[文書名] アジア防災政策会議開会式出席時の村山内閣総理大臣の記者会見
○総理 今年の一月十七日に突如襲いました阪神・淡路大震災を踏まえ、私はコペンハーゲンにおける国連の会議の中で、是非アジア地域を中心とした防災に関連をした情報の交換や防災の予防、被害を最小限に食い止める等々について、協力をしていけるような会合を持ちたいと提案をいたしまして、今日それが実現をいたしました。今日、明日、それぞれの国々から参加をいただきまして、政策会議を開くことになりました。
せっかく参りましたので、あいさつが終わった後、神戸港の復旧・復興の現状、仮設住宅に住まれておる皆さん方の状況、それから震災で父親やら母親らを亡くされた遺児の皆さんにお会いしてまいりました。
やがて一年を経過しようとしている訳ですけれども、市全体としては復興の兆しが見えておるというふうに思いますし、皆さんも生活の立て直しをしようという努力もされていると思います。
政府としても、これまで六年度の第二次補正、七年度の第一次、第二次の補正等々を加えて三兆三千八百億円という予算を計上して、復興について地元の県や市と十分連携を取り合い、この難局を乗り切って復興を図りたいという決意で、内閣の大きな課題として全力で取り組んできたと思っております。いよいよ復興が緒についたというところでありますから、むしろこれからの方が大変だというふうに思いますので、そういう点も十分踏まえた上でこれからも全力を挙げて頑張っていきたいというふうに思っております。
−− 最初に地元の県政記者クラブの幹事社、朝日新聞社さん、よろしくお願いいたします。
−− 朝日新聞の川野と申します。
まず、震災後からこれまでの政府の対応で行き届いていると感じる点、または不十分で反省すべきだと考えられる点を具体例を挙げて自己評価をしていただきたいということと、今日の視察を踏まえて、被災地の現状をどういうふうに認識されているのか。それと、先ほどのあいさつでアジア地域における防災センター機能の創設みたいな話もありましたが、間近に控えた大蔵原案の内示を控えてどのような態度で被災地対策をされていくおつもりなのか、その辺をお聞かせください。
○総理 阪神・淡路大震災から受けた教訓は、大変大きなものがあると受け止めています。これまでやってきた特徴的なことを申し上げますと、一つは激甚災害の指定というものは、被害の実態というものがある程度つかめないと、なかなか指定が行われないと。最低三か月くらいは掛かる。今回の場合は一月の二十五日に激甚災害の指定を行って、必要な対策は直ちに行う、こういう判断からいち早く指定を行った。もう一つは、一番お困りになるのは、仮設住宅をどう充当して、住まいをつくっていくかということが大事ですから、仮設住宅に着手をした。
それから、一番難題はがれきの処理です。これは公的な助成を入れ、公の力でもって処理をしなければできないという判断に立って、公的な助成も出して、仮設住宅とがれきの処理に全力を挙げてきた。
それから、阪神・淡路の震災復興基金というものを兵庫県なり神戸市がお作りになっておりましたから、それに対して国も力を入れ、そして今の法制度や仕組みでは出来ないようなことについて、いろんな要求がある訳でありますから、そういう要求に応えられるような手立てについてもやってきたつもりであります。
一番感じましたのは、この阪神・淡路の大震災が起こった、緊急に必要な手が打てたかと。これは私はやはり危機管理面では欠ける点があったということを率直に認めざるを得ないと思います。震災を受けた現地の被害の状況というものが正確になかなかつかめなかった。正確な情報がつかめなければ、緊急に必要な対応、手立てというものはなかなかできにくいということもあります。そういう点はやはり率直に反省をし、この教訓に学んで、基本法の見直しを行うとか、あるいは災害対策基本法の懇談会を作っていただき、あらゆる角度から検討していただいて、この臨時国会で法案も成立させた訳でありますけれども、そういう点では学ぶ点がたくさんあったと。こういう災害が起こった場合に緊急に対応できるために、まず官邸が正確な情報を把握をする。そのためにいろんな資料を動員して、情報の把握ができるようにきちっと整備しておく。
同時に民間の皆さんからも、例えば電力会社とかあるいはガス会社というようなところもそれぞれの施設を持っている訳ですから、そういうところから情報の提供もいただいて、緊急に情報を正確につかむ。それに対してばらばらでなくて、内閣が一体となって対応できるように、官邸の各省の担当者が全部集結をして、そこで総合的にお互いの連携を取った立場で対応ができる仕組みをしっかり作ろうということもやってきた訳であります。そういう点では大変学ぶところがあったと考えています。
