[文書名] 第百三十六回通常国会終了における記者会見(橋本龍太郎)
○総理 どうもありがとうございます。
第百三十六国会が昨日閉幕をいたしました。恒例の記者会見に当たって、冒頭私からこの国会を振り返りながら、また、韓国訪問及びサミットに向かって簡潔に所感を申し述べたいと思います。
まず、衆参両院におかれましては、政府が提出をいたしました平成八年度予算、また、各種の法案について精力的にご審議をいただいたこと、この場を借りて厚くお礼を申し上げたいと思います。
私にとって総理大臣という重責を拝命して初めての国会でした。一日一日が本当に緊張の連続でしたし、その意味では国会が終了して、今日、やはりその緊張はとけません。その重味というものをかみしめながら、これからも緊張を持って日々の仕事に当たっていきたいと、そのように思います。
まず、初めに予算、及び関連法律案を含めて、住専問題について申し上げたいと思います。
政府は住専処理機構を早急に発足をさせる。そして、預金保険機構と一体となって強力であり、かつ効率的な債権回収などによって、少しでも国民の負担を減らしていく努力をすることは当然でありますが、同時に、損害賠償請求権の行使などによる民事上の責任追及に取り組むことになります。
また、刑事上の責任については、当然のことながら、この責任追及は捜査当局の手によって厳正に行われるものと確信しています。
また、我が国の金融システムの安定性確保の観点から、関係金融機関などの資金拠出によって、新しい基金を設置することなどを検討して、結果として、国民負担を可能な限り軽減していく考えです。そして、この住専問題の処理を突破口として、我が国の金融機関の抱えている不良債権問題の早期解決に取り組んでいくとともに新たに成立をした金融関連各法を踏まえて、透明性の高い金融行政を確立していきたいと思います。
政府がこの国会において、住専問題の解決を最重要課題と位置づけた理由は、住専問題を解決しなければ、その早急な解決を待たなければ、景気の回復に悪影響を与えかねないと判断したからです。そして、これを回避することこそ、政治の責任だと私は判断をいたしました。
幸いに本年一−三月の成長率は三%と高い伸びを示していますし、今後民需中心の本格的な景気回復にこれが結び付いていくことが期待されるわけですが、一方では失業率、あるいは有効求人倍率という雇用面での不透明感も残っており、私としては、景気動向を注意深く見守っていかなければならないと考えております。
そして、中長期的な経済構造改革というものも視野に置きながら、切れ目のない適切な経済運営を図っていきたいと思います。
我が国の財政構造改革が緊急の課題となっている現在、国民の財政という視点から、私としてもこれには全力で取り組んでいきたいと考えております。
この財政構造の改革という方向性の下で、いかに適切な経済運営を図っていくか、大変難しいかじ取りをしなければなりませんけれども、最大限の努力を払っていくつもりです。
また、消費税率について、私は法律で定められているとおり五%ということを考えておりますけれども、サミット前には最終的な確認を行いたいと考えております。
次に、外交問題ですが、金泳三大統領のご招請を受けて、私は明後日韓国を訪問することにいたしました。私は首脳同士が気軽に会談出来ること。それが二国間関係の基礎だと普段から考えてきましたが、特に朝鮮半島情勢が不透明な中で、隣国の韓国とは不断の対話が必要だと思っております。
今、ワールドカップの共催を契機に、将来を見据えて両国の友好、協力関係の重要性の再確認を行うことが出来、この共催の中から本当に新しい日韓関係が友情にあふれるものに出来るように、そうした意思を確認することが出来れば幸いだと、そのように考えております。
また、二十七日からはリヨン・サミットが開催をされます。G7の各国首脳などと幅広い交歓を行いながら、その意見の交換の中から、将来を見据えた何かを得てきたい、そう考えております。
今回のサミットは、議長国のフランスの提唱により、経済のグローバル化というものを中心として議論をすることになります。
