[文書名] 平成八年度予算成立における記者会見(橋本龍太郎)
○総理 平成八年度予算が、お陰様で本日成立を見ることになりました。国会におかれましては、住専問題に加えて、財政改革や外交、安保など、さまざま問題について大変熱心な審議が行われました。予算の成立に当たりまして、まず関係各位のご努力、そしてご協力に心から感謝を申し上げたいと思います。
私どもは、昨年来、景気回復のために全力を挙げてきたところですが、今日、月例経済報告を終わりましたけれども、景気の現状を見ますと、ようやく緩やかながら回復の動きを続けるに至っています。八年度予算は限られた財源の中で、資金の出来るだけ重点的、効率的な配分に努めていますし、景気回復のための支出を出来るだけ盛り込んできました。また、所得税、個人住民税の特別減税を継続して実施する。制度減税と合わせて五兆五千億円の規模の減税を行うと同時に、土地税制の総合的な見直しなども実施をしております。
これと合わせて、本日成立をいたしました本予算、これは景気回復を確実なものにしてくれると期待をしておりますし、予算の成立の遅れが景気に極力影響を及ぼすことのないよう、施行面できめ細かな対応をするよう、指示していきたいと思っております。
今回、例えば一般歳出全体の伸びが非常に低かった中で、投資部門には五・二%の伸びを確保しました。そして、学術研究基盤の充実あるいは新規産業の創出など、新しい産業を育てる芽もここの中に含まれております。
その一方で、我が国の財政は八年度予算におきまして、多額の特例公債を含む公債発行に依存をせざるを得ない状態になりました。その結果、八年度末の公債残高は約二百四十一兆円に増加する見込みでありまして、八年度では公債の利払いが約十二兆円、税収の約二三%、もはや危機的な状況にあります。この国の将来を真剣に考えるならば、財政改革を強力に進めなければならないことは、だれの目にも明らかです。言うまでもなく国の財政、これは国民のものでありますし、受益者も国民でありますが、負担をしていただくのも国民です。私たち政治家一人一人が国民の代表としての自覚を持ちながら、財政規律の回復を真剣に考え、取り組んでいかなければならない時期に既に来ております。
今朝、閣議が終わりました後、大蔵大臣と経済企画庁長官にお集まりをいただきまして、そうした思いを込めて経済審議会あるいは財政審、政府税制調査会、更に社会保障制度審議会、この四つの審議会の会長、また会長に代わる方々にお集まりをいただいて、こうした思いを込めて、今後の我が国の財政について、それぞれの審議会の壁を超えたご論議をお願いするように相談をいたしました。もしここで合意がいただけるならば、各審議会の事務局同士の情報交換も密にしながら、この財政規律の回復に向けての一歩を出来るだけ早く踏み出したいと思っております。
また、日本の金融機関、これはご承知のように、現在非常に大きな不良債権を抱えておりますし、国民の皆様方の預金を守ると同時に、景気回復を確実なものにするためにも、この問題を何としても我々は解決しなければなりません。その不良債権の中でも、住専に対する貸付金は、金額が大きいだけでなく、関係者が多数に上り、そしてその中に体力の弱い金融機関もある。更に、関係が複雑に入り組んでいるために、当事者だけでは解決が出来ないという問題があります。
この問題をとらえるとき、氷山の一角という言い方をされる方々もありますし、私たちのように、この不良資産問題を処理していく上での突破口ととらえている方もあります。
そして、その処理の対応についても、破産手続などの方法で処理をすればいい、そうしたご意見もありましたけれども、そうしたやり方では、個々の金融機関の損失額がはっきりするまでに何年間もかかってしまう、その間、体力の弱い金融機関が経営不安にさらされ続けかねない、場合によっては預金者に不安が広がるといった事態も、我々としては本当に心配です。現に、海外からも日本の金融システムに対する厳しい目が向けられていることはご承知のとおりで、ジャパン・プレミアムがそのいい例かもしれません。
