データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第5回日・PIF首脳会議「北海道アイランダーズ宣言」

[場所] 北海道
[年月日] 2009年5月23日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.日本と太平洋諸島フォーラム(PIF)メンバーの首脳は、5月22日から23日まで、北海道で第5回日・PIF首脳会議(以下、「首脳会議」)のために会合した。日本、オーストラリア、クック諸島、ミクロネシア、フィジー、キリバス、ナウル、ニュージーランド、ニウエ、パラオ、パプアニューギニア、マーシャル、サモア、ソロモン、トンガ、ツバル及びバヌアツから首脳及び代表が出席した。首脳会議では、麻生総理大臣及びPIF議長であるタランギ・ニウエ首相が共同議長を務めた。

2.PIFの首脳は、麻生総理、日本政府及び日本国民に対し、首脳会議の円滑な開催と滞在中の丁重なもてなしに謝意を表明した。また、PIFの首脳は、北海道知事及び北海道民に対して、開催地としての温かく寛大なもてなしに謝意を表明した。

3.日本とPIFの首脳は、同じ島国として共有する伝統及び太平洋を共に守るという責任を踏まえ、地域が直面する将来の課題に対等なパートナーシップに基づいて共に取り組むことを互いに約束し、首脳会議のテーマとして「We are islanders - エコで豊かな太平洋」を採択した。

4.日本とPIFの首脳は、日・PIF双方の努力により強化・発展されてきた長きに亘る緊密な協力関係が、歴史的な絆、経済面・資源面でのつながり、緊密な人と人の交流により、今日、かつてないほど強固なものであることを確認した。日本とPIFの首脳は、将来の地域的・国際的協力が、緊密で建設的かつ互恵的な関係の維持に資することを確保するため、双方の国際的、地域的な外交上の優先事項を引き続き相互に力強く支持することをコミットした。

5.日本とPIFの首脳はまた、太平洋島嶼地域の人々が直面している重要な課題に取り組むための現実的な方策を探求することをコミットしつつ、より強く繁栄した活力のある太平洋地域を実現するため、この特別なパートナーシップを更に強化するとの共通の決意を表明した。日本とPIFの首脳は、太平洋島嶼地域の人々が直面している課題、特に環境の悪化や気候変動によってもたらされる課題は、太平洋島嶼国、とりわけ小島嶼国に影響を与えている他の脆弱性とともに、早急な配慮が必要であることを認識した。日本とPIFの首脳は、地球規模課題の中でも最も緊急なものに直面している中で持続可能な発展を確かなものとするためには、最良の科学的知見に基づく速やかな努力並びに中長期的な実効的対応が必要であること再確認した。

6.PIFの首脳は、1997年の第1回太平洋・島サミットの開催以来、今日に至るまでの日本のPIFメンバーへの継続的関与、支援に深い謝意を表した。特に、日本とPIFの首脳は、第4回太平洋・島サミットで採択された沖縄パートナーシップの実績に満足の意を表するとともに、その支援策が成功裏に実施されたことを歓迎した。

7.PIFの首脳は、小島嶼国の特別なニーズや脆弱性に特段の意を払いつつ、2005年のパプアニューギニアでのPIF首脳会議で採択されたパシフィック・プラン、そして太平洋島嶼国の経済成長、持続可能な開発、良い統治及び安全保障を強化・促進するというその目的への共同のコミットメントを強調した。日本の首脳は、パシフィック・プランが、ニーズに即した優先事項や地域固有の政策・制度を日本が他の開発パートナーと連携・相互補完しつつ支援する際の効果的な枠組みかつ有益な参考となることを確認した。日本とPIFの首脳は、太平洋・島サミットプロセスで打ち出される支援策の目的や原則が引き続きパシフィック・プランの戦略的目標と一致していることに留意した。

8.日本とPIFの首脳は、国際社会がパシフィック・プランの枠組みに沿って太平洋島嶼地域とのパートナーシップを強化することを強く希求した。PIFの首脳は、将来における開発パートナーの支援は地域の経済成長、持続可能な開発、良い統治及び安全保障の確保に資するべきであるとの見解を表明した。日本とPIFの首脳はまた、援助効果に関するパリ宣言及びアクラ行動計画の重要性、そして2007年7月にパラオで採択された太平洋援助効果原則に表れている太平洋地域の独自の対応を了知した。

9.豪州、日本、ニュージーランドの首脳は、太平洋地域への主要な援助国として、太平洋島嶼国そしてこの地域の優先課題やニーズを踏まえた開発効果を高めるため、特に環境管理と気候変動、防災管理・対応、教育、保健、民間セクターの発展の分野における援助強調の対話を強化することをコミットした。

10.日本とPIFの首脳は、対等なパートナーとして、以下に示される具体的なイニシアティブなどを通じて、安定し、活力のある、より繁栄した太平洋地域を一致協力して達成することで引き続き関係を深化するとの決意を表明した。このため、日本の首脳は、向こう3年間で500億円規模の支援を行うことをコミットした。PIFの首脳は、日本の支援を歓迎した。

