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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第9回太平洋・島サミット(PALM9)首脳宣言「附属文書2:太平洋のキズナの強化と相互繁栄のための共同行動計画」

[場所] 
[年月日] 2021年7月2日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

 この共同行動計画は、太平洋のキズナの強化及びPALM首脳による地域のためのビジョンの実現のために、日本及びPIF加盟国・地域(以下「PALMパートナー」という。) によって今後3年間にわたって実施される、PALM9の5つの重点分野における具体的な行動を明確にするものである。日本は、技術やノウハウを含む日本の強みを活かし、「太平洋キズナ政策」の下、「オールジャパンの取組」を通じ、太平洋島嶼国地域及びPIF島嶼国各国の開発優先事項に沿ってPIF加盟国・地域と協力する。次に掲げる行動は、日本とPIF加盟国・地域との間のPALMのパートナーシップの強化並びにPIFの「太平洋地域主義のための枠組み」及び日本の「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンの実現に貢献するよう策定されている。

1 新型コロナウイルスへの対応と回復

 PALMパートナーは、ワクチン接種に係る支援等短期的な保健上のニーズへの対応に加えて、保健医療体制の能力構築支援及び非感染性疾患(NCDs)を減少させるための支援を含め、PIF島嶼国が現在抱える保健上の脆弱性に対処するために連携する。さらに、PIF島嶼国が直面する経済的課題を踏まえ、PALMパートナーは、持続可能な開発目標及びパリ協定の目標の達成に向けた進展を維持・加速しつつ、経済回復を支援するための効果的な協力を探求する。

-日本は、ワクチン接種が太平洋の人々の健康上の懸念の緩和において、及び経済回復を円滑に行う上で極めて重要であることに留意しつつ、太平洋地域における安全で効果的なワクチンへの早期のアクセスのために、相互補完的な方法で、豪州、ニュージーランド、米国その他パートナーと共に協力する。とりわけ、日本は、アジア開発銀行(ADB)、世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局(WPRO)、COVAXファシリティその他の国際機関を通じて、技術訓練、必要な医療機器及び効果的なワクチンの配布・管理・接種支援を提供する。この文脈で、日本のCOVAXファシリティへの資金拠出に加え、日本は、PIF島嶼国に対し2021年末までに合計300万回分を目処として、7月中旬以降にCOVAXファシリティ等を通じてワクチンを供与する。

-日本は、医療施設の整備、質の高い医療機材の供与及び保健・医療従事者の人材育成を支援する。そうするに当たり、日本政府は、必要に応じて、関連するNGOと連携する。日本の自衛隊は、また、豪州と連携しつつ、衛生の分野においてフィジーに対して能力構築訓練を提供する。

-日本の自衛隊は、前線における対応組織として、PIF島嶼国の軍隊の医療向上のため、新型コロナウイルスを含む感染症への効果的な対応に資するため、協力の機会を引き続き探求する。

-日本は、準参加国として、太平洋保健大臣会合における議論に貢献する。

-NCDsは新型コロナウイルスの重大なリスク要因であることから、日本は、JICAの技術協力プロジェクトを通じて、太平洋島嶼国地域におけるNCDsへの対応について協力する。PALMパートナーは、2021年12月の「東京栄養サミット」等の機会を通じて、栄養不良の問題に取り組み、食事に関連するNCDsを削減するために努力する。

-日本は、必要な機材・設備の供与等による国境の安全な再開を支援する。

-新型コロナウイルスの状況が改善次第、日本は、東京にある太平洋諸島センター(PIC)、アウトバウンド促進協議会(JOTC)及び日本旅行業協会(JATA)等の観光促進活動を通じて、PIF島嶼国への観光が迅速に回復するように協力する。

2 法の支配に基づく持続可能な海洋

 法の支配に基づく自由で、開かれた、持続可能な海洋秩序並びに海洋・海洋資源の持続可能な開発、管理、利用及び保全の促進のため、PALMパートナーは、とりわけ、海上安全保障・海上安全を強化し、海洋環境を保全し、並びに持続可能な開発及び海洋資源の管理を達成する取組において協力する。

(海上安全保障・海上安全)

-日本は、船員養成のための海事訓練学校の整備を支援し、海上保安庁のモバイルコーポレーションチーム(MCT)を含む専門家派遣及び海図作成に向けた日本における能力向上訓練により海上法執行の能力構築支援を行うとともに、海上保安関連機材を提供する。これに当たり、日本は、必要に応じて、豪州、米国その他のパートナーとの協力を追求する。

(海洋環境)