そして、このような状況を放置すれば、景気回復は望み得ないということも明らかです。こうした事態を回避しながら現状を打破し、本格的な景気回復をもたらし、更に日本の金融システムがもう一度安定性と信頼性を取り戻すために、まず住専を処理する、そして、これをつぶしてしまう、金融機関の損失がそれがいかに大きいものであってもはっきりさせる、これが必要なことだと考え、我が国の命運に責任を持つ政府与党として、このような考え方の下に、財政資金の投入を含む住専処理策を決定いたしました。
本日の予算の成立は、住専問題の解決に向けた重要な一歩でありますけれども、これを現実に進めていくためには、住専処理法案の成立が必要である。政府としては一日も早く法案を成立させていただき、住専の整理、強力な債権回収など、住専処理の実施に取りかかりたいと、心から今願っております。
今後の債権回収に当たっては、ただいま提案いたしております法律案では、預金保険機構と住専処理機構が一体となり、その中に法務、検察、警察、あるいは国税の専門家を集めた強力なチームをつくって、住専への返済を滞らせている借り手に対し、債権の強力な取り立てや、関係者の責任、これは刑事上の責任もあるかもしれませんし、民事上の責任もあるでありましょう。こうしたものを含めて明確化に取り組んでいこうとしております。そうして、少しでも多く取り立て、回収することが大切ですし、そのためには、悪質な借り手に対する財産調査も法案の中に盛り込んできました。また、例えば、法律上問題があるような紹介者に対しては、損害賠償を行うといった形での責任追求もしたいと考えています。
また、与党におかれては、今後の債権回収を円滑に進めていくために、民事執行法の一部改正や、今回の住専処理に関する債権の時効の停止などを内容とする法案を今国会に提出されました。この中には、例えば、民事執行法の改正法案には、不当な妨害行為を排除し、競売手続を適正かつ迅速に遂行させる手立てが講じてある。また、時効の停止法案は借り手の追求を万全に行うために、住専処理機構が住専から引き継いだ債権の時効を一括して停止するものであります。
こうした取組みが進んでいけば、私は必ずや国民の皆さんのご理解がいただけると、そう信じております。
同時に政府としては、これまで金融の自由化を進めてきたわけですけれども、その自由化と今までの金融行政、金融市場というものは、率直に言ってそれについてきていなかった、古い護送船団方式と言われた当時の体質をそのままに残していたという点を強く反省をしているところです。
今後の金融行政や金融市場について、本格的な自由化時代にふさわしい市場規律に立脚した透明性の高い金融制度を構築していく必要がありますし、そのためには、さまざまな新しい仕組み、例えば、不良債権のリスクロージャーの拡充、あるいは早期是正措置の導入、金融機関の破綻処理手続の整備、預金保険制度の拡充といった新しい仕組みを盛り込んだ金融関連法案を国会に提出しており、これらの法案の成立を早期にお願いをすることによって、我が国の金融システムの安定性、これに対する内外からの信頼の確保に万全を期していきたいと考えております。
この機会に、外交防衛についても一言申し上げさせていただきたい。
私は先般のクリントン大統領との会談の中で日米関係の大切さ、そして両国が二十一世紀に向けて協力して、さまざまな課題に取り組んでいくことの重要性を確認しました。特に日米安保体制が、我が国と同時にアジア太平洋地域の平和と安定にとって有する重要性は、私はいくら強調しても強調し過ぎることはないと思っています。
しかし他方で、日米安保体制の堅持というものが沖縄県の県民の方々に大変大きな負担をかけている。我々はこの点に余り考慮を以前払ってきませんでした。非常に恥ずかしいと思います。そしてこの現実を踏まえて、少しでもその負担を軽減しようと、今回クリントン大統領が訪日をされた機会に、沖縄の方々が最も望んでおられる普天間飛行場の全面返還を初め、基地問題の解決に向けて最大限の努力を払ってきたつもりです。
普天間飛行場の返還につきましては、他の沖縄の米軍施設区域の問題と併せて、この解決のために作業委員会を設置いたしました。昨日、県からも代表が加わっていただいて、第一回の会合が開催をされました。沖縄の皆さんのお気持ちをくみながら、今後その作業に全力を挙げて取り組んでまいります。国民各位のご理解とご協力を是非お願いを申し上げたいと思います。
