[文書名] 毎日新聞・京都新聞・中国新聞・ジャパンタイムズによるインタビュー(橋本龍太郎)
−それでは、始めさせていただきます。
昨日、総理が火だるまになってでもやり抜くと決意された行革関連の基本法案が成立いたしました。そのことで、今後のことに絞ってお伺いしたいんですけれども、これから先、新しい業務の振り分けとか、官僚の一致した抵抗みたいなことが予想されますけれども、どういうふうな形で最後の到達点まで、べースキャンプからその一つ上までやっていかれるおつもりなのか。
また、第三者機関という形でチェック機関をつくられる予定ですけれども、その辺はどういうふうにお考えですか。
○総理 まさにベースキャンプと言われたのは非常に正しい表現で、基本法そのものは方向性も決めているし、ある程度の具体的な中身にも入っている、実はまさに基本法であって、これから各省の設置法をつくる。それから、独立行政法人に向けて一定のルールをつくる通則法のような法律、そしてそれをもう一方で進めている地方分権推進計画や規制緩和推進三か年計画と整合させながら進めるというのは大変な難作業です。
そして、同時に今、単純に足し算すると、例えば局の数は百二十八あるけれども、これを九十近くまで減らしたい。一千三百ぐらいある課の数を九百ぐらいまで減らしたい。それは当然ながら分権が進み、規制緩和が進み、それだけ中央省庁の業務が減らなければそれ自体が大変な抵抗ですよね。
それだけに、本部長内閣総理大臣、本部員全閣僚、そして事務局をきちんとつくって、その事務局長には、これは法律そのものを書いてもらったり、重複したり、あるいは欠落したりすることがないように、きちんとした整合性のある法律づくりをしてもらうんですから、これはやはり行政のベテランを据えなければならない。
しかし、同時に事務局の次長、あるいは参事官といった幹部の中には、是非これは民間にお願いをして民間のいい方を迎えたい。スタート時にどんなに少なくとも二けた、次長級、参事官級の中に配置していただく、その幹部の人間を含めていただきたいなと、いろいろなところにお願いをかけている最中です。
それともう一つ大事なのは、官房副長官にどんな役割を持っていただくか。これは今まで余り皆さんは議論をされないんだけれども、事務の副長官だけではなく政務の副長官にも、これは政治という立場から当然ながら助言もしてほしいし、補佐もしてほしい。だから、事務の副長官は実質的に事務局の上に立って本部長補佐といった形でその全体陣を統括してほしい。そういう意味では、官房副長官の果たしていただく役割というのは大変大事になります。それは事務としての整合性を持つ上でも、その事務の中に政治という目でチェック機能を働かせるという、これは非常に大きな役割を演じていただかなければなりません。
それともう一つ、いわゆる第三者機関と言われる、これは高いレベルで意見をいただき、場合によっては忠告もいただき、同時に事務局の作業が基本法の精神に則って忠実に行われているかどうかチェックしていただきながら、もしこの方向がずれた場合には、その方向を是正するように私に対しての助言もいただく。
この第三者機関と言われるものは決定的に重いわけですね。そして、私はそれは顧問会議という位置づけにしたいと思っていますけれども、これはもし組織図を書くとすれば本部長に直結した形、そして責任はもちろん、本部をつくるその本部長、本部員、すなわち内閣が責任は全部負うんだけれども、そこに過ちを帰さないためのいわゆる第三者機関というものは、私は顧問会議という位置づけで仕事をしていただきたいと思っています。そして、そこには学問の世界からも、言論の世界からも、経済の世界からも、労働の世界からも、いろいろな分野のことを思っていただけるような人材を得たい。今、一生懸命お願いをして協力を求めているさなかです。
−総理、先程の衆参の本会議で国会の延会も決まりましたことですし、来週国会が終了ということになりますと、いよいよ参院選ということになるわけですが、自民党の獲得議席目標数ということになりますと、総理はこれまでにも公認候補全員の勝利を目指すということはおっしゃっておられるわけなんですが、党内にも幾つかいろいろな声がございます。今、勝敗ラインということでおっしゃっていただけると幾つぐらいに・・・。
