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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] デジタル貿易に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(略称:日米デジタル貿易協定)

[場所] 
[年月日] 2019年10月7日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

デジタル貿易に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定


日本国及びアメリカ合衆国(以下「両締約国」という。)は、次のとおり協定した。

   第一条 定義

この協定の適用上、

(a) 「アルゴリズム」とは、一連の定められた手順であって、問題を解決し、又は結果を得るために行われるものをいう。

(b)  「コンピュータ関連設備」とは、商業上の利用のために情報を処理し、又は保存するためのコンピュータ・サーバー及び記憶装置をいう。

(c) 「対象企業」とは、一方の締約国について、当該締約国の領域に所在し、かつ、他方の締約国の投資家が直接又は間接に所有し、又は支配する企業であって、この協定の効力発生の日に存在するもの又はその後に設立され、取得され、若しくは拡張されるものをいう。

(d) 「対象金融サービス提供者」とは、次のいずれかのものをいう。

 (i) 他方の締約国の金融機関

 (ii) 一方の締約国の金融規制当局による規制、監督又は免許、認可、許可若しくは登録の対象となる他方の締約国の金融サービス提供者(他方の締約国の金融機関を除く。)

(e) 「対象者」とは、次のいずれかのものをいう。

 (i) 対象企業

 (ii) 他方の締約国の者

(f) 「関税」には、産品の輸入に際し、又は産品の輸入に関連して課される税その他あらゆる種類の課徴金並びに産品の輸入に関連して課される付加税及び加重税を含む。ただし、次のものを含まない。

 (i) 千九百九十四年のガット第三条2の規定に適合して課される内国税に相当する課徴金

 (ii) 輸入に関連する手数料その他の課徴金であって、提供された役務の費用に応じたもの

 (iii) ダンピング防止税又は相殺関税

(g) 「デジタル・プロダクト」とは、コンピュータ・プログラム、文字列、ビデオ、映像、録音物その他のものであって、デジタル式に符号化され、商業的販売又は流通のために生産され、及び電子的に送信されることができるものをいう*1*。

(h) 「電子認証」とは、電子的な通信又は取引の当事者の同一性を検証し、及び電子的な通信の信頼性を確保するための処理又は行為をいう。

(i) 「電子署名」とは、電子文書又は電子メッセージに含まれ、付され、又は論理的に関連する電子的な形式でのデータであって、当該電子文書又は電子メッセージとの関係において署名者を特定するために及び署名者が当該電子文書又は電子メッセージに含まれる情報を承認することを示すために利用することができるものをいう*2*。

(j) 「電子的な送信」又は「電子的に送信される」とは、電磁的手段を用いて送信されることをいう。

(k) 「企業」とは、営利目的であるかどうかを問わず、また、民間又は政府のいずれが所有し、又は支配しているかを問わず、関係の法律に基づいて設立され、又は組織される事業体(社団、信託、組合、個人企業、合弁企業、団体その他これらに類する組織を含む。)をいう。

(l) 「他方の締約国の企業」とは、他方の締約国の法律に基づいて設立され、又は組織される企業であって、他方の締約国の領域において実質的な事業活動に従事しているものをいう。

(m) 「現行の」とは、この協定の効力発生の日において効力を有することをいう。

(n) 「金融機関」とは、締約国の領域に所在する金融仲介機関その他の企業であって、当該締約国の法律に基づき、金融機関として業務を行うことを認められ、及び金融機関として規制され、又は監督されるものをいう。

(o) 「他方の締約国の金融機関」とは、一方の締約国の領域に所在する金融機関(その支店を含む。)であって、他方の締約国の者が支配するものをいう。

(p) 「金融市場の基盤」とは、清算し、決済し、又は支払、有価証券若しくは派生商品の取引その他の金融取引を記録するために利用される複数の参加者で構成されるシステムであって、対象金融サービス提供者が他の金融サービス提供者(当該システムの運営者を含む。)と共に参加するものをいう。

(q) 「金融サービス」とは、金融の性質を有するサービスをいう。金融サービスには、全ての保険及び保険関連のサービス並びに全ての銀行サービスその他の金融サービス(保険及び保険関連のサービスを除く。)並びに金融の性質を有するサービスに付随するサービス又は金融の性質を有するサービスの補助的なサービスを含み、次の活動を含む。

 保険及び保険関連のサービス

 (i) 元受保険(共同して行う保険を含む。)

