[文書名] 長崎平和祈念式典出席における村山内閣総理大臣の記者会見
−− まず、地元記者団を代表いたしまして、幹事社の朝日新聞社畑中記者から御質問申し上げます。被爆者援護法が四月に施行されましたけれども、その評価についてはどういうふうにお考えでしょうか。
○総理 昨年十二月に制定されました被爆者援護法に関する御質問だと思いますが、私が政権を担ってから、今年が五十年の節目になりますし、何とか戦後未解決で残されている問題について、決着をつけたいという気持ちからいろいろな課題に取り組んできた一つの大きな課題でございました。特に被爆された方々が御高齢になっておられますし、今、申し上げましたように、被爆五十周年という節目の年でもありますから、何とかこの問題に対して御期待にお応え出来るような方向で決着をつけたいと思いまして、連立三党の皆さんに御審議をいただいた訳であります。
今日、御出席になっておられます地元出身の議員の皆さん、あるいは広島県の議員の皆さん等々は、もうそれこそ徹夜から徹夜をして、そして議論をいただいて決着を見た訳でありますけれども、これは被爆者の皆さんやら、広島、長崎の皆さんから言わせればまだまだ不十分な点は幾つかあるというふうに思われますけれども、現状から考えて、これはもう今の情勢の中で合意出来る最大の決着点ではなかったかというふうに思っておりますから、特に御理解を賜りたいというふうに私は思うんです。特に国家補償の問題ということについての厳しい要請があった訳でありますけれども、国家補償ということになりますと、一般被爆者との関係というような問題も起こってまいりますし、いろいろ問題が波及してまいりますものですから、特に放射能障害という特殊な問題に着眼をして、そして、これはやはり一般の被爆者とは違うということと、同時に核を廃絶するという国民の悲願といったようなものも内容的にある訳です。したがって、特に国の責任という言葉を全文に入れさせていただいたということであります。それから、特別葬祭給付金の支給や、あるいは、保健、医療及び福祉にわたって総合的に被爆者援護対策について更に改善を図ってきたということについては御理解を賜りたいというふうに思っております。
−− 被爆国として核兵器廃絶を今後世界にどのようにアピールしていくか、NPTの無期限延長への評価も交えながらお願いいたします。
○総理 我が国は唯一の被爆国でございますし、核兵器の廃絶に向けて着実に国際的な機関を通じて進めていく必要があるということについては、しっかり踏まえた立場でこれまで活動してきたつもりであります。昨年の国連総会で究極的核廃絶に向けた核軍縮決議案を提案をいたしました。これは圧倒的多数で採択をされました。また、全面核実験禁止条約交渉の早期妥結に向けて最大限努力をいたしておるところでございますし、旧ソ連諸国の核兵器廃棄支援等も行っておるところでございます。今後ともこのような努力を積み重ねることによって核を究極的に廃絶するという方向に事柄が進んでいくように、あらゆる機関を通じて最大限の努力をしなければならぬというふうに思っておるところでございます。
−− 長埼では被爆地域の是正拡大という問題がいまだに問題になっているんですけれども、首相はそれについて見直し問題も含めましてどのようにお考えでしょうか。
○総理 被爆地域の拡大の問題については、やはり科学的、合理的な根拠がある場合に限定して行うべきだということは、これまでもずっと言われてきておることでありますが、長崎の被爆地域の拡大問題につきましては、専門家から成る検討班を厚生省に設けて科学的評価を進めてまいりましたが、平成六年の十二月に発表されました検討班の報告書において、指定拡大要望地域においては、残留放射能による健康被害は影響はないとの結論が得られたと聞いております。したがって、そういう専門家の見解というものに照らせば、やや困難な問題がやはりあるんではないかというふうに私は思っております。
しかし、そういう地域の方々も健康診断等はやはり積極的に行っていく必要はあるんではないか。今後ともそういう問題についての検討は慎重にやっていく必要があるのではないかというふうには思っております。
−− 幹事社の朝日新聞社牧野記者です。同行記者団を代表して質問させていただきます。
八月十五日が目前に迫っているんですが、この総理メッセージについて日本の戦争責任をどのように言及されるおつもりなのか、また、戦後五十年を記念する集いが延期されておりますけれども、これをいつごろ、どのような内容で開いていかれるのかお考えを伺いたいと思います。
○総理 八月十五日に総理談話という形式で、私の、五十年の節目を迎え、八月十五日を迎えた思いを何らかの形で発表したいというふうに考えております。今その内容については詰めておるところでございますから、ここでまだ明らかにする訳にはいきませんけれども、しかし、やはり我が国の過去の行為に対する反省に立って、不戦の決意を新たにしながら未来の平和に向けて更に立ち上がっていくと、こういった思いを込めたものにしたいというふうに考えています。それから、八月十五日に何らかの記念行事を行いたいというふうには考えておりましたけれども、いろいろな意見もございまして、その日は御案内のように戦没者の慰霊祭もありますし、慰霊祭の行われた日に同時にまた記念行事を行うというのもどうだろうかといったような意見もございましたので、今、日程等については検討してもらっておりますけれども、与党三党の合意事項もある訳でありますから、何らかの形で記念行事を行いたいというふうに思っておりますが、今、三党で検討していただいておるという段階にございます。
−− 次に、昨日改造内閣が発足した訳なんですけれども、この改造内閣で緊急重要課題と言われております景気経済対策、第二次補正予算の規模や時期も含めてどのように取り組んでいかれるおつもりなのかお考えを伺たいと思います。