経済のグローバル化、これは当然のことでありますし、また、必然性の中で好ましい流れと私はこれをとらえておりますけれども、同時にそれに伴う困難をいかに克服すべく取り組んでいくか。
更には、労働市場の柔軟性を高めることを含めて、規制の撤廃・緩和こそ、この流れに対応するためには不可欠である。こうしたことを主張する機会を是非持ちたいと思っております。
同時に、併せて、これに取り残されるおそれのある発展途上国への開発支援の重要性、こうしたことも指摘していきたいと思っております。
最後になりますが、今国会で残念ながら成案を得られなかった幾つかの問題に触れたいと思います。
まず、介護保険につきましては、与党三党で合意事項がまとめられました。私はこの問題は、現在、及び将来の国民の一人一人にかかる非常に重要な課題だと考えておりますし、高齢者介護システムを構築すること、制度化することは、この国の将来を考えるとき絶対に必要だと思います。
同時にこの制度を構築するに当たって、特に我が国の経済活力への影響を十分に考慮する。同時に、年金、あるいは医療などを含めた社会保障制度全体の改革の中で、これを位置づけていかなければなりません。
同時に、国民の皆様にこの介護のシステムをつくることの重要性を、改めて理解していただく努力の必要性も痛感しておりますし、国民各層の幅広い合意形成を図りながら、次期国会に法案を提出出来るよう取り組む所存です。
次に、民法の改正問題です。この点については、私のところにも随分たくさんお便りなどがまいっております。その中でも特に選択制夫婦別姓については、本当に幅広いご意見をいただいています。それを見る限り、実は賛否相半ばするという感じがいたしますし、この問題は個人個人の見方によって家族感、あるいは道徳感、あるいは文化論など、さまざまな思いがある問題であり、非常に難しい問題だと思いますが、国民的な議論の下に、国民的な合意形成というものに努めていきたいと考えております。
以上、私の所感を申し上げましたが、この国会中、与えていただいた国民各位のご理解とご協力に改めてお礼を申し上げるとともに、引き続き政府が全力を持って取り組んでいく国政に対し、ご協力とご支援を心からお願いを申し上げる次第です。
−ありがとうございました。
幹事社から冒頭二問質問させていただいて、後各社から自由に質問をさせていただきます。恐縮ですが、総理、お答えを少し大きな声でお願いしたいというのが各社の要望ですので、よろしくお願いいたします。
○総理 すみません。それだけ疲れて、厳しい国会だったということでもあるんです。
○山田(毎日) それでは、内政で冒頭お触れになりましたけれども、住専問題、これはおっしゃるように、確かに政治的にと申しますか、国家的には一区切りがついたわけですけれども、これも総理がお触れになりましたとおり、これで終ったわけではないのでありまして、いわゆる第二次損失の規模の問題、それから他の金融機関の破綻を救済する可能性も含めまして、今後、国民の税金が更にどのくらい投入されるのかという見通しを持って処理に当たられるのか、そこを明快にひとつご説明いただきたいと思います。
○総理 ちょっと順番を引っくり返した格好になりますけれども、いわゆる二次ロスと言われるもの。これは現段階で一定額の発生というものを想定しているものではありません。この点をまず冒頭申し上げなきゃいけないと思います。
今後の地価の動向、あるいは経済の動向によっては、いわゆる二次ロスと言われるものが発生する可能性を否定し得ない。これは事実なんですけれども、新たに設立をされる住専処理機構等が買い取った債権など、これは強力な回収努力を続けていきますし、これからの回収、増収分を国庫に還流させることによって、結果として全体としての財政支出を抑えるように努力していきたい。これが今私の基本的な考え方です。
同時に、預金受け入れ金融機関の破綻処理については、原則としては、金融システムの中で解決されるべきものですし、関係の審議会の答申も、信用組合といった特殊なケースを除いてこうした方向を示してこられました。
