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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 全日空ハイジャック事件に関しての村山内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1995年6月22日
[出典] 村山演説集,790−803頁.
[備考] 
[全文]

○総理 本日は国会が終了したことによる記者会見を行う場でございましたけれども、御承知のように、昨日、全日空がハイジャックを受けるといったような事件がございました。そこで、まず、その事件について申し上げたいと思います。

 昨日は十二時から政府与党首脳会議を開いておりましたが、十二時十五分くらいでしたか、ハイジャックの第一報が入りました。官房長官は直ちに退席をして、関係省庁の局長に集合願って、そしてその対応について協議をすると。同時に、関係閣僚による対策本部を設置をすると。更に、この官邸にあります安全保障室に、今申し上げました関係省庁の担当者を全部集めて、そして、この事件に絡まる情報を正確に収集をすると。現地には道警本部長を長とする体制を整える。航空関係者や消防、自衛隊、医療関係といったような関係機関との連携を取りながら現地で十分対応出来る対策を取る。しかも、関係省庁には、それぞれの省庁に対策本部を設置をすると。こういう内閣と行政機関が一体となって取り組む体制を直ちに確立をして、万全の体制を敷いた訳です。

 しかし、皆さんも御案内のように、なかなか機内の正確な情報がつかめないと。具体的に申し上げますと、犯人が一人なのか複数なのか、しかも、言われるようなオウムとの関係があるのかないのかと。あるいは危険な物を持っておったのか、持っておらないのかといったようなことの情報が正確につかめなかったものですから、それだけに相当に時間が掛かったというふうに思われる訳です。最終的に一時半過ぎぐらいからでしたか、官房長官と国家公安委員長等と十分検討を加えた上で、東京に戻すべきか、あるいは現地で解決をすべきかといったような問題についてもあれこれ御相談もいたしました。現地の状況等も十分勘案をしながら、何よりも乗客の安全を第一に確保すると。同時に、犯人に対しては、毅然たる態度で対応するという基本的な方針を確認した上で対応してまいった訳でありますけれども、最終的には現地の情勢判断というものも尊重しながら、慎重の上にも慎重を重ね、どのような事態があっても万全に対応出来るだけの対応というものをしっかり整えた上で、犯人逮捕に突入するということになった訳であります。

 その間、時間が掛かり過ぎたとか、いろんな御批判もあろうかと思いますし、同時にまた、乗員されている方々や、あるいは家族の方々にいろいろ御不安や御心労もいただいたのではないかと思いますし、更にまた三歳以下の幼児もおられますし、九十三歳とか言われるお年寄りの方もおられる訳ですから、時間が経つに従ってやっぱり健康上の限界がくるのではないかということも心配をする。

 私は改めてそういう方々に対して心からお見舞を申し上げたいと思うんですが、同時にまた、国民の皆さんにも、これはもうテレビに釘付けになるくらいに注目をされ、心配をされたというふうに思いますし、いろんな意味でマスコミの皆さん方にも御協力をいただいたのではないかと思いますので、改めてここでお礼を申し上げておきたいと思いますが、幸いに一人けがをされた方があるようでございますけれども、ほとんどの方が無事に救出が出来たということについて、本当にうれしく思っております。

 これまで御苦労いただいた警察や、あるいは消防や、あるいは自衛隊や医療関係者や、徹夜で頑張っていただいた関係省庁の担当者の皆さんにも、心から改めて私はその労をねぎらいたいという気持ちでございますし、国民の皆さんの御協力に対しても改めてお礼を申し上げたいというふうに思っております。

 −− それでは、幹事の時事通信の方からまずお伺いします。

 今朝解決したハイジャックの問題なんですけれども、先ほども総理の方から言及があったんですけれども、東京に戻すべきか、現地で解決すべきかということを迷っていたと今おっしゃられたんですけれども、結局は現地で解決したと。その決定的な判断の要素というか、どうしてそういうことにしたのか。

 それと、今年の阪神大震災以来、危機管理ということがこの内閣ではみたびまた問われた訳ですけれども、その反省点、教訓というものがあれば、それも含めて今度のハイジャック事件への危機管理の対応、政府の対応はどうだったかということを、総理の感想も含めてお伺いします。