同時に、私は国民の皆様に我が国の安全あるいは日本国民の安全、更にはアジア太平洋地域の平和と繁栄ということについて、是非ご議論をいただきたいと願っております。先般の日米安保共同宣言では、日米防衛協力のための指針の見直しとともに、日本の周辺地域で日本の平和と安全に重要な影響を与える事態が起こった場合の、日米間の協力の研究促進が合意されました。私はアジア太平洋地域が、この情勢の不安定、不透明な中で我が国を含めたこの地域の安定を図り、日米安保体制の効果的な運用を確保していくために、我が国がどのようなことをなすべきなのか、更に何を行い得るのかを真剣に検討していくことが大切だと考えています。在留邦人の救出あるいは大量に難民が発生した場合の受け入れ、こうした問題を初めとして、従来必ずしも私たちが臨場感を持って考えてこなかった問題、こうした問題について、憲法の範囲内でしっかりとした議論を我々は避けて通るわけにはいきません。こうしたことも是非国民の皆様のご議論をいただきたい。そんな思いで今この場に立ちました。ありがとうございました。
−それでは総理、毎日新聞の山田ですけれども、冒頭に幹事社の方からただいまのお話に即しまして、四問代表質問をさせていただいて、あとは自由に聞くという運びでお願いします。
それでは、まず最初に総理がお触れになりました住専の問題、引き続き国会論議の焦点になりますけれども、いわゆる追加負担の問題です、負担を担うべき金融機関の範囲、それから負担の規模、方法等について、具体的なイメージがあれば明らかにしていただきたいと思います。それからこれは基本的な問題ですけれども、追加負担というのは、それを求めるということは、やはり税金投入をゼロにしていくという考え方に通じると思うんです。そうしますと、昨年の末に政府与党が出しました税金投入はやむを得ないという対処方針と大きく隔たった根本的な考え方の違いがあると思うんですが、これは政府の考え方が変わったということなのか、金融機関の自覚を促すというのは大変結構だと思うんですけれども、無原則な印象を与えて、国民の理解をかえって妨げるのではないか。その点どういうふうにお考えか、この点に触れてご回答いただきたいと思います。いかがでしょう。
○総理 今まで国会でご議論をいただきました追加負担の問題というのは、母体行に非常に大きなウエートのかかったご論議でした。これは皆さんもご記憶だと思います。そして私たちはその母体行が追加負担を考えるとき、みずからの責任をどう受け止め、そしてどうこたえていこうとするのかは、国会のご議論なども踏まえながら、母体行みずからが判断すること、それが大切なことだということを申し上げてきました。
しかし、今、母体行に限らず金融機関全般を含めてのお尋ねのようです。我々は昨年の秋から暮れにかけて関係者の間で非常に真剣な議論をしながら、この住専処理について議論をしてきた。その中で先程申し上げたような、政府与党の責任において公的資金の投入という決断をいたしました。そして、予算は今日成立をいたしましたけれども、住専処理法案そのものはこれから国会でご審議をいただくわけであって、この内容に触れるような問題、修正を含めたような可能性について申し上げることは、これは私は不見識だと思います。
そして、我々は住専処理策については、予算案の審議の中でもご理解を得たいということで全力を尽くしてきましたし、これからも全力を挙げて、あらゆる機会で努力をしてまいるつもりですが、その国会審議の中でも、昨年の暮れの時点においては、我々が知らなかった紹介融資の問題その他、非常にさまざまな金融機関としてみずから考えていただかなければならない問題が提起をされたことは、もうご承知のとおりです。我々は、真剣に金融機関の方々が自らの責任を問い直していただけることを今、願っております。
−続いて、幹事社の方から、沖縄のアメリカ軍基地の問題、そして安全保障問題についてお伺いします。