  (A) 生命保険

  (B) 生命保険以外の保険

 (ii) 再保険及び再再保険

 (iii) 保険仲介業(例えば、保険仲立業、代理店業)

 (iv) 保険の補助的なサービス(例えば、相談サービス、保険数理サービス、危険評価サービス、請求の処理サービス)

 銀行サービスその他の金融サービス(保険及び保険関連のサービスを除く。)

 (v) 公衆からの預金その他払戻しを要する資金の受入れ

 (vi) 全ての種類の貸付け(消費者信用、不動産担保貸付け、債権買取り及び商業取引に係る融資を含む。)

 (vii) ファイナンス・リース

 (viii) 全ての支払及び送金のサービス(クレジット・カード、チャージ・カード、デビット・カード、旅行小切手及び銀行小切手を含む。)

 (ix) 保証

 (x) 自らの又は顧客のために行う次のものの取引(当該取引が取引所取引、店頭取引その他の方法のいずれで行われるかを問わない。)

  (A) 短期金融市場商品(小切手、手形及び預金証書を含む。) 

  (B) 外国為替

  (C) 派生商品(先物及びオプションを含む。) 

  (D) 為替及び金利の商品(スワップ、金利先渡取引等の商品を含む。)

  (E) 譲渡可能な有価証券

  (F) 他の譲渡可能な証書及び金融資産(金銀を含む。)

 (xi) 全ての種類の有価証券の発行への参加(当該発行が公募で行われるか私募で行われるかを問わず、委託を受けた者として行う引受け及び売付け並びに当該発行に関連するサービスの提供を含む。)

 (xii) 資金媒介業

 (xiii) 資産運用(例えば、現金又はポートフォリオの運用、全ての形態の集合投資運用、年金基金運用、保管、預託及び信託のサービス)

 (xiv) 金融資産(有価証券、派生商品その他の譲渡可能な証書を含む。)のための決済及び清算のサービス

 (xv) その他の金融サービスを提供するサービス提供者による金融情報の提供及び移転並びに金融データの処理及び関連ソフトウェアのサービス

 (xvi) (v)から(xv)までに規定する全ての活動についての助言、仲介その他の補助的な金融サービス(信用照会及び分析、投資及びポートフォリオに関する調査及び助言並びに企業の取得、再編及び戦略についての助言を含む。)

(r) 「金融サービスのコンピュータ関連設備」とは、対象金融サービス提供者についての免許、認可、許可又は登録の対象となる業務の実施に関する情報の処理又は保存のためのコンピュータ・サーバー又は記憶装置をいう。ただし、次のもののコンピュータ・サーバー又は記憶装置及び次のものへのアクセスのために利用するコンピュータ・サーバー又は記憶装置を含まない。

 (i) 金融市場の基盤

 (ii) 有価証券又は派生商品(例えば、先物、オプション、スワップ)の取引所又は市場

 (iii) 対象金融サービス提供者に対して規制権限又は監督権限を行使する非政府機関

(s) 「他方の締約国の金融サービス提供者」とは、一方の締約国の領域内で又は一方の締約国の者に対し金融サービスを提供し、又は提供しようとする他方の締約国の者をいう。

(t) 「詐欺的又は欺まん的な商業活動」とは、消費者に実害をもたらす詐欺的若しくは欺まん的な商業上の行為又は防止されない場合にはこのような実害をもたらす急迫したおそれがある詐欺的若しくは欺まん的な商業上の行為をいい、次の行為を含む。

 (i) 重要な事実に関して誤った表示(その暗示を含む。)を行う行為であって、誤認した消費者の経済的利益に重大な損失をもたらすもの

 (ii) 消費者による代金の支払の後、当該消費者に商品を引き渡さず、又はサービスを提供しない行為

 (iii) 消費者の金融口座、電話料金のための口座その他の口座に許可なく請求を行い、又はこれらの口座から許可なく引き落としを行う行為

(u) 「サービス貿易一般協定」とは、世界貿易機関設立協定附属書一Bサービスの貿易に関する一般協定をいう。

(v) 「千九百九十四年のガット」とは、世界貿易機関設立協定附属書一A千九百九十四年の関税及び貿易に関する一般協定をいう。

(w) 「政府の情報」とは、財産的価値を有しない情報(データを含む。)であって、中央政府が保有するものをいう。

(x) 「情報コンテンツ・プロバイダ」とは、インターネットその他のコンピュータを利用した双方向サービスを通じて提供される情報の全部又は一部を作成する者又は事業体をいう。

