[文書名] 内閣総理大臣就任に当たっての記者会見(橋本龍太郎)
○総理 昨日、内閣総理大臣に就任をしましたが、まだ実は総理と呼ばれる度に後ろを振り返っているようなことでして、なかなか実感がわきません。
そして、十分知識のない問題も、あるいはご質問に出るかもしれない。その場合には、どうぞ資料を見ながら答えることをお許しいただきたいと思います。
私は今年という年をまさに構造改革元年といった思いで迎えました。それは、ずっと戦後五十年というものの流れの中で、今日の日本を築いてきたさまざまなシステムというものが、それぞれに変化を求めている。これは政治でもそうですし、行政の上でもそうですし、あるいは経済、社会それぞれの抜本的な構造改革をしなければならない時期に入っていると、そう思ってきました。それだけに、私たちは一つのチームとしてこれから内閣で仕事をしていく訳ですけれども、その内閣の性格というものはまさに改革、そして創造、改革創造内閣という性格になるだろうということを申し上げてきました。それだけに、これからも一生懸命全力を尽くしていきますから、どうぞよろしくお願いいたします。
そこで、当面の景気の問題についてのご指摘がありました。私たちは今、新たな三党の政策合意に基づいて、内政についても外交についても全力を尽くしていきたい、そのように考えています。そして、一日も早い景気の回復を確実にしたい。更には、強い日本の経済の再建というものをつくり上げていかなければなりません。当面、具体的には平成八年度予算案及び平成八年度の税制改正関連法案を一日も早く国会通過、成立させていただき、カレンダーが三月三十一日から四月一日に切り替わる時点で、切れ目のない経済運営が出来るようにしていただくためのご協力を、国会にも是非お願いをしたい。
もう一つは、住専問題を含めて、日本の金融機関の不良債権問題の早期の解決とともに、金融システムヘの信頼をいかに取り戻していくか。そして、更にはやはり規制緩和推進計画の実効の上がるような改定を目指して努力をしていくことによって、国民の経済活動に好影響を与えるような対策を適宜適切に実行していく。これが、地味ではありますけれども、基本的に私たちが今、とろうとしていることです。
その中で、平成八年度予算案の中には、今後の新たな産業を創造していくための核になるような研究開発についての投資、あるいは一般から提案をしていただき、それを受けて実行していこうとしている新たな技術開発の分野といったものがあります。そうしたものから、新たなリーディング産業というものが育ってくれるような成果が少しでも早く上がってくること、これを是非期待したいと思っています。
また、そういう方向に全力を尽くしていきたいとも思います。
− 今、触れられまし住専の処理問題ですけれども、非常に公的資金の導入については評判がよくありません。
この問題を見直す考えはおありになるかどうか。
それともう一点、総理はかつて大蔵大臣も務めておられますけれども、行政を含めた責任の問題についてどうお考えでいらっしゃるか、お伺いします。
○総理 これは、多少資料を見ながら過去を振り返ってお話をさせていただきたいと思いますが、何といっても金融システムというものは経済活動の基盤ですし、その金融機関の抱える不良資産、不良債権という問題には、出来るだけ早く解決のめどをつけることが、日本経済の喫緊の課題だと私は思います。
その中で、住専問題は金融機関の不良債権問題における象徴的な問題でもありますし、最も解決を急ぐ問題でもあります。我が国の金融システムを安定させ、そして内外の信頼を確保する。同時に、預金者保護に資する。こうしたことを考えながら、我が国の景気をきちんとした回復軌道に乗せていくためには、当事者にぎりぎりの負担を求めると同時に、財政資金を導入することはやむを得ないという判断が当時行われました。
新三党合意においても、住専問題について早期解決を図る旨が述べられています。認識としては、私たちもこれに変わりはありません。
しかし、同時に今、ご指摘があったように、国民からご理解のいただける状況でないことは、私自身も痛いほど感じています。そして、この解決に当たっては、行政あるいは住専そのもの、更に金融機関など、さまざまな責任を明確化していく努力を私たちは払わなければなりません。
そのためには、関係者が実態や経緯を十分に明らかにする。これは、どんなことがあっても必要なことですし、政府としてもこれまでの経緯を始め、明らかにすべき事項についてきちんと説明を責任を持ってしていく。そうした努力をしていくと同時に、国会のご審議の場などにおいても、さまざまな角度からのご議論をいただくでしょうから、種々の責任の明確化に努めていきたいと思います。
そうしたご議論の中で、今までにもこの質問はいただいたことがありますが、その一時期における大蔵大臣として、私自身の当時の状況をきちんとご説明をしていく努力も私自身の責任だと思っています。
− 別な質問をさせていただきます。
宗教と政治の問題が、今度の通常国会の最大のテーマの一つになると思われます。この宗教と政治の問題について、総理はどのような考えをお持ちですか。
