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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第二次海部内閣の組閣に際して(海部内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 1990年2月28日
[出典] 海部内閣総理大臣演説集,119−146頁.
[備考] 
[全文]

問 第二次海部内閣が、スタートしたわけですけれども、まず、組閣人事からお聞きしたいと思います。

 今度の組閣に当たりまして、海部総理はどういう点に留意されて、何を目標に人事を進められたか。我々から見てますと、女性閣僚がなくなったり、何か、前回の第一次海部内閣の時よりも印象が薄いような感じがするんですけども、その点につきまして総理のお考えをお聞かせ頂きたいと思います。

総理 今度の組閣に当たりましては、今、内外ともに大変な問題を沢山かかえている時でありますから、しかも、この間の国民の皆さんの厳粛な審判を頂いて、安定多数二百八十六という議席で国会に臨むことができたと。それはやはり、内外の諸問題に対して、前向きにしっかりと取り組んで努力をしていけという、国民の皆さんの期待の結果であったと私たちは謙虚に受けとめさせて頂いておりますから、今度の内閣は、内政・外交ともに当面の懸案を解決をしていかなければならない、そういう角度から組閣をいたしました。

 と、同時に、挙党一致の体制で力を合せて、結党以来の危機を乗り越えていくために、皆が力を合せて選挙をやったわけでありますから、党内のいろいろな人材が沢山いらっしゃるわけですから、最初に言ったように懸案解決のために、出来るだけの体制で組閣をしたわけです。

 そのために、最後にお触れになりました女性閣僚は、結果として今回はゼロになっておりますけれども、海部内閣が女性を尊重する、そして、真の男女平等の社会を作るために、女性の能力とか、女性の経験というものを生かして頂く、そういう基本的な考え方は、少しも変わるものではありませんので、このことも併せて付け加えさせて頂きます。

問 結果的には、当初の総理のお考えのなったとおりの組閣が出来たとお思いですか。

総理 それは、それぞれ能力を持って事に当たってくださる特長のある方が、集って頂いて力を合せて、この内外の諸問題にぶつかっていこうということで初閣議の時にも皆さんにお願いをし、そのとおりだ、やろう、と言ってくださっておりますから、私は先頭に立って頑張ってまいりたいと、こういう決意でおります。

問 まず、これに関連してお伺いしますが、森さんや、佐藤さんといった、いわゆるリクルート事件とか、ロッキード事件に関係された方も、入閣を総理は拒まれたわけですが、総理としてのいわゆる二つの事件のみそぎがまだついていないと、いうふうにお考えになって入閣を拒まれたのか。それから、今後海部内閣として、リクルート関係議員の入閣は引き続き拒否されるのか、更には、みぞぎというものの線引きについて、総理はどのようにお考えになっているんですか。この三点についてお伺いいたします。

総理 拒否したとか、拒んだか言う前に、自発的に、何と言うんでしょうか。報道によれば、辞退を表明されておる方もありましたし、また、そういったことを基準に選ぶというよりも、最初に申し上げたように、いろいろな問題を解決するための人選をやっておりましたから、結果として、あのようなことになったんだと思います。

 それから、もう一つは、政治改革を今、一生懸命やろうとしている時であります。選挙中も国民の皆さんに政治改革をやるということを、強く訴えてきた選挙の直後でもありましたから、そういったこと等を党内の皆さんも、一緒に選挙を戦った仲間として、十分理解をしておって頂くものと、その結果がああいうことになったと、私はこのように受けとめております。

 それから、選挙でみそぎは済んだかという、二つ目のご質問ですが、私は、今の議会制民主主義の下からいきますと、国民の直接投票による選挙というものは、唯一、その地域における代表選出の方法ですから、選挙が終わったということは、その地域に昼おける有権者の皆さんと、その地域を代表する政治家との間では、ひとつの洗礼があったと、こう見るべきだと思います。

 ただ、それと、今度は、党の立場でそれをどう見ておるのか、ということの違いについては、これは、総裁としての立場になるかも知れませんが、党は謙虚に改革をやって、政治改革を通じて、信頼を取り戻していかなければならないということを前から申し上げており、そして、政治改革大綱を党議で決定をして進めておるわけでありますから、それに従って更に前向きに政治改革を続けていくことが、みそぎという言葉が何を意味するのか分かりませんけれども、党が生れ変わって国民の皆さんの信頼を本当に頂いていくためには、政治改革の努力を続けていくということが、唯一の方法であると、私は受け止めております。

問 それでは、政策課題についてお伺いします。個別の問題については、のちほど質問があると思いますけれども、その前に、第二次海部内閣としては、最優先にどういった政策課題について、何に取り組まれるのですか。その点についてお伺いします。

総理 政治改革のことをちょっと横に置きまして、第二次海部内閣でやらなければならんことは、外交問題から言いますと、当面の急務は、日米関係であります。そして、これはもう間断のない対話を通じて解決をしていかなくてはならんという問題があります。日本のこれは、経済のみならず、安全保障にも、あるいは戦後の日本の基本にも関する問題ですから、これが第一と思っております。

 それから、内政の問題では、これは私が就任以来言い続けてきました、公正で心豊かな社会を造るという、大きな目標を掲げておりますから、それに向かって努力をしていかなければなりません。

 当面は、これも国会がもう目の前に始まりますけれども、消費税の問題が衆参両院のいわゆるねじれ現象といわれる議席数の差の中で、どのような形で議論を深め、理解を頂き定着させていくことが出来るかという、このことが当面の一番最初にくる問題でございます。

 それから、折角、去年皆さんのご努力で、土地基本法というものが成立しておるわけでありますから、それに基づいて平成二年度中にいろいろ具体策を立てていきたいと、こう言っておることがありますから、この土地問題も二つ目です。

 また、三つ目ですが、内外価格差の是正の問題を通じて、出来るだけ物価の問題に気を配っていかなければならない。

 こういったことに当面は取り組んでまいります。

問 組閣人事の話に戻りますが、今度の人事を見てますと、我々の目で見ると一口で言えば、その派閥政治の大復活という感じがするんです。昨日、派閥の領袖になられたばかりの渡辺美智雄さんの大奮闘とか、それから、組閣本部の中でのポスト争いも、し烈な争いだったようにも思います。

 それから、先般の総選挙は、これもやはり派閥選挙、派閥が基軸になって、頑張って勝ったというような見方も十分成り立つかと思います。

 で、総理も若干総選挙前に各派閥の領袖を訪ねられたり、少し責任があるのではないかと思いますが、この派閥というような自民党の体質にどう取り組んでいかれるのか、挙党体制が本当に総理の言われるように、ちゃんとやっていけるのかどうか、ご認識を伺いたいと思います。