まず、アメリカ軍用地の強制収用手続の迅速化を図るために、土地の収用権を総理に委譲すべきだというお考えはお持ちでしょうか。特別立法なども含めて、見解をお聞かせ願いたいと思います。
それからもう一つ、日米防衛協力のための指針、いわゆるガイドラインの見直し作業で、優先的に取り組むテーマ、先程総理は、これまで臨場感を持って考えてこなかったような問題という表現でお触れになりましたけれども、優先的に取り組むべきテーマまたは項目は、どのようにお考えでしょうか。同時に、自衛隊法の改正は新規立法が必要だとすれば、いつまでに整備するおつもりか、その辺をお伺したいと思います。
○総理 まず、土地の使用権限の問題からお答えをしたいと思います。
現在、ご承知のように、楚辺通信所の一部の土地が残念ながら使用権限切れという事態を迎えております。そして、私は沖縄県土地収用委員会が緊急使用申立に対して許可を与えていただけることを、今も心から願っています。
というのは、私は駐留軍用地特別措置法が、その中に、この緊急使用申立という制度を設けたのは、まさにこういう事態をなくすためにつくられた規定だったのではないだろうか、そう思っています。
ただ、今回は政府自身が司法手続の終了を待って三月二十九日、期限切れぎりぎりに緊急使用申立をしたこともありまして、土地収用委員会の方で時間が私たちが予想した以上にかかりました。
本来は、私はこの駐留軍用地特別措置法の緊急使用申立という制度自体が、こうした事態を解決するための手法として選ばれたのではないだろうか、そう考えていますし、引き続き最大限の努力を払っていきたいと考えています。
ただ、法律論として一般論ということでお答え申し上げるならば、今、国と地方との間で地方分権の議論が進んでいます。そして、国の権限の中で地方に移し替えるべきものも議論されていますが、同時に、地方に今まで、例えば機関委任事務でお預けをしていたようなものの中で、国が本来責任を取るべきものがあるといったご議論もあります。そういう中で、例えば駐留軍用地特別措置法に基づく手続の在り方といったものも、幅広い勉強を必要とする問題の一つであろうと思います。
ただ、今、土地収用委員会のご論議が続いている中で、我々としてはあくまでも緊急使用申立にこたえていただけることが一番の願いでありますし、それ以上のことを申し上げる状況ではありません。
それから、二番目にガイドラインの問題がありました。私は、重要なテーマというとらえ方をするならば、むしろこれから検討していくことですけれども、日米安保共同宣言の中にもあります、日本の周辺地域において発生し得る事態で、日本の平和と安全に重要な影響を与える場合における日米間の協力、これは一つの重要なテーマだと思っています。あえてテーマというとらえ方をするならば、こういう申し上げ方になるでしょう。
しかし、政府としては、さまざまな事態を想定しながら、これから自衛隊を含めて我が国が必要に応じてアメリカと協力することも、日本自身の判断で行動することもあるでしょう。そうした事態に対応していくための手段を、きちんと整理しておく必要があると考えておりますし、そうした場合の法的側面にかかわる問題というのは、真剣に検討しておかなければならないと思います。
いずれにしても、こういう検討というものが我が国の憲法に従った形で行われる、これは当然です。ですから、ガイドラインの見直しそのものについては、クリントン大統領との合意を受けて、出来るだけ早くアメリカ側との間でしかるべき協議の場を設けて、今後の取り進め方についていろいろな角度から検討していきたいと思いますし、皆さんからもこういうテーマは検討しておくべきだというようなものがあれば、是非教えていただくという言い方はおかしいが、知らせていただきたいと思います。
個別の法律には、作業をこれからしようというとき、そういう必要が出るか、出ないか自体はこれからの検討ですから今、具体的に申し上げることは出来ません。
ただ、いずれにしても、我々は憲法の下で行政府として行動するのであって、その範囲はおのずから決まるものだと思います。
−次に政局の話題に移りますけれども、衆議院の解散の時期についてお伺いします。