環境と気候変動〜我々の海と島を守るために〜

11.日本とPIFの首脳は、太平洋地域の海と島を守るための進歩的かつ野心的なビジョンを共有することの重要性を強調した。全ての関係国の主権を完全に尊重しかつ認めた上で、日本とPIFの首脳は、太平洋地域の天然資源は長きに亘り地域の人々の生活を向上し豊かなものにしてきた共有財産であることを認識した。日本とPIFの首脳は、太平洋地域の発展が環境に配慮した形で、太平洋島嶼国の人々の利益にかなう天然資源の持続的利用を通じて行われることを確保するために協働するとのコミットメントを強調した。

12.PIFの首脳は、地域の気候変動に起因する影響の相互連関的な原因と結果に取り組むための統合的かつプログラム型のアプローチを確立した、「2005年気候変動に関する太平洋諸島行動枠組み」を想起した。

13.PIFの首脳はまた、太平洋島嶼国の経済的、社会的、文化的、環境的福利・安全を脅かす気候変動の重大な影響や脅威に対するPIF首脳の強い懸念を示した、2008年のニウエでのPIF首脳会議で採択された「気候変動に関する宣言」を強調した。この宣言は、太平洋の現在のそして予想される気候の変化が、地域の、特に海抜の低い環礁国家の脆弱性とあいまって、すでに存在する問題を悪化させ、太平洋島嶼国の環境、持続的発展そして将来における生存に多大なる影響を及ぼすとの予測に留意した。

14.日本の首脳は、これらの地域的対応に留意するとともに、太平洋環境共同体イニシアティブを通じて、ニウエ宣言に従って適応と緩和、そして必要な場合には移転に取り組むための対応を含む気候変動への対処のための現実的かつ太平洋地域に適した方策を引き続き展開・実施するために、また他の環境問題に取り組むために、技術的、資金的支援を通じてPIFのパートナーと緊密に協働することをコミットした。

15.日本とPIFの首脳は、気候変動を含む環境問題への取組においては、人的資源や技術力の開発、そして太平洋島嶼国への適切な技術の開発や移転が必要であることに留意した。この関係で、日本の首脳は、気候変動を含む環境分野での日本の知見を共有するため、1,500人規模の人的資源の開発を実施することをコミットした。PIFの首脳は、この地域共通課題への取組に対する日本の支援を歓迎した。

16.PIFの首脳は、地域の共通課題である気候変動を含む環境問題への取組に活用するため、太平洋環境共同体の下でのPIFへの日本の貢献を歓迎した。太平洋環境共同体の詳細、役割、目的はこの首脳宣言の第1付属文書に示されている。

17.日本とPIFの首脳は、すべての主要経済国が責任ある形で参加する2013年以降の公平かつ実効性のある枠組みの構築に向けて、適切な国際的フォーラム、特に気候変動枠組条約及び京都議定書において協力することの重要性を強調した。日本とPIFの首脳は、この条約の究極的な目的を達成するためには世界全体の排出量を大幅に削減することが必要であることを認識し、また、気候変動に対処することの緊急性を強調し、共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力に関する原則を含む気候変動枠組条約の規定や原則に従い、また経済・社会的条件や他の関連する要因を考慮して、排出削減と経済成長の両立を達成する必要性を強調した。

18.PIFの首脳は、日本のクールアース推進構想を支持し、太平洋島嶼国及び地域機関の気候変動の影響への取組を実際的に支持するための貢献として、その資金的、技術的支援を歓迎した。

脆弱性の克服と人間の安全保障の推進

19.太平洋地域が直面する多くの経済社会的課題への取組が地域の将来にとり引き続き重要であることを認めた上で、日本とPIFの首脳は、2015年までのミレニアム開発目標(MDGs)の達成のために緊密に協力することへの相互のコミットメントを確認した。PIFの首脳は、太平洋地域が今日までMDGsの達成において複雑な結果を示しており、2008年のPIF首脳会議コミュニケにあるとおり、MDGs達成に向けて迅速に前進するための努力を加速化することをコミットした。この関連で、日本の首脳は、太平洋島嶼国がMDGsを達成して経済的脆弱性を克服するための支援として2,000人規模の人材育成支援を提供することをコミットした。PIFの首脳は、太平洋島嶼国が抱える脆弱性の克服・対処のための支援、並びにこの首脳宣言の第2付属文書(PDF)PDFに詳細が記述されているMDGs関連の課題を達成するための日本の支援を歓迎した。

20.太平洋島嶼国が直面する特有の課題に取り組む観点から、日本とPIFの首脳は、保健、教育、水供給へのより容易なアクセスを確保し、また食料安全保障を強化するためのキャパシティ・ビルディングに特に焦点を当てた人間の安全保障を促進することの重要性を強調した。PIFの首脳はまた、インフラが生産性の高い産業や商業活動のための基礎をなす点において重要であることに留意し、特に小島嶼国のニーズに配慮しつつ、社会サービスの提供を容易にするためのインフラ整備・管理の重要性を強調した。