総理 私自身の選挙行動についてもお触れがありましたけれども、確かに選挙の始まる前には、自由民主党というものが、過半数に一議席でも多く上回る努力を持って国会に臨まないと、大変なことになるという、正に結党以来の危機感を持って今度の選挙に臨んだわけでありますから、党内には今、いい悪いの問題を議論すれば派閥のよくない面も目立つから、その弊害は除去していこうという基本を決めておりますけれども、現実に派閥があり、これを言っていいか悪いか知りませんが、皆さんの報道にも何派何人、何派何人とお書きになって、候補者の数さえ派閥ごとに整理されるというのが、これが、また、そういうふうに見てらっしゃるのが社会の常識でもあり、その以前に自民党に現実があるということです。

 ですから、私は率直に申し上げますが、各派の会長に協力要請しました。これは、自由民主党が選挙を通じて参議院のような逆転をしてしまってはいけない。これは、いろいろな立場でお願いをして、自由民主党の力を総合的に結集して、派閥のいい面だけを全部集めてもらって、それを活力にして訴えてもらいたい。こういう本当の気持でお願いをして歩きました。ただ、告示の日以来は、総裁遊説も派閥次元の行動は一切いたしておりませんし、自由民主党という立場で、党本部が決めました総裁遊説で初日から最終日まで行いました。

 いろいろご批判はあろうかと思いますが、派閥の弊害を取り除いていくために、今、一生懸命努力をしようと選挙を戦ってきたのは事実でございます。

 それから、また、組閣のことについても今、ちょっと厳しいご批判がありましたが、対話と改革の海部内閣でございますから、初めの対話の方を見て頂くと、人間一人だけで政治は出来るものじゃありませんし、一人の知恵ですべてを、間違いなく百パーセントできるというのは、これは、どうかと思いますので、組閣をするに当たっては、組閣本部に党の四役においでを頂いて、党の四役はすべて派閥を離れていらっしゃる方でもありますし、その四役の方といろんな相談をしながら、この問題を解決するには、この問題に対処するには、というようなこと等もいろいろお話合いをしておったことは、これは事実であります。これは、組閣本部を作って党の機関の人々とお話をした。長い間、時間がかかりましたのは、そういった対話の精神でいろいろやっていった、ということであります。

問 今、派閥の効用というような感じおっしゃいましたけれども、確かに自民党の活力というのは、派閥間の競争と言いますか、対立の中で生れてきているのは間違いないと思います。しかし、今回の組閣を見たりしていますと、それが本当に派閥が挙党体制になっているのかどうか、ちょっと疑わしい所が確かにあると、一部の派閥からは、海部下ろしと、いうような声すら、はや出ているわけなんですけれども、本当に、その自民党の活力を派閥の挙党体制ということで出来るのか、それともこれから先、非常に難しい国会運営に追われるわけですけれども、派閥の対立によって海部内閣の基盤が揺らぐような心配はないのか、その辺はいかがでしょうか。

総理 いろいろなご意見や見方があろうと思います。けれども、力を合せて挙党一致で乗り切らなければならんということについては、全党員が等しく認識しているところであります。

 それから、派閥が存在するということは事実ですけれども、それの効用とか、それをまた分裂とか、おっしゃるようにその派閥が出てきてということになったら自由民主党というものが、一体、どうなるんだろうかという心配があるからこそ、派閥の弊害を除去していこうという、党の改革大綱が党議決定で昨年出来たところでありますから、私は、それを正面切って否定したり、それに反するような行動をされる方はないと思っておりますし、また、今日も閣議で閣僚の派閥離脱は決めておるわけでありますし、党の方も、役員は派閥を離脱して、党中心の運営に変わっていこうとしているわけであります。これは長い目で見ると、選挙制度の改正というものにも、将来ずっと改革を推し進めていきながら、あるいは飛躍するかも知れませんが、政治改革の中でも、派閥があるということ、そして、派閥の弊害をなくしていくためには、どうしなければならんかという問題意識についても、今、党内ではいろいろ議論をしておるところであります。これは派閥の弊害を除去していこうという方向であることは間違いありません。

問 国会運営に関してお聞きしたいんですが、国会が本格的に始まる中で、先ほど総理がおっしゃったように、衆参のねじれをどうするかということが基本だと思うんですが、この野党と話す場合に、具体的にどういうふうに話していくのかどうか。ある種のビジョンをお持ちなのかどうか、その辺、具体的にお教え頂けますか。

総理 どういうふうに話していくかと言われても、例えば、先国会でも土地基本法についても話もし、年金法についても話をするわけですから、今度消費税のことで話をしなければならん時は、その消費税の問題についていろいろ話をしていく。で、具体的にとおっしゃいますけれども、参議院では野党の数が多い。だから野党の数が多いから、参議院に行ったら全部だめですよということを、初めから決めてしまったんでは、日本の民主主義というのは、余りにも空しいものになります。

 ですから、議席数は確かに野党の方が参議院では多くても、内容を誠心誠意訴え、そして委員会の場で審議、議論を頂き、その中から前進していくならば、この間の土地基本法、年金法のように、逆転してからでも、与野党の話合いで成立したという実績もあるわけですから、私たちは諦めないでいろいろお話をしていく。

 特に当面の消費税の問題なんかは、私は、選挙戦中の与野党のいろいろな論争を通じて、今までのように廃止か見直しかということじゃなくて、直間比率の中で間接税についての具体的な提案も野党から出たわけですから、そういったものを具体的に出し合わせていきますと、どこかで接点はあるんじゃないか。そういった接点を大切にしながら、国民の皆さんの前で、両方でいろいろと知恵を出し合って議論してみる、と、そのうちに、ここは一致できる所があるなと、ここはどうなんだろうかという、そういう努力を続けていくべきだと私は思っております。

 そういった作業の過程の中で、与党と野党のあり方というもの、どうするかという話がいろいろといろんな場面で出てくるだろうと思っております。まず、基本を両党が出し合って、そこから始まっていくんじゃないでしょうか。

問 消費税のことでお伺いいたしますが、総理は総選挙の最中に消費税の見直しとか、それから福祉目的税的な表現を法文化したらどうかと、そういう意見があったわけで、国民から見ますと必ずしも政府自民党の考え方というのは、はっきりしてないわけですが、いよいよ補正予算審議から本予算審議の中で、消費税を巡る与野党の議論が始まるわけですけど、今、お話になったように、総理としては、消費税の問題について、どのような対応を、多少だぶりますが、もう一度お伺いします。

総理 政府与党としましては、これは思い切って見直しをした見直し案というのを選挙中には述べたわけでありますから、政府与党の案はと言われれば、決めて訴えた見直し案であります。

そして、私も、党首討論会とか、自民党を代表する党首の遊説において、その内容は詳しく言いました。税金のお話をするのは楽しい話ではありませんけれども、皆さんに支えていただかなければ、どうしても成り立っていかないのでご理解くださいと。ただ、自民党も昨年四月に消費税を始めました時には、いいと思って減税を先行させたり、所得と資産と消費のバランスをとったり、いろいろ考えてやったつもりでしたが、世論の厳しい指摘や批判を受けたことを謙虚に受け止めて、見直し案を政府与党できちっと決めたんです。

