[文書名] 伊勢神宮参拝時における記者会見(橋本龍太郎)
−ただいまから内閣総理大巨の記者会見を行います。まず、地元の記者からお願いいたします。
−三重県政クラブの当番幹事社をしておりますサンケイ新聞の絹田といいます。
実質的な農林水産分解体などの北川行革や地方行革をどう評価し、地方分権をどう支援されますか。
○総理 地方分権推進委員会が第二次の勧告の中で、地方分権の成果を上げるためには、地方も行革を進めていただくことが必要だという勧告をいただきました。そして、政府としても当然ながら地方行革の新しい指針をお示ししながら、これを進めていきたい、そう願っています。
ただ、私自身の率直な感じを申し上げるなら、国が押し付けるのではなくて、地方公共団体が主体的にそれぞれの地域の特性をお考えになりながら、一層の行政改革を進めていただきたいと思っていますし、また、地方が主体性を発揮していただくためにも、地方分権は進めていかなければならないと思っています。
そうした点からいきますと、三重県においては、いち早く今ご指摘があったような、思い切った方法を打ち出していかれた、そして、事務事業の評価システムを導入される、積極的に取り組んでおられることを、非常にうれしいという言い方はちょっと当たらないかもしれませんが、その積極性というものを非常によい流れと、そんな感じで拝見をしてきました。
これから先も我々自身が国の行政改革を進めていくためにも、一方では規制緩和などを進めていく、そして、官から民に仕事を移していく、同時に、地方分権を進めることによって、地方に積極的に動いていただける。それは国から都道府県だけではなくて、住民に身近な仕事というのは出来るだけ住民に身近な自治体にお願いをする、それが望ましいわけですから、都道府県から市町村、更に広域連合とか、いろいろなものを活用しながら、出来るだけの行政単位をまとめていく、自主的にそういう方向が出ていくことが一番望ましい方向だと、そういう感じでおりますし、そのためにも、国と地方の役割分担をもっと明確にしていくこと、更に、地方税財源の充実といったことも国の立場から努力をしていかなければならない、そんな感じを持っております。
−COP3を受け、三重県議会で採択された請願により凍結期間化している芦浜原子力発電所問題があるんですが、そういう原発政策をどう進められましょうか。
○総理 この質問を聞くと、ちょうど二年前同じように、村山総理に県の代表の方からこの話が出ていたのを思い出します。
しかし、そのときに、村山総理が答えられたのと結局は同じことになるわけですが、まず安全というものを何より優先しなければならないことは間違いありませんが、その上で考えたときに、原子力発電は供給安定性という非常に優れた特性がある。そして、運転時に二酸化炭素を排出しない、そういう意味では地球温暖化という問題に取り組む上でも非常に大切なテーマです。
そして、COP3の結果、日本は二〇一〇年までに六%の削減をしなければならないわけですが、その温室効果ガスを減らしていくという上で、我々は供給の面でも本当に原子力発電所に非常に多くを頼らなければなりませんし、また、新エネルギーの開発にも努力をしていかなければなりません。それがまた地球温暖化を防止するために必要なことでもあるわけです。
芦浜の問題については、これは電力供給の安定確保のために特に重要な地点として、政府が要対策重要電源に指定したものです。今、いわゆる冷却期間入りをした時期ですが、その必要性については全く変わりがありませんし、引き続き我々としては地域のご協力が得られるように努力をしていきたいと考えている大事なテーマの一つです。
−最後の質問ですが、産廃問題等々、広域連携、市町村合併が課題となっている折、国としてはどう支援なさいますか。
○総理 これは二つの側面があると思うんです。今、例示に取られた廃棄物、実は、二十数年前に環境庁をつくるときに、非常に先見性のある当時の若い課長さん二人が、廃棄物を環境という視点からとらえろという意見を出されました。しかし、そのころは実は我々もそうでしたが、マスコミの方々も学者の方々も、また自治体の関係者も含めて、ごみはごみという頭で環境というとらえ方をしなかったわけです。ですから、これは本当に今になれば非常に悔いる部分の大きいテーマです。
ですから、中央省庁の再編の中で環境庁を省に昇格をさせる、そして、廃棄物の行政をここで責任を持ってもらえる体制をつくる。そういう意味では、この問題は非常に大事な問題です。