総理は、かねて予算の成立が優先で、それまでは衆議院解散については考えないということを説明されてきたように思いますが、現在予算が成立した今の時点で、どのように衆議院の解散の時期について考えておられるのか、是非お聞かせください。
○総理 それは不正確な聞き方だと思いますよ。
私は予算の成立を区切りで申し上げたことはないはずです。
景気の回復を安定した軌道に乗せることが大切だということは私は言い続けてきました。そして、そのために一日も早く予算が成立をし、本予算が執行されることが大事だというふうに申し上げてきたつもりです。そして、今、お陰様で本当に今日予算は成立をさせていただきました。そして、景気も本当に緩やかながらも回復基調に入ってきた。しかし、残念ながら失業率は一時の三・四といった数字からは下がりましたけれども、依然として三・一、非常に高い、しかも従来の景気回復の局面では、もう中小企業は非常に元気が出てきていい時期なんですけれども、残念ながら依然として中小企業の経営環境は非常に厳しい状況です。これは引き続いて我々はこれからの法律案、先程触れてきたような住専あるいは金融機関の不良債権を処理していくためにも、幾つもの法律を国会でご審議いただかなければなりませんし、国連海洋法関連の審議も今日国会で始まったところです。外交関係を考えてもサミットも控えておるわけですし、私は今一日一日の自分の責任を果たしていくことに全力投球をしていますし、とてもそんなに簡単に解散などを考えられるほど精神的にゆとりがありません。
−続きまして、総理が今後の政界再編について、どのようなイメージをお持ちかについて二、三伺いたいと思います。
総理はかねて安全保障の問題は、政界再編の対立ということにはならないであろうというようなお考えを示しておられますけれども、それならば、かわってどんなテーマが機軸になるとお考えであるか。
更に、次なる政界再編のタイミングをどのように見ておられるか、また、新進党との連携について、総理のお考えを伺いたいと思います。
○総理 これは逆に質問しちゃいけないんですか。
再編というものは、何か決まっていることなんでしょうか。この内閣は改めて申し上げるけれども、社民党そしてさきがけの皆さんが自由民主党の私を首班候補として指名をしていただいたことで成立した三党連立の政権です。そして、私はそれなりにこの三党連立というものは根づいてきていると思います。
それと同時に、今、対立軸というような感じで安全保障の話を言われましたけれども、私はそういうとらえ方が、むしろ五五年体制と言われた時代の発想と同じなんじゃないだろうかと思うんですよ。自衛隊合憲、自衛隊違憲、安保必要、安保破棄、しかし、実際にお互いがひざを付き合わせて話してみると、見解の差はあっても、その必要性というものは、みんなお互いの共通の認識の中にありました。現に、社民党の皆さんが今大きく変わられて村山内閣以来、今日の姿を持っておられること。
そして私は、例えば、このガイドラインの見直しの作業にしても、例えば、憲法九条改正、是か否かとか、あるいは集団自衛権、是か否かといった、そういう神学論争の部分から始めるべきではないと思っています。
先程わざわざ私が在留邦人の救出という例、あるいは大量に難民が発生した場合に、その難民をどう救出するか、それを我が国で受け入れるかといった、非常に具体的なイメージが描ける例を引きました。今、我々がやっておかなきゃならないのは、そういう臨場感を持った問題を一つずつ議論しながら、あり得べき事態を想定し、それに対する対応策を考えていくべきなんじゃないでしょうか。そして、新進党の皆さんは野党第一党として今、国会の中で論陣を張っておられる。その皆さんを対象にして、それも再編とか、あるいは連合とかいうこと自体が大変礼を失することじゃないでしょうか。違うかな。
−総理、形式論と言っては何ですけれども、向こう一年以内に総選挙があって、その先に政界再編があるということは、もはや国民的常識だろうと思うんですけれども、その中で現政権の指導者である総理が、そこにイメージを持っていらっしゃらないということの方が、かえって不自然ではないかと思うわけですね。
〇総理 しかし、三党連立の内閣の首班がそういうイメージを持っていたら、もっとおかしいんじゃないですか。