 その案は、次の国会に提出いたしますということを、国民の皆さんの前で率直に申し上げて、そして家賃の問題とか、教育費の問題とか、福祉関連の問題とか、あるいは食料品の小売段階非課税、流通段階二分の一というような内容も細かく説明しまして、どうかこれは、ご理解頂きたい、分かって頂きたい、ということを言いましたが、分かった、頑張れというお声もあれば、しっかりやれというお声もありまして、それを近く閣議決定もして、出来るだけ早く国会に提出して、与野党のご議論に供したいと、こう思っておるわけであります。

 また、今度の選挙のことを、ある方が消費税についての国民投票だ、というようなことをおっしゃっておりましたけれども、まあ、謙虚にその面からいけば、国民の皆さんは、党と政府が一生懸命訴えた見直し案についても、国民投票である意味ではご支持頂けたと、その言い方をしますと、ただ、私たちは消費税だけで選挙をやったわけじゃございませんので、謙虚な気持ちで外交から消費税以外の国内の問題から全部あわせて選挙をやったわけでありますから、国会の場を通じて審議、ご議論を頂き、成立の暁に定着させて頂きたいと、こういう気持ちで臨もうとしておるわけであります。

問 それに関連してですが、参議院が与野党逆転されていると、参議院には、先ほどの臨時国会でも見られたわけですけども、衆議院に持ってきたら、そのまま野党案通らないという状態ですね。政府案を出されても、そのまま今度は参議院が通過しないという、全くその逆転の現象があるわけですけども、先ほど、与野党率直に話し合いたいとまではおっしゃったんですけども、具体的にですね、それが相打ちになった場合のことまで考えて率直に話し合われるのかどうか。つまり、与野党協議会とか、そういった何か作るお考えはあるのかどうか、その辺はどうでしょうか。

総理 この前の時の参議院で成立された案は、とうとう衆議院へきてのご説明はございませんでしたし、もっとも十分な議論をする期間がなかったこともご承知のとおりで、そういう意味では非常に残念であったと思います。従って、今から結論出しちゃって見直し案、政府の出すのはこれは通らないと。それから、野党の出すのは衆議院へきたら通らないと決めてしまったら、やっぱり議会政治のプロセスを無視することになりますので、私はそのお話し合いの中でも最初に申し上げたように、間接税に頼る比率というのは、野党の中でも十対三の割合でということを政審関係の責任者がはっきりと言ってらっしゃる。今、我々の頭の中で想定してやりました案もだいたい結果として七対三のところであります。

 いうなれば、そこの考え方だけはひとつの接点ではないだろうかと、私は思いますし、それから、七対三であれば、今度の来年度の税収なんかを想定した場合に、六十兆と仮定すれば十八兆円の間接税だと。十八兆円を間接税に頼る政府与党の見直し案はこれであるが、野党の十八兆円の間接税を頼られるのはどういう案でしょうかと、いうことを聞くと、それは政府の案とは違う、名前も違うし、姿形も違うでしょうけれども、しかし、お出し願って話しておれば、どこの部分の間接税だけは、これは合意できるなとか。

 例えば、資産課税はどこの所だけは合意できるなとか、減税については、どれくらいならいいんではないだろうかと、いろいろ議論を詰めていったら、私は、かみ合う所が出てくるんではないだろうかと。第一に、これに非常に期待をしております。どうしてもそれがかみ合わないという時には、やはりその時になって、両党でそれを打開する方法を考えませんと、出す法案、出す法案がいつもそれでだめになってしまうという状況を放っておくのでは、やっぱり日本の議会政治にとって、あまりいいことではない。

 そういう時は、高い次元に立って胸襟を開いて話し合わなきゃならん場面があるのではないかと。今から、それを具体的にどういう協議会とか、どういう場面とか、それはいえませんので、当面は委員会とか、あるいはそれぞれの両党の政策担当者会議とか、今日までもいろんな場合に議論をしてきた協議機関があるわけですから、そういう所でお話し合いを詰めていって頂きたい、と思ってます。まあ、話し合いを誠意をもってやっていくことがまず第一で、結論を決めてしまって、これでは駄目だと諦めてしまうんでは、何のための選挙をやり、何のために国会があるのか分からなくなっちゃうと、こんな感じをしております。

問 総理、政治改革と倫理につきまして、改めて質問させて頂きます。若干、冒頭の質問と絡むんですけど、一つは、今回の閣僚人事を見てますと、それなりにけじめをつけられたという感じもいたします。反面、党の役員人事を見てますと、どうもそれとは矛盾するようなことのように受け止められます。そこで、どういうふうにまずお考えになるのか。それが第一点です。

 第二点は、この政治倫理の基本というのは、やはり国会議員一人一人の意識だと思うんですけども、今度の自民党の大勝によって、その意識が薄れたんではないか、というような危惧がもう早くも出ております。これをどういうふうに見ていられるか。

 それから、第三点は、この政治改革の具体策です。今後、どういうふうなスケジュールでもって考えていかれるのか、お尋ねしたいと思います。

総理 基本的なことを申し上げますと、昨年の八月に私が選ばれました時に、自民党は結党以来の危機だと皆さんも言われました。なぜ、自民党が結党以来の危機を迎えたのかということを、党内挙げて、反省もし、議論もし、そして、それから脱皮するには、どうしなければならんかということで、いろいろ努力もしてきました。そして、この一連のいろいろな経過、流れの中で、自民党がそれに対して、国民の皆さんの批判に耐え得るだけの体質が出来ていなかったということを謙虚に反省して、党の政治改革推進本部というのが出来たわけです。

 そこで、誰が悪い、彼れが悪いと言うんじゃなくて、自由民主党に所属する者、政治家すべてが今おっしゃったように、自らのやはり政治倫理の確立ということには、自らが責任を持たなくてはならん。けれども、個人がしっかり心で責任を持つと言えば、それでいいかというと、それで解決できなかったからこそ、結党以来の危機を迎えたというわけですから、党は政治改革大綱を昨年作って、その中にいろいろ政治改革の手順を述べたわけです。

 ですから、誰れがいいとか、誰れが悪いとか言うんじゃなくて党全体が改革をして、党全体で生れ変わって前進しなくてはならんという、その目標が政治改革大綱であったことは、これは間違いございません。

 同時に、それに従って去る国会に公職選挙法の改正案というのを議員立法で提案して、与野党の審議を頂いて、成立をいたしましたが、あれは、私は与野党がご議論をして自らの選挙運動の中で、お金と政治の関係をきれいにしていくための第一歩であったと評価をしております。

 そして、政治資金の規正法とか、あるいは資産公開法とか出されておった法案については、結果としては成立しておりませんので、これらのことについては、引き続き与野党間の協議によって、自らの自浄作用としてでもやっていかなくてはいかん。これらのことは、やはり当面続けていかなくてはならん政治改革の入口ではないかと、こう考えます。ただ、問題の根本は、政治とお金の関係をきれいにしなくてはならん。ところが今、日本の政治資金の集め方というのは、殆んど個人中心のお金集めで、しかも、それがだんだんお金がかかるようになってきた、という現実もあるわけです。