〇総理 一つは、何よりも、先ほど申し上げましたように、単独なのか複数なのか。それから、背景の関係というのがあるのかないのか。あるいは、言われるような危険物を保持しておったのかどうなのかといったようなこともございます。

 それからまた、東京、羽田に引き返すということになりますと、いろんな技術的な問題もあったり、あるいはまた機長の健康上の問題等もあったりして、そのままスムーズに羽田まで戻れるのかどうかというようなこともあろうし、それからまた、飛び立って犯人が何を考えているのか分からぬものですから、果たして東京に戻れということになるのか、それもちょっと皆目見当がつきませんし、いろんなことが心配されたんだというように私は思います。

 そういう総合的な判断の結論として、これはもう函館、現地で解決することがいいという結論に達したというふうに私は考えております。

 それから、危機管理の問題については、これまで阪神大震災やら、あるいはサリン事件やら、等々の経験から、これは六年ぶりにハイジャックがあったんですけれども、それ以前の資料等も全部参考にしながら、今回は取れる範囲の可能な緊急的万全の対応策を取り得たのではないかというように私は考えています。

 −− 幹事社の日経新聞です。話題は変わりますけれども、北朝鮮のコメの支援問題についてお伺いしたいと思います。政府として今後具体的にどのような段取りを想定されておられるのか。

 その具体的な支援方法、あるいは量、時期等についてどういうお考えを持っておられるのかというのが一点です。

 もう一点は、これに関連いたしまして、日朝国交正常化交渉に向けて今後村山政権としてどのような取り組みをされるお考えなのか。この二点をお尋ねしたいと思います。

○総理 北朝鮮のコメの問題につきましては、これは御案内のように、三党が自民党の渡辺美智雄先生を団長とする訪朝団で参りました。そういう関係もあって、北朝鮮の方からコメの問題についての要請がございました。しかし、それ以前に北朝鮮と韓国との間でコメの話もあっておる訳です。その北朝鮮と韓国との関係を無視して、日本から直ちに北朝鮮にコメを送るということには、なかなかなりにくいと。これはやはり南北の関係もある訳ですから。したがって、韓国と北朝鮮とまず話をつけて、そしてコメの扱いを決めてほしいと。それを決めた上で日朝のコメの問題についての話し合いをいたしましょうと。こういう段取りをつけまして、これまで対応してきた訳です。

 幸いに北京で韓国と北朝鮮との話し合いが持たれて、取りあえず十五万トン、韓国の方から無償提供しよう、供与しようという話し合いがついたということでございまして、これは南北関係を考えてみても大変いいことだと思いますが、それを受けて、今日三党と政府と話し合いをいたしました。

 これは人道上の問題もございますから、可能な限り早い時期に決着をつけて、そしてコメを送りたいというふうに考えておりますが、出来れば今日中にでも三党と北朝鮮と連携を取っていただいて、そして、そのあっせんの上で政府と北朝鮮と話し合いを付けて、どういう方法で、どの程度のコメを送るかということについて相談をしてまとめていきたいというふうに考えております。

 これはもうどなたが考えても同じだと思いますけれども、もう戦後五十年経って、隣国である北朝鮮と日本との関係に国交もなければ、不正常な関係にあると。こういう関係を一日も早く解消して、そして国交も回復もすると。同時にそのことが、韓国と北朝鮮との友好と親善の関係も深まっていくと。そういうことが必要なことではないかと思っておりますし、それがまた朝鮮半島、日本、アジア太平洋全体の平和のためにも大変役立つのではないかというふうに考えておりますから、そういう視点をしっかり踏まえた上で、こういうことを契機にして、可能な限り日朝関係がうまく話しが進められるように今後努力をしていきたいというふうに考えています。

 −− 幹事社のテレビ東京ですが、日米の自動車、それから部品問題、サミットの際の日米首脳会談では実質的な進展が残念ながらなかった訳ですが、間もなくと聞いていますが、ジュネーブで次官級の交渉が始まります。二十八日の制裁期限を目前に控えまして、解決する見通しというのを総理はお持ちなんでしょうか。

