データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 共同行動計画

[場所] 仮訳
[年月日] 2003年5月17日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 この行動計画は、太平洋諸島フォーラム(PIF)加盟国・地域と日本の首脳が「より豊かで安全な太平洋のための地域開発戦略」を実施するため共同して取り組むことを決断した行動を明らかにするために作成されたものであり、従って「沖縄イニシアティブ」の不可分の一部を構成する。

I. 太平洋地域の安全保障強化のためのイニシアティブ

政治的環境

1. 首脳会議は、最近、太平洋地域の武力紛争および政治的安定性について改善がみられることに、若干の楽観性をもって留意しつつ、太平洋地域の政治的不安定性をもたらしているいくつかのより根本的な原因に取り組むことが依然として必要であるとの点で意見の一致をみた。特に以下の問題に重点が置かれる。

 (1) 良い統治

 (2) 社会・経済的不公平

 (3) 土地所有制度

 (4) 紛争解決

2. PIF加盟国・地域は「ビケタワ宣言」および「説明責任に関するPIFの8つの原則」を通じてこれらの課題に引き続き取り組んでいく。

3. 日本は以下の活動に関するPIF加盟国・地域の努力に対し、支援を行う。

 (1) 小型武器の回収

 (2) 雇用創出にも貢献する社会基盤の再建や、元武装兵や国内避難民のための職業訓練など平和の定着のための活動

テロおよび国際犯罪

4. テロ、並びに太平洋地域における資金洗浄および人や麻薬の密輸等の国境を越えた犯罪の影響について懸念がある。これらの懸念に対処するため、PIF加盟国・地域は「ホニアラ宣言」および「ナソニニ宣言」を適切に実行することにより、法執行能力を強化し続ける。

5. 以下の活動に対して日本の支援が引き続き必要とされる。

 (1) PIF事務局における法執行プログラム

 (2) 資金洗浄等の分野等におけるその他のセミナーや研修会

人間の安全保障

6. 太平洋島嶼国は自然災害、経済の混乱、汚染された環境や疾病等、人間の安全保障に対する様々な形の脅威に対しても脆弱である。これらの課題は以下のパラグラフでそれぞれ取り扱われるが、分野横断的なイニシアティブが一つ存在する。それはこれらの人間の安全保障上の懸念に取り組む活動のための基盤を提供する情報通信網の整備である。

7. この関連で、日本は、費用・技術水準面で持続可能なインターネット網に関する共同研究およびその後の横顔等を含む、情報格差軽減のための方策に対し支援を行うことを検討する。

II. より安全で持続可能な太平洋の環境のためのイニシアティブ

8. 環境保護は「WSSD(持続可能な開発に関する世界首脳会議)実施計画」の三本柱の1つになっている。太平洋島嶼国は世界で最も貴重で美しい、しかしまた壊れやすく脆弱な生態系を有している。首脳会議は環境の主要な4分野において共同の取り組みを続けること、および以下の分野で設定された目標を達成するために環境教育を強化することを決定した。太平洋地域において活動している市民社会組織の知見を活用し、また沖縄の経験から学ぶことが特に重要である。

廃棄物処理

9. 廃棄物処理が太平洋地域において最も緊急かつ困難な問題の一つであるため、PIF加盟国・地域独特の状況および特徴を考慮に入れ良く練り上げられた戦略を作成する必要がある。この戦略はなによりも啓蒙活動、政策手段、組織強化、および収集・処理・リサイクルの改善等を支援し得るよう策定されるべきである。

10. この関連でPIF加盟国・地域は、以下の行動をとるよう努力する。

 (1) 国家廃棄物管理政策の策定および実施に必要な資源の供給

 (2) 処理すべき廃棄物の量をはっきりわかる程度減らすため、最少化のための活動を慫慂・支援すること

 (3) 域内で合意された最低限の能力基準を満たした国内廃棄物処理施設の設置および改良

11. 以下の手段に関し、日本の支援が必要とされる。

 (1) 南太平洋環境計画(SPREP)およびその他の地域機関による廃棄物処理のための地域戦略の策定

 (2) 10.で述べられているような行動を実行するために必要なPIF加盟国・地域の能力強化のための技術協力

 (3) 地域戦略に沿った廃棄物処理施設への資金協力

この課題に対処するにあたり、日本をはじめとする同様な状況にある他国の経験をふまえ慎重な取り組みを行う必要がある。さらに、最大の成果を達成するためには関係する援助国・機関の協調が不可欠である。

