データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第6回太平洋・島サミット(PALM6) 沖縄キズナ宣言

[場所] 
[年月日] 2012年5月26日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1. 日本,太平洋諸島フォーラム(PIF)の加盟国であるオーストラリア,クック諸島,ミクロネシア連邦,キリバス,ナウル,ニュージーランド,ニウエ,パラオ,パプアニューギニア,マーシャル諸島,サモア,ソロモン諸島,トンガ,ツバル及びバヌアツ並びに米国の首脳及び代表(以下,「首脳」という。)は,5月25日及び26日に第6回太平洋・島サミットのため沖縄で会合した。この首脳会議では,野田佳彦内閣総理大臣及びヘンリー・プナ・クック諸島首相が共同議長を務めた。

2. 首脳は,野田総理及び日本国民による滞在中の温かい歓迎及び丁重なもてなしに謝意を表明した。また,PIFに加盟する島嶼国(以下,「PIF島嶼国」という。)の首脳は,5月24日に東京で天皇皇后両陛下にお会いしたことへの特段の謝意を表明した。

3. また,首脳は,仲井眞弘多沖縄県知事及び沖縄県民による温かいもてなしに謝意を表明した。首脳は,島嶼国との地理的及び気候上の類似性に基づき,沖縄に特有の知見及び経験を,PIF島嶼国の開発のために一層活用していく可能性に留意した。

島サミット・プロセス

4. 首脳は,島サミット・プロセスにおける責任の共有及びオーナーシップの原則に改めて言及した。首脳は,太平洋・島サミット主催国である日本が太平洋を共有する対等かつ重要なパートナーであることを再確認するとともに,島サミット・プロセスに関与していく決意を新たにした。その関連で,首脳は,東日本大震災後に強まった「キズナ」を再確認しつつ,第6回太平洋・島サミットが「We are Islanders:広げよう太平洋のキズナ」というキャッチフレーズの下に開催されたことを歓迎した。

5. 首脳は,島サミット・プロセスにおけるPIF島嶼国の中心性を認識し,PIF次期議長国であるクック諸島が第6回太平洋・島サミットの共同議長国となることについてコンセンサスが得られたことを歓迎した。

6. PIF加盟国の首脳は,島サミット・プロセスが自国と日本の協力関係の発展に大きく貢献したことに満足するとともに留意した。PIF加盟国の首脳は,第6回太平洋・島サミットに米国を招待するという日本のイニシアティブを歓迎した。PIF加盟国の首脳は,米国の太平洋地域との歴史的な深い紐帯を認識し,米国がこの地域への関与を一層強化するための措置を講じてきたことに謝意を表明した。

7. 首脳は,パシフィック・プランを考慮した日本の支援を含め,島サミット・プロセスにおけるこれまでのコミットメントを踏まえて,(1)自然災害への対応,(2)環境・気候変動,(3)持続可能な開発と人間の安全保障,(4)人的交流,(5)海洋問題の5つの分野に特に焦点を当てつつ,協力を促進するための方途を議論した。

自然災害への対応

8. 首脳は,東日本大震災による甚大な被害に対する哀悼の意を表明するとともに,日本及び日本国民との連帯を再確認した。首脳は,日本がこの災害を乗り越える能力を有し,そのための努力を行っていることに対する全幅の信頼の念を表明した。こうした思いを踏まえ,首脳は,フラガール(被災地であるいわき市のダンスチーム)の第6回太平洋・島サミット親善大使任命を歓迎した。

8. 野田総理は,東日本大震災の被災者に対する支援及びお見舞いに対して深い謝意を表した。野田総理は,世界に開かれた迅速な復興を達成するため最大限努力することにより,国際社会に恩返しするという決意を新たにした。

10. 野田総理は,東日本大震災の教訓を首脳と共有するとの決心を強調するとともに, (1)米国及び他の開発パートナーと協力しつつ,太平洋災害早期警報システムを整備すること,(2)防災に関する国際会議を東北地方で今夏開催すること,また,2015年に第3回国連防災世界会議を誘致することといったイニシアティブを発表した。さらに,野田総理は,PIF島嶼国との共同事業として,本年11月に,自然災害リスク保険の展開に向けた試行プログラムを世界銀行と協力して実施することに言及した。

11. 首脳は,PIF島嶼国のための自然災害リスク保険の試行プログラム展開に関する野田総理の言及を認識した上で,災害リスク管理並びに海面上昇及び干ばつ等遅発性の災害を含む気候変動への適応のための持続可能な国レベルのプログラムを支援していくことが決定的に重要であることを強調した。首脳は,これに対する日本の支援に謝意を表明した。