〇総理 サミットで日米首脳会議をやりました。そのときにも、自動車の問題、部品の問題等が提起をされた訳でありますけれども、このことは、クリントンとの間で確認をしたことです。この自動車、同部品の問題がこれまで続いてきた日米の友好関係を損うものではないと。飽くまでも、話し合いでもって解決が出来るように努力をしていきたい。これは当然のことですけれども、そういうことを前提として確認をいたしました。

 私の方から申し上げましたのは、アメリカの一方的な措置は撤回をしてもらいたいと。

 それから、民間の自主的な企業経営に政府は介入するというようなことは出来ないということについては、これまでも度々申し上げておりますと。そのことを十分踏まえた上で話し合いがなされれば、必ず私は話は出来るというふうに思いますと。

 それから、二十八日ということは、これはアメリカの国内法に基づいて設定されたものであって、これを前提として話しをすることは出来ませんと、そのことは、我が国の方針として明確に申し上げておりますと。

 そして、ジュネーブで開かれます、先ほどお話のございました次官級レベルの協議について、国際的に納得の出来る話し合いをつけたいと。そこで、何としても話し合いで解決が出来るように最大限の努力をしたいと思います、というようなことを私は申し上げておりました。今、そのことを期待を持って見詰めていきたいというふうに思います。

 −− 内政の方なんですけれども、総理はパリでの内政懇談で、参院選前の改造について否定的な見解をお示しになった訳ですけれども、もうその危険が最終決断で、もう参院選前は内閣改造はないのか、それとも参院選後には確実にあるのか、その辺のことをもう一度お伺いしたいんですけれども。

〇総理 私が内閣を担当するようになりまして、この三十日でちょうど一年を迎える訳です。この戦後五十年の節目ということもあってかどうかは分かりませんけれども、今年になって一月に阪神・淡路の大地震があると、それから三月にはこの地下鉄サリン事件がある。また今度、昨日はハイジャックがある、といったように次から次に事件がある。

 同時に経済的にもいまだかつてない円高というものが急激に押し寄せてまいりまして、緩やかながら回復基調にあると見られておりました日本経済に先行き不透明な悪影響をもたらしておるというようなこともございますし、それから何よりもやはりこの五十年を節目にして、二十一世紀に向けて、新しい時代にどう日本が生き抜いていくかといったような大きな課題を抱えておる年でもある訳です。

 私は、今申し上げましたような問題について、それぞれの閣僚が誠心誠意、全力を挙げて取り組んでおると、しかも国民も注目をして期待しておる。こういうことを考えた場合に、その責任を全うする意味でも、内閣改造については考えておりませんと、飽くまでも一体となって国民の期待に応えてその責任を果たしたいということを申し上げたところでございます。その考え方には変わりはございません。

 −− NHKです。水俣病の問題なんですけれども、今日解決した与党三党の救済策が総理に報告された訳ですが、政府としてこれをどう受け止めるかということと、ここまで問題の解決というのが遅れたことについて、どのようにお感じになっていらっしゃるかということをお聞きしたいんですが。

〇総理 遅れたというお話がございましたけれども、私は、内閣を担当するようになってから、何としてもやっぱり戦後積み残されてきておる問題については、可能な限り、五十年を節目にした時期でもありますから、解決をしたいと、すべきであると、こういう気持ちで取り組んできたのであります。

 水俣病の問題は、ある意味から申し上げますと、四十年も経過している訳ですね。公害や環境問題に関するこれは原点になるような問題ですから、しかも、もう患者の皆さんは相当高齢化いたしておりますし、あの実態を見たときに、これは、勿論、PPPの原則に基づいて、企業に最大の責任があることは申し上げるまでもないのでありますが、しかし、行政に責任があるとか、というようなことを議論をする前に、こういう状態をこのままにしてきたことについては政治家としての責任をやはり感ずる必要がある。こういう立場から、何としてもこの問題は解決をしたいものだという気持ちで、三党の皆さんにもお願いをしてまいりました。

 四十年間も解決が出来ないできた問題ですから、そう一朝一夕に右から左に解決出来る問題ではないということは皆さんにもお分かりをいただけると思うんです。しかし、三党の担当者の皆様方も、それこそ粘り強く辛抱強く、関係団体や熊本県と話し合いをしながら、問題の解決に向けて努力をいただきました。