五年後からは、我々は預金者も含めて自己責任で解決する。これを基本としたいと、そう考えておりますし、そのためにも自己責任原則というものと市場規律の十分な発揮の出来る、そうした透明度の高い金融システムを構築していこうと考えています。
今、お話のありましたような問題点を含んでいる、それはご指摘のとおりです。そして、当面、それでは直ちに預金者に負担を求めるということが出来るかと言えば、今までの金融システム、金融行政の中で、私はそれは預金者に酷な話だと思っていますし、困難だと思います。
ですから、特に信用組合に限りましては、どうしても必要な場合には、政府保証などの措置を講ずるという考え方を取りました。この場合、財政支出も考えられます。しかし、預金保険料を従来の七倍程度に引き上げた。そして、三年後にはそのときの情勢に応じて特別保険料率の見直しを行うことなど、既に措置を講じていますので、私は多額の財政支出が必要になるとは考えていません。また、そういう方向に我々は努力していかなければならない、今、そう考えております。
○番(TBS) 続いて外交問題についてお伺いします。
週末からの韓国訪問、並びにリヨン・サミットヘの取組みをお伺いします。
まずサミットでは、エリツィン大統領は欠席ということになりましたが、焦点となりますロシア支援の論議で影響が出ることはないのでしょうか。
また、朝鮮半島情勢もテーマの一つになることが予想されますが、この問題で韓国訪問からの一連の流れを含めて、どのような形で取り上げられるのか、その辺をお聞きしたいと思います。
また、韓国訪問に関しては、この時期にお決めになった経緯もお伺いいたします。
〇総理 今、述べられた順番を、そのとおりにうまく言えるかどうか分からないんですが、ちょうどASEMの会合で金泳三大統領と首脳同士の始めての会談を行ったとき以来、金大統領から折に触れて訪韓のお誘いを受けてきました。そして、まさにサッカーのワールドカップの日韓共同開催といった、これから先のお互いの関係に、これを成功させれば新しい一ぺージが出来るだろうし、また、是非そうしたいと願っている、そんなチャンスが与えられたこともありまして、国会のお許しがいただければ、この時期に韓国を訪問したいというお返事をしておきました。
会期延長はなく、この週末、韓国を訪問出来るようになったことは、大変私は幸いだと思っていますし、これは両国の友好協力関係の重要性を再確認する、そんな場になればということを願っていますし、当然のことながらその中で国際情勢についても、あるいは北東アジア情勢、二国間の関係についても、フランクな意見交換が出来ることを心から期待しています。
そして、当然のことながら、サミットの中で、朝鮮半島情勢、北朝鮮の問題をどういうふうに取り上げるかというのは、まだサミット全体の日程が確定していない中で、私自身がこう思うと、断定的にはなかなか申し上げられませんけれども、私はエリツィンさんが出席出来なくなったことは、大変残念だと思いますけれども、まず第一に、経済部分についてはその影響はありませんし、政治部分についてもご本人からじかにロシアの今の政治情勢、あるいは考え方を伺えなくなったということは大変残念ですが、結果的に多少の時間の出入り、テーマによっての長さ、短さ、こうしたことはあろうかと思いますけれども、それほど全体に大きな影響を持つとは思えません。むしろ、それだけ情勢の厳しいという認識の下に、ロシア問題の議論もお互いにすることになるでしょう。
そして、私はサミットの中で議論をされる地域問題、ボスニアの問題あるいは中東の問題、これらの和平プロセスの問題もありますし、中国などを含めたアジア・太平洋情勢、当然議論の中に出てくると思います。
そうした中に、金大統領との会談で得られた話を出来るだけ生かしていきたい。そして、朝鮮半島の安定に資する役割を多少でもその中で果たすことが出来れば、そのような願いを持っています。
−それでは、各社から順次お願いします。
