[文書名] 内外記者会見記録(小泉総理大臣)
冒頭発言
(総理大臣)今回初めてブッシュ大統領と直接お目にかかり、率直な意見交換を行ったことは非常に良かった。また、日米の総理大臣・大統領として、日米共通の価値観、相互の信頼関係、個人的な友情を共に分かち合えたことは素晴らしいと思っている。特に初めての首脳会談であったのにも拘わらず、もう何回もお会いしているような率直な意見交換が出来た。今後の日米両国の関係を考えると、実に有意義な会談であったと思う。今後は共通の信頼関係を土台にしていけると思う。色々な問題、多少の摩擦が出て来るにしても、互いに協力しようと努力し、日米間の友好の重要性を考えれば、いかなる問題も友好的に解決出来ると確信するに至った。まずは、どのような問題を協議をするにしても、互いの信頼関係が大切である、根っこが大切である、根っこがしっかりしていれば必ずその上に築かれる協力と信頼は力強く発展していけるのではないかと思う。実に和やかな打ち解けた素晴らしい会談であったと自分は満足している。
質疑応答
(問)不良債権処理の問題について、首脳会談の中で、総理は、構造改革に大胆かつ柔軟に取り組み、日本発の恐慌を引き起こさないと述べ、日本経済の再生に向けた決意を再確認したとのことだが、米側は特に不良債権処理の問題に興味を持っていると言われ、ブッシュ大統領もテキサス州の例を引いてこの問題につき経験があると述べたようだが、今後具体的に如何に対応するつもりか。
(総理大臣)自分の内閣の最大の役割は日本経済の再生である、日本経済に自信を取り戻す、希望を持って新しい時代に対応できるような体制を築き、強い経済力をもって世界に貢献したい、そのためにもまず、経済の再生を達成することが不可欠であり、この問題に取り組むことが自分の最大の課題であると表明し、過去50年間成功してきた仕組みが今の時代に合わなくなってきており、その改革に取り組みたいと申し上げた。日本の景気状況について心配する向きもあり、数年前に日本発の恐慌が起こるのではないかと心配する声があったが、そういうことはない、万一そのような心配を生じさせる事態が発生すれば、あらゆる手段を講じて日本発の世界恐慌が起こらないようにする。そのための措置が既に今年の4月からできている。自分は大胆かつ柔軟な対策によって世界に不安が生じないような対策を講じる。その上で、今やらなければならない改革としては民間の不良債権の処分も大事であるが、更に大事なことは、公的部門である。今まで手を入れることが出来なかった、改革のメスを揮えなかった部分であり、特殊法人の改革や財政投融資の問題である。この問題については、恐らく、日本の識者も、経済評論家も、政治評論家も、日本の公的部門の改革は出来ないだろうとしてその他の対策を論ずることが多かった。自分は、三度自民党総裁選に出馬し、一回目と二回目は破れたが、今回の三度目で国民の信を得、自民党員の信を得、自民党国会議員の多数の支持を得て、自分の今までの主張を曲げることなく当選できた。税金を如何に無駄遣いしないかということの重要性、簡素で効率的な政府を作るための改革、すなわち郵政3事業の民営化を含む、財政投融資や特殊法人などの公的部門の改革が不可欠である。今まで多くの専門家がこの問題はでき得ないと諦めていたフシがあり、そういう前提であれこれ言っても大した効果は出ない。小泉内閣になって初めて、多くの人が政治的都合や政治的圧力や各政党の反対で出来得ないであろうと思っていた改革に踏み込んだのである。自分としてこれを断固としてやる。日本は、自由主義、市場主義、資本主義を標榜しているが、詳しくつぶさに見れば、公的金融の状況は、寧ろ社会主義的に処置を講じてきた。(自分は)この分野の改革が不可欠だと指摘してきた数少ない政治家である。だからこそ、出来得ないようなことを主張してきた自分が自民党の総裁となった。自民党所属の国会議員は私の主張を受け入れられないであろうとする見方があった。その受け入れないと思われることを主張しながらなぜ総裁選挙に立候補するのかという点から、小泉は変わっているのではないか、変人ではないかと言われたが、そうではない。その受け入れられないであろうといわれることを主張して、自民党所属の多数の議員の支持を得て第一回の投票において勝った。たとえ抵抗や反対があっても自分は断固としてやるからそれを期待してもらいたい、あらゆる改革は困難を伴うがやり抜く決意であるということをはっきり表明したところ、ブッシュ大統領からは、頑張ってくれ、応援するといった力強い支援の言葉を頂いた。
(問)貴総理の改革プランに対する「ブ」大統領激励をどのように解釈しているか。経済改革が今後2〜3年に亘り日本の経済成長にマイナス要因となり得るとの指摘が政府内からもかなり率直に出ており、今後の景気回復や円の弱体化に対する影響も懸念されているが如何。
