[文書名] 日米首脳共同記者会見
‐冒頭発言
鳩山総理
(1)オバマ大統領、ようこそ日本にお出ましくださった、心から歓迎を申し上げる。銃の乱射事件という悲劇にもかかわらず、バラックが訪日してくれたことは全ての国民にとって嬉しいことであった。今回、90分に亘る大変密度の濃い議論を行うことができ、大変嬉しく思っている。バラックとユキオという呼び方もかなり定着してきたかと思っている。
(2)多岐に亘る議論を行ったが、まず、日本外交にとって日米同盟が全ての礎であるという話を申し上げ、時代の変遷、また世界環境の変化によって日米同盟をさらに深化・発展させていきたい旨、建設的、あるいは未来志向の新しい日米同盟を作り上げていきたい旨自分より提案した。
(3)来年は日米安保条約改定からちょうど50年という節目の年にあたり、ある意味で一年かけて、本日より新しい協議のプロセスを進めようという提案を行い、オバマ大統領より、まさにその通りであるとの了解を頂いた。
(4)安全保障の面から言えば拡大抑止、情報保全、ミサイル防衛の在り方、宇宙の利用といった様々な新しい安全保障のシステムを構築する必要があると思っている。しかし、日米同盟は安全保障面には限られず、防災、医療・保健、教育、環境問題といった様々な事項に関して、アジア太平洋地域を中心に日米で協力をしていくことによって日米同盟を深化させることができるということで一致した。
(5)グローバルな課題に関しても議論を行った。自分より、アフガニスタン支援に関する議論を提起し、アフガニスタンに対しては、我が国は補給支援活動ではなく、むしろ民生支援を充実させたく、5年間で約50億ドルを支出し、主として民生支援を行う、農業支援、インフラ整備、学校建設、治安強化のための警察への支援、元兵士に対する職業訓練等を行っていきたい旨述べた。このような新しい支援策に関し、オバマ大統領からも基本的に感謝する旨発言があり、今後、アフガニスタン支援に関し、可能な限り直接的に様々話し合って決めていきたい旨話があった。
(6)気候変動に関しても議論を行った。2050年までに排出量80%削減という大きな目標に関して日米で合意するとともに、COP15の成功に向けて協力していくことでも一致した。今後も中国を始めとして未だ課題が残っている様々なテーマに関し、日米でよく協力・連携していくことで一致した。
(7)核軍縮に関しても、お互いに協力することを誓い合った。
(8)核軍縮及び気候変動に関し、日米で共同のステートメントを発出することができたことは大変画期的であり、このようなことを日米首脳会談の中心的なテーマとして議論することができたことも何よりである。
(9)今回、経済の問題は必ずしも大きなテーマとして扱われなかったが、それも時代の流れかもしれない。できれば夕食時に経済問題を中心に議論を深めたい。
(10)核の問題に関連して北朝鮮及びイランの問題に関して、オバマ大統領より問題提起があり、これに対し自分からは日米で密接に協力していきたい旨述べた。また、オバマ大統領より、ボズワース特別代表が近々訪朝する可能性があるが、それは六者協議を前提としたものである旨話があり、これに対し自分は共感を持ち、支持する旨述べた。
(11)イランに関し、自分は対話と圧力のアプローチを支持し、イランとの歴史的関係を重視しつつ日米で連携を強化していくことを約束した。
(12)アジア太平洋地域における米国の重要性に関し、オバマ大統領より指摘があったのに対し、自分より、まさにその通りであり、自分が東アジア共同体を構想しているのもまさに日米同盟がその基軸にあるからこそ申し上げていることであり、アジアにおける米国のプレゼンスが高まることを大いに期待申し上げたい旨、今後、様々なレベルにおいて、東アジア全体における日米協力が進むことにより、そのことが結果として東アジアの平和と安定、そして経済の発展に大いに資することになるということもお互いに誓い合った。
(13)今回の日米首脳会談は大変意義深いものであった。改めてオバマ大統領がこのように大変忙しい日程を割いて、アジアの最初の訪問国として日本を訪問したことに関し、総理として、国民を代表して心から感謝したい。
オバマ大統領
(1)今回、米国大統領として初めて日本を訪問することができ、大変光栄である。若い頃に日本を訪問した懐かしい思い出があるが、今回の訪問もずっと楽しみにしてきた。ミシェルと娘たちが同行できなかったことを申し訳なく思う。娘たちは日本について学校で学んできており、日本の文化に対して多大なる興味を抱いている。次回訪問する際は、できれば彼女たちも同行させたい。
(2)鳩山総理及び日本の皆様の温かい歓迎に感謝したい。テキサス州フォートフッドにおける悲劇の結果として生じた遅れに関して、理解を示してくれた寛大さをありがたく思う。
