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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 平成九年度予算成立に伴う記者会見(橋本龍太郎)

[場所] 
[年月日] 1997年3月31日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(下),1044−1062頁.
[備考] 
[全文]

平成九年度予算成立に伴う記者会見

平成九年三月三十一日

○総理 それではお願いいたします。

 平成九年度予算がお陰様で先週金曜日成立いたしました。衆参両院におかれましても、予算の問題に加えて、さまざまな問題について幅広く熱心な議論が行われましたこと、そして、予算の成立のためご努力をいただいた関係各位、そのご協力にもまず心からお礼を申し上げたいと思います。

 昨年の一月十一日に総理を拝命し、十月二十日に衆議院選挙を経て、十一月七日、第二次橋本内閣を発足させて今日まで、いつの間にか一年三か月に近い日数が経ちました。その間、私なりに全力を尽くして国政に当たってきたつもりです。

 ペルーの大使公邸人質事件、私にとって本当に重い事件でしたが、発生以来百日目という節目をとらえて、去る二十七日、フジモリ大統領と電話で改めて出来るだけ早く、かつ平和的な解決に向けての一層の努力をお願いいたしました。事態は依然大変厳しい状況が続いておりますし、全く予断を許しません。しかし、公邸内の人質の方々の苦しみに思いをいたすとき、一分一秒でも早くこの事件が解決をし、全員が無事で出てこられることを、そして事件が平和裏に解決することを心から願いながら、引き続き日本として出来る努力を続けていきたいと思います。

 今日は予算成立に伴う記者会見ですから、冒頭、財政構造改革を中心に、私の基本的な考え方、問題意識、その決意というものを申し上げながら、国民各位のご協力、ご支援をいただきたいと思います。

 まず、平成九年度予算、これは過去の借金の元利払いは別として、平成九年度中に皆さんからいただく租税などの収入で賄っておりまして、そうした意味では、財政構造改革の第一歩を踏み出したと、私はそう申し上げてまいりました。

 しかし、今、現在私たちは非常に膨大な後世代からの借金をしております。国の借金である国債だけで二百五十四兆円あります。しかも、今後更に高齢化、少子化が進む中で、今、思い切った財政構造改革に取り組まなければ、私たちは子供や孫の世代に対して大変なツケを残すことになります。

 こうした強い思いから三月十八日、私は財政構造改革五原則というものを発表いたしました。既に皆さんもご承知かもしれませんが、第一に、財政構造改革の当面の目標を二〇〇八年に置く。

 第二に、今世紀中の三年間を集中改革機関として、その間、一切の聖域を設けることなく、主要な経費に対して見直しを進めて、具体的な量的縮減の目標を定める。

 三番目に、平成十年度予算については、政策的な経費である一般歳出を対九年度マイナスにする。

 そして、公共投資基本計画など、国が持っているあらゆる長期計画に対して大幅な縮減を行う。

 そして、第五に、税金、社会保険料、更に財政赤字から成る国民負担率、いわゆる国民負担率が六〇%を超えないようにするというものです。

 ちなみに今、いわゆる国民負担率、税金と社会保障、社会保険料だけで申し上げるなら、国民から三八・二%をちょうだいしているわけですが、これに財政赤字を加えれば、既に四五・二%という高率に上っており、これを六〇%を超えないようにということは相当な縮減を図らなければなりません。

 そして、今の目標を具体化させて、今年夏には編成しなければならない平成十年度の概算要求につないでいきたいと考えています。

 私は本当に今、危機感を持っているんです。今、毎年新たに年金の受給権が発生する方は、百万人近く増加しています。そして、皆さんもご承知のように、医療費の増加も著しいわけで、制度を変えない限り、社会保障関係費は毎年一兆円近く増えるわけですから、そうした状況をも踏まえて、十年度にはあらゆる困難を克服して一般歳出をマイナスにしなければなりません。

 もちろん、この財政構造改革は、他の五つの改革と深くかかわっています。行政改革で国も地方も仕事を減らす。国から地方に仕事を任せる。中央省庁を効率的な体制に移していく。

 経済構造改革との関係では、規制の撤廃や緩和に伴って、また、国の仕事を民間に任せ、民間の活力が生かせるような制度に変えていく。ちょうど先週決定した規制緩和推進計画の中でも、国が一々事前にチェックし、許可したり認可したりという考え方から、いわゆる事後チェックに我々は考え方を基本的に変えました。

