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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 村山内閣総理大臣による平成八年の年頭所感(記者会見)

[場所] 
[年月日] 1996年1月1日
[出典] 村山内閣総理大臣演説集,351−366頁.
[備考] 
[全文]

○総理 新年明けましておめでとうございます。御家族おそろいで元気で元旦を迎えられたことと思います。

 また、阪神・淡路の被災者の皆さん、仮設住宅に住まわれている皆さんには新年をお迎えになられた上で、誠に御苦労をお掛けしていると思います。

 新しい年の始めに当たりまして、私の率直な気持ちを申し述べて、新年のごあいさつを申し上げたいと思います。

 振り返ってみますと、三党連立の村山内閣が発足をしましてから、早くも一年半が経過をいたしました。ことに昨年は、「戦後五十年」の節目の年でもあります。まさしく多事多難、過去五十年に蓄積されたさまざまな問題や矛盾が一挙に吹き出したような年でもございました。

 年明け早々には、阪神・淡路大震災に見舞われ、都市と防災、危機管理の問題が提起をされました。

 地下鉄サリン事件を始めとする過去に例を見ない凶悪な犯罪や陰湿ないじめの問題は、宗教と社会や政治のかかわり、若者の生き方と教育の在り方、経済至上主義や効率第一主義に対する反省など、多くの根の深い問題を私たちに改めて提起をいたしました。

 また、急激な円高や景気の足踏み、巨額の不良債権の処理問題などをめぐって、戦後の我が国の発展を支えてきた経済社会の構造にさまざまな制度疲労が生じていることも明らかにされてまいりました。

 特に雇用面では、若い方や女性の就職難をはじめとして皆さんにとって厳しい事態が続いております。

 そして、高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故を始め、改めて原子力開発の安全確保と事故への対応の仕方について、反省を迫られました。

 更に、沖縄での不幸な事件は、冷戦後の日米安保関係や米軍基地の在り方について、国民的な議論が行われる重要な契機となりました。

 また、東南アジア、中国、ロシア、朝鮮半島など、我が国の周辺で時々刻々と変動する政治・経済・軍事情勢などによって、我が国が複雑な国際社会の中で、これからどのように生きていくべきかを考えさせられる一年でもございました。

 こうした状況の下で、私は、阪神・淡路大震災からの復旧・復興、切れ目のない経済対策の実施、行財政改革の断行などに、真正面から懸命に取り組んできたところでございます。

 我が国経済は、このところ、個人消費や民間設備投資などに緩やかな回復傾向が見られるようになり、ようやく、明るい兆しが見えてまいりました。

 また、被爆者援護法の制定、水俣病問題の解決など、戦後の長きにわたって懸案となっておりました諸課題に区切りをつけてまいりました。

 更に「戦後五十年」のけじめとして、我が国の過去に対する歴史認識と新しい時代を展望していく姿勢を明らかにするため、八月十五日の私の談話を発表し、諸外国から積極的な評価をいただいたところでございます。

 私は、これらのいずれにつきましても、この連立政権にふさわしい役割を果たすことが出来たものと思っております。

 さて、皆さん、私たちは、今後「戦後五十年」を終えて、「次の五十年」の出発点に立っております。

 昨年一年間を通じて得られました多くの教訓や反省に立って、将来の展望を切り開いていくことが、私に課せられた課題であると思います。

 まず、私は、国民の皆さんの御理解と御協力をいただきながら、国を挙げて「構造改革」に取り組み、自由で活力あふれる経済社会を創造してまいりたいと思います。

 このため、当面、何としても本格的な景気の回復を図るため、全力を挙げて取り組んでまいります。

 更に、徹底した規制緩和などを通じまして、市場での競争原理を十分に活かし、諸外国に比べてコスト高になっている経済の構造を思い切って是正していくことが必要でございます。

 そして、独創的で魅力のある新しい事業、新しいサービス、新しい製品づくりをダイナミックに展開していけるような環境づくりを大胆に行い、新たな雇用や職場をつくり出していかなければなりません。