○安部(フジTV) 消費税の問題なんですが、五%という方針が間もなく確認されるということなんですけれども、介護保険の問題、そういった福祉の問題については法案が次期の国会へということで、国民の方から見てみると、一体どういうふうになっているんだろうということが、いま一つ見えにくいということがひとつあります。更に総理が掲げていらっしゃる行財政改革、この問題もまだ着実なステップを踏み出したとは言い難い中で五%ということが決まっていくことに対して、国民は何となく釈然としないものがあるんじゃないかと思うんですけれども、その点はいかがでしょうか。
○総理 平成六年の秋の税制改革の中で、所得税、個人住民税の負担軽減をする。そして、平成九年の四月一日から消費税率を五%に引き上げる。これは、法律で一体のものとして既に通過成立をしている。まず、この点を思い出していただきたいと思うんです。その上で、検討条項が付されました。
私は、その消費税率について、先程申し上げたように法律に定められたとおりに五%ということだと思いますけれども、国会における今日までの、あるいは今後のご論議、またこれまでの各方面のご議論あるいはその意見の動向というものを踏まえながら、まさに今、政府税制調査会あるいは与党の税制調査会に大詰めの議論をしていただいています。そして、先程申し上げたんですけれども、私はこうした議論の動向を踏まえながら、サミット前には最終的にその確認はしておきたい。それでないと、サミットにおいて日本の立場で議論をする時に、税の根本的な部分が決まっていないという状態は非常に不安定だ。むしろ政府のスタンスを明確にする意味でも、やはり基本的なものを決めていく必要がある。私はそういうふうに思っているわけです。
一方で、確かに行政改革、これは道半ばどころか、これからスタートをしようという状況であることは私も決して否定をしません。
ただ、同時に、今あなたが言われる行政改革という意味が何か、私はよく分からないけれど、例えば国家公務員の定数を減らすというのが行政改革であるなら、平成八年度の国家公務員の定数は削減をしました。あるいは、国の出先機関の業務の再編整理といったことが一部の省庁で行われたことは、ご承知のとおりです。
そして、むしろ私は今の議論の中で、例えば介護のシステムづくりといった問題にも触れられたんですけれども、ここで改めて国民の負担ということを考えていただきたいと思うんです。介護システムについて私は不可欠だ、これから先絶対に必要になる制度だと申し上げました。
同時に、年金とか、医療とかといった社会保障全体の改革の中でこれを位置づけていかなければならないということを申し上げました。なぜならば、こうした政策を実行する場合、その恩恵を受けていただくのも国民ですが、その費用を負担していただくのも国民です。そして、税であれ、保険料であれ、国民にご負担をいただくという意味では変わりはありません。そして、その税でいうならば、地方税であるのか、国税であるのか、直接税であるのか、間接税であるのか、国民にご負担をいただくという意味では変わらないわけです。
今まで往々にして税の世界の話は税の世界、例えば年金や健康保険の保険料はその保険料の世界と、別々に議論されてきました。
しかし、そのトータルとしての国民負担率を考えたとき、一体それではばらばらの制度で、ばらばらに国民に対して、受益もあるけれども負担も国民だというような仕事を無制限につくっていけるでしょうか。
私は、そうした意味では税と保険料の負担、すなわち国民負担率というものを頭に置きながら、仕組みはつくっていかなければならないと思います。同時に、新しくつくる介護のシステムは、当然のことながら住民に一番身近な行政ですから、住民に一番身近な自治体にご協力を願わなければならない性格のものですから、当然市町村の協力も必要です。
それから、同時にただ単に仕組みが出来れば、それですべていいというものではありません。むしろいかにその中に民間の力を加えていくか。民間活力というものを加えていくか。同時に、新しい雇用の場を創出するか。言い換えれば、そうした分野の仕事に携る方が、善意に基づいて自らの犠牲で福祉を行うのではなくて、きちんと社会的にも認知をされ、尊敬される職業であり、生活を維持出来る収入のある職業でもあるという仕組みに、これをつくることが出来るのか、それを国民の負担との間で考えていくのは大変難しい問題点を含んでいますけれども、私どもは臨時国会までの時間を利用して、次の国会、ある程度の時間があるでしょうから、その間にこうした問題点をきちんと議論をし推理をし、与党としての意見をまとめていただきたい、政府としてはこれを次の国会に提出したい、そんな位置づけで考えています。