○総理 これは、闘いをする、これから始めるんです。どう聞かれても、それは私は同じ答えしか出来ませんし、また当然だと思うんです。それは党として、みんなその地域あるいはその比例代表、非常に立派な方だ、是非その方を応援していただきたいと言って訴えるわけです。当然ながら全員の当選を期して、これは私は党は一丸になって闘っていく、これ以外にないと思いますし、それを目指して今みんなが努力しているわけですね。
だから、私たちは公認し、推薦する以上、その方はそれぞれ国民の信託にこたえ、そして付託を受け、国政の中で活躍していただける。そして、参議院議員としてその責任を全うするにふさわしい方を選ぶつもりなんですから、それは全員の必勝を期する。それ以外の答えは返りません。
−選挙が終わりましたら、参議院の役員人事があると思うんです。それと、参議院選挙で引退される閣僚の方もいらっしゃると思うんですけれども、そうすると、その時点に合わせて人心一新といいますか、内閣改造とか人事ということはされるということでしょうか。
○総理 これは無理だな。だって、選挙はまだ始まってもいない。そして、今まさにあなたから聞かれたように、会期延長を今日国会で決めていただいたばかり。そして、我々としてはまず何と言っても国民生活のために今の景気を上昇に向かわせるためにも、補正予算を一刻も早く成立をさせていただきたい。特別減税もお届けしたいし、それぞれの施策を実行に移したい。
だから今、補正予算を本当に一日も早く通していただき、それを実行に移したいし、そして国政選挙である参議院選の前に、その意味でも安心感を持っていただいた上で、国民の審判を参議院において受ける。まさにそういうスケジュールになるわけです。そして、補正予算審議をこれから控えている。
−そうすると、やはり人事は九月の・・・。
○総理 今、考えているゆとりがない。また、考えるべきでもない時期だと思いますよ。
−社さが離脱して今、政権が我が国は自民党単独ということになったわけなんですけれども、いわゆる選挙を前にしてこういう形になって、それで真意を問うわけですけれども、選挙後の政権の形としては、自民党の中ではパーシャル連合、部分連合と言われる方もいるし、どういう形が望ましいというふうに総理はお考えでしょうか。
○総理 今、政党対政党として参議院選を闘おうとしている。その国民の判断をお示しいただいた上で考えることじゃないのかな。だから、逆に言えば今、我々がしようとしている参議院選、自由民主党は自由民主党としての主張を持って国民の審判を受けるわけですね。そして、自由民主党に対して、各政党に対して、これはそれぞれ選挙区選挙においては人を選んでいただくというか、顔を見て選んでいただく。比例はまさに比例代表という党のお示しをする、それぞれの分野の優れた専門家に対し、どこまでの信任を与えていただけるかということだけれども、いずれにしても政党として党の考え方を皆さんに申し上げて判断していただくわけですから、それを事前にこうなったらあの人とか、ちょっとそれはおかしいと思うんだよ。
−三年前にも総理に同じようなことを聞いて、同じような答えが返ってきたなと思いましたけれども。
○総理 今、私も思い出したところです。
−でも、やはり選挙民としては、今後の自民党総裁としてどういうふうな政権、単独なんでしょうけれども、部分的に取れたとした場合、どういう形が望ましいと考えられているのかということは、お示しになられたら・・・。
○総理 それは、政党としての考え方をお示しして、その考え方で国民の審判を受けるわけですから、その政党そのものの政策に対して国民がどうお考えになるかですよ。
それはちょっと脱線すると、私はむしろ特定の姿を描いて行動する、それは選挙としてはむしろうまく出来るのかな。
−今日、野党の党首会談があって、不信任決議案が明日か何かに提出されると思うんですけれども、その中でやはり野党は、現在の不況の原因について、橋本政権の打つ手が遅れていたということを第一に挙げてくるかと思われますけれども、その辺を含めて前にも何回も質問していますけれども、現在の景気の現状についての総理としての責任の問題と、それをどう解決して臨んでいくのかというところはどうでしょうか。
