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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第9回太平洋・島サミット(PALM9) 首脳宣言

[場所] テレビ会議
[年月日] 2021年7月2日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

概観

1 第9回太平洋・島サミット(PALM9)は、テレビ会議方式で2021年7月2日に開催された。同サミットでは、菅義偉日本国内閣総理大臣及び現在の太平洋諸島フォーラム(PIF)*1*議長であるカウセア・ナタノ・ツバル首相が共同議長を務めた。日本、オーストラリア、クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー共和国、仏領ポリネシア、キリバス共和国、マーシャル諸島共和国、ナウル共和国、ニューカレドニア、ニュージーランド、二ウエ、パラオ共和国、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル及びバヌアツの首脳及び代表(以下「PALM首脳」という。)は、PALMのパートナーシップの一層の強化及び地域のためのビジョンの達成のための全体的な指針を示すものとして、PALM首脳宣言を発出した。

PALMのパートナーシップと地域のためのビジョン

2 PALM首脳は、日本とPIF加盟国・地域との間の友好的かつ協力的な関係の促進において、PALMプロセスが四半世紀にわたり果たしてきた重要な役割を認識した。PALM首脳は、相互の信頼及び尊重並びに自由、民主主義、人権及び環境の尊重といった共通の価値によって裏打ちされた、この重要なパートナーシップを一層強化することに対するコミットメントを改めて表明した。PALM首脳は、新型コロナウイルスのパンデミックを含む地域における新たな課題に対応するに当たり、PALMのパートナーシップが一層重要になっていることを認識した。PALM首脳は、日本とのPALM協力における、PIF島嶼国の中心性を認識した。

3 同じ太平洋の一員として、PALM首脳は、PIFの「太平洋地域主義のための枠組み」及び日本の「自由で開かれたインド太平洋」の下で明確に示されている太平洋地域のためのそれぞれのビジョンについて議論し、PALMのパートナーシップを強化する礎として、自由、民主主義及び法の支配といった共通の価値並びに本首脳宣言のパラグラフ7にある共通の優先事項を認識した。

4 菅総理は、「太平洋地域主義のための枠組み」の下で、「1つのブルーパシフィック大陸」として太平洋地域主義を強化し、「1つのブルーパシフィック大陸のための2050戦略」を策定するPIFの取組を歓迎した。PIF首脳は、日本の「太平洋島嶼国協力推進会議」を通じたものを含め、「自由で開かれたインド太平洋」構想に基づき、「オールジャパン」での取組を通じ日本とPIF島嶼国との間の協力を更に強化する、日本の「太平洋のキズナ政策」を菅総理が発表したことを歓迎した。PALM首脳は、PIFと日本による各々の取組が地域のためのそれぞれのビジョンの実現に貢献すると認識した。

5 菅総理は、「附属文書1:ファクトシート-PALM8以降の日本の支援」に詳細が記されているしっかりとした開発協力並びに人材育成及び人的交流に対するPALM8における日本のコミットメントを達成した旨説明した。PIF首脳は、日本のコミットメントの着実かつ効果的な実施に謝意を表明した。

6 菅総理は、今後3年間のしっかりとした開発協力の継続並びに5,500人以上の人的交流及び人材育成に対する日本のコミットメントを発表した。PIF首脳は、PALMのパートナーシップの下での日本の継続的な協力を歓迎した。

7 PALMのパートナーシップを強化し、地域のためのそれぞれのビジョンを達成するため、PALM首脳は、今後3年間、5つの重点協力分野で協力していくことに対するコミットメントを表明した。PALM首脳は、日本とPIF加盟国・地域との間の具体的な協力の方向性を示し、PALMプロセスが行動志向的であることを確保するため、共同行動計画を承認した。(「附属文書2:太平洋のキズナの強化と相互繁栄のための共同行動計画」参照。)重点協力分野1:新型コロナウイルスへの対応と回復

8 PALM首脳は、新型コロナウイルスのパンデミックによる健康面及び社会・経済面の破壊的な影響及びこの影響がこの先何年もの間継続するであろうことを認識し、新型コロナウイルスのパンデミックからのより良い回復のための青写真として、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ及びパリ協定を含む持続可能な開発のための2030アジェンダに対する完全なコミットメントを再確認した。PALM首脳は、安全かつ効果的なワクチンへの早期のアクセスを促進し、PIF島嶼国における保健医療体制を強化し、また気候変動に対して強靱かつ環境的に持続可能な経済回復を支援するために協力することの重要性を強調した。この文脈で、PIF首脳は、日本がPIF島嶼国に対し2021年末までに合計300万回分を目処として、7月中旬以降にCOVAXファシリティ等を通じてワクチンを供与するとのPALM9における菅総理による発表を歓迎した。

