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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 内閣改造に関する細川内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1994年3月3日
[出典] 細川内閣総理大臣演説集,271−276頁.
[備考] 
[全文]

 − それでは、細川総理の会見を始めさせていただきます。

 まず最初に、基本的なことについて幹事社から質問いたしまして、あとは各社自由に質問していただきます。時間は、二十分以内ということにさせていただきたいと思います。

 今、我々は内閣改造を先送りされるという所感の方をお聞きしましたが、まずそうした決断に至った経緯、そしてかねて細川総理は政治改革政権から経済改革政権にシフトする段階でまた新しいシフトでやりたいとおっしゃっていらした訳ですけれど、しばらくはこのシフトで続けるということの意味、そしてあとは閣内で、例えば官房長官の問題ではなかなか与党内の調整がうまくいかないというような問題がございましたが、そういう点については今後どうやっていかれるかという点についてまずお伺いしたいと思います。

○細川総理 今の御質問にすべてのことが含まれているかと思いますが、とにかく大変御心配をお掛けをいたしました。また、夜遅くなってしまいましたが、昨日、今日と与党各党の党首代表者の方々に各党の御事情なり、あるいはこの改造についての考え方というものを伺ってまいりました。

 今お話がありましたように、私はこの八月に政権が発足してから七か月間、政治改革というものを一番のメインテーマとしてウルグアイ・ラウンドあるいはまた経済のパッケージ、そしてまた日米協議、こうしたものが大きなテーマであった訳ですが、そうしたものを、まだ完全に政治改革も区切りがついた訳ではございませんが、大体ワンラウンド目が終ったかなと。そして、これから第二ラウンドに入っていく。このときに主たるテーマは、第一ラウンドは言わば政治改革政権とでもいった性格であったかと思うんですが、第二ラウンドは日米経済摩擦の問題に対処していく、あるいはまた規制緩和とか、これもまた日米関係にもかかわりのある問題ですが、いずれにしても政治改革政権という性格よりも経済改革政権としてのむしろ性格というものが色濃く出てくるものに政権の性格が変わってくるのではないか。内閣の性格が変わってくるのではないか。そういう意味で、改造を考えるのが一つの時期ではないかなということを考えてまいりました。

 ただ、そのことを正式に申し上げたのは昨日のことでございます。それまでいろいろ報道等で報じられてはおりましたが、昨日初めてというか、正式に各党の方々に伺って、昨日、今日と続けて伺った訳でございますが、そのお話を伺う中でやはり今、連立政権に亀裂が生じるようなことは避けるべきである。また、特定の人のポストを外すような印象を与えることはまずいのではないか。要するに、今、連立政権の結束というものが何よりも大事であるという御認識を多くの方々が持たれ、またそれに対して、いや、ここは今、私が申し上げたような趣旨を貫徹をすべきである。あるいはまた、この改造に当たってのもう一つの理由として私も考えました、また連立与党の方々も考えられた官邸のより円滑な機能と申しますか、機能の整備と申しますか、そうしたことにやはりこの際、本格的に取り組むべきである。こういった御意見もあった訳でございます。

 官邸の円滑な機能と申しましたのは、一番の官邸の要である官房長官の処遇の問題についてでございますが、このことにつきましては官房長官の処遇の問題についてというか、官房長官のいろいろな言動に対しましてとかくぎくしゃくすると申しますか、与党の中でも風当たりが強いということにつきまして大変私も憂慮していた訳でございますが、官房長官もあのお人柄とまた人間性と申しますか、一生懸命支えてきていただいた訳でございます。

 しかし一方でまた、官房長官はさきがけの党首であると同時に官房長官の職責に徹してもらいたいと、こういう声があることも事実でありますし、私は官房長官にも今日率直にそのことを改めて申し上げました。そうした声に十分ひとつ御留意をいただきたい。官房長官としての職責に徹してやっていただきたい。それから、官房長官の職責は申し上げるまでもなく与党の、あるいは野党も含めて、その調整に当たっていただくということでございましょうが、あるいはまたこれだけ日米の経済摩擦を始めとして経済問題が大きなテーマとなっているときに、その調整に特に意を用いていただきたい。こういうことを特にお願いを申し上げた次第でございます。官房長官も、それはよく分かった。自分も十分そのことを認識して今後その職に当たっていきたいと、こういう趣旨のことをおっしゃっておられました。

 そういうことでございますから、先ほども申し上げましたように、与党の結束というものを重視をするという観点から、総合的にこの際の改造というものは見送るという判断をさせていただいたということでございます。

 − 今、この際の改造は見送るということですが、今回の場合、話の経過の中で例えば予算成立後の改造とか、そういう将来のことについて何か確認事項があった訳ですか。

○細川総理 何もございません。

 − 各社からどうぞ。

 − 今、武村官房長官の処遇の問題というお話がありましたけれども、この改造先送りで官房長官は交替せずにいくということですね。

○細川総理 はい、そうです。

 − そうすると、ちょっと表現が適切でないかもしれませんけれども、官房長官が自発的にお辞めになるというようなこともないという理解でよろしいんですね。

○細川総理 それはないというふうに私は信じております。

 − 総理は、規制緩和の担当大臣を置くことになって、経済改革政権と言われるテーマに対処するために改造する考えをお持ちだった訳ですけれども、そうしますと総理の今のお考えとしては、今日は確認はされていないけれども、例えば五月ごろの改造とか、そういうことは念頭に置かれているんですか。

