[文書名] 内閣改造に当たっての村山内閣総理大臣の記者会見
○総理 どうも皆さん遅くまで御苦労様です。
本日、内閣改造を行いました。振り返ってみますと、前内閣が発足して一年有余になる訳でありますけれども、政治改革から始まって行財政改革等々、戦後処理の問題も含めてそれなりの努力をし、解決をしてまいりました。
また、今年に入りましてから一月には阪神・淡路の大震災がありましたけれども、被災者の救援や、あるいは被災地の復旧、復興に取り組むと同時に、災害に強いまちづくりをどうしていくかというようなことについても取り組んできたところであります。
また、三月には地下鉄のサリン事件を始め無差別なそうした殺傷するような事件に対して徹底的な捜査を行って、安心して暮らせる安全な日本列島をつくるということに全力を注いできたつもりであります。取り分け急激な円高等々、経済不況に対してそれなりの対応をして何とか景気を回復するということで全力を挙げて取り組んできたつもりでございます。
私はそうした大きな課題について前内閣は心を一つにしながら、三党連立政権という意味も十分踏まえて、民主的な透明度の高い、お互いに信頼と協力をし合って一体となって頑張ってくれた皆さんに心から感謝とお礼を申し上げておきたいというふうに思います。
今度の内閣の改造は、そうした状況の中で参議院選挙が先般行われた訳であります。その参議院選挙に証明された国民の民意というものを十分考えた場合に、もっと景気対策をしっかりやってほしい、あるいはまた雇用の不安を解消して雇用が安定されるような施策を強力に推し進めてほしいと、そうした国民の意思というものが反映をされた。同時に、投票率が最低であったということについては、それなりの政治不信というものが証明されたのではないかということを厳しく受け止めて、そしてそういう国民の表明された意思にこたえられるような清新な、強力な内閣をつくろうということで内閣改造を行った訳でございます。
取り分け今、申し上げましたように、景気浮揚と雇用の安定と同時に、そうしたものを進めていくためには、第二次の補正予算も早期に編成をして、切れ目のない経済的な対策を講じていく。同時に、総合的な必要な対策を講じていくことによって何とか景気の回復にてこ入れをしたいというふうに考えております。
更にまた、そうした経済の浮揚を図っていくためには思い切った規制緩和、あるいはまた行政改革、取り分け情報の公開とか、地方分権とか、そうした改革を進めていくと同時に新しい経済分野を開発する。その新しい経済分野を開発することによって新しい雇用の分野も開発していくというようなことを総合的に展開していくために、これから総力を挙げて取り組むということを申し上げておきたいというふうに思います。
−− それでは幹事社の方から六問ほど質問させていただきまして、その後に各社から質問させていただきたいと思います。
まず、今回の改造につきましてですが、参議院選挙が終わった二十四日に三党首で改造を合意されて以来二週間、我々取材している立場の人間も非常に分かりにくい経緯と、それから最後の結末を迎えられた訳ですが、改めて今回の改造の目的、それからこれまでの経緯ですね。非常に時間が掛かりましたが、分かりやすく御説明いただけたらと思います。
○総理 参議院選挙が終わりましてから、それぞれ各党ともそれなりの選挙の総括をされておったと思います。そうした選挙の総括を踏まえた上でやはり人心を一新して、そうした国民の意思にこたえるためには、思い切って内閣の改造をした方がいいと、こういうそれぞれの意見もございました。
そうした三党の意見が反映をされて具体的に改造に取り掛かった訳でありますが、連立政権というのはやはりそれぞれの党の主体的な展開というものを尊重しながら、出来るだけ理解と協力を深めていくということが大事ですから、単独政権と違って若干の時間をそれぞれ要するということはやむを得ないのではないかというふうに思いますが、それなりに慎重な配慮と協議を続けながら進めてきたという経緯だと思っています。
−− 総理御自身は、当初は改造の規模を小規模にしたいというお話でしたが、最終的には主要閣僚を残して中規模な改造になりました。この辺のお考えの変化の経緯ですね。
それからもう一つ、経済問題に力を入れられるということでございますが、大蔵大臣あるいは外務大臣は一時留任に難色を示された経緯もございました。そのような閣僚を留任させてこの問題に力を入れるというのはなかなか分かりにくいんですが、その辺の御説明をお願いします。
○総理 私は当初から三党連立政権の枠組みはしっかり守っていくと。これは飽くまでも信頼関係に結ばれて連立政権というのは成り立っている訳ですから、したがってそれぞれ三党の党首は主要な閣僚を占めて、そして政権を支えていくということは前提として土台になるというふうに考えておりましたから、そのことは一貫して申し上げてきてお願いしてきた訳です。