9 PALM首脳はまた、様々な課題に効果的に対応するために人間の安全保障を確保することの重要性を強調し、新型コロナウイルスのパンデミックからのより良い回復のために協力することに対するコミットメントを表明した。新型コロナウイルスへの対応及び回復に関する日本とPIF加盟国・地域との間の協力は、近所の家同士は困難な時に相互に助け合う道義的責任があるという意味のツバルの考え方「テ・ファレ・ピリ」(te fale-pili)にも通ずるものである。

重点協力分野2:法の支配に基づく持続可能な海洋

10 PALM首脳は、地域の平和、安定、強靱性、繁栄、海洋の健康及び資源の持続可能性に貢献する、法の支配に基づく自由で、開かれた、持続可能な海洋秩序の重要性に対する新たな、かつ、強化されたコミットメントを強調した。この目標を達成するため、PALM首脳は、将来の世代が引き続き海洋を慈しみ、投資し、そして海洋から恩恵を受けられるよう、入手することのできる最良の科学的情報に基づき、海洋及び海洋資源の持続可能な管理、利用及び保全に対するコミットメントを改めて表明した。PALM首脳は、有害なプラスチック並びに核廃棄物、放射性物質、その他汚染物質、難破船及び第二次世界大戦の遺物によってもたらされる脅威から海洋を保護する重要性を強調した。PALM首脳は、地域的な政策枠組みに留意し、海洋汚染や海洋ごみ、海上安全保障及び海上安全、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の撲滅、並びに互恵的な漁業取決めを通じたものを始めとする、太平洋における水産資源の持続可能な利用についての継続的な協力を歓迎した。漁業の持続可能な管理を確保するために、日本は、1982年国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法に従い、自国の排他的経済水域において水域に基づく管理を実施することに対するPIF首脳のコミットメントに留意した。

11 PIF首脳は、東京電力福島第一原子力発電所から太平洋へのALPS処理水の海洋放出に係る日本の発表に関して、国際的な協議、国際法及び独立し検証可能な科学的評価を確保するという優先事項を強調した。PIF加盟国・地域は、入手可能になり次第、科学的根拠を解釈するための独立したガイダンスを追求することにコミットした。菅総理は、ALPS処理水の海洋放出は環境及び人体に実害がないことをしっかり確保した上で実施されること、並びに、日本は透明性が高く時宜を得た形で、また国際原子力機関(IAEA)と緊密に協力して、PIF加盟国・地域に科学的根拠に基づく説明を引き続き行っていくことを改めて表明した。PIF首脳は、透明性を確保し、全ての課題を明確にするためのPIF加盟国・地域との緊密な対話を継続するとの日本の意向を歓迎した。

12 PALM首脳は、全ての国が、公海及び排他的経済水域の航行及び上空飛行の自由並びにその他の国際的に適法な海洋の利用を含め、国家に海洋の利用における一定の権利及び自由を付与するUNCLOSに反映された国際法を尊重することの重要性を改めて表明した。PALM首脳はまた、国家が海域をUNCLOSの関連する規定に従って設定すること、自制すること、及び国際法、特にUNCLOSに従い、武力による威嚇又は武力の行使に訴えることなく平和的方法により紛争を解決することの重要性を強調した。PALM首脳は、UNCLOSに従って設定された海域を保護することの重要性に共に留意し、気候変動に関連した海面上昇に直面する中で、UNCLOSに従って適切に線引きされた海域の維持に係る問題について多数国間レベルを含む場で更に議論することで一致した。

重点協力分野3:気候変動・防災

13 PIF島嶼国が直面する気候危機を背景に、PALM首脳は、気候野心の現状の水準ではパリ協定の目標は達成されないとする最近の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)による「国が決定する貢献(NDC)」の統合報告書初版における調査結果及び「今なすべき喫緊の気候変動行動のためのカイナキ宣言」の要請に留意し、UNFCCCの全ての締約国が、気温の上昇を工業化以前の水準よりも摂氏1.5度までに抑える取組により、一層の切迫感と野心を持って気候変動に対処する重要性を改めて表明した。