 私は、党の政治改革大綱にも示されておりますように、ヨーロッパでもそうであるが、また、アメリカでもそうであるように、政治活動というものが、正にこれは個人のためにやるんじゃなくて、公のためにやるわけですから、政党法の中で欧米諸国がしているように、公の費用の支出によって政党活動、政治活動というものを賄っていく。個人の範囲で、お金集めをしなければならんということに、余り時間を割いたりするのはいかがなものであろうか、という角度の議論もしなくてはなりませんが、これについては選挙制度審議会にも、今、鋭意、審議をお願いしているテーマでありますから、ご答申を頂いたら、その答申を尊重しながら、更に公の立場の政治資金というものは分かりやすく、そのかわりそういった時には、他の方はどうするかということも、併せて自ら考えていかなければならぬ両面ある問題だと、こう考えております。

 それから、もう一つは、お金のことだけではなしに、選挙というのは、政策を争うものだと私は基本的に受け止めておりますから、政策本位の選挙戦というのは、どのようにしたら出来るのであろうかと。あるいは、また、今、選挙区の定員の問題等についてもいろいろご議論があり、これも選挙制度審議会にその審議をお願いしており、答申が頂けることになっております。

 で、そういったものも頂いて、長い目で見ればやっぱり、政策本位で、お金のかからないような選挙の仕組みというものも、きちっと踏まえながら、そして必要なものは諸外国もそうであるように、公費の支出で賄うようにしながら、政治とお金の関係は、分かりやすいきれいなものに、個人があまり個人の力で集めていくようなことが、少なくなっていくことが出来るように、そういったことも併せて解決していくのが、政治改革の大きな目標だと思っております。

 そして、併せて、先ほど質問にありましたように、派閥の問題について、いろいろ皆さんのご批判、ご指摘も受けていますが、派閥の弊害もだんだんなくしていくというのが、これは政治改革というよりも、自由民主党の党改革に係わる問題ですが、これも党の政治改革大綱の中では、十分な議論をして結論が出ているわけでありますので、その方向へ向かって、前進していくように取り組んでまいりたいと思ってます。

問 今の話に関連していますが、総理自身は具体的には選挙制度の中味ですね、よく、小選挙区比例代表制がいいんじゃないかという議論もあるようですが、その辺まで踏み込んでの腹案は何かおありでしょうか。

総理 小選挙区比例代表制というのにつきましては、いろいろな国でいろんな制度がございます。私は、少数政党の少数意見を尊重するという立場から、比例制というのは欧州では定着してきているような感じを持っております。ただ、中選挙区の持っておる、その両面がありますし、それから小選挙区というものが持っておる両面もある。私も初め、小選挙区になれば、同じ党の議員が複数で出ておる所で、争う時には、政策は殆んど同じなんですから、随分辛いなということを考えながら実態をずっと見ておったことがありますが、意外にこれは皆さん感じていらっしゃることではないでしょうか。

 ですから、政策本位の選挙ができる。あるいは政党の支部というものが、もっと力を持って選挙活動ができるというようなことになっていくのも、改革していかなくてはならん一つのテーマだと思うんです。

 そこで、そういう選挙区の組立ての仕方、あるいは選挙制度でもいろいろあるわけでありますから、そういったことについて、これから党内でも活発に積極的に議論を重ねて、党内合意を得ていきたいと思いますし、また、選挙制度というのは、むしろ、自由民主党だけの選挙じゃありませんから、野党も含めての選挙でありますから、国会における与野党の議論、与野党の合意というのも非常に大切なわけでありますから。まず、自由民主党の中では、自由民主党の考え方、自由民主党の目指すものというのを、政治改革大綱に従って、方向だけは大きく出ておるわけですから、それを更に具体的に詰めていきたいと考えています。

 野党にも野党のご意見、野党の考え方を十分にご議論願って、この問題もやっぱり、対話と改革ですから、話し合って、いろいろと世界でおこなわれている例等も参照にしながら、どうすべきかということは、論議を深めていかなければならん問題でありますので、各党各会派が、この問題については、それぞれご指摘をなさっているわけでありますので、前進していくように願っています。

 ちょうど今年が議会制度開設百周年ですから、考えるにふさわしい時ではないか。また、この時に考えて、前進をさしていくのは大切なことだと考えております。

問 それでは外交問題を伺いたいと思います。まず、日米関係ですが、総理は明後日からアメリカを訪れてブッシュ大統領と首脳会談を行うということでありますが、その会談については、グローバル・パートナーシップに基づく日米関係について、具体的なテーマはお考えでしょうか。

 それから、日米構造協議の問題が出ると思うんですけれど、これについて総理の方から何らかの提案なり、あるいは、アメリカ側の条件に対する回答なりをお考えでしょうか。

総理 最初にお断りしておきますけれど、まだ、国会のご了承をいただいておりませんので、国会のご了承をいただいたら、という前提つきでお話しをさせていただきます。

 私は、昨年の九月にブッシュ大統領と首脳会談をいたしまして、個人的な信頼関係を確立するとともに、日米両国の考え方というものを率直に話し合うことができて、非常に有意義だったと思っております。

 そして、日本の外交の基軸はやっぱり日米関係だと思っております。そして、それは、ただ単に、日米安全保障条約に基づく日本の平和と安全の問題だけだというふうに、そんなに小さく考えておりません。

 ご承知のように、安全保障条約自体にも、平和と安全のみならず、条文まで起こして、経済協力やあるいは福祉条件の向上の問題などまで、両国関係が書いてある条約でして、私流に考えれば、中身をよく読むと、日米基本友好条約みたいなものだなあと、こう受け止めてきましたし、事実、今日までの戦後の歩みというものは、貿易にしろ、あるいは、生活文化の受け取りにしろ、全部、アメリカから、日本というものは随分、刺激といろいろな供給受けながら、今日にきたと思っております。

 そうして、また、いま世界の流れは、片方がアメリカを頂点とする、そして片方はソ連を頂点とする、東西の対立という構図が、大きく変化をしており、世界の新秩序を米・ソが協調しながら模索していこうという時代になってきているわけですから、力で世界を左右するとか、力で対決の時代という発想でないわけですから、日本はアメリカとの外交関係を基軸にするならば、もっと自由民主主義と市場経済の価値というものを、世界の新しい秩序の中に、どのようにして、日本も参加をしてお役に立っていくかということも、よくアメリカと話しながら片づけていかなければならん、というグローバルなものであります。

 それから、大統領からいろいろな親書がきたりした時は、もっとグローバルな地球環境の問題とか、麻薬の問題とか、いろいろな問題について提案があったり、私の考えも述べたりしましたが、正に、いま、空気や水は、国境がないわけですから、自由に移動できる空気や水が、地球を汚染しているということになると、それぞれの国がこじんまり、自分の国だけきれいにすればいいだろうということでは、解決しない問題が地球環境問題です。これは、やっぱり、それぞれの経験を持ち、技術を持ち、公害その他の問題に対応してきた国々が、力を合わせてやらなくてはならんグローバルな問題であると。これも日米間ではできとる話でございます。

