[文書名] 伊勢神宮参拝時における記者会見(橋本龍太郎)
○総理 冒頭申し上げたいことは、一昨年日本が議長国として主催をしたAPECで、二十一世紀のアジア・太平洋地域の制約要因は何かという問題を提起しました。その二十一世紀のアジア・太平洋地域というのは、非常な発展が見込まれる地域と、いつもそう言われますけれども、本当にそうなんでしょうか。そして、真剣に考えてみたとき、私たちは幾つかの制約要因があるという結論に達して、議長国としてこの問題を提起しました。
それは、一つは人口であり、それに伴うエネルギー、食料、そして環境です。そして、そのエネルギーという制約要因が存在することは我々も変わりがありません。原子力発電に対して、私たちは安全の上にも安全対策を先行させることは当然のことですけれども、その上で国民の理解を得て適地を見出し、必要なエネルギーの相当部分を原子力に頼らざるを得ない将来を考えています。
ご当地において、芦浜原発に関してさまざまなご意見があるということは私も伺っていますし、今、自民党の県議団の皆さんからも県議団としての取組みを記した書面をいただきました。それぞれにいろいろなご意見をお持ちだと思います。
しかし、日本国内に原子力発電の適地はそれほどたくさんあるわけではありません。今日、同行しております閣僚の中でも、例えば梶山官房長官のご郷里も一つの典型的なケースですが、非常にたくさんの電力供給の、その役割を担っていただいている地域です。住民の皆さんのご協力が得られる状況が早く生まれること、そして日本のエネルギー政策上、将来に心配のない体制が生まれてくれることを私は心から願っています。
−続いて、首都機能移転の問題です。
地元の三重県は、首都機能は日本の中央部に移転すべきだということで、地元としても誘致に名のりを上げていますが、総理ご自身は候補地の決定に向けて何が大切とお考えになりますでしょうか。
それから、移転先として日本の中央部をどう評価されますでしょうか。
○総理 国会等移転調査会が新しい首都機能を移転する、そのために必要な要件を幾つか備えています。現在の東京から一定の距離があかなければいけない。同時に、余り遠過ぎてもいけない。そして、それには細かい要件ですが、水とか、あるいは環境とか、いろいろな配慮を加えなければならないでしょう。今、調査会はいよいよその場所を決定するために作業を開始していただいたばかりですから、中央がいいか悪いかを含め、私が具体的なことを申し上げる時期ではありません。
しかし、調査会として新しい首都機能を移すにふさわしい場所を真剣に検討し、決定をいただけると思っています。
−最後に、伊勢湾港道路についてお訪ねをします。
昨年末の国土審議会の計画部会で、新しい国土軸の一つとして、太平洋新国土軸が盛り込まれましたけれども、その中の重要な要素として伊勢湾港道路があるかと思います。地元としては、伊勢湾港道路が新全総計画や第十二次の道路五か年計画などに明瞭に位置づけられることを期待しておりますけれども、このような地元の期待への総理の受け止め方はどうでしょうか。
○総理 まず、この機会を拝借してひとつ是非皆さんに協力をしていただきたいのは、一昨年の一月十七日に発生した阪神・淡路大震災が我が国にどれぐらい大きな被害をもたらしたかということです。目に見える被害は、皆さんがご承知のとおりでした。
しかし、それ以上に大きかった、最後まで残っているもの、それは実は一本しかない国土軸が切断されたとき、北海道の端から本当に鹿児島の端まで、沖縄県の場合には道路でつながっていないものですから、かえってその影響は軽微で済んだんですけれども、国土軸が一本しかないということが、どれほど日本にとって危険なものであるかを我々にいやおうなしに教えこんでいきました。そして、そうした反省の上に立って、我々は複数の国土軸を備えなければならないと考えていますし、また、これから複数の国土軸を整備していくために努力をしているつもりです。
ただ、そういうものが必要だというご質問が出てくる割に、今年の予算編成で公共事業費について随分悪口をたくさん書かれましたね。こういうものを整備していくのも、実は公共事業の大きな柱なんですが、もう少しマスコミの皆さんのご協力がいただければありがたいのになと、私はそんな感じさえ持ちました。