今度の阪神・淡路大震災のために必要な十八の特別立法を制定した訳です。この特別立法と申しますのは、今までの制度や仕組みではできなかった面でも、必要なものについてはこの際やろうというので、政策の充実を図っていく、施策の充実を図る。それに対応して必要な財源は補填をしていく。こういうことをやってきた訳ですけれども、そういう面では、可能な限りのことは手を尽くしてきたというふうに言えると思います。現地の皆さんから言えば、もっとこうやって欲しいとか、もっとこういうふうに手を打って欲しいとか、いろんな要求はあると思いますけれども、今の情勢の中で可能な範囲の手立ては講じてきたというふうに思っております。これからまさに復興に入る訳ですから、経済をどうするかといったようなことから考えますと、これからの方が大きな課題を抱えていくのではないかと思います。地元とも十分緊密な連携を取って、そして県、市、市町村、あるいは国が一体となって復興が進められていく手立てをしっかりやらなければならぬというふうに思っております。
−− 被災地の現状についての認識をお聞きしたいんですが。
○総理 早く自分の家に住みたいという気持ちがやっぱりおありになる。ですから、仮設住宅というのは、二年間という期限がある訳ですから、その間にできるだけ早く自分の家に住めるような状況をどう作っていくかと。お年寄りで、なかなか自力では家はつくれないというような方もたくさんおられると思いますから、そういう方々には可能な限り公営住宅を提供できるような考えをしっかり立て、早くそうした生活の基盤ができるようにしていく必要があると思います。
それから、やっぱり経済の活力を与えていくことは大事なことです。産業をどう残していくかについても、経済界の皆さんに元気を出していただいて、県や市、国とお互いに力を合わせて産業の立直しのために取り組んでいく必要があると思います。
政府は先ほど申し上げましたような経過の中で、復興委員会の意見や提言、あるいは地元の県や市の要望等も受けて、この大震災に対する取り組み方針というのを決めましたけれども、その取り組み方針の中には三つの柱をつくっている訳です。生活の再建、経済の復興、安心できる市街地を作るという三本の柱を立てて、これからの施策を推し進めていこうと。これは八月に内閣で決めた訳ですけれども、そういう方針に基づいて、来年度予算の編成に向けても努力していきたいと思います。
それから、先ほどお話がございましたアジア全体の防災の政策をどうこれから推し進めていくかというようなことについて、出来れば防災センターというものも考えていく必要があるのではないか。そして、これだけの経験を学んだ訳ですから、それを日本だけのものではなく諸外国とも交流し合って、全体として防災に取り組めるような体制を国際的に作っていくことも大事なことではないかと。むしろこれは日本が提唱して、積極的に進めていく課題だと考えており、そういう取組みもこれから強化していきたいと思います。
−− 地元の復興計画を実現するに当たって、兵庫県は特別債の発行などを求めていますが、政府としてこの財源不足にどう対応されていこうとしているのか。
○総理 やっぱり大きな課題は金が掛かる訳ですから、その財源をどうするかということが一番大きな課題になると思います。例えば、住宅をつくる場合、あるいはまた区画整理を行うとか、あるいは市街地の再開発事業を行うというような場合に、従来と違った意味で補助の対象範囲を広げていくということもやっております。
起債して財源を賄うということになりますと、借金は増えていく訳ですから、その起債分については元利の償還について、交付税でもって後で補填していくようなことも十分考え、少なくとも復興計画が金がないために支障を来たしたということがあってはならないと思います。そういうことの起こらないように手立てをしっかり講じていくということが大事ではないか、十分皆さんの期待にお応えできるようしっかりやっていきたいと思います。
−− 新党結成問題と、解散総選挙問題、この二つなんですが、新党結成問題については三点ほどありますので、お答えを賜りたいと思います。
まず、新党結成大会をどういう手順でいつごろを目途に行うお考えなのか、久保書記長が新党決定の先送りで辞意を固めたというふうに報道されていますが、総理はこの問題についてどうお考えになるのか。委員長公選について御出馬する考えがおありになるのか。衆議院の解散・総選挙問題ですが、この時期はいつごろをお考えになっているのか。今後の政権運営、政局の見通しを含めてお答えしていただきたいんですが。
○総理 新党結成の時期について、これは予測はできません。新党をつくるためとか、あるいは第三極を担う政党とか、そういう言葉は使ってない。何故使わないかと申しますと、新党に対する考え方は、これから力を合わせてやろうというメンバーの中でもいろいろ違う訳ですから。私が申し上げておるのは、今の政局の動向を考え、やっぱり平和を大事にする、民主主義を大事にするといったような不変的原則をしっかり踏まえた立場で、これからの時代を担い得るもう一つの政権を担う党があってもいいのではないかと。そういう党を目指してお互いに力を合わせて頑張ろうということが一つ。