 それで、ブッシュ大統領からも、本年早々から議題を決めないで、グローバルな地球的規模のことで話し合いをしたい、という意向も聞いておりましたし、また、私が、選挙の直後、確か十九日でしたでしょうか、選挙に勝利しておめでとう、ということとともに、また、近い機会に会おうというお話もありました。

 ですから、今度お目にかかる時に、特にこれという議題も決まっておりません。また、この間提案を受けました電話のときにも、特定の議題を決めないで、何かを取り決めようとか、そういうことじゃなしに、私には、この間行ってきたヨーロッパの問題等についても意見交換があるし、グローバルな地球問題解決についても、日米両国の問題もあろうと。議題も決めないで率直に話し合おう、という提案でございました。

 で、私も、こういった時には、自分の時間の許す限り、率直に話し合うことが、これからの日米関係には大切ではないかと。今、非常に日米関係の、なんて言うのでしょうか、消極的な暗い面ばかりがアピールされて、非常に危機的だというようなことすら言われたりしますけれども、一面みると、そういうことばかり言っておったんではいけない。日米には基本的に、両国にパートナーシップがあって大切な同志なんだということになれば、共通する点を大切にしながら、静かに話し合って解決をしていかなくてはならんという、そういう基本的な姿勢が多いと思うんです。

 ですから、日米構造協議の問題も、日本側も出来るだけ努力をしながら、いろいろな成果と努力を重ねつつございます。そういったことについては、当面、会合で話してはおりますけれども、そういうレベルで細かく分けて、一つ一つやっておるほかに、基本的な関係ではやっぱり首脳で集まって、お互いに考え方を述べたり、今後の日米関係について率直な意見を交換する。なにか、合わないところや、違うところだけを強調して、そこだけにスポットを当てて、拡大強化していくのは、私は日米関係のためにもよくないと思います。

 また、日本もアメリカも双方共に、アメリカも今度の大統領の予算教書などを見ておりますと、いろいろな面で、貯蓄の問題に対して特別な税制を作って努力されておるとか、あるいは、財政赤字を少なくする努力をしておるぞということがでてきております。アメリカ側も日本の言い分も聞いて努力しているな、ということがよく分かります。

 しかし、日本側も、輸入国家になろうと、輸入大国になろうということで、一生懸命輸入促進をやり、内需拡大政策をやってきました。従って、輸入はどんどん増えてきて、アメリカからの輸入も増えてきています。だから、一時、マジックワードのように言われた五百億ドルを超える日米間の貿易のアンバランスというのは、四百九十億ドル、ほんの僅かですから、減った減ったとここで強調するつもりはありませんけれど、三年間五百億ドル以上続いたのが、貿易のアンバランスです。この貿易の不均衡を何とかしようというので始まったのが構造協議の始めですから、日本側もそういう努力をして、これを減らすようにしようとか、あるいは、輸入促進税制を作って輸入をもっと促進しようという、これは演説だけじゃなくて、実際に税制の努力も行っています。内需拡大による景気の持続というものも、ずっと続けてきております。しかし、それだけでは不十分ですから、更にやろうというので、土地基本法を踏まえて、平成二年度中に税制改革をやっていろいろと協議している問題を、議会の方で政治的に政策努力をして、援助しておこうと。日米間の関係をもう少し目で見て分かるように。「ああ、よくやってくれておるなあ」と分かってもらうような、そんな努力を一生懸命やっていこうということで、政府・与党ともに取り組んでいるわけでありますから、そういうようなこと等についても、将来像も踏まえて、話し合いを充分することが必要だと思います。

問 今度の日米首脳会談で、先日の構造協議でアメリカ側が具体的に公共投資のGNP比一%引き上げ、大店法、独禁法など個別具体的に指摘し、日本側の対応に対し不満というのを述べているようですが、これらの指摘に対して、首脳会談では、何らかの具体的な回答というのは持っていかれるのですか。

総理 この間、大統領からの電話でいろいろお話しましたときには、大統領はそういうことではなくて、もっと基本的な大きな立場で、この間のヨーロッパ訪問の時のいろいろな問題等についても話そうと。それから地球的規模の大きなグローバルな問題についても話そうと。おそらく、これまでいろいろ言っておりました地球環境の問題とか、途上国の累積債務問題にどう対応するとか、南の飢餓に対してどのようにするとか、あるいは、私の方からは、特にこの前からも、アジア・太平洋地域における平和と繁栄の問題を、マルタや、東欧の変化が、ヨーロッパのみにとどまらずに、アジア・太平洋にも来るのに、日本も積極的にイニシアチブをとる努力もしたい。それは、アメリカとよく政策協調して、共同行動しながらいろいろやっていきたい、というようなこともいろいろ話しているわけですから、そういう大きな問題も出てくると思います。

 それから、日米構造協議の問題は、専門家のところで両方から相集まって、正に、投資の問題とか、大店法の問題とか、いろいろ両方で主張を述べ合って、やったことを言い、やるべきことを言いながら四月にお互いにペーパーを出し合おうというところまできて、いま正にその作業が進んでいるところでありますし、また、ブッシュ大統領も、つい、この間、専門家会議の話が終わって、そして、二、三日の間に、ペーパーが出来て、そういうところまでなるというところまでは考えになっておらんだろうと。

 もし、それが、大統領の方からそれが出たら、引き続いて、これは専門家のところでの話し合いに移していきますけれども、政府としては長い目で見て、例えば、日米構造協議が出る、もっと以前から、これは皆さんご承知のように、社会資本が遅れているから、社会資本をもっと充実させなくてはならん。政府の社会資本関連の中・長期計画が十五本あることはご承知のとおりだと思いますが、そのうち八本くらいは、確か来年が完結年度になっております。こうやって長い間コツコツと計画的な社会資本を積み立てていこうという努力も、日本は続けてきているわけであります。

 また、五十七年以降は、ゼロ・シーリングとか、マイナス・シーリングが続いて、確かに、公共投資がこの六、七年、非常に横バイであったことも承知しております。しかし、三年前から、NTTの株売却に伴う無利子の公共事業、そして、昨年はNTTの株を売却しない予算編成にならざるを得なかったんですが、それでも一兆三千億規模で前年と同じような規模で、それを用意して事業量としてはなるべく減らないような、落ち込まないよう努力をして、公共事業というものは充実していくように、それから、また、地方活性化に対する施設。通称、ふるさと創生事業というのが始まってきたのも、それを更に拡大して、そこにいろいろと地方活性化の政策に持っていこうというので、懇談会もつくり、昨年ご議論願って、地方にはもっとそういうものを進めていったらよいというように、公共事業のことについても、日本は出来るだけの努力をし、これは遅れているんだということも承知の上で作業を続けてきておるわけでありますから、そういったこと等も正直にお話をしながら、しかも、なお、これは国民生活の質的向上のために、日本独自の努力としてやっていかなくてはならんことだ、という考え方についても、率直に我々の考え方を聞かれたら伝えます。