我々は、間違いなしに複数の国土軸が要ります。それをどこから手をつけていくのか。まずどこを取り上げるのか。これは今、専門審の関係者に専門家としていろいろ検討していただいていますから、私がどこからと優先頂位を申し上げることは適切ではないと思いますが、この国の安全を考える場合、間違いなしに複数の国土軸が必要なんです。そして、そのための事業を進めていただけるような協力を是非各地で得たいと考えます。
ですから今、例示に挙げられましたようなプロジェクトを具体的に我々が取り上げるとき、用地買収等についても地域住民の皆様はもちろん、県を初めとした地方公共団体のご協力をこの機会に是非お願いを申し上げておきたい。これだけは特に、新年改まった気持ちで皆さんを通じて国民にお願いを申し上げたいと思います。
−それでは、引き続きまして内閣記者会の方、ご質問をよろしくお願いします。
−まず、ペルーの日本大使公邸占拠事件についてお聞きします。
事件は越年し、長期化の様相を見せています。交渉の長期化は当初、武力衝突の可能性を弱め、ペルーの政府側の方に有利との見通しがありましたが、犯人グループ側が次第に人質の数をコントロール可能な数に絞り込む中で事態は膠着し、長期化は必ずしも政府側の有利に働いているとは言えない事態になっています。この点について、総理のご認識をお聞きしたいんですが。
○総理 まず、我々はテロに屈することは出来ません。これはどこの国の政府であってもそうです。我々もまたそうです。その上で、人質の安全な全員の開放を求めて、当然のことながら努力をしていかなければなりません。
そうした中で、ここまでペルー政府は私たちの信頼に応えて一生懸命努力を続けてきてくれている、私はそう思っていますし、当初から短期間で終わるということではなく、ある程度時間がかかっても全員の無事な解放を私自身求め続けてきました。記者の方々からのご質問でも、私は短期で終わることを望まないということを繰り返して申し上げてきました。
そして、だんだん人質の方が解放されてくる。その方々が無事に解放されることは本当に喜ばしいことですけれども、反面、逆にテロリストグループがコントロールしやすい数に人質の数が減っているということでもあり、その意味での緊張感は強まる一方です。
そして、私どもは事態を楽観していません。その上で、ペルー政府が全力を挙げて、テロリストに屈するのではなく、しかも人質の全面解放を目指す努力を真剣に続けてくれることを信じていますし、願っています。マスコミの皆さんにも是非そういう協力を得たいものだと願っています。
−次に、橋本内閣の最重要課題の一つである財政構造改革への取組みについてお聞きします。
梶山官房長官が構想を明らかにされた財政再建会議は、何を目標に、具体的にどのように運営されていくのか、お聞かせ願いたいと思います。
○総理 どのように運営ということまでお答えをするのは、ちょっとまだ早いのかもしれません。
しかし、私たちが考えてきたことは、まず財政再建について、主要先進国中、最悪と言える状況にある危機的な財政状況の中で、平成九年度予算を財政構造改革のスタートと位置づけながら、さまざまな制度改革等を加えて財政赤字の縮減という目標で努力をしてきました。
しかも、同時に景気に対する配慮も私たちはこの中に入れています。ここからはまさにその予算編成に先立って決定をした財政健全化目標というものを実現するために、更に思い切った財政構造改革を進めていかなければなりません。
こうした目標を達成するための方策として、例えば歳出の上限を抑える。あるいは、スクラップ・アンド・ビルドを徹底させる。あるいは、個別的な歳出削減目標、こういうものの措置を目標として設定する。それぞれの国でいろいろなやり方をとっていますが、我々は我々なりにこれから必要な方策をどういう形で位置づけていくか。それをそう遠くないうちにつくろうとしている財政再建会議にゆだねていきたいと思います。これは、政府だけで出来ることではありません。当然ながら与党を始め、国会の協力も得なければなりませんし、皆さんの協力も得ていく必要があります。無理のない目標を設定する。しかし、それが守られる厳しいものでなければならない。そういう議論を集約する場所として、私たちはこの再建会議を位置づけています。
−その財政再建会議なんですが、具体的に例えばもう少し組織として、どういう形になるかというのはまだ決まっていないんでしょうか。