○総理 今、日本の景気の足を引っ張っている一番大きなものが、不良債権の処理の遅れということは皆さん言われますね。そして、今まで金融機関がやってこられたことは、処理は進めているけれども、同時に帳面も片方にその不良債権そのものは残して、それに見合う引当てを積み上げていく。だから、不良債権そのものは帳面にいつまでも残り続けている。それでは市場が信任しないということが明らかになりましたね。
そして、いろいろなご批判はあるのかもしれないが、国際的にも通用する基準ということで、例えば金融の皆さんに対して三月期決算をSEC基準で、今までのルールよりはるかに厳しいものにした。そうすると、言われていたよりも、今までよりも四割方不良債権と分類されるものが増えてきた。これからこれをバランスシートから消さなければならないという作業をしなきゃならないわけですが、それは実はバブルの時代、そしてバブルの崩壊の時代、その後の時代で積み重なってきたものです。ですから、これは責任あるなしという議論をされれば、全然、私がないなんて言うつもりはない。それは少なくとも消費税を昨年引き上げたとき、我々が予測したよりも引上げ前の駆込み需要が多かったし、そしてその後における反動減も大きかった。
ただ、七月から九月にその消費は回復に向かっていたわけですね。事実プラスに転じていた。これは事実問題として、これをどう皆さんが評価してくださるかは別だけれども、事実問題として申し上げておかなければならない。
その上で、今年に入ってからも、さまざまな数字が非常に厳しい数字になってきた、その原因というものが、昨年の秋以降に発生した金融機関の大型の倒産だとか、あるいはアジアの金融情勢の激変だとか、いろいろなものが重なってきて、そしてこれは責任があるないという話ではなく、現実の問題として、私は今の雇用の状況は非常に心配です。
そして、殊にその中身を見るときに、一方では高齢の方々の失業率が増えている。そして、求人数との間に非常に大きな格差がある。しばらく前までは若い方たちのところは、自分の好きなところに入れるかどうかは別として、職を求める方よりも求人の方が多かったが、そこでも厳しい数字が出てきている。そして、新しく仕事を始める方の数が倒産を下回ってしまって戻ってこない。
そうすると、この新しい仕事をどうやって立ち上げてもらうか。そのために、これはよくベンチャー企業という言葉が使われるけれども、その新しい企業を立ち上げるために、どういう手伝いをするか。これは税制もあればいろいろな工夫をしていくわけで、そういうものは実は補正予算の中にも、あるいは本年度の税制改正の中でも全部進めてきている。そして、その効果を少しでも早く現実のものにするためにも、補正予算の信任を急いでいただきたい。これが政府の率直な気持ちです。
その上で、不信任案というのは余り気持ちのいいものではない、楽しいものでは決してないけれども、提出をされれば自由民主党はこれをきちんと否決していただけると私は思っています。
−不景気の問題の基本というふうに認識されていらっしゃる不良債権処理のことですけれども、これは自民党の幹部などは、二年ぐらいできっちりと片付けていきたいということを、このごろはっきりおっしゃるようになっているんですけれども、そういうことですと、やはり更に問題解決のために税金を投入するということも選択肢であるというふうにお考えになっていらっしゃいますか。
○総理 どうしてそういうふうにいっちゃうの。むしろバランスシートからどうやって不良債権を処理するか。一つは売り払うか。その場合にはそれを担保付き債権、いわゆる証券化にしてそういうものが売れる市場をつくらなければなりませんね。そういう仕事はもちろんあるんですよ。
だけど、何でそれがいきなり税金の投入になっちゃうの。あるいは入り組んだ土地に関する、不良債権の大半は土地ですから、その債権債務を処理してもらう。司法の世界だけではなかなかそれが進まない。ですから、そういうものが司法権に抵触しない範囲で、整理をつけてもらえるような仕組みをつくらなければならない。そういう準備をすることが大事なので、その上でその担保付き証券としてこれが流通出来る市場をつくる。これはその性格から見て、ある程度ハィリスク・ハイリターンの商品になっていくでしょうけれども、そういうものが流通する仕組みそのものが今ないんだから、何で途中が全部なくなっちゃって公的資金という話になっちゃうんですか。