○桜井(朝日) 今のに関連するんですが、先日自民党の方で橋本行革の基本方向についてというペーパー、いわゆる橋本行革ビジョンをまとめられました。これは党総裁として了承されたものだと思いますが、これと今からお進めになるいわゆる三党の連立政権の長としての位置関係とはどういうふうになっているのか、その部分をちょっと説明いただけますか。
○総理 たしか六月十八日だったと思いますけれども、自由民主党からいわゆる行革ビジョンというものを発表していただきました。これは私から本当に強いお願いをし、水野本部長以下、党の関係者に大変なご努力をしていただいてまとめていただいたものです。その限りにおいて、自由民主党がこれは公表したものであり、連立政権の中の他の二党、社民党さん、新党さきがけさんにその意味では了承を求めたものではありません。
そして今後、党側としては、そうした手順を踏んで、連立のパートナーである両党に対しても、その内容に対しての理解を求め、また方向についての協力を得たいと考えているという報告を受けています。
これは、確かにビジョンという言葉が的確かどうかは別として、少なくとも高齢化社会の到来が現実的になり、また、経済環境が大きく変化する中で、いわゆる大競争時代、企業が国を選ぶといった時代が現実のものになった。そういう状況を考えますと、あの内容を実現するというのは、これはそう簡単な話ではない。むしろ非常に難しい。しかも、短期間で出来るものはそんなにたくさんあるわけではないということは、私自身承知していますけれども、少なくとも我々は死にもの狂いでこうした方向に取り組んでいかなきゃならないと思っております。
今、一方で政府として、例えば行政改革に関連する幾つかの審議会、あるいは財政、社会保障、税制に関する幾つかの審議会、従来の縦割の審議会の関係から、それぞれの審議会が連携を取りながら、議論の土台をそろえる努力をしていただいているのも、そうした状況に向けての政府としての努力の一つの方向なんです。是非そういう方向に皆さんにも協力をしていただきたいと願っています。
○山田(毎日) 行政改革にお触れになりましたけれども、行政改革の一つだと思うんですけれども、大蔵省改革というのはどうなっちゃったんでしょうか。これは住専問題が出た当初から、大蔵行政の総点検ということは指摘されておりました。ところが、この国会が終わる直前に与党のプロジェクトチームが、これを審議しておきながら結論を先送りにした。そうしたら、住専関連の予算は通った、法律も出来た。しかし、構造改革は先送りだと、橋本政権はやる気があるのかというのがやはり国民の実感だと思うんですけれども、総理のお考えになる大蔵省改革の展望、イメージということをご説明いただきたいと思います。
○総理 私は十三日の日に、与党の金融行政を始めとする大蔵省改革プロジェクトチーム、正式な名前はそういう名前だったはずですが、検討結果を取りまとめられた。その内容というのは、むしろこれからの時代の変化に即応した金融行政、今、大蔵省だけを言われましたけれども、日本銀行の在り方についても問題を提起されて、今後の改革の大きな方向を取りまとめられた。そして、引き続き具体策の策定に向けて政治主導で取り組む決意を示されたもの、そのように受け止めています。
そして、私はこの報告は、真勢に受け止めたつもりですし、具体案の取りまとめに向けて、与党と緊密に連携を取りながら鋭意検討していきたいと思っています。
ただ、国会が動いていて、毎日大蔵省の諸君が国会に呼び出される。大蔵大臣も国会に呼び出されているという状況で、改革案をつくる時間、ゆとりというのはどこにあったでしょう。物理的にもそれは私は分かっていただきたいと思う。
