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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 参議院通常選挙終了後の記者会見(橋本龍太郎)

[場所] 
[年月日] 1998年7月13日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(下),982−984頁.
[備考] 
[全文]

 昨日の参院選の結果を受けて、先刻の役員会に自民党総裁辞任の意思を諮り、役員会の了承を戴きました。今回の参院選の敗北の責任は私自身の事です。その上で、明日、総務会を開いていただき、党の両院議員総会に代わる最高意思決定機関の役員会で、辞任の了承を得たことを報告させていただきます。

 いろいろ長い間、ご苦労様でした。

 −今回の参院選大敗の最大の敗因は何だったとお考えですか。

○総理 すべて含めて、私自身の責任です。それ以上のことはありません。

 −選挙期間中に、所得税、住民税の恒久減税。あるいは金融機関の抱える不良債権の処理に取り組む考えを表明しておられますが、総理辞任を受けまして、支障を来すことはありませんか。

○総理 私は総裁として、党のその内容を皆さんに語りかけてきました。そして党として、こうした問題に取り組む姿勢に変わりはありませんし、あってはならないと思っております。

 −参議院では過半数を大きく割っているが、重要法案成立のためには、野党との連携が必要ですが、どのように考えますか。

○総理 総裁を退く人間が、この後、責任を負っていただくことになる方に、拘束するようなことは申し上げるべきではないと思いますし、今まで非常に厳しい局面を自民党は何回か乗り越えてきました。今後も、党としても全力を尽くしていく。その中でも、努力の一つ、そのように考えています。

 −後継総裁選びの段取りと時期について

○総理 これは本来私がお答えするべきことではないと思いますが、明日総務会に、私自身辞任の意思を報告するとともに、両院議員総会の早急な開催をお願いすることになると思います。恐らくご了承をいただくことが出来るでしょう。今回で退陣をされる方々の任期は七月二十五日まであります。言い換えれば、新たな当選議員の任期はその後に始まるわけです。ですから、その辺の整理は総務会で、結論を出していただくことになるでしょう。

 −総理のアメリカ、フランスヘの外交日程はどうなるのか。秋にはロシア訪問を控えていましたが、今回退陣されることによって、日露関係に支障をきたすことがあるのでしょうか。

○総理 順番を逆さにして恐縮ですが、これによってせっかく前進し始めた、そして大きく改良を見せつつある日露関係が後退することは私は決して願いません。そういう影響がないことを願います。そういう思いで、今日夕刻、ちょうど来日されたキリエンコ首相との会談に臨みます。そしてそこで、私自身のいかんにかかわらず、日露関係というものは前進させなければならない。そのための努力を今後とも両国で行うべきだということで意見が合えば、そう願っています。それからフランス及びアメリカの訪問は、いずれにしてもこれは、異例ですから、辞めることが分かっていることですから、今日会見後、両大統領に対し、私から公式訪問をご辞退したいということを伝えたいと思います。

 −退陣にあたって、減税が欲しいとか、公共事業が欲しいとか言っている時代ではないのだという総裁のメッセージを国民に向けて訴えていただきたい。

○総理 確かに、私は相当痛みの伴う改革を、それぞれの分野で国民にお願いしてきました。そして、いろいろな評価はあると思いますが、少なくともそれぞれに対し、全力を尽くして努力をしてまいりました。選挙中でも申し上げてきたように、お年寄りが多い、しかし、子供が減りつづけているということは、若い働き手が減り続けるということになっている日本としては、この幾つかの改革は、理屈ではなく、やり遂げなくてはならない課題だと思って、今まで進んできました。そしてそれは私だけでなく、自民党全員が同じ思いだったと思います。それだけに、それぞれの分野で、是非とも改革にお手を貸していただきたい。行政改革の例を引かれましたけれど、少なくとも中央省庁に対する一府十二省、局、あるいは課等に対しては四分の一位に削っていく、独立行政法人等のルールは既に国会でお認めいただいたわけですから、着実に実行されていくことを心から願いますし、国民のご協力をお願いしたいと思います。

 −大手銀行が倒産しないような、ソフトランディングはあるのでしょうか。

○総理 我々は、金融システムを考える時に、まず預金者保護を考えてきました。金融債等を持っておられる方を含めますが、同時に健全な金融機関がより健全になるような方法を取ってきました。そして、不良債権を処理していくプロセスの中で、あなたが言われたような問題が起きた時に、一番影響を受けるのは、健全な経営を続けていながら、金融機関に問題が生じて、その結果として自分の企業に影響を受けるという事態が起こらないようにするために、皆さんが、受け皿銀行とかブリッジバンクとか、いろいろ書いていただいた、一連の金融トータルプランを作ってまいりました。こうしたものを実行していくのは、だめなものを救おうとするものではないということは分かっていただきたい。その上で、その影響というものを、最小限で留めることが出来るような、同時に、不良債権を完全に消し去っていくプロセスにおいて、健全な経営をしている企業が金融機関の経営に影響を受けることがないようにする工夫を我々はしてきた。そして、こうした考え方については、それぞれ自民党として、自信を持って決めてきた。その方針が、今後も継続されることと私は信じています。