(総理大臣)「ブ」大統領は、ああやれこうやれとは言わずに、私の改革を評価し、それを実現することを期待している。自分は、痛みを伴うことについては、私はその痛みを和らげるための措置も十分考慮するつもりである。「No pain, no gain」という言葉があるが、その痛みを伴うことを恐れて改革を躊躇することは自分はない。あえて痛みは覚悟するが、痛みの対策は十分考慮するつもりである。そして、米側がああやれ、こうやれともし言ったとしても、自分は別に不快感は感じない。寧ろ、助言、アドヴァイスと取る。日本は、外圧によって今まで改革をしてきた。例えば、明治維新がそうである。幕末、ペリー提督が初めて上陸したのは、自分の選挙区である横須賀市である。多くの国民は開国に対して反発しそれがきっかけとなって、当時の政府は転覆した。しかし、転覆した政府は結果的に開国を決断した。うまく米国の外圧を利用して、明治維新、近代国家に向けて日本国民が力を合わせて国造りに励んだ。当初は、米国の要求に反発した。後になってみれば、開国の選択が正しかった。第二次世界大戦も米国に対して反発して戦争を起こした。戦争が終わり、日本国民は米国が征服者としてやって来る、自分達はことによると奴隷にされてしまうのではないかと恐れた。結果的には、どうか。寧ろ、米国は勝者として寛大な解放者として振る舞った。この、二つの歴史的に見て大きな外圧、外国からの影響というものに反発したが、結果的に見ればうまく利用した。今回、大きな転換期が訪れた。これが米国の外圧でなく、日本国民自身がこのままでは駄目だとして米国から言われるのではなく、小泉を総理とし、国内から、自分達から改革しなければならないという立場の改革主導の政権であるとする認識を日本国民がもってきている。従って、米国は経済問題や社会問題について日本に対してああした方が良いということがあれば遠慮なく言って欲しい。自分は外圧とはとらない。助言であり、提言である。「advice」と取る。本日の「ブ」大統領と私の会談で、日米協調の根幹たる共通の価値観、日米友好の重要性の認識している限り、多少の問題で摩擦が起きたとしても何ら心配はない。日米友好の重要性を認識すれば、話し合いによって如何なる問題でも必ず解決することに自分は確信を持っていると述べた。
(問)総理は、日本発の恐慌を惹き起こさないために、政策は大胆且つフレキシブルに考えていると言われたが、大胆でフレキシブルな政策としては財政出動とか金利政策等があると思うが、具体的には如何なることを考えているのか。また、このことを首脳会談で具体的に言及したか。
(総理大臣)まだ危機的状況は起こっていない。起こった時点で考えれば良いことであって、会議で具体的な言及はしていない。
(問)総理は地球温暖化問題に関する日米間の違いを埋めるためにまだ時間があると確信していると述べられたが、ブッシュ大統領は総理に対しこのような自信を得るような、またこの問題への一致を得るような発言をされたのか。
(総理大臣)自分は日米首脳会談に臨むに当たり、日本の野党から、米国が京都議定書に参加しなくても日本独自で、EUと協力して進めるべきとの要請を受けてやって来た。また、我が党、自民党内にもそのような意見がある。他方、京都議定書の精神を実際に生かしていくためには米国との協力を出来れば行った方が良いと思う。また、世界にとって米国が京都議定書の考え方に賛成して、日本もEUも米国も参加することが出来れば、地球環境全体にとっても世界にとっても好ましいと思う。まだあきらめていない。米国が日本側の考え方に耳を傾けて、世界第一と第二の経済を有する国が共に協力すれば非常に良いことだと思う。まだ時間があると思う。この問題については担当者同士、日本側には川口環境大臣であるが、担当者同士で十分協議し、最後の最後まで互いに協力出来る道を探そうではないか、特に温暖化の問題は地球環境問題であり、人類に大きな影響を与える。例えば、ミシシッピのワニは温度の差により、卵が、卵の雄、雌が変わる。ワニだけでなく、カメ、トカゲやある種の魚も、温度により雄、雌が変わってしまうくらい、温度はおろそかに出来ない。動物がそのような影響を受けるのであれば、必ず、人間にも、人類にも、地球にも影響を与えるはずであるので、温暖化効果はおろそかに出来ない。このような意識を持って、地球環境の問題、生態系の問題を真剣に考えていかないといけないということを話した。粘り強く最後までこの問題について担当当局間で協議させていくことになった。