-日本は、海洋プラスチックごみによる追加的な汚染を2050年までにゼロにまで削減することを世界的に目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を達成するために、技術協力プロジェクトや機材供与を通じて、廃棄物・海洋プラスチックの処理能力を強化する。さらに、日本は、アジア太平洋3R・循環経済推進フォーラム等通じた、日本の廃棄物管理処理及びリサイクルに関する技術及びノウハウをPIF島嶼国に輸出することを支援する。

-日本は、「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」に留意しつつ、海洋環境モニタリングのための新技術の移転や、持続可能な海洋の活用支援のための若い世代間の交流促進を通じて、PIF島嶼国を支援する。

-PALMパートナーは、関連する既存の法的文書及び枠組み並びに関連する国際的、地域的及び分野別の機関を損なうことのない、国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する国際的な法的拘束力を有する文書を国連海洋法条約(UNCLO

S)の下で作成するための世界的な取組に向けて、連携する。

-PALMパートナーは、ポスト2020生物多様性枠組の作成の成功に向けて協働する。

(海洋資源)

-日本は、海洋資源の持続可能な管理、保全及び活用を通じて経済的利益が最大化されるようPIF島嶼国を支援する。PALMパートナーは、太平洋における違法・無報告・無規制(IUU)漁業を撲滅するために、監視、規制及び船舶監視において協力を深化させる。日本は、海外漁業協力財団(OFCF)を通じた漁業施設の復旧や地元で生産された水産製品の開発支援を含め、太平洋における水産業の更なる発展のためにPIF島嶼国を支援する。

-PALMパートナーは、漁業分野における長年の協力実績を踏まえ、日本とPIF島嶼国との互恵的な漁業取決めを通じたものを含め、漁業を発展させることを目的とした永続的な協力関係を継続する。

-PALMパートナーは、関連する環境面及び経済面の要素を考慮に入れつつ、科学的根拠に基づいた管理を通じて高度回遊性魚種の持続可能な利用を確保するために、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)における協力を継続する。そうすることにより、PAL

Mパートナーは、漁業関係者の利害の調整を図り、また、中西部太平洋まぐろ類条約に従って、保存管理措置が小島嶼開発途上国・地域に対して不均衡な負担を課さないことを確保する必要性を考慮する。

-世界貿易機関(WTO)の改革を促すための継続したコミットメントを確認しつつ、PA

LMパートナーは、本年後半の第12回WTO閣僚会議の前の漁業補助金交渉の妥結に向けて共に協働する。

3 気候変動・防災

 高まる切迫感を持って気候変動問題に効果的に対処するため、PALMパートナーは、気候変動の影響を緩和し、温室効果ガスの更なる削減のために技術・イノベーションを推進し、また、効果的な適応措置を講じるべく協力するため、国際的な交渉及び行動における指導的な役割を強化する。

(緩和)

-PALMパートナーは、パリ協定の目標を達成するため気候変動に取り組むという世界的なモメンタムの促進において主導的な役割を共に担う。

-日本は、気候資金への貢献を継続し、また、他の主要な排出国に対して気候行動及び気候資金に一層貢献するよう促しつつ、日本の「国が決定する貢献(NDC)」の野心的な目標を設定・達成することにより、世界的な気候行動を主導する。

-日本は、最大のドナー国の1つとして、緑の気候基金へのアクセス改善に引き続き取り組む。

-日本は、技術協力の供与、再生可能エネルギー施設の建設及びエネルギー効率的な電力網の整備その他の活動により、安定し、かつ、低炭素な電力供給の獲得を支援する。

-日本は、技術協力プロジェクトを通じて、森林資源の維持及び温室効果ガス削減のために、持続可能な森林経営を支援する。

-日本は、PALMパートナーが、先進的な脱炭素技術を導入するための二国間クレジット制度(JCM)の活用可能性を更に探求できるように、JCMに関する情報を提供するためのワークショップを実施する。

-日本は、豪州と連携し、太平洋島嶼国地域においてグリーン水素プロジェクトの可能性を探求する。

-日米豪印(クアッド)によるものも含む取組を通じて、日本は、豪州、インド、米国その他の国と共に、パリ協定の履行を強化し、世界的な気候行動を促進し、また、低排出技術ソリューションを前進させるために協力する。

(適応)

-日本は、ニュージーランドと協力し、サモアの太平洋気候変動センター(PCCC)を通じて気候変動問題に関する研修を継続する。

-日本は、洪水対策インフラや橋梁、緊急時の通信設備を含む災害に強いインフラ整備の支援を継続する。

-日本は、通信機器、発電機、重機及び救助ボートを含む防災・減災関連機材を供与する。

-日本は、国連訓練調査研究所(UNITAR)と協力し、強靱性を構築するため太平洋における防災に関する女性のリーダーシップに関する研修プログラムを提供する。

-日本は、アジア太平洋気候変動適応情報プラットホーム(AP-PLAT)を通じて、気候資金へのアクセスのための計画の策定及び社会経済インフラにおける強靭性の向上を支援するために訓練を提供する。

