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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 沖縄問題についての記者会見(橋本龍太郎)

[場所] 
[年月日] 1996年9月10日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),580−586頁.
[備考] 
[全文]

 −それでは、まず総理の方からご説明をお願いします。

○総理 本日、午後四時から大田沖縄県知事と会談をさせていただきました。知事からは去る八日に行われました基地の整理・縮小、地位協定の見直しを求める県民投票の結果について、政府に対してご報告がございました。

 私からは沖縄問題に対する政府の認識、この問題の解決に内閣を挙げて取り組んでいく、そうしたことを率直に申し上げました。

 そして、私としては、この際知事にお話をした政府の考え方そのものを沖縄県民の皆さん、国民の皆さんに広くご理解をしていただくためにも、私自身、こうして申し上げることが必要だと思いまして、先程臨時閣議を開催し、沖縄問題に関する内閣総理大臣談話を閣議決定して、急遽報道の皆さんにお集まりをいただいた次第です。

 まず、その談話そのものを読み上げさせていただきます。

 私は、過ぐる大戦において沖縄県民が受けられた大きな犠牲と、沖縄県勢の実情、そして今日まで沖縄県民が耐えてこられた苦しみと負担の大きさを思うとき、私たちの努力が十分なものであったかについて謙虚に省みるとともに、沖縄の痛みを国民全体で分かち合うことがいかに大切であるかを痛感いたしております。

 また、地位協定の見直し及び米軍基地の整理・縮小を求める今回の県民投票に込められた沖縄県民の願いを厳粛に受けとめております。

 日米安全保障条約は、日本の安全のみならず、アジア・太平洋地域の平和と安全を維持していく上で、極めて重要な枠組みであります。米軍の施設・区域はその中心的な役割を果たすものであり、その安定的使用を確保することが重要であると認識しております。

 政府としては、普天間基地の返還・移設や県道一〇四号越え実弾射撃訓練の本土移転などの諸課題について、米国と協議を進めるとともに、各地域住民のご理解とご協力を得ながら、その解決に向けて全力を尽くしてまいります。

 さらに米軍施設・区域の七五%が沖縄県に集中し、住民の生活環境や地域振興に大きな影響を及ぼしている現状を踏まえ、引き続き米国との間で米軍の施設・区域の整理・統合・縮小を推進するとともに、地位協定上の課題について見直しを行い、一つ一つその改善に努力してまいる考えであります。

 私は、今年四月のクリントン米大統領との共同宣言で明らかにしたように、今後とも、アジア情勢の安定のための外交努力を行うとともに、米軍の兵力構成を含む軍事態勢について、継続的に米国と協議をしてまいります。

 豊かな自然環境や伝統、文化を生かしつつ、県土構造の再編、産業経済の振興及び生活基盤の整備等を進め、平和で活力に満ち、潤いのある地域の実現を目指した「二十一世紀・沖縄のグランドデザイン」は、沖縄県がその願いを込めた構想であると承知いたしております。

 政府としては、この構想を踏まえ、通信、空港、港湾の整備と国際経済交流、文化交流の拠点の整備を行うとともに、自由貿易地域の拡充等による産業や貿易の振興、観光施策の新たな発掘と充実、亜熱帯の特性に配慮し、医療、環境、農業等の分野を中心とした国際的な学術交流の推進と、それに伴う関連産業の振興等のプロジェクトについて沖縄県と共に検討を行い、沖縄県が地域経済として自立し、雇用が確保され、沖縄県民の生活の向上に資するよう、また、我が国経済社会の発展に寄与する地域として整備されるよう、与党の協力を得て全力を傾注してまいります。

 私は、このような趣旨に沿った沖縄のための各般の施策を進めるために、特別の調整費を予算に計上するよう大蔵大臣に検討を既に指示いたしました。

 また、内閣官房長官、関係国務大臣、沖縄県知事などによって構成される沖縄政策協議会(仮称)を設置し、沖縄に関連する基本施策について協議していただき、それを踏まえて政府として、沖縄に関連する施策のさらなる充実、強化を図ってまいる所存であります。

