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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 阪神・淡路大震災対策についての記者会見における村山内閣総理大臣の冒頭発言

[場所] 
[年月日] 1995年2月13日
[出典] 村山内閣総理大臣演説集,249−255頁.
[備考] 
[全文]

(はじめに)

一、国民の皆様、五千人を超える尊い犠牲者と甚大な被害をもたらした今回の地震から、三週間余りが経過しました。本日は、これまでの取り組みに対する私自身の思いを、率直に申し述べさせていただくとともに、この未曾有の試練の中で私の決意を明らかにし、皆様の御協力をお願いしたいと思います。

 まず、改めて、亡くなられた方々とそのご遺族に対し、心から哀悼の誠をささげますとともに、負傷された方々や今なお不自由な避難生活を続けておられる皆様方に対し、心よりお見舞い申し上げます。

 被災者の方々におかれましては、この寒さも厳しいなか、何かと御苦労は多いことと思いますが、常に冷静さを保ち、お互いに助け合い、励まし合っておられる姿に、私も救われる思いであります。一日も早く日常の暮らしを取り戻していただけるよう、内閣を挙げて、救援対策をはじめ、復旧・復興対策を強力に推進してまいる決意であります。被災者の皆様も、どうか今後とも、生活の再建と明日の街づくりに向け、ともにがんばっていただきたいと思います。

 更に、自らも被災者でありながら、不眠不休でがんばっておられる県や市町村の職員の方々をはじめ、警察、消防、自衛隊、医療関係者など震災対策に携わっておられる現場の方々、また、被災地で活躍しておられますボランティアの方々の活動には本当に頭の下がる思いであります。心から感謝を申し上げます。どうかくれぐれも御健康に留意され、引き続きご活躍されることを心からお願い申しあげます。

二、また、今般の震災に際しましては、世界の殆どの国より心のこもったお見舞いの言葉を頂くとともに、七十にのぼる国、地域及び国際機関、更には多くのNGO・民間の方々より、ご支援の申し出を頂いております。この場をお借りして、世界各国の関係者の方々に改めて心から感謝の気持ちを表したいと思います。

 同時に、まさに国民的運動とも言ってよいほどに、全国の各地から寄せられた、幾多の御支援、御声援につきましても、厚く御礼を申し上げます。

(これまでの対応)

一、今回の地震発生以来、政府といたしましては、発生当日直ちに非常災害対策本部を設置したことをはじめ、私自身を本部長として全閣僚により構成される緊急対策本部や専任の担当大臣、更には各省庁の担当責任者を中心とする現地常駐の対策本部を設置しました。政府が一丸となり、地元との連携を密にしながら、被災者の救出、援護、各施設の早期復旧などに総力を挙げて取り組んで参りました。

二、ただ、災害発生当初の対応についていろいろと御批判があることは、私も十分承知しております。即時に的確な情報を得ることや初期動作に誤りなきを期することは、危機管理の要諦であります。そうした御批判には謙虚に耳を傾け、見通すべきところは率直に見直すとともに、積年の制度疲労ともいうべき点についても、この際思い切って抜本的に見直し、今後の危機管理体制、防災体制などに万全を期したいと思います。既に内閣にはそのためのプロジェクトチームを発足させ、来週にも結論を得ることとしておりますし、防災計画の見直しにも着手いたしました。

三、これまでの具体的な対応としては、住宅、医療、ライフライン、交通、雇用、被災企業への支援などの面で、できる限りの措置を講じております。また、被災者の皆様に将来への希望をお持ちいただくためにも、今後の復旧・復興の見通しをできるだけ具体的にお示しするよう努力してまいりたいと思います。

 特に、支援策の実施に当たりましては、私は、高齢者、障害者、乳幼児をかかえた方々など、災害に弱い立場にある方々に優先的に心を配り、きめ細かな温もりのある対応をするよう、緊急対策本部などを通じ繰り返し指示してきております。

 しかしながら、個々の点でお気持ちに沿わないところや、ゆきとどかないところもあろうかと存じます。どうか、お気付きの点や御意見がございましたら、御遠慮なくお申し出いただきたいと思います。

 当面、被災住民の方々に一刻も早く、少しでも落ち着いた生活を営んでいただけるよう、住宅の供給を最優先課題として取り組んでおります。とりわけ、応急仮設住宅については、三月中に三万戸を建設する計画を立て、本日までにその発注を終了しました。既に一部では入居も開始されております。更に、先程貝原兵庫県知事より、当面一万戸追加してほしいとの要請がありましたので、早速対応することといたしました。

 また、東京ドーム七杯分ともいわれるガレキの処理でありますが、これは復旧、復興の極めて重要な第一歩というべきものであり、個人や中小企業のものまで全額公費で処理するなど、今までにない思い切った措置を講じたところであります。

 こうしたガレキの処理や応急仮設住宅用資材を運ぶためには、道路交通の確保が重要であります。このような復旧・復興に是非とも必要な車両の道路を優先的に使用することによって皆様には御迷惑をおかけしますが、どうか援護、被災地の一般車両の通行を極力控えていただくよう、御協力をお願いいたします。

(今後の復旧、復興策)

一、このように、当面緊急を要する対策については逐次整いつつあると思いますが、これからは、救援策の一層の充実を図るとともに、災害に強い街づくりを念頭において、本格的な復旧、復興策にも全力を挙げて取り組んでいかなければなりません。