(y) 「コンピュータを利用した双方向サービス」とは、複数の利用者によるコンピュータ・サーバーへの電子的なアクセスを提供し、又は可能とするシステム又はサービスをいう。

(z) 「他方の締約国の投資家」とは、一方の締約国の領域において、投資を行おうとし、行っており、又は既に行った他方の締約国の自然人又は他方の締約国の企業をいう。

(aa) 「措置」とは、締約国の措置(法令、規則、手続、決定、行政上の行為その他のいずれの形式であるかを問わない。)をいう。

(bb) 「他方の締約国の自然人」とは、他方の締約国の法律の下で他方の締約国の国民である自然人をいう。

(cc) 「者」とは、自然人又は企業をいう。

(dd) 「個人情報」とは、特定された又は特定し得る自然人に関する情報(データを含む。)をいう。

(ee) 「他方の締約国の者」とは、他方の締約国の自然人又は他方の締約国の企業をいう。

(ff) 「一方の締約国の者」とは、一方の締約国の自然人又は一方の締約国の企業をいう。

(gg) 「政府の権限の行使として提供されるサービス」とは、商業的な原則に基づかず、かつ、一又は二以上のサービス提供者との競争を行うことなく提供されるサービスをいう。

(hh) 「租税条約」とは、二重課税の回避のための条約その他の租税に関する国際協定又は国際取決めをいう。

(ii) 「租税」及び「租税に係る課税措置」には、消費税を含むが、次のものを含まない。

 (i) (f)に定義する「関税」

 (ii) (f)(ii)及び(iii)に掲げる措置

(jj) 「要求されていない商業上の電子メッセージ」とは、インターネット接続サービスの提供者又は他の電気通信サービスを通じ、受信者の同意なしに又は受信者の明示的な拒否に反して、商業上又はマーケティング上の目的で電子的なアドレスに送信される電子メッセージをいう。

(kk) 「世界貿易機関設立協定」とは、千九百九十四年四月十五日にマラケシュで作成された世界貿易機関を設立するマラケシュ協定をいう。

   第二条 適用範囲

1 この協定は、締約国が採用し、又は維持する措置であって、電子的手段による貿易に影響を及ぼすものについて適用する。

2 この協定は、次のものについては、適用しない。

 (a) 政府調達

 (b) 政府の権限の行使として提供されるサービス

 (c) 締約国により若しくは締約国のために保有され、若しくは処理される情報又は当該情報に関連する措置(当該情報の収集に関連する措置を含む。)。ただし、第二十条に規定するものを除く。

   第三条 一般的例外

1  この協定の全ての規定(第二十一条の規定を除く。)の適用上、サービス貿易一般協定第十四条(a)から(c)までの規定は、必要な変更を加えた上で、この協定に組み込まれ、この協定の一部を成す。

2 第二十一条の規定の適用上、千九百九十四年のガット第二十条の規定及びその解釈に係る注釈は、必要な変更を加えた上で、この協定に組み込まれ、この協定の一部を成す。

   第四条 安全保障のための例外

この協定のいかなる規定も、次のいずれかのことを定めるものと解してはならない。

 (a) 締約国に対し、その開示が自国の安全保障上の重大な利益に反すると当該締約国が決定する情報の提供又はそのような情報へのアクセスを要求すること。

 (b) 締約国が国際の平和若しくは安全の維持若しくは回復に関する自国の義務の履行又は自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める措置を適用することを妨げること。

   第五条 信用秩序の維持のための例外並びに金融政策及び為替政策のための例外

1 この協定の他の規定にかかわらず、締約国は、信用秩序の維持のための措置*3*(投資家、預金者、保険契約者若しくは信託上の義務を金融機関若しくは金融サービス提供者が負う者を保護するための措置又は金融システムの健全性及び安定性を確保するための措置を含む。)を採用し、又は維持することを妨げられない。当該信用秩序の維持のための措置は、この協定の規定に適合しない場合には、当該規定に基づく当該締約国の約束又は義務を回避するための手段として用いてはならない。

2 この協定のいかなる規定も、一般に適用される差別的でない措置であって公的機関が金融政策若しくは関連する信用政策又は為替政策を遂行するために行うものについては、適用しない

   第六条 租税

1 この条に別段の定めがある場合を除くほか、この協定のいかなる規定も、租税に係る課税措置については、適用しない。

2 この協定のいかなる規定も、租税条約に基づくいずれの締約国の権利及び義務にも影響を及ぼすものではない。この協定と租税条約とが抵触する場合には、その抵触の限りにおいて、当該租税条約が優先する。

