データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 広島平和祈念式出席における村山内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1995年8月6日
[出典] 村山演説集,301−306頁.
[備考] 
[全文]

 −− NHKの木谷です。広島市市政記者クラブを代表して質問します。

 最初に核実験問題ですけれども、中国の核実験に続いてフランスも核実験の再開を宣言しましたけれども、政府の対応に当初遅れがあったのではないかというふうに考えられますが、いかがでしょうか。また、今後核実験の中止に向けて政府としてどのような行動を起こす考えか、お聞かせ願いたいと思います。

○総理 今お話のありました中国の核実験並びにフランスがまた核実験を再開するという問題については本当に遺憾に思います。それで、政府としては迅速に核実験停止について中国に申入れをするし、フランスに対しては核実験再開を思いとどまってほしいということについては機会あるごとに申入れをし、抗議もいたしてきておることでありますから、そうした取り組みが立ち後れておるというふうには思っておりません。これからも機会をとらえて更に核実験停止について、あるいは実験の中止について更に強力に申入れをしていきたいというふうに思っています。

 それで、この核実験禁止に関する条約の早期締結の問題や、あるいは秋の国連総会に対して核実験の中止に関する決議を是非推し進めていきたいというふうに考えておりますから、それなりの手は打っていきたいと思います。それで、四日の日の衆参両院の本会議で中国の核実験に抗議をし、フランスの核実験を停止をするように、それに関する決議がなされましたね。そうした決議も受けて、更に政府はいろいろな機会をとらえて強力な申入れをしていきたいというふうに考えています。

 −− 被爆者援護法が先月施行されましたけれども、特別葬祭給付金については対象者がすべての原爆死没者の遺族というふうになっておりません。これを、すべての死没者の遺族というふうに改正をするお考えはないでしょうか。また、国家補償の精神というのは被爆者がずっと要求してきたことですけれども、これを盛り込む考えはないでしょうか。

○総理 もう被爆をされてから五十年も経過しますし、被爆者の皆さんも相当高齢化が進んでおるということ、更に今年は被爆五十周年の節目であるということも受けて、何とかこの被爆者援護法の問題については決着をつけたい。これは、ある意味では内閣の一つの大きな課題だというような気持ちでこの問題に取り組んでまいりました。三党でいろいろな角度から議論もしていただきましたが、これまでも国会の中で議論をしてきた経緯もある訳ですね。そうした経緯も踏まえながら、三党で合意点を見出して決着をつけるという方向で御努力もいただいた訳であります。被爆者団体の皆さんや関係者の皆さんから見れば、まだまだ不十分な点やら遺憾な点はあるのではないかというふうに思いますけれども、そうした経過を踏まえて、当面考えられる最大の努力をして決着をつけたということについては御理解を賜りたいというふうに思う訳です。

 それから、前文の中に国家補償というものはいろいろな関係もあってなかなか難しいんですけれども、国の責任ということも一応位置づけて明らかにいたしておりますし、特別葬祭給付金というものについてもそれなりに支給をするし、同時に保険や医療や福祉や、そうした部面における改善も行って、出来るだけ総合的に皆さん方の御要求におこたえ出来るようにしていきたいというふうに考えてまとめた案ですから、その点についてはそういう意味で御理解をいただきたいというふうに思いますし、これはこれからも更に現状の進行の状況に応じてやはり検討を加えていかなければならぬ問題だと思いますし、改善をすべき点は改善へ向けて努力をしなければならぬ問題だというふうに理解をいたしております。

 −− 海外にいるいわゆる在外被爆者の問題というのが最近大きな問題になってきていますけれども、この在外被爆者を救済するための援護策というものを考えられないでしょうか。

○総理 外国に居住している皆さんにつきましては、それはその国の問題だというふうに私は思いますけれども、しかし、これまでございました原爆二法にいたしましても、今回制定しました被爆者援護法にいたしましても、国籍は問わないということにはなっておる訳です。したがって、日本に滞在するとか、あるいは日本に居留している外国人の皆さんについても、これは原爆手帳も交付をして、そして同じような扱いをするということになっております。その点については御理解をいただきたいと思うんです。

 −− 引き続きまして内閣記者会の質問をお願いしたいと思います。

 −− テレビ朝日です。内閣改造について質問いたします。今、なぜ改造を行うのかという点が一つ、それから改造に臨む総理の基本方針、更に改造の時期について今週前半というふうなことをおっしゃっていますけれども、具体的にはいつやるのかということをまずお聞かせください。

○総理 今回の参議院選挙を通じて見まして、やはり何よりも一番大きく厳しく受け止めなければならぬと考えましたのは、有権者が政治に対する関心の持ち方、そのことについては極めて投票率が低かったということについては、やはり政治をあずかる最高責任者として厳しく受け止めなければならぬというふうに思いましたことが一つですね。それから、そういう国民の皆さんの民意というものを考えた場合に、これは選挙戦を通じて私は厳しく受け止めながら感じましたけれども、やはり何と言っても景気をもっと良くしてほしい、あるいは雇用の確保なり安定というものをしっかりやってほしいという声が大変高いということも受け止めてまいりましたし、そういう国民の皆さんの期待に十分おこたえ出来るような体制というものをしっかりつくっていく必要があるのではないかということが一つですね。それから、そういうことを実行していくためには、やはり行政改革もやらなければならないし、同時にまた経済構造改革というものもやらなければなりませんし、同時にこれから新しい分野に挑戦をしていくといったようなことも十分踏まえて考えていく必要があると思いますし、そういうことも考えた上で出来るだけそうしたものにおこたえ出来るような清新な内閣というものを考えていく必要があるのではないかというふうに思いました。