○細川総理 今のところはございません。

 ただ、今、申し上げたように、特に経済問題には重点を置いて取り組んでいかなければなりませんから、私が今まで以上に陣頭に立ってそうした問題に当たっていきたいと思っております。

 − 今、総理がぎくしゃくした関係にあったと言われた武村長官ですが、今この場にもいらしていらっしゃらないんです。これから何か月か内閣を率いるに当たって、こういう関係が解消されるというふうにお考えなんですか。

○細川総理 今は、いらっしゃるということだったんだけれども、御当事者だから私は御遠慮いただいた方がいいんじゃないでしょうかということを申しました。それは私の方から、今のこの会見には、どうしても出られるということであれば私も構わなかったんですが、かえって居づらいかなということもありましたので、私からそう申し上げたところでございます。

 大変しっかり支えていただいておりますし、ざっくばらんに私も率直に物を申し上げておりますから、しっかり先ほど申し上げたお言葉のように支えていただけるものというふうに思っております。

 − 総理は今、改造について正式に申し上げたのは昨日だというふうにおっしゃいましたけれども、既に半月前に番記者が総理に確認したときに、総理はこれを特に否定されないで、現実問題として半月間にわたって政治空白を招いたということだろうと思うんです。現にマスコミもそれを報道していましたし、それから官邸が機能していなかったと言っていいと思うんです。それについては、どういうふうにお考えなのか。

○細川総理 私が半月ほど前に申し上げたのは、いろいろ報道があって、それに対して政治改革政権という一つのワンラウンド目が終わりました。これから先は、そういう意味で改造も一つのフリーハンドが持てる状況になりましたということを申し上げた訳です。

 官邸が機能していなかったということはないというふうに思いますが、この連立政権の中でやはり微妙なバランスの上に立っている内閣ですから、物事の決定というものが、これは前の福祉税のときもそうでしたが、多少そのようにジグザグのコースをたどるということはやむを得ないことではないかというふうに思っております。

 − 新生党の小沢代表幹事は一貫して武村官房長官の更送を求めてこられたと思うんですが、今日総理とお会いになって小沢代表幹事は納得されたでしょうか。あるいはそのときにどのような態度だったでしょうか。

○細川総理 小沢代表幹事はというか、余り個々の党名を申し上げることは差し控えさせていただきますが、先ほど私が申し上げたような一つの政治改革というターゲットが終わった。ここは一つの区切りではないか。それからまた、官邸の要である官房長官と与党の間が要らざることでぎくしゃくする、風通しがよくないということもやはり考えた方がいいのではないか。これは率直にそういう認識をお持ちだったと思います。

 − 総理が今おっしゃった国民福祉税、それから今回の混乱を見ていますと、まさに連立政権の存在理由といいますか、そもそも政治改革緊急政権としてスタートしたと、その辺りにやはり、無理があるんじゃないのか。政治改革が実現して以降、つまり経済改革政権ということでやろうとしてもしょせんは無理があるんじゃないかという議論もあるんですが、その辺についてはどういうふうに考えでしょうか。

○細川総理 それは、いろいろなお考えがございましょう。

 しかし、まだ引き続き連立政権は当初の結束というものを維持してやっていこうということを、たった今の政府与党首脳会議でも確認をしてきたところです。

 − それを維持しなければならない理由というのはどういうことなんでしょうか。

○細川総理 それはやはり、この幾つかの掲げている改革というものが結束を維持しなければ達成出来ませんから、そういう意味でいろいろぎくしゃくしながらも、ぎこちない歩みをたどりながらも、結束を維持していくということがお互いに何よりも大事だということはしっかりと肝に命じている訳ですから、そのような認識を先ほども確認をし合ったということです。

 − 官房長官と並んで山花特命相が一つの焦点になっていましたが、政治改革法はあさって改正案が成立いたしますが、この山花さんの処遇について新たな特命を与えるというような考えはございますか。

○細川総理 ちょつと{前4文字ママ}そこのところはまだ考えておりません。あるいはそういうことになるかもしれません。まだそれは今後考えたいと思います。

 − 今後、山積する課題に対処するためにも細川総理がリーダーシップを発揮しようと改造を考えられたいきさつがあったかと思うんですけれども、今回断念ということになって細川総理のリーダーシップが極端に低下する、そのことによる政権の求心力が急速に衰える。そのことによって今後の課題に取り組む細川政権の政権運営に支障を来たすのではないかと、それについてはいかがでしょうか。

○細川総理 改造というのは、よく言われるように総理の専権事項ということでございましょうから、出来なかったということではなくて、先ほど申し上げたように結束ということが何よりもこの際重要だという判断に立ってやらなかったということでございますから、そういうお考え方もございましょう。受け止め方もあるかもしれません。

 しかし、私はそのようには感じておりません。

 − 時間ですので、あと一問でお願いします。

 − 今おっしゃられた総理の専権事項に異を唱えるような官房長官と引き続きやっていける自信はおありですか。

○細川総理 これは専権事項ではございますが、それは自民党政権のときでもやはり各派閥の意向をいろいろ聞かれて改造というものは進めてこられたのだと思いますし、まして連立政権ですから、それは専権事項とは言いながら各党のご意向を十分踏まえて、またそれ以上に全体の政治の動向というものをよく判断をして最終的に結論を出すというのが、私はやはり今の連立政権の在り方としてあるべき姿ではないかというふうに思っております。

 − では、どうもありがとうございました。