そして、同時にもう一つの問題である日銀法の改正、これは国民経済に大きな影響を与えるだけではなくて、各国の中央銀行の制度、それぞれとの整合性の問題等も含め、私は幅の広い観点から十分の議論を必要とするものだと考えています。この国会の終了後、出来るだけ早い機会に、私は、このために高い見識を持った方々による、例えば研究会とでも仮に名付けましょうか、こうした検討の場を私の下に設置をする、発足をさせて、早急にその人選を行いたいと思いますし、その人選が終わり次第、出来るだけ早く初会合を持ちたいと思っています。ここでは相当専門的な議論も行っていただく必要があるでしょう。
私はその大蔵省と日銀と、同じだというつもりはありません。しかし、金融行政に関する大蔵省の立場に変化が生ずれば、当然ながらそれは日銀にも影響を及ぼすことですし、それは七か国中央銀行大蔵大臣会議と言われる、いわゆるG7の場における日本の発言の土台の組み立ても、当然それによって影響を受けるわけですから、改正については、それだけの専門家の方々にもご意見を承る場所を私の下に正式につくりたい。そして、これは昨日国会が終わって今日まだ官房長官と人選のご相談をする時間もありませんけれども、私はその人選には早急に入りたいと思っていますし、それがかたまれば、出来るだけ早くその初会合は持ちたいと、そう思っています。
○安田(東京) 景気と経済運営について伺います。このところ経済運営、特に財政金融なんですけれども、超低金利政策が象徴するように、信用不安とかデフレの回避というのはかなり緊急避難的要素の一つだと思うんですけれども、ここへ来てGDPが高い伸びを見せ、住専処理機構もスタートしたということで、一つは信用不安とかデフレの危機、当面の危機は回避されたというふうにお考えかどうか。
それから、緊急避難的な政策がここで転換点を迎えつつあるというご判断をお持ちかどうか。その辺りをお願いします。
○総理 それは、金融政策まで含めて。
○安田(東京) 金融政策というか、経済政策ということで。
○総理 全体ですね。
私は、この間発表されました今年一−三月期の実質GDP成長率の前期比三・○%増、これは年率に換算すれば一二・七%になるわけですが、この数字はある意味でほっとする数字です。
ただ、当然のことながら今年はうるう年ですから、その影響をGDPで言うと○・五%くらい押し上げると言われていますけれども、そういう要因がある。
あるいは、昨年の二次補正による公共投資などの一時的な要因もある。だから、実勢より高目に出ているということは言われています。そうした点を注意した上でも、この数字はある程度私はほっとしています。
ただ、先程も申し上げたことですけれども、確かに政府投資だけではなくて個人消費にしても、住宅建設にしても、あるいは設備投資なども大幅に増加してきている。これ自体は民需主導の景気回復への移行に期待を持たせる数字なんですが、雇用の方は依然として私は非常に気になっています。
ことに調べてみると、実は雇用者数、雇用労働者数といいましょうか、新規の雇用者数はこのところ増えてきているんですね。ただ、その数が大企業が思ったより多くないとか、そういう問題はあります。しかし、実は雇用者数自体は増えてきている。どの指標を見ても増えている。
ところが、自営業とか、こうした分野で非常にマイナスが大きく出てきていて、トータルとしての雇用情勢は失業率が依然として三・四%、有効求人倍率も○・六七倍というところにある。
この中で私にとって非常に気になるのは、自営業等のところでその数字が非常に厳しいということです。これは、マクロで見る限り、中小企業も今、景況はよくなってきているという数字が出ているわけですが、一方では、例えばもう自分たちは年を取った。もう跡継ぎもないし閉めるんだというような方、あるいは親企業が海外に出ていってしまったから、新しい親企業を開拓する意欲もなくなったからということで閉めてしまわれる中小零細企業が依然として多い。こういうことにもつながると私なりに思います。そうすると、これが実は非常に気になる数字なんです。
