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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 総理大臣就任に当たっての小渕内閣総理大臣の記者会見

[場所] 
[年月日] 1998年7月31日
[出典] 小渕内閣総理大臣演説集(上),5−23頁.
[備考] 
[全文]

○総理 このたび私、内閣総理大臣の重責を担うことになりました。内外とも我が国、極めて困難な時局に際しまして、私自身、全知・全能を傾け、全力を挙げてこの難局に当たる決意でございます。国民各位、皆様方の御協力と御支援を心からまずお願い申し上げたいと思っております。

 私は自ら三十五年の政治経験の中で、多くの方々から力強い御支持もいただき、また、学ぶべき点は多くを学ばしていただきましたが、自らの持てる総合力を駆使いたしまして、多くの国民の声に率直に耳を傾けながら、現下の困難な問題に果断に対応し、スピーディーに事を処理することによりまして、国民各位の信頼を再び勝ち得てまいりたいと思っております。重ねての御支援をお願いいたす次第でございます。

 そのためには何よりも内閣総理大臣といたしまして、力強い内閣を組閣することが最初の仕事でなければならないと考えておりました。

 重厚にして清新な内閣をいかにつくるかということで腐心をいたしましが、幸いにいたしまして、経済再生内閣という現下の経済問題の解決に当たりまして、その内閣の中にそうした多くの能力を持たれる方々に御入閣をいただきまして、まず昨日新しい内閣が発足することができたことは誠に幸いだと思っております。

 何よりも現在、日本におかれた経済的な危機を打開するためには、大変申し訳ないことではございましたけれども、内閣総理大臣を御経験をされまして宮澤先生に再び御出馬をいただき、大蔵大臣としての重大なお仕事にお取り組みをいただくことにお願いをいたしました。

 先生の持つ国際的な信頼感、またかつてこの金融の問題につきまして、早い時期からこの問題を現下の重大な経済問題、そしてまた、金融の不良債権の処理なくしては、日本経済の再生はあり得ないと以前から御主張されておられたわけであります。

 また、党内におきましても、この問題につきまして、いち早くその責任を持って、党内のこの処理問題につきまして、先頭に立って御努力をいただきました。

 したがいまして、この際、宮澤先生のお力をちょうだいいたしたいということで、まず大蔵大臣としての責任を果たしていただけることになりましたことは、この内閣の大きな、強力な問題処理のためにありがたいことだと思っております。

 また同時に、この内閣におきましては、先見性と識見を持たれる民間の堺屋太一先生にも経済企画庁長官として御入閣をいただきました。かつて石油ショックのときも『油断』という御本も書かれましたが、今日の時期におきましては、昨日の記者会見で申されたように、自分自身がこの際内閣に入っていただきたいということは、まさに国難の時期に当たってでなければそうしたことはなかったと申されておりますとおり、この民間で御活躍をされ、種々の識見を持たれる氏の御活躍も心から期待をいたしておるところでございます。

 また、この内閣におきましては、党内におきまして、実務者として活躍をされました多くの中堅、若手の皆さんにも閣僚として御活躍をいただくことになりました。そうした意味からも、この内閣は重厚にして清新な内閣として本日の課題に十分応えるものだと、こう認識いたしております。

 私もそうした内閣の各員の皆さんと力を合わせまして、冒頭申し上げましたように、経済再生内閣しての責任を十分果たし得るように、その先頭に立って努力をいたしていきたいと思っております。

 事に当たりましては、果断に、そしてスピーディーに問題の処理に当たりましては対処いたしていきたい、このように考えております。決断と実行を旨としながら国民の御期待に沿うように真剣に取り組ませていただきたいと思います。

 今申し上げましたように、この内閣にとりましての最大の課題は景気の回復でありますが、この問題につきましては、あらゆる施策を総合的に組み合わせながら解決を目指していかなければならない。金融問題、そして財政の問題、税制等、あらゆる手段を総動員をいたしまして、対処いたしていきたいと思っております。

 また、この内閣に対しまして、前の選挙の反省にかんがみれば、国民の皆さんにはいろんな意味での不安が存在をいたしておるわけであります。たとえて申し上げれば、これからの少子高齢化社会に当たりまして、自分たちのこれからの年金支給等につきましても、二十一世紀にわたりまして、どのような形になるかという不安もございます。そうした年金等、将来の国民生活の不安の解消、明るい展望を切り開くために、私は富国有徳という言葉をキーワードにこれを目指していきたいと思い、そして二十一世紀には安心できる社会を築き上げていきたいと考えております。