今の質問は何でしたかね。
−− 改造の規模はどうだろうと。
○総理 改造の規模については、私はどの程度の規模にするということは終始一貫をして申し上げたことはないので、小規模にするとか、中規模にするとか、全面的に改造を行うとかというようなことについてはそれまでの経緯の中で一言も触れずに、各党の意見を十分聞きながら構想を練っていこうと、こういうつもりできたのであります。
したがって、最初からどの程度の規模にするということを前提にして進めてきた訳ではございません。
−− 続いてお伺いします。自民党の河野総裁が外務大臣を一時外れたいということを強く主張しておりましたが、これにかなり説得に時間が掛かった訳ですけれども、総裁選挙と絡んでいると思われる河野氏の対応について村山総理はどのようにお受け止めでしょうか。
○総理 私はやはり自民党という大きな政党の総裁というのは大変責任も重いし、またそれなりの仕事も抱えておるというふうに思っておりましたから、そうした重責を担いながら外務大臣という要職を務めていくことはなかなか大変だなというふうには思っておりました。そういうこともあって、私はいろいろな意見が反映されたんではないかというふうに思っておりますけれども、総裁選挙との絡みというものは全然考えておりませんし、そういう意味で大変だろうけれどもこの三党連立政権を担っていくという立場からすれば、主要な閣僚の皆さんはそれなりの立場で御協力をいただきたいということをお願いをし続けてきた訳です。
もう一つは、十一月にAPECもありますし、これまでそれなりの準備も進めてきている訳ですから、このAPECを成功させるという意味でも大事な役割ですし、同時にまた外交問題というのは継続していくということがやはり必要ですから、是非とどまってほしいということをお願いして御理解をいただいたというふうに思っております。
−− 自民党の森幹事長が今回建設大臣になった訳ですけれども、この森さんの処遇をめぐって一時自民党から総合経済担当大臣にしてはどうかという要求が出ましたり、先ほど野坂新官房長官も認めておられましたが、建設大臣のポストをめぐって自民党と社会党の間で網引き、奪い合いがあったというふうにも受け止められますが、この辺の一連の経過について御説明いただきたいんです。
○総理 総合経済担当省を置くというようなことを私は一遍も申し上げたこともないし、そういうポストを設けるということについては考えたこともありません。したがって、それはそういうふうに御理解をいただきたいと思うんです。
それから、建設大臣のポストをめぐって社会党と自民党でいろいろあったというふうなことも私は承知をいたしておりません。
−− ただ、これまでの改造の経過を見ますと、結果的に総理は自民党の総裁選挙とは絡めないんだというふうに強くおっしゃっても、結果的に改造が絡むというふうに世論というか、私どもは受け止めざるを得ないような経過だったと思うんですが、その点についてお考えを伺いたいと思います。
○総理 それはいろいろ見方はあると思いますけれども、私自身は先ほど来申し上げておりますように、この内閣改造と総裁選挙との絡みは一切ないし、これからもあってはならないというふうに思っています。内閣は国民に対して責任を持っている訳ですから、したがってその大きな責任を果たしていくためには、やはり内閣は一丸となって御期待におこたえしなければならぬというふうに思いますから、総裁選挙との絡みというものは一切ない。また、あってはならないというふうに私は思っています。
−− 幹事から最後の質問なんですけれども、今回の内閣改造をめぐってはそれぞれの党の事情が絡まって、三党の足並みの乱れが表面化して、それによって首相の求心力が低下したんじゃないかと見る向きもあるんですが、そういう見方に関してはどういうふうにお考えですか。
○総理 いろいろ見方もあると思いますけれども、これは先ほど来申し上げておりますように連立政権ですから、それぞれの党の立場と、党の運営をする上からの問題点はそれぞれ党が抱えている問題があると思います。
したがって、そういう党の主体性というものはお互いに尊重し合いながら、やはり話し合いをして、そして出来るだけ合意点を見出していくということが必要なので、どこかでだれかが決めて、そのとおり押し付けていくというような運営というのは連立政権ではなかなか成り立ちにくいので、やはり透明度を高めて民主的に協議をしながら、信頼関係で結ばれて連立政権というものは支えられていくというものだと思います。
したがって、先ほど来申し上げておりますように、若干の経過に時間が掛かることはやむを得ないのではないかというふうに思います。