環境・天然資源の保護および持続可能な利用

13. PIF加盟国・地域は、太平洋の自然環境、天然資源の保護および持続可能な利用のため、特に、極めて微妙で貴重な生態系のため、並びに珊瑚礁、マングローブ、及び水のような資源のため、対策をとることを決意している。

14. PIF加盟国・地域の活動を補完するため、市民社会組織との協力も含めた様々な方策を通じての日本の支援が必要とされている。

15. 2003年3月に日本で開催された第3回世界水フォーラムの閣僚宣言で言及されたように、開発途上の小島嶼国のための協力プログラムに対する支援も必要である。

16. 日本とPIFは、太平洋の漁業資源の保存及び持続可能な管理・利用は、全ての人々にとって極めて重要であり、中西部太平洋まぐろ条約がそれを達成するための鍵を提供することを認識する。PIFは、それ故に、このまぐろ条約委員会準備会合プロセスへの日本の参加と協力を歓迎する。日本とPIFは、このプロセスにおける相互協力の強化のために共に作業する。

地球温暖化

17. 京都議定書を批准したPIF加盟国・地域および日本の首脳は、まだ批准していない国に対し時宜を失することなく批准するよう強く求める。

18. 首脳は、気候変動に対処する措置の実効性を確保するため、すべての国が参加する共通のルールに基づき地球規模の行動を起こすため、すべての可能な努力をすることを約した。 

19. PIF加盟国・地域と日本は、気候変動および海面上昇に対する太平洋島嶼国の理解と対応を向上させることを目標とする、その他の行動を支援する方策を探求する。双方は再生可能エネルギーに基づく地方電化(RERE)イニシアティブ、アジア太平洋地球温暖化情報ネットワーク(タイプII、WSSD)、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)およびAPNの科学研究能力の向上プログラム(CAPaBLE)(タイプⅡ、WSSD)を推進する。

脆弱性および災害対策

20. 島嶼国の脆弱性に対応することは、環境のすべての分野に適用される横断的戦略を必要とする。そしてPIF加盟国・地域は災害に対する効果的な計画と対応への支援の増加を約束している。

21. この分野への日本の支援は、研究と調査、啓蒙活動、環境計画・管理そして気象予報等の技術支援を中心に行われるべきである。

III. 教育・人材育成の改善のためのイニシアティブ

22. PIF加盟国・地域は、太平洋地域の将来の発展のためには教育が重要であることを認識し、多くの資源を教育に割いてきており、また今後もそうするであろう。この関連で、基礎教育は引き続き優先分野であるが、高等教育および遠隔教育も同様に高い優先度が与えられ続けるだろう。

23. 日本は以下の分野でPIF加盟国・地域の努力を支援する。

  基礎教育

 (1) 学校施設

 (2) 教師の人材開発および指導方法・教材等の開発

 (3) 日本とPIF加盟国・地域間での子供交流プログラム

  高等教育および遠隔教育

 (1) 遠隔教育のための設備および知見(南太平洋大学)

 (2) 地域全体に裨益する二国間プロジェクトを含む情報情報通信関連プロジェクト

 (3) 大学、短大間の教育交流プログラム

 (4) 技術・職業にかかる教育および訓練(TVET)

IV. 保健・衛生改善のためのイニシアティブ

24. 保健状況の悪化および太平洋島嶼国の社会開発への否定的な影響を懸念し、PIF加盟国・地域は引き続きこの分野で以下の要素に集中する。

 (1) HIV/AIDS

 (2) 糖尿病などその他生命に危険をもたらす疾病

 (3) 予防接種

 (4) 太平洋地域において費用対効果の大きい保健・医療サービスを提供するための情報通信技術を活用した環境保健イニシアティブ、監視プログラムおよび遠隔医療プロジェクト

25. 日本の支援は、PIF加盟国・地域がこれらの目標を達成するために行う優先的な活動に関して模索される。また、重複を避け、利用できる資金を最大限活用するために援助国間での調整が不可欠である。

V. より活発で持続可能な貿易・経済成長

26. 持続可能な開発のためのもう一つの柱としての貿易と投資の重要性に鑑み、国際協力事業団(JICA)、日本貿易振興会(JETRO)、太平洋諸島センター(PIC)およびPIF事務局を通じた日本とPIF加盟国・地域の促進活動は、引き続き優先分野となる。

27. 村落開発における経験をPIF加盟国・地域に広めるため、フィジーにおいて、アジア生産性機構(APO)の地域社会総合開発のための緑の生産性(GPーICD)が試験的に開始される。

28. 日本およびPIF加盟国・地域は、加盟国・地域の経済、貿易活動の強化のためのその他の方式について、さらなる模索を続ける。