12. 野田総理は,海洋及び海洋環境への影響を含め,東京電力福島第一原子力発電所における事故に関連する全ての情報及び同事故から得られた教訓を国際社会に提供する決意を改めて述べた。更に,野田総理は,国際的な原子力安全の強化に貢献していく決意を述べた。

13. 首脳は,野田総理の決意と決心を認識し,自然災害への対応に関する日本のイニシアティブを称賛するとともに,日本により共有された教訓を最大限活用する意図を表明した。

日本による支援策

14. 野田総理は,PIF事務局,他の開発パートナー及び国際機関と協力して,地域的な協力及び統合の強化に向けたパシフィック・プランを踏まえ,より安全,強靱かつ繁栄した太平洋地域という共有のビジョンを追求する決意を表明した。この目的のため,野田総理は,太平洋の人々の利益を最大化するための支援を実施していく上で,各PIF島嶼国と協議することが重要である点について改めて言及した。さらに,野田総理は,各小島嶼国の特別なニーズを考慮する意図を表明した。

15. 野田総理は,日本は,過去3年間で4.93億米ドル(約508億円)を提供し,第5回太平洋・島サミットの公約を達成した旨発言した。これによって,(1)環境問題及び気候変動への対応,(2)PIF島嶼国における脆弱性の克服及び人間の安全保障の促進,そして,(3)人的交流促進のための施策が強化された。

16. さらに,野田総理は,今後3年間で最大5億米ドルの援助を提供するため最大限努力していくことをコミットした。

17. 野田総理は,中小企業を含む日本企業によるPIF島嶼国への投資及びPIF島嶼国との貿易を促進することが重要であると改めて言及した。更に,野田総理は,国際協力銀行(JBIC)等によるその他公的資金が,特にPIF島嶼国の天然資源開発において積極的な役割を果たすであろうことを強調した。

18. PIF島嶼国首脳は,日本による継続的な支援は,自らの国造りにおける不可欠な要素であるとして,深い感謝を表明した。

19. 首脳は,日本が,釜山,アクラ,パリ宣言で確認された援助効果と援助協調の原則の下,開発協調の強化に向けたケアンズ・コンパクトの原則を支持することを確認した。

環境・気候変動

20. 首脳は,太平洋の人々の生活,安全及び福利にとって,気候変動が最大の脅威の一つであることを再確認した。首脳は,PIF島嶼国において気候変動に強靱なコミュニティーを構築するため,気候変動への適応及び災害リスク管理のための包括的なアプローチを取る必要があることを強調した。

21. 首脳は,2011年末に開催されたCOP17における緑の気候基金の基本設計及び全ての締約国に適用される議定書,法的文書または法的拘束力を有する合意成果に向けた交渉プロセスの立ち上げの決定を含む成果に留意した。首脳は,COP17で要請された迅速な形での緑の気候基金の具体化の重要性を認識した。首脳は,COP18に向け,全ての締約国による最大限可能な緩和努力を確保するために,野心のギャップを縮めることができる様々な行動のためのオプションを確認し探求する緩和の野心の向上に関する作業プランの立ち上げを含む,多くの重要な課題を前進させる必要があることを認識した。首脳は,全ての国に対し温室効果ガス排出削減について野心レベルを高めるよう促した。首脳は,気候変動の主要な原因であるCO2の世界的な排出削減に向けた取組を飛躍的に強化する必要性を認識した。首脳は,短期寿命気候汚染物質(SLCPs)の世界的な排出削減に向けた取組を含む統合された方法での全ての温室効果ガスを削減する包括的アプローチの重要性を認識した。

22. 野田総理は,気候変動対策に関する2012年までの途上国支援の着実な実施を含む,「世界低炭素成長ビジョンー日本の提言」に言及しつつ,低炭素成長を実現するための世界的な取組の必要性を強調した。さらに,野田総理は,気候変動の影響に対応する国レベルの能力強化と気候変動に関する政策対話を含め,最も脆弱なPIF島嶼国に対し,2013年以降も,気候変動への適応に十分な考慮を払いつつ,切れ目のない支援を行っていく意図を表明するとともに,国際社会に対し後に続くよう呼びかけた。首脳は,こうした日本の取組への支持を表明しつつ,温室効果ガス排出の緩和及び低炭素成長の達成が重要である一方で,将来に向け,気候変動に強靭な島々及び社会を確立することが喫緊の課題であることに改めて言及した。