 それから、時期等については先般三党首で話し合いをいたしまして、来週の前半ぐらいに何とか決着をつけるようにしたいということについて一応の合意を得ていますから、そういう方向で進めたいというふうに思います。

 −− 内閣改造の件ですけれども、河野外務大臣、武村大蔵大臣、橋本通産大臣の留任問題についていかがお考えでしょうか。特に河野外務大臣は外務大臣のポストから外れたいという意向が強いようですけれども、その場合、総理はいかが対応されるか、また、橋本通産大臣にも、通産大臣として留任をすることを求めていくんでしょうか。

○総理 今、申し上げましたような参議院選挙後の結果の民意を受けてどうおこたえするかということが主体ですから、したがって、これは三党で連立政権を組んでおるという、この三党連立の枠組みはやはりきちっとしていく必要があるし、同時に、何よりもこの三党首がそれぞれ信頼し合って、そしてこの内閣を維持していく、あるいは強力に推進をしていくということについては変わりはない訳ですから、したがって、これまでの経緯もありますから、出来るだけ三党首については大蔵、外務というものを引き継いでやって、そしてその三党首の協力関係というもの、信頼関係というものは一層強化していく方向でやっていただきたいということについては変わりはございません。

 −− 今回の改造は自民党の総裁選挙をめぐるいろいろな動きと絡んできているのではないかという見方がありますけれども、この点について総理はどうお考えでしょうか。あるいは、最低限こういう条件がクリア出来れば総裁選絡みとは受け取られないだろうというようなことについてはどうお考えでしょうか。

○総理 これから更に三党首で話を進めて、そしてそれぞれの考え方も聞きながらまとめていかなければならぬというふうに思っていますけれども、今お話がございましたように、総裁選挙というのは自民党の党内問題であって、内閣とは何のかかわりも関係もない訳ですから、したがってその点は明確にしておかなければならぬと思います。この内閣というのは当面する国民の期待と課題に対してどうおこたえするかということを中心に考えて改造というものを検討しなければならぬというふうに思っておるのであって、繰り返して申しますけれども、自民党総裁選挙とは何のかかわり合いも関係もないということは明確に申し上げておきたいと思うんです。

 −− 外務大臣、大蔵大臣は引き継いでそのままという考えだということなんですけれども、横滑りということは全く念頭にないということなのでしょうか。河野外相が別のポストを要望しているようですけれども、この点については聞く耳を持たないということなのでしょうか。

○総理 十分お互いに率直な意見交換をして話をまとめていかなければならぬというふうに思っていますから、これからも三党首でじっくりそうした話はしながら結論を出していく、私としては先ほど来申し上げておりますように、自民党の総裁選挙等々の絡みは一切ないものにする。また、あってはならないという考えですから、それだけは貫き通していきたいというふうに思いますし、そういうことも含めて外務大臣と大蔵大臣は引き続き今のポストで頑張って協力していただきたいということは申し上げてあります。

 −− 橋本通産大臣の処遇というか、留任問題についてはどのようにお考えでしょうか。

○総理 私はまだ通産大臣が外国からお帰りになって全然会ってもいませんし、まだ連絡もとっておりませんから、本人の意向も聞いた上で考えたいと思いますけれども、だれをどうこうするとかいうような話は、ここで申し上げるのは差し控えたいというふうに思います。

 −− 市政クラブ、共同通信社の太田と申します。WHOや国連決議に基づきまして国際司法裁での核兵器の国際法違反かどうかという問題が今春以降審議される模様なんですけれども、首相といたしまして、被爆国を代表して何か御見解を申し上げられる意図があるのか。あるいは、あるのならどういった御見解をハーグでおっしゃられるのか。また、広島・長崎の市長さんをあるいは参考人という形で政府としてお呼びになるような意向があるのかどうかお教えください。

○総理 国際司法裁判所に陳述書を出してありますね。その陳述書に対して陳述をする機会というものが与えられておると。今、政府の方にもそういう連絡をいただいておりますから、その扱いをどうするかということについては今、検討をいたしております。

 筋としては、やはり陳述書を出しておる政府が必要があれば更に陳述をするということになると思いますけれども、広島市あるいは長崎市が経験をしたことに基づいて、核廃絶について更に皆さんの認識を新たにするための意味においても訴えていきたいということについては、私はそれなりの意味があるのではないかというふうに思いますが、ただ、そういう扱い方が可能なのかどうかというようなことについても含めて、これからやはり検討しなければならぬ問題ではないかというふうに思っております。

○総理 どうも御苦労様でした。