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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 平成六年度予算成立を受けて(羽田内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 1994年6月23日
[出典] 羽田内閣総理大臣演説集,146−154頁.
[備考] 
[全文]

○羽田総理 三月八日の日に予算、これが大変遅れましたけれども、国会に提出させていただきました。普通の審議に比べますと大変短い期間であった訳でありますけれども、国民生活に直結する予算が本日成立いたしましたことは、与野党の皆様のご協力の賜物であったと心から感謝を申し上げたいと思います。

 これからはこの予算の執行を一日も早く着実に進めることが国民経済、ひいては景気の更なる確実なものを確保するために重要なことであろうと認識をいたします。

 さて、この機会に私の所信を申し上げたいと存じます。

 今日の内外の状況というのは、極めて厳しい局面に直面をいたしております。この難局を乗り切るためには、強固な基盤に立った政権を構築することが何よりも大事なことであると信じます。既に連立与党と社会党、また各党との政策協議が開始されておりますけれども、私は私自身の進退を含めまして、この協議の場に委ねたいと考えております。

 いずれにいたしましても、政治改革を完結することを最大の目標にいたしまして、互いの基本理念、そして政策を同じくする者が種々の障害を克服して協力することこそこの難局を乗り切り、国民の付託に応えるものと信じております。

 以上、所信を申し上げたところでございます。

○記者 それでは幹事社から二、三質問させていただきます。

 まず、会期末までもう残すところ間もない訳ですけれども、政局の方もいよいよ動き出してきていますけれども、自民党が今日夕方、正式に内閣不信任案を提出しました。まずこれに対する対応、感想から聞かせてください。

○羽田総理 私はこの二か月足らずでありますけれども、総理に就任して以来、一日一生ということを申し上げてまいりましたけれども、誠実に当面する課題に、それこそ朝早くから夜遅くまで、閣僚の皆さん、そしてそれぞれ担当する職員の皆さん方と一緒に私は取り組んでまいりました。私が取り組んできたこと、そして提言したこと、そして実際に実行してきたこと、これは国民の皆さんが歓迎することであり、また国民の皆様の目標に私は、目標といいますか、願いというものに対し私たちは精いっぱい、しかも着実に応えてきたものであると考えております。

○記者 今、与党と社会党との政策協議が続けられておりますけれども、社会党の村山委員長は中央委員会での決定で、連立復帰の条件として総辞職すべきだと、これは前提だと言っておりますけれども、先ほど総理は私自身の進退も含めてこの協議に委ねるということなんですけれども、もう少しそのあたりの社会党の総辞職要求に対する対応などについてお聞かせください。

○羽田総理 総辞職要求に対する対応というのは、これから政策協議の場で議論をされておりますし、また、そういったものを踏まえて、村山委員長ともお目にかかる機会があろうと思っております。そういう中で、私は率直に、誠実にお話をしていきたいと考えております。

 しかし、いずれにいたしましても、私の進退を含めて、一切を協議の場に委ねましょうということを申し上げることでご理解をいただけるものと思います。

○記者 さきがけが社会党が提示した政策に同意した上で、村山委員長を首班とする政権を作ろうということを今日、提唱されたんですが、そのことについて総理はどうお考えですか。

○羽田総理 そうですね、これはそれぞれ考え方があろうと思っておりますから、今、私がこの問題についてコメントすることは差し控えたいと思います。

 そして、さきがけの皆さんもいろいろなお考えがあろうと思いますけれども、少なくも私たちが、新しい内閣が発足いたしますときに、閣外協力ということで野党ではないというお話をされておりました。まあ、それ以上のことは私は申し上げません。

○記者 各社どうぞ。

○記者 あえてストレートにお聞きしたいんですけれども、進退を含めて協議の場に委ねられるということは、例えば仮に内閣不信任案の裁決を巡って、票読みが微妙になった場合には、自発的に総辞職されることもお考えの中にはあるんでしょうか。

○羽田総理 考えの中にあるとかないとかいうよりは、私はこの協議の場に身を委ねるということを申し上げておる訳ですから、まさにこれからの話合いの中で一つの方向が出されていくもんであろうと確信をいたしております。

○記者 社会党の主張は、自発的な総辞職であるならば、次の首班が羽田首相であってもいいというような見解があるということなんですが、そうしますと、総辞職そのものが権力欲しさの見せかけの総辞職じゃないかという感じもするんですけれども、この社会党の見解についてはどういうふうにお考えですか。

○羽田総理 この見解について、これから私は、まだ直接お話をしている訳じゃありませんから、村山委員長、あるいは久保書記長、そういった幹部の皆様方とお話合いをする中で、私の気持ちというものを訴えてまいりたいと思っております。