○総理 もしその問題に移るならば、その前に住専でこの機会にもう少し説明させていただいていいですか。
その土地関連の融資というものについては、私が大蔵大臣を拝命する以前から調べてみますと、さまざまな通達やヒアリングを通じて、投機的な土地取引について、その融資を排除すべく指導が行われておりました。そして、私の就任後も同様の指導を行っていたことは当然ですけれども、平成元年の十月、そして平成二年の一月に、これは住専を含めてですが、ノンバンクに対して、直接投機的な取引などにかかる融資の自粛について要請をしてきました。そして平成二年の三月に、いわゆる総量規制通達というものを発出するなど、地価上昇に対応するためにさまざまな処置を講じてきた訳です。
ここで、大変世間に誤解があるようですけれども、大蔵大臣としての立場から申し上げることですが、当時、銀行局長通達でいわゆる総量規制というものを行いました。そして、この中には不動産、建設、ノンバンクに対する融資状況についての報告を求めた訳です。同じ時に、銀行局長と農林省の経済局長からも、農林系に通達が出されています。いわゆる総量規制という点については、この農林系に対する通達の中にもその趣旨は明確に述べられております。
ただ、この銀行局長が金融機関に出した通達、経済局長と銀行局長が共同で農林系に出した通達の間には有意の差があります。
それは何かというと、不動産、建設、ノンバンクに関する融資について、銀行局長の通達は報告を求めました。農林系の方の通達には、総量規制の措置については入っていますけれども、この不動産、建設、ノンバンクに対する報告というものは入っていません。この間、農水省の方にお尋ねをしてみると、既にやっていた。だから、わざわざ書かなかったという趣旨のご説明をいただいたと思っておりますが、総量規制の中に住専というものを特定していないという点では、従来からさまざまなご意見をいただいてきました。これは、その通達自身が特定の業種に向けた融資量の規制を求める非常に厳しい、ある意味では法律の限界すれすれのようなきつい通達でありましたし、こうした厳しい通達の対象機関というのは、飽くまでも免許業種である金融機関など、この中には農林中金も信連も含んでいる訳ですけれどもこうしたところに限ることが適当と考えられたんだと、私はそう理解をしております。
こうした点については、これから後もさまざまなご議論があろうと思っていますので、その折々にまたお答えはしていきたいと思います。
ごめんなさい。では、さっきの質問をもう一回いいですか。
− 先ほどの質問は、今度の国会では宗教と政治の問題が大きなテーマだと思うんですけれども、その点について総理はどのようにお考えなのかという点と、もう一つ、憲法二十条の見直し問題、これについてどのように考えておられるのか、その二つについてお願いします。
○総理 私は、もともと政教分離というのは、ヨーロッパ社会における教会の力から政治が何とかして独立をしたい、そういう中から生まれてきた概念だと基本的には考えてきました。そして、それが我が国の歴史の中では、第二次世界大戦終結前の国家神道の歴史と合わせて理解をされてきたと、そのように思います。
その中で現在の宗教というものについての考え方はまとまってきたと思っています。日本の歴史の中では、国家神道というものが大きな力を持っていく中で、その当時、新たに生まれた宗教の指導者たちにさまざまな問題が起こっていた。大変苦しい思いをされた。あるいは、亡くなった方があったといったことも、私たちはその後、教えられてきました。
そして今、非常に問題になっているのは、宗教団体の政治活動についてどうとらえるかということが大きな問題であろうと思いますし、この点については先国会だけでなく、国民的議論もなお続いていますから、議論を深めていく必要があると思います。
憲法二十条は信教の自由を保障すると同時に、更にその保障を一層確実にするために、政教分離の規定を置いています。これは、もう私が申し上げるまでもありません。こうして憲法が定めている政教分離の規定というものは、信教の自由の保証を実質的なものにするために、国やその機関が国権行使の場面において宗教に介入する、あるいは関与することを排除する、そうした主旨だと解していますし、それを超えて宗教団体が政治活動をすることを排除しているものではないと、そう考えている。これが、政府の従来の見解でありました。
ただ、先国会の論議等を通じ、あるいはマスコミの皆さんを通じて示されている国民のいろいろなご議論の中で、やはりこの問題については私としても、国会でのご議論もあったことであり、憲法学説などもよく勉強してみたいと思っているテーマです。
− 沖縄の問題についてお伺いします。
既に、内閣総理大臣と沖縄県知事との間で代理署名の訴訟も始まっていますが、この点に関するご認識と、これをめぐってクローズアップされました日米安保に対する基本的なお考え方、特に四月にはクリントン大統領の訪日を控えています。基本姿勢をお聞かせください。