(3)日本は、大統領として初めてのアジア歴訪の第一ヶ国目である。日米間の同盟は二国間のみならずアジア太平洋地域の平和と繁栄の礎であるため、自分は外遊をここ東京から開始した。あと数カ月で我々は、共有された価値及び利益を基調とし、日米両国民に多大な貢献をし、類を見ない方法で地域に平和と安全保障を提供してきた日米同盟の50周年を記念することとなる。
(4)鳩山総理が指摘したように、日米安保50周年は、我々が何を成し遂げてきたかを一歩離れて熟考し、我々の友情を祝うだけではなく、21世紀に向けて同盟を更新し、活気づける方途を探す重要な機会を提供する。ユキオと自分は変化を約束して選出されたが、我々が新しい方向に国家を動かしていく中で、我々の同盟は持続し、我々の努力は同盟を強化し、21世紀の課題に対応する上でより効果的なものとすべく、友情を活性化させることに焦点があてられるという点に関して疑問があってはならない。日米同盟は、米国にとって不可欠であり、日本にとっても不可欠であり、また、アジア太平洋地域にとっても不可欠である。
(5)この外遊及び自分の任期を通じて、自分は、米国が太平洋国家であり、世界上のこの地域に対する関与を深めていくことになるということを明確にしたい。鳩山総理に対しても述べたように、我が国は我々の同盟を強化し、新たなパートナーシップを構築し、そして地域の安全保障及び繁栄を前進させる多国間の取組及び地域機構に参加する。
(6)我々は米国とアジアの将来は密接不可分に結びついているということを理解する必要がある。我々にとって最も重要である経済成長、雇用創出、不拡散、クリーン・エネルギーといった課題は、全て共通議題の一部となるべきものである。そして、今晩我々はこれらの課題に関して、大変生産的な議論を行った。
(7)我々の経済的な絆が大変強固であるため、これは最初の議題でなかったことは事実であるが、幸運にも我々には、これからシンガポールにおいて多くの時間を割いてこれらを議論する機会がある。世界の二大経済大国として我々は、世界を金融危機の瀬戸際から引き戻すため、G20における協働に多くの時間を割いてきており、将来の雇用を拡大できるよう、引き続き努力を強化していく。そして我々は、景気回復を強固なものとするためのいかにして我々のこの地域との深い経済協力のバランスを取り戻すかということに関しAPECのパートナーと議論を行う予定である。
(8)鳩山総理と自分は、アフガニスタン及びパキスタンに関する我々の協力について議論を行った。そして自分は、日本国民及び鳩山総理に対して、アフガニスタンにおける我々共通の文民による努力を支援するために、今後5年間で50億ドルという力強いコミットメント、及びパキスタンに対する10億ドルのコミットメントに謝意を示した。本件は、アフガニスタン及びパキスタンの安定と機会という目的を前進させている幅広い国際的な連携の中での日本の卓越した役割を強調するものである。
(9)我々は、核兵器の拡散を止め、究極的には核兵器のない世界を目指すという我々の共通のコミットメントに関して議論を行った。自分がプラハにおいてこれらの目標を追求するための包括的な議題を提示して以来、日本はこれらの取組の中で優れたパートナーであった。そして我々は共に、歴史的な安保理決議を9月に採択した。我々は現在、管理の行き届いていない核物質の安全を確保し、不拡散体制を強化する、新たな国際的なコンセンサスを構築している。
(10)そのために、我々は、北朝鮮及びイラン情勢の双方を議論し、双方が国際的な義務を果たすことが絶対的に不可欠であるということを認識した。仮に彼らがそうすれば、彼らはより良い未来に向けて扉を開くことができる。仮にそうでなければ、我々は既存の国連安保理決議の履行において団結を維持し、国際的な文脈の中で不拡散のアジェンダに向けて引き続き取り組んでいく。
(11)最後に、我々はエネルギー問題及び気候変動に関するパートナーシップについて議論を行った。米国と日本は未来のクリーン・エネルギーを開発するというコミットメントを共有し、気候変動の脅威と闘うことに焦点を当てている。これは我々にとって重要な優先課題であり、自分はこれが日本の国民にとっても重要な優先課題であることを承知している。そして我々は、来月のコペンハーゲンにおける成功裏の結果に向けて道を開くべく如何にして協力していけるかについて議論を行った。
(12)従って、自分は我々が大変良いスタートを切れたと信じている。会話の続きを夕食会及びシンガポールへの訪問の中で行うことを楽しみにしている。そして自分は、未来の世代の為に、我々が引き続き日米同盟を強化していくと確信している。
‐質疑応答(日本側質問)
(鳩山総理に対する質問)
