データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日比米首脳による共同ビジョンステートメント

[場所] 
[年月日] 2024年4月11日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

 我々、日本、フィリピン及び米国の首脳は、本日、三か国間で初めての首脳会合のために会談した。三つのインド太平洋の海洋民主主義国家として、日比米三か国及び我々が代表している5億人の国民は、歴史的な友好の絆、強固で成長している経済関係、そして自由、民主主義、人権の尊重及び法の支配という共有された基本的価値に対する誇り高く確固たるコミットメントによって互いに結ばれている。我々は今日、対等なパートナー及び信頼できる友人としてワシントンに集い、自由で開かれたインド太平洋と国際法に基づく国際秩序という我々が共有するビジョン、つまり、今後数十年にわたり、共に発展させていくことを誓うビジョンによって団結している。我々は、協働することによって、我々自身の国々、インド太平洋地域、そして世界の安全と繁栄を促進できると根底から信じている。

 本日の我々による歴史的な首脳会合は、数十年にわたるパートナーシップの集大成であり、日比米三か国の政府の取組に係る最近のモメンタムを基盤とする。2023年6月、日比米三か国間の協力のための共通の枠組みを立ち上げるため、日比米三か国の国家安全保障担当補佐官が東京で会談し、2023年12月にも再びオンラインで会談した。2023年7月及び9月、経済安全保障、開発、人道支援、海洋安全保障及び防衛に関する共有するアジェンダを前進させるため、日比米三か国の外務大臣が会談した。2023年9月、岸田総理大臣、マルコス大統領及びハリス副大統領は、日比米三か国の協力を深化させるために会談した。本日の首脳会合に続き、我々は、政府横断的な日比米三か国の関与を一層拡大し、部門を超えた協力の取組を強化することを意図する。

 日比米三か国は、連結され、繁栄し、安全で、包摂的で、強じん性のある自由で開かれたインド太平洋への確固たるコミットメントを共有する。我々は、これらの目標を共有する幅広いパートナーとの連携及び協力を歓迎する。その精神に則り、我々は、ASEAN中心性・一体性及び「インド太平洋に関するASEANアウトルック」に対する揺るぎない支持を確認する。我々は、太平洋島嶼国への支持を強調し、「ブルーパシフィック大陸のための2050年戦略」を支援するため、太平洋諸島フォーラム(PIF)と透明性高くかつ効果的に連携することを意図する。さらに、我々は、日米豪印(Quad)、AUKUS、日米韓三か国の枠組みによるものを含め、平和で安定した、ルールに基づくインド太平洋地域を支援するための取組を歓迎する。

包摂的な経済成長及び経済的強じん性の促進

 日比米三か国は、我々三か国及びより広範なインド太平洋地域において、永続的かつ包摂的な経済成長及び強じん性を促進することを決意する。我々は、広範かつ持続可能な経済成長を促進し、強じんで信頼性のある多様なサプライチェーンに投資するという、我々が共有する目標を推進する経済プロジェクトを追求している。我々は、日米比三か国の経済とより広範な地域のために、強じん性、持続可能性、包摂性、経済成長、公平性及び競争力を推進するべく、インド太平洋経済枠組み(IPEF)の継続的な進展を支持する。マルコス大統領は、バイデン大統領による最近のフィリピンへの大統領貿易投資ミッション並びにフィリピンのイノベーション経済、クリーンエネルギー移行及びサプライチェーン強じん化を促進することを支援する10億ドル以上の米国の民間部門投資の発表並びにフィリピンにおける民間部門投資の動員に対する米国の継続的なコミットメントを歓迎する。マルコス大統領は、2023年の日・フィリピン共同声明における6000億円のプレッジを上回った2022-2023会計年度における日本の政府開発援助及び民間部門投資の貢献に感謝する。我々は、共有するアジェンダを前進させるために本日初めて開催された日比米商務産業大臣会合を歓迎する。日比米三か国は、フィリピンによる上位中所得国及びそれ以上のステータスの獲得に向けて現在進行中及び将来の経済協力プロジェクトの着実な実施を促進することにコミットする。

