[文書名] 日韓首脳会議後の共同記者会見(橋本龍太郎)
一、橋本総理共同記者会見冒頭発言
この度、金泳三大統領をこの風光明媚な別府にお迎えをし、昨年六月、私が済州島にお招きいただいたのに次いで、打ちとけた雰囲気の中で、幅広い意見交換を行うことができました。また、平松大分県知事、井上別府市長をはじめ、多くの皆様に本当に暖かく迎えていただいたことに感謝を申し上げます。
この別府のある大分県をはじめとする九州地方は、韓国各地と活発な交流を行っており、また、韓国の観光客の方も数多く訪れておられます。日韓両国の距離の近さを実感できるこの地で、大統領閣下と私は、両国間で人と人とのふれあいによる交流が行われ、相互理解が深まることこそ、未来に向けた日韓関係の発展のために重要だということを改めて確認しました。特に、青少年の交流については、地方や民間レベルの交流のネットワークの強化を通じて、その拡充を図ると同時に、両国の青少年が手を携えて国際社会で協力していくための方法を探る「日韓青少年交流ネットワーク・フォーラム」を開催することに合意しました。また、二〇〇二年のワールドカップ・サッカーは、この大分県も会場になるわけですが、日韓共同開催の成功に向けた関係者の努力を、両国政府が引き続き支援していくこととしました。
私たちは、両国間のさまざまな懸案について、昨年の三度にわたる首脳会談の成果を更に推し進めていくことに意見が一致しました。排他的経済水域の境界画定及び漁業協定交渉については、従来の会談での合意に基づいて、領有権問題と切り離しながら交渉を促進すること、また、そのための環境づくりに引き続き努力していくことを改めて確認しました。特に漁業については、昨年十一月のマニラでの首脳会談で、双方が努力を加速化することとしていましたが、本日、国連海洋法条約の趣旨を踏まえながら、両国が新たな漁業協定の早期締結に向けて一層努力することで一致しました。
朝鮮半島情勢についても、忌憚のない意見交換を行いました。この度、四者会合の共同説明会が開催される運びになったことを我々は歓迎します。四者会合の早期実現が重要だという認識で一致しています。また、この地域の平和と安定のためには、今後とも、日韓両国に米国を加えた三か国の緊密な連携が重要であり、同様に、KEDOについても、引き続き協力していくことを改めて確認しました。
我が国は昨年末、韓国がOECDに加盟したことを歓迎します。また、昨年一月から韓国が、そして、今年一月から日本が国連安全保障理事会非常任理事国となったこともあり、日韓両国が国際社会の中で共に協力する場面がますます増えています。私達は、日韓両国の関係が、二国間の枠を超えて国際社会全体の中で重要になっている、その認識を新たにし、国際社会の中での協力を一層強化していくことで合意しました。
二十一世紀を目前に控えた今、日韓両国の友好協力関係は新たな局面を迎えつつあると思います。私は、両国国民が隣人として共に協力し、世界全体の平和と繁栄のために貢献することを通じ、相互の理解と信頼の絆がますます強くなることを確信し、そのために金大統領閣下とともに努力をしていきたいと考えます。
ありがとうございました。
二、日韓首脳共同記者会見冒頭挨拶(韓国側)−(仮訳)
まず、今般の私の日本訪問を招請して下さった橋本総理に感謝申し上げます。
併せて、私の今般の訪問のために細心の準備と配慮を惜しまれなかった平松大分県知事と井上別府市長をはじめとする日本国民の皆様に深い謝意を表します。
私は、本日の午餐会談と拡大首脳会談において、橋本総理と日韓両国の相互関心事について真摯に意見を交換することができたことを非常に嬉しく思います。
我々両国首脳は、近い友邦として、日韓両国がこれまで構築してきた友誼をさらに確かめて個人的信頼を再確認し、当面する北東アジアと国際情勢一般に関しても、広範囲で深い意見交換を行いました。
本日の首脳会談において、橋本総理と私は、二十一世紀を目前にして、未来志向的な日韓関係を構築するためには、両国の青少年の間の活発な交流を通じて、若い世代の間の相互理解と信頼を堅く積み重ねていくことが、何よりも重要であるということにつき認識を共にいたしました。
このために、「日韓青少年交流ネットワーク・フォーラム」事業を実施して、両国の学生、民間の青少年団体、地方自治体の間にネットワークを構築し、これらの間の幅広く多様な交流を拡大していくことといたしました。
我々両国首脳は、二〇〇二年ワールドカップ・サッカーが成功裏に開催されるよう、日本側の組織委員会が構成され次第、両国の組織委員会の間に緊密な協調がなされることを期待しつつ、政府レベルにおいても、査証制度の改善等、支援方策を積極的に研究していくことといたしました。