 重ねて、沖縄問題について国民の皆様のご理解とご協力をお願いするものであります。

 以上が、内閣総理大臣談話であり、まさに知事さんにお話をした、その骨子でございます。

 そして、今日、冒頭二人だけの会談が四十分余りになりましたが、その間で、私は県との間に信頼関係を確立することが出来たと信じておりますし、今後ともにその信頼関係が揺るがないよう全力を尽くしていきたいと思います。

 私の方から申し上げることは以上です。

○桜井(朝日新聞)まず幹事から伺います。

 今日は出席者の方からも雰囲気のよい会談だったという感想が出ているんですけれども、今日の会談の中で、知事の側から今後公告・縦覧手続など、そういうものに応じるという方向、あるいは何かそういう具体的な言葉ではなくても、総理が感触としてそういう今後の協力について、感触、シグナルを得られたんでしょうか。

○総理 私の方から公告・縦覧に応じる、応じないといった問題について何ら言及をいたしませんでした。知事も言及をされませんでした。今日の会談の内容を県としてご検討になり、今後、知事さんとしての判断を決めていかれることであろうと思いますが、私の方から今日そういうことを申し上げてもおりませんし、また、知事さんもそういう問題には言及されておられません。

〇三反園(テレビ朝日)普天間飛行場の移転先の問題が基地問題の焦点になっているわけですけれども、今日の会談の中で、日米交渉の経過を含めて、この移転先の問題について話題になったんでしょうか。

○総理 普天間基地の問題については、先程談話の中で申し上げたような形で、私から一〇四号線越えの射撃の問題とともに触れましたが、具体的な交渉が今どうこうと申し上げられるところまで、残念ながら進んでいる状況ではありませんし、それ以上のことを私の方から申し上げませんでした。

 また、知事さんは、普天間基地の問題を含め、具体的な特定の基地の問題について言及されてはおられません。

○鷲尾(ジャパンタイムズ)幹事から最後の質問をさせていただきます。

 六日の日に解散総選挙の報道が流れたときに、総理は十日の会談が終わってみないと何も決められないとおっしゃっていましたけれども、今日会談を終えまして、解散時期など何かお決めになりましたでしょうか。

○総理 今日、私は真剣に大田知事に対して沖縄県に向けて、その将来をどう築いていくか。我々の今考えているあらゆることを率直にお話をしました。これを県がどう評価してくださるか。どう受けとめていただいたかについて、私は何もまだ承知をしていません。

 そういった意味で、私は今あなたの言われた質問が出たとき、沖縄問題というものがいかに今大事なのかということを、皆さんにも分かっていただきたくて、十日の会談というものを例示に取りました。これから県が検討され、よりよい方向が生まれるような、県の意思が生まれることを私は願っています。その限りにおいて、沖縄の問題が終わったわけではない。そして、皆さんに是非ご理解とご協力をお願い申し上げると談話の最終に申し上げた、それが今の思いです。

○乾(産経新聞)談話にあります米軍の兵力構成を含む軍事体制について、継続的に協議するとありますけれども、これは具体的にはどういうことを意味するのかお願いいたします。

○総理 日米共同宣言を出しましたときにも、これから先のアジア・太平洋地域、更には世界の平和と安定の中で、我々は継続してこうした問題を話し合っていくということを申し上げました。ご記憶だろうと思います。そして、同じことをここでも申し上げたということです。

 当然ながら、この地球上が完全に平和な社会になれば、軍備というものの持つ状況というのは、当然ながら大きく変化するでしょう。

○石田(NHK)この談話の中で新たに沖縄政策協議会というものを設置するということが書かれているわけですが、政府と沖縄との間には、これまでにも基地問題協議会とか、いろんな形の協議会があるんですが、この新たな協議会のねらいとか、目的というところを。