鳩山総理は「対等な日米関係」を掲げているが、会談ではアフガニスタン支援策やインド洋での給油支援の停止、地球温暖化、核軍縮への取り組みなどで対等な立場から主張をされ、十分理解を得られたと考えるか。特に日米同盟に関しては、普天間基地の移設問題について、時間の経過で日米合意そのものの履行が難しくなるとの見方もあるが、今後の方針や決着の時期についてどのように大統領に説明したのか。
(オバマ大統領に対する質問)
核のない世界を標榜するオバマ大統領は、任期中できれば広島・長崎を訪れたいとの意向を示したと伝えられるが、そうした意向は持っているのか。過去日本で2発の原爆が投下されたことについての歴史的意味をどう捉え、現在もそうした選択は正しかったと考えているのか。その上で北朝鮮の核問題などの情勢を踏まえて、日米同盟強化や核軍縮で日米両国がどのような連携を図るべきと具体的に考えるか。その同盟強化に絡む普天間基地の移設問題は、いつまでに決着させるべきと考えるか。日本が更に来年に結論を持ち越したり、日米合意とは別の選択肢を選んだ場合、それを容認する考えはあるか。
(鳩山総理)
対等な日米関係に関し、自分が申し上げる前に、オバマ大統領から、当然日米関係は対等な関係であるべきであるとの発言があった。そうした文脈の中で、アフガンの支援問題、あるいは地球温暖化対策の問題、さらには核廃絶の問題等、基本的に対等な思いで申し上げたところである。すなわち、自分の方からも議題を様々提起したということである。
特に、お尋ねの普天間移設問題に関しては、自分より、ハイレベルのワーキング・グループを設置して、できるだけ早い時期に解決をすることを申し上げ、その中での自分の決意を申し上げた。ただその前に、自分からなぜこうなっているのかということを申し上げ、日本政府としても前政権の日米合意はやはり重く受け止めている旨、ただ選挙の時に、自分たちが沖縄県民に県外・国外への移設を申し上げたことも事実である旨申し上げた。また、そのことによって沖縄県民の期待感は強まっているということもあると申し上げた。いずれにしても大変困難な問題であることは間違いないが、これは時間が経てば、より問題の解決が難しいと理解している。特に普天間の地域の住民の皆さんにとっては、なおさらのことであると思う。したがって、時間ということは我々としても理解しており、できるだけ早くワーキング・グループの中で結論を出していくので、そのことによって、日米同盟を更に強化・発展させるための様々な議論がすすめられるよう、自分として積極的に努力するとオバマ大統領に申し上げた。
(オバマ大統領)
まず、アメリカと日本は対等なパートナーであるということを強調したい。それは今までもそうであったし、今後も引き続きそうである。両国は日米関係に対し特定の資産や利点を提供しているが、我々は相互利益及び相互に対する尊敬に基づいて前進しており、今後とも引き続きそうである。これは日米同盟にも反映されており、普天間飛行場に関連する在日米軍再編問題の解決においても反映されることとなる。鳩山総理が指摘したように、我々は本件について議題について議論を行った。日米両国は在沖米軍の再編に関する二国政府間合意の実施に焦点をあてるハイレベルのワーキング・グループを設置した。我々は、本件作業が迅速に(expeditiously)完了することを期待している。我々の目標は引き続き同じであり、それはこの区域を共有する人々の生活への干渉が最小限となる中で、日本に対して防衛を提供することである。そして、自分は、同盟及び条約に対する我々の義務の履行を助けている米国軍人を非常に誇りに思っており、感謝していると言わなければならない。
核兵器及び不拡散の課題は、鳩山総理と自分が首脳会談で繰り返し議論を行った分野である。自分は、我々が核のない世界というビジョンを共有していると考える。しかし、我々は、本件が遠い目標であり、我々がこの目標を達成するために当座は特定のステップを踏む必要があるという認識である。これには時間がかかる。この目標は、恐らく我々が生きているうちには達成できないであろう。しかし、この目標を追求することで、我々は核兵器の拡散を止めることができる。我々は管理の行き届いていない核兵器の安全を確保することができる。我々は、不拡散体制を強化することができる。核兵器が存在する限り、我々は米国民及びと米国の同盟国の対して引き続き抑止力を提供するが、我々は、ロシア政府と協力し、核保有量の減少に向けたステップを既に踏んでいる。そして我々は引き続き核不拡散問題に取り組んでいきたい。
広島及び長崎の帰結によって、核兵器の問題に関して日本は明確に独自の見解を有している。そして、自分は本件が鳩山総理のこの問題に対する深い関心の動機の一助となっていると確信している。自分は将来、両市を訪問することは当然光栄なことであり、それは非常に意義深いことだと思う。自分は現時点では訪問する計画を有していないがこれは自分にとって有意義なものとなる。