 そして、金融システム改革では、参入の促進、商品規制の撤廃、透明な制度をつくっていくための努力をし、社会保障構造改革では薬価基準制度の抜本的な見直しなど、医療保険制度の改革を更に進めていく。

 年金については、平成十一年度、再計算が決められていますが、この再計算に合わせた見直しを進めていく。

 教育でも、創造性やチャレンジ精神を重視しながら、広い視野から改革を進めていく。こうした努力を私たちはしていかなければなりません。

 そして、現に改革は進みつつあります。情報通信分野の規制緩和は携帯電話、あるいはPHSの普及につながりました。

 また、電力など、公益事業の分野では、競争や弾力的な価格制度が導入されました。

 タクシーなどの運輸事業では、基本的な考え方を改めて、需給調整をやめていく。そして、新規参入や料金の弾力化が図られる。もちろん、有料職業紹介や労働者派遣事業についても自由化が進み、だれでもドルなど外貨が自由に売買できるようになります。改革はその意味では私はいい方向に進みつつあると思います。これに弾みを付けて、加速をさせていく。そのためには国が進めている三つの改革を、一体的、総合的に進めていかなければなりません。

 先日、党の方で決めていただいた特殊法人改革の第一弾は、行政改革の具体化という意味では大きな意義を持っています。

 そして、私はこの三つの改革を通ずる理念というものを、ここで改めて整理して申し上げたいと思うんですが、世界の一体化と我が国の少子・高齢化を見据えながら、二十一世紀に向けてこの国を描くときに、その基本理念はまず第一に危機への対応であり、選択の自由であり、共に生きていくこと。そうした三つの理念に整理出来ると思います。

 そして、行政改革はこれからいよいよ具体的な検討に入るわけですが、この三つ理念の中で、一体どうしていけばいいんでしょう。

 一つは、第一の理念である危機への対応から求められる迅速かつ的確な危機対応という課題であります。このためには官邸の危機管理機能の強化が必要ではないかと考えています。

 選択の自由という観点からは、民間の活力のサポートに徹した行政、同時に透明で責任の明確な行政が求められると思います。そのためには自己責任原則の下に、民間活力、また個人の能力が伸び伸びと発揮出来るような環境を整えること。そのために中央省庁の知恵、すなわち企画立案能力をどう高めていくか。また、情報公開やルールの明確化などをいかに図っていくかが重要な課題です。

 そして、共に生きていくこと。この理念からは支え合う地域社会であり、国としての全体の発展、地球社会との調和といったものを意味しますし、そのためには幅広い課題に適切に対応出来る行政というものが課題になります。

 この観点からは、省庁の縦割り行政の弊害というものを突き破って、国際的にも有効に対応出来るような霞ヶ関、こうしたものをつくっていく努力が要ります。

 しかし長い間、日本の社会に深く根を下ろしてきた慣行や仕組みを変えるというのは容易なことではありません。これまで国の財政に依存してきた方々は当然影響を受けるわけですし、既存のルールで守られてきた方々は競争にさらされることになります。しかし、この硬直したシステムを時代に即応したものに変えていかなければ、私は日本の未来はないと思います。安易に国の財政や国の保護にしがみ付いて、現状を維持し、どんどん衰退の道に入っていくか。あるいはここしばらくの苦しさを我慢しながら、将来を見据えて活力が生かせるような社会を築いていくか。大きな選択の分かれ目ですし、私は後者の考え方を取りたいと思います。

 一億二千万人という人口を持ち、狭い国土、少ない資源にもかかわらず、日本は今まで幾多の困難を乗り越えて発展の歴史をつくってきました。それぞれの時代を巡る環境に応じて英知と忍耐と勤勉さで、私たちもまた、私たちの子孫のために明るい未来をつくっていく。そのために改革を進めていかなければなりません。

 私はそんな思いで今皆さんにさまざまな改革を訴えています。是非これを仕上げていくために、国民のご理解とご協力を心からお願いをする次第です。

 なお、時間が長くなることをお許しいただいて、もう一点どうしてもお話しをしたいことがあります。それは沖縄の問題です。

 私は日米安全保障条約上の義務を果たすということは、我が国にとって最も重要な二国間関係である日米関係の維持のために必要だということだけではなく、日本という国家そのものの存立にかかる重大問題だと認識しています。

