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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 平成九年度特別減税決定に関する記者会見(橋本龍太郎)

[場所] 
[年月日] 1997年12月17日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(下),1135−1138頁.
[備考] 
[全文]

○総理 緊急に会見をお願いして大変恐縮です。

 今回ASEAN非公式首脳会議に出席をして、十分その状況を把握していたつもりでしたが、それ以上にアジアの経済状況が極めて深刻であることを改めて痛感させられました。我が国の経済の状況については、既に皆さんがご承知のとおり、家計あるいは企業の景況感に厳しさが見られ、また我が国の金融システムやアジアの経済状況など、国民の不安感が払拭出来ない状況にあることも事実です。

 そして、クアランプールにおける会見の際にも、日本発の世界恐慌の引き金は絶対に引かないということを私は内外に鮮明にしてきました。そうした状況を踏まえて、改めて思い切った施策を講じなければならない。そのような思いから特別減税を緊急に実施することを決心しました。

 このため先程与党の幹部、自民党税制調査会の幹部、更には大蔵大臣、自治大臣など、関係閣僚にお集まりをいただいて、私の方から平成九年度補正予算において二兆円の特別減税を行うことについての指示を行いました。

 今後、党、政府税調において、特別減税の具体的な内容について早急に詰めを行っていただけるものと考えていますし、政府としても与党の結論を踏まえて、早急に作業を進めることになります。

 いずれにしても、今回の特別減税は、先般の経済対策、昨日決定した十兆円の国債交付を含む金融安定化対策及び法人税、有価証券取引税、地価税などの減税を盛り込んだ平成十年度税制改正などに加えての措置となるものでして、これらの措置を通じて企業や消費者の皆さんの経済の先行きに対する不透明感がぬぐい去られるとともに、我が国の経済の回復基調を確実に力強いものにすることが出来る、そう考えております。

 皆さんにお集まりをいただいた、これがその内容です。どうぞよろしくお願いします。

 −幹事社の朝日新聞の方から質問させていただきます。

 特別減税については、これまでも与党内、あるいは野党からいろいろ要求がありましたが、政府は財政構造改革ということで、これまでそれを取らないとしてきました。今回、総理があえて二兆円減税を実施すると決断されたその直接の判断の根拠というのは、いかがなものなんでしょうか。

 それと、この財源はどうなるんでしょうか。赤字国債の発行ということになるんでしょうか。

○総理 この特別減税の財源、これは補正予算の編成過程で検討することになりますけれども、基本的には特例公債によらざるを得ないだろうと思います。

 同時に、二〇〇三年までにGDP比三%という財政構造改革は、これは今後ともに進めていかなければならない、私は重要な課題だと今も思っています。

 その上で、先程申し上げたとおり、経済の現状を踏まえて、思い切った手を打たなければならぬ、そう考えて特別減税の実施を決断いたしました。

 いずれにしても、日本の財政がG7の中で最悪であること。今後の急速な少子高齢化に対応しなければならないことを考えれば、財政構造改革が極めて重要であるという位置づけは、何ら変化のあるものではありません。

 −この特別減税は単年度の措置なんでしょうか。それとも来年度以降も続くものなんでしょうか。

○総理 ですから、平成九年度と、補正予算でと今私は申し上げている。

 −総理にお尋ねいたしますけれども、今年度決められた九兆円の国民負担増というものは、結局間違いであったというようなお考えで今いらっしゃいますか。

○総理 そうおっしゃりたければ、おっしゃるのは結構。しかし、今、私たちは本当に国の内外を考えて、雁の群が飛ぶような形でアジアの経済が動いてきた。その先頭を飛んでいた日本の立場を考えて、クアランプールの二日間、本当に私は考えに考え抜いた挙げ句に、今あなたの言われたようなご質問が出ることも覚悟した上で、これを決断しました。国としてやらなきゃならないことだから。

 そして、日本発の世界恐慌は起こさないという決心を持ってこれに臨んでいるんです。

 −総理のリーダーとしてのご決断であるということは今よく分かりましたが、はっきりご決意なさったのはいつくらいのことなんでしょうか。

○総理 ですから、クアランプールで二日間、本当に考え抜きましたと申し上げています。

 −政府がこれまで二兆円減税を踏み切れなかったということの中には、減税が与える、景気に対する効果はさほどではないんではないかという判断も一つはあったと思うんですけれども、今回のこの二兆円減税が、今の足踏みを続けている景気に与える影響というものについては、どのようにご判断されていますでしょうか。

○総理 私はこれがプラスに、当然ながらなることを期待している。それなりの、相応の効果を持つでしょう。ただ、その二兆円減税だけで物事、全部がうまくいくというものではありません。

 昨日とりまとめられた十年度税制改正の内容、これは法人税の実質減税、有価証券取引税の税率の半減、地価税の課税停止などの措置が盛り込まれています。こうした措置、全部を通じて企業や消費者の経済の先行きに対する不透明感が払拭される。そして、我が国の経済の回復基調を力強いものに、確実なものにしていくことが出来ると考えている。これが素直な申し上げ方だと思う。

 −各社さんご自由にどうぞ。

 −会見に先立って、自民党の三役の方との協議では、この政局に関してご意見とかはなかったんですか。

○総理 自民党三役というのはちょっと不正確で、私は与党幹部と、先程もちゃんと申し上げているんですが、当然意見を言われた方もありますよ。むしろ、例えば政治責任を言われるんじゃないかということを言われた方だってあります。だけれども、それは今やらなきゃならぬことに比べれば小さな話だと。そして、ここでしっかりと日本経済が足を踏み固められるような状況をつくることがまず第一だと。それ以上のご意見はありませんでした。

 −二兆円という規模なんですけれども、いろいろ労働界を含めて、五兆円規模、ないしもっと大きな規模の減税を要求する声もあったと思うんですけれども、なぜ二兆円という規模に決められたんですか。

○総理 一つは、財政構造改革を進めながら、真に経済に有効な施策をという要請をベースに置きながら、同時に昨年までの特別減税の規模を考慮したということは事実です。

 −よろしいですか。それでは、これで終わります。ありがとうございました。

○総理 それでは、どうも。