○総理 まさに基地問題協議会等がありますけれども、これは基地問題に限定したものでした。今回、まさにアクション・プランという沖縄県民の将来に対する夢、あるいは希望というものを踏まえた一つのプランが既に提示をされています。そして、これを踏まえて我々は明日の沖縄に向けての努力をしようとしています。基地という限定された問題ではなく、その意味で、政府・沖縄県が一体になって将来を考えていく、そうした場が必要ですし、それはやはり正式にきちんと閣議で決められた、そうした組織が必要であり、その中では関係国務大臣と沖縄県知事が対等の発言権を持ち得る場が必要だと、私はそう判断しました。

 そして、知事にもこうした考え方を取ったことを大変喜んでいただいています。喜んでいただいたと思います。

○戸松(朝日新聞)特別調整費を予算に計上するように指示をされたとありますが、この予算というのは、これは来年度の当初予算を意味するんですか。それとも今年度、補正を意味されるんでしょうか。

 もう一つ、その調整費の規模については、どのような規模を念頭に置かれてお話になっているんでしょうか。

○総理 私は大蔵大臣に出来るだけ早い機会の予算計上を指示いたしました。うまいつり球ですね、補正予算と絡めて。しかし、私が大蔵大臣に指示をしたのは、出来るだけ早い機会にということであって、補正予算とか、あるいはいつという時期を指定してはおりません。

 それから、規模としては、これは知事さんにも申し上げましたから、数字も申し上げていいと思いますが、大蔵大臣に私が検討を指示した金額は五十億円です。そして、まさにこれは沖縄県関係と言うべきか、関連と言うべきか、調整費としてその枠取りを指示いたしました。

 こういう予算の性格上、この数字は私は増減なしにかためられるものと思っております。

○桜井(朝日新聞)総理、先程これを県がどう評価してくださるか、まだ承知していないとおっしゃいました。それで、沖縄の問題はこれから県が検討されるので、この限りにおいて沖縄の問題が終わったわけではないという表現を使われたんですけれども、逆に県の方から、いついつごろまでに総理の方にご回答をしますと、この問題についての評価を申し上げますというような時間を区切ったような知事の言葉があったんでしょうか。

 それと、それがあった段階で、沖縄の問題というのは一区切りするというふうにお考えですか。

○総理 これは大変失礼だけれど、私がお答えすべきことではないと思う。そして、県がどう判断され、どういうタイミングで、何を答えようとされるのか。それは県にご判断をいただかなければなりません。そして、その県からの何らかの意思表示というものが一つの区切りを付けるものであるのか。あるいはそうではないのか。これを予測することは避けるべきだと思います。

 −最後の一問ですけれども、どうぞ。

○大腰(NHK)総理、公告・縦覧の手続に入ることに向けての最大の政府の課題というのは、おっしゃったとおり、沖縄に対する信頼というものが得られるかどうかというのが、まず第一にあったと思うんですけれども、先程信頼を得ることは出来たというお言葉がありましたが、その意味では、今後のこの難しい問題へ向けた大きな一歩を踏み出したという達成感を今お持ちでしょうか。

○総理 達成感と言われれば、私はそこまで申し上げる自信はありません。ただ、少なくとも、真剣に今まで政府として考え抜いてきたことを洗いざらい知事さんに聞いていただきました。そして、本当に当初予定していたわけではないんですが、最初二人で話しましょうかと言ってから四十分余り、真剣な議論が出来、そして、二人ともにこにこしながら官房長官はじめ、待っていただいている方々にそこへ入っていただいた。少なくともお互いが笑顔で、知事さんは副知事さん以下を、私は官房長官以下をその部屋に招き入れることが出来た。その程度の関係はつくり得た。それが本当に信頼関係というものになっていくことを願いますし、私は今日の時点でお互いの信頼関係はそれなりに出来たと思っていますけれども、むしろそれが一瞬のことではなくて、これから先、継続していくことが大事だと。そのためにこの協議会も、また、調整費の計上というものも指示してきた。そして閣議で了承を得てきたということです。

 どうもありがとう。