[文書名] 村山内閣総理大臣による平成七年年頭記者会見
○総理 国民の皆さん、明けましておめでとうございます。御家族おそろいで、健やかに新しい年をお迎えになられたことと思います。
さて、本年は、いよいよ戦後五十周年という節目の年であります。そして、あと五年で二千年を迎えます。年頭に当たりまして、これから皆さんと一緒に目指していく国造りの基本的な方向について、私の考えをお話し申し上げたいと思います。
振り返ってみますと、昨年六月に、村山内閣が誕生いたしました。この村山内閣を構成する連立与党三党は、自己変革と互いの切磋琢磨に努めながら、大胆な改革の推進、透明で民主的な政治、そして安心出来る安定した政治を目指してまいりました。その結果、長い懸案となっておりました政治改革、税制改革、年金改革、被爆者援護法、本日発足をいたしました世界貿易機関への参加、日米包括協議など、どれを取っても困難な課題に一つの大きな区切りをつけることが出来たと自負いたしております。
ここで私は、戦後五十周年を機会に、これまでの五十年間を謙虚に振り返りながら、今日の繁栄の礎を築いてこられました先輩の方々の御努力に改めて感謝をするとともに、なお残された課題をきっちりと解決してまいりたいと思います。
更に、来るべき五十年を展望して、「改革から創造へ」と新たな飛躍を図りたいと思います。その際にも、かねてから申し上げておりますような「人にやさしい政治」、庶民の気持ちを中心とする「より高度な民主主義」の実現を目指してまいりたいと思います。
このような観点から、私は、これから申し上げる四つの課題を柱とした「創造とやさしさの国造り」に取り組んでまいります。
まず第一は、「自由で活力のある経済社会の創造」であります。
戦後五十年、我が国の成長を支えてきた政治と行政、官と民、国と地方との関係には、今やさまざまなひずみが生じております。私は、より自由で豊かな国民生活を求めて、今日ほど行政改革に対する国民の皆様の期待が高まっているときはないと痛感をいたしております。
今こそ私は、規制緩和、特殊法人の見直し、地方分権の推進、情報公開などの行政改革を思い切って実行し、官から民へ、国から地方へ、また民間の活力を生かした新しいフロンティアの拡大に向けて、大きな流れをつくっていく決意であります。
そして、自由で活力ある経済社会がつくり出されていくものと確信しております。このような意味で、行政改革は、開かれた社会を目指す新たな飛躍のための基礎づくりと言ってよいと思います。
また、我が国経済は、いわゆるバブルの崩壊とともに成長への信頼にかげりが見え始め、産業の空洞化や雇用不安など、先行きに対する不透明感が広がっております。こうした状況から一刻も早く抜け出し、将来への展望を確かなものとするためには、内閣が一丸となって経済構造改革に取り組んでいかなければならないと思います。
このため、具体的にはまず、内外価格差を大幅に縮小することを目指して、規制の緩和や取引慣行の是正を積極的に進めることが必要であります。
また、創意と意欲のある人々がより自由活発に活動出来る環境を整え、経済の新しい分野の開拓・拡大を図りたいと思います。更に、失業の痛みを伴うことなく円滑に労働移動が行われるような、柔軟な労働市場をつくっていきたいと思います。このような考え方に立って、昨年末に、産業構造転換・雇用対策本部を内閣に設けまして、思い切った取り組みに着手をいたしました。
第二に、「次の世代に引き継いでいける知的資産の創造」であります。
天然資源に恵まれない我が国にとりましては、人的・知的資産こそが最大の資源であります。
これからの我が国には、基礎的な研究や独創的な技術開発を充実させることによって、新たな産業分野をつくり出し、更に、環境保全、エイズ、エネルギー対策など、地球的規模の課題の解決にも積極的に貢献していくことが求められております。このためには、ハード、ソフト両面にわたる研究開発に必要な基盤を整備し、研究者から見ても魅力的な環境をつくっていかなければなりません。