 富国有徳と言うことは、すなわちそうした経済の面、あるいは身近な生活に資するための医療、年金、その他の問題について、それを実行するためには、国として経済を安定して富ましていかなければならないと思っております。

 同時に日本の国も、これから世界で本当に信頼をされる立派な国家として有徳の国家としていかなければならない。このことを目標にしながら、二十一世紀を目指していく第一歩を築いていかなければならないと考えております。

 さて、こうした経済の我が国の状況の問題につきましても、かつての我が国と異なりまして極めて大きな実力を持つ国家として存在をいたしておるわけでありまして、我が国の経済の状況は一人、我が国のみならずアジア全体に大きな影響力を及ぼすと同時に、国際経済に対する大きなこれまたインパクトがあるわけでありまして、そうした意味で我が国のこの景気を回復し、安定した成長を目指していくということは、一人、我が国のことのみならず、国際的な責任を持っていると言っても過言でないと思っております。内政は外交であり、外交は内政であるということでありますので、こうした観点から経済的な我が国の責務を果たしていきたいと考えております。

 一方、外交面におきましては何と言っても我が国が存立するためには世界の中で信頼される国家として生きていかねばなりません。従来とともに、米国との同盟関係は更に強固のものにいたしていかなければならないと考えております。またアジアにおける昨年来の金融危機に際しまして、大変厳しい我が国の財政状況ではありましたけれども、仲間として、アジアの一国として協力を申し上げてまいりましたが、そうした観点に立ちましてもアジア、そしてまたこれからはアフリカ、中近東、そしてヨーロッパ、すべてにわたりまして日本国としてその責任を果たしていきたいと思っております。

 特に当面する外交課題といたしましては、しばしば申し上げておりますように日ロの平和条約締結を目指しての最終的段階が来たりつつあると思っております。前橋本首相とエリツィン大統領との個人的信頼の下に両国の関係はここ一両年、誠に大きく進展をいたしておるわけでございまして、私は橋本前総理と外務大臣という立場でともに相協力して本問題に積極的に取り組んでまいりしましたが、まさにその結論を得るかどうかが今秋、そして来年の春に掛けて結論が生まれようとしております。二十世紀に起こったことを二十世紀のうちに解決をしたいという意欲の下に、願わくば橋本前総理にも本問題につきましては特別に大きなお力をちょうだいするお立場にもなっていただきまして、対処してまいりたいというふうに考えております。

 いずれにいたしましても、国民の声に最大限に耳を傾けまして、十分この声を、心と心として対処いたして、国民的英知を結集して難局の打開に取り組んでまいりたいと思っております。

 特に国際的金融の問題につきましても宮澤大蔵大臣にもお力をちょうだいをいたしまして、その解決に対処していかなければなりませんが、内閣としてもそれに対してのお手伝いをしていかなければならぬと考えておりまして、この政策を内外に分かりやすく説明する必要があるのではないか。我が国でいろいろとしておりますことも、最近ですからいろいろなメディアを通じて国際的なマーケットにもいろいろお伝えをされてはおりますけれども、内閣といたしましてもこうした問題を逐一広く世界に発信をしていかなければならない。こういう観点から、国際金融施策についての助言を受けるとともに、内外に的確・迅速に説明をするために、私は行天氏を本日付で内閣特別顧問に任命をさせていただいた次第でございます。

 いずれにいたしましても、現下の厳しい経済環境を一日も早く乗り越え、マイナス成長と言われる我が国の経済を可能な限り早く回復してプラス成長を達成していくことによりまして、国民生活を安定させていくことがこの内閣の最大の使命であるとの観点に立ちまして、全力を挙げて努力をいたしてまいりたいと思っております。私一人の力をもってしてなかなか困難でありますが、申し上げましたような力強い内閣を組織することができたと思っております。

 この内閣を一致結束をいたしまして、諸課題に対処し、そして国民の期待に沿うように、後がないという気持ちを持ちまして私として対処いたしてまいりたいと思います。重ねて国民各位の御理解と御協力を心からお願いを申し上げる次第でございます。

−−それでは、総理大臣記者クラブ幹事社のNHKから最初に幾つか質問をいたしまして、それから各社の質問に移ります。

 最初に、今回の組閣に当たって、総理は自民党の総裁選挙のころから派閥順送りの人事はしない。あるいは、幅広い層から登用したいということをおっしゃっていました。この目標は達成できたのか。それから、経済再生内閣と銘打たれた内閣のキャッチフレーズ、これについて最初にお尋ねします。