 我々は、経済的威圧について懸念を表明するとともに強く反対し、ルールに基づく経済秩序の重要性を強調し、経済的威圧への対応における緊密な連携の必要性を強調する。

ルソン回廊の発表

 日比米三か国は、インド太平洋における最初のグローバル・インフラ・投資パートナーシップ回廊について連携できることを誇りに思う。本日、我々は、フィリピンにおけるスービック湾、クラーク、マニラ及びバタンガス間の連携性を支援するルソン経済回廊を立ち上げる。グローバル・インフラ・投資パートナーシップ-IPEF投資アクセラレーターの一部であるこの回廊を通じて、日本、フィリピン及び米国は、鉄道、港湾の近代化、クリーンエネルギーと半導体サプライチェーン及びその展開、農業ビジネス並びにスービック湾の民間港の改修を含め、影響の大きいインフラプロジェクトへの協調された投資を加速させることにコミットする。日本は、国際協力機構を通じて、鉄道及び道路を含むこの地域の連携性を長年にわたり支援してきている。我々は、質の高い、変革的な投資を誘致すべく、多数国間組織及び民間部門と共に取り組むことを計画している。我々は、地域における米国による最高峰の商業イベントである、5月にマニラで開催されるインド太平洋ビジネスフォーラムの際に、ルソン回廊への投資を促進する日米比三か国の行事を開催する意図を有する。米国国際開発金融公社はまた、フィリピン全土への更なる投資を促進するため、フィリピンに地域事務所を開設する意図を有する。ルソン回廊は、複数のセクターにまたがる具体的な投資の実現に焦点を当てた、我々の強化された経済協力の表れである。日本、フィリピン及び米国はまた、フィリピンの他の地域において協力及び投資を拡大するために連携している。

重要・新興技術の開発

 我々は、最先端技術に係る機会を掴むために日米比三か国の市民の才能及び創意工夫を活用することにコミットする。米国は、議会への通知を条件として、また日本は、日本の産業界からの支援を受け、フィリピンにおいて将来の商業的展開及びオープンで相互運用性があり、安全で、信頼でき、かつ信用できる情報通信技術エコシステムを可能にするため、オープン無線アクセス・ネットワーク(RAN)の実証実験及びマニラを拠点とするアジア・オープンRAN・アカデミーのために、少なくとも800万ドルを提供する意図を有する。これは、フィリピンにおけるこれらのプロジェクトに対する900万ドルを超える日米のこれまでの投資を基盤とするものである。日本政府はまた、グローバルサウス未来志向型共創等事業によるものを含め、フィリピンにおけるオープンRAN技術のあり得べき商業展開に向けた更なる投資を真剣に検討している。米国及び日本は、フィリピンの国家ブロードバンド計画及び無料Wi-Fi 事業において、オープンRANを試験的に導入する計画を歓迎する。米国及び日本は、国家オープンRAN政策枠組みの策定に対するフィリピンのコミットメントを称賛し、オープンで、相互運用性があり、信用できるアーキテクチャへのフィリピンの賛同を再確認する。本年、日比米三か国は、更なる協力の機会を模索するため、初の日米比サイバー・デジタル対話を開催することを期待する。

 我々は、日米比三か国の半導体サプライチェーンの確保を支援するため、フィリピンの学生が米国及び日本の主要な大学で世界レベルの研修を受講することによる新たな半導体人材育成イニシアティブを追求する意図を有する。このイニシアティブは、日米比三か国間のサプライチェーンの強じん性を強化することになる、フィリピンにおける半導体投資の拡大を補完するものである。さらに、CHIPS及び科学法の国際技術安全保障・革新基金を通じて、米国及びフィリピンは、グローバル・サプライチェーンを強化するべく、フィリピンの半導体分野の労働力を開発及び拡大するための取組を連携させる予定である。

気候におけるパートナーシップとクリーンエネルギー・サプライチェーンの推進

 気候危機という存亡に関わる脅威を認識し、我々は、異なる国の状況に留意しつつ、摂氏1.5度の温暖化制限に沿って温室効果ガスの排出を削減し、クリーンエネルギー経済構築のための取組を加速化するため、この10年間に緊急行動をとることへのコミットメントを確認する。日米比三か国は、フィリピンにおけるエネルギー需要を支援し、公正なエネルギー移行を確保することを支援するため、太陽光や風力等の再生可能エネルギー事業を含むクリーンエネルギー技術の導入に関して、フィリピンにおける三か国協力を拡大することを追求する。我々はまた、3月21日にブリュッセルにおいて開催され、日本、フィリピン及び米国を含む35か国以上からの参加者が、原子力が多面的かつ包括的なクリーンエネルギー移行の重要な要素であることを認識した第1回原子力エネルギー・サミットを歓迎する。科学者、技術者、関連人材及び政策立案者のための更なる訓練及び能力構築に係るフィリピンの要望を認識し、日比米三か国は安心で安全な民生用原子力の能力構築に関するパートナーシップの拡大を追求する。小型モジュール炉技術の責任ある利用のための基礎インフラ(FIRST)プログラムの下、米国及び日本は、フィリピン及びその他のFIRSTパートナー国の原子力専門家や政策決定者を対象とした原子力エネルギー・スタディーツアーを日本で共催する予定である。我々はまた、フィリピンの民生用原子力計画を推進するため、本年の日比米三か国対話を通じて、民生用原子力人材育成に関する日比米協力を深化させることを計画している。