-日本は、気象担当機関に対し、持続可能な気象サービス及び災害対応システムにおける能力構築のため技術研修を提供する。

-日本は、「ひまわりリクエスト」と呼ばれるリクエストに応じた観測サービスを通じて、気象衛星「ひまわり」の観測データを提供する。

-日本の自衛隊は、人道支援・災害救援の能力向上を支援するため、人道支援・災害救援の訓練に太平洋島嶼国の軍関係者を招待する。

-日本の自衛隊は、人道支援・災害救援に関するパプアニューギニアの能力構築のため、同国軍の工兵部隊に対して能力構築支援を提供する。

-日本は、気候変動による災害リスクについて議論し、日本の経験・技術を共有し、そして

PIF島嶼国その他のパートナー諸国との協力を強化するため、PIF島嶼国を第4回アジア・太平洋水サミットに招待する。

-日本は、防災技術の海外展開に向けた官民連絡会(JIPAD)を通じて、PIF島嶼国に対して、日本の防災技術及びノウハウを広めるためのセミナーを主催する。

-PIF加盟国・地域は、日本が地域的強靭性を強化するためのPIFによる取組について理解を深化できるよう、日本に対し、「太平洋強靭性パートナーシップ」及び「太平洋強靱性ファシリティ」についての情報を提供する。

-PIF加盟国・地域は、PIF島嶼国が気候変動及び災害に対する社会的強靱性を構築するのを支援するため、「太平洋強靱性ファシリティ」を設置する。

4 持続可能で強靭な経済発展の基盤強化

 PALMパートナーは、持続可能で強靭な経済発展の基盤を強化するため、数ある分野の中でも質の高いインフラの整備、貿易及び投資の促進、地場産業の育成、財政の強靱性の強化等の分野において協力する。

(質の高いインフラ)

-日本は、太平洋地域の連結性を強化するため、港湾、空港、船舶、道路、情報通信技術(I

CT)等の質の高いインフラの整備を支援する。

-日本は、港湾や船舶の管理や、アジア太平洋電気通信共同体(APT)を通じた幅広いI

CT能力向上プログラムを含む、専門家の派遣及び技術協力プロジェクトを通じて、質の高いインフラを効果的に管理・維持・活用するための能力構築に取り組む。

-日本は、金融インフラ分野における協力の可能性を探求する。

(財政強靱化)

-日本は、世界税関機構(WCO)とJICAとの共同プロジェクトを通じて、税関当局に対し、徴税や貿易円滑化のための税関実務の能力構築支援を行う。

-日本は、予算計画、予算執行、債務管理を含む公的財務管理の人材育成を支援するために専門家を派遣する。

(地場産業の育成及び貿易投資の促進)

-日本は、経済強靭性を強化するため、農林水産業を含む地場産業の更なる発展に協力する。

-日本は、東京の太平洋諸島センター(PIC)、PIF島嶼国にある日本国大使館、PI

F島嶼国の駐日大使館、PIF島嶼国の関連政府機関、民間企業等の関係者の参加を得て、日本とPIF島嶼国との間の対話を更に促進し、貿易、投資、観光及びビジネスに関する課題を特定し、これに取り組む。

-PALMパートナーは、東京の太平洋諸島センター(PIC)及び日本貿易振興機構(J

ETRO)の様々な企業プロモーション活動や、PIF島嶼国への官民合同ビジネスミッションを通じて、日本とPIF島嶼国の間の貿易及び投資を更に促進する。

-太平洋諸島センター(PIC)が日本とPIF島嶼国との間の貿易・投資及び観光の促進において果たしてきた役割の重要性を認識しつつ、PALMパートナーは、その機能を更に強化し、また、既存の地域的枠組との連携を確保するための方策を議論する。

(経済発展の基盤となる平和及び安定)

-平和及び安定が強靱かつ持続可能な経済成長の基盤であることに鑑み、日本は、JICA の本邦研修、国連アジア極東犯罪防止研修所の国際研修/セミナー及びアジア・太平洋薬物取締会議を通じたものを含む、治安、薬物対策及び刑事司法の分野における能力構築支援を行う。

5 人的交流・人材育成

 PALMパートナーは、日本とPIF島嶼国の絆を深めるために、青少年から政府関係者及びPALMのパートナーシップの次世代指導者まで、様々なレベル、様々な分野での交流を促進する。日本は、専門家の派遣並びに研修制度及び奨学金制度の実施を含む技術協力を通じて人材育成を強化する。