○総理 これは国民の皆さんの御判断に尽きるとは思いますが、私といたしましては総裁選挙で広く内外に私の考え方を申し述べた点につきましては、これは私としては最善の内閣ができたものと考えております。もとより、更に多くの人材を民間に求め、経済界に求め、そしてジャーナリストに求め、そういうことが可能でありますればいろいろな方々にも御協力をいただきたい点もございましたが、そうした中で先ほど申し上げましたような方々にも御参加していただきました。

 ただ、党内におけるやはり御協力、そして融和ということも、これまた政治を進めるためには大切なことでございまして、そうした意味におきまして、従来に引き比べまして私といたしましては党内のそれぞれの方々の中で、先ほど申し上げましたように特に中堅、そして若手、それぞれの分野で長年党内で研鑽を積まれ、政策面でも責任を持っておられる方々に閣僚として、自らその日ごろの考え方を発揮していただける方にお入りいただいたという確信がございますので、十分その期待に応えていただけるものと考えておる次第でございます。

 また、女性といたしまして、最年少の野田聖子郵政大臣にも入閣をお願いをいたしました。やはり今後こうした若手にも自民党の政策を推進する上で大いに国民の皆さんに訴えていただける方だろうと、これまた大きな期待を寄せておるところでございます。

−−何かキャッチフレーズのようなものはお考えになっていますか。内閣の今後の政策推進に当たって。

○総理 キャッチフレーズというのはなかなか難しゅうございますけれども、先ほど申し上げましたように、何と言っても今の経済を回復させなければならぬということで言えば経済再生内閣ということかと思いますが、強いていろいろ御指摘をいただければ、重厚にして清新の内閣と、こう理解をしていただければ大変幸いだと思っております。

−−次に、野党側が先の参議院選挙で自民党が敗北して橋本前総理が退陣したということで、新内閣もここではやはり国民の審理を受けるべきだということで衆議院の解散総選挙を断行すべきではないかという声もあります。

 これに対して、自民党側は早期解散は有利でないという理由から、こうした解散権を総理が行使しないのではないかという見方もありますが、こうした疑問にどのように答えるのか。残り二年余りの衆議院議員の任期中は解散しないおつもりか、この辺のお考えをお聞かせください。

○総理 解散権というものは内閣総理大臣に与えられた最大の権能だというふうに理解いたしております。したがいまして、内閣総理大臣といたしましては、政治的なデシジョンを行わなければならないときには解散を断行して国民の信を問うということは、これは当然至極なことだと思っております。ただ、今、御質問にありましたように、現在、自民党が参議院選挙の結果を踏まえて、選挙に不利であるがゆえに解散を行わないということは私はあり得ないと思う。

 私が申し上げておりますのは、現在この経済的危機は国難とも申すべき時期でありまして、申すまでもないことでございますが、本日国会を開催をして、暑い八月も引き続いて国会の御審議を野党にお願いしているゆえんのものは、金融再生トータルプランを含めまして、いわゆる金融の不良債権処理がなくしても日本経済の一つの大きな解決の、問題の処理にはならぬということで、こうした法案につきましても、できる限り早い機会に国会に提出をいたしまして、その処理をお願いをしておるゆえんのものは、ここで解散総選挙をして、二か月も三か月も、ある意味の政治的空白を行うということは、これはまさに一日一日が極めて日本経済のデクライニングを止めるためにの時期として一時もおろそかにできないという趣旨で、今直ちに解散を断行して、国民の信を問うということよりも、なすべきことを今なすことが、今、我が自民党政府としては最大の問題である。こういう認識の下に現時点では解散に踏み切るという考え方はないということで御理解いただきたいと思います。

−−続いて経済問題なんですけれども、総裁選挙のときから公約されておりました総額六兆円を超える減税、これについて、その実施の時期と財源、それとの絡みで財政改革法の取り扱いをどういうふうにするのか。こうした言わば景気対策に続いて景気回復の目途は時期的にどの辺に置いていらっしゃるのか。これを伺います。

○総理 まず、総理公選におきますときに、勿論我が党の国会議員、党員に対する公約であると同時に基本的な私自身の公約と申し上げて、この減税の問題あるいは十兆円超の補正予算の問題、あるいはまた行政改革に対する橋本内閣としての方針を更に強化し、倍加して、これを徹底的に推し進めようということにいたしました。いずれにいたしましても、公約をいたしましたことは必ずこれは断行いたします。