21.地域の持続可能な経済発展への貢献に対するPIF首脳の要望に応じ、日本の首脳は、農業、漁業、観光部門の発展への支援や運輸・通信インフラの改善に特に焦点を当て、太平洋島嶼国が各々の経済における重要な部門を開発するために支援を行っていくことをコミットした。日本とPIF首脳はまた、地域の食料安全保障の主要課題に取り組むための協力の重要性に留意した。

22.昨今の世界金融危機が小規模で脆弱な太平洋の経済にもたらしうる深刻な影響に配慮し、日本の首脳は、太平洋島嶼国が経済危機の影響を緩和するための支援及びその影響を分析し対処するための支援の方策について、小島嶼国固有の脆弱性への取組の方策を含め、検討することをコミットした。

人と人の交流の強化〜キズナ・プラン〜

23.日本の首脳は、日本と太平洋島嶼国とのより緊密な関係を構築するためには人と人の交流を促進することが重要であることを強調した。この観点から、PIFの首脳は、本首脳宣言の第2付属文書(PDF)PDFに記されている日本のキズナ・プランを歓迎した。

漁業

24.日本とPIFの首脳は、予防的方策及び既存の国際約束との整合性を保った地域の漁業資源の保存努力・持続可能な管理から得られる長期的利益を最大化しかつ確保するという地域の優先課題に取り組むことの重要性を確認した。日本とPIFの首脳は、太平洋の海洋生物資源の重要性を強調しつつ、これらの経済的重要性を有する貴重な資源の実効的な保存・管理のために二国間・多国間の協力を更に強化させることをコミットした。

25.また、地域のいくつかの主要なマグロ類の資源の持続性が引き続き危機に晒されているという現在の科学的な漁業資源のアセスメントを考慮し、日本とPIFの首脳は、フォーラム漁業機関(FFA)及び太平洋共同体事務局(SPC)の支援との協力の下、また中西部太平洋マグロ類保存委員会(WCPFC)の枠組みの下で、地域の沿岸、排他的経済水域、公海における持続的な漁業資源を確保するための漁業資源の包括的保全管理措置を進展・実施・遵守することの重要性を強調した。

26.日本とPIFの首脳は、気候変動が地域の漁業資源、特にマグロ資源にもたらす影響を評価する必要性に留意した上で、確固としたモニタリング、管理、監視体制の整備、最良の科学的助言に基づく持続的かつ実効性のある漁業資源管理、将来における食料安全保障のための養殖業の持続的開発に向けた現在の努力を支持した。

27.PIFの首脳は、日本による漁業関連の開発協力を、太平洋島嶼国の人々の暮らしを改善するための、各々の国の優先課題・ニーズに基づく、効果的に管理され、持続可能なそれぞれの国のマグロ産業の発展・改善に対する貢献として歓迎した。

28.日本とPIFの首脳は、WCPFCや他の関連取り決めに沿った形で、マグロ資源の現地加工を促進する努力を含む、漁獲並びに地域のマグロ漁業産業の発展という相互の利益を尊重しかつ向上するための日本とFFA加盟国、特にナウル協定加盟国(PNA)による現在の努力を支持した。

貿易・投資

29.日本とPIFの首脳は、日本と太平洋島嶼国との間の貿易・投資・観光促進における太平洋諸島センター(PIC)の重要な役割を認識した。双方の首脳は、好立地の明治大学の施設の1階へのPICの移転を歓迎しつつ、PICの重要な活動を更に強化することをコミットした。

30.日本の首脳は、民間セクター開発や、情報通信、海運、航空といった分野でのインフラやサービスの整備や開発のためのインフラを含む、太平洋島嶼国の生産能力の開発・強化を支援することをコミットした。日本の首脳は更に、小島嶼国の課題やニーズ特別の配慮をする意図を表明した。

31.日本とPIFの首脳は、太平洋島嶼国にとってのサービス・セクター、特に観光の重要性を強調し、最近の経済の低迷が世界的に観光業に影響を与えていることに留意しつつ、太平洋地域の観光の活性化のための方策を探ることをコミットした。

太平洋地域の平和と安全への日本の支援

32.PIFの首脳は、アジア太平洋そして国連を通じた平和と安全確保における日本の特筆すべき役割を認めつつ、太平洋地域の平和と安全の強化への貢献に対する日本の強い関心を暖かく歓迎した。日本とPIFの首脳は、ビケタワ宣言などの既存の地域的メカニズムの下で実施されている地域の平和・安全確保の活動を補完する形での日本のこの地域の平和と安全確保への支援を強化することを引き続きコミットした。

フォローアップメカニズム

33.第5回日・PIF首脳会議の結果である実際的で互恵的な活動を確かなものにすることの重要性を認識した上で、日本とPIFの首脳は、2010年にハイレベルの中間会合を開催し、気候変動問題への強化された取組を含む第5回日・PIF首脳会議の成果の実施状況をフォローアップし、また第6回日・PIF首脳会議の準備プロセスを開始することを決定した。PIFの首脳はまた、第6回日・PIF首脳会議の開催時期と開催地をその中間会合で決定するとの日本の提案を歓迎した。