−そうしますと、総選挙後もやはり自・社・さ三党の連立が基本であるというお考えであると。
〇総理 少なくとも、私は今、この三党の連立政権というものは、社民党の皆さんや、さきがけの皆さんがもう嫌だと、自民党とは縁を切ると言われない限り、自民党の方からどうこう申し上げるべき関係ではない、それだけの信頼関係は築いてきたと思っています。
もちろん選挙ということになれば、それぞれが当然政党としてお互いの主張を持っているわけですから、それは連立政権といえども、その三党は正々堂々と場所によっては競い合う場所もあるでしょうし、場所によっては協力し合うところもあるでしょう。そして国民がどういう審判を下されるか、その結果によって、おのずからまた次の議論というものは進むのではないでしょうか。我々が勝手なイメージを描いて、国民に押し付けていい種類の話だとは私は思いません。この連立政権の是非についても、その選挙において国民が審判を示されるでしょうし、その審判を待って我々は考えるべきことだと思います。
−幹事社からは以上です。各社自由にどうぞ。
−金融行政を含めた行革の問題をちょっと伺いたいんですが、今、与党の中に日銀法の改正が必要だという議論があります。それから、これ以外に大蔵省の金融行政を機構の面からも見直すべきだという意見もありますが、最近与党の行革本部とかなり濃密な議論も交わしていらっしゃるようですけれども、総理としてどのような切り口でこの金融行政、あるいはその先に公務員制度とか、大きな問題がどんどん出てくると思うんですが、これから先の行革の展開というものを、どうさばいていかれようとするのか、大きなテーマですが・・・。
○総理 これは二つの立場で答えさせてください。政府の長としての立場では、先般来、行政改革委員会あるいは地方分権推進委員会、更に国会等移転調査会等々の関係の審議会の方々にお集まりをいただいて、それぞれのテーマがばらばらに動かないように、連携を取りながら進めていただけるように連携の体制をつくりました。これはもう既に事務局べースまで含めて連携を取りながら動いていきます。ことに地方分権と規制緩和というのは、ところどころで逆にバッティングを起こす可能性のあるテーマですから、相互の連携を密にしていかなければ、一つの方では正しくても反対の面では動かないというケースをつくってしまう。ですから、政府としてはそういう構え方で、関連する審議会の横の連携を取りながら、そごを来さないように作業全体を進めていきたいと思っています。
そして、党の方の責任者としての立場では、ここのところ行革本部の諸君と自由民主党の関係者、随分私は議論してきました。そして結論から逆さに申し上げるなら、日銀法を含めて聖域は設けておりません。公務員制度の在り方についても聖域を設けておりません。
ただ、個別の、例えば金融行政という一つのテーマについて今具体図を求められても、これを申し上げるわけにはいきません。我々はまさにその日銀法の改正がどういう形に、例えば、結論が出るかによっては金融行政そのものも変わるわけですむ、日銀法がほとんど動かない、あるいは変わらないでいいという結論になれば、また違ってくるでしょう。こういう関連のある話ですから、個別の部分のことはまだしばらく作業をさせていただきたい。議論は尽くしていませんから。
−総理、また蒸し返して申し訳ないんですが、先程神学論争は避けたいとおっしゃった集団的自衛権の問題ですが、まず最初に臨場感を持ったものから、まず現行法制憲法の枠内で出来るものから手をつけようということなんですけれども、今回の日米の安保共同宣言の先に見えるものは、今まで国民が余り関心を持ってこなかった極東有事、有事の場合に日本は一体どういうことをしていったらいいのか、後方支援の問題も含めて国民の大きな関心事だと思いますが、その問題については、いついかなる場合にどういう論議を進めて行くのか、先程言った臨場感の話の後に来るものなのか、そこはいかがでしょうか。