 しかし、いずれにしましても、これから私たちが課題とする問題というのは、政治改革、あるいは経済改革、税制改革、行政改革、また日米の包括協議、今、北朝鮮の問題が一歩前進しておりますけれどもこの問題、そしてナポリサミットへの対応、またウルグァイ・ラウンドの農業合意への対応という、これはすべてが大変難しい困難な問題です。そういったことのためには、やはり安定した政権というものでなければなかなか対応が出来ないと思っておりますので、こういった点について私の気持ちを率直に述べさせていただきたいと思っております。

○記者 与党内で一時、大幅改造でこの政局をという議論もありましたけれども、総理は現在その可能性というのは、否定なさるんですか。

○羽田総理 これは今、ここでお答えすることが、皆さんにはいいかもしれませんけれども、これから本当に先方のお話もお聞きしながら、私の考え方も申し上げていくということでございます。

 いずれにしましても、私自身のこの進退というものについても、これを一切協議の場に委ねようという思いでもう真っさらにして、対応していきたいと思っております。

○記者 あえて聞きますけれども、一旦総辞職されて、この協議の場でもう一回羽田首班ということになれば、その場合はお受けになるつもりですか。

○羽田総理 この点についても、今、述べることはひとつお許しをいただきたいと思います。ともかく、本当にこれからの日本の国の帰趨というものを決めていく問題ですから、やはりそれぞれの思いのある代表同士が互いに語り合う機会というものがありましょうし、現在これからの新しい政権はいかにあるべきかという政策協議も続けられておるということでございますから、そういったものを踏まえながら、お互いに話し合う中で道は開けてくると考えます。

○記者 自民党の不信任案の理由に、少数与党で民意を反映していないと。その内閣不信任案の理由についてはどうお考えですか。

○羽田総理 この問題につきましては、社会党と私どもがどうしても離反しなければならなくなったというのは、政策の問題とか、そういったものでなかった。私は国会の答弁でも常々申し上げてまいりましたけれども、残念ですけれどもああいう瞬間、非常に短い間の中にお互いの理解とか、あるいは言葉の理解の仕方、そういったものの中で離反したということであって、私個人の、あるいは総理としての考え方と、これと相ぶつかり合ったというものでなかったと私は自覚をいたしております。

 そして私は、例の政策合意、大変時間を掛けて整えたところの政策合意、これを一つずつ誠実に守りながら今日まで政治の運営というものを進めてきたということで、私はその点については理解をいただけるものであろうと思っております。

○記者 総理が進退まで含めて委ねるとおっしゃったのは非常に重大だと思うんですけれども、もう一度そういう決断をされた一番の理由は何だったか、どういうものかということと、それからそういう決断をされたのは今日の時点でされたのか、その二点。

○羽田総理 この問題につきましては、先ほど私が申し上げましたように、今、私たちの当面する課題、今後の課題と言ってもいと思いますけれども、それぞれが非常に困難な難しい問題です。

 しかし、どんなに難しくても、今、日本の国は、先ほど私が申し上げた政治改革、経済改革、あるいは税制改革、地方分権を含めた行政改革、また対外的な関係の問題、そしてウルグァイ・ラウンドの農業合意の問題、こういった問題は本当に難しい困難な問題です。しかし私は、これは日本の国は避けてはならない問題であろうと考えます。

 こういった問題を進めるためには、やはり安定した政権であるということ。これがやはりどうしても必要であろうと考える訳でありまして、基本的な理念、あるいは政策、こういったものを互いが語り合う中で、もう一度合意を見ながらこれらを進めていくこと、これが何といっても大事であるからということであります。

 そして私が自らの進退を含めて、この基本的な考え方は、まさに今日、そして今、この皆さんとお目に掛かるこの事態を迎えるに当たって私自身が決断をいたした問題であります。

○記者 難局を乗り切るために強固な政権基盤というお話なんですが、通常であれば解散総選挙という手法もある訳ですけれども、こういうお考えは取られなかったのは何故でしょう。

○羽田総理 今、本当に解散をする時かということ。

 そしてもう一つは、昨日私も参議院、そして一昨日は衆議院の政治改革特別委員会に出席をさせていただきましたけれども、政治改革の各法案というのは細川内閣の時代に通った訳です。

 しかし、これを実際に進めるためには、選挙区の区割りというものが出されなければいけない。この区割りについての基本的な基準、どういう基準で区割りをしましょうかということ、このことが区割り委員会、これによって国会に報告されたということでありまして、この審議を踏まえながら、また、こういった御議論というものを踏まえながら区割り委員会が直ちに作業に入るということでありまして、そのことが直前にあるにもかかわらず、現在の中選挙区という制度の中で選挙をやるということについては、今、その時ではないのではないかという考え方を持つからであります。