もう一つは、そういう志を同じくする者が、ばらばらであっては、これはもう勝てない訳ですから、十分意見の交換をしてどういう方法があるのか、どうすることが必要なのかというようなことについて、できれば年内に話合いを持ちたいと。そういう話合いの中から、お互いの知恵を出し合って、一定の方向を見出してくれれば、その方向に向かってお互いに協力していくと。
新党というものが、そう簡単に右から左にできるとは思っていません。そういう議論の経過を踏まえながら、国民の皆様にもどういう議論をして、どういう政党をつくろうとしておるのかというようなことが分かるような形の中で、新しい党が生まれてくるということが必要だと思います。時間は相当掛かるというように思いますけれども、必要な協力体制ができていけば、それなりの役割を果たしていけるのではないか。そういう積上げの上に、お互いに、もうここらでひとつ新しい党に結集しようではないかというような意見になってまとまれば、それはまたそれでいいんではないかというように思っております。そういう努力をたゆまなく、一生懸命、誠心誠意やっていくことが今は必要なときではないかと考えています。
それから、書記長の話ですけれども、これは私は全然そんなことは聞いておりません。これまでどっちかと言いますと、党の方は書記長にお任せをして、書記長が一身に担って苦労してやってこられたというように思います。その書記長の心境は分からぬでもありません。しかし、こういう時期ですからね。お互いに十分話合いをして、そして結論を出していきたいというように思っております。私が委員長に出るとか出ないとかいう問題も含めて話合いをしていかなければならぬと思っています。
それから、この神戸市の復興等も含めてお話がありましたけれども、当面、何としても景気をもう少し浮揚させて、今のような先行きが不透明な状況から日差しが差してくるような、来年はそういう年にしなければならぬと考えています。せっかく上向きつつある景気の動向に対して手を打って、そして景気浮揚というものを真っ先に力を入れてやらなければならぬというふうに思っていますし、そのためには今の金融関係の不良資産の処理の問題や、あるいは規制緩和の問題、あるいは、これから日本がどういう分野に新しい産業を開発していくのか。情報通信とか、科学技術とか、そういうものを創造していけるような、そういう経済構造を改革をしていくということも、私はやっぱり当面の大きな課題だというふうに思っております。
それから、大地震やら、あるいはサリン事件やら、いろいろ今年は事故や事件がたくさんありました。そういう事件や事故に対して国民の皆さんが不安に思っておられる。その不安を可能な限り解消して、そして、安全で安心して暮らしができるような、そういう基盤をしっかり作っていくということも、一つの課題ではないかと。取り分けいじめの問題等もありますから、私は教育問題についても、単に学校の教育というだけではなくて、社会全体が真剣に教育問題というものを考えていくような教育改革というものも、課題として大事なことではないかと思っております。
それから、これから日米安保条約、安保体制というものをどういうふうに見直しをしていくのかとか、あるいはまた、アジア全体と日本の国のかかわり合いというものはどうあるべきかとかいうような問題も課題としてあると思いますし、先般APECがあった際に、私は人口問題や食料問題や環境問題、エネルギー問題等々、地球規模でもってこれから取り組んでいかなければならぬ課題についても、日本は先進国としていろんな経験を積んでいる訳ですから、そういう点も大いに国際的に果たす役割があるのではないかと。そういう役割を担っていけるような国にしたいものだというふうに考えております。全力を挙げて取り組んでいかなければならぬと。そういう課題を抱えているときだけにですね。私は今は解散を云々するべき時期ではないと思っております。
−− 久保書記長の件とダブってしまったんですけれども、委員長公選に御出馬するお考えがおありになるのかということを改めてお伺いします。
○総理 これは定期大会ですから、党全体の役員の改選が行われるということになります。委員長というのは、規約で党員、支持者が全員で投票するという仕組みになっておりますから、これは早く態度を決めなければならぬのですけれども、役員全体の構成をどうするかということとも関係がありますから、書記長等とも十分話合いをして結論を出していきたいと思っています。
私は新党の党首になる意思はありません。このことは再三申し上げておるところです。新党はこれから新しい時代を担っていく党になっていく訳ですから、新しい指導者によってやっていただいた方がいいだろうと。そういう舞台作りやら縁の下の役割は、我々が十分やらなければならぬ。こういう気持ちでおる訳です。
ただ、今度の場合には、新党でなくて社会党がそのまま改革されていく訳ですから、それをどうするかについては、全体の在り方の中で相談をして結論を出していきたいと考えています。どうもありがとうございました。