〇総理 私は問題の設定の仕方で両方のケースがあり得ると思います。しかし、例えば在留邦人の救出を必要とするような場合、これはいわゆる有事であるのか、その前段階に発生するのか、そういうことだって実は個別に入ってしまえばあります。私は出来るだけ神学論争ではなくて、具体的ということを申し上げたんですけれども、いろんなケースを想定して、これからその意味でもこれも聖域はなく議論をやっていきますけれども、その中で当然のことながら、我々が憲法の下で出来ないというものはあるんですから、そういう問題はそういう問題として、こういうケースは我々としては対応出来ないとか、対応してはいけないんだとかいうことをご説明する場面もあるかもしれません。これはこれからやることなんですから、先に決め込んでこういう問題に入っていくだろうという仮定をされることは、私は少し足が早過ぎると思いますよ。
そして、来週出来るだけ早い時期に、私は安全保障室そして外務省、防衛庁、関係の諸君に集まってもらって、想定されるいろいろな事態にどういうものが想定されるのか。それに対して、日本が考えておかなければならないものはどんな問題なのか、そうしたものの議論をスタートしたいと思っています。
ただ、同時にもう一つ申し上げておきたいことは、集団的自衛権の行使にかかるような行動を日本が取ることをアジア・太平洋地域の国は求めていないという現実は、お互いに忘れてはいけないと思いますよ。だから、神学論争は嫌だというんです。
昨日、ニュージーランドの首相と随分長い会談をしました。そういう中でも、今度の共同宣言を評価していただいて、日米安保体制というものが堅持をされることに対して非常に喜んでいただいて、これがアジア・太平洋地域の安定につながるという評価をしていただいている。その上で、自衛隊が集団自衛権の下に行動することを求めてはおられない。そういう現実も、お互いが頭に入れておく必要があるんじゃないでしょうか。
−今日の発言の中で、財政再建の必要性、実効力ある景気回復の必要性とおっしゃっていましたが、この九月で消費税引き上げの五%を見直すかどうかという問題と、今年で切れる特別減税をどうするかという問題があると思うんですが、これはまさに財政再建と景気回復の両方の視点から考えなきゃいけないんじゃないかと思うんですが、それについてのお考えはいかがですか。
○総理 まず第一点に、消費税の税率を次年度から五%に引き上げるというのは既に法定されていることですね。そして、同時に確かに検討条項があります。そして、今、私の頭にあることをそのままに申し上げるならば、この景気が本当に順調に回復をして、消費税が引き上げられても吸収出来るだけの体力になってくれればいいと。
しかし、その五%を超える負担をお願いが出来るほど、今まだ景気の足取りはしっかりしていない。これは、率直な今の私の感じを申し上げておきます。
しかし、議論はこれからですし、まさに我々は本当にこの景気の回復が軌道に乗ってくれること、しかも今はまだ残念ながら公共事業に引っ張られている部分を相当持っているわけですから、これは完全に民需で回復軌道に安定してくれることを今、願っていますけれども、そこまでいくためには、これからまだ我々は随分努力しなきゃなりません。
そういう状況の中で今、例えば来年度予算に関連するような部分についてまで申し上げられる状況ではありません。
−近い将来の内閣改造という可能性ですが、どういうふうにお考えでしょうか。
○総理 官房長官、何かそんなことがあるんですか。
日本のことでしょう。少なくとも、そういう考えは全く私はないんですけれども。
何でですか。
−待望論も含めて、最近そういう声も聞かれますので、総理のお考えを。
○総理 その待望論は、私には実は届いていなかった。そして今、そんなことを考える状況じゃない。国会の最中ですよ。国会が終わっても、多分そういうことを考える気にならないんじゃないかな。
−今、来年度予算については、ちょっとお答え出来ないということでしたが、あえてお尋ねいたしますが、先程財政再建の論議が強く重要性を指摘された中で、これから夏に向けて、平成九年度予算のシーリングの策定作業というのも始まっていくと思うんですが、その中でシーリングをどういう姿勢で策定されるおつもりなのか、基本的な考えをお聞かせ願いたいんですけれども。