ただ、話し合いがまとまらずに、最後の決断というものは最高責任者である私自身がしなければならぬものだというふうに思っていますし、これはいろいろ意見があったにしても、最後の責任と決断というものは私自身がやはりやった、やってきたというふうに申し上げておきます。
−− それでは、各社質問がありましたらお願いします。
−− 総理は久保書記長の入閣にかなりこだわったということを聞いているんですけれども、この時点で書記長がもし入閣するということであれば、参院選敗北の選挙総括ということが中途になると思うんですけれども、その辺の兼ね合いはどういうお考えでこだわったんでしょうか。
○総理 参議院選挙の反省やら責任問題というのは、一人書記長が背負うものではなくて、それは委員長も含めて役員全員が負わなくてはならぬものだというふうに思っておりますから、それはそれできちっとやはり九月に臨時大会も開く訳ですから、その臨時大会で総括をやればいいと思っています。
ただ、それと、内閣をどうつくって、社会党として国民に対して責任を果たしていくかということとはまた別の問題ですから、したがってこの際久保書記長にも出来れば入閣をして協力をしてもらいたいというふうに思って私からもお願いをいたしました。
しかし、党全体の立場を考えた場合に、御本人の判断もあって、この際はしっかり党の立場で内閣を支えていきたいということで一応今回は入閣を思いとどまったということだと思います。
−− 先ほど、建設大臣をめぐって自社の網引きはなかったとおっしゃいました。つまり、自民党に建設大臣ボストを渡すことに何のためらいもなかったということでしょうか。
○総理 何のためらいもなかったかどうかというのは、書記長、幹事長のところでそれぞれ話し合いをされてきた経緯がありますから、したがって今まで社会党が建設大臣を持っておりましたから、従来どおり建設大臣は社会党がそのままいただきたいというような話もあったかもしれませんけれども、しかし、そうぎくしゃくして網引きをし合ったというふうなことではなくて、ただ話し合いの中でお互いの理解と了解の上で決着はついたと私は思っています。
−− 今回は景気回復内閣というふうにおっしゃっているみたいですけれども、二信組問題とか、この間の信用組合の破綻、倒産といったような従来日本経済が見たこともないような、経験したこともないような問題が山積している訳ですけれども、新内閣は一体どうやって景気回復を実現しようとしていかれるのか、具体的にはっきりと国民にお聞かせいただけますか。
○総理 これは、従来から急激な円高経済対策というものを打ち出して、そしてそれを更に六月には補強し、具体的に追加すべき事項も追加をして、これまで推し進めてきている訳です。それで、これはいつも申し上げておりますけれども、思い切って上半期に公共事業を集中的に発注する。そして、一年間を通じて切れ目のないようにするために、出来るだけ早い時期に第二次の思い切った大型の補正予算も組んで、そして景気対策をやっていこう。同時に、単に景気対策をするというだけではなくて、新しい産業分野というものも開発していくということのためには、それはやはり十分てこ入れをしていくために必要な科学技術の振興とか、そういうものもやりながら、相対的に景気が浮揚出来るような対策を具体的に打っていこうという方針を決めている訳です。
それで、今お話がございましたように、バブル経済が崩壊した後、いろいろな部面に問題点が出てきていますね。例えば、今お話もありましたように二信組の問題とか、あるいはコスモの問題とか、いろいろ金融関係の不良資産の処分をどうしていくかというようなことも問題がございますね。したがって、そういう問題についても今、具体的にどう対策を講じていくかということについて検討がされておるというふうに私は承知しておりますし、そういう個々の具体的な問題についても十分対応出来るような手だてを講じていかなくてはならぬというふうに思っております。
−− 今回の改造人事は社会党内の若手の方からも年功序列ではないかとか、順送りではないかというような批判が出ているようなんですけれども、総理はどのようにお考えになられますか。
○総理 そんなことは私は考えておりません。今度閣僚に入られた皆さんはそれぞれの分野で専門的に勉強もされてこられたし、委員会での活動もされてこられた。したがって、適材適所の配置をしたというふうに考えています。
−− 同じ質問を新しい閣僚の方に何人かしているんですが、今回の内閣改造を最終的に決断された御本人として、採点するとしたら何点ぐらいですか。
○総理 生まれたばかりで何点に採点をするかより、私はお答えをするあれはありませんけれども、今、申し上げましたように清新で練達の人も含めて当面の課題に対応出来る強力な内閣をつくったというふうに考えておりますから、これからの内閣の具体的に仕事をしていく実績を待って評価をしていただきたいというふうに思います。