 構造協議全体の話題の時には、そういうようなこと等、大きな考え方を今日までやってきた努力とともに、お示しするのが相応しいと、こう思っておりますが、正直に率直な話し合いをして理解を深めていくことが大切だと、こう思います。

問 つい最近の構造協議は、アメリカは失敗とみています。それで、次の日、ブッシュ大統領は、総理の週末の零時すぎホテルに電話を入れて、例外の招待をされたと思うんですけれども、要するに、日米関係の緊張化を憂慮することを示していると思うが、総理はこの記者会見で何回も問題解決しなくてはなりませんとおっしゃっているんですけども、今回はアメリカに行ってこの緊張化とか深刻化の中で、非常にいいチャンスと思われませんか。何かジェスチャーを示し、何かメッセージをブッシュ大統領とアメリカ国民にそういう中で、どう思われるんでしょうか。

総理 この間、ブッシュ大統領がお電話下さったのは、別に取り立てて異例のことだとは思う必要ないと思います。これからは用があれば、ヨーロッパの首脳やブッシュ大統領自身がいつもやってらっしゃるように、気楽にお互いが出会って率直に意見を交換する。そのために手紙よりも電話の方が早いし、確実なわけですから、私は個人的な信頼関係に基づいた意見の交換、そして、その提案というものに電話が使われたこと。たとえ、それが夜であっても、日米間には時差があるわけですから、このことについては、決して私は異例とも思っておりません。

 それから、私自身も、そういった時には、私自身の都合の合うときには、出て行って率直に意見の交換をあらゆるレベルで重ねていった方が、両国に、もし、誤解とかすれ違いがあったとするならば、それを解くためには、必要なことではないかと、素直にそう考えているんです。ですから、出来るだけ会って話し合いするということは、いいことだと。いろんなレベルでやったらいいと、思ってます。

問 総理の意見では、日米関係は経済問題で悪化すると思いますか。

総理 私は、悪化しようなんて全然思っていません。それから、よくしていこうと思って、今、正に、経済協議もしているわけです。それから、スーパー三〇一条で、三つのことに指摘をうけており、それに対して、制裁を前提とした交渉には応じないが、しかし、話し合いによって解決しなければならない問題については、誠意を持って解決するというので、三つのテーマについても悪化しないように、それぞれ努力していることは、ご理解いただけてると思うんですけども、日米関係を大切に考えればこそ、経済関係でこれが悪くならないようにしていきたいと、基本的にはそういう考えでおります。

問 次も外交課題ということですが、昨年来、東欧は激動してるわけですけれども、それについて二つほど質問します。

 一つは、その事実を総理としてどのように受け止められているか。そして、東欧諸国の民主化へ日本がどのような形で協力していけるのか。

 もう一つは、対ソ外交ということですけれども、北方領土問題を含めて、やっかいな問題なんですけれども、どのように対ソ外交を取り進めていくのか。そして、その見通しは。来年はゴルバチョフ議長も、初の訪日ということになっておりますが、それを含めてお伺いします。

総理 最初の東欧の変化をどう見るのかと、こういうことでありますが、一言で言いますと、一番いい例はドイツのベルリンの壁だと思うんです。同じ歴史や文化、また伝統や、教育水準を持っておったドイツの人たちが、あの壁で分断されて二十八年経ってみたら、あれだけ差がついておった。

 そして、やはり、東ドイツから西ドイツの人の流れが一向に変わらなかった。命を的にしてでも乗り越えてきたその壁をなんとしてでもなくしてほしい。自分たちは自由に行きたいんだという願望がでた。そして、それは、別に生活に困ったとか、技術のない方じゃなくて、生活もできる、技術もある。けれども移動していきたい。あれは、やはり、自由が欲しいからだという。そして豊かな生活ができるようになりたいという。そういう率直な願望だったと思います。

 ですから、そのこと自体が欧州の大きな流れになってきた。社会主義という名前を、国の名前からはずしてしまった国もでてきたと。そして、皆が少々苦しくても、自由主義経済に変わっていこうと、ヨーロッパは国を挙げて努力しておるわけですから、これは、歴史の流れだと思います。

ただ、私は、これを自由主義と社会主義のどちらが勝ったとか、どちらが負けたとか、そういう次元で捕えたり、議論したりする気は毛頭ありません。折角世界がそういうふうに流れが変わってきて、歴史が方向を示したならば、日本が戦後、自由、民主主義、そして市場経済の中で、これだけ明るい社会、豊かな暮らしというものを、普通の日本の生活の中で享受することが出来るようになったんですから。

 そういったものに移行したいという国があれば、昨日まで、社会主義の体制の下で苦しんでおった人々にも、積極的に手を差し伸べてご協力をして、経済援助というだけじゃなくて、技術移転や、あるいは人間自身が行って汗を流したり、一緒になって国造りにご協力するというような、そんなことをしていくのが、世界のために、日本が正にお役に立てる方法であると、このように受け止めております。

 ヨーロッパにおける東西対立の間を、冷戦の発想を乗り越えて、新しい秩序を作っていこうという動きは、私は賛成しておりますし、それらがヨーロッパを刺激して、ECの統合、そのECがまた、更に大きくなって、欧州共通の家と言われるような、更に大きなものになっていくという動きも、私は、これは方向性として極めて望ましいことだと思います。

 だから、それはアジア・太平洋にもいい影響を及ぼさせなきゃならんわけですから、アジアでもまだカンボジアでも戦争がある。朝鮮半島は軍事力を巡っての対立があり、解決をしなきゃならん問題が多くありますけれども、これは世界的規模でそのような対立から協調、そしてみんなが自由と民主主義を求めて暮らせるような世界秩序の構築というものに、日本はできるだけ協力していくべきだと、こう決心しておりますので、今年早々にヨーロッパ旅行しましたので、そういったことを模索をし、また、具体的に日本もそれに参加してやっていくんだという哲学を披露してきました。こういうふうにご理解をいただきたいと思います。

 それから、後半の対ソ外交をこれからどうするか、ということでありますが、ソ連は世界の強国であり、しかも、日本の隣りにある大事な国であることは間違いありません。しかし、不幸なことには、領土問題が解決しておりません。領土問題を解決し、平和条約を締結して、そして本当に安定的な関係を打ち立てていかなくてはならんというのは、外交の一つの大きな課題であります。

 このことについては、ご承知のように平和条約の作業グループというものも始まって、いろいろ議論しております。また、昨年訪日されたヤコブレフさんとも、私も率直なお話し合いをいたしましたけれども、まだ、現段階での見通しとおっしゃっても、領土問題はカクすればカクなるという見通しは具体的には立っておりません。