 そして、そのような中において、今沖縄県で一部の米軍の施設区域用地の使用期限切れが迫っています。私は五月十五日以降、使用権原のない状態というものだけは、こうした認識の中からどんなことがあっても避けなければならないと思い詰めています。

 確かに沖縄県の皆さんの中に反対のご意見があることも十分知っているつもりです。それは国土のわずか○・六%しか占めていない沖縄に米軍基地の七五%が集中している。そして、そのことによって沖縄県民の皆さんが長い今日までの間、痛み、重荷を背負ってきていただいたことに、これまで十分に我々が思いを馳せてこなかった。だからこそこうした事態も生まれてくるわけでしょうし、私は昨年来、少しでもその事態を改善したい。自分なりに誠心誠意努力してきました。

 また、官房長官を始め内閣は全員この問題に対して真正面から取り組んできました。今、現在二万九千人強の方々とは契約を結ばせていただきましたが、残念ながら一部の方々の同意が得られておりません。そういう中でご批判は覚悟の上で、最小限の措置として、駐留軍用地特別措置法の一部の改正を行う決断をいたしました。どうぞ日米安全保障条約の履行が、我が国の安全保障にかかる重大な課題であり、我が国の存立基盤そのものであるということを是非ご認識をいただき、ご理解を賜りたいと思います。

 どうもありがとうございました。

 −それでは、冒頭幹事社の読売新聞と日本テレビの方から四点だけ質問させていただきます。

 今、総理からお話があったように特措法の改正問題ですが、改正法案はいつ閣議決定するおつもりなのか、それでいつ国会に提出するおつもりなのか。

 また、これに関連して社民党は改正には反対の声が強いようですが、野党への協力についてもどのように行うお考えなのか、更にこのことが政権の枠組みの変更につながるのかどうか、その点についてよろしくお願いします。

○総理 私は実はこの駐留軍用地の使用権原の取得というものが、駐留軍用地特別措置法に基づいて五月十四日の使用期限まで、その使用権原が得られるように沖縄県収用委員会の審議が終了することを、そして裁決が行われることを本当に心から願っておりました。しかし、次回の収用委員会の日程も決まっておらない。使用期限までに権原を得ることが極めて困難な状況になりました。これから具体的な日程については与党間で調整をしていただき、出来るだけ早く国会の場で審議をし、国会のご意見をちょうだいしたいと思っておりますが、ここで一つ問題になるのは、よく今までに質問に出た緊急使用の問題です。

 これは収用委員会での審議、現地調査などに日数が必要となることから、例えば昨年大変問題になった楚辺の通信所の場合でも、四十三日間、そして、緊急使用は認められないという結果になりました。

 そうしたことを振り返るとき、現実問題として五月十四日までに緊急使用許可に基づく使用権原を得るというのが非常に困難な事態になっているということも、この機会に是非ご認識をいただきたいと思います。

 いずれにしても、私ども内閣としての結論は、もうごく限られた時間の中で決めなければなりません。

 今、その場合の国会を構成する各政党についてのお話がありましたけれども、私はこの日米安全保障条約の履行、これは我が国自身の安全保障にかかる問題として、我が国の存立基盤そのものの問題だと思っていますし、各党、各会派がそのような認識をお持ちいただいて、ご理解をいただくようこれからも最大限努めていきたいと思います。

 もちろん、社民党を始めあらゆる党、会派にお願いを申し上げたい。今は実はそこまでで頭がいっぱいでして、そこから後のことをお答え出来る心境では、率直に言ってありません。

 −二点目は、四月下旬に予定されている日米首脳会談ですが、先日の大田知事との会談でも、改めて知事側が要求している在日米軍の削減要求について触れるお考えはあるのかどうか。

○総理 先日、本当に大田知事と二時間近くじっくりお話をする機会を持ち、知事は沖縄の歴史を踏まえて真剣にお話をされましたし、私も一生懸命お話をいたしました。そして、残念ながらお互いに相手の議論の中に共感する部分は持ちながら、結論を一緒にすることは出来ませんでした。

 今、私自身の訪米については、現在調整中ですけれども、クリントン大統領との会談が実現すれば、沖縄の問題に引き続いて真剣に取り組んでいくことの大切さを始めとして、当然ながら日米安保体制のさまざまな問題についての協議を行うことにしたいと思います。