 ただ、現時点におきまして、まだ自由民主党自体の御了承をちょうだいいたしておりませんが、私がこうして総裁に選ばれ、総理に選任されたというゆえんのものは、私の考え方に少なくとも自由民主党の国会議員の諸先生方もそれとして、これからこの問題について深い認識を持っていただいておるものと理解をいたすと同時に、私自身も説得、そしてこの考え方を是非理解を求めて、願わくば、この私の公約が必ず現実のものとして成り得るように、それこそ身を捨てて努力をしていきたいと思っております。

 そこで、減税の問題につきましては、私はかねてから恒久減税は図らなければならない。それはいまや税制は日本だけの税率構造ではやっていけないグローバルな世界になってきておるということは御案内のとおりでございまして、そうした意味で、所得税といい、あるいは法人課税といい、いずれにしても、いわゆるアメリカ、イギリス、その他の国に引き比べて相当の利率の差がある。これが四月一日の金融ビッグバンによりまして、お金が自由に社会を駆け巡るという時代にこのような状況であってはならないというかねてからの考え方をいたしておりましたので、是非抜本的税率構造を改正することによって、世界的な形に持っていくべきだと、こういうふうに考えておりましたら、時あたかも、この経済の形態、そして景気の問題に直面しておるわけでございますので、そうした観点からも、所得減税等につきましては積極的に取り組む必要があるのではないか。こう考えまして、所得課税並びに法人課税につきましては、六兆円超の減税を必ず実行したい、実行するというお約束を申し上げておりますので、できる限り早い時期に、これは党の税調、政府税調、それぞれ専門家でございますので、所得税であればどの程度の刻みでいたしていくかというような問題もありますので、御相談は申し上げたいと思いますけれども、是非これを、恒久減税を実現していきたい。こういうふうな考え方で、必ずこれをやりたいという強い意思を改めて表明させていただきたいと思っております。

 財源につきましては、今、赤字公債でこれを実施いたしていきたいというふうに考えております。なるほど財政構造改革という大きな問題が橋本内閣以来、継続しておることでございます。

 また、そのための法律も成立をし、かつ一部修正をいたしておるわけでございます。先ほどの御質問の最後は、この法律につきましてもどのように対処するかということでございますが、これは申し上げておりますように凍結をいたしていくということでございます。

−−景気回復の目途は。見通しは持たれていますか。

○総理 目途につきましては、これは申し上げたような施策を複合的にあらゆる手段を講じて努力をし、そして、これを実行していくということになれば、希望としてはこの一両年の間に必ず日本経済は上向きとなり、更にこれが倍加していくということになれば、日本の財政におきましても、多くの租税がそれなりに歳入として図られる時代が必ずそう遠くない将来に生まれてくると思いますが、いずれにしても、その端緒になるべき経済が上向きになり、そして、国民の皆さんも前途を展開しながら、自らの持てるお金その他を消費にも回していただくという気持ちが生じてくるためには、この一両年、最も大切であり、そこを目途に私としてもあらゆる施策を講じてまいりたいと思っております。

 自民党総裁選挙のときには、この期間というものが極めて重要である。この時期にそうしたことを行うことができずんば、私としても大変大きな決断をせざるを得ないとさえ申し上げておるところでございます。

−−引き続き幹事社の西日本新聞からお尋ねします。

 国会運営についてお尋ねしますけれども、参議院が過半数割れをしている中で、それから部分連合という言葉も聞きますけれども、どの党と協力関係を模索していくのか。具体的に、公明であるとか、自由党とも協力関係を模索されるのか。その辺のお考えをお聞かせください。

○総理 お尋ねのように、現実は大変シビアであります。しかし私は、今般の参議院選挙の敗北に思いをいたし、今後、参議院においては野党各党と本当に誠心誠意、心をむなしゅうしてお話し合いを進めさせていただきたいと思っております。

 今、お尋ねのように何党と言われましても、これは政策もお考えも、それぞれ政党はよって立つ基盤が異なるわけでございまして、したがいまして、それぞれの政党とはその与党と政府といたしましても、これから国会で法律としてお願いいたすべき法律、そのそれぞれにわたりまして、それぞれの政党と真剣にお話し合いをさせていただくことになろうかと思っております。一方的に政府といたしまして、法律案ができ上がりましたから、国会に提出して、イエス・オア・ノーと言っても、これは参議院におきまして、直ちに野党の皆さんの御理解で賛成するということにはなりかねない点もあります。