 今日、三党からようやく大枠としてまとまったという報告をいただきましたから、その報告を受けた立場で、これから具体的に、どのような話し合いでもって、内容でもって解決をするかということについて政府として詰めていきたいというふうに思っておりますが、出来るだけ早期に解決が出来るように話を進めていきたいというふうに思っております。

 −− 与党案では、国、県の遺憾の意を表明するということも盛り込まれているんですけれども、その時期とか手順についてはどういうお考えをお持ちですか。

○総理 今申し上げましたように、三党の方で大体大枠をまとめていただきました。その大枠をまとめたものを政府が受け止めて、そして、これを具体的にどう中身を付けて、どういう方法でいつごろまでに決着をつけるかということについて話を詰めていかなければならぬというところにあると思います。

 遺憾の意を表明するという意味は、冒頭に申し上げましたように、私はやはり政治家として四十年間もこういう問題の解決を見出し得なかったということについては、共通して責任を感ずるべきではないかと。そういう意味から申し上げますと、誠に遺憾なことであるというふうに言わなければならないと思っております。

 −− 北朝鮮へのコメの支援ですが、韓国は無償での援助を決めた訳で、日本政府としても人道的立場ということであれば、無償というお考えもあるでしょうか。

〇総理 これは、これから北朝鮮と具体的な話をしなければならぬと思いますけれども、北朝鮮側の考え方もあると思いますから、北朝鮮側の考え方も聞きながら、お互いに理解と納得が出来る結論を見出していくということになると思いますから、ここで今どうするこうするという話は差し控えたいというふうに思います。

 −− 北朝鮮に渡ったおコメが民生ではなくて、軍用の方に転化されるのではないかというふうに一部心配もありますが、そこら辺をどういうふうに検証をなさるおつもりですか。

〇総理 私はそんなふうには思っていません。これはあくまで人道上の問題としての話ではないかというふうに受け止めておりますから、そんなふうには考えておりません。むしろこういう機会にお互いの理解を深めながら、先ほど申し上げましたように、何としてもやはり南北は友好の関係が築かれていくということも大事なことですし、同時に日韓、日朝といったような関係についても、友好関係がつくられて、北朝鮮との国交回復も一日も早く出来るということが全体の平和と安全のために大変役に立つことだと、これは日本政府としては、当然推進をしてやらなければならない課題だというふうに思っておりますから、そういう決意で、この問題に対する取り組みをしていきたいというふうに思っています。

 −− 総理、今日は明け方まで陣頭指揮という形ですが、総理は常にリーダーシップという場を問われている訳ですが、今回解決したことで、どういう思いを持ったかということをお聞かせ願えますか。

○総理 どういう思いを持ったかとか、特別に改めて思いを持ったという感じはございませんけれども、私は物事の決め方には、具体的な事象にいろいろあると思いますよ。こういう問題については出来るだけ多くの意見を集約をして、そして合意を求めて決めた方がいいというものもあるでしょうし、しかし、合意を求めて努力をしたけれども、結論が見出し得ないというような問題もあるかもしれないし、そういう場合にはやはりトップに立つ者が決断を求められるということも恐らくあるでしょう。

 しかし、どういうことがあるにしろ、どういう経過を取るにしろ、最終的に決められて実行したことについては、それは事の是非についての責任は、やはり総理大臣たる最高責任者にあるということは常に当然のことであって、そのことをしっかり踏まえた上で、物事に対処をしていく必要があるという気持ちはいささかも変更はありません。

 −− 戦後五十年の決議ですが、当初言われていたような謝罪であるとか、不戦という部分が入らないまま、妥協案として文章が出来上がって、アジア諸国から批判も出ていますが、この点はいかがですか。

〇総理 これは批判をされている国もあるでしょうし、あるいはまた評価していただいている国もありますから、一概に私は言えないのではないかと思いますし、また、よくお話しをしていけば御理解をしていただけるのではないかというふうに思っております。