 とりわけ、リスクを恐れることなく、積極的に新しい分野を開拓していく「創業」の精神、行動が尊重され、報われるようにしていくことが大切であると思います。

 このような経済のフロンティア拡大のために、何よりも重要なのは、創造性豊かな人材であり、また、そうした人材によって生み出される知的な資産であります。私たちは時代を先取りした新しい知恵を生み出していく努力を怠ってはなりません。

 そのためには、私は、皆さん一人一人の個性が十分に生かされるような、教育や社会の在り方を追求してまいりたいと思っております。

 また、先の国会では、長年の懸案であった科学技術基本法が成立をいたしました。科学技術こそは、私たちの夢を現実のものとし、新しい時代を開いていく大きな原動力でございます。

 私は、今こそ、創造的な研究開発と知的資本の整備を、計画的かつ大胆に進めていきたいと思います。

 これは、産業や暮らしの情報化を推進をし、いわゆる高度情報通信社会を築いていくための大前提でもあります。

 ところで、不良債権問題は、我が国経済の先行きを不透明なものといたしております。住専問題は先延ばしの許されない課題でありました。それだけに、私といたしましては、誠に辛い決断をしたところでございます。

 この処理は、我が国の金融システムの安定と内外の信頼の確保、預金者保護、景気の本格的な回復の観点から、行わざるを得なかったものでございます。是非とも国民の皆さんの御理解を賜りたいと存じます。

 私は、今後、この問題の全容を解明し、その責任の所在を国民の皆さんに明らかにするとともに、受皿機関も設け、あらゆる手だてを尽くしまして、債権の回収を強力に行ってまいります。

 次に、我が国が長い間誇りとしてまいりました「安全」や「安心」に、このところ陰りが生じてきたのではないかと懸念される問題についてでございます。

 申すまでもなく、国民の生命、身体、財産を守ることは、政治の基本的な任務であります。

 まず、災害に強い国づくりやまちづくりは、安心して暮らせる社会の基礎であります。策に、昨年の阪神・淡路大震災を貴重な教訓として、災害予防は勿論のこと、正しい情報を早く集め、伝える体制、緊急の事態に素早く対応出来る体制の整備に全力を尽くしてまいりました。

 尊い犠牲を無駄にしないためにも、今後更に「危機管理」の充実、防災対策の強化に取り組んでまいります。

 また、オウム真理教の信者などによる一連の凶悪な事件、ハイジャック事件、銃器事件などに対しては、直ちに法的な措置を始め、必要な対策を講じてまいりました。今後とも、断固たる決意で、再発防止のために努力してまいります。

 更に、いじめの問題にも多くの皆さんが心を痛められたことと思います。陰湿ないじめや無差別なテロが後を絶たないのは、日本の社会が、物質的に豊かになっていく一方で、何か大切なものを忘れ掛けていることの現われではないかと思われます。

 学校や家庭において、また職場においても、人間的なふれあいの機会が少なくなり、心が閉ざされ、相手の気持ちや痛みを理解出来なくなっているのではないでしょうか。

 また、偏差値教育の弊害もあって、自然や芸術に接する機会が著しく減少し、豊かな感受性が育ちにくくなっているように思われます。更には、命あるものの尊さも分からなくなってきているのではないでしょうか。

 こうした心の問題は、今後高齢化が急速に進む中で、長生きをしてよかったと思えるような社会を築いていくためにも、真剣に取り組んでいく必要があると思います。

 このため、ゆとりを感じられるような生活環境の整備や介護・福祉の充実は、ゆるがせに出来ない課題であります。また、教育の改革も、これからの重大な課題として、真剣に取り組んでまいりたいと思っております。

 同時に、当然のことですが、家庭や社会での日々の努力が大切だと思います。

 そういうことが積み重ねられて初めて、安心して豊かな心で暮らせる社会を築いていく基となると思います。

 三番目に、地球規模の問題がますます重要になってまいりました。今や、自国の平和と繁栄は、隣の国々、更には「地球社会」全体の平和と繁栄なしには考えられなくなっております。