 もとより、その内容にわたりましては、野党の皆さんも、現下の経済状況にかんがみますれば、経済関係諸法案につきまして、私はいたずらに御反対されるということはあり得ないと、こういうふうに是非お願いしたいと思っております。

 したがいまして、法律案につきまして、ある意味では提出以前におきましても、お話を申し上げるということもございますし、また、国会の論戦等を通じまして、野党それぞれから対案というものが出てくるということでありますれば、最近の私も政治に直面しておりまして、かつてのように何でも御反対ということから、それぞれ考え方を政党並みに御提案されて、それをベースにして政府の施策について御批判もし、御提案もされているという事態を拝見してきましたので、必ず私はそういった意味で、国会の中での論議論戦の中で一つの考え方がまとまって、国会の意思が明らかになるという理解もされるわけでございまして、これをパーシャル的な連合と言うのかどうか分かりませんが、それぞれの案件ごとに十分真摯にお話し合いをされてまいれば、必ずその結論に導き、ゴールに至ることができる。これは、よって国民のための政策であり、その結果であると認識しております。

 したがいまして今、お名前を挙げられましたけれども、どの政党ということを今、申し上げることはできかねるわけでございます。

−−それから、橋本前総理が、六大改革というのを掲げておられましたけれども、先ほど財革法については凍結というお話がございましたが、この六大改革につきまして、見直すものがあるのかどうか。あるとすれば具体的にどこをどう見直すのか。また、白紙に戻すというものもあるのかどうか。その辺のお考えをお聞かせください。

○総理 私は二十一世紀に向けて橋本内閣、すなわち自民党内閣が掲げてきた六大改革に基本的に誤りがあるとは思っておりません。特にこの順番から言いますと、最後に教育改革ということになっておりますが、私はこの教育改革というものは最大の、二十一世紀に向けて日本人として教育、人づくり、国家百年の計だと考えております。したがいまして、前町村文部大臣が敷いてきました路線というものを実は高く評価いたしてきたわけでございますが、今般引かれましたので、私としては参議院として比例区で先般の選挙で第一位として我が党が推薦を申し上げました有馬先生にあえて文部大臣に御就任をいただきまして、この教育改革の問題について十二分な腕をふるっていただきたいと、こういう気持ちで実は御就任をいただいたわけでございます。

 その他、五つの問題、社会保障の問題、これらは少子高齢化社会の問題ですから、これはいわずもがなですが、みんな日本の御婦人を含め、あるいはサラリーマンの方々も含めて、本当に次の世紀一体どういうことになるかという不安がありますから、年金の改革の問題等を含めまして、是非これを引き続いてやっていきたい。

 それから、金融改革の問題につきましては、これはまさに今、金融再生トータルプランを行うことによって、その方針は進んでいくべきものだというふうに思っております。

 行政改革、これはせっかく、法律をつくっておるわけでございますから、これが実現方については既にレールは敷かれたというふうに考えておりますので、これはこれから一つ一つ着実に努力をしていかなければならないと思っております。

 財政改革につきましては、今申し上げました。その理念として私は正しいものがあったと思っておりますが、現下の生きた経済社会の中、特に全世界的な大きな金融不安の状況、特にバンコクで始まった昨年の金融不安等によりまして、これを徹底的に行うということは日本経済にとって大きな問題であるということでございますので、財政は当然のことですが入りと、レベニュー・ニュートラルでなければならないということは、これは歴史の示すところでございますが、しかし、政治というものはそうした形でその時期時期において、適宜適切に対応する必要があるという意味で、先ほども申し上げましたように、本問題につきましては、一時凍結をいたして、またやがて将来明るい未来が生じてくるということの中で、日本の財政も健全化していかなければならない。こう考えております。

 経済改革にしてしかりでございまして、したがいまして、六大改革につきましては、それぞれにおいてよりスピードを早めなければならないもの、より実行を的確なものにしなければならないもの、そして申し上げましたように、この際、凍結もやむなしという問題等々、それぞれにわたりまして、私といたしましては、もう一度、それぞれの六大改革をレビューして、この問題については時期に適したように対処し、もってその考え方を実行し、国民の皆さんに真にお役に立つような改革をし、新しい世紀を本当に喜びを持って迎えるような時代にしていかなければならない。その基礎をつくっていきたいと、このように考えております。

