[文書名] 政治改革法案成立に際しての細川内閣総理大臣の記者会見
− それでは、会見を始めさせていただきます。
臨時国会が今日閉幕しますが、細川内閣の最大の課題でした政治改革法案が成立しまして、通常国会で修正という決着を見る訳ですが、政治改革法案の決着の仕方をめぐっては別途いろいろ質問があると思いますけれども、幹事社の方から先の方を向いた質問をしたいと思います。
当面、これから延び延びになっていました景気対策、それから予算編成、来年度予算に入っていくと思うんですが、この問題についてどういう方針で策定しようとなさっているのか。特に目玉になっています所得税減税について、その規模、それから財源の手当の問題などについて具体的にどう思っているのか、お話願いたいと思います。
○細川総理 初めに、まずこの政治改革法案ですが、先刻参議院の方を通過をいたしました。まだこれで完全に法案が出来上がったということでは勿論ございませんが、大きな山を越えたと、ひとまずほっとした感じがいたしております。
しかし、この政治改革法案が勿論この内閣の最大の課題であった訳ですが、行く先を見るとまだまだ大きな山が連なっていて、これを一つ一つ越えていかなければならないな、なかなか大変なことだなという思いが改めてしております。しかし、とにかく国民の皆様方の御期待をしっかりと受け止めて、この法案がこうして成立にこぎ着けられたということは本当によかったなと、国民の皆様方の御支援に改めて御礼を申し上げたいと、そういう気持ちでいっぱいでございます。
経済対策についてのお話でございましたが、こういう形で政治改革法案が一つの区切りが付いたということを受けて、何と言いましても当面の最大の課題が景気対策であることは改めて申し上げるまでもございません。経済企画庁を中心にして今、経済対策を取りまとめておりますが、出来れば来週中に策定をしたいと思っております。その規模とか、内容につきましてはまだ申し上げられる段階ではございませんが、出来る限り実効のあるものにしたいというふうに考えているところです。
それから、減税の問題についてもお尋ねがございましたが、この点につきましては今日多分五時半ですからもう始まっているんでしょうか、経済改革協議会が始まっておりまして、その場におきまして是非早急に詰めていただきたいということをお願い申し上げているところです。
それから、今後の段取りについても、予算編成などの段取りについてもお尋ねがございましたが、三次補正につきましては経済対策の取りまとめを受けて、訪米後に出来るだけ早期に国会に提出をしたいというふうに思っております。
それから、六年度の予算につきましては、これもまだ確たることを申し上げられる段階ではございませんが、出来れば十日までに内示をし、訪米後、速やかに政府案が決定出来るように作業を進めてまいりたいというふうに考えているところです。
− この法案が成立をいたしますと、政界再編というのは更に加速をするということが想定されますけれども、総理がおぼろげに描くような将来の連立与党の枠組みというものがありましたら説明をお願いします。
○細川総理 さて、それは私もまだ何ともその辺のどういう形になっていくのかという図はよく分かりません。もう少し時間がたたないと、その辺のところははっきりしてこないんじゃないかという気がしております。
− 総理は十一日に訪米されて日米首脳会談に臨まれる訳ですけれども、日米包括協議等々、大きな課題を抱えての会談になると思いますが、クリントン大統領との会談に臨まれる基本姿勢について伺わせてください。
○細川総理 今度が三回目の会談になる訳ですが、今までの一連の会談を通じて、言わば今までの作業を確認をする、そういう場になるだろうと思いますし、今、マクロの問題、ミクロの問題、両方についてその詰めの最後の作業をしておりますが、なかなかこれは厳しい問題をまだ抱えておりまして、何とか日米首脳会談までにお互いに納得のいく結果が出来るように、最善を尽くしていきたいと考えております。
マクロの問題では、米国の方は何と言いましても経常黒字の削減のための措置ということを一番強く主張しておりますし、その中には景気対策、あるいはまた内需の拡大、税制の問題、いろいろなことがあろうと思いますが、そうしたことで我が国が出来る限り思い切った措置を取ってもらいたい。これが米国側の強い要請である訳ですが、強い要請というか、大きな関心である訳ですが、会談までに可能な限り努力をいたしましてパッケージをまとめていきたいというふうに考えております。
それから、ミクロの問題については政府調達あるいは保険、自動車、こういった問題がある訳ですが、このミクロの問題については数値目標でありますとか、あるいは政府の手の及ぶ範囲の領域の、政府の手の届く範囲という、その領域の取り扱いの問題、あるいは双方向性といったようなこと、そうした基本的な点につきまして双方の意見がまだ対立をしております。