同時に、私は決して廃棄物ばかりではないと思うんですよ。住民に身近な仕事を住民に身近な自治体にお願いをする、福祉の関係その他を考えたときに、市町村に負っていただく役割は増えるわけですから、これはうまく自主的な合併というものが進めば、それは私たちは行財政の基盤が強化されるという意味で、非常にこれは望ましい方向だと思います。
ですから、政府としては、そうした機運をどうやったらつくり出せるか、また、地方制度調査会、あるいは地方団体のご意見などを伺いながら、実効のある方策を取りまとめていき、自主的な市町村の合併を積極的に進めていきたいと思います。
同時に、合併だけを押し付けるのではなくて、広域連合あるいは一部事務組合など、こうした仕組みを活用していただいて、事務を共同処理していくということも可能ですし、既にそういう努力をしていただいている地域も幾つかあります。地域の実情に応じ、また事務の性格に応じて一番効果的な方式を選んでいただいて、市町村の区域を超えた行政というもの、その需要に応えていく、そうしたことが非常に大事なことではないかと思っています。
ですから、我々は自主的な合併は進むことを期待します。しかし、それを押し付けるだけではなく、それ以外の仕組みも活用していただきたい、それが率直な私どもの感じです。
−ありがとうございました。続きまして、内閣の記者の方、お願いいたします。
−共同通信の阿部です。内閣記者会の幹事社として三問聞かせていただきます。
まず第一問ですが、通常国会が十二日から始まりますが、省庁再編の実現に向けた第一歩となる再編基本法案、それから金融システム安定化のための法案、預金保険法の改正案など、重要な案件の提出が予定されています。総理としては、この国会にどのような考えで望むのか、また、先行き不透明となっている景気について、どのように取り組むお考えなのか、お聞かせください。
○総理 既にご承知のように、昨年十二月二十六日の閣議で次期の通常国会を一月十二日に召集するという決定をしました。これを決めた一つの理由、大きな部分は、今、あなたの触れられた景気に対しての対応を考えたからです。
そして、まずこの一年、何といっても金融システムの安定と景気回復に万全を期すということが、我々がやらなければならない大きな仕事です。そして今、日本の金融システムを私たちが何としても守らなければなりません。政治の責任というのは国民の生活をどう安定させていくか、そのために奉仕をするかということに結論は尽きるものだと思っていますから、まず私たちはその問題に取組みたいと思います。
その上で、中央省庁再編を始めとした六つの改革というもの、それぞれに全力を挙げて、個人の能力が最大限発揮されるような社会をつくっていく、お互いの努力を評価し合えるような社会をつくるための努力をしていきたい。
予算関連法案も今回は随分本数が多くなると思いますけれども、是非関係の法案を提出をいたしましたらご審議をお願いして、積極的に国民のご理解が得られるように努力をしていきたいと考えています。
その上で、我が国の経済を回復軌道に乗せていく、そのためには経済の動脈である金融システムを何としても安定させなければなりません。ですから、このために、破綻金融機関の処理、そしてきちんとした銀行が自己資本を充実するために、十兆円の国債と二十兆円の政府保証、合わせて三十兆円の資金を活用出来るように、これをまず我々はやり上げなければなりません。
同時に、少しその声が減ってきていますけれども、依然として貸し渋りの問題があります。この対策としては、早期是正措置の弾力化、運用の弾力化を行う、あるいは従来は中小でとどめてきましたけれども、そうではなく、中堅企業などを対象として政府系の金融機関が新たな融資制度を創設など、二十三兆円の資金を用意し、これに立ち向かおうとしています。政府系金融機関の役割というのは、まさにこういうときにその効果を出してもらわなければなりません。
同時に、景気対策というばかりではありませんけれども、やはり景気回復を大きくにらみながら、積極的な大規模な規制緩和を始めとする経済対策を進めていきます。税制面においては、二兆円の特別減税を実施すると同時に、法人税率の引き下げ、あるいは有価証券取引税の半減、地価税の課税停止、こうしたものを含んだ幅広い措置を取ることにしています。こうした取組み、そのすべてが組み合わせられて私は日本の景気を押し上げていくと思っておりますし、また、その力強い回復に資するという視点から、こうした対策を取っていることを是非ご理解をいただきたい。