 この不戦という言葉は最初からそれほど大きな問題として私どもは考えていた訳ではないんです。これは軍事大国にならないということは、福田ドクトリンでもって、アジアには鮮明にいたしておりますし、私もAPECに参りましたときに、そのことは重ねて強調して申し上げておきました。あくまでも平和憲法は守っていきますから、日本の国は軍事大国にはなりませんということは鮮明にしてまいりました。

 そういう意味から申し上げますと、これは三党の中にはいるんな意見があったことは皆さん御案内のとおりです。しかし、基本的に植民地支配とか、あるいは侵略的行為というようなものに対して厳正な反省をしながら歴史を正確に事実としてとらえながら、これから日本は平和に向かって国際貢献をしていく、平和を志向していくということを鮮明にするという意味では、それなりに筋も通っておるのではないかというふうに思っておりますから、これからいろんな接触の中で、そうしたお話を申し上げれば御理解をしていただけるのではないかというふうに思います。

 これは私は、韓国に参りましたときにもお話がございましたから、そのときにも申し上げてあるんです。日本の国民の中には戦争観や歴史観についていろんな意見があることは御承知のとおりですと。しかし、大多数の国民の良識としては、過去を反省をして、そして未来をしっかり見詰めていくという国民の良識には変わりはないと思いますと。そのことについては私は信頼いたしておりますと、こういうことも申し上げておきましたけれども、私はまさに今申し上げたとおりだと思っておりますし、その気持ちはあの決議の中に表されておるというふうに思っています。

 −− 核実験について伺います。中国にはODAの抑制という、ある種毅然とした対応を取られたのに対して、フランスにはこの間の日仏首脳会談で再考を求められたということなんですが、この対応の違いについて、きちんと説明していただけませんでしょうか。核実験も国によって対応に差があるということはあるんでしょうか。

〇総理 核実験の国によって差異があるというのではなくて、日本と中国の場合、あるいは日本とフランスの場合も、共通しておりますのは、このことによって日中関係、日仏関係は損なわれるものではないと。これはいろんな多面的な政治、経済、文化、あらゆる分野での友好協力関係というものは作っておりますし、これは大事なことですから、それはそれとして大事にしていきましょうと。しかし、核実験につきましては、私は二つのことを申し上げた訳です。これは中国に行っても、あるいはフランスにおいても同じことですけれども、やはり被爆国としての日本国民の感情というのは、核については大変厳しいものがありますと。これは単に日本国民だけの問題ではなくて、世界全体の問題として、やはり核は廃絶して、二度と過ちは繰り返さないという日本国民の願望ですと。そのことは十分ひとつ分かってほしいということが一つです。もう一つは、NPTが国連で決議をされた。このことは核を持っている国と持たない国がある訳ですから、核を待たない国については、これ以上核は拡散をさせないと。核は持たせないというものですから、したがって、核を持たない国がよほど核を持っている国に対する信頼関係がなければこれは成り立たない話だと私は思うんです。

 その決議をされる際に、核実験は抑制するということになっている訳ですから、その考え方というものを大事にしてほしいと。だから、この際核実験については思いとどまってほしいということについては、中国においても、フランスにおいても申し上げてまいりました。

 しかし、それは中国には中国の言い分があるだろうし、フランスにはフランスの言い分があるかもしれませんけれども、しかし、核実験は抑制をすると。そして、核軍縮を行い、究極的には核は廃絶するという大きな流れについては、これはもう国連でも一致している見解なんですから、したがって、その見解は大事にして、この際核実験は思いとどまっていただきたいということは強く申し上げておきました。

 ただ、対抗措置をどう取るかなどということについては、やはりそれぞれの国との関係においては違いが出てくることは当然なんで、そのことについて御理解をいただきたいというふうに申し上げてきたところでございます。

 −− 日本はNPTの無期限延長を促進した、その日本が今は一応反対はしているけれども、適当な抗議だけで済ましているようでは、それこそアジア諸国、核を持たない諸国から日本は何だと、その信頼を失うことになるのではないか。もっと積極的な、例えばもっと核実験をやめるという国際世論を醸成するという積極的なリーダーシップをそれこそ取っていくとか、そういった行動が必要ではないでしょうか。