○総理 ちょっと順番を引っくり返させていただいて、私は今日までもそうでしたし、これから先を考えても、日本にとって一番大切な外交関係は日米関係だと、そう信じてきました。そして、その日米関係の安定というものを考えるとき、その土台である日米安全保障条約を堅持していくということが非常に大切だということは、申し上げるまでもありません。
ちょうど昨年、私自身が日米自動車協議を続けているさなかにも、アジア・太平洋地域のそれぞれのメンバーあるいはEUのメンバーの方々から、日本の首相を応援してくださる方々も含めて、日米関係の安定に傷がつかないようにということは非常に強く各国から関心を示され、その点については何回も何回もいろいろな方から確認を求められました。それだけ日米関係が安定していること、それを世界の多くの人々が求めておられるということは、このときにも痛いほど私は痛感しました。そして、その基盤が日米安全保障条約であり、これは同時にアジア・太平洋地域の安定の上に大変大きな役割をしている。これは、だれも否定の出来ないことだと思います。
ただ、昨年、ご承知のように、沖縄県で本当に何とも言いようのない不幸な事件が起こりました。そして、この事件を契機に、日米間において、あるいは日米安全保障条約そのものに向けても、国民の中からさまざまな議論が生まれてきました。
それを考えるときに、沖縄県が日本に復帰をしてから今日までの間、私たちが沖縄県民の心というものに対してどれだけ気を配り、その悲しみや苦しみ、あるいは怒りというものを理解しようとし、その苦しみを分かち合おうとしてきたか、振り返ってみると、本当に我々自身が恥ずかしいと思います。
たまたま社会労働委員会、今の厚生委員会に私は長かった訳ですけれども、振り返ってみても、対馬丸の遺族の方々の問題、あるいは六歳未満で沖縄の戦闘に巻き込まれて負傷された方々に対するお見舞の問題、更に両親の国籍を異にする、そして結果として母親と子供の国籍が違った場合の児童扶養手当あるいは特別児童扶養手当の国籍条項の問題、随分具体的な問題に私たちはぶつかり、その度に恥ずかしい思いをしながら、沖縄の方々に謝り、これを直してきました。
しかし、基本的な部分で、我々はこうしたことをあるいは落としていたのかもしれないと本当に思います。
それだけに、私は今朝クリントン大統領から電話をいただいたときに、日米関係の大切さ、そしてその根幹をなす日米安保条約の大切さを十分知っているということと同時に、その上で国民の理解と協力を一層求めていくために、沖縄の方々の持つ苦しみ、悩みというものを理解してほしい。そして、我々が国民に説得出来るだけの努力を出来るような、もっと言葉を飾らずに言うならば、沖縄における基地の整理、統合、縮小に向けての両国間の努力というものを積極的に行えるように、そんな願いを込めて、私はクリントン大統領との電話をさせていただきました。
ほかにいろいろなお話はしましたけれども、私たちは少なくともクリントン大統領が四月に日本を訪れていただくときに、本当にみんなで喜んで迎えることが出来、そしてその中で日米安保体制の重要性を首脳レベルで総括をすることが出来、それを確認するものとしての共同文書を出せるように、この沖縄の施設区域に関連する問題については、特別行動委員会などにおける日米間の協議の進展というものを積極的に進めていくために、アメリカ側にも協力を求めたい。そんな思いを持って、今朝の電話をさせていただきました。
そして、ここまで詳しい話は出来ませんでしたけれども、基本的に私の申し上げたような考え方というものは一致出来るものだと思っています。そして、それだけに、私は今、訴訟の状況が現在どうなっているのか、実はまだ報告を聞いている時間がなかったので、現況は分かりません。
しかし、出来る限り、これが早く沖縄の方々の心を酌みながら、両国で一致出来るような方向の結論を司法としても示していただけることを心から願っています。
− 今、総理は、ここまで詳しい話はしなかったという話をしたんですけれども、その電話会談で基地の問題には具体的に触れられたんですか。
○総理 基地の問題には触れました。
ただ、その問題を提起する上での私の心の中の内側にあるものまでを一つずつ語るほどの時間はありませんでしたから、そこまでは申し上げていません。
− では、次の質問に移らせていただきます。
消費税の問題ですけれども、来年の四月には税率も上がりますし、今年の秋にはその見直し問題もありまずけれども、消費税の問題について総理はどのようなご見解を持っていらっしゃるのか、お聞かせいただきたいと思います。
○総理 消費税率の検討条項というものが設けられていることは、皆さんご承知のとおりです。これは、今年の九月が消費税率の見直しの期限になっている訳ですが、来年の四月から五%に消費税を引き上げさせていただくということは、既に法律上決まっています。
その上で、検討条項が設けれた趣旨、あるいは深刻な財政状況を考えると、これはやはりしっかりした議論を避けて通ることは出来ないと、私はそう思います。