23. 首脳は,温室効果ガスの排出削減及び持続可能な開発の実現のためには,再生可能エネルギー及びエネルギーの効率化が重要であることを強調した。これに関連して,首脳は,国際再生可能エネルギー機関(IRENA)と協力して,PIF島嶼国における再生可能エネルギーの普及促進に関する国際ワークショップを5月26日に沖縄で開催するという日本のイニシアティブを歓迎した。

24. 首脳は,エネルギー・ロードマップの策定,エネルギー効率の良い技術及び技能の移転並びに民間部門による関与の促進等を通じて,PIF島嶼国がエネルギー源を多角化させ,輸入燃料への依存を軽減させることが重要であることを強調した。これとの関連で,野田総理はさらに,小島嶼開発途上国における持続可能なエネルギー・イニシアティブ(SIDS-DOCK)へのコミットメントを表明した。首脳は,謝意を表明するとともに,PIF島嶼国のエネルギー安全保障を向上させるため,この地域における関連の取組に対する日本の支援の重要性を強調した。

25. 首脳は,前回の太平洋・島サミットで日本が設立した太平洋環境共同体(PEC)基金のプロジェクトが進展していることに謝意を表するとともに留意した。この基金に基づいて,現在,PIF島嶼国に対して太陽光発電システムと海水淡水化施設が提供されている。首脳は,この基金の運用方法について,PIF事務局に謝意を表明した。PIF島嶼国首脳は,この地域への日本の援助を最大限活用するため,第1段階から得られた教訓並びに社会・経済開発上及び能力開発上のそれぞれの必要性を考慮しつつ,PEC基金に追加拠出するとともに,基金の対象を太平洋環境共同体の他の優先分野を含む形で拡大するよう日本に要請した。

26. 首脳は,太平洋地域の生態系,生物多様性及び生物資源は太平洋の人々の生活にとってかけがえのない財産であることを再確認し,これらの保全及び環境の持続可能性を確保するために協力していく決意を改めて表明した。野田総理は,海洋及び森林資源の保全に加え,廃棄物及び水の管理を含む環境問題に関するPIF島嶼国の取組に対し,日本として引き続き支援していくことを強調した。PIF島嶼国首脳は,この目的に向けた日本の支援に謝意を表明した。

持続可能な開発と人間の安全保障

27. 首脳は,狭隘な国土,地理上の位置,限られた能力及び資源といったPIF島嶼国が直面する特有の課題に留意しつつ,ミレニアム開発目標(MDGs)の達成を目的として,保健及び教育を含めた社会サービスを提供することにより,持続可能な開発と人間の安全保障を促進することが重要であることを再確認した。また,首脳は,信頼性の高い交通網及びエネルギーへのアクセス並びに農業,漁業及び観光の持続可能な開発を確保する上で,良質なインフラが今後も極めて重要な役割を果たし続けることを強調した。

28. 首脳は,PIF島嶼国の特有かつ多様な文化,芸術及び工芸,そして,この地域が提供できるエコツーリズムに照らし,重要な開発分野である観光分野の潜在的可能性を強調した。PIF島嶼国首脳は,より多くの日本人観光客をこの地域に呼び込むための方策を日本が検討するよう促した。

29. 首脳は,PIF島嶼国による漁業並びに保護及び持続可能な管理イニシアティブへの更なる参加を通じて,太平洋地域の漁業資源から得られる利益を長期にわたって最大化し確実なものとすることが重要であることを再確認した。首脳は,これらの取組を強化する日本の漁業関連開発協力を歓迎した。

30. 首脳は,来たる国連持続可能な開発会議(リオ+20)が,持続可能な開発についての新たな政治的コミットメントと持続可能な開発に向けた制度的枠組みの強化を確保する機会を提供するであろうことを認識しつつ,グリーン経済への移行に向けた実質的な成果に対する期待を表明し,持続可能な開発への太平洋の重大な世界的価値及び貢献を認識した。

31. 首脳は,PIF島嶼国の持続可能な開発を確実なものとする上で,経済協力における責任,効果,説明責任及び透明性に加え,債務持続可能性の改善の重要性を強調した。これを前提に,首脳は,日本の援助は,釜山,アクラ,パリ宣言及びケアンズ・コンパクトで言及されているような,効果的な開発協力の強化に向けたこの地域の取組を強く支えるものとなるであろうとの見解で一致した。また,首脳は,新興ドナー国を,こうした既存の援助協調メカニズムに関与させることが重要であることに改めて言及した。