また、世界通信技術の発達のお陰で、簡単な操作によって、世界のあらゆる情報が指先一つで得ることが出来る時代となりつつあります。私も自ら端末操作を体験しましたが、高度情報化が進むことによって、例えば家庭にいながら画面を通して、お医者さんの診察やさまざまな教育が受けられたり、好みの買物が出来るなど、これまでには考えられなかったやり方で生活がより便利で、豊かになっていくことが期待されています。このため、私は利用者の立場に立って、官公庁、学校、病院、図書館などの情報化を推進するとともに、世界的な情報ネットワークの整備などに積極的に参加してまいりたいと思っています。
知的資産の創造は、文化の創造にほかなりません。昨年、大江健三郎さんがノーベル文学賞を受賞されたことは誠に喜ばしい限りでありますが、その一方で、最近の幾つかの殺伐とした事件にも見られますように、人々の心から潤いが失われつつあることは、現在、最も深刻な問題の一つであります。
物の豊かさから心の豊かさを目指して世界に誇れるような文化や芸術をつくり、それを国民の暮らしや地域のまちづくりに生かし、そして国際的な交流へと広めていく、そのための幅広い文化の振興に力をそそいでまいりたいと思います。
第三は、「安心して暮らせるやさしい社会の創造」であります。
二十一世紀の我が国は、子供が少なく、お年寄りが多い、少子・高齢化社会となります。そういう中で、安心して暮らせるやさしい社会を実現するためには、国民の一人一人が家族や他人に対して、やさしさと思いやりの心を持ち、社会全体として、お互いに助け合う仕組みをつくっていかなければなりません。
例えば、お年寄りが安心して老後を送れるように介護の制度を充実をしたり、高齢になっても希望すれば働けるような仕組みをつくっていく必要があります。同時に、障害者が自立をし、社会参加が出来るようにすることも重要であります。
また、このごろ痛感いたしますのは、心の通う教育が大事であるということであります。二十一世紀を担う子供たちがお互いに思いやりながら心健やかに育つように、家庭や学校での生活、教育について、今こそ真剣に考えていかなければなりません。
今や、銃や麻薬の問題も、決してゆるがせには出来ません。銃や麻薬のない社会を実現するためには、取締りを強化するだけではなく、私たち一人一人が世界に誇ることが出来る、この安全な社会を、強い決意で守っていかなければならないと思います。
更に、昨年暮れ、環境基本的に基づいて環境基本計画をつくったところでございますが、私たちが祖先から受け継いだ美しく恵み豊かな自然と環境を守り、リサイクルを進めるなど、すべての人々が参加して自然と共生出来る社会をつくっていくことも必要であると思います。
最後に第四は、「我が国にふさわしい国際貢献による世界平和の創造」であります。
戦後五十周年という節目の年を迎えるに当たりまして、私はまず、過去の一時期における我が国の行為に対する深い反省に立ちながら、日本自身のけじめの問題として、戦後処理の個別問題にきちんと対応し、平和友好交流計画を着実に実行に移していきたいと思います。
同時に、私がかねてより申し上げております「人にやさしい政治」を国際社会にも広げて、貧困と飢餓、人口と食糧、環境と自然、エイズなどの問題に積極的に取り組み、世界平和の創造に向かって全力を尽くしていかなければならないと思います。
また、昨年私は、多くのアジアの国々を訪れ、その旺盛な活力に深い感銘を受けました。これらの国々と共に繁栄の道を歩んでいく上で、我が国に対する期待の大きさを痛感をいたしてまいりました。本年は、我が国がAPECの議長国であります。秋に開催される会議に向けて、貿易と投資の自由化や開発の問題に積極的に取り組み、アジア太平洋地域の長期的な安定と繁栄のために大きな役割を果たしてまいりたいと思っています。
更に、国際的に軍縮を進めることは、我が国としても取り組まなければならない重要な課題でございます。本年春に開催されます核不拡散条約の会議において、この条約の無期限延長を達成するとともに、全面核実験禁止条約交渉の早期妥結に向けて更に努力をしてまいりたいと考えております。
本年はまた、国連設立五十周年に当たる年であります。我が国といたしましては、安全保障理事会の改革を始めとする国連改革に積極的に取り組みたいと思います。加えて、本年は北京で世界女性会議が開かれる年でもあります。特に開発の重要な担い手といたしまして、女性の役割に注目をし、経済協力の分野におきましても、途上国の女性に対する支援事業を進めていきたいと思います。