ただ、同時にここで申し上げたいことは、国民に対して更に新たな負担をお願いするということは、決して容易なことではない。そして、国民の幅広い、よく使い古した言葉で言えば各界各層という言葉になりましょうか、その国民の各層の意見などを十分に伺いながら、今後も各方面で十分なご議論をいただいて、熟慮を重ねて判断していかなければならない問題だと、現在はそう考えています。
− 橋本政権として、今後新進党との対決ムードが高まることが予想されます。今後の政局運営の基本方針、特に野党側は早期の解散総選挙を求めている訳ですけれども、この点についてはどのようなお考えでしょうか。○総理 私は、今度の国会の中で正々堂々とした議論をお互いに十分に闘わせていくことによって、それぞれ現在抱えている大きな課題について、私たちの考え方と野党第一党である新進党との考え方の合っている部分、食い違う部分、解決の処方せんについての考え方の違い、こうしたものを明らかにしていく努力というものは、双方が払っていかなければならないことだと思います。
そして、その中で今回、村山総理が退陣の意思を明らかにされたときから、私たち三党はいわば白紙の立場でもう一度三党の政策の見直しを行い、新しい三党の政策合意をまとめ上げてきました。そのまとめ上げてきた内容というものを、国民にもご理解を願いながら、我々としては国会の論議を通じ、国民に対して我々の思うことを聞いていただきたい。
しかし、その中で冒頭申し上げたように、景気に切れ目をつくらないということについては是非、野党第一党である新進党を始め国会にご協力をいただいて、三月三十一日までに予算案、そして関連する税法等が成立し、景気に切れ目の起きないような状態で新しい会計年度を迎えることが出来るように心から願っています。
そのほかに、例えば外交日程としての原子力サミットですとか、いろいろなものが入ってきていますから、我々としてはまず日本の景気がきちんと回復軌道に乗り得るような、そうした状況をつくることに当面は全力を傾けたいと、そう思っております。
− 解散は、お考えでないということですか。
○総理 解散の話、皆さん本当に好きですね。よく前から私は申し上げてきたけれども、半ば冗談に紛らわせながら、通産大臣当時も、私にとっては本当にこれ以上製造業が日本から逃げ出さないようにすることがまず先決なのだ。むしろ解散、選挙という一定の政治の空白が生まれる。そして、その間、景気にも当然の影響が及ぶような状況をつくり出せるように、早く経済を安定させたいと申し上げてきました。やはり、私たちにとっては今、当面する景気回復への努力というものを考えて全力を挙げていきます。
同時に、クリントン大統領の訪日の話が今も出てきて、その中に沖縄の話が何回も出てきましたけれども、こうした問題にこたえられるだけの努力をしていく。今、解散と申し上げるような状況では私はないと思っています。少なくとも、私自身の心境としてそんな心境にはなりません。
− それでは、各社からの質問をお願いします。
− 沖縄の問題についてご言及があったんですけれども、村山前首相は大田県知事と二度にわたって長時間の会談をしているんです。橋本総理も出来るだけ早くお会いになる機会があるのかどうか、その点についてお伺いします。
○総理 私個人としては、本当に出来るだけ早い時期に、大田県知事を始め県の関係者の方々にお目に掛かって、私自身も改めてそのお話を承りたいという気持ちは大変強くあります。
同時に、我々としても国の立場として出来る努力をお約束をしながら、出来る限りの県側にもご理解をいただきたい、そういう思いは大変強くあります。
まだ、実は官房長官、副長官とそうした問題を落ち着いてご相談をするだけのゆとりもなかったので、むしろこれが終わってから官房長官たちとご相談をしたいと思っていたことの一つですが、私は本当にお目に掛かりたい。そして、お話を十分に伺いたい。そういう思いは持っています。
− 連立政権の在り方についてお伺いしたいと思います。
橋本さんは、著書の中でも、将来は単独政権を目指されることとか、細川連立政権を指して、各党がお互い連動して主体性がなくなるので、連立政権はよくないという主旨のことをお書きになっていますが、今の自社さ政権もいつまでも続くとは思わないんですが、社会党、さきがけとの将来の関係の在り方、それからその上で政界再編の姿はどういうふうにあるべきだとお考えでしょうか。
○総理 これは、最終的には国民が選挙という制度の中で、投票という行動で決定を下されることですけれども、政党がそれぞれ自分たちの理想を掲げて、全力を挙げて自分たちの理想に国民の共感を求め、その下で単独の政権を目指すというのは、私はどこの党だって基本的には同じだと思うんです。
しかし、その上で今の社会党、さきがけ、そして自由民主党という、この連立の枠組みというのは、まず社会党さんとさきがけさんの間の政策合意があり、それが国会の中において各党に示され、当時の自由民主党の政策責任者だった私自身が、結構です、テーブルに着けますというお返事をしてからスタートをしました。そして、その時点において、私たちは社会党の委員長である村山さんがリーダーとして一番ふさわしいと三党で判断をし、その政策合意の上に立って村山政権をつくってきました。