 「地球社会」の一員として、国、企業、個人など、さまざまねレベルで各国の人々と共に汗を流し、痛みを分かち合っていくことが私たちに強く求められております。

 APECは、先の大阪会議での成功により、貿易・投資の自由化に向けて、いよいよ具体的な「行動」の段階に入りました。

 加えて、アジア太平洋地域を始めとして、急速な経済成長が進み、今後、人口増加と相まって、食糧、エネルギーの需要が急激に増加し、地球環境に大きな負担となることが懸念されております。このような地球規模の問題こそ、我が国が国際的に率先して取り組むべき優先課題であります。

 APECの大阪会議でも、私からこの問題への国際的な取り組みを提唱し、各国の賛同を得たところであります。

 また、冷戦終結後、新たな国際秩序が模索されております。国益の衝突や政治・経済の利害対立は勿論のこと、民族、宗教、文化の違いなど、さまざまな不安定要因が依然として存在しております。

 来世紀を展望して日本の平和と安全を確保し、国民生活の安寧を図っていくことについて、真剣に取り組んでいかなければならないと思います。

 この問題を考えるとき、私は、現下の情勢においては、日米安保体制を堅持していくことが不可欠であると考えております。

 しかしながら、これを円滑で効果的に運用するためには、何よりも幅広い国民の皆さんの御理解と御協力をいただくことが必要であります。

 とりわけ、沖縄の皆さんには、戦前、戦中、戦後を通じて大変な御苦労、御負担をお掛けしてまいりました。私は、この沖縄の皆さんのお気持ちを十分に踏まえながら、基地問題の解決に誠心誠意取り組んでまいる決意でございます。

 四月のクリントン大統領の訪日の際には、こうした問題についても、率直な話し合いをしたいと思っております。

 安全保障に関連をして、重要なもう一つの課題は、軍縮であります。我が国としては、特に、核兵器のない世界を目指し、現実的かつ確実に核軍縮・核不拡散の推進を図ってまいります。

 また、その一環として、引き続き核実験の停止を強く働き掛けてまいります。このため、核実験禁止条約については、今年中に是非とも実現するよう、我が国として全力を挙げていく考えであります。

 以上、新しい年に望んで、私の率直な気持ちを述べてまいりました。

 私は、この新しい年一九九六年を、二十一世紀の礎を築き、将来の展望を切り開く、新たな「挑戦の年」にしたいと考えております。困難な課題にリーダーシップをもって果敢に挑戦をし、「責任ある政治」を行っていくことによって初めて政治に対する信頼を回復することが出来ると確信をしております。

 また、行政に対しても、さまざまな厳しい御批判が寄せられております。この際、真剣に自己改革を図るとともに、地方分権や情報公開を推進していくことが不可欠でございます。

 皆さん、「希望に追いつく絶望なし」と申します。いわゆる世紀末の不安と停滞を乗り越え、「安全」と「安心」、「自信」と「信頼」を取り戻し、希望を持って、力強く歩んでいこうではありませんか。

 本年が皆さんにとりまして、幸の多い、よりよい年となりますように心から御祈念を申し上げまして、私の年頭のごあいさつといたします。どうもありがとうございました。

 −− まず幹事社から五点お聞きしたいと思います。

 まず政局ですが、新進党は通常国会から対決姿勢を打ち出しています。これから一年、政局は衆議院の解散を含め激動が予想されますが、総理の政局への見通しはいかがでしょうか。

○総理 今、新年のごあいさつでも申し上げましたけれども、景気の回復の問題とか、雇用の問題とか、あるいはまた、これから日本の構造改革を大胆に進めて、新しい時代に日本の国の産業分野をどう開発していくかといったような問題も含めて多くの課題を抱えております。

 同時にまた、これだけもう国際化した時代ですから、日本の国がこれから二十一世紀に向けてどのような国際的な役割を果たしていくかといったような多くの課題も抱えているときでありますから、何よりも大事なことは、三党連立政権の基盤というものをしっかり安定をさせて、そして、そうした課題に取り組んで国民の期待にお応えしなければならぬというときでもございますから、今、政局の展望について、とりわけ解散問題等については念頭になく、とりあえずこれから通常国会も始まる訳でありますから、一日も早く予算の成立を図って、そういう国民の期待に応えた措置を十全に行っていきたいというふうに考えております。