しかし、この問題については我が国の立場というものもしっかりと主張をしていかなければならないというふうに思っておりますし、今その最後のこの問題についての、こうした問題についての話をしているところですが、何とか妥協点を見出してまとめるように指示をいたしております。
− 一点御確認なんですが、来週発表される景気対策には減税の問題は入る訳ですか。
○細川総理 その辺はまだ分かりませんが、先ほども申し上げましたように、内容とか、規模とか、そうしたものについて現段階ではっきりと申し上げられるところまで至っておりません。出来る限り早急に取まとめたいと思っております。
− それでは、各社自由に御質問をどうぞ。
− 国民の間には、新しい選挙制度には一体どうなるのかという不安と申しますか、そういった気持ちもあると思うんですけれども、一体どれだけ民意というものを酌み取れるのか。その辺についてはどういうお考えでしょうか。
○細川総理 民意がどれだけ反映されるかということについても国会の中でも随分長い間御論議をいただき、あるいはまた審議会などでも御論議をいただいて、今回このような形で最終的に与野党の、と言っても野党の最大会派である自民党との間で、政府案との間での妥協というものが成立をした訳で、この並立制というものによって、それが政権の集約という方にばかりいってしまっているのではないかということにはならないと思っております。民意の反映という点にも、十分この並立制というものは配慮されたものであるというのが基本的な認識です。
− 総理は、昨晩の記者会見で、自民党の河野総裁と景気あるいは日米包括協議で改めてトップ会談をされると、こうおっしゃった訳でありますが、これが将来の広い意味での閣外協力というような関係にも及ぶのかどうか。これが第一点です。
それと、総理御自身の日本新党とさきがけの合体問題、新新党結成問題というのがずっとペンディングになっていた訳ですが、これがどうなるのか。この二点をお伺いしたいと思います。
○細川総理 河野自民党総裁には、来週早々でも経済問題あるいは日米関係、そうした問題について、その他の問題もいろいろあるかもしれませんが、ざっくばらんにいろいろお話をさせていただきたいということを申し上げました。折に触れてそういう機会を、特に最大会派である自民党の総裁である河野さんとの間で持つということは非常に大事なことだと思っておりますし、是非折に触れてそのような機会を持って、協力の出来るところは出来る限り協力をしてやっていければと思っております。そのことがすぐ今、言われたのは大連立ということかと思いますが、そのようなことに結び付くというふうには思っておりません。
それから、日本新党とさきがけとの合併の問題ですが、これはいろいろなこれからこの政治改革法案が通ってどのような形に政局の流動化が起こっていくか。政界の再編成というものが進んでいくか。その辺の状況というものも見極めながらやっていくということが必要だと思っております。統一会派を組んで今、実質的には同じところで同じようにやっている訳ですから格段支障がある訳ではございませんし、今後政界の再編成というものがどのように進んでいくかということをよく見極めながら考えていきたいということです。
− 政治改革法の成立に伴って、いよいよ政党に対する公的助成が導入される訳ですが、本来であれば政治家個人に対する企業、団体献金は禁止するという前提で認めようということだったんですが、今回その点で矛盾点があるというふうに国民はかなり感じていると思うんですが、そこはいかがでしょうか。
○細川総理 それは、昨日の御質問でも出てまいりましたが、確かにそこのところはおっしゃるような声があることは十分認識をいたしております。
しかし、現実的な対応として、一気にそこまで行くことは出来ないという自民党の御主張にも配慮をし、五年後に廃止という経過的な措置を講ずるということで、私としても妥協をさせていただいたということです。しかし、それでも今まで百万円以上のものは公開というものが、五万円を超えるものについては公開をするとか、あるいはまた罰則の強化とか、いろいろな面で今までの企業献金の在り方というものについての、あるいはまたもっと広く、政治と金についての透明性とか、あるいは罰則の強化とか、そうした点については大幅に改善がなされているというふうに私は思っておりますので、その点については必ずや国民の皆様方の御理解がいただけるものと、そのように思っております。
− 総理は予算の越年編成という極めて異例なことを去年の十二月に決められた訳ですけれども、それが結局昨日の河野総裁との会談でも出た、景気をきちんとやらなきゃいけないとか、日米包括協議が追っているのに、とにかく予算をあげるのに奔走しておりますが、予算をやらなきゃいけないのは解散とか、政治不安をつくっちゃいけないという形で連立与党内をまとめたり、自民党をまとめたり、ああいう骨格部分の修正に、勿論そういう意味では作戦的に勝ったと思われていますか。