ですから、村山総理が辞意を明らかにされた後、この三党は一たん白紙の状態から、新たな三党の政策合意が出来るかどうかの作業を何日も続けてきたことは、皆さんがご承知のとおりです。政策合意が出来た時点で、三党の党首の中からだれが、共同の首班候補になるべきかという話になり、光栄でしたが、私が村山委員長、武村党首からご推薦をいただくことになりました。
私は、これから先も過半数を十分に維持する政党が出ない状況の中では、連立政権というものは起こり得ると思います。そして、その場合に、例えば反自民とか、非自民とか、そういう言葉での政権が生まれるのではなくて、むしろ基本的な政策というものの合意の上に立った連立政権というものは、これからも起こり得るものだと思っています。
そして、今回私たちがまさにそういう手順の中で連立政権をつくってきました。それは、三党の間でこの一年半、共同で村山政権を支えてきた間に、お互いの理解も進み、そうした協力関係が維持出来るだけの信頼関係が生まれていたということも大きな一つの問題でしょう。
今後、私たちはまだだれも経験をしたことのない小選挙区制度の下で、衆議院の解散総選挙が行われれば、それぞれの主張を闘い合わせ、その中で国民にご判断をいただく訳ですけれども、その結果までを私は一遍に予測することは出来ません。
ただ、やはりこれから先も政党というものは、政策を柱に生まれ、育っていくものだと私は思っていますから、過半数を取る政党が、言い換えれば国民が過半数をお与えになる政党が存在をしない状況の中では、次の課題としてお互いに政策的に共同歩調のとれる同士の連立政権が生まれていくということは、私は当然あり得ることだと思っています。
ただ、この小選挙区比例代表並立制という仕組みの中で選挙が行われた場合、私たちは非常に当初からこの問題について首をかしげていたんですけれども、本当に国民の議論が真っ二つに分かれなければいけないものなのか、あるいは、少数の方々の意見の代弁者になり得る方々は、どうやったら国政の中に議席を持っていけるのか。制度のこれからに、私自身も期待と同時に不安を持っています。
− 住専問題ですが、多額の公的資金を住専処理に投入したことに対する国民の反発は勿論でございますけれども、更に不透明だったのは、年末に突如として国民の前にそれが提示されたという政策決定プロセスの不透明性、更に今後二次損失部分と言われる、更に公的資金を投入しなければいけないのではないかという懸念が生じている、将来のロス分が既にあるということが明らかになっていること、これが結論が出ておりません。この辺について、どういうふうに臨んでらっしゃるのか。考えをお聞かせください。
○総理 大変申し訳ないんですけれども、私自身が通産省という役所をあずかっていた立場ですから、言い換えれば大蔵省と農林水産省との論議の中から、どうして公的資金投入という結論が出されたのか、その細かいプロセスまで実は存じません。ですから、その点についてはお許しをいただきましたいと思います。
しかし、実は当時、横から見ていた立場ですけれども、私は大蔵省の諸君と農林水産省の諸君との間で、双方の負担の限界というものをぎりぎりまでご議論をいただいたと信じています。その中で、いつの時点で公的資金の投入という決断が下されたのか、つまびらかにはしませんけれども、この結論が出てきた時点で、私たち自身が情報の開示とか、あるいは預金保険機構の中に検察、警察、更には国税といったところから、ひとつのタスクフォースを組んだものをつくって、場合によっては、準司法的な権限まで持たせるべきだという議論をしたことを、皆さんも恐らく記憶をしていただいていると思います。
要は、本来ならばこれは民間対民間の話です。しかし、その民間の話だと言っていられない状態が生まれてきていた。そして、飽くまでも民間同氏の話し合いを求めていくのか、あるいはほかの道があるのか。そうしたぎりぎりの論議の中から政策決断がなされたと私は了解していますけれども、少なくとも今、ご質問があったように、この後にどうなるかということを含め、情報の開示が充分行われていないということはご指摘のとおりです。
ですから、私たちは情報の開示というものは、これからもそれぞれの事務所の諸君に全力を尽くしてもらい、関係者のそれに対する協力を求めていくと同時に、もし問題があるならば、司法あるいは警察、更に国税というそれぞれの諸君にも努力をいただいて、法に触れるような行動があれば当然のことながら処分をしていく。
しかし、その法に触れる、触れない等にかかわらず、情報の開示への努力は、順番が逆さになりましたけれども、全力を尽くしていきたいと思います。
今あなたから二次損失の話が出ましたけれども、二次損失の問題以前に、今回の措置に対してそれだけの努力を払う。それは、我々のしなきやならないことだと思います。
−総理、今この場所で情報開示を行うとお約束出来ますでしょうか。