 −− 総理が目指す社会党への幅広い勢力による新党は注目を集めておりますが、この新党の見通しについていかがでしようか。

○総理 一月十九日に社会党の大会をやることにいたしておりますけれども、この大会で社会党が旧来の殻を脱却して、新しい時代を乗り切っていける、しかも国民の信頼と期待に応え得るような党をつくり出していくということのための大会を開く訳です。党自らが改革を行った上で、これから政局を担い得るもう一つの政治勢力の結成を目指して社会党は努力をしていきたいというふうに思っております。

 何よりも大事なことは、平和と民主主義をしっかり大事にする。同時に、弱い者の立場にも立って、ともに共生出来るような社会をつくる。国際的な普遍的理念をしっかり踏まえた、そういうものを基盤とした新しい政治勢力の結集というのは、これからの日本を考えた場合に何よりも必要ではないかというふうに考えておりますから、そういう政治勢力の結集を目指して、改革をされた社会党がその一翼を担って頑張っていきたいと、そういう党にしたいというふうに考えております。

 −− 村山総理は景気回復内閣ということを常々強調されている訳でございますが、完全失業率も過去最悪となっていますし、ごあいさつにあったように構造改革、それから規制緩和というものが劇的に進んでいくとはなかなか思えない現状なんですが、今年景気回復、具体的にどのような対策を取っていかれたいと思っていらっしゃいますか。

○総理 昨年一年間、四月には緊急円高経済対策の決定をいたし、金融の緩和基調の中で九月には過去最大規模の経済対策を決定をして、十二月には新経済計画の策定、住専問題の具体的な処理方針等を行って、切れ目のない施策を行ってきたつもりであります。

 最近、個人消費や民間の設備投資にもやや明るい兆しが見えてきた。為替相場もやや反転の傾向にある。同時にまた、株も持ち直しつつある。全体として景気の明るい兆しが見えつつあるという状況にあると思いますから、この八年度予算におきましても、これは御案内のように財源の非常に厳しい特例公債まで発行しなければならぬといったような事態の中でも減税は継続して行うと。

 同時に、公共投資の配分等についても出来るだけめりはりをつけて、伸ばすものは伸ばすというようなことも配慮してまいりましたし、あるいは、とりわけ高度な科学技術の進行と、同時にまた、高齢化社会を展望して介護や福祉、あるいは障害者プランを年度当初の予算計上するといったようなことも行いながら、可能な限り切れ目のない経済政策を推し進めていかなければならぬと。

 同時に政策的には、先ほどお話もございましたように、規制緩和等も積極的に進めて、そして自由化を進めるということは引き続き精力的に取り組んでいかなければならぬ課題であるというふうに思っておりますが、そういう政策を推し進めていくことによって、景気は、今年は明るい展望が開けていくというふうに確信を持って政策を推し進めていきたいというふうに思っております。 −− その住専処理問題なんですが、通常国会で政治、行政の責任、それから当事者の責任、また、将来発生するであろう二次損失の問題などについても今後具体的に政策決定をしていかなければいけないと思うんですが、その取り組みについて具体的にお話しください。

○総理 住専問題について特に私は申し上げたいと思いますのは、昨年一年間の経済の動向等を考えてみた場合に金利は最低であると。金利を当てにして老後の生活を送っている皆さんにとっては大変痛みを感ずる問題であったというふうに思うんです。その上にかてて加えて、バブル時代に不始末をしでかした、その部分まで我々が負担するのかというような立場に立って考えてみると、国民の皆さんの不満や怒りはある意味では当然であると私は思います。

 そういうことであるだけに、何故住専問題のこうした不良資産を抱えるような事態になったのかという原因も明らかにしながら、その全貌を解明して、どこに責任があり、だれが責任を持って始末をつけなければならぬのかというようなことも明確にした上で、やむを得ず最終的にはこの公的資金を投入せねばならなくなったということをやれば、私はある程度御理解がいただけたんではないかというふうに思います。