 また、昨年は党代表で安倍前幹事長が訪ソされるときにも、私は、親書を書いてお渡しをしました。また、帰られてから、すぐ報告を聞きましたけども、ああいったことの積み重ねというものが、日本とソ連との間をよくしていくという、一歩一歩の前進につながっていくように心から期待をしております。ソ連のペレストロイカというものも、本当に外交面にも新思考外交となって現れてきており、アジアにもそれが現れてくるということになるなれば、北方領土の問題を私たちは解決するためにも、なるべく幅広く、いろいろなソ連との関係を進めていくべきではないかということで、昨年の十一月には、ソ連からの経済調査団を受け入れて、いろいろお話し合いもいたしました。これからも人物交流とか、可能な実務関係というものの交流、あるいは外相レベル、その他レベルでのいろんな話し合いを通じて、ソ連との間は安定的な関係に進めていきたいと思って努力していくつもりであります。

問 総理、ソ連と同時にアジアの隣人である中国と朝鮮半島についてちょっとお聞きしたいんですが。第一は中国ですが、第三次円借款供与問題ですが、これは、準備体制がすんでいるが、実際のリリースが出来ていない。この最大の理由は何かということ、凍結解除に当たって重要なメルクマールがあるのか。例えば、方励之さんという物理学者がいらっしゃいまして、在中国米大使館に入っておられますけども、この方が例えば、国外に行くということが一つのメルクマールになるのかどうか、こういうことについてお答え願いたい。

 それから、朝鮮半島についてはですが、日韓関係の重要な問題である在日韓国人の韓国人三世の法的地位の問題。これは、盧泰愚大統領の来日問題とも非常に絡んできておりますので、これについて、何らかの政治決断をしなければならない、そういう状況になりつつあると思いますが、これについていかが考えていらっしゃるか。

 最後に、朝鮮民主主義人民共和国との関係改善なんですが、昨年の四月、竹下当時の総理の声明以来、殆ど日朝関係は余り進展がみられていない。そこで、何かイニシアチブをとられて、関係改善に歩むんですか。

総理 最初に中国のことについて申し上げますけれども、六月四日の天安門事件以来、西側諸国と中国の間に非常に距離ができてしまった。日本と中国の関係も、この停滞状態が続いてきたことはご承知のとおりだと思います。

 去るサミットのときに、西側諸国の考え方というものは、人道的な立場から極めて厳しいものになったこともご承知のとおりです。しかし、私は、中国を孤立させてはいけない。これは、世界の平和と安定のためにも、中国の孤立化はよくないと考えておりますので、中国が改革・開放路線をとり続けるということは、既に人を介していろいろなメッセージが伝わっております。また、本気でやはり改革の開放路線は続けていこうという基本であることは間違いありません。

 そして、この間も、鄒家華国務委員がおいでになったときにも会っていろいろお話しいたしました。日本側からも局長レベルで接触を始めました。ただ、今は、第三次円借款の分の仕事は継続条件はどんどん決まり、続いているわけですが、第三次の八千百億については、停滞状態がまだ続いておりますけども、北京の戒厳令の解除も中国がしたということも、これは一つのシグナルとして、私は見つめております。これ以上、西側諸国との差が開いていかないように中国の考え方、中国の立場というものは、私も、首脳会談の時にも、いろいろ言って孤立させてはいけない、中国の改革・開放路線に出来るだけ日本も隣国として、力を借していかなければならんという気持ちを持っておるわけですから、西側諸国と中国との間のいろいろな問題についても、私は、これ以上距離が開いていかないように、更に、もっと言うなれば、近づいていって改革・開放路線に本当に協力できるように、中国側にも対応を求めながら、西側の人々にも、世界の平和と安定、特に、アジアにとって大事なことだということを、アジアの立場として言いたいと思います。

 また、今日までも、いろいろ言ってきておりますが、内容が重複するからいけませんかも知れませんが、例えば、長い目で見て、中国が改革・開放路線に本気で取り組んでいるというのは、やっぱり国家教育委員会というのができて、教育改革を本気で取り上げて義務教育制度を制定したんです。そのため、いろいろやっておるんです。日本の意見も聞かせてほしいということで、いろんなことを話し合ってきたことを考えますと、中国の改革・開放路線、民主化へ向かっての動きを、やっぱり長い目で見るべきではないだろうかという気持ちでおります。

 それから、在日朝鮮人の法的地位問題につきましては、これは、二世・三世の問題がありまして、前向きに検討を続けているつもりでございます。そして、隣国でありますから、やはり韓国との間は十分な話し合いによって、より一層の友好関係を強化していかなければならんと思っております。

 また、最後にお触れの北朝鮮との関係につきましては、これは、朝鮮半島の対立状態、朝鮮半島の緊張というものも、アジアにとってはやっぱりなくしていかなければならん問題で、それに、日本がイニシアチブとるというならば、北朝鮮との間で、政府間レベルの対話を、接触をしたい。そういうことをいろんなルートを通じて、人を介して、申し入れをしているのであります。なんとか、これは実現させていきたいと存じます。

 また、北朝鮮との間には、第十八富士山丸の問題を巡って、これもいろんなルートを通じてお願いしているんですが、未解決の問題もございます。ですから、こういったことを、関係を安定的にしていくためには、やっぱり政府間で話し合いがまず始まらなければならない。私どもは、出来る限り、北朝鮮政府との間で話し合いが出来ていかなければなりません。その話し合いを通じて、安定的な関係が生み出されていきますように、心から願ってそのシグナルをいつでも、機会あるごとに送っておるところであります。

問 総理、もう一つ外交の問題なんですが、今年前半考えられますのは、七月にアメリカでサミットがありますね。六月末には、米ソ首脳会談がある予定ですけども、この訪米の後、特にゴールデンウィークに、例年、総理は外遊されてますけど、過去の総理は。総理としては、そういった機会を利用して、どこの国、例えばASEAN諸国を訪問する意向があるのか。また、サミットの前に西側の首脳にもう一度お会いになる意向があるのか、その辺を相手のあることですが、総理の意向をお聞かせください。

総理 それは、今ここで具体的に、まだ、何も申し上げられません。ただ、おっしゃるように歴代先輩の総理大臣は、外交案件処理に力を尽くしていらっしゃった時期でありますし、是非来て欲しいと言われておるところもあるわけですから、十分、いろんなことを総合的に判断してやらせていただきますが、まだ、何とも申し上げられませんので、決まったらご報告させていただきます。

問 次に内政問題について二、三質問させて頂きます。自民党の総選挙における勝利を契機に、株式、外ため、いずれも大幅に値を下げておりますが、この原因を総理としては、どのように分析しておられるんですか。また、対策はどのように考えておられるんですか、この点について。

総理 それは、総選挙の結果、上下したんでしょうか。その前に上がったんじゃないですか。私は、そういうふうには直接考えておりません。むしろ、株式というのは、非常にいろいろな理由があったんでしょう、上がったのが。今年に入ってからは、それに対する調整ですね。そういう作用が、調整作用が働いたんだと思います。

 また、最近では、金利の上昇とか、円安とか、そういった外部環境の不透明感も出てきた。そういったことによって、あるんじゃないでしょうか。そして、ただ、日本の場合は、ご承知のように、もう三十八か月もずっと景気拡大が続いておって、経済のファンダメンタルズは非常によろしゅうございますし、物価の問題にしろ、雇用の問題にしろ、非常にいい状況で続いておりますから、これは市場が適切に対応していく問題だと思っております。