−−外交についてお尋ねしますけれども、先ほど総理は日米の同盟関係を更に強固なものにしたいとおっしゃいましたけれども、訪米日程でお考えになっていることがあれば教えていただきたいと思います。

○総理 前の橋本総理が公式にクリントン大統領から御招待をされておりながら、残念ながらワシントン、ホワイトハウスに参ることができませんでした。

 しかし、本日、私がこうして総理としての責任を負うことになりました。一日も早く時期を得てクリントン米大統領と会談の機会を得たいというふうに思っております。

 先般、ARFでオルブライト国務長官と会談いたしました折、彼女の方からも、是非、もし、まだ総理に指名をされておりませんでしたが、そうなりましたら早い機会にその機会をクリントン大統領としてもつくりたいと思いますので、その場所、時期につきましては今の時点では正確にお知らせすることができませんが、私の気持ちとしても是非これまた国会が極めてその進展状況が定かではありませんけれども、お許しをいただければ日米の外交の基軸であることは言うまでもありませんので、まず橋本・クリントン両首脳がつくり上げた個人的なビル・龍の関係に勝るとも劣らない関係を是非私としては構築していきたいと、このように考えておる次第でございます。

−−幹事社の質問はこれで終わりますが、この後、各社の方から質問がありましたらお願いします。

−−中川農水相の従軍慰安婦問題についての発言についてお伺いしたいんですが、中川さんは就任後の記者会見等で従軍慰安婦問題について強制性があったかどうか、政治家としては判断は謹まなければいけないのではないかというような趣旨のことと、その問題を教科書に載せるのは適切ではないのではないかというような趣旨の発言をされております。それで、後で撤回はなさっているんですけれども、その発言について総理としてどのようにお考えかという点が一つです。

 それともう一点は、農水省は今後日韓の漁業交渉の問題ですね。緊急の課題を抱えていますが、そういった中で中川さんを任命された点についてどのようにお考えでしょうか。

○総理 まず、最後の慰安婦の問題についての発言と農水相の任命とはなんらかかわりがあることではありません。中川農水大臣は、かねて以来我が党におきましても最も農林水産関係の政策に明るい方でありまして、お父上のことを申し上げるまでもありませんが、故中川一郎先生もやはりその面のエキスパートであったわけでありまして、その御遺志も継いで熱心にお取り組みいただいておることで私は高い評価をいたしておるつもりであります。

 そこで、冒頭のお尋ねにつきましては、私もその報告をいただきました。私がいただいた範囲では誤解がありましたので、一切そうしたことにつきましては取り消されたと、発言のすべてを取り消した、消されたということでありますし、その一部でいわれていることは、自分としては内閣の責任者になった以上は私ども自民党の内閣として取り続けておりますところの基本的政策はそのとおり遵守するということを前提に、今、誤解をされるようなことをお話をされたと聞いておりますので、その一切を否定をされておられるということでございますので、何ら問題はないというふうに考えております。

−−沖縄問題担当の野中大臣はかつてこうおっしゃっているんですけれども、例の普天間のヘリポートの問題について、現状で本当にヘリポートでいいのか疑問であると。政治は現実であるというふうなことを言われたことがあります。それで、現在へリポートの問題については宙に浮いていると思いますけれども、どのように解決されていこうというふうに思われていますか。

○総理 これもしばしば私も外務大臣としても御答弁申し上げておりますように、沖縄県の米軍基地につきましては整理統合、縮小ということについて日本政府としては全力で今アメリカと話し合っておるわけでございますが、そのためにSACOの最終報告を沖縄県といたしましての責任者も入った上でこれをつくり上げておるわけですから、これを着実に実施するというところに我々の責任があろうかと思っております。

 そこで、普天間の基地の返還と海上ヘリポートの建設につきましては、残念ながら海水面の使用権を巡りまして地方自治体の権能の問題もこれあり、現在におきましては膠着状態になっておることは非常に残念の極みでございます。特に前橋本総理といたしましては、この問題を大統領との間におきまして、これを二人の信頼において、この大きな基地の返還ということについて決断をし、そしてアメリカの理解を求めてこれを進めてきた。それについては沖縄県におきますいろいろなお考えもこれをお聞きしながら進めてきたにもかかわらず。本日の事態になったことは誠に残念だというお気持ちを持っておると思います。私も外務大臣としてその答弁ぶりを国会で聞いておりまして、本当に前総理のお気持ちが痛いほど分かるわけでありますが、さりながらこのままでいいというわけにもまいりません。