(青少年・学術交流)

-PALMパートナーは、対日理解促進交流プログラム(JENESYS)の継続的な実施、ミクロネシア諸島自然体験交流事業、さくらサイエンスプログラムの拡大等を通じ、日本とPIF島嶼国との間の青少年交流を更に促進する。

-PALMパートナーは、高度な学習を提供する機関への太平洋島嶼国研究又は日本研究のプログラム設置の奨励等を通じ、日本と太平洋島嶼国との間の学術交流を促進する可能性を探求する。

(PALMのパートナーシップの次世代指導者の育成)

-次世代の指導者を育成するため、日本は、SDGsグローバル・リーダー・プログラム(旧Pacific LEADs)の参加者数を増加させること及び大学院過程に加えて学部の機関を研修先に含めることにより、同プログラムを強化する。

(政府ハイレベルの相互訪問及び招聘事業)

-PALMパートナーは、新型コロナウイルスの状況が改善され、国際的な渡航が正常化され次第、日本とPIF島嶼国との間での政府ハイレベルの相互訪問を積極的に追求する。

-日本は、PIF島嶼国の若手政府関係者に対して、日本への招聘事業を実施する。

-日本は、PIF島嶼国による2025年大阪・関西万博への参加を確保する。

(地域交流・スポーツ交流)

-PALMパートナーは、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のレガシーとして、2021年以降も、PIF島嶼国と日本のホストタウンとの間の「ホストタウン交流」を通じた地域交流及びスポーツ交流を引き続き推進する。

-PALMパートナーは、JICA海外協力隊を通じたものを含む日本とPIF島嶼国との間のスポーツ交流を奨励する。

-太平洋島嶼国・日本地方自治体ネットワーク(PALM&G)は、各自治体の強みや特徴を活かした交流に積極的に参加し、太平洋のキズナの更なる強化に貢献する。

(防衛・海保当局間の交流)

-日本は、防衛・海保当局間の交流を促進するため、自衛隊の航空機及び艦船並びに海上保安庁の練習船の太平洋地域への寄航・寄港の実施を積極的に推進する。

-日本は、防衛関係者間の交流及び防衛当局間の信頼醸成を促進するため、初めてとなるPIF島嶼国との国防大臣の会合である日・太平洋島嶼国国防大臣会合(JPIDD)を主催する。

-日本は、海上当局職員間の交流を促進するため、世界海上保安機関長官級会合及びその関連会合への招待を行う。

-日本は、自衛隊とパプアニューギニア国防軍との絆を深めるため、パプアニューギニア国防軍軍楽隊への能力構築支援を継続する。

(文化・言語交流)

-PALMパートナーは、文化・言語交流を積極的に探求する。

-日本は、PIF島嶼国の人々の日本に対する理解を促進するため、国際交流基金を通じて

PIF島嶼国のTV局に対して日本の様々なTV番組(ドラマ、アニメ、ドキュメンタリー及び映画)を提供する。

-日本は、南太平洋大学でのワークショップや授業を通じたもの等、太平洋地域における日本語教育を推進する。

(JICA海外協力隊及びJICA研修プログラム)

-日本は、太平洋諸島地域の発展に寄与するため、様々な分野にJICA海外協力隊員を派遣する。当該JICA海外協力隊は、PIF島嶼国のカウンターパートと協力して活動を行う。

-日本は、各PIF島嶼国のニーズに沿って、JICAの研修員受入事業である知識共創プログラム(KCCP)を通じて、多数のPIF島嶼国の政府関係者を様々な分野の実務研修に招聘する。

-日本は、JICAを通じ、日本及び太平洋島嶼国地域双方における日本の経験に関する開発研究の機会を提供する。

(教育)

-日本はパプアニューギニアの理数科教員の能力を向上させ、及び効果的な初等教育政策の策定を支援するため、初等教育の専門家を派遣する。

-日本は、パラオにおいて、デジタル化による学生の理数系科目の学力向上のため、学校へのタブレット供与及び教育専門家の派遣により、教育のデジタル化を支援する。

(労働力の流動化)

-PALMパートナーは、既存の制度を通じて、日本における潜在的な労働機会を引き続き探求する。

(未来志向の関係のための基盤)

-PALMパートナーは、友好的な絆を維持し、未来志向の関係を構築するために、第二次世界大戦の戦没者の遺骨の帰還、不発弾の除去、沈船の油漏れへの対処及び政府が建立した戦没者慰霊碑の維持管理を含む共有された過去に係る事項に、適切な形で対処するための協力を継続する。