○総理 情報開示をしたいということを私は考えています。そこまでは申し上げます。
− 約束は出来ないんですね。
○総理 大変申し訳ないけれども、約束をするしないという以前に、まだ閣内でも議論をしていません。
ただし、私はその情報を開示が出来るように全力を尽くしてほしいということは、この後の閣議で関係する閣僚の諸君にお願いをするつもりです。
− その場合の情報開示というのは、具体的には何を指されて考えられておられるんですか。
○総理 いろいろなものがあると思います。
例えば、私自身が非常に厳しく世間からご批判された一つの証券金融不祥事のときを振り返ってみるならば、その証券各社の損失補てんについてのリストの公開を求められました。そして、一定の金額以上の補てんを受けた方々を、結果的には証券各社からそれぞれの責任で公表をしていただきました。あの当時あったのは、例えば大蔵省が国税庁として知り得ている範囲のものといったようなご議論もあった訳です。
しかし、それは必ずしも百パーセントかどうか我々自身にも分かりませんし、むしろそれぞれの会社としての立場できちんとしたものを出してもらうように要請をし、そういう方向に持っていった。これが、当時の開示でした。
問題によって、私は開示の内容は違いが当然あるだろうと思います。借り手の状況というものもあるかもしれません。住専そのものの経営実態というものもあるかもしれません。あるいは、融資時点においては価値があると思われその後の地価の動向の中で担保が不足するといった状態になる、そういった影響もあるのかもしれません。
ですから、そういうものがありますから、私は情報開示が出来ますかということに対して、私は閣僚に考えることを求めます。けれども、ここで私が一方的に約束とは言い切れませんということを申し上げた訳で、情報開示として求められるものにも、今まで私が聞いている限りでは、随分いろいろな視点からのお話があるように思います。
ただ、それぞれの閣僚はそれぞれの所管する行政の責任者ですから、その指揮する自分の部分において、出来る限りの情報開示を国民に行う、その努力を払ってもらいたいと、そのように考えています。
− 住専問題でさまざまな責任を明らかにすることが大事だと、こうおっしゃいましたけれども、農林系金融機関の貸し手責任についてはどうお考えですか。
○総理 大変申し訳ないけれども、私はその農林系金融機関の詳細を残念ながら把握をしていません。
ただ、問題として、よくその母体行と貸し手、母体行責任と貸し手責任という言葉はよく言われていました。私は、当然ながら母体行の責任は大きいと思います。しかし、その貸し手にそれでは責任が全くないかと言えば、そんなものではないでしょう。そして、先ほどもご説明をしたように、平成二年三月のいわゆる総量規制にかかる通達というものは、銀行局長が銀行局の主管する民間金融機関に対して出されたと同じように、農林省の経済局長と大蔵省の銀行局長の共同の通達として、農林系の金融機関にも発出されている。
ただ、そこに総量規制は入っているけれども、抜けていたものは三分野に対する報告の徴求、それが抜けていた。これはもう事実を申し上げたとおりですから、私はどちらかが全然百パーセントきれいで、どちらかが百パーセントすべて悪いというような話の仕方というのは、この問題を処理していく上でとるべきではないと思います。
− 住専問題に絡んで、大蔵省の機構の見直しとか、権限の見直しとか、そういうところまで踏み込んでご検討なさるお考えは、今おありなんでしょうか。
○総理 これは、むしろその情報開示がどこまで進められるのか。更に、その情報開示が逆に進まないのか。それによっても全然違うだろうと思いますし、情報開示の努力がなされ、あるいはその間における、例えば行政にどういう責任があったのかとか、あるいは例えばこういう仕組みであったら問題を回避出来ただろうとか、いろいろな角度からの議論が出てくる中で考えていく話であって、最初から機構いじりあり、あるいは機構いじりなしといったような考え方で取り組むつもりはありません。
むしろ、どうやったら事実を国民の前にはつきりと明らかにしていけるのか。これは、我々自身もはっきり知りたい、また知らなければこれからの責任が果たせない話ですけれども、そういうプロセスの中で考えていくべきことだと思います。
− 政治を政策面からとらえた場合、よく大きな政府とか小さな政府とか、そういう分類があると思うんですけれども、総理の場合は、ご自身が社会福祉行政にかかわりが深い、また政治は弱者のためにあるといった発言もされていますし、どちらかというと大きな政府を指向されておるのかなと。
その一方で、新進党の小沢党首の場合は自己責任というものを前面に出して、どちらかと言えば、小さな政府の方を指向されておるのかなというのが一般的な見方ではないかと思うんですけれども、総理ご自身は小沢新進党執行部と橋本三党連立政権のあり得べき国家像と言いますか、将来の国家ビジョンに対する基本的な違いは何だとお考えでしょうか。