北朝鮮は潜水艦潜入事件に対して謝罪声明を出し、再発防止を約束しました。橋本総理と私は、これを幸いであったと考えるとともに、北朝鮮が、今後、このような発言を行動で示すことが重要であるという点で認識をともにいたしました。
我々は、朝鮮半島における恒久的な平和体制を構築するための四者会合が早期に実現し、KEDOの事業が円滑に施行されるよう、日韓両国が米国とともに三か国でさらに緊密に協力していくことといたしました。
特に、我々両国首脳は、最近の北朝鮮情勢に関して、長時間、深みのある対話を交し、朝鮮半島の平和と安定のために、日米韓三国間でさらに緊密な協力体制が必要であるということにつき意見を共にいたしました。
また、橋本総理から、日朝関係については、今後とも朝鮮半島の平和と安定に資するとの観点から、南北関係の遍歴と四者会合の推移等、朝鮮半島の諸般の情況を勘案しつつ、韓国と緊密に連携しながら対処していくとの表明があり、私は、かかる日本の立場を歓迎すると述べました。
橋本総理と私は、今後、両国間の投資と産業技術協力の増進を通じて、共同の利益を拡大していかなければならないという点につき認識を共にし、このために、両国政府が引き続き努力していくことといたしました。
我々両国首脳は、韓国のOECD加盟と日韓両国が国連安保理と経済社会理事会の理事国として共に活動することとなったことを契機として、両国が国際社会においても、さらに緊密に協力することにつき合意いたしました。
私の今回の別府訪問は、昨年六月の橋本総理の済州島訪問とともに、両国首脳間の実務訪問外交を定着させました。
橋本総理と私は、今後とも、両国首脳が頻繁に会い、信頼をさらに堅固なものにして、これに基づき日韓両国関係を未来志向的な協力関係に発展させていくことにつき意を共にいたしました。
ありがとうございました。
三、質疑応答
−(日本側記者)大統領にお伺いしたいと思います。近く、ニューヨークで、四者協議に関する合同説明会が開かれる見通しであると承知しております。朝鮮半島の平和と安定は日韓両国にとって共通の関心事でありますが、南北対話は中断したままであり、また、日本と北朝鮮との間の国交正常化交渉も中断したままです。こうした状況の下で、日韓両国は、北朝鮮に対する政策において、具体的にはどのような外交努力をすることになったのでしょうか。
○金大統領 質問にもありましたように、四者会談を準備するための三者共同説明会が来週ニューヨークで行われる予定であります。ここにこぎ着けるまでにはいろんな紆余曲折がありました。今回の共同説明会は、一日中やらなければならないだろうと思います。また、翌日には、北韓はアメリカとの会談を望んでおります。このことについては、アメリカは、我々とも十分に協議をするだろうと思います。問題は、四者会談も大事でありますけれども、南北対話も同じく、同様に大事であると思います。北韓は我々との対話を恐れております。と申しますのは、北韓は、北韓の現実に自信がないからであります。開放するか、閉鎖し続けるか、行き詰まっている状況だと言えます。と申しますのは、北韓には、本当の意味のリーダーがいないということであります。要するに、北韓は、今、非常に厳しい状況に置かれているわけです。北韓は、住民に対してすべてのことを秘密にしております。しかしながら、北韓の住民の中には、北韓が世界で孤立されていくことを知っている人が多くなりつつあります。ここではっきり、私の方から言えますことは、我々は対話を乞うつもりはありません。また、対話にすがるつもりもありません。南北問題につきましては、毅然として、また、堂々として臨むつもりであります。また、この問題につきましては、日本、それからアメリカとも緊密な連携の下に対応していく所存であります。
−(韓国側記者)昨日の梶山官房長官の発言を巡って、今日の会談で橋本総理がお詫びをされたと伺っております。現在、日本は国連安保理常任理事国入りを目指しており、国際社会における地位を高めようと努めております。しかし、このような日本の姿勢で、隣国、それから国際社会において日本が臨むことに対して、支持を取りつけることが出来るかどうか、どうお考えでしょうか。もう一つは、先般、日本の基金が韓国の一部の元慰安婦被害者に対して一時金を支払って、韓国政府と摩擦を引き起こしました。今後、日本政府は、直接被害者に対して償いを行うおつもりがあるのかどうかお聞かせ願いたいと思います。