国が地上げ屋さんをするわけじゃないんだから、我々はあくまでも持っている金融機関の体質を強める。その協力は一生懸命にしますが、それを実施するのは民間なんですよ。そして、いつまでも自分のところでその不良債権を抱え込んで、一方で積立てを積んでいくだけだったら、それこそ貸し渋りどころじゃない、融資に回すお金はなくなっちゃいますよ。だからこそその不良債権が、例えば担保付き証券のような形で処理され、当然ながらそれを市場として受け入れるものもつくらなければならない。
そういう話であるはずなのが、何でいきなり公的資金になっちゃうんですか。
−総理、言ってはいなかったんですが、一問だけ外国の問題を聞いていいですか。
インド、パキスタンの核実験の問題なんですが、十二日にたしかG8の外相会議ですが、ここへ日本として核不拡散ないしは核軍縮というのはどういう形のものが出てくるのを期待しておられるかが一点と、もう一点、総理は国会でもおっしゃいました国際フォーラムというか緊急対策ですね。その部分で具体的に日時なり、内容なり、場所なりというようなものは・・・。
○総理 これは申し訳ないけれども、そのG8に小渕外務大臣に行っていただいて、そこで小渕外務大臣として出される話なので、それを事前に申し上げるというのは勘弁してください。
その上で、我々にとって本当にインドの核実験は寝耳に水で、非常にショックを受けたし、日本として日本の出来る最大限の強い意思表示をしたのと同時に、パキスタンに対しては、呼応して自分のところも同じ核に頼った対応をするのではなくて自制してもらいたいということで、説得を一生懸命に試みた。結果的にはなかなかうまくいかなかったし、現地の状況というのも、例えばパキスタンの久保田大使が帰ってこられて、伺ってみるとそれは非常に深刻です。
それだけに今度のG8の外相会議、小渕さんもいろいろな考え方でこれに臨もうとしておられるんですけれども、私はこの問題がそう簡単に解決するとは思っていません。それは、核の不拡散という問題とは別に、インド、パキスタン両国の間に独立以来深い溝の空いている原因というのが現実に存在しているからです。
それはまさにカシミールの問題、そして非常にまどろっこしい手法のようだけれども、このインド、パキスタン両国の関係というものはカシミールの問題がほぐれなければ、これはいつまでたっても実は解決しないんですね。
だからこそ、実は日本は非常任理事国としての立場で、安保理でこの問題を取り上げるように一生懸命に実は働きかけをしていて、パキスタンの首相にも、そういう話をなかなかみんなうんと言わないんだけれども今、日本はそういう努力をしているんだという話も伝えて、説得を試みたんですが、うまくいかなかった。
しかし、この問題を放っておいたのでは、実はいつまでたってもインド、パキスタンと限定した話では解決がつきません。だから、迂遠なようだけれども、この両国の根深い対立を解きほぐすための国際的な努力というものを、我々は今までも払ってきたつもりだけれども、一層これは広げていかなければならない。
もう一つあるのは、これ以上の拡散を防止することと、実験を止めるということです。だから、この二つのテーマがあることをまず考えていただきたい。
そして、その意味ではまさにNPT、CTBTが一層大事になってきます。このNPT体制というもの、そしてCTBTというもの、圧倒的多くの国々がこれに対して既に加盟をし、あるいは批准をしている。国際社会の大勢はそういう方向に向かっている。
そして、これは皆さんの報道に出ていたかどうか、ちょっと私も今、記憶がないんだけれども、そういう意味では例えばカットオフ条約の専門家会合を、日本はこの間ジュネーブで主催したばかりだけれども、そうした一つ一つの努力を愚直に積み重ねていく以外に、我々はその答えをつくり上げることは出来ないと思っているんです。
−どうもありがとうございました。