 したがいまして、改めてこの沖縄における、特に普天間基地の返還につきましては、本日内閣としても、できればこの担当の方をどなたかお願いをして、勿論、沖縄開発庁長官もございますし、政務次官として沖縄県出身の下地政務次官も就任しておりますので、我が政府としてどういう解決方法があり得るかということについて、これまた真剣に取り組んでまいりたいと思っております。

 さりながら、この問題も政治を離れてはなかなか解決し得ない問題でございまして、したがいまして、これからいろいろ各種選挙もございますので、県民の理解と協力なくしてこれをいたずらに強行するということの意思はありません。ありませんが、是非沖縄県の特にあの北部の皆さん、そして名護の皆さん、こうした方々の理解がどの程度進んでまりるかということについて、いま一度新しい市長さんも誕生しておることでございますので、十分これからその真意を確かめながら、我々としては、この政府としては是非前内閣の掲げた、また約束をいたしましたことの実現化のために、全力で努力をしてみたいと、このように考えております。

−−経済戦略会議という構想をお出しになっていますが、これについてどういう考えで、どういう人選で、いつごろ実現されるお考えか、お聞きしたいと思います。

○総理 これはやはり総裁選挙のときに私としていこれを取り上げさせていただきました。余り外国の例を取ることは私は控えねばならぬと思っておりますが、アメリカにおきまして、この経済戦略会議のようなものがありまして、大統領にその考えを取りまとめて、その施策の方向性を定めているという会議がございましたので、そのことがちょっと念頭にありまして、その経済戦略会議の考え方を主張いたしておるところでございます。

 まだラフでございまして、どの人にどうするかということはございませんが、私はこの発想の原点の一つには、今回、堺屋経済企画庁長官といろいろとお話する過程でこの問題も出てきておりますので、長官のお考えなどもお聞きをしながら、そう何十人もおりまして、その考え方がかんかんがくがく議論をするだけで終わってしまうなどということでは、これは余り効果はない。このメンバーシップとしても最高十人、それ以下の皆さん、これは私としては民間の経済人、それからジャーナリスト、あるいはエコノミスト、そしてまたその他、学者の皆さん、こういう方々の中で是非この事態を乗り越えるためには小渕内閣としてかくことをいたさなければならないという考え方を具体的に、かつスピーディーに考え方をまとめていただいて具申をしていただける会議に是非お願いをしたいと思っておりまして、これもいつまでもというわけではありませんが、ここ一週間のうちには取りまとめて、私としてはその会議でまとまる、また具申いただく案件につきましてはこの政府の考え方としてこの実現を図っていきたいと、このように決意いたしております。

−−最初の御発言の中に東京銀行の行天さんのお名前が出ました、特別顧問ですか。これは具体的にもうちょっと詳しくお聞きしたい。

 もう一つは、日ロ関係の中で橋本前総理のことについて、大きな御協力もいただきたいとおっしゃいましたけれども、何か具体的に役目をやっていただこうとういう腹案がおありなんでしょうか。この二点をお願いします。

○総理 行天氏は、先ほど申し上げたように、本日付で内閣特別顧問に任命しました。これは先ほど申し上げましたように、日本の政策そのものが、いろいろなルートを通じまして発信されるものですから、なかなか政府そのものの基本的な考え方というものが必ずしも正確にとらえておらないという点があるのではないか。そういう意味で言えば、御案内のとおり、財務官をされたと同時に、日本を代表する金融機関において責任を持ってこられた方でございますので、同時にまた、こうした問題につきましての見識も持つと同時に、表現力も、別に英語のことを申し上げるつもりはありませんが、経済的な問題を説明することのできる非常に稀有なお力を持っておると思っておりますので、初めてのことでございまして、まだこういうケースはございませんでしたが、現下の経済状況、特に日本の状況につきまして、時々刻々こうした問題を内外に発信することとして最適任だろうと考えまして、任命をさせていただいた次第でございます。

 それから、第二の点の橋本前総理のことでございますが、これは常々この二人で日ロの問題を解決しようと、この一両年コンビを組んでやってまいりました。私は外務大臣としての務めはいたしてまいりましたが、やはりエリツィン大統領・橋本前総理との個人的な信頼関係、二度にわたるネクタイなしの会談を通じまして、極めてお二人の考え方が一つの方向にまとまりつつある今の段階だろうと思っております。