○総理 決めていないと言ったら、少し言い過ぎかもしれませんね。ここに大蔵大臣もおられるし、官房長官もおられる。私たちなりにこうした感じというイメージを持っているものがあることは事実ですが、関係する方々全員の同意をまだ取り付けている状況ではありませんから、具体的に発表するまでお待ちをいただきたいと思います。
−発足の時期についても、また同じですか。
○総理 ASEANから帰ってきて、出来るだけ早くスタートをさせたいと思っています。
−ありがとうございました。
最後に、政界再編の動きについてお聞きします。昨年末に新進党が分裂し、太陽党が結成され、久保亘前大蔵大臣らが社会党を離党する動きがあるなど、政界は再び流動化の兆しを見せています。
一方、自民党内では単独政権復帰を契機に、保保連合を模索する意見も浮上しているようです。総理が望ましいと考える政界再編の青写真をお願いします。
○総理 私たちは今日、ただいまも単独政権と言われましたけれども、社民党の皆さんとも、さきがけの皆さんとも一緒に手を組んでこの政権をつくっています。また、民主党の皆さんとも政策についての協議を継続していますし、二十一世紀の皆さんの協力を仰いでいることも、もう皆さんがご承知のとおりです。
その上で、我々はそれぞれの場面において、あるいは必要な大きな政策目標に対して、どなたと手を組まない、手を組むと決めてかかってはいません。今、あなた自身からのご質問にもあったように、ペルーの大使館、大変な事態が起きています。これは偶発的な事件かもしれませんけれども、行政改革にしても、財政再建にしても、あるいは金融システム改革、産業構造改革、経済構造改革、教育改革、いろいろな分野で、我々はお互いの違いを強調し合うのではなくて、どうすれば本当に二十一世紀の日本がすばらしい国に出来るかを真剣に議論していかなければならないときにあるんです。
ですから、我々はだれとも門を閉ざすつもりはありませんし、今日までの友情というものを大切にしながら、この国の明日に向かって意見の一致を見ることの出来る、だれとでも協力し合いながら少しでもよい明日を築いていくために全力を尽くす。再編のための再編といったような考え方は私は取りません。
−よろしゅうございますか。
あと、最後に一点お聞きしたいんですが、七日からのASEANの外遊に向けて総理のご抱負があれば、お聞かせ願えればありがたいんですが。
○総理 この訪問については、私はいろいろな論議があるだろうと思います。また、ASEAN側の皆さんからもそれぞれのお国の立場で議論をしたいと思っておられる問題もあるでしょう。
しかし、一番大きいのは、ASEANが既に世界の中に一つのしっかりとした足場を持たれ、その上でアジア・太平洋地域の中核として日本と手を結びながら、今日までさまざまな問題に取り組んできた。その関係というものを、より一層深いものにしていきたい。
そして、そういう意味では、例えばこれは考え方の一つですよ。いろいろなレベル、ASEANの閣僚と日本の閣僚の定期協議がありますけれども、首脳同士の定期協議はありません。昨年、アジア・太平洋地域とヨーロッパの首脳の会合がスタートし、二回目をイギリスがホストをされる。その中で、日本はアジア・太平洋地域の首脳とヨーロッパの首脳たちの間のまさにブリッジの役割をし、その役割を果たしてきました。そういう意味で、もっとASEANの首脳と日本の首脳がひざを突き合わせる場が定期的に持たれるようなことがあってもいいんじゃないだろうか。そんな考え方もあり得るでしょう。
あるいは、もっと多くのASEANの方々を日本に研修、留学等で受け入れる工夫。しかも、我々の方の若い人々がどんどんASEANへ出て行って、そのASEANでまた学んで帰ってくる。こうしたことだってもっと増えていいはずです。
いずれにしても、我々は少なくとも経済的なさまざまなかかわりの中でのパートナーシップは形づくってきました。むしろこれをアジア・太平洋地域という歴史的にも、あるいは宗教的にも人種的にも、さまざまなるつぼになっているこの地域で、そうした壁を超えたつながりというものをより深めていく、そうした機会にこの訪問はしたいと思っています。
−総理、どうもありがとうございました。
それでは、これで記者会見を終わります。どうもありがとうございました。