 しかし、現在の国際社会の中で、非常に微妙な東アジアの情勢、こうしたものを考えるとき、私は沖縄の海兵隊を含む在日米軍は、日本の安全、及び極東における国際の平和と安全の維持に非常に大きく寄与している、そう考えていますし、現時点においてその削減、あるいは撤退を求める考えはありません。国会でもしばしばこうしたご質問をちょうだいし、今、私はその撤退を求める考えはない。縮小をお願いする考えはないということを申し上げてきました。

 同時に、昨年の日米安全保障共同宣言の中で確認されているように、国際的な安全保障情勢に対して起こり得る変化、これに対応して両国の必要性を最もよく満たすような安全保障の在り方、防衛政策、並びに日本における米軍の兵力構成を含む軍事体制、こうしたものについては、アメリカ政府と今後も緊密、かつ積極的に協議を継続していくと共同宣言にも定めたとおりですし、これから先もその変化の中で当然そうした議論が出来る日が少しでも早く来る、お互いのためにもそうしたことを願いたいと思います。ただ、現時点でその意思はありません。

 −三問目なんですけれども、先程冒頭でも触れられましたが、ペルーの事件はフジモリ大統領が早期解決はなかなか難しいといったような認識を示されるなど、なお、時間がかかりそうな見通しなんですけれども、総理としては今後どのような展開になっていくと見ていらっしゃるのか。

 同時に、先程日本側としてあらゆる努力をしていらっしゃるというふうにおっしゃいましたけれども、このあらゆる努力という点については、具体的にはどのようなことを考えていらっしゃるのか。この点についてお話を伺いたいと思います。

○総理 この事件についてだけは、具体的な部分は是非答弁を保留することをお許しをいただきたい。というのは、今までにも実は日本の報道で小さく扱われた記事が、現地で非常に大きな記事になる。それが事件の解決にさまざまな影響を与えているという、実は現実の問題があります。

 ただ、この事件が発生した当初から、私は時間がかかると皆さんにもそう申し上げてきました。しかし、もう百日を超える日数が経ち、そして、依然として七十名余りの方が人質として公邸にとじこめられている。

 幸いに中に入るお医者様たちの話を聞いても、精神的にも肉体的にも心配な方はないと言われていますけれども、それでもそのストレスは大変なものだと思います。

 そして先般、高村外務政務次官に特使としてペルーだけではなくて、出口の問題であるキューバ、ドミニカ両国にも行ってもらいました。今回の事態の中で、今、我々として一番気になっていることは、人質の方々の健康、殊に肉体的な健康だけではなくて、精神的にどこまで辛抱が続くかということです。

 その意味では、復活祭の前後に大きな動きがあるということが報道され過ぎて、私はフジモリ大統領が時間がかかると言われたことによって、中にいる方々の心理に影響を与えることを、今、非常に気づかっています。

 そして、今までの予備的対話と言われるものの中で、随分いろんな問題が議論をされ、それぞれにMRTA側の考え方、そしてペルー政府の考え方、保証人委員会としての考え方が述べられてきた内容を、ある程度まで私もずっと知っていますけれども、残念ながらその間がすべて埋められたという状況ではまだありません。

 ちょうど二十七日にフジモリさんと随分長い電話をすることになりましたが、このとき大統領のここまでのご努力、苦労というものに感謝すると同時に、あなた自身が熟考のときと言われている復活祭の時期を利して、一層の努力をしていただきたいというお願いをしました。

 私は今、我々は保証人委員会が全力を尽くして努力をしてくれている、その仲介努力に感謝すると同時に、その保証人委員会が仲介者としてペルー政府とMRTAの間でなされた合意というものが現実のものとなったとき、それを支える役割として日本が全力を尽くすということ。そういう意思があるということだけを表明して、大変申し訳ないが、この問題はそこで止めてください。

 この数日特に報道に対して反応する、その反応に対してまた報道が行われる。反対側がそれに対して反応するということが少し繰り返され過ぎているように思う。これは決して皆さんだというんじゃないですよ。

 −行政改革の方に話を移します。

 先週、自民党の特殊法人改革案の第一弾が出ましたけれども、これはどういうふうに今後実行に結び付けられていくのか。それから、特殊法人では、特に道路公団の借金が二十二兆円とかなり莫大になっているようなんですけれども、この道路公団の問題などについて取組みは具体的にどのように考えていらっしゃるのか、この点についてお願いします。