3 2の規定に従うことを条件として、

 (a) 第八条の規定は、全ての租税に係る課税措置について適用する。ただし、所得、譲渡収益、法人の課税対象財産又は投資若しくは財産の価額*4*に対する租税に係る課税措置(投資又は財産の移転に対するものを除く。)及び遺産、相続、贈与又は世代を飛ばした財産の移転に対する租税を除く。

 (b) 第八条の規定は、所得、譲渡収益、法人の課税対象財産又は投資若しくは財産の価額*5*に対する租税に係る課税措置(投資又は財産の移転に対するものを除く。)であって、特定のデジタル・プロダクトの購入又は消費に関するものについて適用する。ただし、第一文の規定は、締約国が、当該デジタル・プロダクトの購入又は消費に関する利益の享受又はその継続のための条件として、当該デジタル・プロダクトを自国の領域において提供することを要求することを妨げるものではない。

 ただし、第八条のいかなる規定も、次のものについては、適用しない。

 (c) 租税条約に基づいて締約国が与える利益に関する最恵国待遇の義務

 (d) 現行の租税に係る課税措置の規定のうち同条の規定に適合しないもの

 (e) 現行の租税に係る課税措置の規定のうち同条の規定に適合しないものの継続又は即時の更新

 (f) 現行の租税に係る課税措置の規定のうち同条の規定に適合しないものの改正(当該改正において当該租税に係る課税措置と同条の規定との適合性の水準を低下させない場合に限る。)

 (g) 租税の公平な又は効果的な賦課又は徴収を確保することを目的とする新たな租税に係る課税措置(課税を目的として居住地に基づいて者を区別する租税に係る課税措置を含む。)の採用又は実施。ただし、当該租税に係る課税措置が両締約国の者、物品又はサービスの間で恣意的な差別を行わないことを条件とする。*6*

 (h) 年金信託、年金計画、退職年金基金その他の制度であって、年金若しくは退職年金の支払又は類似の給付を行うためのものに関し、締約国が、当該制度に対する継続的な権限、規制又は監督の維持を要求することを、当該制度への拠出又は当該制度の収入に関する利益の享受又はその継続のための条件とする規定

 (i) 保険料に対する消費税(当該消費税が他方の締約国によって課されていたとしたならば、(d)から(f)までの規定の対象となったであろうものに限る。)

   第七条 関税

いずれの締約国も、一方の締約国の者と他方の締約国の者との間の電子的な送信(電子的に送信されるコンテンツを含む。)に対して関税を課してはならない。

   第八条 デジタル・プロダクトの無差別待遇

1 いずれの一方の締約国も、他方の締約国の領域において創作され、生産され、出版され、契約され、委託され、若しくは商業的な条件に基づき初めて利用可能なものとされたデジタル・プロダクト又はその著作者、実演家、制作者、開発者若しくは所有者が他方の締約国の者であるデジタル・プロダクトに対し、他の同種のデジタル・プロダクトに与える待遇よりも不利な待遇を与えてはならない*7*。

2 この条の規定は、締約国によって交付される補助金又は行われる贈与(公的に支援される借款、保証及び保険を含む。)については、適用しない。

3 この条のいかなる規定も、締約国が放送*8*の提供に従事する企業における外国資本の参加の割合を制限する措置を採用し、又は維持することを妨げるものではない。

4 1の規定は、知的財産権に関し、知的財産に関する両締約国間の二国間協定に基づく権利及び義務に抵触する限りにおいて、又は当該二国間協定が存在しない場合には両締約国が締結している知的財産に関する国際協定に基づく権利及び義務に抵触する限りにおいて、適用しない。

   第九条 国内の電子的な取引の枠組み

1 各締約国は、電子的な取引を規律する法的枠組みであって、千九百九十六年の電子商取引に関する国際連合国際商取引法委員会モデル法の原則に適合するものを維持する。

2 各締約国は、次のことを行うよう努める。

 (a) 電子的な取引に対する不必要な規制の負担を回避すること。

 (b) 電子的な取引を規律する自国の法的枠組みの策定において利害関係者による寄与を容易にすること。

   第十条 電子認証及び電子署名

1 締約国は、自国の法令に別段の定めがある場合を除くほか、署名が電子的な形式によるものであることのみを理由として当該署名の法的な有効性を否定してはならない。

2 いずれの締約国も、電子認証又は電子署名に関する次の措置を採用し、又は維持してはならない。

 (a) 電子的な取引の当事者が当該取引のための適当な電子認証の方式又は電子署名を相互に決定することを禁止することとなる措置

 (b) 電子的な取引の当事者が当該取引について電子認証又は電子署名に関する法的な要件を満たしていることを司法当局又は行政当局に対して証明する機会を得ることを妨げることとなる措置