 日本、フィリピン及び米国は、クリーンエネルギーへの移行のための協力を拡大し、労働者の権利及び環境に対する強力な保護を伴う、明確で透明性が高くかつ公正な市場競争における資源の互恵的な開発を通じて、三か国間で高水準のクリーンエネルギー・サプライチェーンに関する雇用を創出するために協力している。日本、フィリピン及び米国は、重要鉱物資源のための強じんで信頼できるグローバル・サプライチェーンを促進する方法として、三か国全てにおける重要鉱物資源産業を支援する。我々は、電気自動車及びエネルギー貯蔵システム用の電池材料や電池を生産し、世界市場に供給するという目標を共有する。米国は、インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラムの下、日本及びフィリピンからの選ばれた参加者を対象としたクリーンエネルギー・サプライチェーン研修プログラムを運営する予定である。さらに、米国及び日本は、フィリピンが、集合的なクリーンエネルギー・サプライチェーンの確保及び多様化に向けた重要な一歩を意味する鉱物資源安全保障パートナーシップ・フォーラムの創設メンバーになることを期待する。

平和と安全のための連携

 本日、バイデン大統領は、数十年にわたりインド太平洋における平和と安全の維持を支えてきた、日本及びフィリピンに対する揺るぎない同盟上のコミットメントを再確認する。我々は、航行及び上空飛行の自由に対する日米比三か国の揺るぎないコミットメントを強調し、1982年の国連海洋法条約(UNCLOS)に反映されている国際法に整合的な形で排他的経済水域内における国家の主権的権利を尊重することの重要性を強調する。

 我々は、南シナ海における中国の危険かつ攻撃的な行動について、深刻な懸念を表明する。我々はまた、南シナ海における埋立て地形の軍事化及び不法な海洋権益に関する主張を懸念している。我々は、南シナ海における海上保安機関及び海上民兵船舶の危険で威圧的な使用、並びに他国の海洋資源開発を妨害する試みに断固反対する。我々は、危険で不安定化をもたらす行為となる、中国によるフィリピン船舶の公海における航行の自由の行使に対する度重なる妨害及びセカンド・トーマス礁への補給線への妨害に対して、深刻な懸念を改めて表明する。最終的かつ法的拘束力を有する、2016年7月12日の仲裁判断は、この地形はフィリピンの排他的経済水域内にあると決定しており、我々は中国に対してこの判断を遵守するよう求める。

 我々は、東シナ海の状況について深刻な懸念を表明し、尖閣諸島に対する日本の長きにわたり、かつ、平穏な施政を損なおうとする行為を通じたものを含む、中国による東シナ海における力又は威圧によるあらゆる一方的な現状変更の試みにも強い反対の意を改めて表明する。

我々は、世界の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性を確認し、台湾に関する我々の基本的立場に変更はないことを認識し、両岸問題の平和的解決を促す。

 我々は、自由で開かれたインド太平洋を支援するための最近の日米比三か国間の協力を歓迎し、同協力を深化させることにコミットする。米国及び日本は、日本からフィリピンに対する海上保安船舶12隻の最近の提供や、船舶5隻の追加提供の計画を通じたものを含め、フィリピン沿岸警備隊の能力向上を支援し続けている。2023年の日比米海上保安機関間での初の合同訓練に続き、米国は、本年、インド太平洋でのパトロール中にフィリピン沿岸警備隊及び日本海上保安庁の職員を米国沿岸警備隊の船舶に迎えることを期待する。また、今後一年以内に、日米比三か国の海上保安機関は、相互運用性を向上し、海洋安全及び保安を推進するため、インド太平洋において三か国間海上合同訓練及びその他の海上活動を実施する予定である。我々は、海洋協力を促進するための協調と集団的対応を強化するため、日比米海洋協議の立上げを発表する。我々は、違法・無報告・無規制漁業を懸念する。我々は、伝統的な生計を追求するフィリピン及び日本の漁民の能力を支援する。地域の能力を構築し、国際犯罪、違法・無報告・無規制漁業及びその他の海洋の課題がもたらす脅威に対処するため、日本、フィリピン及び米国は、この地域のパートナー国に海上法執行の訓練と支援を提供する取組を拡大する予定である。