 しかし、そういうことをやってまいりますと、時間が経ってまいりましたら、時間が経てば経つほど傷口が大きくなると。ある意味では、金融というのは経済産業の動脈ですし、やはり国際的な信用の問題もありますし、預金者の保護もありますし、何よりも景気の動向に対して微妙に反映する問題でもありますから、何としても先送りすることなく処理をする必要があるという立場に立ってそういう選択をせざるを得なかったというふうに思いますので、私はこれから国会の場を通じ、あるいはいろいろな場を通じて、政府としても積極的に全容を解明しながら、その責任の所在も明確にして、国民の皆さんの御理解と納得が得られるようにしなければならぬというふうに思っております。

 −− 続きまして、延期されていましたクリントン大統領が四月十六日から来日されることになりましたけれども、総理はこの日米首脳会談で、日米安保の共同宣言、あるいは沖縄基地問題の解決といったものが大きなテーマになってくると思うんですが、具体的にこれらの諸課題の解決に今後どのように取り組まれるのか、お考えをお聞かせください。

○総理 クリントン大統領が四月に訪日することが決定いたしました。これまでの日米関係がどのような役割を果たしてきたかと、これは政治、安保、経済、あるいはまたグローバルな問題等について取り組んできた。その経過を総括をして、そしてこれから新しい時代に向けて一層日米が緊密な協力関係をつくっていくために必要な話し合いを率直にいたしたいというふうに思っております。

 特に日米安保体制というのは、広範な日米関係の政治的な基盤になっておる訳でありますから、そのこともしっかり踏まえた上で、率直な話し合いをする必要があると思いますし、同時に、単にこの二国間だけではなくて、アジア・太平洋全体の中における日米安保体制の果たしておる役割というものも大変大きいものがあるということもしっかり踏まえた上で、お互いに確認し合う必要があるんではないかというふうに思っております。

 特に沖縄の基地の問題につきましては、これは今の沖縄県民の心情というものを率直に理解をした上で、私は基地の整理・統合・縮小といった問題についても積極的な話し合いをしなければならぬというふうに思っております。

 −− それでは各社どうぞ御質問ください。

 −− 総理は今、四月の外交日程と言いますか、クリントン大統領との会談についてお話しされましたが、リヨンサミットも勿論総理自ら出席される訳ですね。

○総理 外交日程にそれぞれ皆組み込まれて決定をいたしておりますから、そういうことになろうかと思います。

 −− 総理、危機管理についてちょっとお伺いいたします。人災ではないかとまで言われた阪神・淡路大震災に始まって、最近では情報管理が問われた「もんじゅ」の事故まで、昨年一年間は危機管理が問われ続けた一年でもあったと思います。そうした経験を踏まえて新しい年に、総理は危機管理にどう臨もうとされているのか。また、危機管理について一番大切なものは何か、それについて伺いたいと思います。

○総理 阪神・淡路大震災の教訓に学んで、昨年ございましたハイジャックの問題等については機敏に各省が一体となって、そして官邸を中心に取り組みが出来たというふうに思っていますけれども、やはり大事なことは、いち早く正確な情報を収集出来ると。正確な情報をつかんだ上で、各省がばらばらではなくて一体となってそれぞれの分担を果たしていくと、役割を果たしていくというような仕組みというものをしっかりつくっていく。これはやはり官邸が中心になって全体を統括して、そして取り組めるような体制というものが大事ではないかと。

 危機管理というのはやはり緊急の事態ですから、緊急事態に直ちに必要な対応が出来るような仕組みというものもしっかり考えていく必要があるというふうに思いますので、これは災害対策基本法の改正も行いましたし、防災計画の見直しも行ったし、これはもう今の制度、今の法体系の中で可能な限り仕組みというものをしっかり確立して、そしてどのような事態にも対応出来るような危機管理体制というものをしっかりさせなければならぬというふうに思っておりますから、今度の予算の中でも、これは法律の改正も勿論必要でありますけれども、官邸の機能を強化するというようなことについても御提案を申し上げたいというふうに思っておるところでございます。

 −− 四月にモスクワでの原子力安全サミットに総理も御出席なさるということなんですけれども、このところ日露二国間の話で、日露二国間関係というのはちょっと停滞しているんですけれども、その際にまずエリツィン大統領にお会いになるのかどうか。そして、それに対してどのように今後日露関係を推し進めるのか。

