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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の技術繁栄ディールについての協力に関する覚書

[場所] 東京
[年月日] 2025年10月28日
[出典] 内閣府
[備考] 
[全文] 

日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の技術繁栄ディールについての協力に関する覚書

科学技術政策について内閣府により代表される日本国政府及び科学技術政策局により代表されるアメリカ合衆国政府(以下「両者」という。)は、

次世代に亘る自由と繁栄を強固なものとするため、次のイノベーションの黄金時代を切り開くための科学技術能力及び基準について相互の関心を表明し;

両国の国民の生活と生計を豊かにするための二国間の科学技術協力の価値を確認し;

人工知能(AI)、量子技術、バイオテクノロジーを含む先端科学技術の急速な進歩が、両国の将来の繁栄に戦略的な意味を持ち、これらの分野における二国間協力の重要性を強調することを認識し;

現行の科学技術における研究開発のための協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定の下で確立された長年の協力に留意し;

また、インド太平洋地域の安定を強化する手段として、当該地域全体の戦略的パートナーとの科学技術における連携を深めることの重要性を認識し、

以下の認識に達した:

I.目的

この協力に関する覚書(以下「MOC」という)は、戦略的科学技術分野において、相互の利益となる共同の機会に向けて協力を強化することを目的とする。

II.協力分野

両当事者は、以下を含むがこれに限定されない多くの分野で協力する意向である:

AIの導入とイノベーションの加速

AIは、人々に力を与え、医療、バイオテクノロジー、教育などの分野における進歩を促進することにより、イノベーションの新たな黄金時代を約束する。両当事者は、イノベーションを促進するAI政策の枠組みの推進、AIフルスタックにわたる輸出の促進、重要・新興技術に関連する保護措置強化の重要性を認識した上での既存の保護措置の厳格な執行の確保、業界標準に関する協働、及び子どもたちのデジタル・ウェルビーイングの確保に関して緊密に協力する意向であり、安心で信頼できるAIエコシステムを互恵的な方法で推進するというコミットメントを共有する。協力の重点分野には以下が含まれる:

 ・ 科学技術振興機構、日本学術振興会、理化学研究所、米国国立科学財団、その他の関連研究機関や資金提供者によって支援される実用志向のイニシアティブを通じて、科学、産業、社会へのAIの導入を加速するための革新的研究を推進すること;

 ・ AIのパフォーマンスとアプリケーションに不可欠な基盤インフラを強化するため、AI時代を支える高性能コンピューティング、最先端半導体技術、量子コンピューティングを推進するための協力を深めること;

 ・ 日米主導のAI技術エコシステムの導入を支援するため、イノベーションを促進するAI政策の枠組みやイニシアティブを推進すること;

 ・ 日米のAIインフラ、ハードウェア、モデル、ソフトウェア、アプリケーション及び関連標準のフルスタックにわたる輸出を促進すること;

 ・ 既存の保護措置の厳格な執行を確保し、重要かつ機微な技術に関連する保護措置を強化し、AI技術スタックのサプライチェーンの強靱性を強化するために協力すること;

 ・ 相互運用性を促進するため、適用可能な慣行を調和させることを目標に、それぞれの当事者からのAI開発・導入のためのガイドライン及び枠組みの相互理解を促進すること;

 ・ 日本のAIセーフティ・インスティテュートと米国のAI標準・イノベーションセンターのパートナーシップを、AIの計測におけるベストプラクティスの追求、業界標準の開発、AIの継続的な導入を促進するための次世代のAIモデル及び分野固有のアプリケーションの理解向上を含む、安心で信頼できるAIエコシステムの育成によるAIイノベーションの促進という共通の使命に向けて前進させ、改めて重点を置くこと

 ・ 子どもたちがデジタル時代に活躍できるようにするための教育、イノベーション及び技術を推進し、将来の職場のための後世の準備を行うこと。

信頼できる技術リーダーシップ

両当事者は、国際場裏における技術リーダーシップを可能にするため、以下を含む主要な技術と実践に関する長年の協力関係を強化する意向である:

 ・ 研究セキュリティ

両当事者は、重要新興技術の研究開発において、研究セキュリティの目標を共有することの重要性を認識し、両当事者の技術と人材を守るための協力を深める。両当事者は、大学、研究機関及び産業界の能力構築を支援し、同盟国やパートナーと協力して同様の厳格な実践を共有し、信頼できるイノベーションのエコシステムを促進すること等を通じて、研究セキュリティにおいて連携し、研究活動への脅威を特定し軽減する意向である。