来週、私は米国を訪れ、クリントン大統領と会談する予定でございます。戦後五十周年を迎えるに当たりまして、これからの日米関係を長期的な方向について突っ込んだ話し合いを行い、両国の信頼関係をより確かなものにすることは、世界の平和と安定にとっても重要なことであると思います。
以上、述べてまいりました「四つの創造」が現実のものとなり、新しい世紀が輝かしいものとなるかどうかは、私たち一人一人の肩に掛かっております。今後とも、国民各層の方々の御意見をいただきながら、二十一世紀に向けて皆さんと力を合わせ、自信と勇気と希望を持って進めば、必ずや「創造とやさしさの国造り」への道が開かれると確信をいたします。
本年は国民の皆さん一人一人にとって実り多いすばらしい一年となりますよう、心から祈念をいたしまして、私の年頭のあいさつとさせていただきます。
−− それでは、まず幹事社の方から質問いたします。
今、年頭所感の中で、四つの課題を挙げられましたけれども、そういった諸課題の中で今年最優先に取り組んでいきたいというテーマは何になるのか、それを具体的にどうお進めになるのか、その辺からお尋ねしたいと思います。
○総理 今、年頭所感でも申し上げましたが、本年は戦後五十年に当たる訳であります。この節目を振り返りながら、更に将来を展望して、改革から創造へと新たな飛躍を図りたいということを申し上げた訳でありますが、今、申し上げました四つの創造を柱としたやさしい国造りに取り組んでいく決意でございます。
内政面では、今月中に経済審議会に対しまして、二十一世紀に向けた新たな経済計画の策定を諮問する予定であります。これによりまして、中長期的な我が国経済社会の展望を明らかにするとともに、内外価格差の是正や、情報通信を始めとした経済の新しい分野を開拓をしながら、雇用対策を含めて、経済構造改革を強力に推進していくということが、一つの大きな柱であると思います。
同時に、行政改革、これは先ほども申し上げましたように、この内閣に掛けられた大きな課題でございますから、規制緩和、あるいは特殊法人の見直し、更には地方分権の推進、情報の公開等といったような問題について取り組みを積極的に進めていくと。それは具体的に取り組んでいく今、段取りを付けておるという状況にございます。外交面では、先ほども申し上げましたけれども、我が国はこれだけ経済の力も付き、世界的にも注目される役割を担っている訳でありますから、憲法の枠内で、先ほど申しました環境問題や人口問題、あるいは飢餓・貧困、更にまた軍縮とか、こういう部面で積極的な役割を果たしていかなければならぬというようなことを考えて、取り組んでいきたいというふうに思っておるところでございます。
−− 十日から総理として初めてアメリカを訪問される訳ですけれども、今回の日米首脳会談の意義といいましょうか、ねらいといいましょうか、どんな点を重点的にお話し合いになるつもりなんですか、その辺をお伺いします。
○総理 先ほども申し上げましたけれども、戦後五十周年の節目、同時に、冷戦構造も崩壊をして、世界全体が新しい秩序を模索しているといったようなときでもありますから、これから更に二十一世紀を展望する情勢の中で、一層日米関係の親密な協力関係というものをどうつくっていくかということも私は一つの大きな課題になると思いますし、取り分け、このアジア太平洋地域における、日米関係を基軸とした役割というものは大変大きいものがあると思いますから、そういう問題についても忌憚のない話し合いをしてまいりたいというふうに思っています。
−− 衆議院の新しい選挙制度が過日施行されましたけれども、与党の中には、もう一度今の内閣で予算編成をして解散というような声も聞こえますけれども、総理としては国民の審判を仰ぐタイミングをどのようにお考えなのかお話し願いたいと思います。
○総理 今、お話もありましたように、新しい選挙制度が作られたのでありますから、その選挙制度によって国民の選択を求めて、出直しした方がいいんではないか。こういう意見のあることも十分承知をいたしております。
しかし、先ほど来申し上げておりますように、当面行政改革の問題、取り分け規制緩和の問題や、あるいは特殊法人の見直しや、あるいはまた、地方分権といったような歴史的な大きな課題も抱えておりますし、あるいはまた、APECの議長国をこの秋には日本が務めなければならぬといったような問題もございますし、こうした国内外の緊迫した重要な課題も抱えているときでありますから、そういう意味で、政治的な空白をつくることは許されないんではないかと。
同時に、ようやく経済も明るさを取り戻しつつあるというような重要な段階でもございますから、そのようなことも考えた場合、今は解散する時期ではないんではないか。この四月には統一総選挙もありますし、七月には参議院選挙もあって、国政レベルの政治の在り方について問う機会というのはある訳でありますから、そういう状況も見ながら、慎重な判断をする必要があるのではないかというように思いますから、今のところ解散という問題については考えておりません。
−− 次に、社会党の新党構想なんですけれども、新党という、この社会党の中の動きがどんどん分裂含みの様相なんですけれども、こういった社会党の動きが政局全体に与える影響も含めて、総理はこれをどう分析されておりますか。
また、社会党の委員長としてリーダーシップを発揮されて、どう事態を収拾するお考えなのか、その辺お伺いします。
○総理 党内のいろいろな議論やら、あるいは党を取り巻く皆さん方の意見というものをいろいろ聞いてみますと、やはりこれからの日本の政局の中で保守二党論はよろしくない。本当に市民的な立場に立った平和と民主主義、弱者の立場をしっかり守ってくれる、そういう役割を担った政党というものが必要だと、こういう声が大変高いんです。そういう党に社会党を脱皮させていこう、新しい新党に衣替えしていこうと、こういう意見についてはほとんどの方が一致している訳ですから、そういう方向をねらってこれから努力していかなければならぬ。
同時に今は連立政権の首班を担っている政党でありますから、それだけやはり国民に対して責任がある訳ですから、その責任を果たしながら、今申し上げましたような新党づくりに向けて党全体が取り組んでいく。こういう状況にあると私は考えますし、そういうことについての意見は一致している訳でありますから、党全体としてはそういう取り組みで進んでいけるものだというふうに確信をいたしておりますから、それほどの動揺はないのではないかというふうに私は思っております。
−− 幹事社からの質問は以上です。
−− 行政改革に政権の命運をかけるというふうにおっしゃっておられる訳ですけれども、これを断行する上でより強力な体制づくり、内閣の改造というものを今度の国会までに行う考えはございますでしょうか。
○総理 これまで行政改革、取り分け特殊法人の見直し等につきましては官房長官と総務庁長官が中心になって、個別に各大臣と折衝してそれぞれ話も進めてきております。したがって、年度内に何とか目鼻を付けて、具体的に目に見える形で特殊法人の見直しが進められるように段取りを付けていく。こういう決意で取り組んでおりますから、期待をしていただきたいというふうに思います。
−− 改造は考えていらっしゃらないということですか。
○総理 改造の問題ですか。今のところ、これはみんなやる気になって一体となって取り組んでおりますから、今のところ改造は考えておりません。
−− PKOについてお聞きしたいんですけれども、自衛隊もルワンダから帰ってきたんですけれども、一連のルワンダ派遣についての総括と、それから国連からはゴラン高原へのPKOの自衛隊派遣という要請も来ている訳なんですが、今後PKFの解除も含めましたこの問題についての政府の方針についてお伺いします。
○総理 ルワンダの難民の救援につきましては、先般国連の難民事務所の緒方貞子さんもお帰りになりましてお会いしましたけれども、大変好評で評価が高いというお話も聞いておりますから、自衛隊の皆さんには御苦労をいただいて、一生懸命に取り組んでいただいたと思っております。
これまで、カンボジア等も含めて幾つかの経験も積んできた訳ですが、そうした経験に照らして、憲法の枠内で日本として出来る範囲のことはこれからも積極的に取り組んでいきたいというふうに思っておりますけれども、今この段階でPKFの見直しをするという考えはまだありません。そうした経験に照らして、これからまた慎重な検討をしていかなければならぬ課題であるというふうに思っております。
−− 社会党の関係なんですが、党が一つにまとまって新党へ脱皮ということをおっしゃったんですけれども、そういう意味でも離党への動きも出ておりますが、その辺はどういうふうな、例えば離党の規模がどれほどになるか、それへの対応はどうですか。
○総理 いろいろな話がありますから、具体的にどういうふうになっていくのかということについては明確にここで申し上げる段階にはありませんけれども、先ほど申し上げましたように、今、三党で連立政権を組んで、現実に国民に対して責任ある役割を果たしている訳であります。したがって、その責任というのはお互いに党員はよく承知をいたしておりますから、政権に影響を及ぼすようなことにはならないと私は思っておりますし、仮に離党する人がありましても、その範囲内にとどまるのではないかというふうに私は思っています。
−− どうしても離党したいという方も確かにいらっしゃる訳ですけれども、総理は、そういう方たちは何故どうしても離党したいと思っているのかというふうにお感じですか。
それから、以前、もうどうしても出たいというなら仕方がない趣旨を御発言されたことがありますけれども、やはり今でも、もう、それでもとめられない者は仕方がない、そういう御気分でいらっしゃいますか。
○総理 先ほど申し上げましたように、これから日本の政治全体を展望して、どういう役割を担い得る新しい党が必要なのかというようなことについての意見というのは、それほど大きな違いはないんです。ただ、その党を作っていくための段取りをどうしていくかというような問題については、若干の意見の違いはあるかもしれないですけれどもね。
したがって、聞きますと、昨年の暮れ、二十二日に開かれました中央執行委員会では、満場一致で二月十一日を目途に臨時大会を想定していこうということが決められたというふうに聞いていますから、私は今いろいろ言われておる方々が、そういう新党づくりについての考え方についてはそれほど違いはないんではないかというふうに思っておりますから、何故今、直ちに離党しなきゃならぬのかということについては、ちょっと理解が出来ません。
−− 先ほど解散総選挙を考えていないとおっしゃった理由の中に、十一月のAPECの大阪会議のことをお話しになりましたけれども、そうしますと、今年いっぱいは最低限選挙はないと受け止めてよろしいんでしょうか。
○総理 今年いっぱいもあるとかないとか、今のところ解散総選挙については考えておりませんと、こう申し上げておる訳です。
−− 総理、社会党の話に戻りますが、政権総裁としての社会党の委員長として、今、党を新党に向かって動いている新民連の皆さんたちと直接会って、社会党をどうするかということで、総理御自身がいろいろ説得に当たってみるというような御意思はありませんですか。
○総理 今年はそういう方々とも積極的な話し合いをしていきたいというふうに思っております。これは委員長として当然のことですから、党の結束を固めていくと、そして、国民に対する期待に応えていくというのは当然の義務ですから、精力的にやりたいというふうに思います。
−− 特殊法人の見直しに関してなんですが、科学技術庁の更迭された問題にもありますように、官僚の抵抗というものを総理自身はどのように感じられることがありますでしょうか。
○総理 世間で言われますように、それぞれ特殊法人というのはやはり一応作ってみた経過もありますし、それから、現実に存在している訳ですから、これをなくすということになれば、単に官僚だけではなくて、それに絡まる利害関係者があれば、若干の抵抗があるということは当然想定されることだと思います。
しかし、これだけ時代が変わってきて、もう一応の役割が済んだと思われるものもありますし、それからむしろ、民営に切り替えた方がいいんではないかというようなこともあると思いますし、また、統合した方がより効率的になるというようなものもあると思いますから、そういう点も点検をしながら、これはむしろ政と官が一体となって、そうした国民の期待に応えていかなければならぬ課題だと、仕事だろうというふうに思っておりますから、それほどそんなことについては気にしておりません。