〇総理 サミットの首脳会議で中国とかフランスとかいう国名だけは挙げませんでしたけれども、核実験を停止してほしいということについては、サミットの場でも申し上げておりますし、これは出来るだけ、そういう意味における国際世論というものを盛り上げていく必要があると思いますから、あらゆる場で主張していく問題だと思っております。

 したがって、豪州の場合も、いろんな国でも、そういう話がずっと出てきておりますし、同時にまたフランスにおいてはデモも行われたということも聞いておりますけれども、私はそういう意味では、国際的な大きな声にしていくということが大事だというように思います。決して言っておけばいいと、ただ立場をそれで済ませただけだというようなことではないと。そういうことを重ね重ね言うことが核実験を廃絶していく大きな国民的な世論になるし、運動になっていくというように思いますから、そういう運動に是非発展するようにつなげていかなければならぬというふうに思います。

 −− 再び内閣改造の話ですけれども、表明された後も、具体的に言いますと、さきがけ等から異論と言いますか、参議院選前にやるべきだという声が出ていることについてはいかがですか。

○総理 それぞれの立場からいろんな考え方があると思います。ですから、そういう声が出てくるのも当然だというように思います。お話はお話で素直に耳を傾けてお聞きをしたいというように思っております。

 −− 景気対策で、緊急対策というのを週明けにも取りまとめられるという方向になってはいますけれども、地価税の問題とか、有価証券取引税の見直しとか、それから法人税の大幅な削減とか、縮減とか、今までどちらかというと、社会党は消極的だった施策をやらないことには、なかなか景気回復という面では有効的な策にならないと思うんですが、その辺のところは具体的に総理として、まさに景気対策で指導力を発揮されるか、思い切った決断をされるかということはございませんか。

〇総理 今、考えておりますのは、二つの柱がある訳です。一つは、七年度予算の執行がまさにこれから具体化していくと。それから、補正予算を二兆七千億円積みましたね。その補正予算も加えて、これから公共事業を中心にして、いよいよ実施に移されていくと。ですから、出来るだけ景気に刺激を与えるという意味で国、地方自治体含めて、公共事業が促進されるような方策を取っていくために、大蔵大臣と自治大臣に、そういう意味における公共事業の促進策というものについて取り組んでほしいということを指示をいたしております。これは関係閣僚全部入って、そして、その取り組みをしていただくということになっております。

 もう一つは、緊急円高経済対策というものを決めまして、その対策に基づいて、先ほど申し上げました二兆七千億円の補正予算も組んでいる訳です。

 この緊急円高経済対策の中では、例えば大蔵省で言えば金融関係の不良資産を五か年間で何とか目鼻がつくような計画的対策を講じてほしい。あるいはまた、証券市場等に対する活性化のために、何らかの方策を検討してほしいと。

 それから、通産省には、中小企業対策、あるいは新しい分野に対する産業の開発といったような問題についても積極的な取り組みをしてほしいと。

 労働省には、雇用対策というものに万全を期してほしいと。

 更に、経済企画庁には、円高差益の還元と。これだけ円高になっている訳ですから、したがって、円高で片一方では苦労している中小企業がございますけれども、同時に円高によって安くなるものもある訳ですから、したがって、その円高差益をどう国民に還元出来ておるかといったようなことについても、もっと具体的に取り組んでほしいと。こういうこともこの関係閣僚会議で取りまとめて報告をしてほしいということを指示をいたしております。

 そういう段取りを付けながら、何とか今の不透明感を払拭をして、そして経済に展望の開けるような力というものをしっかり作っていきたいということを内閣の課題として取り組んでいる訳です。

 そういう展望の上に、例えば今、御指摘のございました法人税が高過ぎるということは、以前から言われていることですけれども、しかし、逆に言えばそれだけまた法人税の課税ベースが余りにも狭過ぎるという意見もある訳ですから、したがって、課税ベースを広げた上で、法人税率をどの程度にするのがいいのかといったような問題もあろうかと思います。

 同時にまた、有価証券取引税、地価税等々が今の日本の経済にどのような影響をもたらしているのかということについても、十分分析、検討する一つの課題だというふうには思っておりますけれども、これは政府税調や党税調もございますから、そういう場において十分議論をしていただくことが大事ではないかと。そういう議論の推移も見ながら政府としては判断をしたいと思っております。