(問)小泉総理は集団的自衛権のあり方について研究していくと言い、米国側でもこの点について関心が高いが、その一方でPKOを中心とする国連を中心とした集団安全保障についても、総理が如何なる采配を振うか国際的な関心が大変高い。集団的自衛権の問題と国連を中心とした集団安全保障の問題のいずれの1つについて8割を越える支持を得ている小泉総理にとってもなおかなりの力技が必要となると思うが、今後、総理はこの集団的安全保障(ママ)を日米同盟強化の観点からより優先して考え直してゆくのか、若しくは国連を中心とした集団安全保障に重きをおくのか。
(総理大臣)安全保障において別に自分が力技を用いる必要はないと思う。日米安保条約を中心として日本の安全保障をはかっていくのが日本の基本的な立場である。これは今までもこれからも変わらない。そして安全保障に対する考え方は、アメリカの立場と日本の立場とは違いがある。アメリカは自国の安全保障は当然大事だが、同時に同盟国の安全保障も真剣に考えている国である。なおかつ、自国と同盟国だけでなく世界の平和の維持をどうはかっていくか、世界の秩序をどうはかっていくかについて真剣に考えている国であり、また、その力を持っている国である。ところが日本は、専守防衛の国である。憲法にある通り、日本は国際紛争を解決する手段として武力による威嚇、武力の行使を放棄しているのである。ここはアメリカとははっきり違う。そういう立場を認識しながら、安全保障の話題についても、お互い協力できるところは十分協力していきたい。私の地元の選挙区である横須賀市には、米海軍の基地が存在している。横須賀市民も、米軍基地があった方がいいか、ない方がいいかと言えば、圧倒的にない方がいいと言うに決まっている。沖縄県民だってそうだろう。米軍基地があった方が良いかない方が良いかといえば、ない方が良いと言うに決まっている。私もそうだ。しかし、安全保障を考える場合、アメリカとの協力は、日本にとって不可欠である。そういう冷静な判断を日本国民は持っている。また、総理としても自分はアメリカの重要性が分かっており、米軍基地の重要性、米軍のプレゼンスの重要性は、日本だけでなく、周辺諸国についてもあるということを十分分かっている。同時に日本国民は敗戦によって、軍隊を放棄した。軍事力に対しても武力の行使に対しても非常に神経質なところがある。それは、戦前日本の軍事力が強大化してこの強大化ゆえに無謀な戦争に突入したことに対する反省がある。多くの国民は、軍隊という強大な軍事力は、日本国民を守ってくれたという歴史的認識よりも日本国民を苦しめたという認識を持っている。しかし、アメリカの軍隊については、よその軍隊からの侵略から守ってくれる貴重な存在であるという感謝の念が根付いている。平和憲法の重要性は分かっている。しかし、自分も、平和を維持するための軍事力の重要性も十分認識している。平和憲法も大事だが、他方、日本には敗戦後強大な軍事力がないと思っている人がいるが、実際は違う。自衛隊がなくても軍隊がなくても敗戦直後から米軍という強大な軍事力が日本に存在した。日本の一部には、軍隊がなくても平和憲法が日本を守ってくれると考えている人がいるが、私は軍事力の重要性もよく分かっている。日本に軍事力が全くなかった、軍隊が全くなかったというのは、今まで一度もなかった。そういう平和憲法と軍事力の存在、これが相まって日本の平和というのは維持できる、維持してきたと思っている。自分は、日米安保条約の重要性、そして米軍基地の重要性を良く認識しているので、憲法の枠内でできるだけの安全保障のための協力をアメリカとしていきたい。それが日本のためになりアメリカのためになる。周辺諸国の安全に寄与するはずである。これからお互いの担当大臣同士で具体的な問題について十分協議していくという話をした。
(問)今般の首脳会談において総理は日米の協力について言及したが、ブッシュ大統領は最近、通商法第201条の調査を開始することを決定した。これ米国の日本及び欧州からの鉄鋼輸入を制限しうるものであり、日本人はこの決定について快くは思っていないと思う。首脳会談において、この点を取り上げたか。またこの問題が新ラウンドの立ち上げに与える影響如何。
(総理大臣)その点は、具体的に鉄鋼という問題では話題にならなかったが、若干トゲのある経済的な問題、摩擦となる問題については、担当者で協議してゆこう、協議機関を設けようと言う話であった。自分もそれに賛成した。
最初に言及したように、摩擦のある、又はお互い反発しあうような問題については、日米協力の重要性を考えながら、担当者間で十分話し合いをしていこう、そのための協議機関を設け、協議していこうということとなった。WTOの新ラウンド立ち上げについては、お互い協力してゆこうといういうことで、割合さらりと終わった。鉄鋼という個別的な話は出なかった。