32. 首脳は,グッド・ガバナンスが持続可能な開発の重要な前提であるという見解で一致した。これに関連して,首脳は,PIF島嶼国の伝統及び慣習の尊重,民主主義及び法の支配の確立に加え,政治的安定性の重要性を強調した。

人的交流

33. 首脳は,参加国の友好関係を強化する上で,人的交流が重要であることを強調した。これに関連して,首脳は,5月25日に沖縄県が宮古島で高校生太平洋・島サミットを主催したことに謝意を表明した。

34. 首脳は,お互いの伝統的紐帯を想起し,特に将来のリーダーとなる若い世代の人的往来を再活性化させることへの決意を新たにした。

35. 野田総理は,東日本大震災からの復興への理解を促進するため,PIF島嶼国から300人を超える若者を日本に招へいする「キズナ・プロジェクト」を発表した。また,野田総理は,JETプログラムがPIF島嶼国に拡大され,このプログラムにより,これまでに既に6人の語学教師が招待されたことに言及した。PIF島嶼国首脳は,日本によるこれらのイニシアティブを歓迎した。

36. PIF島嶼国首脳は,PIF島嶼国の開発及び草の根レベルでの相互理解を促進する上で,青年海外協力隊が果たした役割を高く評価した。野田総理は,草の根レベルでの協力及び交流のため,引き続き海外青年協力隊を派遣することを表明した。

37. 野田総理は,特に人的交流分野において,日本とPIF島嶼国の防衛当局間協力を探求する意図を表明した。首脳は,太平洋地域の平和と安全において果たしている日本の役割に鑑み,このイニシアティブを歓迎した。

38. 首脳は,PIF島嶼国への投資及びPIF島嶼国との貿易を促進する上で,企業間の交流が重要であることを認識した。PIF島嶼国首脳は,5月24日に東京で開催された日本の企業代表者たちとの会合に満足をもって言及した。また,PIF島嶼国首脳は,太平洋諸島センターが果たしている役割を評価した。

39. 野田総理は,ビザの円滑な発給を通じて,日・PIF島嶼国関係を強化する潜在的可能性が真に存在することを認識し,PIF島嶼国からの短期滞在渡航者への新たな数次ビザ及び外交・公用旅券所持者へのビザ免除措置を二国間ベースで導入するとのコミットメントを発表した。PIF島嶼国首脳は,このイニシアティブを歓迎するとともに,こうした措置が迅速に導入されることへの期待を表明した。PIF島嶼国首脳及び野田総理は,第7回太平洋・島サミットに向けて,人的交流を一層促進するための計画を検討することについて相互のコミットメントを表明した。

海洋問題

40. 首脳は,貿易・投資,食料安全保障及び環境を含む生活のあらゆる側面を太平洋に依存しているというこの地域の特殊性を認識し,海洋及び海洋資源の持続可能な開発,管理及び保全を確保することが決定的に重要であることに改めて言及した。これに関連して,首脳は,太平洋地域海洋政策(PROP)の一部としてのパシフィック・オーシャンスケープを作成したPIFの努力を称賛した。首脳は,これらの課題についてリオ+20で力強い成果が出ることを期待した。

41. 首脳は,太平洋の潜在能力を持続可能な形で活用するため,海洋環境,海洋安全保障,海洋の安全,海洋監視,海洋科学調査・観測及び経済成長を促進し生活と食料安全保障を改善するための持続可能な漁業管理等の分野において,海洋に関する協力を促進することの重要性を認識した。

42.首脳は,太平洋の平和と安全を維持する上で国際法が果たしている役割を認識し,海洋秩序に関する主要な法的枠組みを反映している1982年の海洋法に関する国際連合条約及び関連の実施協定の重要性を強調した。

PALM6フォローアップ・メカニズム

43. 首脳は,第6回太平洋・島サミットの準備過程において,2010年10月に開催された第1回中間閣僚会合が果たした役割を歓迎した。首脳は,PIF域外国対話及び他の機会に加え,第6回太平洋・島サミットの主要な成果の実施状況を精査し評価するために,第2回中間閣僚会合を2013年に開催することを決定した。首脳は,第7回太平洋・島サミットが2015年に日本で開催されることを心待ちにしている。第7回太平洋・島サミットの日程及び開催地は第2回中間閣僚会合において発表される予定である。