○総理 たしか先週の二十七日だったと思いますけれども、自民党の行政改革本部から特殊法人などの整理合理化についての案をまとめたというご報告をいただきました。

 そして、それを受けて更に与党三党において議論が進められていくと考えていますけれども、これが具体的に集約されれば、当然政府としてもこれを受け止めていきます。そして、その与党の検討とは別に、政府としても既に決定している行政改革プログラムに従って、特殊法人の統廃合などの整理合理化方式に基づく改革、これは着実に進めていきますし、同時に、そのプログラムに載っている、載っていないにかかわらず、法人の事業の見直し、経営の合理化にも重点を置いて取り組んでいくことにしています。

 殊に、先日少し長い名前なんですけれども、「特殊法人の財務諸表等の作成及び公開の推進に関する法律案」を十一日に国会に提出をいたしました。これは民間会社並みのディスクロージャーに加えて、特殊法人という公共性を持つ団体、これはその公共性という点からも一般の企業以上のディスクロージャーが求められているはずです。そうした考え方に立ち、これをすべての特殊法人の足並みをそろえて行う。財務内容を明らかにする書類の作成、広告、一般への閲覧に供する、こうした規定整理の法律案を提出して、議論が一層起こることを期待しております。

 道路公団についての話がありましたけれども、確かに、平成七年度末の累計で、日本道路公団、道路資産が二十八兆三千億円、そのうちで償還額が五兆五千億円、未償還の残高が二十二兆円、そんな状況ですが、実は、日本全国の高速自動車国道の整備状況を見ますと、法定路線として決められているのが一万一千五百二十キロメートル。それに対して供用を既にしている部分の延長が六千百十四キロメートル、約五三%です。その意味では、まさに高速自動車道の整備、これは道半ばであることは聞違いがありません。そして、これからも経済構造を改革していく、国土の均衡ある発展を、そして活力のある地域社会を築いていこうとすれば、引き続き計画的な整備が必要な問題であることは、皆さんにも認めていただけるでしょう。

 償還は、その意味では順調に進んでいると申し上げていいと思います。ただ、これから先は、この財政状況、先程申し上げたように非常に厳しい中ですから、適正な料金水準の下で、公団の採算性が確保出来るよう、まず第一に建設コスト、そして管理費のコスト、これをどこまで縮減を進めていくことが出来るか。こうした努力を必要とする、そのように思っています。

 ただ、コストの問題は高速道路だけではなくて、公共事業全体に通じる問題として、関係閣僚に公共事業のコスト縮減の具体的な数字を持っての作業をということで指示をし、余り長くかからずにその報告が出てくると思いますけれども、道路公団もまたその対象者であり、同時に、道路公団という特殊性からいけば、建設のコストだけではなく、管理費のコストも当然ながらチェックの対象として私たちは考えていかなければならないと思います。

 −幹事社からは以上です。

 −総理、沖縄問題で三点ほど伺いたいんですけれども、一つは、昨年、普天間返還を死に物狂いでおやりになって、極めて高い成果が表われた。しかし、その後の跡地の問題、それからもう一つ県道百四の実射場の移転の問題、そういった問題の進捗度が余りはかばかしくない、その辺が沖縄にとっても橋本総理のやる気に対して、若干疑問を感じているところがあると思うんですね。そこはまさにある意味では、国内の政治力の問題が問われているところだと思うんですが、その辺の今後の解決への決意をまずお伺いしたい。

 それからあと二点あるんですが、一点は、海兵隊の削減問題と我々は呼んでいるんですけれども、今おっしゃったのは、現時点ではそういう状況でないと、しかし、将来に含みを残されている言い方だと思うんですが、その中で変化があればというような条件になるかもしれないという趣旨のご発言だと思うんですが、その変化というのは、具体的に起きないとそういう議論が出来ないのか、それとも変化を予見しただけでそういう議論が出来るのかどうかというのが二点目です。

 もう一点は、特措法をこれから国会へ出して各党で議論するんですが、そのときに、先程お話が出ましたけれども、社民党が基本的には反対の姿勢を取っていますし、結果的にそういう条件だと、特に与党の枠組みというものをどう考えるかということなんですが、やはり安保という極めて国の基本的な問題にかかわる事項について党として賛成出来ないという立場を取ったところを、一緒に連立として率いていけるのかどうか、その辺の基本的な考えをお聞かせください。

