データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 沖縄県訪問における村山内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1995年6月23日
[出典] 村山演説集,293−298頁.
[備考] 
[全文]

 それでは、初めに地元記者クラブの代表の方から質問をお願いいたします。

 −− 地元幹事社のNHKです。今日二つの大きな式典に出られまして、今の御感想と、併せて沖縄戦を歴史的にどう位置付けていらっしゃるのか。どういう思いを抱いていらっしゃるのかという考えを伺います。

○総理 今日、沖縄に参りまして、礎の除幕式、それから全戦没者の追悼式に出席をさせていただきました。戦後五十年の節目に当たりまして、これは知事さんが構想されてお作りになったんだと思いますけれども、太平洋戦争に絡んだ全戦没者の礎を作られたことは、これは後世にこの壮絶な犠牲というものを忘れないようにして、二度とこうした過ちは繰り返さないと。戦争をしてはいかぬということを伝える意味で、私は大変意義のあることだと思いますし、同時に追悼式の式場で知事さんを始めいろんな方から、こもごも当時を想定したいろんなお話も聞かしていただきましたけれども、いかにその時の地上戦やら、あるいは軍人、軍属、一般の人を問わず、大きな犠牲を払われたかということに思いを致した時、本当に、何と言いますか、そうした方々の哀悼の気持ちというものを一層強めましたし、同時にまた、そのことを踏まえた上で、これからの日本の、いかに平和が大事かということを決意を新たにさせられたと、そういう気持ちでございます。

 −− 沖縄のアメリカ軍基地の問題なんですが、基地の整理・縮小に向けた政府の今後の取り組み、特に沖縄の「三事案」の解決の見通しも含めてお聞かせ願いたい。

○総理 沖縄の基地問題というものが大きな一つの課題になっておるということは以前からお話は承っておりますし、同時にその整理・縮小について強い要望のあることも十分承知をいたしております。

 私は今年になって、一月と六月にクリントン大統領と首脳会談を行いましたが、私の方からも、今お話のありました三つの基地の問題についてお話し合いをいたしました。現にもう今、アメリカの協力もいただきながら話しも進めておりますけれども、二つの問題、例えば那覇港の港湾施設の移設の問題、あるいは読谷補助飛行場等につきましては、既に移設をする話が大分進んでおりまして、一応アメリ力軍との間は合意を得ている訳です。

 ただ、移設に伴う地元の皆さんのいろんな困難な事情等があって、そうした点も踏まえて今後一層話が進展して解決することを期待いたしておりますし、同時に演習場の問題、実弾射撃場の問題につきましては、これはまだ具体的な話は進んでおりませんけれども、これから更に精力的に話を進める努力をしていきたいというふうに考えております。安保条約に基づくいろんなことについては、地元との協力というものも十分これからも調整をしながら進めていかなければならないものだというふうに受け止めております。

 ーー沖縄に残された戦後処理問題というのはどういうものがあるのかというふうに政府は今、お考えであるのか、また、具体的にそれをどう解決しようとしているのかをお聞かせいただきたい。

○総理 昨日のレセプションの席上であいさつをする際に、佐藤栄作先生は、沖縄返還なくして戦後は終わらないということを言われましたが、私はこれまでの経過を振り返ってみても、まだ本土と沖縄との格差というものは残されておる、そういうものが本当に解消しなければ戦後の区切りはつかないと、こういう意味のことも申し上げた訳でありますけれども、例えば八重山のマラリアの問題等もございます。

 この問題については、今、与党三党の中に戦後問題プロジェクトチームというのが作られておりまして、ここで一応まとまりをつけていただきました。その三党の合意に基づいた意見書を受けて、政府は今、慰籍の問題等について、基金を作ってどのように運用していくかということについて今検討を加えておりますから、いずれ結論を出さなければならぬというふうに思っておるところでございます。

 それから、戦時遭難船舶の問題等がありますけれども、これは単に沖縄だけの問題ではなくて、全国的な一般的問題もたくさんある訳ですから、大変難しい問題だと思いますけれども、これらも含めて慎重な検討が必要であるというふうに思っております。

 それから、例えば不発弾の処理の問題、あるいは域の境界の明確化の問題、あるいは遺骨の収集の問題等々、残された問題は幾つかある訳でありますが、こうした問題も戦後五十年の節目ということもございますから、一層そうした問題の解決に向けてこれからも全力を挙げて取り組んでいかなければならぬというふうに思っておるところであります。

 −− 次に総理同行の内閣記者会の代表の方から質問をお願いいたします。

 −− 日本経済新聞の吉野と申します。内閣記者会を代表して質問をさせていただきます。

 まず一問目なんですが、沖縄訪問から一連の戦後五十年記念式典の出席行事が始まりましたが、そのトリとなる八月十五日の式典の性格の位置付けを巡って自民党内等から異論が出ておりますが、どのような性格の式典にしようと考えていらっしゃいますか。