3 締約国は、2の規定にかかわらず、特定の区分の取引について、電子認証の方式又は電子署名が特定の実施基準を満たすこと又は自国の法令に従って認定された当局によって認証されることを要求することができる。

   第十一条 情報の電子的手段による国境を越える移転

1 いずれの締約国も、情報(個人情報を含む。)の電子的手段による国境を越える移転が対象者の事業の実施のために行われる場合には、当該移転を禁止し、又は制限してはならない。

2 この条のいかなる規定も、1の規定に適合しない措置であって、締約国が公共政策の正当な目的を達成するために必要なものを採用し、又は維持することを妨げるものではない。ただし、当該措置が、次の要件を満たすことを条件とする。*9*

 (a) 恣意的若しくは不当な差別の手段となるような態様で又は貿易に対する偽装した制限となるような態様で適用されないこと。

 (b) 目的の達成に必要な範囲を超えて情報の移転に制限を課するものではないこと。

   第十二条 コンピュータ関連設備の設置

1 いずれの締約国も、自国の領域において事業を実施するための条件として、対象者に対し、当該領域においてコンピュータ関連設備を利用し、又は設置することを要求してはならない。

2 この条の規定は、対象金融サービス提供者については、適用しない。対象金融サービス提供者については、次条において取り扱う。

   第十三条 対象金融サービス提供者のための金融サービスのコンピュータ関連設備の設置

1 両締約国は、対象金融サービス提供者の情報(当該対象金融サービス提供者の取引及び運営の基礎となる情報を含む。)への締約国の金融規制当局による迅速、直接的、完全及び継続的なアクセスが金融に係る規制及び監督のために不可欠であることを認識し、並びに当該アクセスへの潜在的な全ての制限を撤廃することの必要性を認識する。

2 いずれの締約国も、対象金融サービス提供者が当該締約国の領域外において利用し、又は設置する金融サービスのコンピュータ関連設備において処理され、又は保存される情報に対し、当該締約国の金融規制当局が、規制及び監督を目的として、迅速、直接的、完全及び継続的なアクセスを認められる場合には、対象金融サービス提供者に対し、当該締約国の領域において事業を実施するための条件として、当該領域において金融サービスのコンピュータ関連設備を利用し、又は設置することを要求してはならない*10*。

3 各締約国は、対象金融サービス提供者に対して当該締約国の領域において金融サービスのコンピュータ関連設備を利用し、又は設置することを要求する前に、実行可能な範囲内で、当該対象金融サービス提供者に対し、2に規定する情報へのアクセスが不十分であることを改善するための合理的な機会を与える*11*。

   第十四条 オンラインの消費者の保護

1 両締約国は、消費者がデジタル貿易を行うに当たり、当該消費者を詐欺的又は欺まん的な商業活動から保護するための透明性のある、かつ、効果的な措置を採用し、及び維持することの重要性を認識する。

2 各締約国は、オンライン上の商業活動を行う消費者に損害を及ぼし、又は及ぼすおそれのある詐欺的又は欺まん的な商業活動を禁止するため、消費者の保護に関する法律を制定し、又は維持する。

   第十五条 個人情報の保護

1 各締約国は、デジタル貿易の利用者の個人情報の保護について定める法的枠組みを採用し、又は維持する*12*。

2 各締約国は、個人情報の保護であって自国がデジタル貿易の利用者に提供するものに関する情報を公表する。当該情報には、次の方法に関するものを含める。

  (a) 自然人が救済を得ることができる方法

  (b) 企業が法的な要件を満たすことができる方法

3 各締約国は、個人情報を保護するために両締約国が異なる法的な取組方法をとることができることを認識しつつ、このような異なる制度の間の相互運用性を促進する仕組みの整備を奨励すべきである。

4 両締約国は、個人情報を保護するための措置の遵守を確保すること及び個人情報の国境を越える流通に対する制限が当該流通によりもたらされる危険性との関係で必要であり、かつ、当該危険性に比例したものであることを確保することの重要性を認識する。