○総理 まず第一点、県道百四号線越えの射撃訓練の問題、これはご承知のように、本土の中にある五つの射撃訓練場がこれを分散して受け入れてくれるかどうかというところにかかっています。そして、現時点では残念ながら全く問題なく受け入れるという状況にある地域がない、これは皆さんもご承知のとおりです。

 そして、この機会に私は関係する各地域の皆さんに対して、もし本当に沖縄の方々の苦労に皆さんが心をいたしていただけるなら、是非、ご協力をいただきたいというお願いをさせていただきたい。そんな思いですし、そして、私自身がこうしてと言われて、それで結論が出るものがあるならば、その労を取ることを全く私は惜しむものではありません。

 お陰様で一番前進を見ているのは北海道です。そして、他のそれぞれの地域は、どちらかと言えば、お互いに横をながめながらどうしようかと迷っておられる、そんな状況です。

 これから先も、七五%の基地を全部沖縄に預けていく。今度はその重みを分ち合わないというのが日本人の総意であればともかく、そうでなければ、是非、協力をいただきたい。

 ご承知のように、岩国が受けてくれた他の部分の協力というものがあります。大変私は感謝をしています。そして、ある程度進んでいるところ、残念ながらまだまだ拒否反応の強いところ、ちょうど幾つかの地域によってこの百四号線越えについては足場が違いますけれども、そう長くない間に、出来れば四月の間にある程度の答えが出てくることを今心から願いながら、関係者が努力をしてくれているところです。

 それから二番目の緊急展開部隊としての能力を持つ海兵隊、その海兵隊の縮減あるいは撤退、例えばそれを理論的にというような話をして何か意味があるでしょうか。それは日米関係にプラスでしょうか。あるいは実際上想定出来ないような幾つかの仮定を置きながらこれを論ずることが、本当の意味で沖縄の方々に対して報いる道なんでしょうか。

 確かに、これはオルブライトさんにも、ゴア副大統領にも申し上げたことですけれども、海兵隊というものについて、日米両国の中にいろいろな意見があります。しかし、例えばアメリカの現在の政権の中にいる人たちで、これを議論している人はないはずです。日本でもそのはずです。それは、国際情勢というものが、それは変化するときにいい方に変化してくれれば、それにこしたことはない。だれだってみんなそう思うと思います。

 しかし、ほっとしたはずみに何かが起こる危険性がある。これに備えるものである以上、安全保障というものが、私は仮定の議論をすることが本当に大事なことだとは、あるいは沖縄の方々に対する正しい答えだとは思いません。

 殊に、アメリカの中の海兵隊の移動可能論にも幾つかあることを皆さんもご承知だと思います。むしろ日本が信用ならないから動かせという意見すらありますね。それから、戦略展開上、むしろ全く違った発想を持つことでという意見もありますね。

 しかし、皆さんがご承知のように、現時点で移転可能と言っている方はないはずです。アメリカでいろいろおっしゃっている方々も前提が皆、付いていると思いますよ。

 そして、私は少なくともこれからも、もしそういう機会が私に与えられるならば、真剣に国際情勢も判断しながら、その中で日米両国の安全保障、軍事構成について真剣な議論はしていくべきものと思いますけれども、それは仮定で議論をすべきものではないと思っています。 最後に、与党の枠組みというお話がありました。しかし、社民党がどちらかの態度をお決めになったとは私は伺っていないし、特措法の問題について議論があることは承知していますけれども、日米安保条約を否定したというお話は聞いていません。今あなたのご質問は、日米安保反対というところも与党かという話でしたけれども、私は社民党が日米安全保障条約体制というものを否定されたとは聞いていません。

 そして、私たちが前から申し上げているのは、国の大事な問題のとき、お互いが違いを強調するのではなくて、協力出来る方と共に協力をしていきたい。その意味で、党としての窓を閉ざしてきたこと、ドアを閉ざしてきたことはありませんから、これからも閉ざすつもりはありませんから、一生懸命に力を合わせて国の大事は解決をしていきたい。先程申し上げたように、その後をうんぬんというところまで、まだ頭の回る状況ではないということです。

 ただ、日米安保条約に反対という態度を決めているというお話でしたけれども、私は社民党が日米安保体制に反対を決められたとは聞いていない。

 −その考えでいいますと、日米安保堅持ということで社民党が合意していれば、仮に今回の特措法法案で社民党が賛成出来ない場合も、与党の枠組みは変わらないと、こういうふうにお考えなんですか。