○細川総理 そういうふうには思っておりません。
しかし、何と言いましてもこの政治改革をやり遂げるということが経済改革を進める上でも、あるいは財政改革を進める上でも、行政改革を進める上でも、あらゆるそうした今日我が国が抱えているそのようなテーマの基本的な枠組みになるものでありますから、政治改革が本当に仕上がらなければそれは本格的な経済対策というふうには受け止めていただけないでしょうし、そうした観点からも是非この政治改革というものを、とにかく六年越しの懸案ですからここで区切りをつけることが必要じゃないでしょうか。それが国民のまた、各種の世論調査を見ても強い期待であるということを考えますと、ここでお互いに大所高所から決断をしようじゃありませんかと、こういうことで河野総裁ともあのような結論に達したということです。
− 内閣の布陣についてちょっとお伺いしたいんですが、通常国会での改正が残っているとは言いながら、政治改革は決着をした訳ですけれども、今後は内閣の目標として経済改革であるとか、あるいは行政改革が非常に大きな重点を置いてくると思いますが、そうした目標を達成するために内閣の改造というようなことをお考えになりますか。
○細川総理 今のところ考えておりません。
− ちょっと後ろ向きのお話になりますけれども、政治改革法案の決着をめぐって、いわゆる河野さんとのトップ会談の在り方について密室談合政治じゃないか。政治がまた分かりづらくなってきたんじゃないかという指摘がございますけれども、総理自身はどのようにお考えですか。
○細川総理 さあ、何をもって密室政治と言うのかということは私もよく分かりませんが、大衆討議をやって物事がすべて決まっていくというならば、それはちょっと違うのではないかと思います。やはり、責任のある者が一任をされて、そして話を詰めていくというのがやはり民主主義の私は一つの在り方だと思っておりますから、何でもかんでも大衆討議でやればいいんだというのは、私は空理空論にすぎないというふうに感じているところです。
− 減税問題についてなんですが、経済問題協議会で検討が行われた訳ですけれども、これまで総理が国会などで再三お答えになってきた減税と財源問題の一体的処理、それから財源のめどのつかない垂れ流しの赤字国債は問題であるという認識は今もお変わりになっていらっしゃいませんか。
○細川総理 そのような基本的な考え方というものを踏まえて、協議会の方で御論議をいただいているというふうに受け止めております。
− 先ほど総理は、何でもかんでも大衆討議で決めることはとおっしゃいましたけれども、昨日の合意案にはこの修正項目は連立与党と自民党の代表者で決めると書いてありますけれども、その討議に加われない政党なり、無所属の議員さんなりがいらっしゃることについてはどうお考えですか。
○細川総理 それは、飽くまでもこれは自民党と連立与党との合意ですから、そのほかに各党がおられる、あるいは無所属の方々がいらっしゃることも勿論よく認識をしております。委員会で、あるいはまた本会議でそうした方々の御意見というものも十分承ってまいりました。そうしたことも踏まえて、念頭に置きながら私どもはその合意案というものをまとめさせていただいたつもりです。
− 今回の政治改革の審議を振り返ってみますと、もともと自民党の分裂からして、そういう権力闘争から細川政権が誕生しているという経緯もあるかもしれませんが、非常に政争色の濃いものだったような気が、我々政治記者はするんですけれども、総理としては河野総裁が闘う野党自民党を宣言した、この国会での対自民党、自民党との関係をどう統括されていくのか。そして、今回のことをきっかけに、言わば協調路線というものを明確に打ち出されていくのかどうか。その辺のお考えをお聞かせください。
○細川総理 私は最初から、この内閣がスタートしたときから、対立ではなくて、対決ではなくて、お互いに協調してやっていきたいものですということを申し上げてまいりました。
しかし、政党政治ですからどうしてもその対立の点が、また急ににわかに与野党が入れ替わったというような状況の中で、その対立点というものが殊更浮き彫りにされてきたということは確かにあったと思います。しかし、これだけ内外に難しい問題を抱えている状況ですから、是非これからはもう少し本当に協調してやっていける問題について御一緒にやっていくことが出来るならば、是非そのような形にしていきたいものだ。これからまた河野総裁ともお話をする機会がたびたびあろうと思いますが、そのようなことをじっくりお話をしていきたいというふうに思っております。