 それに先立って、河野外務大臣に事前にモスクワの方に派遣する用意があるのかどうか。これについては、いかがですか。

○総理 事前に河野外務大臣にはモスクワに行っていただいて、そして日露の首脳会談を行う課題やら、地ならしというようなものについてやっていただきたいというふうには思っております。それで、日露関係というのは領土問題を中心にして極めて大きな課題もある訳ですね。そうした問題について、やはり率直に話し合っていく。

 同時に今、ロシアは市場経済を取り入れて、経済改革が行われておるという状況にありますから、そういうロシア自体の経済改革について、日本として協力出来るような点についても率直な話し合いをして、そして日露関係のより友好協力関係というものを確立をしながら、その中で領土問題についても何とか解決のめどが図れるような、そういう話し合いというものを率直にやる必要があるのではないかというふうに思っております。

 −− 今度の予算案では過去最高の国債を発行している訳ですけれども、財政再建とか、それからそれに関連して税制改革の問題も今年は大きなテーマになってくると思うんですが、そこら辺についてどういうふうに取り組まれるお考えでしょうか。

○総理 税制改革の問題については、今年の予算の中では土地税制、それから有価証券の取引税等々の改正を行うことにいたしております。それで、これは八年の九月までに行政改革や、あるいは財政の見通し等も含めて結論を出すということにいたしておりますから、そういう問題についても精力的に取り組んで、そしてもう二百二十兆円を超す赤字国債の発行といった厳しい日本の財政というものをどう建て直していくかという方向も、その中で私はやはり見定めていかなければならぬというふうに思っておりますが、それは財源をどう確保して財政の安定を図っていくかということと同時に、歳出もこの際、思い切って見直しをして、そして行政改革というようなものについても精力的に取り組んでやっていく必要があるのではないかというふうに思っております。

 −− 住専問題は少なくとも年、前半の問題になると思いますが、この住専問題の影響というのは、消費税論議にもいろいろ影響してくるのでしょうか。

○総理 消費税の問題と住尊問題とは直接的にはかかわり合いはないと私は思います。

 −− 住専問題に関連してですけれども、国会でも最大の焦点になりますが、責任の所在の問題と、それから不良債権の貸出先の個別の問題とが去年の予算委員会でも触れられましたけれども、そういった情報開示ですね。国会が一月下旬に始まりますけれども、それはいつごろまでに国民の理解を得るためにそういったものを進めていくのか。どういうふうにお考えですか。

○総理 国会は国会で、それぞれこれは予算委員会の場等を通じて大いに議論があると思いますし、また必要に応じて特別委員会でも設置がされて徹底的に解明されるというようなこともあり得るのではないかというふうに思っていますけれども、そういう国会の審議に積極的に協力をしていくのは当然でありますし、それだけではなくて、政府自らがやはりこの問題の処理は具体的に進めていかなければならぬ訳ですから、したがって、その過程において全容を明らかにしていくというのはまた当然の話だと思います。

 これは、公的資金を導入する訳で、国民に負担をしてもらう訳ですから、負担をしてもらう国民の皆さんにその全容を明らかにして責任も明らかにしていくというのは当然の話ですから、私は具体的な問題についても積極的にやる必要があるというふうに思っております。

 −− 住専ですが、当時野党だった社会党の責任と、歴代の大蔵大臣の監督責任ということについてはどうお考えでしようか。

○総理 当時野党だった社会党の責任、これは政治全体としても与党、野党それぞれ国政に対して責任を持っている訳でありますから、そういう意味から申し上げますと、政治全体はやはりこの問題については責任を大いに感ずる必要があるというふうには思いますし、取り分け行政の衝にあったものについてどのようなことをされてきたのかというようなことについても、やはり明らかにされていく必要があるのではないかというふうに思いますし、やはりこの問題の処理を通じて反省すべき点は大いに反省しなければならぬという点もあると思いますから、そういう点は明らかにしていく必要があるというふうに私は思います。

 −− 三党連立の基盤を今年もますます安定させたいということをおっしゃっている訳ですが、野党の新進党で小沢党首が誕生しました。小沢さんは革新的な経済政策などを掲げておりますけれども、当然村山政権の政策と相対立するものも出てくると思いますが、そういった与党と野党とのせめぎ合いの中で政局はどういうふうに今年変わっていくのかという展望を持っていらっしゃいますか。