 日比米三か国は、海洋状況把握の促進や人道支援及び災害救援に関する協力を深化するため、広範な連携を強化することを約束する。我々は、海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(IPMDA)等の場を通じて、多国間の海洋状況把握協力を推進するコミットメントを強調する。我々は、東南アジアの地域パートナーとの共同訓練の機会を特定し、実施することを意図する。我々はまた、いかなる危機や偶発的事態にも備え、その対応にシームレスかつ迅速に協力できるよう、バリカタン2025を含む三か国又は多国間の活動に統合され得る、日比米の人道支援・災害対応訓練を立ち上げる。我々は、先日完了した日本、フィリピン、米国及び豪州間の海上協同活動のような、日米比三か国間及びその他のパートナーとの間の海軍種間の共同訓練・演習を通じた協力や、フィリピンの国防近代化の優先事項に対する米国及び日本の支援を連携させることにより、三か国間の防衛協力を推進することを決意する。我々は、2025年に日本周辺において海上における訓練を実施することを予定している。また、日本は、新たな政府安全保障能力強化支援の協力枠組みを通じて引き続き貢献する。米国及びフィリピンは、地域における抑止力を強化する共同開発・生産を通じた協力を増進する、日本の防衛装備移転三原則及びその運用指針の改正を歓迎する。また、米国及び日本は、豪比間及び比韓間の防衛協力の拡大を歓迎する。

 日米比三か国は、朝鮮半島の完全な非核化へのコミットメントを確認し、平和と安全に対する重大な脅威をもたらす、北朝鮮によるエスカレートを招く威嚇及び複数の大陸間弾道ミサイルの発射を含む、前例のない数の弾道ミサイルの発射を強く非難する。我々は、拉致問題の即時解決を含め、国際社会の人権及び人道上の懸念に対処することの重要性を強調する。我々は、北朝鮮に対し、関連の国連安全保障理事会決議を遵守し、弾道ミサイルの開発、実験及びウクライナに対してこれらの弾道ミサイルを使用したロシアを含むあらゆる国に対する移転を継続しないよう強く求める。我々は、これらの北朝鮮の行動は、インド太平洋地域及び欧州地域に安全保障上の深刻な影響を及ぼすものであると主張する。我々は、国連憲章を含む国際法へのコミットメントを引き続き確認するとともに、国際的に承認された国境内におけるウクライナの主権、独立及び領土一体性に対する揺るぎない支持を改めて表明する。そのために、我々は、武力による威嚇又は武力の行使による領土の取得は合法とは認められないと述べた国連総会決議を想起する。ロシアによるウクライナ侵略の文脈におけるロシアによる核兵器の使用の威嚇は受け入れられず、我々は、ウクライナにおけるロシアによる核兵器のいかなる使用も全く正当化できないものであることを断固として表明する。

 我々は、核兵器不拡散条約を礎石として、「核兵器のない世界」を共に追求することを再確認し、核兵器国に対し、安定性と透明性を促進し、核リスクの低減について実質的な対話を行うよう求める。「FMCTフレンズ」の創設メンバーとして、我々はまた、長きにわたって遅延している核兵器用核分裂性物質生産禁止条約の即時交渉開始を求める。

 我々は、ジェンダー平等並びにあらゆる多様性を有する女性及び女児の権利を擁護することにコミットする。この観点から、我々は、女性・平和・安全保障(WPS)アジェンダの強化にコミットする。我々は、暴力的な紛争を予防し、復旧・復興活動を提供する上で女性が果たす主導的な役割を強調し、和平及び政治プロセスへの女性の完全かつ平等で有意義な参画を促進することを誓約する。我々は、2025年の25周年に先立ち国連安全保障理事会決議1325号の世界規模での履行をレビューするために、フィリピンが本年10月にWPSに関する国際会議を主催することを歓迎する。

 最後に、我々は、強力な民主主義制度、法の支配、人権の尊重、ジェンダー平等、人間の尊厳の重要性を強調する。我々は、誇り高く、強じんな民主主義国家を代表し、各々の課題を意識しつつも、それらを克服することを決意するとともに、人権、報道の自由及び国民の労働権の保護に引き続きコミットする。これらの民主主義的価値観は、我々の二国間関係と三か国間のパートナーシップの正に根幹を形成するものである。これらの理想は、我々首脳間、そして国民間の相互信頼を築き、維持することに役立ってきた。これらの共有された価値観によって団結し、我々は、現代の重大な問題に取り組み、日米比三か国、インド太平洋、そして世界の将来の世代のためにより良い未来を築くために、引き続き協働することにコミットする。

 本日、日米比三か国の新たな三か国協力の章が始まる。