14 PALM首脳は、新型コロナウイルスのパンデミックのために国際的な機運と野心を先延ばしすべきではないことに留意しつつ、パリ協定の目標を達成するため、国際場裡での気候変動の議論における指導的役割の強化に対するコミットメントを表明した。この文脈で、PIF首脳は、菅総理が、2020年10月に、温室効果ガス排出の実質ゼロまでの削減、カーボンニュートラル、2050年までに脱炭素社会の実現を目指す旨を発表したこと、2021年4月に、日本は2030年度に温室効果ガス排出を2013年度の水準から46パーセント削減することを目指し、さらに2030年度に2013年度の水準から50パーセント削減するという高みに向けて挑戦を継続する旨を発表したことを歓迎した。PALM首脳は、「太平洋における強靭な発展に向けた枠組み」と整合した形での気候変動の影響に対応するための継続的な適応支援を含めたPIF島嶼国の能力構築支援、強靭なインフラを通じた災害に対する強靭性の強化及び再生可能エネルギーの支援において、緊密に協力することへのコミットメントを確認した。菅総理は、「太平洋強靭性ファシリティ」を通じたものを含め、PIFによる気候変動及び災害に対する強靭性を構築するための取組を歓迎した。重点協力分野4:持続可能で強靭な経済発展の基盤強化

15 PALM首脳は、持続可能で強靭な経済発展の基盤の強化のための継続的な協力は極めて重要であるとの認識を共有した。PALM首脳は、デジタル及び物理的な連結性を含む質の高いインフラ開発、貿易、投資及び観光の促進、地場産業の育成並びに財政の強靭化において、引き続き協力する意図を表明した。PALM首脳は、開放性、透明性、ライフ・サイクル・コストの観点からみた経済効率性及び債務持続可能性等の国際スタンダードにのっとり、かつ、主権及びインフラの平和的利用を尊重する、質の高いインフラ開発の重要性を強調した。

重点協力分野5:人的交流・人材育成

16 PALM首脳は、日本とPIF加盟国・地域との間の活発な人的交流は、重要かつ持続的なPALMのパートナーシップの極めて重要な基盤であることを再確認した。PALM首脳はまた、様々な分野及びセクターにおける人材育成は、太平洋島嶼国地域の長期的で持続可能な成長及び日本とPIF島嶼国との間の絆の強化に貢献すると強調した。

国際場裡での協力

17 PALM首脳は、日本とPIF加盟国・地域が、国際場裡におけるイニシアティブ及び取組において協力を継続することに対するコミットメントを表明した。この文脈で、PALM首脳は、新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の団結の象徴として、この夏に安全・安心な形で2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることに対する支持を表明した。

18 PALM首脳は、国連安全保障理事会(国連安保理)決議に従った、北朝鮮の全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄を達成するための取組の重要性を強調し、北朝鮮に対し、この目標に向けた具体的な行動をとるよう求めた。PALM首脳は、「瀬取り」を始めとする北朝鮮による制裁回避手法への対処を含め、国連安保理決議を完全に履行し、また執行することに対するコミットメントを再確認した。PALM首脳は、拉致問題の即時解決を含め、人道上の懸念に対処することの継続的な重要性を強調した。

19 PALM首脳は、国連を含む多国間機関が更なる効率性、開放性、透明性及び説明責任を有するものにするための改革に貢献するとの決意を表明した。また、世界保健機関(WHO)がその目的に適合し続けることを確保するために、WHOを強化し、改革するとの決意を表明した。PALM首脳は、国連安保理の早期改革の重要性を強調した。PALM首脳は、21世紀の国際社会の現実をよりよく反映するために、国連安保理の正統性、実効性及び代表性の更なる向上の必要性を再確認し、遅滞ないテキストベース交渉の開始を追求することへのコミットメントを改めて表明した。この関連で、菅総理は、日本が国連安保理の常任理事国になろうとすることに対するPIF加盟国・地域の継続的な支持に謝意を表明した。

今後の見通し

20 PALM首脳は、この重要で持続的なPALMのパートナーシップを継続・強化し、太平洋地域のためのそれぞれのビジョンを共に達成する決意を新たにした。PALM首脳は、PALM9の主要な成果をフォローアップし、PALM10に向けて準備するため、PALM10に先立って中間閣僚会合を開催することを決定した。菅総理は、次回のPALM中間閣僚会合を太平洋島嶼国地域で主催するとのPIF首脳の提案を歓迎した。PIF首脳は、国際的な往来が正常な状態に戻り次第、再開されるであろうPALM首脳間の対面による交流の重要性に留意し、日本でPALM10を主催するとの菅総理の提案を歓迎した。

{* ミクロネシア連邦、キリバス共和国、マーシャル諸島共和国、ナウル共和国及びパラオ共和国は、2021年2月、太平洋諸島フォーラム(PIF)からの脱退について表明した。}