○総理 だから、そこまで考えるゆとりがありませんと申し上げています。今、我々に必要なのは枠組みがどうこうではないんです。五月十四日から五月十五日にカレンダーが変わるときに使用権原が切れている。言い換えれば、日米安保条約というものの中で我々が負っている義務、日本側が負っている義務を果たせない状況でカレンダーを変えさせることは出来ない。そのために我々がどれだけのことをしなければならないか。それが大事な話なんです。

 −今おっしゃった岩国についてですが、地元の自治体は受け入れを表明しましたが、まだ住民の間には今も反対の声がありますし、新たな地域振興策を要望する声もあります。それらに対して政府としてどう対応されていかれますか。

○総理 まず第一に、住民の中に反対の方がおられるということは私も聞いています。そして、その方々も考えを変えていただき、是非協力をいただきたいなと思っています。

 それから、振興策という話をなされましたけれども、沖縄県の抱えておられる部分の一角を岩国の基地に引き受けていただく。私は地域の方々のお考えはそのバーターの振興策ということではないと思う。むしろ新たに海上に伸びて大きく基地の在り方が変わり、当然ながら岩国のこれからの発展の青写真というものが変化をする。その変化に対応して国が求められる協力、これは県・市が当然ながら計画を持たれて国に協力を要請される。それは国は厳しい財政状況の中ですから、そのとおりに全部出来るのか。あるいは、岩国の皆さんがどういう地域振興策を求められるのか。

 私は細かいことは分かりませんけれども、私たちは地域振興としてそういう問題が出てくれば、当然ながら真剣に考えます。それは、しかし、海上へ動いていく、基地が動いていく結果として、今の岩国市の置かれている状況に変化が生じ、その変化の中で市政をこれからどう伸ばしていくかということに対することであって、バーターのようなとらえ方ではないはずです。ですから、その点はどうぞ一部を引き受けた、その代わり、振興策をというような話ではないはずだと、その点は申し上げておきたいと思うな。

 −振興策という話が出たついでに、またお聞きするんですけれども、沖縄に対する振興策で昨日、梶山長官が一国二制度ということをおっしゃった。基地負担そのものが一国二制度に近い。したがって、経済面でも一国二制度にするのは当たり前じゃないかという趣旨の発言をされたんです。

 ただ、一国二制度という言葉が独り歩きして、その中身と具体的なイメージがどうもわかないのが現状だと思うんです。いろいろな振興策が出ていますけれども、何を軸にして、どういったことを沖縄の人に分かってもらおうとしているのか。その辺をちょっと展開していただけませんか。

○総理 官房長官、こちらに来て官房長官から話していただきましょうか。

 というのは、一国二制度という言葉、私も一体それが何を意味するのかについて正確なものが分からないんです。そして、国会でも実は私はそういう答弁をしています。たしか参議院の予算委員会だったと思いますけれども、一国二制度という形が本当にいいものかどうかについて、百パーセント私は疑念がないわけではありませんということを申し上げてきました。

 それは一つの例とすれば、今、密航の問題がありますね。そして、密航者が急増している。それに対して、何らかの組織的な介入が密航者を受け入れようとする日本側にもあるのではないか。そんな懸念も言われていますね。

 そういう問題までを含めて、何でもかんでも私は制度の違いがいいとは思いません。その上で、例えば経済面で沖縄県がこれから県政を振興していこうとされた場合、こういう点で本土の各県と違った制度をと言われる具体的なものが出てくれば、それをお手伝いすることは当然のことながらあり得ることであり、検討の対象になることだと思います。

 そして、大田知事と話をすると必ず出てくる一つが、県内の失業率、特に若い方たちの失業率です。あるいは、他の都道府県に比べて海外留学のチャンスが少ないということです。

 こうした点については、既にもう表に出ている話もありますから申し上げてもいいと思いますが、例えば県が同時通訳の養成ということに非常に力を入れてこられた。そして、その中で特殊な語学について指導者の専門家を確保出来ないでおられる。こうした部分には、既に国はお手伝いを始めました。

 あるいは、先日電話でお話をしたのは、沖縄県内の高校生の海外留学、具体的にはアメリカヘの留学の枠取りと、その具体化の方策です。

 あるいは、内航海運の関係者に非常に協力をしていただいて、県内で養成しておられる船員の人たち、自分たちで就職の見出せなかった方々を内航海運各社で責任を持って引き受けると、こんな話もありました。