 もしこれで、今、せっかく成し遂げたこの政治改革法案というものを、この選挙によってもしだめにしてしまったということになったら、私は、先ほど申し上げた今後の課題に取り組むに当たっても、まず政治が自らの痛みを伴う措置をせずにこういったことをお願いすることは出来ないだろうということを考えたときに、私はそういう意味でも、この区割り法案というものを答申に基づいてこれを作成し、そして国会のご審議をいただいてこれを成立させること、これが終わってからでないと、私は本当の選挙にならないだろうと思うんです。いつまでも同じことの繰り返しになります。

○記者 仮にの話で恐縮なんですが、本会議に不信任決議案が上程されて、もし可決された場合、今のお話ですと解散を選ぶんじゃなくてそのときも総辞職を選ぶと。

○羽田総理 この問題につきましては、今、私がここでお答えすることは差し控えさせていただきたいと思います。

 ただ、私が常に申し上げてきたことは、これは一般論として、日本の国はアメリカのように拒否権、要するに法案が通りました、大統領がそれにサインするかしないかという、いわゆるビート、拒否権というのがない訳です。

 ということになりますと、内閣というものは常に国会と対決するときには、最終の対決の力というのは解散権であるということでありますから、私はその解散権そのものを否定するものではないということです。

 ただ、原則といいますか、今、ここまで審議が進んできた改革法案が通らずに、しかもこの法律の下で新しい選挙をやらないとしたら、また同じことを繰り返してしまうということで、解散というものについては、私たちは権限を捨てるものではありませんけれども、まあ出来得ることならこういったものをきちんと進めていきたいと思っております。

 ただ、今申し上げた前段の部分の、これは今、私が「もし」という言葉を使ってそれに答えるということだけはお許しをいただきたいと思います。

○記者 総理はこれまでも、今までの内閣と比べても、大した失政といいますか、失敗もしてこなかったし、誠心誠意、一日一生の気持ちでやってきたと言われましたが、そういった中で、自ら協議の場に進退を含めて身を委ねると、まないたの上のコイとなるという決断をされた訳ですが、そういった大きな失敗もない中で進退を委ねるということを決断されて、そのことに対する率直なお気持ちというのはいかがなものですか。

○羽田総理 私は皆さんも一つずつ振り返って、いろいろな批判がありますよ。しかし、私たちはこの二か月間、それこそ毎日新しい課題に取り組む、そして新しい方向を打ち出すために、朝のそれこそ七時半だとか八時だとか、そんなときからほとんど毎日各審議会ですとか、あるいは懇談会ですとか、そういったものを続けてまいりました。

 そして私は公共料金の問題にしても、あるいは今、物価の問題に対しても新しい対応をしようとか、また、国民生活をよりよくするために、また対外的な対応を国際的にも理解されるものを作り上げるために相当なリーダーシップを私はふるってまいったと私自身確信しておりますし、それを静かに見詰めてくださった方、皆さん評価をしてくださっております。

 しかし、これからやっていかなければならない課題というのは非常に重要な問題ですよ。しかし、この前、残念ですけれども社会党と一緒に行動を共にすることが、私の内閣が発足するときこれが出来なかったという事実がある訳です。そして今も間違いなく私たちは少数与党の上に乗った、脆弱という言葉を自ら言うのはどうかと思いますけれども、しかし間違いなく非常に弱い立場の内閣です。こういった問題を解決するためには、まさに自らの身を投げ出して初めてそこでお互いに議論していただく、そしてそこで、そのときに初めて道は開けていくんだろうと私は考えております。

○記者 総理、強固な政権基盤を作ろうということなんですが、この新しい政治勢力の結集を巡っては、社会党の政権復帰ということと同時に保保連合というのが強く言われた時期があって、特に新生党なんかにも強い意見があったと聞いているんですが、総理は一貫して、むしろ社会党の政権復帰をずっと主張されていたようなんですが、保保連合についてはどうお考えですか。

○羽田総理 これは、例えば自由民主党、これを離党されて一つのグループを作ろうということ。かつて私自身が総理に指名される直前に渡辺先輩、この方をどうだろうというお話がありました。私はそういう中で、お互いにやっていくことはいいと思う。そして私は何も自由民主党そのものにも敵意も何も感じているもんじゃありません。ただ、もしそれをやってしまったならば、残念ですけれども、また元のいわゆる五十五年体制というものに返ってしまうという実は率直な思いがありました。そしてこの考え方は、今、新生党ということを言われましたけれども、しかし、新生党の皆さんも全くその点については私と同感であったと思います。

 ですから、皆さんが本当に新しい政治をやろうということで出てくることがあるんだったら、その人たちとも率直に話し合う、私たちは心の用意といいますか、そういったものがあるということでありまして、ただ、五十五年の体制に戻してしまうことは、私はせっかく大きくこうやって変化しようとしている日本の政治というものをまた逆戻りさせてしまう一つのきっかけになってしまう。

 ですから、保保連合というのはどういう意味でお話しになったかつまびらかにいたしませんけれども、私が思うところはそういう理解の下に今、申し上げた訳であります。

○記者 時間ですので終わらせていただきます。