 ・ 次世代無線アクセスネットワーク、Beyond5G/6G、コネクティビティ

通信イノベーションとサプライチェーン強靱性におけるパートナーシップを拡大するため、両当事者は、日本の総務省と米国の電気通信情報庁とのパートナーシップを通じて、OpenRANやAI-RANなどの先進技術を活用し、信頼できる相互運用性のあるサプライチェーンの構築で協力する意向である。両当事者はまた、オール光ネットワークや量子ネットワークにおいても協力し、日本の情報通信研究機構、米国国立科学財団、その他の関連機関を通じて、Beyond5G/6G関連技術の共同研究開発を可能にする意向である。この取組は、標準化団体の協働や、オープンテストベッドを含む産業界との緊密なパートナーシップによって裏付けられることを意図しており、両当事者が共有する優先事項に基づく世界的な通信標準を形成し、信頼できる技術ソリューションの市場投入を加速する。北米とアジアとの間の接続ハブとしての日本の重要な役割を認識し、両当事者は、インド太平洋地域の海底ケーブルに関する現在進行中の連携を拡大する意向である。

 ・ 医薬品とバイオテクノロジーのサプライチェーンの確保

両当事者は、相互の医薬品とバイオテクノロジーのサプライチェーン、知的財産、イノベーションエコシステムを確保する必要性を強調し、脆弱性の特定と是正に向けた進展を加速させる意向である。両当事者は、強靱で健全な経済を支えるため、開発のあらゆる段階を通じて、開発業務受託機関(CRO)や開発製造受託機関(CDMO)を含む産官学の関係者間で、サプライチェーンの確保に関して連携する意向である。

 ・ 量子情報科学技術(QIST)

両当事者は、量子技術が解き放つ可能性の広がりを認識し、主要な量子研究機関や国立研究所を通じて協力し、量子性能の評価、量子アルゴリズムの開発、実環境における量子技術課題の克服、科学的発見の実現を目指す意向である。両当事者はまた、次世代の科学者や技術者の育成を支援する意向である。これらの活動は、新しい量子技術の研究、開発、採用のための信頼できるエコシステムを構築するため、技術やサプライチェーンの確保に向けた努力によって支えられることが期待される。

 ・ フュージョンエネルギーの可能性の解放

両当事者は、フュージョン技術が安全で強靱で豊富なエネルギーを提供する可能性を認識し、世界をリードするフュージョン産業エコシステムを促進するために協働する意向である。連携分野には、マグネットと高出力部品、フュージョン燃料サイクルとブランケット統合システム、中性子モデリング、フュージョン材料のサプライチェーンが含まれる。両当事者は、フュージョン炉の実用化開発と社会実装を支援することを目標に、実験炉JT-60SAを含むフュージョン研究開発において連携する意向である。

 ・ 宇宙

両当事者は、月及び火星への有人ミッションのための能力構築を含め、宇宙分野における研究開発投資が民生ミッションのニーズに貢献することを認識し、民生宇宙及び航空、科学及び有人探査に係る強力なパートナーシップを継続する意向である。連携分野には、国際宇宙ステーション(ISS)及び将来のアルテミス月面探査ミッション、並びに商業宇宙の強化支援が含まれる。両当事者は、軌道上のデブリを低減・改善し、宇宙状況把握に関する世界的な調整を改善するための更なる連携の努力を奨励する意向である。

III.法的性質

本MOCは、日米双方の国内法及び国際法上の法的拘束力のある権利及び義務を生じさせるものではない。本MOCのいかなる内容も、両当事者間の既存の協定に影響を及ぼすことを意図するものではない。本MOCに基づく協力は、各々の法的枠組みの中で行われることを意図している。本MOCのいかなる記述も、資金支出を両当事者に課すものではない。日米双方は、各々の国内法及び国際法を遵守する意思を宣言する。

IV.修正及び中止

本MOCは、両当事者が署名した時点から運用が開始される。両当事者は、両当事者の書面による決定により、本MOCを修正することができる。いずれかの当事者が本MOCを中止することができるが、その場合、もう一方の当事者に書面で中止の通知を行わなければならない。廃止は、両当事者が相互に決定した日付をもって開始となるものとし、また、両当事者が相互に日付を決定できない場合は、中止の通知がなされた日から180日後に開始となるものとする。

上記は、本MOCで言及されている事項に関して両当事者間で到達した認識を示すものである。

2025年10月28日、東京において、二通の書面に英語で署名した。

日本国内閣府:

アメリカ合衆国科学技術政策局: