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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 住専対策に関しての村山内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1995年12月20日
[出典] 村山演説集,804−813頁.
[備考] 
[全文]

〇総理 夜分、大変恐縮に思いますけれども、先ほど閣議で決定をいたしました。この際声明を出すという話もございましたけれども、文章で出すよりも、自らの言葉で語った方が御理解がいくのではないかということもございまして、記者会見を行うことにいたしました。御理解をいただきたいと思います。

 いわゆる住宅金融専門会社七社のバブル崩壊後の不良資産の処理についてどうするかということで、春ごろからその住専に関係した団体、企業、それから政府与党等で真剣な検討と協議を今日まで続けてまいりました。

 その結果、我が国の金融システムについて、国内外の信頼を回復すると。同時にまた、景気対策上からもこれ以上先延ばしをすれば、更に傷口を大きくし、金融界の混乱を招きかねないということから、最終的にぎりぎりの苦汁の選択として、多額の公的資金を導入せざるを得ないという結論に達したことについて、国民の皆さんの御理解をいただきたいということでございます。

 ただ、あのバブルのときに、言うならば不動産会社等が行った経緯について、何ら明らかにされないまま、負担だけが国民に押し付けられるというのでは、国民の皆さんの納得もいかないし、御理解を得られないだろうと、私はそのように思います。したがって、債権の回収については、これから全力を挙げて取り組んで、民事、刑事上の法に触れるような問題があれば、徹底的に追及もして、債権の回収に努めることは勿論であります。同時に、住専がこういう不良資産を抱えて破綻に追い込まれた経緯について、貸し手、借り手を含めて、その責任は徹底的に追及されなければならないし、その全容は国民の前に明らかにされることは言うまでもないことだと思います。それは政府の責任においてこれからも全力を挙げて取り組んでいくつもりであります。

 そのために、これを処理する機構として、預金保険機構の中に特別の部門を設けて、刑事、検察、税務、あるいは不動産の専門家等も動員をして、そういう全容解明と、責任の明確化について徹底した取り組みをやっていくつもりでございます。

 こういう結果になったことにつきまして、国民の皆さんの御理解と御協力を、誠に申し訳ありませんけれども、心からお願い申し上げたいと思います。

 以上です。

 −− まず、幹事社から三点、質問いたします。

 今、総理は借り手責任、貸し手責任に言及されましたが、もう一つ、金融当局の監督責任、とりわけ大蔵省の責任問題について、総理はどこまでどうするつもりなのか。

〇総理 これは、これまでのバブルが発生をして、バブルが崩壊するまでの過程において、私は政治上の責任、あるいは行政的にやってきたことについて問いただしてその責任はやっぱり問わなければならぬというふうに思っております。

 −− 次の質問ですが、今回の処理策では、母体行、一般金融機関、農林系金融機関と負担割合が示されていますが、農林系金融機関の負担が軽いように思われます。この点について、何故この負担割合になったのか、御説明いただきたいと思います。

○総理 これは関係者の間でぎりぎり、どこまで負担が出来るのかと、可能なのかということについて詰めた話し合いをしていただいた結果であります。

 今申し上げました、発表されておりますような配分の割合になったということについては、御理解をいただきたいと思います。

 −− 今回の一次分だけではなく、将来的に第二次分と言われる損失が生じる可能性が指摘されております。今回その扱いをはっきりせずにおきましたが、将来的に更に公的資金を導入する可能性も出てくると思うんですが、この点については総理はどのようにお考えですか。

〇総理 先ほども申し上げましたように、あらゆる手段を尽くして、債権の回収を行うと。そして、これ以上の不良資産が出ないように全力を挙げて取り組まなければならぬということは言うまでもないことでありますけれども、事の、事態の推移によって、そうした問題が仮に起こるとすれば、起こった時点で何らかの対応を検討せざるを得ないと思います。

 −− 何らかの対応とはどういうことですか。

〇総理 それはやっぱり、そのときの処理をどうするかということについて検討して、解決をせざるを得ないというように思います。

 −− 国民の理解という点ですけれども、住宅専門金融会社は一般の事業会社です。それは大分県の臼杵の中小企業や、それと一緒だと思うんです。総理は、そういう中小企業の方、不況の中で大分倒産しています。そういう企業の方にどんな御説明をなさるおつもりですか。一般の会社と同じなんですね。連鎖倒産に財政資金が出たことがありますけれども、連鎖倒産を防ぐために、最初の倒産に財政資金が投入されたというのは異例のことだと思うんですけれども、国民にどんなふうな御説明をなさるおつもりですか。

〇総理 今、御質問がございましたように、そういう一般の国民の皆さんや、あるいは中小企業の皆さんの置かれている実態というものを考えた場合に、そういう怒りの声があることは私は当然だというように思います。これはやっぱり民間の企業がしでかした不始末ですから、したがって、民間企業自らが解決しなきゃならぬことは申し上げるまでもないことなんです。

 しかし、先ほど来申し上げておりますように、国際的に日本の金融システムが問われているということやら、今の景気の動向について、金融というのはある意味ではやっぱり動脈的な役割を果たしている訳ですから、その秩序をしっかり回復して、金融に対する信頼というものを確立する必要があるということから考えますと、今の日本経済の状況というものを検討した上では、これ以上先延ばしをすれば傷口が大きくなって混乱が大きくなるだけだということを考えた場合に、私はぎりぎりの苦汁の選択をせざるを得なかったということについて、なにとぞ御理解をいただきたいというふうに思います。

 −− 冒頭の質問にも関係いたしますけれども、農協系への配慮ですね。その点お尋ねしたいんですけれども、農協の貯金者、小口の貯金者を守るのであれば、預金保険同様に、貯金保険機構というのがある訳ですね。そこを通じて小口の貯金者、農協に貯金している人を救えば済むはずであって、農協のそういう貯金機構に対して財政的な支援なり、日銀の特融をすればいい話であって、事業会社に、しかも農林系に優遇して、こういった負担の割合をお決めになったということを国民の前に説明していただけませんでしょうか。

○総理 これはやっぱり零細な農家の皆さんの上につくられている金融機関ですから、したがって、やっぱりそういう金融機関の力の限界というものがある訳です。能力の限界というものがある訳です。したがって、これを破綻に追い込むようなことをやっても、それは大変な大きな課題になる、問題になるというふうに思いますから、それなりにぎりぎりの負担を求めて出た結論だというふうに御理解をいただきたいと思います。

 −− 木津信用組合とかコスモ信用組合とかは破綻に追い込んだ訳ですけれども、どうして農協については破綻に追い込めないのかと、率直な質問があったと思うんですが、これはどうですか。

○総理 ですから、先ほど申し上げましたように、零細な農家の皆さんの仕組みの上につくられている金融機関ですから、したがって、それなりに社会的な役割も果たしておるし、農家の皆さんの立場を考えた場合に、破綻に追い込むようなことは、政治上困難だという判断もあります。

 −− 政治上というのは、選挙を意識されているということですか。

〇総理 いや、選挙というよりも、やっぱり農業というのは国民の食料を確保している、安定的に供給している大事な産業ですからね。したがって、農業を守るということに立てば、その金融システムが破綻に追い込まれていくことが農政上いいかどうかという政治上の判断はせざるを得ないというように私は思います。

 −− 一般の金融機関の預金者と農協と、どう預金者は違うんですか。

〇総理 ですからね。これは一般の預金者に負担を求めるというんでは、これはやっぱり筋は通らないと思います。ですから、金融というのはやっぱり金融秩序を回復をするということと、預金者を保護するということによって信頼度が増してくる訳ですから、したがって、これからは金融機関のディスクロージャーももっと徹底をさせて、そして、やらなければならぬと思いますし、改善をしなければならない点はこれからも多々あるというように思いますが、そういう点も真剣に取り組んでいかなければならぬというように思っております。

 −− 総理、ディスクロージャーという話が出ましたが、信連以下の農協系統、それぞれの経営の中身それ自体をディスクローズしていくお考えがおありでしょうか。と言いますのは、今までの一連の質問の中でもそうなんですけれども、住専問題と我々言いますけれども、その大部分が国民の大きな血税の割合が、直接の貸し手である農協系統の負担部分よりも大きいという現状を踏まえてみますと、これはどうも農協救済対策であると。そうであれば農協が、あるいは農協系統の金融機関がどれだけ困っているのか、どういう状況で農協の金融機関の負担をこれだけ減らして、国民の血税をそそぎ込まなきゃいけないのか、その辺についてどこまでお考えか。

○総理 ですから、先ほど来申し上げていますように、この住専問題に絡むいろんな関係する皆さんの全容というものは、やっぱり解明しなければならぬと。そして、改善する点は徹底的に改善を求めるということは当然だと思いますから、その過程において農協系の信連等の在り方についても、やっぱり明らかにされていかなければならぬというふうに私は思っています。

 −− 全容を国民の前に明らかにするという時期はいつごろですか。

○総理 これは、その処理機関が出来て、そして、債権の回収を行うとか、あるいはこれから調査も始める訳ですから、徹底した調査も。その調査の中を通じて全容は暫時明らかにされていくものだというふうに思っています。

 −− 先ほど農協の負担があれでぎりぎりだとおっしゃいましたけれども、だれがあれでぎりぎりだと言っているんですか。どうしてあれでぎりぎりだというふうにお分かりなんですか。

〇総理 それはこれまでの真剣の話し合いの結果によってですね。そういう判断をした訳ですからね。

 −− 何を守るためのぎりぎりなんですか。お金はうんと出せますよね。どうなっちゃいけないんですか。

〇総理 いや、それはね。農協、信連、系統機関ですね。農業の系統機関の、今の能力から考えて、これ以上の負担はもう無理だというぎりぎりの判断をしたと。

 −− それはだけど、資産を処分すれば出来る訳でしょう。だから、何を守って、あれがぎりぎりなんですか。

〇総理 ですから、さっき言っていますように、やっぱり農業の系統機関ということですね。破綻に追い込むことは農政上も大きな問題になるというふうに私は判断をせざるを得なかった。

 −− ということは、あれ以上出すとつぶれるということですか。

〇総理 そうですね。混乱が大きくなると。

 −− ということは逆に言うと、今回のことで農協系の金融機関は一切倒産に追い込まなくていい、整理、統廃合をしなくてもいいということですか。

○総理 いやいや、ですから、これからその全容が明らかになるにしたがって、その在り方についても徹底的にやっぱり解明されてですね。改善しなければならない点は改善を求めるということは当然だと思います。

ーー つぶすべきところはつぶすということですね。

○総理 いや、それはつぶすというんではなくてですね。これは改善をさせた上で立て直しをしていくということだと思います。

ーー 全容を明らかにするのは、何の全容を明らかにするんですか。農協系金融機関の経営の中身も明らかにするんですか。

〇総理 住専がこういう事態になった、その経緯というものを明らかにするんですね。そうすると、例えば母体行とか、あるいは一般の銀行とか、あるいは系統機関とかいうものが、どのようなかかわり合いがあって、どういう不良資産を抱えるようになったのかという経緯も明らかにしなければいけませんよね。その明らかにされる経緯の中で、法的に問われるような問題があれば、これはもう民事、刑事を問わず徹底的に解明をして追及していくと。その責任を明らかにしていくということでありますから、したがって、そういう過程を通じて、今ある金融機関、あるいは系統機関等々について改善を必要とするような点については徹底的に求めて改善してもらうと。

 −− それはだれの責任で、どの場でもって、どういう時間を掛けてやるんですか。

〇総理 それはだから政府の責任においてやらなければならぬでしょう。

 −− 政府の責任で、どこでやるんですか。その結果を国会に提出するということですか。

○総理 国会の中でも恐らく、今日も与党の中で話がありましたけれども、特別委員会が設置をされて、この問題は撤底的に全容解明のための審議をする必要があるという話もありましたけれども、そういうことになろうかと思います。

 −− というと、政府が調べて国会の特別委員会に資料を提出するということですね。

○総理 ですから、それは国会で審議の過程の中で、求められれば出さなければならぬでしょうし、当然だと思います。問題は、やっぱり全容を解明して、国民の皆さんによく理解していただくということが大事なんで、これは公的資金を導入する訳ですから、国民のやっぱり納得と理解を得なければ出来ないことですから、そのための最大限の努力はする必要はあるし、そのために問われるべき責任はきちっとやっぱり問われて、果たす必要があるというように私は思いますから、それは徹底的にやるということを申し上げている訳です。

