データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 自由民主党総裁選挙当選に際しての記者会見における冒頭発言(橋本龍太郎)

[場所] 
[年月日] 1997年9月8日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(下),973−975頁.
[備考] 
[全文]

 再び自民党総裁としての責任を果たしていくこととなりました橋本龍太郎でございます。引き続きよろしくお願い申し上げます。

 一昨年の秋、私が自由民主党総裁に選ばれた当時、わが国には、いわゆるバブル経済崩壊後の景気の低迷、阪神・淡路大震災などの災害や事件などにより、政治と行政に対する不信感と、時代の閉塞感が広がっておりました。私は、決してこれは偶然ではなく、戦後五十年間を支えてきたわが国のシステム全体がいわば制度疲労を起こし、時代の大きな転換期にあることを象徴していると思いました。内閣総理大臣に就任した際に、私が、政治、行政、経済、社会全般にわたるシステムの「変革と創造」を内閣の使命に掲げましたのは、このような状況から一日も早く脱却し、明るい将来を切り開きたいという願いからでありました。そして、昨年秋の衆議院総選挙においては、活気と自信にあふれた日本、国民一人一人が夢や目標を抱き、創造性とチャレンジ精神を存分に発揮できる社会の建設を訴え、政権与党の責任を自民党に与えていただきたいとお願いいたしました。

 二十一世紀の初頭まで少子高齢化が急速に進展するわが国において、現在の制度をこのまま放置すれば、社会保障を含む財政の破綻と経済活力の低下を招くことは明らかです。また、国際社会においては、欧米を中心に冷戦後の国際秩序づくりが進むとともに、先進国と途上国とを問わず、各国が経済活動の場としての魅力を競い合い、企業が国を選ぶ時代を勝ち抜こうとしています。このような内外の情勢を展望するとき、誇りと自信に満ちた思いで二十一世紀を迎え、明るい将来を切り開いていくためには、これから三年間を集中改革期間と位置づけ、それぞれの分野で進展をはじめている「六つの改革」を加速し、簡素で、効率的で、透明な行政、内外の情勢の変化に機敏かつ的確に対応できる行政を実現することが、最も重要であります。中でも行政改革と財政構造改革は、政治の責任において各省庁を強力に主導しなければ実現できないものであり、私自らが長となって検討してきた改革案を、強い決意で実行する考えであります。

 外交面においては、冷戦後の国際社会の情勢の変化に対応した新たな外交を構想し、実行していく決意です。特に、日米安保体制の意義の再確認という作業に道筋をつけ、わが国の安全とアジア太平洋地域の平和と安定に役立てるとともに、アジアの東の端に位置するわが国が、「太平洋から見たユーラシア外交」とも言うべき視点に立って、隣国であるロシア、中国などとの外交に新しい展開を見出したいと思います。

 以上申し上げた政策、特に「六つの改革」は、これまで慣れ親しんできた制度や既得権益にメスを入れる苦しい決断を伴います。その苦しみ、痛みを先送りせずに改革を成し遂げるためには、改革の先にある未来を信じて行動できる強力な、安定した政権基盤が必要です。

 我々自由民主党は、四年前に政権を失いました。その時の国民の厳しい審判を忘れることなく、その後、小選挙区制度の導入にも対応し、党活動の透明性と政策実施の信頼性を高めるために、<1>派閥事務所を閉鎖し、党の運営を機関中心とする、<2>選挙区支部を設置して党勢の拡大に努める、<3>ブロック両院議員会を設置して議員間の交流を図る、<4>若手人材を積極的に登用する、などの改革を進めてきました。

 その結果、先の総選挙、都議選などではそれなりの評価を国民から与えていただきました。しかし、自民党はいまだ衆参両院を通じては、過半数をもつだけの信頼を与えていただいてはおりません。個々の政策に関しては、それぞれの立場から大いにオープンに議論する。しかし、一旦党として結論を出せば、高い見地から団結して実行する。一人一人が良心と責任感をもって、ひたむきに、謙虚に、オープンな政党運営を心がけることが、政権与党の責任にこたえる途であり、衆参両院の国会議員を中心に、改革の必要性と方向性を真剣に訴え、国民から信頼される政治に全力投球しなければなりません。来年夏の参議院選挙では、このような自民党の政治姿勢について、有権者の審判を仰ぐべきであります。私も先頭に立って、国民の信任を得るべく全力を尽くして戦います。

 改革を推進する上では、政治に携わる人々すべての未来への創造力を結集することが不可欠であります。私は、社会民主党、新党さきがけとの与党三党の協力関係を基本としながら、政策によっては各党・各会派のご協力を求めていく考えであり、このような政策本位の政治こそが、国民の皆様の期待にこたえるものであると思っております。

 引き続き、同僚議員及び党員・党友各位のご支援、ご協力を改めてお願い申し上げますとともに、党総裁として、一人でも多くの方々から応援していただける自由民主党を目指して誠心誠意努力する決意を申し上げ、私からのご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。