○総理 私は、直接的に政局にはそれほど大きな影響はないのではないかというふうに思いますね。

 ただ、言われるように、政策をはっきりさせて、そして政府と野党との政策の違いというものを明確にして、そして国会で大いに議論をしていただくということは、国政のためにいいことではないかと思いますし、大事なことではないかというふうに思いますから、そういう面については与党として、あるいはまた政府としても積極的に対応をしていく必要があるというふうに思います。

 私は、この一年半の経過を振り返ってみて、三党はいろいろな課題について激しい議論もしてきましたが、その議論を通じてお互いの政策の持っている違いも明らかになっているし、そういう議論を通じて合意点を求めていくという努力の過程の中で人間的な信頼関係というものもつくられてきているというふうに思いますから、そういう努力の経過を通じて三党の連立政権の基盤というのはますます強固になってきておるというふうに私は思っております。

 −− 総理は冒頭、リーダーシップに触れられましたけれども、国民の間には村山さんのリーダーシップは見えないという厳しい意見が強いと思いますけれども、その声についてはどう答えられますか。

○総理 私はいつも申し上げますけれども、内閣というのはそれぞれの大臣が所管するところについては責任を持ってやっている訳です。それで、内閣全体として決めなければならぬような問題については大いに三党でも議論をしてもらいますし、同時に内閣でも議論をして、そして合意点を見出していく。そういう民主的な運営というのがやはり大事なことではないかというふうに思います。

 それで、その民主的な運用をやってきた上でどうしても結論が出ないという場合には、最高責任者である総理大臣が決断をするというのは当然の話ですから、そういう心掛けでこれまで運営をしてきたつもりなんです。したがって、決断をしなければならない問題についてはきちんと決断をして始末をし、処理をしてきたと、私はそのように思っております。

 −− 各社、あと一問でお願いします。

 −− 各メディアの世論調査を見てみますと、内閣支持率が余り芳しくない。具体的に言いますと、不支持率の方が支持率を上回っている調査の方が多いと思いますが、その辺についてはどのように考えていらっしゃいますか。

○総理 私は一年半の政権を担当してみて反省いたしますのは、やはり政治が国民の目に見えないというところに一番大きな問題があるんじゃないかと思うんです。ですから、もう少し工夫をして、そして直接国民の皆さんに語り掛けるとか、そういう機会を出来るだけ多くつくって、そしてやっている政治の実態というものを国民の皆さんによく分かっていただく、よく知っていただく、そういう努力をやはりやる必要があるのではないかというふうに思っておりますけれども、単にそういう部面だけではなくて、まだまだ景気も明るい兆しが見えたとは言え、年末に私は商店街をずっと歩いてみましたけれども、やはり聞かれる声は、景気はよくありません。お客は減ったと、こういう厳しいお声も聞いています。

 そんな意味では、もっとしっかりやってほしいという国民の期待もあって、世論調査に表れているのではないかというふうに思いますから、そういう点は率直にやはり反省もし、国民の皆さんの声も聞いて、私は十分お応え出来るようなものはしっかりやらなければならぬというふうに思っております。

 −− 最後に、小沢新党首について、小沢新党首はリーダーシップの関係で強引な手法についてよく批判されるんですけれども、小沢新党首に対してずばりくみやすしと見るのか、手ごわいと見るのか、その点はいかがですか。

○総理 今からいろいろ言うことは出来ないと思いますし、またする必要もないと思いますけれども、私は今まで余り接触したことがないんです。マスコミのいろいろな書いてあるものを通じて知る程度でありまして、それほど詳しくは存じておりませんけれども、しかし、今度の党首選挙等を通じて見る限りにおいては、割合に政策なども具体的にはっきり出しておるというふうに思いますから、そういう点は先ほどもお話がありましたけれども、政策の違いというものを明確にして大いに議論をしていけるというふうに思いますから、そういう面では期待もいたしたいというふうに思います。

 −− では、総理ありがとうございました。

○総理 どうもありがとうございました。本年もよろしくどうぞ。