その上で、我々は民需主導による内需中心の成長に路線をきちんと安定させなければなりません。そのためには、今申し上げたような当面の対策に加えて、中長期的に我が国の経済システムそのものを時代に合った、より効率的なものにしていく、そのための規制緩和等を積極的に行っていく。企業経営を行っていただく上でも、魅力のある環境をつくることに全力を挙げていきたいと考えております。
−二問目伺います。新進党の解体に伴いまして、新党平和、国民の声、自由党など多くの新党が出来ました。またその一方で、自・社・さの政権の枠組については、限界だという声が自民党内でも強まっています。
そこで、新党が出てきたことなどで、今後の国会運営を始め、政権運営にどのような影響が出るとお考えかお聞かせください。
○総理 私は新進党が解党されたこと、そして多くの政党が出来たこと、これは他党のことですし、同時にまたそれぞれの政治家がご自分の信念で行動されていることですから、これは我々が論評すべきことではないと思います。その上で、少なくとも、自民、社民、さきがけの三党は、平成十年度予算を一緒に編成をしました。私どもはこの三党の協議による成果を、まずやはり何といっても大事にしていく、この連立をきちんと維持しながら、新しく誕生された各党を含めまして、野党の皆さんに対しても、我々の考え方を誠意を持って説明をしながら、丁寧な国会運営に努めていく。そして、政策によっては、各党、各会派、それぞれと協力をし、ご相談をしながら、金融システムの安定、景気対策あるいは予算、法案の成立などに努めていきたいと思っています。
いずれにしても、我々の役割は、国民の暮らしを守るということなんですから、全力で国民本位の政治を進めていくということに変わりはありません。
−最後の質問になりますが、沖縄の海上ヘリポート建設問題では、名護市長が受け入れを表明しましたが、大田知事は態度をまだ保留しております。また、名護市の市長選挙の結果によっては、建設問題、普天間の基地移転そのものが暗礁に乗り上げる可能性もありますが、総理としては、この問題にどのように取り組むお考えか、また、理解を得るためにどうするお考えか、お聞かせください。
○総理 普天間飛行場の返還の問題というのは、私が総理になった直後、大田知事と最初にお目にかかったときに、知事さんから従来、沖縄県として非常に重要視をしておられたいわゆる三事案というものよりももっと急ぐテーマ、市街地の中に存在をしていて、住民の暮らしと隣り合わせている、非常に危険が多い、一日も早く動かしてほしいという切々たるお話を承って、アメリカ側との返還合意にこぎつけたものです。
そして、その代替ヘリポートをどうするか考え抜いた挙げ句に、自然環境、騒音、安全、いろいろなことを考えながら、現時点における最良の選択肢として、撤去可能な海上ヘリポートという考え方を打ち出しました。そして地元の皆さんのご理解とご協力が得られるように、政府としても最大限の努力をしてきたつもりです。
そうした中で、昨年末、名護の比嘉市長さんが、比嘉さんの言葉を借りれば、国益、県益、市益を熟慮の上、自らの進退を賭けて受け入れの決断を示されました。私は本当に悩み抜かれた上での決断だと思い、政治家としても敬意を表しますし、その決断は高く評価しています。
名護の市長選が、比嘉さんが辞任されたことによって行われることになるわけですが、これは地方自治の問題で、我々がとやかく申し上げる立場にはないと思います。しかし、この比嘉市長の英断を無にすることがないように、今後とも普天間基地の危険を除去するために、現時点では最良の選択肢であるこの海上ヘリポートの実現に向けて、政府を挙げて取り組んでいく決意ですし、同時に、これは大田沖縄県知事のご協力も不可欠でありますし、知事さんが提起をされた問題に対して政府として、またアメリカ政府も含め、ぎりぎりの選択肢として提示をした海上ヘリポートを、よくご理解をいただけるように最大限努力をしていきたいと思います。
これが実ることを心から願っていますし、安全ということから普天間基地の移転という問題を提起された、それを受け入れて実現をぎりぎりまで追求した案が、この海上移設という考え方だということだけは、是非ご理解をいただきたいものだと、心からそう願っています。
−ありがとうございました。これで内閣総理大臣の記者会見を終了いたします。
○総理 どうもありがとう。