 復興計画の策定をはじめとする新たな街づくりの主体は県、市、町などの地方自治体でありますが、国としてもこれらの自治体と十分連携をとりつつ最大限の支援を行うとともに、国の責任においてなすべき施策については、大胆に実行していくべく、強力な体制をとって参ります。

 そのため、具体的には、内閣全体として総合調整を行う「阪神・淡路復興本部」をできるだけ早く設置したいとえております。

 この本部は、私が本部長となり、閣僚全員を本部員とするもので、政治的リーダーシップの下、必要な施策を強力かつ効率的に実施して参ります。このための法律は二月中旬にも閣議決定すべく作業を進めておりますが、是非国会の御協力をお願いしたいと思います。

 また、復興に関し、大局的あるいは専門的見地から御意見をいただくため、有識者数名から構成する復興委員会を早急に設けるべく、所要の政令を明日閣議決定し、早速御検討に入っていただく考えであります。

 これらの組織を中心に、政府は一体となって被災地域の復旧と復興を急ぐ決意であります。

二、次に、復旧、復興を進めるための特別立法についてでありますが、只今申し上げました復興本部の設置のほか、

 より良い街づくりを計画的に進めるための特例、被災者のための税の減免の特例、さらには今回の災害に伴う補助、融資等についての特例、を考えております。

 いずれも、被災地域の復興の基盤づくりと、被災者の方々の生活再建になくてはならない措置でありますので、それぞれできるだけ早く法案としてとりまとめるべく、作業を急いでおり、準備が整い次第、国会の御審議を仰ぎたいと考えております。

三、今回の地震災害の復旧、復興に向け、財政面においても、最善を尽くして参りたいと考えており、応急仮設住宅、道路、港湾などの年度内災害復旧事業やガレキの処理など、当面必要となる予算措置を全て盛り込んだ平成六年度第二次補正予算の編成に現在鋭意取り組んでいるところであります。

 限られた期間での困難な作業ではありますが、この第二次補正予算をなんとか二月二十四日までに国会に提出できるよう努力し、国会の御協力をいただいてすみやかな成立をお願いしたいと考えております。

四、次に、税金につきましても、被災地の納税者の皆様に配慮した特例措置をとることとしております。

 具体的には、まず、確定申告等の期限の延長の措置を速やかに実施したほか、今回の震災による被害について、平成六年分所得税及び住民税を減免することができるようにいたします。

 個人や企業等、被災された皆様には、様々な御事情があると思いますので、これらにも適切に対応し、また、税務の現場においても、納税者の立場に立って、被災者の皆様からの御相談に応じてまいります。

五、更に、今回の地震によって被害を受けた企業の立ち直りに向けても、金融、税制など国としてできるだけのお手伝いをして参ります。

 特に中小企業者の立ち直りは、復興の重要な鍵であり、政府としては、まず給与支払いや仕入れなどのための当面の資金需要に応じるとともに、地方公共団体との連携や政府系中小企業金融機関等の活用により、過去の災害時よりも引下げた実質二・五パーセントの低利融資制度、無担保・無保証人での信用保証制度を設けることといたしました。更に、融資制度については、県、市と国との新たな協力により、一層の金利の引下げが期待されます。

 これに加え、税制上の特例の活用や、中小企業者の悩みや疑問に個別に応じるための経営相談の実施をはじめ、きめ細かな施策を総合的に講じてまいります。

六、雇用対策も、被災者の立ち直りのためには最も重要な課題の一つであります。

 具体的には、企業の雇用や新卒者の採用を確保するため、助成金制度などを最大限活用してまいります。

七、以上申し上げましたことに加え、教育、安全、交通対策など各般にわたる復旧、復興のための諸施策を全力を挙げて推進して参ります。

 また、地元自治体の要望に対しても、国の政策の基本を踏まえつつ、可能な限り応えていくと共に、今後、復興本部や復興委員会で提言される方策については、政府としても積極的に対応してまいります。なお、この際、復興の決意を新たにするためにも、本年十一月のAPECの国際会議につきましては、予定どおり大阪で開催することを、あらためて申し上げておきたいと思います。

(おわりに)

 私は希望さえ失わなければ、やがてはどんな困難も克服できると信じております。被災者の皆様方におかれましても、どうか希望を持ちつづけ、新しい未来を築いていただきたいと思います。政府としても、県、市、町と手をたずさえ、そのお役に立つべく、可能なあらゆる手だてを尽くして精一杯の努力をして参ります。

 また、被災地域は、経済、交通の要であるだけに、この地震の影響が様々な形で全国民の皆様の生活や経済活動に及びつつあります。皆様におかれましては、この復旧・復興は、まさしく我が国を挙げての緊急の課題として、今後とも何とぞ御支援ご協力の程、宜しくお願い申し上げます。

 最後に、私は、このたびの大惨事をどのように反省し、どのような教訓を得て乗り越えていくか、そして、どのような未来を創造していくかに、我が国の将来がかかっているといっても過言ではないと思います。その意味で、我々にとってまことに厳しい試練ではありますが、全国民の皆様とともに新たな未来を切り拓いていくことこそが不幸にも亡くなられた方々や被災者の方々に報いる唯一の途であると信ずる次第であります。