○総理 今の景気の動向というものを考えた場合に、何よりもやはり総力を挙げて取り組まなければならない課題は景気をよくすることだと、しかも雇用を安定させることだというふうには共通して私どもは厳しく受けとめておりますから、その取り組みをしたいと思っている訳であります。今回の内閣改造においてもその点を一番重視をして、そして、出来れば民間の方から登用して、そして民間の立場から更に検討、研究を深めた対策というものをしっかり推し進めていきたいというふうに考えてきたところでございます。
この現状に対して六月二十七日には、四月に策定しました緊急円高経済政策を一層内容を具体化すると、あるいは必要なものは追加をするというようなことも行いまして、政策を推し進めておるところでございます。言うならば、内需の振興策を始め経済構造改革の推進、雇用の安定の確保、中小企業対策、金歌システムの安定性確保、あるいは、証券市場の活性化等といったような総合的な政策を推し進めていかなければならぬというふうに思うんです。最近、日銀等を中心にして金利のコール引下げの誘導化もされておりますし、また、貿易投資の更なる自由化というようなことも推し進めてまいりまして、やや円安の傾向というものが出てまいりましたし、株もそれなりに上がりつつあるというような状況も見えつつありますから、こうしたことを総合的に推し進めていくことによって、何とか景気回復に着実な足取りが出来るような体制というものをしっかりつくっていきたいと、こう考えてこれからも全力を挙げて取り組みたいと思っておる訳です。
御案内のように、公共事業等については、上期に七五・六%を集中的に発注をすると、そして景気に刺激を与えていくというようなこともとってまいりました。したがって、可能な限り早い時期に第二次補正予算も編成をして、そして年間を通じて切れ目のない経済対策が講じられるような方策をとっていく必要があるんではないかというふうに思っておりますが、補正予算の編成の時期等につきましては、景気の動向やら、あるいは財政需要の状況やら、税収等々もやはりしっかり踏まえた上で編成をしていく必要があるというふうに思います。今、その作業も掛かっておりますけれども、可能な限り早い時期に出来るようにしたいと、切れ目のない景気対策というものをしっかり推し進めていきたいというふうに考えておるところであります。
−− 次に、昨日改造をめぐりまして社会党の久保書記長が入閣を断られまして、新党結成に全力を傾けるという立場を明らかにされました。社会党ではまた九月に選挙を総括する臨時党大会もございます。総理が積極的に新党さきがけとの連携を評価されておりますけれども、こうしたことも踏まえて今後の新党づくりへの影響と展望を御教示願えないでしょうか。
○総理 私はこの社会党全体が三党の一つの党として今の連立政権を支える大きな役割を担っておるということについて、これまで党の書記長の要という立場に立って重要な役割を果たしてきておられます久保書記長を出来れば入閣をして、内閣を一層強化していきたいという立場から要請もしてまいりました。
しかし、やはり何といっても政権を支える党の役割と任務というものは極めて大きいものがありますし、特に社会党の場合には首班を出している訳です。したがって、ある意味では三党の中心的な役割も果たしてもらわなければならぬという党の立場を考えた場合に、その役割を重要視する必要もあるというようなことをあらゆる角度から検討した結果、更に党にとどまってそういう役割を果たしてもらうということになった訳であります。
今度の参議院選挙の総括も踏まえまして、私は以前から今の社会党をもう少し幅を広げた、リベラルな層も大きく結集出来るような、そういう基盤を踏まえた新しい党をつくる必要があるというふうには考えてまいりましたし、そういう方向というものは党大会でも既に決定を見ている訳です。
したがって、一番考え方の近い新党さきがけ等と連携を深めながらそういう議論も積み重ねることによって、これから新党を目指していくお互いの協力関係というものもしっかりつくっていきたいというふうに思います。私は、やはり今の世界全体の政治の状況やら、あるいはヨーロッパの国々の状況等々を見た場合でも、そういう意味におけるリベラル層の桔集というのは、一つの大きな時代を担う力になっていくんではないかと、そういう力になり得るような新党というものを目指して私どもは考えていく必要があるというふうに思います。したがって、これからもそういう考え方に立ってやっていきたいというふうに思っていますし、九月には社会党の参議院選挙の総括も踏まえた臨時大会も開くことになっておりますから、その大会でも十分議論して、更に具体的に新しい党を目指して進んでいける方針というものをしっかり確立していきたいというふうに思っています。
−− 地元記者団を代表しまして、朝日新聞社の畑中記者さんの方からも一問お願いします。
−− アジアを中心として日本の軍備については非常に関心が高まっている時期なんですけれども、核兵器を保有しないという決意を示して非核三原則を法制化するお考えは今後ございませんでしょうか。
○総理 非核三原則というのは、これはもう戦後一貫して国の国是として鮮明にしてきていることでありますし、世界中が日本の非核三原則というのは認めてきているというようなこともございますから、それを法制化するというよりも、むしろその非核三原則に立って国際的に核軍縮を進め、核のない世界をどうつくっていくかと、核を廃絶するという方向に更に日本の国が呼び掛けて努力をしていくと、先導的な役割を果たすということの方がむしろ大事ではないかというふうに思っておりますから、そういう考え方に立ってこれから更に努力を積み重ねていきたいというふうに思っています。
○総理 どうもありがとうございました。