○総理 毎年八月十五日には追悼式典が国の行事としてやられている訳ですね。これは今年も勿論行います。これは飽くまでも戦没者を追悼するという式典です。これは五十年の節目でもありますから、この節目にこれまでの歴史を振り返る。あった事実は具体的に見詰めながら、これからの日本はどういう役割を果たすべきかといったようなことについて、国民全体が過去に思いを致し、将来に目を向けて、そして平和憲法の理念に基づいた平和の志向というものをしっかり位置付けていくと。こういう新しい決意を固めていくことは、私は大変意義のあることだというように思いますから、是非、そういう式典にしたいものだというふうに思っております。

 −− 二問目です。九月二日にハワイでアメリカ主催の終戦式典が開催されまして、アメリカの方からは既に玉沢防衛庁長官宛に招待状が来ていると思いますが、政府としては、玉沢防衛庁長官以外に、例えば河野外相等を出席させる考えはございますか。

○総理 米国政府から招待状が来ておりますけれども、その招待状を拝見させていただきますと、式典の目的は、すべての国の太平洋戦争の犠牲者を追悼すると。

 同時に、アジア太平洋地域の平和を祝福し、二十一世紀へ向けてこの地域の更なる繁栄と協調を確認する式典にしたいと、こういう内容のものだというふうに私は承知をいたしております。

 これはもう勝者も敗者もないと。みんな共に平和で安定した生活が出来るような地域を作っていこう、社会を作っていこうと、こういうところにねらいがあるというふうに聞いておりますから、出席者は是非出席をさせるようにしたいというふうに思っていますけれども、今、具体的に誰を出そう、出席をさせようということについてはまだ決定をいたしておりません。これから検討していきたいというふうに思います。

 −− 三問目ですが、九十六年度予算案のシーリングでは、防衛費の削減を実施したいとお考えですか。

 また、それを新三党合意に盛り込みたいとお考えですか。

○総理 防衛関係費につきましては、今、世界全体の潮流を見ますると、緊張緩和、軍縮の時代ということになっているというふうに言えると思うんです。もう地球規模の大きな戦争というのはないというのはどなたも私はお認めになっていることだと思いますし、同時に地域的ないろんな境界とか、あるいは宗教上の問題とか、いろんな紛争があることは、これは皆さん御案内のとおりであります。こうした国際情勢を背景にして、これからの日本の安全、防衛というものがどうあるべきかということについては、そうした国際情勢を背景にして、更に検討をしなければならぬというので、今「防衛大綱」の見直し等も行っているところでございます。

 そうした情勢も十分踏まえた上で、来年度予算の編成に向けてどうあるべきかということについて大いに検討を加えていかなければならぬと思いますけれども、私は自衛隊がこれまで果たしてきた役割、取り分け災害等に対して、今回の阪神・淡路の大震災に対してもそうですけれども、大きな役割を果たしておるというようなことも考えてまいりますると、そういう意味における装備というものはもっと充実させていってもいいのではないか。そして、国の内外に対するそうした役割というものを大きく果たしていけるようなものにすることも大事なことではないかというふうに思っております。与党三党でそうした問題も含めて検討していただいておりますから、そうした検討の中身というものも十分受け止めた上で、これから更に慎重な検討を加えていかなければならぬというふうに思っております。

 −− 地元の記者クラブの方からあと一問受けたいと思います。

 −− 沖縄タイムスの屋良と言います。よろしくお願いします。

 八月十五日の位置付けの中で、首相は国民の中に平和の志向をしっかり位置付けたいとおっしゃっておりますけれども、沖縄の現状を見ますと、住宅地の近くで実弾演習があったり、それから学校の上をヘリコプターが飛んだり、ジェット機が飛んで、授業が中断するという現状があります。先の訪米で沖縄の基地の整理・縮小を進めていきたいという合意をクリントン大統領となさったという報道がありましたけれども、どういった状況まで、沖縄の面積五分の一が基地に取られております。どういうふうな状態まで整理・縮小を進めることが適当だとお考えなんでしょうか。

○総理 今ここで私は、沖縄の基地をどの程度縮小出来るかというようなことについて、明確に答弁するだけの用意をしておりませんけれども、いずれにいたしましても、沖縄県民の皆さんが、これはもう知事さんを始め、基地問題について大きな課題を抱えておるということについては、いろんな意味で私も承知をいたしておるつもりであります。したがって、当面、この三つの基地の問題について意見もお聞きいたしておりまするから、この問題を当面何として解決をしたいと、こういう気持ちで日米首脳会談の席でも申し上げてきたところでございます。今後、そうした問題について、機会あるごとにお互いの話し合いの中で、出来るだけ皆さんの期待にお応え出来るような方向で努力をしていかなければならぬというふうに思っておりますが、これは日米安保条約というものもあって、全体としてそれをどう合理的に運用していくかというようなことについては、これも地元の皆さんの協力がなければ出来ないことでありますから、そういう視点に立って、これから更に努力をしていかなければならぬというふうに思っております。

○総理 どうもありがとうございました。