がないか否か、また、各州の投資家と約定することができるかどうかについて照会を行う必要がある。この照会の結果は、「当該州の法律上問題ない」旨を記した文書(ブルースカイメモ)として引受会社に提出される。SECルール144Aオファリングの場合には、引受会社は必ずブルースカイメモを受領しているわけではないものの、SECルールは、本件メモを受領しなくても良いかどうかについて明記していない。米国内における個人投資家を対象とせず、SECルール144Aに規定された適格機関投資家という限定されたマーケットを対象にする場合でも、引受会社が各州のルールに準拠する必要があるのは不合理である。ブルースカイ法と連邦証券法が抵触する場合は、連邦法が優先する旨の規定を設けて、ブルースカイメモを受領しなくても済むようにしてほしい。
(6)SECルール144A付グローバル・オファリングを行なうに当たって、発行企業に対する広報活動制限が存在している。例えば、以下のような活動には制約がある。
(i)発行会社がオファリング直前期から通常の広報活動を超えるメディア対応を行うこと
(ii)オファリング中や、そのクローズ後一定期間において(日本国内で利用する)目論見書を超えた内容のメディア発表を行うこと。このような活動は、米国内における勧誘またはオファーであるとみなされ、また、1993年証券法上の登録義務違反となる懸念があるため、発行会社はこれらの活動を差し控えているが、このような制限をする必要がないことを明確にしていただきたい。
(7)1940年投資会社法では、総資産の40%を超える額の投資証券を所有する会社を「投資会社」とし、米国SECの規制・管理の下におかれている。この規定により、米国で証券の発行を予定していたある会社が、持ち合い株を時価評価すると「投資会社」に該当してしまったため、米国での証券募集手続きと並行して、投資会社法の適用免除手続きを行わなければならないことがあった。そのため当初想定していたより多くの費用と労力を要することになった。戦略的な観点から持ち合い株式を保有している会社は、投資が本業でないことが明らかであるので、このような会社に対して投資会社法の適用を免除する規定を設けてほしい。
(8)日本国債と米国債の自己資本規制比率上の取り扱いを同一にしてほしい。日本の自己資本規制に関する規制では、日本国債と米国債は同一に扱われているが、米国においては、日本国債が米国債に比して不利に取り扱われているので、日本国債のレポ取引を米国証券会社と行うのに支障がある。
(9)日本株の米国を含めたグローバル・オファリングの場合に、引受会社は、米国でのオファリングが完了するまでは米国のルールに従わなければならず、日本のルールに従った日本の市場での安定操作もできないこととなっている。この点について、ルールの修正による改善を望みたい。
(10)米国SECは、nationally recognized rating agencies を特定し、監督規制上その格付けを利用している。当初はS&Pとムーディーズのみがnationally recognized rating agencies として特定されていたが、現在では、フィッチが米会社ダフ・アンド・フェルプスを買収したため、合計3社が特定されている。米国における recognized agency の特定基準を明らかにするとともに、外国格付機関の参入を認めていただきたい。
(11)新発外国債に対する取引制限の緩和
第3回共同現状報告には、「外国政府は、米国外で発行され40日の還流制限期間以降に米国で売られた証券については、登録の義務がない。また、外国政府は証券法に明記されている特定の証券取引についても登録義務の免除を受けることができる。」と書かれている。しかし、前回の要望において指摘したとおり、発行後40日以内においては、日本国債であってもSECへの登録及び顧客への目論見書の交付をしない限り、販売できないことが問題なのであり、その実態に変わりはない。外国国債については、各国の信用に基づいて発行されたものであり、上記制限の緩和もしくは適用対象外とすることを引き続き要望する。