−− 経企庁長官に民間人を起用した訳ですけれども、具体的にどういう点を期待なさっておられるんでしょうか。
○総理 今度経済企画庁長官に就任をしてもらいました宮崎さんは、これまでも私は必要に応じてアドバイスもいただいてまいりましたし、特に民間の側にあって、言うならば政府の外側にあって、そして経済の分析やら、これから二十一世紀に向けて日本経済の展望といったような問題についてもそれなりの研究をされてきておられる方ですから、そういう立場からこの際、一体となった経済対策を推し進めていかれるような役割を果たしていただきたいと思って御就任をしていただいた訳です。
−− 今回の改造の一連の経緯から、総理のお気持ちとは逆に、政権はやや失速ぎみで、今回の内閣もせっかくつくったけれども暫定的にならざるを得ないんじゃないかという見方もありますが、いかがでしょうか。
○総理 そんなことは考えていません。これは先ほど来申し上げておりますように、当面の課題に十分こたえ得る清新な練達の人をそれぞれ適材適所に配置して改造されたというふうに確信をいたしております。
−− 総理がおっしゃる清新な内閣というキャッチフレーズと、実際の顔触れとはなかなか結び付かないんですが、この間の改造のときよりも内閣の支持率というのは上がると思われますか、逆に下がると思われますか。
○総理 支持率が上がるか、上がらないかということは、やはり具体的に先ほど来申し上げておりますように、どういう仕事をするのか、出来たのかということによって評価をされるものだというふうに思っておりますから、これは景気回復内閣、改革推進政権というふうに私は位置づけてこれから取り組んでいきたいというふうに思っておりますから、その実績によって評価をされるものだというふうに思います。
−− 専従の地震対策大臣が今回なくなりましたが、その理由はいかなるところにおありなんでしょうか。
○総理 なくなっていませんよ。それは国土庁長官が兼任をすることになっておりますけれども、それは十分やっていっていただける。大体復興もそれぞれ計画が立てられて、具体的に推進をされる段階に入っていますから、もう専任の大臣を置かなくても十分兼任でやっていただけるというふうに思います。
−− 従来から政府の危機管理というものが問われています。この新しい内閣では、その危機管理という面においてはどのようにお考えでしょうか。
○総理 危機管理というのは、私は何度も申し上げておりますけれども、阪神・淡路の地震の経験あるいはサリン事件の経験等々に学びながら、今の制度、今の法体系の中でやり得る最大の範囲というものは何かということをお互いに検討をして、そしてあのハイジャックの際などには関係の省庁の担当者が全部官邸に集まって、そして総合的にそれぞれ連携を取り合いながら正確な情報をつかむと同時に機敏に対応出来るような機能というものを確立してきたというふうに思っていますし、同時に今の法制度等でなおかつ充足をし、是正をする必要があるというようなことにつきましては防災懇談会というものをつくってそこで今、検討してもらっています。それから、中央防災計画というものも見直しをして充足をしているというふうに私は考えていますから、これからも危機管理については更に検討を加えながら十分に対応出来る体制をつくる必要があるというふうに考えています。
−− 閣僚の呼び込みの際に戦後五十年問題に対する意思統一をされたと聞いておりますけれども、この意図と、もしこれがあれでしたら閣内の論議がちょっと活性化しないのではないかという意見もありますけれども、これはいかがなものでしょうか。
○総理 そんなことはないでしょうね。
だけど、私が所信表明で述べておるというのは、閣議で決定をして所信表明で述べている訳ですから、したがってこれはある意味では閣議決定ですね。したがって、その方針というものはこれは閣僚の一人である限りにおいてはしっかり守ってほしいというのは当然の話でありまして。
−− 時間の関係もありますので、あと一問にしたいと思います。お願いします。
−− 総理、景気対策の柱である第二次の補正予算ですけれども、財政当局はどうも早くても十月下旬ぐらいになるんじゃないかということなんですが、それでは遅いと判断しますか。
○総理 第二次補正の時期をいつにするかというのは、景気の動向を見ながら、税収の問題やら、いろいろ客観的に判断をする素材がたくさんありますから、そういうものも判断をし合いながら、可能な限り早い時期にやはり出して景気のてこ入れをして、切れ目のない景気対策になるようにしていく必要があるというふうに私は考えています。
−− それでは、終わります。
○総理 どうも御苦労様でした。