ーー しかし、住専問題が起きたのはもう三年前ですね。一年総理大臣をやられて、今、どこに問題があると思われますか。例えば行政責任というのはどういうところに、どういう問題があると思いますか。

〇総理 それは結果から見ればですよ、結果から見れば、あのときにもっとこうすればよかったとか、ああすればよかったとか、いうようなやり方について、反省しなければならぬ点もあるだろうし。

 −− それはどこですか。

○総理 責任を問われる問題もあると思いますよ。ですから、そういう点も私はやっぱりこの経過の中で明らかにしていかなければならぬ課題だというふうに思っています。

 −− 今後は個別の問題について、不良債権の内容を明らかにするお考えはありますか。

○総理 これからやはりそういうことは問われていくんじゃないですかね。そういう点は解明していかなければ、国民の理解は得られないと私はそういうように思いますから、それは当然明らかにする必要があるというように思います。

 −− 先ほどから金融システムの安定、安定とおっしゃっているんですけれども、住専の処理がこういった公的資金を投入しないで、倒産という手続になった場合に、金融システムが揺らぐという考えだと思うんですけれども、どんな金融システムの揺らぎが出るんですか。中小の金融機関のどんなところが倒産するという金融危機が起きるんですか。そういうふうなことをはっきりね、この処理をそのままにしておけば、こんなことが起きるんだと。それは具体的な銀行の名前を挙げるとは申し上げませんけれども、こういう事態なんだということを大蔵省から報告を受けていらっしゃるんですか。そういうことを国民の名前で、こういう危機が起きるんだということを御説明にならなければ納得出来ないと思うんです。金融システムの安定という、一見美しい言葉ですけれども、どういう事態が起きるかということを御説明にならなければ、国民は財政資金の投入ということに理解を示さないと思いますけれども、いかがでしようか。

〇総理 やっぱり民間の金融機関というのは株式会社ですからね。その背景には株主もある訳ですね。そして、株主から訴訟を起こされるとかですね、そんな事態も起こり得るかもしれませんよ。そして、また、お互い同士で訴訟し合うというようなことも起こるかもしれませんね。ですから、そういう意味では混乱は拡大するだけだと。しかも、時間を先延ばしすることによって、傷口を更に大きくしていくことになるということを考えた場合に、私はやっぱり、今求められておるのは、これはぎりぎりの判断として、ここらで決着をつけて、そして、始末をする以外にはなかったということについて御理解を賜りたいと思います。

 −− 株主が訴訟を起こすというのは、混乱なんでしょうか。株主の当然の権利でありまして、株主代表訴訟が日本に導入されたのは世界的なそういうルールを日本に導入するという思想の下に入れている訳ですね。今の御発言はちょっと・・・

○総理 それは株主の当然の権利ですからね。訴訟を何も拒む必要はないという意見もあると思いますけれども、しかし、今のような日本の景気の動向の中で、そういう混乱が起こることは、私は景気の対策上、好ましくないというふうに判断をしている訳です。

 −− 各社、あと一問ということでお願いいたします。

 −− 先ほど行政上、政治上の責任を厳しく追及していくということを言われたんですけれども、これは政治家の責任も含めて追及していくということですか。

○総理 この経緯をやっぱり問いただしていくということになって、そして指導上の問題とか、あるいは行政上反省する点はどこにあるのかということやら、仮に法に触れるようなことがあるとすれば、その責任は問われなければならぬということは当然だと思います。

 −− 民間金融機関の経営トップ、社長とか頭取とか、あるいは系統金融機関のトップも経営責任というか、具体的には辞任すべきだという声も与党内にあったようですけれども、その辺りについてはどのようにお考えですか。

○総理 それはこれから調査が進むにしたがって、そういうトップの責任というものが問われれば、当然退職も求めなければならぬだろうし、同時に自ら補填をするというようなことは必要があればしっかりやってもらうということも当然のことだと思います。