   第十六条 要求されていない商業上の電子メッセージ

1 各締約国は、要求されていない商業上の電子メッセージに関する次の措置を採用し、又は維持する。

  (a) 要求されていない商業上の電子メッセージの提供者に対し、受信者が当該要求されていない商業上の電子メッセージの現に行われている受信の防止を円滑に行うことができるようにすることを要求する措置

  (b) 自国の法令によって特定された方法により、商業上の電子メッセージを受信することについて受信者の同意を要求する措置

2 各締約国は、要求されていない商業上の電子メッセージの提供者であって、1の規定に従って採用し、又は維持する措置を遵守しないものに対し、その遵守を求める手段について定める。  

   第十七条 ソース・コード

1 いずれの一方の締約国も、他方の締約国の者が所有するソフトウェア又は当該ソフトウェアを含む製品の一方の締約国の領域における輸入、流通、販売又は使用の条件として、当該ソフトウェアのソース・コードの移転若しくは当該ソース・コードへのアクセス又は当該ソース・コードにおいて表現されるアルゴリズムの移転若しくは当該アルゴリズムへのアクセスを要求してはならない。

2 この条の規定は、一方の締約国の規制機関又は司法当局が、他方の締約国の者に対し、特定の調査、検査、検討、執行活動又は司法手続のため、ソフトウェアのソース・コード又は当該ソース・コードにおいて表現されるアルゴリズムを保存し、又は入手可能なものとすること*13*を要求することを妨げるものではない。ただし、当該ソース・コード及び当該アルゴリズムを許可されていない開示からの保護の対象とすることを条件とする。

   第十八条 コンピュータを利用した双方向サービス*14*

1 両締約国は、コンピュータを利用した双方向サービスをデジタル貿易を増進するために不可欠なものとして促進することの重要性(中小企業にとっての重要性を含む。)を認識する。

2 このため、4に規定する場合を除くほか、いずれの締約国も、コンピ ュータを利用した双方向サービスによって保存され、処理され、送信され、流通し、又は利用可能なものとされる情報に関連する損害についての責任を決定するに当たり、当該コンピュータを利用した双方向サービスの提供者又は利用者を情報コンテンツ・プロバイダとして取り扱う措置を採用し、又は維持してはならない。ただし、当該提供者又は利用者が当該情報の全部又は一部を作成した場合を除く。*15*

3 いずれの締約国も、コンピュータを利用した双方向サービスの提供者又は利用者による次の行為を理由として、当該提供者又は利用者に責任を負わせてはならない。

 (a) 当該提供者若しくは利用者がコンピュータを利用した双方向サービスを提供し、若しくは利用することを通じてアクセス可能若しくは利用可能となるデータであって、当該提供者若しくは利用者が有害であり、若しくは異議が申し立てられる可能性があると認めるものへのアクセス又は当該データの利用可能性を制限するために誠実かつ自発的に行った行為

 (b) 情報コンテンツ・プロバイダその他の者が有害であり、又は異議が申し立てられる可能性があると認めるデータへのアクセスを制限することができるような技術的手段を可能とし、又は利用可能とするために行った行為

4 この条のいかなる規定も、

 (a) 知的財産に関する締約国の措置(知的財産の侵害に係る責任について取り扱う措置を含む。)については、適用しない。

 (b) 知的財産権の保護又は行使のための締約国の能力を拡大し、又は減ずるものと解してはならない。

 (c) 次のことを妨げるものと解してはならない。

  (i) 締約国が刑事法を執行すること。

  (ii) コンピュータを利用した双方向サービスの提供者又は利用者が法執行当局の特定のかつ合法的な命令を遵守すること。

   第十九条 サイバーセキュリティ

1 両締約国は、サイバーセキュリティに対する脅威がデジタル貿易に対する信頼を損なうものであることを認識する。したがって、両締約国は、次のことを行うよう努める。

 (a) コンピュータの安全性に係る事象への対応について責任を負うそれぞれの権限のある当局の能力を構築すること。

 (b) 電子的なネットワークに影響を及ぼす悪意のある侵入又は悪意のコードの拡散を特定し、及び軽減するために協力するための現行の協力の仕組みを強化すること並びに当該仕組みをサイバーセキュリティに係る事象への迅速な対処のために並びに意識の向上及び良い慣行に関する情報の共有のために利用すること。