−− 外交案件についてちょっとお伺いしたいんですけれども、十一月には、先ほど総理も言及なさったように、議長国としてAPECの大阪非公式首脳会合というのがある訳なんですけれども、中国の江沢民国家主席もそれにはおいでになると。その関連で、その一方で台湾の方もそれに向けて積極的な外交を展開してくると思うんですけれども、総理が今年の日米・日台関係にどのような展望をお持ちなのか。
それからまた、御自身の訪中について、そのタイミングをどうお考えになっているのか、その二点をお伺いしたい。
○総理 APECの会合が大阪で十一月に開かれます。私は明確に申し上げてありますけれども、日中の共同声明はきちっと守ってまいります。台湾の扱いにつきましては、アメリカで開かれたAPEC、先般インドネシアで開かれましたAPECと同じ状況でもって行ってまいりたいと考えている。
したがって、二つの中国を認めるという立場は取りませんということは明確に申し上げてありますから、それを踏襲してまいりたいというふうに思っております。
それからもう一つ、何でしたか。
−− 御自身の訪中についてです。
○総理 それはこれからまた長い通常国会も始まる訳でありますから、その通常国会の進行の状況やら、中国の状況やら等々とも考えていかなければなりませんから、それとの見合いの中で、機会があれば、出来るだけ早い時期に訪中もしたいというふうに考えております。
−− 総理、北朝鮮の軽水炉の転換支援の問題が今年大きな課題になると思うんですが、これについては新進党の小沢幹事長からも、未申告の二施設の査察の問題について先送りではないかと、あいまいな部分を残していると、そういう批判もありますが、この点について非常にこれから多額の支出もあると思うので、そこについてどう過去の核開発の疑惑を払拭して国民の理解を求めていくのか、この点はいかがですか。
○総理 これは、私はナポリにおいてクリントン大統領とお会いしたときも、日本国民の核に対する考えというのははっきり申し上げてありますから、この核の疑惑解明についてはきちんとしてもらわなければいかぬということは当然ですね。
同時に、そのために軽水炉の問題が起こってきている訳ですから、私はやはり核の問題というのは単にその近辺だけの国ではなくて、より地球的規模の問題ですから、したがって日米韓が中心になってG7の国々等々も参加をしていただいて、そうした国際的な大きな枠組みの中でお互いにどういう協力が出来るのかという話し合いをしていく必要があるのではないかというふうに考えておりますから、そのことは先般のインドネシアにおける日米韓の首脳会談でも申し上げてありますが、そういう方向でこれからも話を進めていきたいというふうに思っております。
−− 特殊法人の見直しの問題なんですが、これまで政府で検討は続けてこられておりますけれども、二月十日という目標に向けて総理御自身のリーダーシップが最後は必要じゃないかという意見が出ていますが、それについて総理御自身どのような決意で臨まれるのか。具体的にどういうリーダーシップを発揮されるおつもりなのか、その辺をお聞きしたいと思います。
○総理 先ほども申し上げましたように、今、官房長官と総務庁長官とが中心になって全部総当たりをしている訳です。その総当たりをするだけではなくて、国内外のいろいろな方々からいろいろな意見も聞きながら進めている訳です。したがって、この二月十日ぐらいをめどに決着が付けられるように、これは私自身はその決意で一体となって取り組んで必ず実行をいたしますということを申し上げておきたいと思います。
−− 情報公開について、いよいよ今年から行革の委員会で検討が始まる訳なんですが、村山さん御自身としてはどういう形の情報公開を考えていらっしゃいますか。
○総理 どういう形のというのはちょっと分かりにくいんですけれども、これだけ情報化の時代になっている訳ですから、出来るだけ情報について国民の皆さんにも正確に知っていただくということは大事なことだろうというふうに思いますし、各県で、あるいは市町村で自ら条例を作って情報公開をやっているところも出てきておりますから、ある意味からいきますとこれはもう時代の趨勢であるというふうに思いますので、先般の行政改革委員会の中で二年間を目途に情報公開の仕組みを考え、結論を出して、そして進めていきたいというふうに思っておりますから、今申し上げましたような考え方でこれからも強力に推進をしていきたいというふうに思います。