それと、将来政策をめぐる政界の再編、再々編があった場合に、いわゆる対立軸といいますか、争点となるべきものは具体的に何であるとお考えでしょうか。
○総理 大変失礼ですが、私は大きな政府という言葉を自分で使ったことはありません。それこそ、第二次臨時行政調査会発足以来、行財政調査会長を続けてきた時代から、私は簡素で効率的な行政組織というものを目指してきました。大きいとか、小さいとかというとらえ方で余り議論をしたことはありませんでした。
そして、確かに私は社会保障とか福祉行政というものは必要だと思っています。こういう質問をせっかぐしていただいたので、少し私がなぜそういうことを申し上げるのかを聞いていただきたいんです。
私が初めて国会に当選させていただいたのは昭和三十八年でしたが、この年たまたま老人福祉法という法律が制定されて、老人という言葉が初めて法律用語になりました。そして、日本政府が初めて百歳以上の人口が幾らあるかという調査をした年でもあります。
忘れもしませんが、昭和三十八年九月一日現在の百歳人口は百五十三人でした。昨年の敬老の日、百歳人口は六千人を超えていたはずです。逆に昭和三十八年、たしか私の記憶ではその年に生まれたお子さんの数は百六十五万九千人ぐらいでした。去年生まれたお子さんのトータルはまだ私は知りませんけれども、たしか一昨年生まれたお子さんの数は百二十三万人ぐらいのはずです。
それだけ日本が長生きの社会になりましたけれども、反面、生まれてくる子供の数は激減しました。これは言い換えれば、我々は若い働き手がどんどん減っていく時代に、これからの産業構造も、経済構造も大きく変化させなければならない時代を迎えているということでもあるんです。そして間違いなしに、この人口構造の変化を踏まえただけで我々はシステムを改革していかなければ、日本という国が動かなくなってしまうという実態の中にあるんです。
私は行政改革を、あるいはこの改革創造というテーマを、こうした人口構造の変化ということから組み立ててきました。ですから大きい、あるいは小さいというとらえ方はしていないと申し上げるのは、そういう意味なんです。
そしてこれだけの高齢化の進む、まさに超高齢社会というものに入る日本が、若い働き手がどんどん減って、なおかつ本当に活力を持った社会を維持し続けて二十一世紀に入っていこうとすれば、間違いなしに産業の構造、経済の構造は変わらなきゃならないんです。
お互いの身の周りを見たって、家族というものが既に変化をし出しているじゃないですか。そういう状況の中で、我々は働き手の数を減らさないためにも、今、残念ながら若い学生諸君の就職が非常に厳しい環境にある。しかし実はマクロで考えるとき、若い働き手は減っているんですから、企業だって人材に断層をつくっちゃいけないということを考えれば、私はもっと雇用に真剣になってもらいたいと願っています。
しかし同時に長い目で見たとき、我々はより年を召した方々にも働いていただきやすい環境をつくると同時に、男性よりも家庭におられる率の高い女性に、より積極的に社会に出ていただけるような社会に切り替えていかなければなりません。そういうことを考えたとき、いろいろなテーマが出てきます。
しかし、私は社会福祉とか社会保障が好きだから大きい政府をと、あなたは言われましたけれども、例えば行政の力で、国の政府の力で、子供たちに対して家庭に代わる環境を地域社会につくり出すことが出来るでしょうか。これだけ沖縄の端から北海道の端まで長細い日本です。気象条件も地形も全部違う、産業構造も違う。そういう中で、女性にどんどん積極的に社会に出ていただいて安心して働いていただこうとするなら、一つは介護の問題をきちんと解決しなきゃなりません。
けれども、これだってそれぞれの地域によって、またご家庭の状況によって違うはずですし、子供たちに家庭に代わる環境をつくるという一つのテーマをとってだって、実は国の行政でもって押し付けてやれるようなものじゃないんです。こうしたもので出来るのは、それぞれの地域社会における創意工夫をいかに支援するかですし、行政として携って効果があるとするならば、それは住民に一番身近な地方自治体、言わば市町村というところになっていくでしょう。国の役割としては、むしろそれに必要なお金をどう工面するかを工夫することでしょう。
地方分権を私がとらえるときにも、住民に身近な行政は住民に身近なところで進めていただくのが本体だと思うから、私はそういう方向を努力し、進めてきました。これは大きい政府でしょうか。
むしろそうではなくて、政府では出来ないことが超高齢社会の中には増えてくるんです。それぞれの地域社会の中で、むしろ積極的に地域の中で解決していただかなきやならない、行政じゃうまく出来ない問題がいっぱい出てくるんです。ただその地域で活動しようとしてくださるものを、どうやったら支援出来るかを考えるのは当然行政の役割ですから、そういう努力はこれからも必要だと思いますけれども、私はそういうものは大きい政府と考えてはいません。むしろ簡素にして効率的な政府を求めたいと思っています。ほかの方の考えを私は批判する気はありません。