2 両締約国は、サイバーセキュリティに対する脅威の進化する性質に鑑み、当該脅威に対処するに当たって、定められている規制よりも危険性に基づいた方法が一層効果的なものとなることができることを認識する。したがって、各締約国は、サイバーセキュリティ上の危険を特定し、及び当該危険を防止するため並びにサイバーセキュリティに係る事態の発見、当該事態への対応及び当該事態からの回復のため、危険性に基づいた方法(コンセンサス方式による基準及び危険度に応じた管理手法に関する良い慣行に依拠するもの)を採用するよう努め、及び自国の領域内の企業に対し、当該方法を利用することを奨励するよう努める。

   第二十条 政府の公開されたデータ

1  両締約国は、政府の情報への公衆のアクセス及び政府の情報の公衆による利用を容易にすることが経済的及び社会的な発展、競争力並びにイノベーションを促進することを認識する。

2 締約国は、自国が政府の情報を公衆により利用可能なものとすることを選択する限りにおいて、政府の情報が機械による判読が可能であり、及び開かれた様式であること並びに検索、抽出、利用、再利用及び再配布することができるものであることを確保するよう努める。

3 両締約国は、特に中小企業のため、事業機会を増大させ、及び創出する観点から、各締約国が公衆により利用可能なものとした政府の情報へのアクセス及び当該政府の情報の利用を当該締約国が拡大することができる方法を特定するために協力するよう努める。

   第二十一条 暗号法を使用する情報通信技術産品

1 この条の規定の適用上、

 (a) 「暗号」又は「暗号化アルゴリズム」とは、暗号文を作成するために暗号鍵を平文と組み合わせる数学的な手法又は式をいう。

 (b) 「暗号法」とは、データの内容を秘匿し、若しくは偽装し、又はデータの探知されない変更若しくは許可なく行われる使用を防止することを目的とする当該データの変換のための原理、手段又は方法をいい、一若しくは二以上の秘密のパラメーター(例えば、暗号変数)又は関連する暗号鍵の管理を使用する情報の変換に限る。

 (c) 「暗号化」とは、暗号化アルゴリズムの使用を通じ、データ(平文)を再転換及び暗号法の適当な暗号鍵なしには容易に理解することができない形式(暗号文)に転換することをいう。

 (d) 「情報通信技術産品」とは、意図された機能が情報の処理及び電子的手段による通信(送信及び表示を含む。)である産品又は当該機能が物理的な現象の特定若しくは記録のために若しくは物理的な過程の管理のために適用される電子的な処理である産品をいう。

 (e) 「暗号鍵」とは、当該暗号鍵を知る主体は暗号化アルゴリズムの演算を再現し、又は逆算することができるが、当該暗号鍵を知らない主体はこれらを行うことができないような方法によって当該演算を決定するパラメーターであって、暗号化アルゴリズムに関連して使用されるものをいう。

2 この条の規定は、暗号法を使用する情報通信技術産品について適用する*16*。ただし、この条の規定は、次のものについては、適用しない。

 (a) 締約国の法執行当局(サービス提供者であって、自らが管理する暗号化を使用するものに対し、当該締約国の法的手続に従い暗号化されていない通信を提供するよう要求する場合に限る。)

 (b) 金融商品の規制

 (c) 締約国の政府(中央銀行を含む。)が所有し、又は管理するネットワーク(利用者の装置を含む。)へのアクセスに関して当該締約国が採用し、又は維持する要件

 (d) 締約国が金融機関又は金融市場に関連する監督、調査又は検査の権限に基づいてとる措置

 (e) 締約国の政府による又は締約国の政府のための情報通信技術産品の製造、販売、流通、輸入又は使用

3 いずれの締約国も、暗号法を使用し、及び商業上の目的のために設計された情報通信技術産品に関し、当該情報通信技術産品の製造、販売、流通、輸入又は使用の条件として、当該情報通信技術産品の製造者又は供給者に対して次のいずれかのことを要求してはならない。

 (a) 当該締約国又は当該締約国の領域に所在する者に対し、暗号法に関連する財産的価値を有する情報を移転し、又は当該情報へのアクセスを提供すること(特定の技術、生産工程その他の情報(例えば、非公開の暗号鍵その他の秘密のパラメーター、アルゴリズムの仕様その他設計の詳細)の開示によるものを含む。)。

 (b) 情報通信技術産品の開発、製造、販売、流通、輸入又は使用について、当該締約国の領域に所在する者と提携し、又は協力すること。

 (c) 特定の暗号化アルゴリズム又は暗号を使用し、又は統合すること。

   第二十二条 改正、効力発生及び終了

1 両締約国は、この協定の改正につき書面により合意することができる。改正は、両締約国がそれぞれの関係する国内法上の手続に従って当該改正の承認を書面により相互に通告した日の後三十日で、又は両締約国が決定する他の日に効力を生ずる。