○総理 それは無理だ。今日、今年の予算が通過して、例えばそれを受けて本年度の公共事業の執行についてもどういう体制でいくか、大蔵大臣が閣議でご発言になるのは次の閣議になるでしょう。そして、そういうものが済んでから、シーリングその他の話が始まる話であって、ただ、シーリング以前の問題として、私は先程そういうご質問が出ると思っていれば、もう少しきちんと申し上げた方がよかったんだけれども、財政審、経済審、そして社会保障制度審議会、政府税制調査会という四審議会の合同の会合を持っていただこうと考えた理由は、それぞれの審議会がそれぞれの立場でご議論をいただいているものを集約していかないと、国民負担率から見ても、例えば税の方が、減税が進んだとしても、社会保障保険料が高くなれば、国民負担としてはもしかすると高くなるかもしれない。国が国民からいただくお金ということでは、トータルは大きくなるかもしれない。それが今、ばらばらに動いていることが気になるから、その関係も審議会の中心の方々に集まっていただいて、共通の認識を持っていただこうとしている。
その中で、おのずから全体の考え方を整理していく。そういうスタートを切ろうと今しているという状況ですから、来年度のシーリングについてこういう形でやりますなどというところまで、私自身の頭もまだ整理出来ていません。
−財政再建の論議をリンクさせていくということになるわけですか。
○総理 そうです。
−予定の時間を超えましたので、そろそろ打ち切りたいと思いますが、最後の一問ということでお願いします。
−アジア助成基金の問題についてお尋ねいたします。
先般、呼掛け人の一人でした三木睦子さんが総理と面会された直後にお辞めになられるとか、あるいは昨日総理が予算委員会で謝罪の手紙の内容について、謝罪という意味がよく分からぬというご答弁をなされているように聞いております。先の村山内閣のときの対応と、現在の橋本内閣での対応に若干違いが出てきたのではないかという見方もありますが、それについていかがでしょうか。
○総理 私は人の話はどうお考えになっているか分かりませんが、違いがあるかないか分かりません。ただ私自身もこの基金に募金をしてきた一人ですが、私は少なくとも従軍慰安婦問題というのは、女性にとって最大の人権侵害という言葉で済むのかどうか、侮辱を与えた行為と言うべきなのか、いずれにしても精神的な苦痛を与えた行動であったことは間違いないと思います。それだけに私は国民の本当に広い募金によって、その償いが進められることが望ましいものだと思ってきました。その意見は今でも私は変わりません。
今、相当多くの一般の方々あるいは労働組合等から募金をしていただいていますけれども、残念ながら予定をしている金額にはまだ足りない。そして先日、理事長の方から募金の協力依頼があり、その募金の協力依頼のお手伝いをさせていただくというお約束を私もいたしました。
同時に、スタートして本年の八月十五日でもう一年以上経ってしまうわけですから、出来れば一年経った七月の中旬から事業を開始したいと、理事長は大変強い希望を持っておられます。これが出来るように私も全力を挙げてお手伝いをしていくつもりです。
そして、その場合にどれだけ国民の心のこもったお金であっても、そのお金だけをお渡しして済むものではないということは、私が昨日も国会でも申し上げました。どういう形にするかについては、村山内閣のときにも、私ども閣僚の一人でしたけれども、どういうやり方をするというご相談を閣内でやったことはありません。その時期までにどういう形が一番望ましいのか、しかしお金だけ差し上げればそれで済むといったような非礼な行動をとるつもりはありません。
そして、私に会われた方が外で何を言われたか知りませんけれども、その方々との間に、今一人だけの名前をお挙げになりましたけれども、何人かの方々とお目にかかりましたが、そのときに謝罪文といったお話は、話題が出ていなかったということだけは申し添えておきます。そして、お金だけをお渡しすればそれで済むといったような性格の問題ではないことは、そんな非礼なことで済む問題ではないことぐらいは、私も知っているつもりです。
−では、これで打ち切りたいと思います。どうもありがとうございました。