同時に、そういう意味では今、日本が産業構造の上からいけば既に成熟している社会ですし、その成熟のままでより拡大する経済という事態を迎えることは出来ないと思います。ですから、むしろ中長期的に経済構造改革を本気で我々は進めていかなければなりませんし、具体的には規制の緩和撤廃といったこと、あるいは新規産業の創出、これを言葉で言うことは簡単ですが、我が国の市場で立ち上がりの時期に企業が資金を調達することは難しいということはよく言われることです。
今回の国会のご議論の中でも、金融機関の視点というものが抵当物件、ことに土地に行き過ぎたということには非常に厳しい批判があったわけですが、アメリカ等に比べて、その立ち上がり時のリスクマネーを供給する市場が非常に少ないということが問題として指摘されております。それは督促市場などの整備をしたり、いろいろな努力をしているんですけれども、ハイリスク、ハイリターンにお金、立ち上がりの時期における資金調達が非常に難しいということは依然として変わりません。
むしろ、新規産業を創出するためにはその科学技術を育てる。その研究開発の中から成果を摘み取るといった努力、あるいは規制緩和によって新たな分野を民間に開放していく。あるいは、その緩和の中で新しい業態をつくり出していくといったことだけではなくて、立ち上がりにおける資金をどう、リスクマネーをどう調達するか、供給するかといったことまで考えなければならないんです。そういうことまで併せて、私は本当に自由で活力のある日本経済というものをつくるために努力をしていきたいと思います。
そして、金融政策について、これは我々が言うべき立場ではありませんし、まさに日銀さんの専管事項です。
ただ、その上で今、低金利政策というものが産業界に活気を少しずつ生み出す原動力になっていることを認めて、その上で預金生活者の方々とか、年金生活者の方々が大変その影響を受けておられることは事実なんですから、関連する業界の方々が、そうした分野に着目して新たな商品開発の努力はしていただきたい。
これは、今朝たまたま三労懇という、産業界、労働界、更に学識経験者の方々のお集まりの席上でも私は申し上げたことですけれども、例えば預金生活者の方々やあるいは年金生活者の方々を対象にし、その方々のためになる商品開発を政府は全く規制をしておりません。むしろ、私は関連する業界の方々には、一方で低賃金による恩恵に浴しておられるならば、そのしわがいく部分が必ずこの国の中にあるんですから、そうした方々に対する商品開発の努力は怠っていただきたくはない。これは本当にそう思います。
〇三反園(テレビ朝日) 住専では、まだ国民の方々の多くは不満とか、いら立ちみたいなものを持っていると思います。こうした国民の声について、総理はどういうふうにお考えか。
また、総理の目指す政治観、総理の目指す政治はどういうものかということをお聞かせください。
また、鳩山さんを中心とする新党問題が、ここに来て取りざたされていますけれども、こうした鳩山新党を巡る動きについて総理はどうお考えか、お聞かせください。
○総理 これも順番を引っくり返させていただいて、鳩山さんを始めとしたいろいろな方のお名前をその新党に関連して皆さんの報道の上で見せていただいております。
同時に、逆に私はその報道で知る以上のことは全く知りません。したがって、これは申し上げるべきことも別にないんです。
ただ、一般論として申し上げるなら、政治家が政治的あるいは理念的な共通の基盤を持つ人々、そうした方々で集まろうとされる。そういう行動は批判されるべきものではないと思います。
それから、先程住専について触れられましたけれども、私は冒頭に申し上げた言葉をもう一度繰り返させていただきます。今国会において、政府がこの住専問題の解決を最重要課題と位置づけたのは、住専の問題というのを早急に解決しなければ、景気の回復に悪影響を与えかねないと判断したからで、これを回避、先延ばしにしたりすることの方がむしろ日本の経済のためにはよくない。ここで決着をさせることが政治の責任だと私は判断したということを申し上げました。
それで、今国会を通じてこの住専の問題についての議論には、二つの大きな流れがあったと思います。一つは政府与党の私たちが取ったように、日本の金融機関の抱える不良債権問題の言わば象徴的なもので、しかも緊急に解決を必要とするもの、そういう位置づけでこの問題をとらえた議論。