− 今の河野総裁との協議というのは、これまでは経済とか外交問題を去年の秋は全然やらなかったのをここでまたやるようになるというのは、昨日の話し合いの中で分かり合える相手だというふうに認識されたのか。あるいは、何かそういうような条件というか、仲よくしましょう、その代わりこの案をのんでくださいみたいな話があったんですか。 ○細川総理 河野総裁との間では、昨年の秋からたびたびお話をしましょうということを言い合ってまいりました。コメのときもそうでしたし、あるいは第二次補正予算のときもそうでしたし、あるいは予算の越年のときもそうでしたし、そういうことでそのような形をとって出来る限り協調的な形が取れればということでお話をしてきたんですが、実際にはいろいろな問題があって実現をしなかったということでございまして、お互いにそれは是非やりたいということを強く願いながら、実際にまたそのような働き掛けを行いながらそれが実ってこなかったというのが実際のところです。今、初めて率直に申し上げますが、ですからそれは何も昨日にわかにそのような状況が出来たということではございません。
− 政治改革法案は一応成立した訳ですけれども、ある時期においては、もしや廃案という空気が流れていた時期もあったと思うんです。それで、そのときは連立与党の中からは決断だという声が出てきたり、あるいは総理自身も首相の地位に全然こだわらないとおっしゃったり、そういうこともあったんですけれども、実際のところ総理としては、もし万が一廃案になった場合、その後の対応をどういうふうにするつもりだったのか、率直にお伺いします。
○細川総理 全然そういうことは考えていませんでした。
− 法案が通りまして、まだ区割りの問題とか残されているとは思いますが、連立与党各党共に統一候補をつくるというようなお話も伺っていますけれども、いろいろな話も浮上しているというふうに伺っていますが、総理としては連立与党の統一候補をつくるとか、その辺についてどう考えているのかということが一点と、もう一点は区割り法案が通るということから新しい制度が事実上はスタートすると思いますが、それと絡んでの解散の時期などということについては何か想定されておられるようなことはあるでしょうか。
○細川総理 解散の話は全く考えておりません。
それから、統一候補のことは、これはもう少し実際の区割りの作業とか、いろいろな法案が成立をして時間がたたないと、まだそういう話は煮詰まってこないと思います。
− 自民党の最大の解決点であった政治改革法案が実際に成立しまして、総理のお考えになっている政治路線と、河野執行部の自民党の今の政治路線との距離感と、社会党の路線とを比較しますと、総理のお考えになっている路線はどちらかというと社会党よりも河野執行部の今の自民党の路線の方に近いように感じるんですけれども、率直にお伺いしますがその辺はどうでしょうか。
○細川総理 それは、問題によって違うんじゃないでしょうか。あるテーマでは、それは連立の中の社会党という特別な政党具体的なお名前を申し上げる訳ではございませんが、テーマによっては自民党の中にその考えに近い方々がいらっしゃるかもしれないし、テーマによってはそれは真っ向から対立してしまうということになるかもしれないし、一概にそこのところは割り切れないんじゃないかと思います。何と言ってもこれだけやはり八党派おられる訳ですから、どうしてもいろいろな・・・・。
− 消費税のアップのことについてはどうお考えですか。
○細川総理 そのことは今、考えておりません。まだ、ゆっくりじっくり御議論をいただきたいと思っているところです。
− 今、消費税率のアップについてまだ考えていないとおっしゃったのは、アップ自体まだ念頭にないという意味ですか。まだ検討されていないという意味なのか、それとも今、念頭にないという意味なのか。どちらですか。
○細川総理 消費税の問題については今、念頭にございません。協議会の方で税制の抜本的な在り方というものについて、あるいはこれは再三申し上げてきたことですが、直間比率をどうするかとか、相対な税制の在り方についての
見直しの中で、税調の論議なども踏まえて国民の声も聞きながら判断をいただくということでございまして、そういう具体的な点については協議会の方で是非掘り下げて御論議をいただきたいというふうに思っています。
− 質問はあろうかと思いますけれども、最後に一つだけ。
− 政治改革についてなんですけれども、与党側はこれまで企業団体献金は連立与党の魂というふうなことをおっしゃる方もいらっしゃったんですけれども、実際には自民党に譲歩される格好になりましたけれども、総理自身は今回の成立した法案について点数を付ければどのくらいだというふうな認識を持たれていらっしゃいますか。
○細川総理 さて、余り点数を付けると具合が悪いんでしょう。何とか合格点はいただけたかなと、連立与党の方々の中にも大変呻吟された、大変苦衷をお察しをすると本当に私も大変苦しい思いに駆られるところがある訳ですが、しかし政治は妥協ですからあるところは割り切ってやらなければならないというところもございます。そういう意味で、何とかぎりきりのところで御理解はいただけたのではないか。あるいは、いただけるのではないかなというふうに思っています。
− それでは、これで終わらせていただきます。
○細川総理 どうもありがとうございました。