北朝鮮に関し、我々は今後平壌といかに前進を図るかということについて徹底的な議論を行った。我々は、北朝鮮による実験及び本年前半に発生したいくつかの敵対的な行為によって明白に当惑させられた。我々は我々の目標は朝鮮半島の非核化であると繰り返し述べてきた。これは、東アジア地域の安全保障にとって不可欠なものである。そして日米は、六者会合の他のパートナーと共に、北朝鮮に対し、北朝鮮の人々の利益となり、その安全を長期的に亘って高めると自分が信じる国際社会への再加入という方途や扉が存在するということを示すために引き続き取り組みを行っていく。彼らは、その扉を通り抜けなければならない。現時点では、我々は既に導入されている制裁を引き続き履行し、日本及び他の六者会合メンバーとともに我々の安全保障上のニーズと平壌がより良い方向に動くことを説得することを満たす戦略の策定に向けて引き続き緊密に連携する。
‐質疑応答(米側質問)
(オバマ大統領に対する質問)
オバマ政権ハリド・シェイク・モハメドの裁判をニューヨークにある連邦地方裁判所で開始することを決定したが、これが安全で安心であり、無罪判決が下らないということをいかにして米国民に保証するのか。
また、アフガニスタンに関し、大統領の検討を注視し、批判している人に対して、決定に際していかなる情報が欠如しているのか、説明していただきたい。
(鳩山総理に対する質問)
なぜ日本はアフガニスタンに関する補給支援活動の継続を行わないこととしたのか。
(オバマ大統領)
ハリド・シェイク・モハメドに関し、司法長官は、米国時間朝、日本時間夜に発表を行うと承知している。この記者会見を予断することは差し控えたい。本件は、国家安全保障上の決定であるとともに検訴追裁量事項である。しかし、私はハリド・シェイク・モハメドが最も厳格な司法の要求を受けることになると完全に確信している。米国民はそれを望んでおり、自分の政権もこれを強く望んでいる。我々は、司法長官の記者会見の後に、更なる発表を行うこととなるだろう。
アフガニスタンに関し、自分は、情報を掲載したいくつかの資料を待っているというような問題ではないと考える。本件は、自分が若者を戦争に送り、米国民の数十億ドルもの税金を投入するのに際して確信を得るという問題であり、その決定が我々をより安全にし、そして、我々の軍事面のみならず文民面における戦略がコーディネートされ、我々の主目的達成のために効果的であることを確実にするということである。それは米国が攻撃の対象とならず、米国の同盟国がテロリスト網の対象とならないことを確保すると共に地域により大きなゴールを達成可能とする安定をもたらすことを確実にするということである。
そして自分は本件過程に対し批判が存在することを認識している。これら批判を行うものは、アフガニスタンで起こっていることに直接関与していない者であるという傾向がある。彼らは状況の重大性を認識し、本件に適切に対応する重要性を承知している。決定は早急に行われる(The decision will be made soon)。本件決定は、米国民が、我々が何を行っており、何故それを行っており、またそれが何を伴うのかということについて正確に理解するための完全な透明性を伴うものとなる。またその決定は、最終的なアフガニスタン人が自らの安全を提供する立場におり、米国が制限なしのコミットメントを行うことができないという我々の目標に関する明確なメッセージを送ることになると考える。従って、自分は本件プロセスの進捗状況に大変満足している。本件決定に参加した者は皆、本件が学問上の課題ではなく、可能である最良の決定を行うに際して不可欠なプロセスであることを認識していると考える。
(鳩山総理)
自分たちは、アフガニスタンに対して日本が行うべき支援を広い文脈の中で考えてきた。確かに、テロを撲滅するための対策は必要である。ただその場合、果たして日本が行うべきテロ対策とは何か、むしろテロの根源を絶つ民生支援を中心とした支援が日本流の望ましい支援なのではないかと考えたことが一点である。
また、実際に補給支援活動の推移を見てみると、最初の頃に比べて最近は給油支援は減ってきている。先月は一ヶ月で一隻一回の給油に留まっているが、果たしてどのくらいの役割があるのかということである。海上阻止活動に対する後方支援ということで、どのくらいの意味があるのかということを考えたときに、もっと日本的な支援のあり方がある。例えばアフガニスタンの人々を貧困から救済していく、新しい治安の活動を行っていく。更には元タリバーン兵等の兵士に対して訓練を行うことで新しい職業を生み出した方がより彼らにとっても望ましい人生となり、日本としてこうした支援することが日本として望ましいアフガニスタン支援だと判断して、結論として補給支援活動よりも別の支援活動のパッケージを用意するという決断に至った。