 そういう意味からいくならば、一つは沖縄県に高専制度というもの、ここしばらく我々は新設したことがありませんけれども、例えば県の方で国立高専をつくりたいというようなお話があるのならば、我々は協力の出来るところがあるだろう。

 あるいは、例えば税制のうちでこういう分野の特色を認めてもらえば、新しい仕事がこういう形で出来るとか、いろいろな具体的な話があり得るでしょう。そして、その意味では政策懇話会に知事ご自身閣僚と一緒に入っていただいている。

 また、まさに官房長官が島田懇と言われる有識者を、しかも沖縄県内の有識者も含めての会合を開かれ、設置され、そして所在市町村を中心にして幾つかの提言をいただいてきた。地元の方でそれを具体化していかれようとすれば、我々はこれを取り上げていく。

 昨年の補正予算で五十億円の調整費を計上したのも、そしてその浮揚が立ったものも、九年度予算に引き継いできているのも、そういう意味で沖縄県のご要請というものに我々が弾力的に対応していく意思ありと、具体的なものがあればいつでもそれに対して真剣に検討の用意ありという意思表示をしているということです。

 でも、余り見出し的な単語で決めてしまわれると、具体化がかえってやりにくいかもしれません。

 −予定の時間をオーバーしてしまいまして、次の総理の予定があるようなので、これで会見を・・・。

 −新進党が使用権原問題で、県の収用委員会から県に権限を移すべきだという主張を言っています。いわゆる抜本改正ですか、特措法ではなくて。これについてはどう考えておられるんですか。

○総理 これも、実は私は前に国会で答弁したことがあると思うんですけれども、機関委任事務というものを議論していく中で、当然議論のテーマに出てくるべき問題の一つであるということは、私は前から申し上げてきました。

 ただ、それを今の時点で非常に時間的に厳しい状況の中で、しかも収用委員会としては残念ながら次回の日程は決まりませんけれども、今日まで非常に真剣に検討を進めてきていただいた中で、全く突然に議論をするべき問題なのか。まさにそれは沖縄に向けてのねらい撃ちのような話に受け止められるんじゃないでしょうか。

 ただ、機関委任事務というものは、我々は今、地方分権推進委で既に第一回の答えはいただいていますし、これから先、第二回目以降の勧告を多分ちようだいするでしょうし、その中で地方分権を考える以上、地方にお任せをしていく仕事、国が責任を持つべき仕事、そうした仕分けをする必要の生じる措置、こうした業務は本来国が責任を持っていくべきものであろうということは、私自身が前にも国会でお答えをしたことがあると思います。

 ただ、今、私は最小限、この五月十四日から十五日を日本が条約上の責任を持ち切れないような、果たせないような状態でカレンダーを越えることは出来ない。最小限の改正をお願いしたいと思っている次第です。

 そして、今のあなたのご質問は、これが沖縄県に関連して限定してのお話でなければ、また別な答え方があるでしょう。

 −限定した訳ではありませんけれども。

○総理 ですから、日本の基地というものすべてを、これは自衛隊の基地も米軍の基地も全部含めて、こうしたことに関連する業務は国が責任を持つべきものなのか、地方にお任せをすべき業務なのかと言えば、やはり国が責任を持っていくべきものだと思って、それは私はそのとおり申し上げております。

 −明日から消費税率が五%に引き上げられますけれども、先程総理がおっしゃった財政構造改革に集中されるその三年間の間に、再度消費税率が引き上げられる可能性というのはあるんでしょうか。

○総理 大変失礼な言い方をすれば、理論的にあるかもしれませんね。

 しかし、この前、私が財政構造改革会議で今あなたが聞かれたようなご意見を出された方に対して、今、増税がお願い出来る状況ではないということを申し上げました。そして、それは次の日、どういう流れか知らないけれども、増税なき財政再建という言葉に置き換えてマスコミの皆さんが報道してくださいました。今、理論の問題ではなく、何を考えているんだと聞かれるならば、むしろ社会保険、社会保障構造改革を進めていく中で、保険料の負担をお願いしなければならない可能性の強いときに、増税までお願い出来る環境ではないと、財政構造改革会議で答えた、そのとおりのことをここで申し上げておきます。

 −では、これで記者会見を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。