 もとより橋本前総理も川奈におきましても、総理大臣として、これが我が国としてのロシアに対する提案としては、これ以外にないという気持ちで御提案されております。この実現のために、今まで果たされてきた努力と信頼というものは日本にとりましても極めて貴重なものだと思っております。

 そこで、今この時点では、どういうお仕事になったらいいかということについては確たるものはありませんが、私としては、私自身のこの内閣の責任において、公の立場に立っていただいて、特に日ロの問題、加えますれば、包括的な外交の問題につきましても、大いに活動いただく、総理大臣をお辞めになったから御引退ということではなくして、勿論、衆議院議員としてその責任を果たすということをお聞きをいたしておりますけれども、それにも増して極めて重要な時期に差し迫っておる日ロの関係につきまして、大いに腕をふるっていただけるようなお立場を取っていただきたいと。今、真剣にこのことについて考慮し、その暁には前総理にもこのことをお願いをいたしたいと思っております。

−−宮澤大蔵大臣の起用についてですけれども、宮澤さんの過去の言動を見ておりますと、例えばバブル期においては、バブルの勢いを止められなかったですとか、実際バブルが崩壊した後、宮澤さんは公的資金の金融機関への投入をいち早く提唱されていましたけれども、実際には投入されなかった。そうした宮澤さんについては、理論については超一流ですけれども実践はどうかなという指摘が国民の間に現にあります。

 それに大変失礼な言い方ですけれども、宮澤さんをあえて起用したということは、小渕総理の経済問題に対する自信のなさの表れではないかという指摘や懸念もありますけれども、その辺は率直にどうお答えになりますか。

○総理 これも率直に申し上げれば、私自身、大蔵大臣、通産大臣、経企庁長官という経験はありません。したがいまして、世評、こうした任につきますと、その道の専門家という評価もいただけますし、また、そうした方々はそれなりの経済に対する考え方を持っているかと思います。そういった意味では経済に、あるいは疎いかもしれません。しかし、私自身も政治家として三十六年間、我が家も小さな零細企業の経営者でございまして、経済そのものの動きにつきましては、全く関知しないという立場はありませんでした。

 しかしながら、一人の力をもってしてすべてを解決することができるほどのスーパーマンは世界にもそういるものではないと思っております。

 したがって、私としては、私の持つ総合的な力の中でその道の専門家の皆さんに、本当に最大限力を発揮していただきまして、この困難な状況を乗り越えるためには、最も日本の政治家の中でふさわしい方は宮澤前総理をおいてほかにない、こういう考えの下に、あえて私、三顧の礼をもってお迎えし、入閣していただいたわけでございまして、その本日まで取られた対応についての御指摘が今ございました。

 言い返すつもりはありませんが、では、公的資金を投入しなければ、日本の不良債権問題は解決しないと今おっしゃられたように、最初にこのことを申し上げられたのは前総理であったと、今御指摘があったとおりでありまして、その当時の時点のことを考えられまして、大変失礼でございますが、マスコミの皆さんも、あるいは政治家の私自身も残念ながら、これほど不良債権がそれぞれの金融機関に累積をして、それぞれの金融機関がまさに倒れんとするというような状況に立ち至っている状況についての認識は残念ながら持ち合わせておりませんでした。

 しかも、住専の問題の時のあの時の議論や、あるいはいろいろな報道等を通じましても、実際この危機的状況についての本当の意味での国民的な理解がなかったことは残念の極みでございまして、国会の審議の状況を思い起こしましても、御案内のとおりでございます。

 今にして、それは遅れておると言えばそれまで。しかし、私はこの問題についていち早く問題を指摘し、あえて言えば宮澤総理自身も自らその問題について、最終的結論を当時において取り得なかったことに対して、本日、自ら身を乗り出してこれを解決するという意欲の大きな表れに、私は大きな期待と、その政治的な信念の発露というものを理解をして、あえてその任に当たっていただくことになったわけでございまして、それはツーレイトであると言われればそれまでかもしれませんが、私は政治家の中としては、この問題についての重要性をいち早く見抜いて、その時点でそれをなし得なかったかもしれませんが、本日、この問題について取り組もうとされる、あえて元総理大臣というような肩書きも、あるいはそれを除いてでも、小渕内閣というより、これは国民・国家のために今スピーディーに処置しなければならぬという、そのお気持ちに対して深い敬意を表し、ともにこの問題に対処していきたい、このように考えております。

−−それでは、時間が来ておりますので、これで終わります。

○総理 どうもありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。