−− 訪米についてお尋ねしますが、昨年の暮れにも切手の発売で原爆の問題で日米の国民感情のずれといいますか、そういう問題があることが明らかになりましたね。それで、総理が五十周年目の今年の年頭にクリントン大統領とお会いになるときに、こういった国民感情の問題というのをお触れになるつもりかどうか。もしお触れになるとすれば、どのような感じでお話になるというお考えですか。
○総理 戦後五十年の節目に当たって、この五十年をどのように総括するかというようなことについての考え方というのは、それぞれやはりいろいろな意味で違いがあると思います。しかし、二度とああいう紛争やら戦争は地球上からなくしていかなければいかぬという考え方については、私は一致出来ると思います。したがって、むしろそうした歴史の経過を踏まえた上で、これから二十一世紀に向けてどのように共存出来る平和な社会を作っていくか、世界を作っていくか。そのために、日米はどのような協力が出来るのかというようなことについて虚心に話をすることが大事ではないかというふうに思っています。
取り分け、先ほども申し上げましたように環境問題やら、あるいは人口問題等々については、アメリカ自身も積極的な取り組みを示しておりますから、私はそういう分野にこそこれから日本が果たしていかなければならぬ、大きな役割を担っていかなければならぬのじゃないかというふうに思いますから、そういう問題についても積極的な話し合いをしていきたいというふうに思います。
−− 市場開放を徹底的に進めるというお話ですけれども、当然これは産業構造の調整で、失業者の続発を覚悟しなきゃいけない訳ですけれども、それに対して、ここでは柔軟な労働市場をつくっていくという抽象的な表現がありましたが、財政的にきちんと失業者を守る対策をするのか、そういう考え方でいくのか。あるいは、その辺の調整は営利団体に任せるような考え方でいくのか。その辺の考え方はいかがですか。
○総理 昨年の暮れ、内閣に経済構造改革と雇用対策本部というものを設置をした訳ですね。これは何故かと申しますと、これから言われておりますような空洞化も進んでいますね。その空洞化が進んでいった日本の国内におけるこれからの新しい産業分野というのは、やはりよりレベルの高い技術を開発していく。取り分け、情報通信分野という新しい産業分野を拡大していく。こういうことが大事じゃないかと思います。
そういう分野をどう開拓していくかという状況の中で、これは素材産業を含めて大きく日本の経済の構造というのは変わっていくかと思いますから、したがって、変わっていく経済構造の中で、新しい産業分野が開拓されていく。そこに新しい雇用がまた求められていくという場合に、柔軟に労働移動が出来るような、そういう仕組みというものも十分考えていく必要があるんじゃないかと思いますから、私はそういう意味で産業構造、経済構造の改革と雇用というものは一体のものとして取り組んでいくことが大事ではないかというふうに思いますから、今、申し上げましたように昨年の暮れに内閣の中に、私が本部長になっておりますが、経済構造改革と雇用対策本部というものを設置をして、今、取り組みをしている訳です。
−− 総理、国連安保理の常任理事国入りの問題なんですが、その点はどうお考えになっておりますでしょうか。
○総理 これは河野外務大臣が昨年国連で演説をいたしましたけれども、その演説の中でも明らかにしておりますように、日本は平和憲法を持っている国でありますから、その憲法の枠内で国際貢献が出来る分野については積極的に果たしていきたいということは表明している訳です。したがって、これは国連が改革をされていかなければ、常任理事国の問題というのは起こってこない訳です。
ですから、先ほどもあいさつの中で申し上げましたように、国連がもっと改革をされて、そして単に安全保障だけの問題ではなくて、むしろ地球規模の環境問題や人口問題や食糧問題やら、あるいは人権問題やら等々、広範に国連が果たしていかなければならぬ役割というものが増えてきていると思いますから、むしろそういう分野にこそ日本のはたす役割があるというふうに思いますから、そういう国連改革を前提として、日本の国の果たす役割について多くの国々が理解をして御支援をいただくと、あるいは、国民の皆さんも理解を示すと、こういう状況の中で考えられていくべき問題であるというふうに私は考えております。