○総理 今日の首脳会談の最初に、私の方から梶山官房長官の発言に関する報道をご覧になって不快に思われたとすれば申し訳ない、と申し上げながら、その事実関係のご説明をいたしました。それは、梶山官房長官の発言は、記者会見ではなく、歩きながらの取材に応じる中での発言であり、ある日本の国会議員が中国を訪問した際、話したことの紹介でありました。それは、かつて我が国に公娼制度が存在した、それ自体今の時点で考えれば誉められる話では全くありませんけれども、従軍慰安婦の問題があった時代の背景として、認識をしておくことが必要だということを、当時もちろん生まれてもいなかった若い記者の方々に説明をした、それが内容です。
昨年六月、金大統領のお招きを受けて済州島でお目にかかった時、私は、従軍慰安婦の問題ほど女性の名誉と尊厳を傷つけた問題はない、と、そして、心からお詫びと反省の言葉を申し上げたい、ということを明らかにしました。この問題について、私の考えも、また日本政府の考えも、全く今も変化をしていません。この問題に対する国民のその真摯な気持ちの表れが、この基金に対する募金に表れております。そして、私自身が元従軍慰安婦の方々に対し手紙を書いたのも、そのような気持ちに基づくものです。私としては、このような日本政府及びこの基金に表れている日本国民の気持ちを受け止めていただきたいと心から願っており、韓国の方々に是非その気持ちをご理解をいただきたいと思っております。
−(韓国側記者)両首脳は、その間、数次にわたる会談を通じて友情を深めてこられたと承知しています。しかしながら、不幸にも両国の国民は、両首脳のような友好的な関係にあるとは言いがたいと思います。これには、日本の一部の政治家によって、韓国の国民感情を悪化させる問題発言が繰り返されていることが、大きな原因になっているように思われます。先程、橋本総理から、梶山官房長官の発言についての釈明がありましたが、大統領は、このような事の再発を防止するためには、どのような努力が必要であるとお考えでしょうか。
○金大統領 その間、橋本総理とは、何回にもわたる会談を通じて、お互いの友情を深めてきました。非常によいことだと思います。しかし、日本の政治家の中で、一部の人々が過去に対して、韓国国民にとって非常に理解に苦しむような、そういう話をよくしております。私は本当にこのようなことを遺憾に思っております。私は我が国が日帝時代から開放されたときに中学三年でした。当時のことを生々しく記憶しております。実際にあったことを隠すことも、それを消すこともできません。ありのままの過去を直視した上、未来志向的な関係を築いていかなければならないと思います。今、ヨーロッパ連合、欧州連合の諸国は、実際はかつては長年にわたる反目の時代が、EU諸国の間にもありました。また、ASEANの場合も,紛争が多かったです。しかし、EUもASEANも、今日においてはそのような障害を克服し、和合を果たし、一枚岩になって共通の利益を求めつつあります。我々は、このようなことを我々のお手本にしなければならないと思います。特に韓国と日本は非常に特殊な関係にあるわけですから、両国が過去を乗り越えて、乗り越えるということは過去を正しく認識することでありますけれども、それを乗り越えた上で、未来志向的な関係を目指していかなければならないと思います。
−(日本側記者)日韓両国の間には、韓国側が埠頭建設を進めている竹島の領有権問題や、慰安婦問題、歴史認識問題など、依然として懸案が残っていると思います。両国の安定した友好関係の確立、発展のためには、これらの問題の解決が必要だと思いますが、総理は具体的にどのようにお取り組みになるお考えですか。
また、今回の大統領との会談では、竹島問題などについてあまり突っ込んだお話し合いがなされなかったようなんですが、それはなぜなのか、大統領とのやりとりも含めまして総理のお考えをお聞かせ下さい。
○総理 今あなたがいくつか例示に挙げられた問題ばかりではなく、私自身が冒頭申し上げたように、例えば漁業交渉にしてもそうです。漁業協定の問題一つをとってもそうですが、両国の間に意見の違いがあることは、お互いにこれは認め合っていますし、その上で議論はそれぞれに尽くされています。今日の首脳会談でも、それぞれの問題に全部意見は交わしてきました。しかし、同時にそのお互いの違いというものは認めた上で、私たちはそれを越えて両国が協力をしながら、お互いの友好関係ということを進めていくことが、これは両国のためにもそうです、しかし、それだけではなくて、国際社会の場において、例えばASEM、今韓国がリーダーシップをとっておられる、あるいはAPEC、そして今度韓国が入られたOECD、WTO、こうした場において、我々がやっぱり協力しながら努力をしていくことが国際社会のためにも有益だ、そういう点で私たちは意見の一致をみました。問題はあります。しかし、その問題以上に我々が協力関係を築いていくことが、国際社会のために大きな役割を果たす、それが私の信念でもありますし、金大統領閣下も同じ思いでおられると思います。