 また、売り買いの数量も調べてみますと、大口の殺到はないんですね。小口の売り買いでありますし、また、昨日五百七十六円、戻したというのが、今日の午前中の取引きでは、五百七十一円戻したということになっておりますので、株式全体の大きな波の中ではまだ、その一部かも知れませんけれども、昨日、今日は、戻しの状況も出てきておるので、株式市場全体で、対応していくものであって、ファンダメンタルズでは、経済全体いいわけですから、そんな心配をどうかなさらないように。同時にそれは総選挙の結果下がったということは、直接の関係はなくて、やっぱり昨年来の暴騰の調整だとそういうふうに理解して頂きたいと思います。

問 これまでも、いろいろな内政の課題を挙げられているんですけども、常々総理は選挙中もそうでしたけども、公正な社会それから公正な政治というようなことをいろいろな場で強調されているんですが、現実的にですね。総理ご自身が、今の世の中でどういうことが不公平で不公正だというふうにお感じなっているのか。例えば、その中で一つぐらい例を挙げて頂いてですね。具体的に総理は、それはどういうふうにすれば解決されるのか、そのことをちょっとお聞きしたいんですが。

総理 いろいろその不公平とか不公正とかいうことには、当てはまる現象が沢山あると思うんですけども、一つ、象徴的なものを挙げよというようなことをおっしゃいましたけれども、私はやはりこの数年間は土地だろうと思います。だから、土地の異常な値上り、そして土地というのを持っているということと、持っていないということに大変な差がある。私は、現実に社会の人々から見て、そうだということになれば、土地は持っていれば必ず儲るものだという土地神話なんていうものは、公正な社会のためにはあってはならん話だと思うんです。

 ですから、これは、与野党通じて、国民の皆さんも、やはり土地というのは公共のために利用するものなんだと、これを投機の対象にして、儲けるようなことに使ってもらってはいかんのだということは、土地に対する理念として、みんな持っていらっしゃるわけですから、それに従って、去年、土地基本法というものの成立に全力を挙げたわけです。

 これはある意味では、私権制限にもつながるものでありますから、今の日本の個人の権利義務というところから見ると、一歩踏み込んだ、公共の福祉が優先されるというような、改革の法律でありましたけども、これこそやはり公正な社会を作るために、今いちばん目につくものをきちっと押さえてやるという意味のものであったと思いますので、土地基本法の成立を踏まえて、いろいろ土地対策、これは税制もありましょうし、あるいは遊休地を利用していこうという制度もありましょう。そういったようなものを平成二年度中にきちっと具体的な法律に作り上げていく。税制は税制改正の措置もとっていきたい。一つ例を挙げればこれがいちばん目につく。

問 今日発売された週刊誌に、リクルートの隠し献金について載っていますが、その中に総理の秘書官の談話も載っており、報告を受けられたかと思うんですけども、国会で野党なんかが追及する前に、クリーンを標榜される総理としては、それによりますと、千四百四十万円と前に報告頂いたんですが、二千六百三十万円あるというんです。詳細にいろいろ内訳を書いているんですが、総理の方から、積極的にもう一回調べ直すとか、そういう対応をお考えですか。

総理 そんなことは、いろいろな数字を挙げて、聞かれたこともありましたし、国会でも、もっとあったんじゃないかとか、いろいろな数字が飛び交いました。私の所では、全部調べて領収書を差し上げたもの、それから政治資金として貰ったもの、パーティー券であれ、それから記憶にあった講演料のも、それも全部含めて報告をいたしましたので、私の事務所としては、あれがすべてだと、こういうふうに言っています。

 私もそう信じております。だから世の中にはいろいろな説が沢山ございますが、私の方としては、自分の所で分かっているのは全部出すと、こういうことです。

問 リクルート社の中にあった記録があるわけですね。検察が押収したりしてるのもあるでしょうけど、そういうものが元であるように書かれているわけなんですが、法務省の協力などを得てですね、そういうものをお調べになる。つまり、事務所側の帳簿というものだけでなくてですね、向こう側のもの・・・。

総理 あったものはありましたと言って、正直に調べて出しましたけども、なかったものはありませんというのは非常に難しいことじゃないでしょうか。

 それから、私は、この間の予算委員会でも私の政治資金の団体が、これとこれとあると言って、質問を受けて資料を出されたことがありましたが、あの中にも、どうしても理解のできない後援会があったわけですね。ようく調べてみましたが、出される資料というものも、どういう所から出てきているのか、よく見せてもらわないと、それは照合しようがありません。

問 内閣発足の日にそういう週刊誌などが出ますと、イメージを悪くしてしまいますので、むしろ積極的にそれを何かとられるとか・・・。

総理 ですから、なかったものをなかったという方法は全くないわけで、私は積極的に自主的に自分の所で調査をして、そして、パーティー券も政治資金として受け取っておったものを、これは正式には政治資金じゃなくても講演料として受け取ったことがあるというものを全部自主的に報告しておるわけでありますから、それを見てご判断頂かなければ、それ以上のことは私の所では分かりません。

 しかも、もうひとこと言わして頂きますと、それはすべて社会的にリクルート社が批判を受けるようになる前のことであって、私としては、今後、そういった誤解や疑惑を受けちゃいけませんから、厳しく今後は戒めてまいりますということも皆さんの前で最初の時に申し上げたとおりでございます。

問 昨日の会見でも、各官僚の人選に当たって、リクルートやロッキードの方が結果的に入らなかったことについて、各大臣、皆、評価しておられたんですが、これは、これから後、発表されるであろう政務次官とか、そういうところにも、いわゆる未公開株を受けたような方は入らないと、そういうふうに思っていいわけですか。

総理 未公開株を受けた方というのは・・・。

問 リクルート社の未公開株を買った人達、我々がいわゆるリクルート関係議員と、こう呼んでいるような人達がですね。昨日、閣僚の場合について言えばリクルートの人は入らなかったわけですが、他のことについてはいかがですか。

総理 政務次官のことについては、まだ具体的なことは分かりませんけども、私は、そういったことはないと思いますよ。そして、政治改革を一生懸命やっていこうとしている時ですから、どうぞ前向きにひとつ眺めて応援してくださいよ。

問 米の自由化問題で、ブッシュ大統領と話し合う用意はありますか。

総理 あれは、次元の違う所のテーマじゃないでしょうか。ブッシュ大統領と私が二人で話し合うテーマだとは思っておりませんし、米の問題については何回も申し上げてきたように、ウルグァイラウンドの所でお話し合いになるテーマじゃないでしょうか。

問 先ほど、派閥の弊害を除去すると言われましたが、それで、選挙の前に実力者を回られましたね。これからは、派閥の領袖を回るようなことはしないとういう意味ですか。

総理 正直に選挙前のことは党が活力を出して勝ちたいから回りましたと、正直に申し上げましたので、それをもってご理解頂きたいと思います。