データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 太平洋フロンティア外交 宮崎イニシアティブ

[場所] 宮崎
[年月日] 2000年4月22日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

太平洋・島サミットの機会に、「太平洋フロンティア外交」の具体例としてとりまとめられた、広域的、多面的側面を持つ日本側のイニシアティブ(宮崎イニシアティブ)は次のとおり。

1.持続可能な開発に対する協力
(1)「人造り」
イ.「開発のための人造り」:          国際協力事業団(JICA)による研修員、青年招聘等の開発人材受入れ、専門家、青年海外協力隊、シニアボランティア等の人材派遣等を今後5年間で3000人以上の規模を目指し実施する。
ロ.「教育機会の提供」: 先のG8教育大臣会合での意図表明(今後10年間で学生、教員、研究者、行政官の交流規模を2倍にしていく)を踏まえ、太平洋島嶼国との交流も拡大する。そのために国費留学生制度や私費留学生への支援等を推進する。
ハ.「働く女性の支援」: 国連開発計画(UNDP)に我が国が拠出しているUNDP・開発と女性基金(WID基金)を、女性の所得創出への機会向上等の女性支援のために今後とも積極的に活用する。
(2)「太平洋IT推進プロジェクトの実施」: 国連開発計画(UNDP)への我が国の拠出金から100万ドルを使って、情報通信技術(IT)推進のための人材育成、南太平洋大学の遠隔教育システム「USPネット」や国連の「小島嶼国ネットワーク」と連携したホームページの構築、ITを活用した遠隔教育、遠隔医療、マングローブ保全(国際マングローブ生態系協会が関連)等のプロジェクトを、沖縄における知見も踏まえつつ実施する。
(3)「産業振興」: 人材育成の視点に立った産業振興を図るため、日本貿易振興会(JETRO)が中心になって「広域専門家による国別産業診断」、「テーマ別産業振興ワークショップ」、「産業振興に関する国際シンポジウム」等を実施する。
(4)「経済改革努力への支援」: 国際金融機関との協調の下、構造調整・貧困削減努力を行っている島嶼国に対し、国際収支支援を行うための無償資金協力について検討する。
(5)「健全な経済制度の整備」: 経済のグローバル化が加速的に進行していく中、SPF諸国が国際経済システムにより良く統合されていくことが重要。SPF諸国の税制や経済・財政政策について、関係諸国政府やOECD等の国際機関の協力を得た上で、域外の専門家も交えての議論を行う。
2.地域及び地球規模の共通の課題
(1)「環境問題への多面的な取り組み」
イ.「海洋・気象観測の実施」: 太平洋地域の海洋・気象観測を、太平洋島嶼国の協力も得つつ、継続的に実施していくことにより、地球規模の気候変動メカニズムを解明し、地球環境問題への対処方法を探る。
ロ.「珊瑚礁保全」: 我が国無償資金協力によりパラオに建設中の珊瑚礁研究・見学施設「珊瑚礁センター」を、将来的に太平洋島嶼国の珊瑚礁保全協力の拠点として活用する。
ハ.「廃棄物対策」: 我が国無償資金協力によりサモアで建設予定の、南太平洋地域環境計画(SPREP)研修センターにおいて、島嶼国を対象とする廃棄物対策ガイドラインの作成、及び沖縄での廃棄物対策にかかる研修等の実施を検討する。
ニ.「新・再生可能エネルギーの導入」: 太平洋島嶼国のエネルギー構造と貿易収支の改善に向けた協力として、新・再生可能エネルギーの地域における利用可能性の調査及び導入の意義、先行事例の紹介のためのワークショップや、具体的な導入方法を検討するためのシンポジウムを実施する。
ホ.「水産資源の有効利用」: 南太平洋大学(USP)の海洋研究施設(我が国水産無償により建設済み)を中核とした広域的な人造り協力を検討する。また沖縄国際センターにおける、島嶼国を対象とする熱帯沿岸資源管理に係る研修を、99年度に引き続き2000年度以降も継続する。
ヘ.「海洋資源調査の実施」: 国際協力事業団(JICA)及び金属鉱業事業団は、南太平洋応用地球科学委員会(SOPAC)からの要請により海底鉱物資源埋蔵状況調査(海洋資源調査)を、環境影響調査も含め2000年度より実施する。
(2)「文化の分野における取り組み」
イ.「文化遺産の保存」: 国連教育科学文化機関(UNESCO)無形文化財保存振興、日本信託基金を活用した太平洋地域における初めてのプロジェクトとして、「メラネシアの消滅の危機に瀕する言語保存」プロジェクトを実施する。
ロ.「著作権制度の充実」: 世界知的所有権機関(WIPO)との協力の下、島嶼国における著作権制度の整備・普及を支援するために、太平洋島嶼国地域を対象として、著作権関係の人材育成にかかる各種セミナー、研修、専門家派遣等の協力事業を実施する。
(3)「人間の安全保障」: 国連難民高等弁務官(UNHCR)事務所、世界保健機関(WHO)、国連人口基金(UNFPA)等国際機関と協力して、国連の「人間の安全保障基金」より200万ドルを拠出し、難民支援、性と生殖に関する権利、エイズ等の感染症対策、等に関するプロジェクトの国連機関による実施を支援する。
(4)「人々の健康を守る」: 国際協力事業団(JICA)は、成人病、エイズ、結核等への対策を含めた島嶼国を対象とするワークショップを、オーストラリア国際援助庁(AusAID)と連携し実施する。
3.日本とSPF諸国の間のパートナーシップの強化
(1)「知的対話の促進」: 「太平洋知的対話ミッション」を派遣し、日本語普及・日本研究の促進、SPF諸国の文化財の保存、知的財産の記録・保全を図るとともに、沖縄の知的資源を活用した知的ネットワーク構築等を支援する。また、その一環として琉球大学等においてワークショップを開催する。
(2)「地域機関への支援」
イ.「南太平洋フォーラムへの支援」: 知的交流や文化交流等の促進を目途に南太平洋フォーラム(SPF)に対して100万ドルを拠出済み。
ロ.「太平洋諸島センターへの支援」: 太平洋諸島センター(PIC)の機能強化のため3000万円を拠出する。また広報、物産展や各種展示会への積極的参加、及び市場調査、セミナー開催等の活動を引き続き支援していく。また、島嶼国の民間セクター支援の一環として、太平洋諸島センター(PIC)のITを使った対日輸出・対島嶼国投資関係情報発信を支援するため我が国より別途300万円を支出する。
ハ.「PICHTRへの支援」: ハワイの太平洋ハイテクセンター(PICHTR)によるエネルギー、資源、情報工学、バイオ工学などに関する研究・開発活動や、人材育成プログラムを引き続き支援する。