−− 今年の参院選は、社会党が非常に落選をするんではないかと予想されているんですが、参院選に向けて、社会党としてどういう体制で闘おうとしているのか、何を訴えていきたいのか、その辺が一点。
あと、社会党の投票結果いかんによっては、党委員長としても責任も問われていくことになると思うんですが、その点をどう考えていますか。
○総理 この七月にある選挙を、どうしてそういう結果になるということを想定して私は今ここで申し上げる段階ではないと思います。これは選挙をどうして勝つか、勝利するかと、議席を増やしていくかということで今、一生懸命これから取り組みをしているときに、負けたときにどういう責任を取るかなんていうことは、今ここで申し上げる段階ではない。新年早々に余りふさわしくない話ですね。
−− 訪米のときに、日米関係の長期的な方向について話し合うというお話でしたが、その中には日米安全保障体制そのものについてのお話も含まれるということでしょうか。
○総理 いろいろな課題があると思いますし、個別の課題で申し上げれば、今、申し上げましたような総論的な立場で、これからの日米関係をどういうふうに位置づけていくかということもあるでしょうし、具体的な問題としては、これからアジア太平洋全域の安全保障といったようなものについて、どういう考えを持つかというようなこともあるいは議論になるかもしれませんし、それからまた、北朝鮮の問題とか、あるいは、カナダで今度はG7のサミットがありますから、そのサミットに対してどういう協力をしていくかとか、あるいは、日本の立場から言えば、先ほど申し上げましたように、十一月にはAPECの議長国として大阪で会議を待つことになる訳ですから、その会議に対してどういう協力をしてもらえるかとか、こんなことがやはり具体的な問題としては話題になっていくんではないかというふうに思っています。
−− WTOでは外国人労働者に技術移動をしたいと、このからいくと思うんですけれども、日本としてもこの辺の労働力というもの、まあ限定的な状況だと思うんですが、それについては今後どういう態度で臨まれるんですか。外国人労働者に対しての扱いですね。
○総理 一応当面日本の国として外国人労働者の受け入れについて一定の基準を設けてあります。したがって、その基準に基づいてやる必要があると私は思っておりますが、むしろ国際的に問題になりますのが、労働力の移動ということではなくて、開発と雇用問題というものをどのように結び付けていくか。今、世界的に失業問題というのは相当深刻な問題になっておりますから、むしろそういう問題の方が私は課題になってきているというふうに考えています。
−− 幹事社ですけれども、時間がまいりましたので最後の一問にしたいと思います。
−− 総理、参院選への一生懸命勝利のためにやっていくというお気持ちはすごく伝わってきたんですけれども、先ほどその内閣改造について今、考えておりませんという短いお答えだったんですけれども、少なくとも参院選前というのはそういうことを考えていないというふうに受け取ってよろしいんですか。
○総理 今、皆さん一生懸命当面の課題について、先ほど来お話がございましたようなことについてやる気になって取り組んでもらっておりますし、それから、ようやく予算も昨年暮れに編成をされて、これから通常国会で審議も始まる訳です。私は細川内閣のときに改造に反対した理由として、予算編成に当たった閣僚が、きっちりやはり責任ある答弁をして、予算の成立を図るべきではないかという意見を申し上げたこともあるんです。
したがって、そういう経緯も考えてみても、私は今やる気になっている閣僚の方々にしっかり対応していただきたいというふうに思っておりますし、やはり一年ぐらいは最低仕事をしてもらうことがいいんではないかというふうに私は思っておりますから、そういう意味も含めて、今のところ改造は考えておりませんというふうに申し上げた訳です。
−− それでは、予定の時間が参りましたので。
○総理 どうもありがとうございました。本年もよろしくお願いいたします。