− 総理、政権の継続性でひとつお聞きしたんですが、昨年の八月十五日に村山総理から談話を出されて、植民地支配と侵略行為を明確に謝罪なさいましたが、それについてどう受けとめて、それを踏襲なさるお考えでしょうか。
○総理 あの談話の原稿自体を私は事前に見せていただき、ご相談を受けた一人です。そしてその中で終戦という言葉をお使いになっていたのを、もっとはっきりと敗戦と言われたらどうですかと申し上げて直していただきました。その限りにおいて、私はその談話の路線と変わるものはありません。
− 昨日組閣が行われた訳ですけれども、どういう点に総理としては留意なさって今回の組閣を行われたんでしょうか。
○総理 まさにさっきから申し上げてきているような問題認識を持ちながら、重厚実務型という、私は言わば実行力を求めてこの内閣をつくらせていただきました。
そして求めるものは、まさに短期的には景気の回復といった、あるいは住専の問題がさっきからご議論がありましたけれども、これを含めた金融システムの信頼を回復することといった経済部分の問題があり、一方では、今大きい政府、小さい政府というところがら申し上げてきたような、まさに国が抱えていて出来っこない行政、むしろ仕事というものは出来るだけ住民に身近な自治体に世話をお願いしていくという地方分権といった仕事。更に日本の人口構造からだけだって変化していくんですから、その経済社会システム、産業構造、この変化をより加速し、よりよい方向に持っていけるように政府の規制緩和を積極的に進めていく。
これは当面で言うならば、今それぞれの省庁は見直しの中間発表の準備に入っているんだと思いますけれども、三月三十一日までに規制緩和基本推進計画の見直しをし、新しい項目を追加し、確定をしていくといったこと。まさにこういつた実務面が一つずつきちんと実行出来るような、そして外交的には先ほど申し上げてきたように、ヨーロッパやアジア・太平洋地域のメンバーからもへ日米関係の安定というものを非常に求められている。
そういう状況を踏まえて、沖縄の方々の心というものを出来るだけ、私たちもその心を自分の中に受けとめながら、沖縄県の基地の整理統合、縮小というものに向けて日米間の話し合いを進めていく。しかしそれはあくまでも日米関係をより深いものにし、日米安全保障条約を堅持していくという前提の中で努力をしていくということ。いろいろな問題に気を配りながら進めてきたつもりです。そういう問題意識を持ちながら閣僚の人選はさせていただきました。
− 閣僚人事についてですが、今度の内閣の要として梶山官房長官という登用があった訳ですけれども、この人事についてはどの時点で決断なさったのか。それとその考え、また剛腕の梶山官房長官に具体的に今後どのような期待をなされているのか。
○総理 私自身が是非梶山さんに官房長官をお願いをしたいという決心を確定したのは、幹事長、書記長の間でいろいろなご議論が進められている中で、官房長官人事について私におあずけをいただいた瞬間からでした。いろいろな話し合いがなされていましたから、私は初めの何日間かはその議論というもの、それがまさに幹事長、書記長の中で、例えば各党の数の配分とかいろいろなお話が出ているものを整理していただいていました。
ですから、あれ一昨日お電話したんでしたか。
○梶山官房長官 一昨日だと思います。
○総理 ぎりぎり考えて、私が是非梶山先生に官房長官をお願いしたいと決めたのは一昨日です。
そしてそれは端的に言うなら、私自身の持っていないものを梶山先生が多く持っておられる。そして、人生の先輩であり、今までも随分厳しいお小言をいただいてきました。こんな立場になると率直に物を言ってくださる方というのは、皆さんは大変厳しいことをいっぱい言われるけれども、世間一般にはだんだん少なくなる。そういう意味では、私が間違っていると思うときには、どんどん遠慮なく言ってくれる方が自分の身近に欲しい。結局考えていった中で梶山先生にお願いをしたいと思ったのは、そしてその決心を打ち明けたのは一昨日ぐらいです。
− 戦後処理の問題について、具体的に何か考えられていることがあったら教えてください。戦後五十年は昨年で終わったんですが、継続的な問題だと思いますので。
○総理 戦後処理、具体的に何をあなたはイメージしていられる訳ですか。
− 例えば、朝鮮人に対する個人補償の問題とかですね。
○総理 国と国との間で一応決着した問題を、余り何度も何度も起こしていただきたくないと思います。今まで各地にさまざまな個人補償を求められる方々がおられることは私も知っています。それはアジアだけではありません。第二次大戦中、太平洋各地の戦域において旧日本軍の捕虜になられた方々の中から、これはヨーロッパの方においてもそういう声が出ていることは私は存じております。そして、一部の問題は訴訟という手続にのっていることも承知をしていますだけに、この問題については私はここでお答えをすることは避けたいと思います。
− 総理どうもありがとうございました。
○総理 どうもありがとう。これからもどうぞよろしくお願いします。