もう一つは、氷山の一角というとらえ方の中でご議論をされた方々。二つの流れがあったと思います。
昨年の、恐らく今ごろからだったでしょう。初夏のころから、政府はこの住専問題というものが持つ不良債権問題としての象徴性と同時に、処理を急ぐということを考え、取り組んできました。言わば我々はこの住専問題というものを日本の金融機関の不良資産処理の突破口としてとらえて、今、ご批判を浴びながらも、この国会で住専関係法案のご審議を願い、預金保険機構と住専処理機構との間で全力を挙げて債権回収の努力を開始しようとしている。その中において、法的な責任を問うものがあるならば、当然のことながらその法的責任を問うていく。私どもは、それが政治の決断と責任の果たし方だと、そう理解しています。冒頭申し上げたことを繰り返して恐縮ですけれども、私はそう思っています。
○田中(TBS) 選挙制度について聞きたいんですけれども、与党内に、特にパートナーの社民党あるいはおひざ元の自民党からも非常に熱心にというか、既に合意をしてやるということを決めて、この小選挙区の制度を見直すべきだという話がありますけれども、総理自身は任期満了まであと一年ですけれども、あくまでも小選挙区の下で選挙をやるということなのか。あるいは、与党内の動き次第では考えるということなのか。その辺について何かお考えはありますか。
○総理 まず第一に、任期は確かに来年の七月にくるわけですから、我々はそこまでのどの時点か、あるいはそのぎりぎりの時点かを含めて、国民から審判を受けるときが必ず来ます。そして、今、政府は小選挙区比例代表並立制という考え方で国会の論旨が決まり、それによって定められた方向で既に選挙制度は出来ているわけですから、当然のことながらそれに従うのは我々の責任だと思います。
いろいろなご議論をなさる方は、それはあるでしょう。むしろひところ選挙制度で小選挙区以外の議論をすると、守旧派というレッテルを皆さんから張られた時代も随分長くあった。しかし、当時そういうレッテルを張られた方も含めて、今いろいろな議論をしておられる。私はその議論自体が間違いだと申し上げるつもりもありませんし、よりよい制度を求めて議論が行われることを否定するつもりもありません。しかし、行政府の責任者としてお答えをする以上、国会によって法律で定められた制度で、そうした総選挙というものを迎えるときには、それを実行するのが我々の責任だと思います。
○山田(毎日) 改めて伺いますけれども、解散総選挙の時期はいつでしょうか。
○総理 教えてよ。
〇山田(毎日) それは総理の専権ですから。
○総理 でも、しょっちゅう侵して皆さん好きなことを書いているよ。
○小野(中国) 節目ですから改めてお尋ねしたいんですけれども、どういうふうに展望を。
○総理 大変失礼だけれども、皆さんから見ると節目かもしれませんね。国会が終わったという意味では。しかし、政府としての仕事に立ち戻れば、韓国訪問もあります。サミットもあります。APECの総会もあります。その間に国賓を迎えるという仕事もあります。当然ながら、基礎的な仕事の一つとして概算要求をまとめるという仕事もあります。概算要求基準をどうするかという議論も我々はこれからしなければなりません。
更に、日米首脳会談の中で普天間基地の返還を代表とする沖縄県における基地の整理統合、縮小にも一定の方向は出来ましたけれども、これを具体的なものにしていく努力もこれからです。そういう意味では今、考えるほど私はゆとりがありません。
○小野(中国) それは、年内ですか。来年ですか。
○総理 では、来年の分もスケジュールを言いましょうか。それ言い出したら切りがない。そういうふうに言うならば。恐らく来年の今ごろもサミットが、今度は別の国で行われていると思いますよ。だから、逆に皆さんは自信を持ってよくいろんな時期を想定して、記事を書いてらっしゃるんで、もしかすると水晶の玉を持って皆さんは占っておられるのかなとさえ思う。ときとぎ官房長官も似たような占いをされますけれどもね。
−どうもありがとうございました。
○総理 どうもありがとうございました。