2 この協定は、両締約国がそれぞれの関係する国内法上の手続を完了した旨を書面により相互に通告した日の後三十日で、又は両締約国が決定する他の日に効力を生ずる。

3 いずれの一方の締約国も、他方の締約国に対し書面による終了の通告を行うことにより、この協定を終了させることができる。その終了は、一方の締約国が他方の締約国に対して書面による通告を行った日の後四箇月で、又は両締約国が決定する他の日に効力を生ずる。

 以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの協定に署名した。

 二千十九年十月七日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。

   日本国のために
     杉山晋輔

   アメリカ合衆国のために
    ロバート・E・ライトハイザー



{*1* デジタル・プロダクトには、金融商品をデジタル式に表したもの(金銭を含む。)を含まない。(h) 「電子認証」とは、電子的な通信又は取引の当事者の同一性を検証し、及び電子的な通信の信頼性を確保するための処理又は行為をいう。}
{*2* 日本国においては、電子署名については、当該電子文書又は電子メッセージに含まれる情報が改変されていないことが当該データにより確証されるものであるとの要件を満たさなければならない。}
{*3* この(a)の規定は、各締約国の法令に基づいて当該投資又は財産の価額を決定するために用いられる方法に影響を及ぼすものではない。}
{*4* この(a)の規定は、各締約国の法令に基づいて当該投資又は財産の価額を決定するために用いられる方法に影響を及ぼすものではない。}
{*5* この(b)の規定は、各締約国の法令に基づいて当該投資又は財産の価額を決定するために用いられる方法に影響を及ぼすものではない。}
{*6* 両締約国は、サービス貿易一般協定第十四条(d)の規定がサービス及び直接税に限定されないものとみなした場合の同条(d)の注の規定を参照して、この(g)の規定を解釈しなければならないことを了解する。}
{*7* この1の規定の適用上、第三国のデジタル・プロダクトは、「同種のデジタル・プロダクト」である限りにおいて、「他の同種のデジタル・プロダクト」に該当する。}
{*8* この3の規定の適用上、日本国については、「放送」とは、公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信をいい(放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第一号)、オンデマンド・サービス(インターネット上で提供されるそのようなサービスを含む。)を含まない。}
{*9* ある措置が、データの移転に関し、当該移転が国境を越えるものであることのみを理由として、競争条件の変更により対象者に不利益をもたらすような態様で当該移転に対して異なる待遇を与える場合には、当該措置は、この2の規定の要件を満たさない。}
{*10* 締約国は、この協定に反しない措置(第五条の規定に適合する措置を含む。)を採用し、又は維持することができる。}
{*11*  注11 締約国は、対象金融サービス提供者に対して当該締約国の領域において金融サービスのコンピュータ関連設備を利用し、又は設置することを要求することができる。ただし、当該締約国の金融規制当局が2に規定する情報へのアクセスを認められない場合に限る。}
{*12* 締約国は、プライバシー、個人情報又は個人データを保護する包括的な法律、プライバシーを対象とする分野別の法律、企業によるプライバシーに関する自主的な取組の実施について定める法律等の措置を採用し、又は維持することにより、この1に定める義務を履行することができる。}
{*13* ソフトウェアのソース・コードの営業上の秘密としての地位が当該営業上の秘密の保有者により主張される場合には、当該ソース・コード又は当該ソース・コードにおいて表現されるアルゴリズムを入手可能なものとすることは、当該地位に悪影響を及ぼすものと解してはならない。}
{*14* この条の規定は、第三条の規定に従うものとする。同条の規定は、この協定の適用上、特にサービス貿易一般協定第十四条(a)の規定に基づく公衆の道徳の保護のために必要な措置のための例外が、必要な変更を加えた上で、この協定に組み込まれ、この協定の一部を成すことを定める。両締約国は、オンライン上の性的取引、児童の性的搾取及び売春からの保護のために必要な措置(例えば、アメリカ合衆国の千九百三十四年の通信法を改正する「二千十七年のオンライン上の性的取引に対する州及び被害者による対策法」(第百十五議会第百六十四号一般法律))が公衆の道徳の保護のために必要な措置であることに合意する。}
{*15* 締約国は、自国の法令を通じて又は司法上の決定により適用される現行の法の原則を通じてこの条の規定を遵守することができる。}
{*16* この条の規定の適用上、情報通信技術産品には、金融商品を含まない。}